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Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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反対株主の株式買取請求権について(その3)

引き続き、買取価格に関する改正について述べたいと思います。

前回のコラムで書いたとおり、反対株主の株式買取請求権に関する買取価格については、もともとは「決議ナカリセバ其ノ有スベカリシ公正ナル価格」と書かれていたものが「公正な価格」と表現が変わりました。その意図するところは、M&Aの結果として発生する(であろう)シナジーの配分という要素を加味して買取価格を算定できるようにするという点にあります。ただ、今回の改正によっても、「決議ナカリセバ其ノ有スベカリシ公正ナル価格」を採用することが不可能になったわけではありません。実際のM&Aでは企業価値が減少するケースもありますので、そのようなケースにおける反対株主については、M&Aによって毀損する企業価値を前提とした株価ではなく、当該M&Aが存在しなければ有していたであろう本来の株価を基準に買取りをすべきだからです(*1)。

続いて、裁判所がどのようにして「公正な価格」を算定するのかについて検討してみたいと思います。

まず、裁判所として、当事者が行った算定結果をどの程度尊重すべきかという問題が発生します。この点については、「もっぱら実務的な実行可能性という観点から、再編前の当事会社の企業価値を主たる基準として合理的に説明できる範囲内に収まっているかどうか判断することになるが、算定の基礎となったデータや適切な情報開示の上利害関係人以外の株主が賛成しているかといった諸事情もあわせて考慮してもよい。もし、当事者の設定した条件が合理性を欠くとされた場合、裁判所は独自にあるべき公正な企業再編対価を算定することになる。」とする見解があります(*2)。

確かに、支配株主が少数株主をスクイーズ・アウトする場面で行使されることが多い株式買取請求権については、価格算定プロセス自体に公正性を疑わせる事情が存在する場合も多いと思います。MBOの場面ではMBO指針等の影響で独立委員会が設置されるケースが増えていると思いますが、通常の事業譲渡や合併においては利益相反問題を排除する具体的措置が採られないことも多いと思います。実際に、株式買取請求権が行使され、価格決定の申立までなされたカネボウのケースでも、買取価格を決めるために独立委員会が設置されたということは聞いていません。そこで、算定プロセスに問題があったかなかったかをまずチェックし、「プロセスに公正性を疑わせる問題がない場合は会社の判断を尊重し、逆にプロセスに問題があれば改めて裁判所がゼロから算定する」という発想にも一定の合理性があるように思います。ただし、会社法自体は、そのような手続審査的判断枠組みを採るべきと明記しているわけではありません。その結果、「算定プロセスが公正であった場合は、会社の算定結果を100%尊重すれば足りる」とも言いにくいわけです。そこで、上記のように、手続的審査に加えて、多少実体的な判断(計算に利用された前提条件などのチェック)にも踏み込んで、会社による算定結果が「合理的に説明できる範囲内に収まっているかどうか」を判断するという手法が提案されているのではないかと思います。

実務的な観点から言えば、たとえ「合理的に説明できる範囲内に収まっているかどうか判断する」ためであっても、裁判所の判断能力の点から考えると、やはり原則として専門家による裁判所鑑定は必要になってくるだろうと考えます。そして、鑑定がなされた以上、裁判所としては、(カネボウ事件のように)鑑定に基づいて判断した独自の算定結果を裁判所の結論として公表するのではないでしょうか(数千万円という多額の鑑定費用を当事者に支出させて鑑定を行った場合は尚更)。よって、この場合に、「まず合理的に説明できる範囲内に収まっているかどうか判断する」という二段階的判断方法が採られる余地はあまりないのではないかと感じます。ただ、(全部取得条項付種類株式の取得価格が問題となったレックス・ホールディングス事件のように)鑑定費用が高すぎるといった理由で裁判所鑑定がなされなかった場合については、「多くの株主が公開買付けに賛同した」といったプロセスに関する諸事情もあわせ考慮した上で、「合理的に説明できる範囲内」にあるとして、会社提案額が尊重されるケースもあるのだろうと考えます。

レックス事件やカネボウ事件といった具体的な事件名が登場しましたので、次回のコラムでは、主に2008年3月14日に東京地裁が価格決定を出したカネボウ事件について見てみたいと思います。


(*1) そもそも、定款変更などの「シナジー効果が関係ない会社の行為」に関しては、当然に「決議ナカリセバ其ノ有スベカリシ公正ナル価格」が採用されることになります。
(*2) 藤田友敬「新会社法における株式買取請求権制度」(江頭憲治郎先生還暦記念論文集『企業法の理論』、商事法務、上巻296頁)

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