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井垣太介 (Taisuke Igaki)

Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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反対株主の株式買取請求権について(その2)

2 行使期間と撤回制限について

旧商法下では、株主は株主総会において組織再編行為が承認された後20日以内に買取請求権を行使しなければなりませんでしたが(旧商法245条の3)、会社法の下では、「組織再編行為等の効力が発生する20日前の日から効力発生の前日まで」と変更されています(会社法469条5項、785条5項等)。そして、株主が買取請求権を行使できるように、会社は、効力発生日の20日前までに、組織再編行為をすることを株主に対して通知しなければなりません(*1)。

また、旧商法時代には、株式買取請求の取下げに関する制限規定が存在しなかったため、とりあえず株式買取請求権を行使し、その後の対象会社の株価変動を見つつ、裁判所が決定するであろう価格よりも市価が上昇した場合には株式買取請求を取り下げた上で市場で売却するという株主の投機的行動を許すことにもなっていました。そこで、会社法では、一旦買取請求をした場合は、会社の承諾がなければ当該買取請求を取下げることはできないものとし、濫用的に株式買取請求権が行使されることを防止しています(会社法469条6項、785条6項等)(*2)。

このように、取下げに対する制限を課した結果、株主は株式買取請求を行うかどうか慎重に判断しなければなりません。それゆえに、買取請求権の行使期間を組織再編決議直後ではなく、クロージング日の手前20日間に持ってきた(すなわち、遅らせた)というのが新会社法の規定の趣旨と説明されていますが、これに対しては、結局、「かなり長期間、株価の動きを見ながら買取を請求するか否かを考慮することが可能になる。」との批判もなされています(*3)。


3 買取価格に関する改正

株式買取請求権が行使された際に会社が株式を買い取る価格については、旧商法下では、組織再編等についての「決議ナカリセバ其ノ有スベカリシ公正ナル価格」とされていましたが(旧商法245条の2)、新会社法ではシンプルに「公正な価格」によって買取がなされることとなりました。すなわち、ケースによっては、組織再編によって見込まれるシナジー効果のうち、対象会社の株主に分配されるべき部分をもらえることになったわけです。

この点、米国では、例えば、<MBCA>の定義条項(§13.01(4))を見ますと、

(4) “Fair value” means the value of the corporation’s shares determined:
(i) immediately before the effectuation of the corporate action to which the shareholder objects;
(ii) using customary and current valuation concepts and techniques generally employed for similar businesses in the context of the transaction requiring appraisal; and
(iii) without discounting for lack of marketability or minority status except, if appropriate, for amendments to the articles pursuant to section 13.02(a)(5).

(訳:
「公正な価格」とは以下の方法によって算定された株式の価値を意味する。
(i) 当該株主が反対した会社の行為の効力発生直前の価値であること
(ii) 同種の業界において当該行為に関して一般的に利用されている普遍的かつ最新の評価方法および技術を用いること
(iii) 13.02(a)(5)に基づき定款に変更がなされた場合を除いて、少数株式に市場流通性が欠ける点は考慮してはならない)

と書いてあります。ここでは、特段、組織再編によるシナジーを含めてはならないと明記されているわけではありませんが、「当該株主が反対した会社の行為の効力発生直前の価値であること」というのはすなわち、(日本の旧商法と同じく)当該組織再編行為が存在しない場合の価格を指しているものと解釈されており、多くの州において、シナジー効果を買取価格に反映させることは、特にそれをすべきと考えられる特段の事情がない限り行われていません(*4)。

日本の新会社法の下では、「組織再編行為自体には賛成するが、それに伴い交付される財産の価額に不満を持つ株主」の利益をも保護されることになりました。今まで合併比率が不公平である場合などにはそれにより損失を被る株主の保護はほとんど不可能だったわけですが、それが株式買取請求権の行使という形で可能になったのです。

確かに、日本においては、「対価の不当性」を理由に組織再編行為を事前に差し止めることや合併比率等の取引条件の不公平さに関連して取締役の責任を追及することが困難であるため、株式買取請求権に少数株主保護の効果を大いに期待することは分からないではありません。しかし、将来のシナジー効果を予測するのは実際には極めて困難で(別の言い方をすれば、色々な予測が可能)、かつ、株主に「株主たる地位を放棄しつつ、組織再編によって得られるシナジー効果をも享受する」というある意味で矛盾した二つの地位を認めることになります。特に、シナジー効果の予測と分配を裁判所に期待する点には相当の無理があるのではないでしょうか。実務上は、当事者双方が鑑定意見書を出し合って、あるいは裁判所鑑定を行って、裁判所はそのいずれかを採用するということになるかと思いますが、今回の改正が裁判所に過度の任務を負わせた点については、果たして正しかったのかどうか、疑問を感じるところです。


(*1) 株主総会で承認されたときなど、一定の場合には公告によることもできます。
(*2) <MBCA>§13.23では、特段会社の同意を要求することなく、株式買取請求の撤回を認めています。
(*3) 藤田友敬「新会社法における株式買取請求権制度」(江頭憲治郎先生還暦記念論文集『企業法の理論』、商事法務、上巻266頁)
(*4) MARY SIEGEL, BACK TO THE FUTURE: APPRAISAL RIGHTS IN THE TWENTY-FIRST CENTURY, 32 Harv. J. on Legis. 79, 1995

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