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井垣太介 (Taisuke Igaki)

Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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M&Aの労務(その1)~合併に伴う雇用条件の統一(1)~

M&Aが失敗するか成功するかはクロージング後の努力にかかっていると前回のコラムで書きましたが、その努力を行なうのは会社で働く従業員や役員ですので、これらの「人」に注目することなくM&Aを成功に導くのは不可能であると言っても過言ではないと思います。また、従業員の退職金や年金といった労働債務の問題(制度の新設や移転も含む)は、M&A後の再出発において思いのほか大きな負担・面倒な手続になる場合があります。更には、M&Aに伴いリストラや労働条件の変更を買主が希望しているケースも少なくありません。しかし、M&Aでは、スケジュールがタイトであることも影響して、相手方との条件交渉やスキームの内容に関心が集中し、この「人」の問題の検討や従業員の心理的側面への配慮が疎かになることがあります。そこで、今回から数回のシリーズで、M&Aの労務について書いていきたいと思います。

今回はまず、「合併に伴う雇用条件の統一」について扱います。
合併は法律上「包括承継」と呼ばれ、消滅会社の全ての権利義務関係が存続会社に移転しますので、消滅会社と消滅会社の従業員・労働組合間に存在した雇用契約、就業規則、労働協約などは全て存続会社・新設会社に引き継がれます。その結果として何が起こるか?・・・特に何もしなければ、一つの会社の中に、複数の契約形態やルールが存在することになります。そうすると、例えば、A社出身の課長はA社の就業規則に従い朝8時に出勤してくるのに、B社出身の若い主任はB社の就業規則に従い9時出勤で構わないことになり、課長は毎朝苦々しい顔で重役出勤してくる若い主任を眺めて暮らすという状況が発生するかも知れません。これが給料や退職金等の待遇の違いであれば、例えば、ほとんど同じ時期に入社した二人なのに、出身会社の違いによって退職時に受け取る退職金額が異なってくるなどの事態が発生し、もっと深刻な不公平感につながることもあるでしょう。よって、どちらの会社の出身者かによって労働者としての立場(会社から見れば労務管理の方法)に違いが生じることがないよう、労働条件の統一作業が必要になってきます。

労働条件の統一作業とは、少なくとも一方の会社の従業員にとっては、雇用条件の変更を意味します。そして、雇用条件の変更は、各従業員が会社と個別に締結している「雇用契約の変更」、あるいは会社が定めている「就業規則の変更」という形を採って行なわれることになります(両当事会社に労働組合が存在する場合には、労働組合の合同(合体)が発生すれば、それに合わせて労働協約の統一化作業も必要になってきます)。

この場合、就業規則を変更すれば足りるのでしょうか?それとも個別の雇用契約まで逐一協議の上で締結しなおさなければならないのでしょうか?これは、「雇用契約と就業規則の関係」に関する問題と言えますので、まずはその点について見ておきたいと思います。

そもそも雇用契約とは、会社と各従業員が双方合意の上で締結する個別の契約で、申込みと承諾があって初めて成立する点で、売買契約や賃貸借契約などの他の契約と同じです。これに対して、就業規則とは、使用者側が(従業員と相談の上で一方的に)定める内部規律で、始業・就業の時刻や賃金など、労働基準法所定の事項について定められます。雇用契約の条件は、通常、この就業規則を基に定められることになります。なお、<労働基準法>89条は、「常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。」としていますので、小さな会社であれば就業規則がない場合もありますが、ここでは就業規則が存在することを前提に話を進めます。

なお、簡単に就業規則関連の手続について触れておきますと、就業規則の作成・変更を行ったときは労働者の過半数代表者(過半数を代表する労働組合がある場合はその労働組合、ない場合は過半数代表者)の意見を聞く必要があり、その上で、所轄の労働基準監督署に、労働者代表の意見書を添付して届け出ることになります。ただ、就業規則の作成・変更に、労働者の「同意」までは要求されていません。たとえ労働者の代表が反対意見を述べても、反対意見を記載した意見書を添付することで足りますので、この意味で、就業規則は会社が一方的に定める決まりと言えます(ただし、後述する、就業規則の不利益変更の問題はあります)。最後に、作成・変更した就業規則は、各従業員がその内容をきちんと認識できるよう、見やすい場所に常時掲示する、印刷して配布する、電磁的方法(イントラネットなど)を使って閲覧できるようにするなどの方法によって、社内に周知させる必要があります。

このように、就業規則は、労働者との協議や社内周知の手続といったプロセスは要求されるものの、不利益変更として許されない場合を除いて会社の意図どおりの規則を作ることが可能で、かつ、個別に契約更改交渉を行なわなくとも一度に労働条件を変更することができますので、会社から見た場合には便利な方法であると言えます。その結果、就業規則の変更という方法によって個別の雇用契約に定められた労働条件まで変更できるかが問題となってくるわけですが、続きは、次回のコラムで書きたいと思います。

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