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井垣太介 (Taisuke Igaki)

Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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MBOの際の「公正な価格」とは(その1)

近年、レックス事件やサンスター事件など、裁判所に持ち込まれるMBO案件が増えていますので、紛争になりやすいMBOにおける「公正な価格」の意味について整理しておきたいと思います。

まず、MBO(Management Buy Out)とは、一般に、現在の経営者が単独で、あるいは投資ファンド等と共同で資金を出資し、事業の継続を前提として、自らが経営を行っている会社の株式を購入することをいい、MBOの目的は、スクイーズアウト後に上場廃止して少数株主の管理コストを削減するとともに、所有と経営を一致させ、株式市場からの短期的な圧力を回避して長期的な視点に立った経営を可能とすることで、企業価値を向上させる点にあります。

レックス事件を念頭に置くと、MBOを実施する手法の例(*1)は、以下のとおりとなります。
① 公開買付け(*2)
② 会社を種類株式発行会社に変更
③ 発行済みのすべての普通株式に全部取得条項を付す(会社法107条)
④ 全部取得条項付種類株式1株に対して普通株式X株(*3)を交付することを対価として全部取得条項付種類株式を取得(会社法171条)
⑤ 裁判所の許可を得て、端株を買い取る(会社法234条)
⑥ もって少数反対株主を締め出す(スクイーズアウト)

MBOに関しては、近年、株式取得価格決定申立事件(会社法172条1項(*4))が複数発生しています。この株式取得価格決定申立権の趣旨は、強制的に株式を剥奪されることになる株主の保護にありますが、裁判においては、「取得価格」(会社法172条1項)として適切な価格がいくらであるかが争点になります。

代表的な株式取得価格決定申立事件(*5)としては、レックスホールディング事件、サンスター事件、サイバード事件などがあります。これらの事件の内容及び公正な価格に関する考え方について、次回以降で詳述していきます。
【執筆:弁護士吉村尚美】


(*1) MBOの方法として、公開買付けと、買収目的会社と対象会社との間での現金交付合併・株式交換のいずれの方法を採用するかについては、税務上の観点から決定される場合が多い。買収目的会社と対象会社との間で、買収目的会社を合併存続会社又は株式交換完全親会社とする現金交付合併・株式交換を行う方法は、税制上、適格合併・適格株式交換の要件を充足せず、吸収合併消滅会社・株式交換完全子会社の資産及び負債の一定のものにつき時価評価され、吸収合併消滅会社・株式交換完全子会社に課税が生じうる。
(*2) 金融商品取引法27条の2第1項
(*3) すべてが端株となるようにXの数値を設定する。
(*4) 全部取得条項付種類株式の全部取得に対して裁判所に対する価格決定の申立をする。あるいは、前段階の既存株式を全部取得条項付種類株式に変更する定款変更に対して反対株主の株式買取請求権の行使ができる(会社法116条、117条)。
(*5) 類似の事件として、①カネボウ事件(H20.3.14東京地裁決定):旧商法下での営業譲渡に反対する株主による株式買取請求権行使事件(地裁決定では、TOB価格を否定、鑑定書に基づく評価額を追認。現在東京高裁で係争中)。②日興コーディアル事件(H21.3.31東京地裁決定):日興コーディアルとシティグループジャパンホールディングスとの間の株式交換に反対した株主による株式買取請求事件。公開買付け価格を買取価格として決定した。

株価算定と取締役の責任

M&Aの際,取締役はその義務(善管注意義務,忠実義務)として,株主の利益の最大化を図る義務を負いますが,取締役の責任は,近年厳格化の傾向にあるといえます。以前は,取締役は法令及び定款の定め並びに株主総会の決議に違反せず,会社に対する忠実義務に背かない限り広い経営上の裁量を有していました。これは,以前の「コンプライアンス」が「法令遵守」と理解されていたことともつながると思います。当時,M&Aの手法の選択は,高度な経営判断を要するものの一つとして,法令違反がない限り,取締役の広い裁量の範囲内とされていたと考えられます。
 しかし,近年の「コンプライアンス」は「法令等遵守」と理解され,適法性は当然のものとして,企業にはそれ以上の社会的責任が求められるようになってきています。同様に,取締役の判断にも適法性を前提とした「公正性・妥当性」までもが強く求められるようになってきており,この点につきアパマンショップ事件(*1)を例に検討してみたいと思います。

この案件においては,株式会社アパマンショップホールディングス(ASH)が一株5万円での株式譲受によるアパマンショップマンスリー株式会社(ASM)の買収を決定する際,①本件が取締役社長の単独決済が可能な事案であったにも拘らず,慎重を期して経営会議にて決定し,かつ,②ASMの株主と良好な関係を維持する必要等に鑑みて5万円の買取価格を妥当だとする弁護士の見解を得ていました。

しかし,東京高裁は,取締役の経営判断が許された裁量の範囲内にあるといえるための要件として,①1株あたりの買収価格を5万円と設定する必要性,②より低い額での買い取りの可能性の検討,③買取価格が株式鑑定評価額(*2)から乖離する程度と会社経営上期待できる効果との均衡,④買取と同時並行で検討されていた株式交換手続における交換比率(*3)及びこれを決定する前提となったASMの株式の評価額との差額等,という判断の要素を列挙した上で,これらの点に関する調査及び検討について不注意がないこと,及びその意思決定及び内容がその業界における通常の経営者の経営上の判断として特に不合理又は不適切でなかったことを要求しています。

そして,これらの諸点について,①5万円という額は,出資価格と同額に設定したものに過ぎない,②5万円よりも低い額での買い取りの可能性についての調査や検討がなされていない,③買取代金の支払いはASHの経営に大きな影響を与える反面(*4),完全子会社化することによる効果の慎重な検証が見られない,④株式交換検討時におけるASMの株式評価との間に大きな差があり,その差について合理的な根拠がないと指摘して,取締役の責任を認めました。

本件において,ASHは本件株式譲受をあえて経営会議事項とし,専門家の意見を求めながら最終的に経営判断としての決定をしており,外形的には適切なプロセスを経ているといえるのですが,裁判所は,取締役の経営判断に対して,外形的プロセスのみならず,最終判断に至るまでの議論の内容,程度及び結論に至るまでの判断プロセスまでも合理的で了解可能であることを求めたわけです。

特に,本件については,(i)株式鑑定評価書と買取価格の間に5倍の開きがある点及び,(ii)完全子会社化という同一目的に向けた2つの手続(株式買取及び株式交換)において,株式価格に関して異なる評価をしている点につき合理的な説明や十分な検討が見られなかった点が,本件において裁判所が踏み込んだ実質的判断を行った要因になったのではないかと思います。つまり,近時は,上場会社/非上場会社を問わず,株式評価の際に株価鑑定を行うことが一般的なプロセスとなっているところ,(i)客観的に数値化された評価が存在する際に,これと大きく異なる価格を前提とした決定をする,あるいは,(ii)同一目的を有する一連の手続において複数の鑑定価格が出ている場合には,十分な検討と決定に至る論理が事後的に了解可能な形で明示されることが求められているといえます。裁判所が経営判断の内容の是非につきどこまで踏み込んだ判断をすべきかについては議論の余地があると思いますが,取締役の判断につき,外形的プロセスを履践することのみならず判断の基礎となる事実と導かれる結論との間に不自然な飛躍がなく,十分な検討に基づいた追跡可能な判断プロセスが示される必要がある点に,一層の注意が必要です。
【執筆:弁護士吉村尚美】

(*1) 上場会社の株式会社アパマンショップホールディングス(ASH)が,非上場会社のアパマンショップマンスリー株式会社(ASM。当時すでにASHはASMの発行済株式の66.7%を保有。)を完全子会社化する際に,特定の株主1社(A社)を除くすべての株主から,1株あたり5万円でASMの株式を買い取ったことに関し,ASHの取締役らに善管注意義務があったとして,ASHの株主が損害賠償を求めた事案。なお,譲渡に応じなかったA社を株式交換により締め出すことを想定しており,その際の株式交換比率は,ASHの株式を約 1万円とする評価を前提とするものであった。東京地裁(平成18年(ワ)第22156号)は,「経営判断の原則」の下,取締役の責任を否定したのに対して,東京高裁(平成20年(ネ)第226号)はこれを認めた。
(*2) 買取実施の決定の後まもなく,ASMが,A社との株式交換を念頭において作成された交換比率算定書を監査法人から受領。ASMの株式評価額を1株9,709円とする内容だった。
(*3) 株式交換比率は,ASHの株式を約1万円とする評価を前提にしていた。
(*4) 買取価格を一律5万円とした結果,支払総額は,1億5800万円となった。なお,平成17年度9月期のASHの営業利益は9億4100万円,純利益は4億7900万円であった。

表明保証条項(その2)~契約締結権限及び契約の有効性/財務諸表~

1 契約締結権限及び契約の有効性
【英語】Authority and Validity. Seller has the corporate power, right and authority to execute and deliver this Agreement and the Transaction Documents and to perform its obligations under this Agreement and the Transaction Documents. Seller does not need to give any notice to, make any filing with, or obtain any authorization, consent, or approval of any Person, including, without limitation, any government or governmental agency, in order to consummate the transactions contemplated by this Agreement. This Agreement and each of the Transaction Documents constitutes the legal, valid, and binding obligation of Seller, enforceable in accordance with its terms.
【日本語】売主は,本契約及び取引関連契約を締結・交付し,契約上の義務を履行する権限を有している。売主は,本契約意によって企図されている取引を完了するために,政府機関を含めいかなる者に対しても,通知,申請,許認可・承認の取得を行う必要がない。本契約及び個々の取引関連契約は,その文言に従って強制執行可能な,法的に有効で拘束力のある売主の義務を構成する。
【注意点】上記において,”deliver”という言葉が入っているのは,英米法特有の考え方に基づきます。すなわち,大陸法では,意思の合致=「申込み(offer)と承諾(acceptance)」があれば契約は成立し,契約(contract)と合意(agreement)の間に差異はなく,いずれも裁判を通して強制執行が可能となりますが,英米法においては,契約(contract)と合意(agreement)の効果が異なり,「契約(contract)とは,法律上強制可能な合意(agreement)」と定義付けられます。そして,法的拘束力がある(enforceable)契約とするためには,原則として,意思の合致に加えて,契約の相手方に提供する対価を意味する約因(consideration)が必要ですが,例外的に,捺印証書(deed)による場合は,約因がなくとも強制執行可能とされます。この捺印証書は,①書面,②捺印,③交付の3要件を充たす場合に有効性が認められるところ,約因がなかったと認定された場合にも契約の有効性を守るべく,③交付(”deliver”)というプロセスが重要視され,その結果,表明保証条項にも意図的に交付(”deliver”)という言葉が入ってくるのです。ちなみに,②捺印とは,正式には,いわゆるsealing waxを溶かして行う刻印ですが,最近では省略されることが多く,アメリカでは,②の要件を廃止した州もあります。

2 財務諸表
【英語】Financial Statements. Schedule ● attached hereto consists of certain balance sheets, profit and loss statements and other financial statements of the Seller’s Business delivered to Buyer prior to the Closing, including, without limitation those that set forth the Seller’s financial condition with respect to its business operations relating to the Acquired Assets as of December 31, 2007, December 31, 2008 and March 31, 2009 (all of the foregoing being collectively referred to hereinafter as the “Financial Statements”). All Financial Statements were prepared in conformity with generally accepted accounting principles, applied on a consistent basis throughout the periods covered thereby, and are accurate and present fairly the financial position of the Seller’s Business at the dates thereof and the results of operations of the Seller’s Business for the periods indicated. Since the December 31, 2008 Financial Statements, there has been no Material Adverse Change relating to Seller.
【日本語】別紙●は,クロージングまでに買主に交付された売主の事業に関する貸借対照表,損益計算書その他の財務諸表の一覧であり,2007年12月31日,2008年12月31日及び2009年3月31日付けの譲渡対象資産に関連する事業に関する売主の財務状態を示すものを含む(以下,総称して「本件財務諸表」という。)。全ての本件財務諸表は,上記期間に継続して適用されるGAAPに従って作成されており,正確で,各期日における売主の事業の経済的な状態及び該当期間における売主の事業の実績を正しく表現している。2008年12月31日付け財務諸表作成以降は,売主に関して重大な悪化は発生していない。
【注意点】財務諸表が特定の日時点の財務状態を表すものとして作成される関係で,買主から見れば,その特定の日以降にMACが発生していないことを表明保証してもらう必要があります。財務諸表の表明保証に関して実務上紛争につながりうるものとして,例えば,預り金債務の金額が挙げられます。事業運営に関連して,使い終わったら返してもらう前提で何かをユーザーに貸す場合があります。その場合,売主の貸借対照表には,負債として預り金債務が計上されているわけですが,何らかの事情で,事業承継後に預り金返還債務が予想以上に存在したことが判明するケースがあります。この場合,財務諸表の真実性・正確性に関する表明保証条項を根拠に買主は売主に対して補償を請求するでしょう。これに対して,売主はどう対抗・反論できるでしょうか。この問題については,機会を改めて説明したいと思います。

表明保証条項(その1)~柱書/会社の有効な存在,事業の運営,株式所有等~

今回からシリーズで,表明保証条項の具体例を英語・日本語併記方式で見て行きたいと思います。表明保証条項(REPRESENTATIONS AND WARRANTIES)は,日本で使われているM&Aの契約書にも入っていますが,やはりアメリカで使用されている契約書の方が詳細で入念なものになっていますので,最近扱った案件(アメリカ企業の買収案件で,スキームは株式譲渡)で使用した契約書を用いながら解説していきたいと思います。なお,日本語訳は,分かり易さを優先して完全な逐語訳は行っていません。

1 柱書
【英語】Seller and Shareholders jointly and severally make the following representations and warranties to Buyer, its successors and assigns. Buyer shall be entitled to rely upon the representations, warranties and covenants of Seller and any Shareholder notwithstanding any investigation conducted before or after the Closing, and notwithstanding any knowledge or notice of any fact or circumstance which Buyer may have as the result of such investigation or otherwise.
【日本語】売主と株主は,買主,その承継者及び譲受人に対して,以下の事項について連帯して表明保証する。買主は,クロージングの前または後に行った調査,その調査等の結果として買主が知るに至った事実や状況に拘らず,当該表明保証に依拠しなければならない。
【注意点】「連帯して」責任を負わせられるかどうかは,表明保証する内容と,売主・買主の交渉力によって変わってきます。個々の株主に関する事項についてまで連帯責任とすることは難しいでしょう。後半の文章については,日本の契約書では入っていないこともあると思いますが,「言った,言わない」の争いが後日発生しないようにするためには,契約書に書かれていないことは表明保証していないと明記する当該条項は有益だと考えます。

2 会社の有効な存在,事業の運営,株式所有等
【英語】Corporate Status, Records and Ownership of Seller.    Seller is now and on the Closing Date will be a New York corporation duly organized, validly existing and in good standing under the laws of the State of New York. Seller has all requisite corporate power and authority to own, operate and/or lease the Acquired Assets, as the case may be, and to carry on its business as it is now being conducted. Seller is now and on the Closing Date will be qualified to do business as a foreign corporation and is in good standing in each jurisdiction where the Seller’s operations, activities or assets require such qualification, except where the failure to so qualify or be in good standing would not have a Material Adverse Effect upon the Seller’s Business or the Acquired Assets. Shareholders are collectively the sole direct and indirect owners of the capital stock of Seller. Seller has no subsidiaries or Affiliated entities and does not own or otherwise control, directly or indirectly, any interest, option or other right to acquire any interest in any Person.
【日本語】売主は,現在及びクロージング日において,ニューヨーク州法に基づき適法に設立され有効に存続するニューヨーク州法人である。売主は,譲渡資産を所有・運用・賃貸し,現在行っている事業を運営するために必要な全ての権利・権限を有している。売主は,現在及びクロージング日において,売主の事業運営・活動・資産との関係で必要とされる外国における事業運営資格を保有している。ただし,当該事業運営資格の有無が売主の事業又は譲渡資産に重大な悪影響を与えない場合はこの限りでない。本件株主は,売主の全株式を直接又は間接に所有している。売主は,子会社・関連会社を有しておらず,他のいかなる者に対する直接又は間接の持分や持分購入オプション等を有していない。
【注意点】売主が事業の海外展開を行っている場合,念のために,海外で事業を行うために必要な手続等を履践していることを確認しておいた方がいいでしょう。MAE(重大な悪影響)についてはすっかりお馴染みとなりましたが,何をもって「重大な悪影響」と評価すべきかについては後日争いになる可能性があります。争いになってもいいから,とにかく話し合いの機会を持つためにMAEやMAC条項を入れるというのが発想の根底にありますので,曖昧な条項ではありますが,入れておいてもよいと思います。

公開買付け制度に関する法改正(課徴金その他)

平成20年12月12日に改正金商法が施行され,公開買付けに関して,以下のような変更が発生しています。

開示書類
責任の種類
要件
効果
条文
公開買付届出書(訂正届出書を含む)
損害賠償責任
      重要な事項について虚偽の記載があり,
      記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けている。
   公開買付けに応じた株主に対する損害賠償責任(無過失責任)。
   取締役について連帯責任あり(相当の注意の抗弁はある)。
27条の20第1項2号(18条1項),27条の20第3項
課徴金
      重要な事項につき虚偽の記載があり,若しくは,
      記載すべき重要な事項の記載が欠けている
公開買付届出書の提出
(公開買付開始公告を行った日の前日の当該株券の最終価格)×(公開買付けにより買付け等を行った株券等の数)×25/100
172条の6第1項
罰則
重要な事項につき虚偽の記載のある公開買付届出書の提出
   違反行為者には,10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金,又は併科
   両罰規定により,法人にも7億円以下の罰金
197条1項3号,207条1項1号


このうち,実務上最もインパクトがあるのが課徴金だと考えます。公開買付届出書において,重要事項につき虚偽記載があれば,例えば1000億円のディールであれば250億円もの課徴金が課されてしまいます。

それから,損害賠償責任が無過失責任となっている点も要注意です。うっかりミスが許されないわけですから,これからは,法務部員も外部弁護士も,公開買付届出書の表面的なレビューだけやっていたのでは,後から言い訳ができない状況に追い込まれてしまいます。これまでは,弁護士としても,「知らない方が安全」(知っていたのに指摘を怠ると,そこで責任が発生するから)という傾向がないわけではなかったと思いますが,これからは,公開買付届出書に記載された事実関係について,しっかりと踏み込んでレビューを行い,例えば,MBOのプロセスなどについて重要な事実の記載があれば(第三者委員会の設置時期やアドバイザーの紹介ルートなど),ヒアリング等によって調査をした上で,真実に沿った記載を行うようアドバイスしていかなければならないと考えます。

改正独禁法がM&A実務に与える影響(その2)

現行法上,株式取得については,単体総資産額が20 億円を超える会社であって,かつ,当該会社並びに当該会社の国内の子会社(当該会社が議決権の50%超を保有する会社)及び国内の親会社(当該会社の議決権の50%超を保有する会社)の総資産合計額が100 億円を超える会社が,単体総資産額が10 億円を超える会社の議決権を,10%,25%又は50%を超えて取得した場合に報告義務があります。

ところが,最近は,持株会社の解禁等によってグループ経営が盛んになってきていることから,まず,届出義務の範囲について,直接の親会社と子会社だけではなく,「企業結合集団」を基準に判断しようということになりました。

続いて,企業結合審査実務においては,市場シェアの算出のために総資産ではなく売上高を用いていることから,モノサシとして「国内売上高」を届出基準にすることになりました。

その結果,株式取得会社の届出基準については,株式取得会社の属する企業結合集団の最終親会社及びそのすべての子会社の「国内売上高合計額」を用いた基準(金額としては,当事者の一方が200億円超,他方当事者が50億円超)へ変更されました。また,パーセンテージについては,改正後は,20%,50%のいずれかをまたいで増加する場合に事前届出が必要ということになりました(10%から20%に引き上げられたという理解)。

なお,「企業結合集団」の定義が問題となりますが,ここはまだ確定していません。公取委の規則が近々定めてくれる予定ですが,親会社・子会社の該当性判断の際に,議決権のみならず実質的支配関係の要素が入ってくる点がポイントです(改正法10条6項,7項)。形式的基準で判断できなくなる以上,実務上は,ディール検討に入ったら,早々に「企業結合集団」の範囲確定作業も開始しなければならないことになるでしょう。

更に問題となるのは,「国内売上高」の定義です。今までのように,日本国内の子会社及び営業所のPL上の売上高だけを合計していれば良いというわけにはいかなくなる可能性があります。なぜなら,改正法においては,「国内において供給された商品及び役務」に関する売上高を求めることが要求されているからです。詳細は,公取委が定める規則によって確定されますが,商品やサービスの供給場所を基準とされると,企業が普段作成している財務諸表とは別に,国内売上高を算出するための資料を作らなければならなくなります(海外にあるグループ企業から日本に輸入した商品の売上高も入ってくるため)。何とか実務で使いやすい基準になってくれればと願います。

改正独禁法がM&A実務に与える影響(その1)

独禁法の改正については本ブログでも度々取り上げてきましたが,ようやく2009年6月3日に独禁法改正法案が国会で可決成立し,2010年1月1日または4月1日から施行されることになりましたので,改めて,今回の改正がM&A実務に与える影響について整理しておきます。

改正の最大ポイントは,これまで30日以内の事後報告で済んでいた株式取得が,30日前の事前届出制に変更されたことです(欧米では事前届出が原則ですので,日本がそれに合わせた形になりました)。株式取得はM&Aの代表選手であり,とりわけ国境をまたいだM&Aの場合はほとんどが株式取得になりますので,今回の改正のインパクトは大きいと思います。

実務上,注意しなければならないのはスケジューリングです。単にクロージング日よりも前に届け出れば良いというものではなく,30日間の待機期間(株式取得禁止期間)が設定されている(改正法10条8項)ことから,例えばクロージングを10月1日とするならば,届出は遅くとも8月31日までにしておく必要があります。更に悩ましいのは,公取委による排除措置命令が出る可能性がある期間が,「届出受理日から120日を経過した日または報告等の受理日から90日を経過した日のいずれか遅い日」まで延長されうるとされている点です(改正法10条9項)。すなわち,8月31日に届出をした案件については,年末あたりまで排除措置命令がありうるということになってしまいます。よって,例えばM&A後のマーケットシェアが大きい案件については,相当前倒しで公取委への届出をしなければならないということになります。

しかし,他方で,あまり前倒しで報告してしまうと,上場会社の場合,適時開示規制によってプレスリリース日も早まるという問題が発生します(公取委へ事前届出を行うタイミングで会社内部の機関決定が行われるため)。公開買付けによる株式取得を考えている場合には,特にスケジュール管理が難しくなります。

また,改正法の施行日直前にクロージング日が来るような契約にしてしまうと,クロージングが何らかの事情で遅れて施行日をまたいでしまった場合に,遡って公取委への事前届出が必要だったということになってしまいます。実際には,遡って届出することはできませんから,クロージング日を1ヶ月以上遅らせるということになると思われますが,可能であれば,施行日よりも後にクロージング日を設定し,かつ,事前届出も済ませておくという手法が良さそうです。

次回のエントリーでは,届出基準の変更などについて触れたいと思います。

M&Aアドバイザーの利益相反問題

私は,とある大学の医学部に設置された臨床試験に関する利益相反委員会の委員をしている関係で,「利益相反」や「倫理」といった問題には元々敏感なのですが,M&Aの世界でも,この「利益相反」「倫理」の問題に直面することがあります。

M&Aというのは,複数の会社が出会って統合に至る取引ですので,引き合わせをする仲介者的立場の人が居るのが通常です。この人が文字通り仲介者であり,その後,買い手・売り手の双方に,専門家アドバイザーがついて対等な交渉が行われるのであれば問題はありません。しかし,仲介者的立場の人が税理士,会計士,弁護士といった専門家であり,こういった専門家が「仲を取り持つ」ような形で契約締結まで持っていった場合はどうでしょうか?

このようなケースは,専門家がそれぞれ守らなければならない倫理規程に違反していることになります。結果が良い悪いは関係ありません。プロセスそのものが倫理上問題ありということになります。

最悪のケースは,たとえば,当該専門家が売り手と顧問契約を締結していて,そこに自分が顧問を務める別の会社を買い手として連れてきたようなケースです(実務上,十分にありうるケースだと思います)。この場合,当該専門家としては,生き残る会社(=買い手)の方に無意識に(あるいは意識的に)肩入れしてしまう可能性が出てきます。たとえば,売り手側の創業者兼代表者が事業承継を考えていて株式を手放したいと思っているとき,通常,売り手側の顧問弁護士・会計士等は,その代表者が連帯保証をしていることに着目し,連帯保証を外す(担保の差し替え)ことを条件に案件を進めるよう努力すると思いますが,買い手側に意識が行ってしまうと,そこまでケアできない(連帯保証を外すために買い手側および金融機関とハードな交渉ができなくなってしまう)かも知れません。

ところが,その株式譲渡でいかに高額の対価を受け取ったとしても,株式を買い取った側の会社がうまく経営できず(あるいは意図的に資産を換価したりして)倒産ということにでもなれば,結局は,連帯保証債務が残っていることから,元代表者は会社もろとも破産に追い込まれ,せっかく受け取った株式譲渡代金も全て返上することになります。しかも,株式を手放し,代表者でもなくなった後は,もはや会社の経営に口出しできないわけですから,経営の立て直し努力すら行えず,なすすべはありません。

また,利益相反の悪影響は,「対価」の決定手続にも顕著に現れてきます。売り手側と買い手側で双方鑑定(バリュエーション)を取ればまだ救いはありますが,鑑定が一本しかなければ,やはり客観性・公正性に疑いが生じます。

上場会社では株主の監視の目があるため最近は「M&Aプロセスの適正」がかなり意識されていると感じますが(特にMBOのケースにおいて),非上場会社・中小企業のM&Aでも,きちんと「利益相反」を解消し,倫理上の問題がない状態で進めなければなりません。法律とか数字とかノウハウよりも,正しい倫理観の方が大切だと感じます。

Top-up Option~Short Form Mergerに持ち込むテクニック~

米国では企業買収のスキームとして合併と公開買付のいずれが好まれているのでしょうか。合併の場合は,委任状争奪戦による長期化(=買収コストアップ)が懸念され,公開買付においては,発行済株式の90%以上を取得できなければShort Form Mergerができないため,結局長期化してしまうおそれがあり,また,最高価格ルール(*1)によって公開買付費用がかさむことも考えられます。

このような懸念事項があるため,米国全体のM&Aのうち公開買付が占める割合は2割に満たないと言われていますが,最近,最高価格ルールが一部見直されたことに加えて(株主兼役員に与えられる経済的利益が買付価格に算入されないことになりました),以下に述べるTop-up Optionというテクニックが利用されるようになったこともあって,以前に比べれば公開買付が利用されているケースが増えてきていると言われています。

Top-up Option というのは,公開買付によって発行済株式の90%以上を取得できなかった場合に,対象会社の方から買付者に対して新株を発行して90%の持株比率を実現させるスキームです。もとより,既存株主の持株比率が過度に希薄化される新株発行については取締役の信任義務違反となる可能性がありますので,大量の新株を発行してShort Form Mergerに持ち込み少数株主を排除すると,その少数株主から提訴されるリスクがありますが,一つのテクニックとして利用できる場面はあると考えます。以下は,Top-up Option条項のサンプルの一部抜粋です。

(a) The Company hereby grants to Purchaser an irrevocable option (the “Top-Up Option”), exercisable only on the terms and subject to the conditions set forth in this Agreement, to purchase that number of Shares (the “Top-Up Option Shares”) equal to the lowest number of Shares that, when added to the number of Shares owned by Parent, Purchaser and their related organizations (as defined in Section 302A.011, Sub. 25 of the MBCA) at the time of such exercise, shall constitute one Share more than the number of Shares necessary for Purchaser to be merged with and into the Company pursuant to Section 302A.621 of the MBCA (a “Short Form Merger”), at a price per Share equal to the Offer Price.
(b) The Top-Up Option shall be exercisable, in whole, but not in part, at any one time during the [ ] business day period commencing on the business day after the later of the Acceptance Time or the expiration of the last “subsequent offering period” contemplated by Section [ ]; provided, however, that notwithstanding anything contained in this Agreement to the contrary the Top-Up Option shall not be exercisable if (i) the issuance of the Top-Up Option Shares would require shareholder approval under the rules of NYSE, (ii) the number of Top-Up Option Shares would exceed the number of authorized but unissued Shares or (iii) after issuance of Shares pursuant to the Top-Up Option, it will be insufficient to allow Purchaser to effect the Short Form Merger; provided, further, that the Top-Up Option shall terminate concurrently with the termination of this Agreement pursuant to Section [ ].


(*1) 日本でも,公開買付価格については全ての応募株主について均一でなければならないと定められています(金商法27条の2第3項)。よって,買付価格の変更を行った場合,変更前に応募した株主についても変更後の買付価格が適用されます。

独禁法改正案~届出基準の緩和など~

本日(平成21年2月27日),談合やカルテル行為への罰則強化などを盛り込んだ独占禁止法の改正案が閣議決定されるようです。昨年の通常国会では結局成立せず廃案になっていますが,今回は前回争点となった「審査制度」については見送られたため,成立するのではないでしょうか。

企業結合関係では,会社等の株式取得につき合併等の他の企業結合と同様に事前届出制度とされるほか,合併等の届出基準が見直されて届出免除範囲が拡大されます。具体的には,現状,「総資産」ベースで「100億円以上,10億円以上」とされている届出基準が,「国内売上高の合計額」ベースとなり,かつ,金額がそれぞれ「200億円,50億円」に引き上げられます。

このうち「50億円」については,去年の改正案では20億円とされていました。新聞の情報によると,全国124万社のうち,売上高20億円以上の企業数は約6万6000社,うち売上高50億円以上の企業数は約3万社ということですので,届出基準を20億円から50億円に引き上げることで公取委へ届けられる件数が半減する計算になります。

実務においては,公取委に持ち込まれる案件数が減って,それだけ審査期間が短くなることが期待されています。改正案の詳細については,国会で正式に可決された段階で改めてご紹介したいと思います。

M&Aにおける事前開示書類(その2)~消滅会社~

続いて,M&A後に消滅する会社(合併の消滅会社,会社分割の分割会社,株式交換の完全子会社)において事前に開示する必要がある情報を整理します。

存続会社における開示書類と異なる点は,消滅会社側の計算書類等が含まれていない点です。これは開示しなくても構わないということではなく,通常の決算公告によって開示されているので二重には不要という趣旨です(ただし,消滅会社が設立されて間もない場合は,成立日における貸借対照表が開示対象になります)。

吸収合併消滅株式会社等の事前開示事項

吸収合併消滅株式会社(182条)

吸収分割株式会社(183条)

株式交換完全子会社(184条)

①吸収型再編対価として吸収合併消滅株式会社等の株主に、その有する株式の代わりに金銭等を交付するときは、吸収合併契約等に定めることが必要となる金銭等に関する事項及びその金銭等の割当に関する事項の相当性に関する事項(その定めがない場合は、当該定めがないこと)

 

②吸収分割承継会社が吸収分割株式会社に対してその事業に関する権利義務の全部又は一部に代わる金銭等を交付するときは、吸収分割契約に定める金銭等に関する事項の相当性に関する事項(その定めがない場合は、当該定めがないこと)

 

 

③吸収合併消滅株式会社等の株主に対して交付する金銭等の全部又は一部が吸収合併存続会社等の株式又持分であるときは、その吸収型再編の相手方である吸収合併存続会社等の定款の定め

 

④吸収合併消滅株式会社等の株主に対して交付する金銭等の全部又は一部が吸収合併存続会社等以外の法人等の株式、持分、社債等である場合において、次の事項(吸収合併契約等が吸収合併消滅株式会社等の総株主の同意により承認された場合を除く。)
1)その金銭等が吸収合併存続会社等以外の法人等の株式又は持分(その他これらに準ずるもの)である場合には、その法人等の定款等
2)その法人等が賃借対照表(又はそれに相当するもの)を決算公告等により開示していない場合には、その法人等の過去5年間の賃借対照表の内容
3)その法人等について登記がされていない場合には、その法人等を代表する者の氏名又は名称及び住所並びに取締役等の役員の氏名又は名称

 

⑤吸収分割株式会社が、効力発生日に取得対価を吸収分割承継会社の株式若しくは持分とする全部取得条項付種類株式の取得又は配当財産を吸収分割承継会社の株式若しくは持分とする剰余金の配当を行うこと、吸収分割契約に定めた場合には、その取得又は配当について決議された内容に関する事項

 

 

⑥吸収合併消滅株式会社等が新株予約権を発行しているときは、吸収合併契約等に定められた新株予約権に関する事項の相当性に関する事項

⑦吸収型再編の相手方である吸収合併存続会社等についての次に揚げる事項
1)最終事業年度に係る計算書類等の内容
2)最終事業年度の末日後の日を臨時決算日とする臨時計算書類等があるときは、その臨時計算書類等の内容
3)最終事業年度の末日後に重要な財産の処分、重大な債務の負担その他の会社財産の状況に重要な影響を与える事象が生じたときは、その内容

⑧吸収合併消滅株式会社等についての次に揚げる事項
1)最終の事業年度がないときには、吸収合併消滅株式会社等の成立の日における賃借対照表
2)最終事業年度の末日後に重要な財産の処分、重大な債務の負担その他の会社財産の状況に重要な影響を与える事象が生じたときは、その内容

⑨吸収合併等が効力を生ずる日以降における吸収合併存続会社等の債務の履行の見込みに関する事項

⑩吸収合併契約等備置開始日後、前に揚げる事項に変更が生じたときは、変更後の当該事項

M&Aにおける事前開示書類(その1)~存続会社~

合併や会社分割においては,株主や債権者を始めとする利害関係人に対して取引の概要を知らせるために,
ア 株主総会開催日の2週間前の日
イ 株主への通知または公告の日
ウ 債権者への公告または催告の日
のうち、最も早く到来する日から事前開示書類を備置することが要求されています。では,具体的にどのような情報を提供すればよいのでしょうか?今回は,まず,M&A後に存続する会社(合併の存続会社,会社分割の承継会社,株式交換の完全親会社)において開示する必要がある情報を整理します。

吸収合併存続株式会社等の事前開示事項

吸収合併存続株式会社(191条)

吸収分割承継株式会社(192条)

株式交換完全親株式会社(193条)

①吸収型再編対価として吸収合併消滅会社等の株主又は社員に、その有する株式又は持分の代わりに金銭等を交付するときは、合併契約等に定める金銭等に関する事項及びその金銭等の割当に関する事項の相当性に関する事項

 

②吸収分割承継株式会社が吸収分割株式会社に対してその事業に関する権利義務の全部又は一部に代わる金銭等を交付するときは、吸収分割契約に定める金銭等に関する事項の相当性に関する事項

 

 

③吸収分割株式会社等が、分割型吸収分割を行うことを吸収分割契約に定めた場合には、全部取得条項付種類株式の取得又は剰余金の配当について決議された内容に関する事項

 

 

④吸収合併消滅株式会社等が新株予約権を発行しているときは、吸収合併契約等に定められている新株予約権に関する事項の相当性に関する事項

⑤吸収型再編の相手方である吸収合併消滅会社等についての次に揚げる事項
1)最終事業年度に係る計算書類等の内容
2)最終事業年度の末日後の日を臨時決算日とする臨時計算書類等があるときは、その臨時計算書類等の内容
3)最終事業年度の末日後に重要な財産の処分、重大な債務の負担その他の会社財産の状況に重要な影響を与える事象が生じたときは、その内容

⑥吸収合併消滅会社等が清算会社である場合には、清算賃借対照表

 

⑦吸収合併存続株式会社等についての次に揚げる事項
1)最終事業年度がないときには、吸収合併存続会社等の成立の日における賃借対照表
2)最終事業年度の末日後に重要な財産の処分、重大な債務の負担その他の会社財産の状況に重要な影響を与える事象が生じたときは、その内容

⑧吸収合併等が効力を生ずる日以降における吸収合併存続会社等の債務の履行の見込みに関する事項

⑨吸収合併契約等備置開始日後、前に揚げる事項に変更が生じたときは、変更後の当該事項

⑤の「最終事業年度に係る計算書類等」(例えば,合併であれば会社法施行規則191条3号イ)の定義は,会社法施行規則2条3項に存在しますが,これによると,「計算書類等」には,会社法435条2項が定める「計算書類」(貸借対照表,損益計算書,株主資本等変動計算書,個別注記表)に加えて,「事業報告」も含まれるとされています。また,監査役設置会社の場合は,「計算書類」「事業報告」に対する「監査報告」についても添付する必要があります。

なお,「最終事業年度に係る計算書類等」は株主総会の承認決議を得た計算書類等でなければなりません。よって,例えば,平成21年3月期の事業年度最終日の翌日である平成21年4月1日に合併の効力発生日が来るように設定した場合は,事前開示すべき計算書類等を平成21年3月期のものに差し替える必要はありませんが(定時株主総会が4月1日までに到来しないため),合併の効力発生日を平成21年7月1日に設定した場合は,株主総会の承認を得た平成21年3月期の計算書類を開示しなければなりません(株主総会までは平成20年3月期の計算書類を開示しておいて,6月の株主総会が終了した段階で平成21年3月期のものに差し替える)。

ちなみに,事前開示書類の備置開始日から合併効力日までの間に重要事象が発生した場合は,開示情報のアップデート作業が必要になるのは,どのケースでも共通ですが,厳密に言えば,重要事象は「最終事業年度の末日後」に発生したもののみを記載すればよいことになっています。よって,上記の例(3月決算)では,合併の効力発生日を平成21年4月1日とした場合には,平成20年4月1日以降平成21年4月1日までの重要事象を記載し,合併の効力発生日を平成21年7月1日とした場合には,平成21年4月1日以降平成21年7月1日までの重要事象を記載することになります。

日本の製薬会社による米国バイオベンチャー買収

一昨日,製薬世界最大手の米ファイザーが同じくアメリカのワイスを680億ドルで買収するというニュースが流れましたが,今朝は,アステラス製薬が,米ナスダック上場のバイオベンチャーで心臓病関連の治療薬に強いとされるCVセラピューティクス(カリフォルニア州)に買収提案を行ったとの報道がなされました。買収提案の内容は,CV社の発行済株式の全てを1株16ドル(直近の終値に対して41%のプレミアム)の現金にて買い付けるというもので(総額は10億ドル),CV社の対応によっては敵対的な要素を含んでくる可能性もあるとされています。

アステラスの場合,連結売上高の20%を占める主力薬である「プログラフ」(免疫抑制剤)の特許が米国で2008年4月に切れ,欧州では2009年6月,日本では2010年12月に切れるとのことですが、大手製薬会社はいずれも主力薬の特許切れ問題を抱えていますので、米バイオベンチャーの買収は今後も多数発生すると思われます。

なお,近年の例を挙げると以下のとおりとなりますが,このうち事業譲渡型だった5を除くと,全て現金公開買付け+(逆)三角合併というスキームが用いられています。その理由については,別のエントリーで整理してみたいと思います。

1 エーザイがモルフォテックを買収(2007年3月)・・・3.25億ドル
2 エーザイがMGIファーマを買収(2008年1月)・・・39億ドル
3 アステラスがAgensysを買収(2007年11月)・・・ 3.87億ドル
4 武田がミレニアムを買収(2008年5月) ・・・74億ドル
5 大塚製薬がPDLバイオファーマを買収(2007年12月)・・・2億ドル

なお,本日の報道では,大鵬薬品工業がバイオベンチャーであるアリジェン製薬から潰瘍治療薬の国内での開発販売権を取得するための大型契約を締結したとの発表もありました。多くのバイオベンチャーは現在資金調達面で苦労しており,かつ,製薬会社は新薬不足問題を抱えていますので,国内においても製薬会社と創薬ベンチャーとのアライアンスが今後益々活発化すると思います。

企業結合に関する独禁法問題をクリアする方法(その4)

今日は,前回の続きとして,「輸入・参入促進措置」と「行動に関する措置」について述べたいと思います。

前回述べた事情譲渡・株式譲渡等の構造的措置については毎回採用できるわけではありません。そこで,事業譲渡先が容易に見つからないようなケースでは,競争者に対して,問題とされている商品をコストベースで(生産費用相当額で)供給する長期契約を締結すること(*1)が有効な問題解消措置であると評価されることがあります。また,別の方法として,新規の輸入・参入を促進する措置を申し出ることで競争制限を解消できると評価してもらえる場合もあります。例えば,当事会社が保有している輸入に必要な貯蔵庫や物流サービス部門を他の会社も利用できるよう開放したり(*2),当事会社が有している特許権等について競争者や新規参入者に適正な条件で実施許諾する方法(*3)がこれに該当します。これらの輸入・参入促進措置の問題点は,本当にこのような措置を採るだけで新規参入者が増えるかどうかが必ずしも明らかでないということです。港の貯蔵庫だけを開放すれば輸入者が増えるケースもあるでしょうし,貯蔵庫と物流網を両方開放しても,肝心の仕入先が独占されており結局当該商品を取り扱うことができないケースもあるでしょう。ケースごとに真に輸入・参入を促進する措置を講じることが求められると言えます。

続いて,「行動に関する措置」ですが,これは企業結合自体を認めた上で,例えば資材の共同調達行為などを禁止したり,研究開発・生産については統合会社が行うが,販売は当事会社が独立して行う措置になります。例えば,日本たばこ・RJRナビスコたばこ事業譲受事例(平成11年度事例13)では,JTがRJRナビスコブランドのタバコを日本に輸入することについては関与せず,自らも日本国内への輸入・販売を行わないという問題解消措置を採りました。また,広島ガスプロパン等による共同出資会社設立事例(平成8年度事例4)では,共同出資会社が充填業務を行うLPガスの卸売価格の決定や出資会社との間の委託手数料の決定は,当事会社(元売・卸売業者5社)間で協議をせずに個別に行うことが決められました。

以上が問題解消措置の概略になりますが,企業結合ガイドライン上,これらの問題解消措置は,変更または終了しても競争の実質的制限が発生するおそれがなくなったと判断できる場合には変更・終了できるとされています。


(*1) 当事会社の販売シェアが60%を占めることになった三井化学・武田薬品ウレタン事業統合事例(平成12年度事例9)では,国内市場の10数%に相当する部分について,ライバル会社に対して長期的生産受託契約に基づきコストベースで商品を供給することが問題解消措置として採られました。
(*2) 上記三井化学・武田薬品ウレタン事業統合事例(平成12年度事例9)では,商品の輸入のために必要な港湾地区のタンクについて,第三者からの希望があればそれに応じて提供するという問題解消措置が採られました。
(*3) 富士電機・三洋電機自販機株式取得事例(平成13年度事例9)では,当事会社の保有する特許権等の技術に関してライバル会社から実施許諾等の求めがあったときは,これを拒否せずに適正な条件にて応じることが問題解消措置として採られました。

企業結合に関する独禁法問題をクリアする方法(その3)

今回は,実質的審査に入った場合に策定が必要となる問題解消措置の種類について述べます。

公取委における審査手続としては,原則として,事前相談の申し出があった日から20日以内に第1次審査が始まり,特段の問題が見当たらなければ審査開始日から30日以内にその旨通知され,第1次審査の結果,独禁法上の問題が考えられるという場合には,第2次審査に進みます。第2次審査においては,企業側が必要な資料を提出した日から原則として90日以内に結果の通知がなされます,公取委は,第2次審査に進むと取引先等にヒアリングを行ったり,広く一般から意見を受け付けます。そのようなプロセスの中で,公取委が「このままでは独占禁止法に違反する」という心証を抱いた場合,当事会社は当該M&Aがもたらす競争減殺効果を抑えるために「問題解消措置」を申し出ることが通例です。この「問題解消措置」は,公取委が案件の効力発生後に行う排除措置命令とは異なり,あくまで当事者が事前相談の中で任意に提案するプランということになります。

問題解消措置に関するデータを若干ご紹介しますと,平成8年~17年度の事前相談事例125件中,問題解消措置の実施を前提として問題がないと判断された事例は32件(25.6%)で,
① 事業譲渡等の措置14件
② 輸入・参入を促進する措置 11件
③ 行動に関する措置 16件

となっています。

最初の「事業譲渡等の措置」というのは,構造的措置と呼ばれ,当事会社の事業部門や生産・販売設備の売却,議決権処分などを指します。これらの措置はその効果が直ちに発生しますし,事後的監視の必要がなくコストも掛からないため,(特に水平型結合の場合に)頻繁に利用されます(*1)。ただし,当事会社にとっては事業や関係会社を切り離すことによる事業収益/事業構造上のインパクトが大きいために,企業結合計画自体を白紙に戻すことにつながることもあります。問題解消措置として事業譲渡が選択された例としては,大日本インキ化学・旭化成ライフ&リビング事業統合事例(平成16年度事例3)議決権処分が選択された例としては,昭和電工・日本石油化学ポリオレフィン樹脂事業統合事例(平成7年度事例1)などがあります。

また,メディセオ・パルタックとコバショウの統合事案においては,中国ブロック(70%),鳥取(90%),島根(85%),岡山(90%),広島(75%)という統合後のシェア率を前提に,コバショウが,中国地方を事業エリアとする子会社に対する保有株式の一部を同業を営む複数の事業者に売却し議決権保有比率を引き下げること,および,コバショウの子会社に対する役員派遣を解消することという問題解消措置(企業結合関係の解消)が採られて適法とされました。

ところで,これは公取委からの視点にもなるかと思いますが,構造的措置には,それが具体的に実行に移されるかどうかが確実でないという問題点があります。例えば,A社とB社が合併を計画しており,問題解消措置としてA社が行っている事業の一部を第三者に譲渡するプランが公取委に対して示されたとします。抽象的には競争力減殺効果を抑制する望ましいプランと言えますが,具体的に,いつどんな会社に事業譲渡されるかによって競争制限効果の抑制レベルは異なってきます。仮に譲渡先の会社とA社またはB社との間に資本関係があったり,役員の兼任があったりすれば,新規の競争者創出にはつながらないでしょう。また,事業譲渡時期が合併の効力発生日後に予定されている場合,実行予定と説明しつつ実際には何年経っても実行されない可能性もあります(事業譲渡や株式譲渡は相手のある話ですから,当事会社が努力をしても最終合意に至らないこともある)。この場合,事業譲渡プランは絵に描いた餅となってしまいます。そこで,企業結合ガイドライン上は,譲渡先がどこになるかといった点を含む事業譲渡計画の内容について,公取委の事前の了解を採ることが必要とされています。

また,事業譲渡や議決権処分が実行に移されるまでの間に発生しうる反競争効果を防ぐための措置も必要です。例えば,ブリヂストン・メタルファ役員兼任事件(平成7年度事例6)では,関連会社に対する株式所有比率を10%未満にまで下げるという問題解消措置が提案された上で,実際に株式を処分するまでの間の暫定的措置として情報遮断措置(当事会社と当該関連会社との間で情報交換を禁止すること)を採ることも併せて決められました。

その他の問題解消措置については,次のエントリーで書きたいと思います。


(*1) 企業結合ガイドラインにおいては,「競争の実質的制限を解消するために最も有効な措置は,新規の独立した競争者を創出し,あるいは,既存の競争者が有効な牽制力を有することとなるよう強化する措置である。このような措置としては,当事会社グループの事業部門の全部又は一部の譲渡,当事会社グループと結合関係にある会社の結合関係の解消(議決権保有の取止め又は議決権保有比率の引下げ,役員兼任の取止め等),第三者との業務連携の解消などがある。」と書かれています。なお,最後の「第三者との業務連携の解消」は,平成16年ガイドラインには存在せず,平成19年ガイドラインから追加されています。

2008年のM&A案件に関するデータ

1 日本企業が関与した案件の総額
2008年に日本企業が関与したM&A案件の総額は12兆4200億円(2007年よりもわずかにアップ)で,そのうちの約60%(768億ドル)が日本企業による海外企業買収案件で占められています。三菱UFJによるモルガン・スタンレーへの出資,武田薬品工業による米ミレニアム・ファーマシューティカルズ買収,東京海上ホールディングスによる米フィラデルフィア買収など,5000億円から1兆円クラスのディールが含まれていることも上記数字につながっていますが,思いの外Outbound案件が多いと感じられる方も多いのではないでしょうか。

2 公表後に頓挫したM&A案件
世界におけるM&Aの「中止・延期案件」は,2008年全体で1300件を超えており,日本だけでも60件ありました。これは,信用収縮で資金調達ができなかったり,対象企業のバリュエーションが困難になってあきらめたり,当事会社の株価が下落して合併比率等に関する合意が形成できなかったといったケースが多いと思われます。円高で海外企業の買収に対するモチベーションは上がっていますが,マーケットが不安定ということは対象企業の事情計画も立てにくいということですので,「リスクのあるものを安く買う」という傾向が今後も強くなると予測しています。

3 TOB
2008年に行われた国内企業によるTOBは75件で,2007年の3割減でした。これも,信用収縮により資金調達が難航した結果であろうと思います。レコフによると,国内TOBの総額は9859億円(前年比69%ダウン),TOB一件あたりの買い付け総額は131億円(前年比60%ダウン)とのことで,10月~12月のTOB案件は株券電子化の影響もあって12件(前年比3分の1)でした。

4 MBO
2008年に行われた国内企業によるMBOは15件でした。MBOについては書きたいことがたくさんあるのですが,自分自身が具体の案件に関与している関係で控えております。また機会を見て,MBOにおける注意点について書いてみたいと思っています。

企業結合に関する独禁法問題をクリアする方法(その2)

続いて,「一定の取引分野」の一要素である「地理的範囲」の確定方法については,企業結合ガイドライン上は「供給者の事業地域,需要者の買い回る範囲等」「商品の特性」「輸送手段・費用等」の3点が考慮要素として挙げられていますが,「商品の特性」「輸送手段・費用等」は結局,顧客(需要者)がどの範囲の地域から当該商品を購入できるかに帰すると言えますので(例えば,商品が腐りやすいとか輸送費が高いということになれば,顧客は必然的に近くの店で買わざるを得ない),通常は,「供給者の事業地域と顧客の買い回り範囲」を重点的にチェックすればよいと思います。

例えば,小売業の場合は,通常,特定の地域の店舗間にしか需要代替が生じないことから,個別店舗ごとに地理的範囲が確定され(エディオン・ミドリ電化株式取得事例(*1)では,店舗から半径10km程度の範囲が基本とされた),卸売業の場合は,需要者である小売店(薬卸であれば,薬局・薬店等)が基本的には自己の店舗が所在する特定の地域内に配送拠点を構える卸売業者からの調達によっているという流通実態があると思われますので(もちろんケースごとの分析が必要),小売業よりは少し広く,都道府県ごと,および,配送拠点の所在地によっては,北海道・東北・関東・甲信越・東海・近畿・中国・四国・九州といった「ブロック」ごとに事業エリアが存在するという事実認定の下で,各都道府県と各ブロックが重畳的に「地理的範囲」になることが考えられます(*2)。

さて,「商品の範囲」と「地理的範囲」が決まれば,次は,市場シェアを利用して,HHIの計算に入ります。新企業結合ガイドラインでは,水平合併について

① 「統合後のHHI が1500以下」
② 「統合後のHHI が1500超2500以下で、HHI の増加が250以下」,または,
③ 「統合後のHHI が2500超で、HHI の増加が150以下」


であれば実質的な審査は行わないこととされています。また,公取委は,ガイドライン上,「上記の基準に該当しない場合であっても、直ちに競争を実質的に制限することとなるものではなく個々の事案ごとに判断されることとなるが,過去の事例に照らせば,企業結合後のHHIが2,500 以下であり,かつ,企業結合後の当事会社グループの市場シェアが35%以下の場合には,競争を実質的に制限することとなるおそれは小さいと通常考えられる。」としている。

メディセオ・パルタックとアルフレッサの合併事案で,仮に,どこかの地理的範囲における合併前の市場シェアが,メディセオ・パルタック30%,アルフレッサ20%としますと,統合後のHHIは2500で,統合によるHHIの増加は2500-1300=1200となります。よって,上記セーフハーバーのいずれも充たしません。また,企業結合後の当事会社グループの市場シェアが35%を超えることから,「競争を実質的に制限することとなるおそれは小さいと通常考えられる」ケースにも該当しないことになりますので,結局,本件は実質的審査に入ることになります。

次回のエントリーでは,実質的審査に入った場合に策定が必要となる問題解消措置の種類等について検討したいと思います。


(*1) 平成16年度事例6
(*2) 専ら一般用医薬品の卸売業が問題とされたメディセオ・パルタックによるコバショウの株式取得事例(平成19年度事例10)でも,同様に,都道府県とブロックごとに競争制限効果がチェックされました。

企業結合に関する独禁法問題をクリアする方法(その1)

今年の4月1日(2009年4月1日)付けで合併を予定していた医薬品卸業界日本国内マーケットシェア1位のメディセオ・パルタックホールディングスと同2位のアルフレッサホールディングスが,合併を取り止めました。この合併は,成功すれば,医療用医薬品卸の分野では日本国内で約47%,地域によっては60%近くのマーケットシェアを占めることになっていました。

世界におけるM&Aの「公表後の中止・延期案件」は,2008年全体で1300件を超えており,日本国内案件でも,昨年は過去最高の「中止・延期案件」数だったようです。信用収縮で資金調達ができなかったり,対象企業のバリュエーションが困難になってあきらめたりしたケースが多いと思われますが,ときたま「独禁法問題がクリアできなかったため」と発表されることがあり,上記メディセオ・パルタックとアルフレッサの合併も新聞報道ではそのように書かれています。

すなわち,メディセオ・パルタックとアルフレッサからの事前相談において公取委は合併後の新会社グループに所属する事業の一部売却を求めたようですが,当事会社がこれを受け入れず破談になったとされています。そこで,今回のエントリーでは,企業結合においてどの程度のマーケットシェア等が問題視されるのか,また,当事会社のマーケットシェア等に関して公取委が問題があると指摘してきた案件を頓挫させずに実現させるためには,どのような問題解消措置を公取委に提案すればよいかについて見ていきたいと思います。

まず,企業結合は,「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」に禁止されますので,「商品の範囲」「地理的範囲」を分析して「一定の取引分野」を確定することが最初に行うべき作業となりますが,薬の卸売業においては,医療用医薬品,一般用医薬品,化粧品・日用品,健康食品,試薬,医療機器などが「商品の範囲」になると考えられます(*1)。

一般的に,「商品の範囲」は,商品の「機能・効用の同種性」をメインに,生産過程や流通経路も斟酌して決められますが,現在の実務においては比較的狭い範囲で画定されます。例えば,味の素・ヤマキ株式取得事例(公取委公表平成18年事例1)では,「商品の範囲」が「風味調味料」「液体風味調味料」「めん類等用つゆ」に区別され,さらに,それぞれにつき流通経路や販売単位の違いから「家庭用」と「業務用」に区別されました。「風味調味料」と「液体風味調味料」の違いは,後者の方が単位当たりのコストが高いという点,「風味調味料」と「めん類等用つゆ」の違いは,後者には醤油が添加されている点ですが,主にユーザーの視点からかなり細かく判断されていることが分かります。

以上より,薬卸業に関しては,医療用医薬品,一般用医薬品,化粧品・日用品,健康食品,試薬,医療機器などの個別の商品グループごとに,競争制限効果がどの程度発生するかを比較検討することになります。

続いて,「一定の取引分野」の確定の際には,「地理的範囲」についても考慮しなければなりませんが,ここから先は次のエントリーで書きたいと思います。


(*1) メディセオ・パルタックとアルフレッサの合併に関する2008年10月10日付け報道では,「公正取引委員会に申請中。医療用医薬品,一般用医薬品,試薬,医療機器,SPDなど全てのデータを提出して抵触しないことを説明している。」と書かれてありましたので,これらの商品グループごとに,独禁法違反がチェックされたと考えられます。

ご挨拶

2009年1月1日付けで,北浜法律事務所・外国法共同事業のパートナー弁護士に就任致しました。同事務所のM&A部門の責任者の一人として,これまで以上に専門性を高め,的確な実務上のアドバイスとサポートをご提供できるよう,日々勉強し経験を積んでまいりますので,今後も引き続きご指導賜りますよう宜しくお願い申し上げます。

つきましては,しばらく更新が滞っていた本ブログの執筆活動も再開致しますので,こちらも引き続き宜しくお願い申し上げます。

独禁法上の持株会社規制

M&Aの際に必要な独禁法上の手続や問題についてはこれまでのエントリーで概要を紹介してきましたが,持株会社規制についてはまだ触れていなかったのでここで紹介しておきたいと思います。

持株会社規制については,独禁法9条に定められており,その内容は,「事業支配力が過度に集中」してはならないというものです。具体的基準については,公取委の「事業支配力が過度に集中することとなる持株会社の考え方」(以下,「9条ガイドライン」)が定めていますが,そこでは,規制対象として以下の3つの類型が挙げられています。

① 第1類型
 持株会社グループの規模が大きく(持株会社グループの総資産合計額が15兆円超),かつ,相当数(5以上)の主要な事業分野のそれぞれにおいて別々の大規模な会社(単体総資産額が3000億円超)を有する場合

② 第2類型
 大規模金融会社(単体総資産額が15兆円超)と,金融又は金融と密接に関連する業務以外の業務を営む大規模な会社(単体総資産額が3000億円超)を有する場合

③ 第3類型
 相互に関連性を有する相当数(5以上(*1))の主要な事業分野のそれぞれにおいて別々の有力な事業者(シェア10%以上又は売上高上位3位以内)を有する場合

戦前の財閥などであれば①に,巨大金融グループは②に,コングロマリット企業などは③に該当する可能性が出てきますが,純粋な分社化金融会社の相互参入のケースについては例外として禁止されませんので,ケースごとに弁護士に確認する必要があります。なお,持株会社設立が禁止される上記の類型に該当するにも拘らず手続を進めてしまった場合は,株式の処分や役員の辞任といった排除措置命令の対象となります(独禁法17条の2)。


(*1) 規模が極めて大きい事業分野に属する有力な会社を有する場合は,3以上

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