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井垣太介 (Taisuke Igaki)

Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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反対株主の株式買取請求権について(その6)~カネボウ事件~

現在は「海岸ベルマネジメント株式会社」という商号になっている旧カネボウ株式会社(*1)は、平成16年に産業再生機構による支援決定を受け、その後、平成17年には過去の粉飾決算が発覚し、東京証券取引所・大阪証券取引所に上場していた株式が上場廃止となりました。なお、上場廃止直前(平成17年6月13日)の市場株価は360円でした。産業再生機構は、平成16年10月に第三者割当増資を引き受け(このときの払込額は一株当たり380円)、その株式を平成18年1月に一株当たり201円でファンド連合(*2)に売却(その結果、ファンド連合が約70%の株式を取得)、そのファンド連合は、平成18年2月に一株当たり162円で公開買付を行い、その結果、旧カネボウの約82%の議決権を保有するに至りました。

旧カネボウは、その後、新カネボウ(ファンドが設立したクラシエホールディングス株式会社)に営業譲渡を行いましたが、これに反対した旧カネボウの株主が株式買取請求権を行使した結果価格決定請求事件にまで発展したのが本事件です。本事件において、

① 旧カネボウ側は、(公開買付価格と同額の)一株当たり162円が適正と主張
② 株主側は、一株当たり1578円が適正と主張(*3)


していましたが、裁判所は360円(旧カネボウの上場廃止直前の株価と同額であり、かつ、裁判所鑑定の鑑定評価額と同額)と決定しました。なお、本件は、会社法施行(平成18年5月1日)前の、すなわち旧商法時代の株式買取請求が問題となっていますので、「決議ナカリセバ其ノ有スベカリシ公正ナル価格」(旧商法245条の2)がいくらであるかが問題となっていました。

さて、本事件で注目すべきは、裁判所鑑定の鑑定人および裁判所ともにDCF方式で株式の価格を計算したことです。

提訴した株主側は、「(本件は)理論的にゴーイング・コンサーン企業の株式の客観的交換価値を算定するのに最も正しい方式として、実務上も定着しているDCF方式を用いることが適切な事案である」として、当初からDCF方式を採用するよう求めていました。他方、会社側は、「営業譲渡と公開買付との間に時間的な隔たりがないことから、多数の株主が応じた公開買付価格と同額である162円が取引先例価格になる。反対株主が少数株主でありその株式には市場流通性もない点も考慮すべき。本件では基本的には配当還元方式が適正である」といった主張を展開しました。なお、公開買付のために旧カネボウが株価算定を依頼した第三者機関はDCF方式を用いており、その算定結果を受けて162円という公開買付価格が決められたという経緯がありましたが、本事件における会社側の主張は、「DCF方式における将来の収益予測は困難であるし、DCF方式は将来キャッシュフローが全て株主に帰属するとの前提に立つが、少数株主は会社による投資や配当等について決定する力を持たないのでDCF方式は不適切である」と主張していました。すなわち、大まかに言えば、株主側は、「将来キャッシュフローの現在価値」を求めるDCF方式が妥当であると主張していたのに対し、会社側は株主、特に少数株主であってもはやその株式を市場で売却することもままならない者たちが受け取れるのは、配当を基準にした金額に過ぎないと主張していたことになります。

さて、このような両当事者の主張の狭間で、裁判所が選任した鑑定人は、鑑定書の中で、類似会社比準法、純資産評価法、市場株価基準法についてはそれぞれ欠点があり、本件では相応しくないと述べた上で、「継続企業の価値評価であること、反対株主にとっての経済的損失を負担するものであることを考慮した評価手法を用いる必要がある。よって、継続企業を前提とする評価としてDCF法によることとした」と書いています。また、その鑑定人の鑑定評価額を結果的に採用した裁判所も、「本件において、継続企業としての価値の評価に相応しい評価方法は、収益方式の代表的手法であるDCF法であるということができ」るとして、DCF法を採用しました。

DCF法の詳細についてはまた別の機会に述べたいと思いますが、裁判所が従来の判断枠組みを離れてDCF法を採用したことと、公開買付時の買付価格に引っ張られずに会社主張額の二倍以上の金額をもって「公正な価格」と認定したことには非常に大きな意味があると思います。新会社法は、少数株主保護の最後の砦として株式買取請求権に大きな期待をかけています。今後は、アメリカのように、TOB価格を超えるFair Valueを裁判所が認定したことによって、安い価格でのTOBに賛同した取締役の責任を追及する訴訟が別途起こされる時代になるかも知れません。162円と360円の違いは小さいように見えて、実は、少数株主保護に対する考え方を変えさせるだけのインパクトを持っていると感じます。

東京地裁の決定に対しては、当事者双方から東京高等裁判所に不服申立て(抗告)がなされていますので、更なる検討のために高裁の決定を待ちたいと思います。

(参考資料) 本裁判に関する準備書面、鑑定書、裁判所の決定などは、<「カネボウ個人株主の権利を守る会」のウェブサイト>で閲覧できます。


(*1) http://www.bell-m.co.jp/
(*2) アドバンテッジパートナーズ有限責任事業組合、株式会社MKSパートナーズ、ユニゾン・キャピタル株式会社の連合体。
(*3) 粉飾決算が発表される前の市場株価より少し高い金額。

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