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井垣太介 (Taisuke Igaki)

Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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M&Aにおけるリスク・アロケーション~Antitrust Riskを題材に~(その2)

Antitrust Riskの分担を契約書に反映させる方法は、通常、以下の4種類になります。
① Representations and warranties(表明保証条項)
② Covenants(コベナンツ条項)
③ Conditions to closing(クロージング条件条項)
④ Termination rights(解除権条項)


これらのいずれかを用いたり、組み合わせて利用しますが、最も極端な例は、売主側に完全にリスクを負担させる方法と、反対に買主側に全てのリスクを負わせる方法です。売主側に100%リスクを負わせる方式の下では、買主側はAntitrust問題を解決するために協力する義務すら負わず、発生した費用は全て売主負担、かつ、当局からAntitrust法上問題があるという指摘を受けた時点で買主側に解除権が発生するということになるでしょう。他方、買主側に100%リスクを負わせる方式は、”hell or high water clause”と呼ばれ、いかなるトラブルが発生しても契約の解除ができないばかりか、原則として代金の減額もできないとするものです。この方式の下では、当局への対応も専ら買主の費用と責任において行い、訴訟に発展した場合も買主が対応し、結果として対象事業の一部分を他社へ譲渡しなければならなくなった場合でも、当初合意した買収対価を全額支払う(ただし、売主が事業の一部を他社へ譲渡した場合はその代金相当額を不当利得として買主側に返してもらう)ことになります。

上記のような極端な例は実務上はほとんど見られませんが、例えば、買主候補がA社とB社の2社あって、A社との合併は競争に悪影響を与えるが、B社との合併ではそれがない、しかしA社は合併を強く望んでいてどんな手段を使ってでも取引を完了させたいという状況であれば、Antitrust Riskについては全て自社で引き受けるから契約書にサインをして欲しいと対象会社に申し出る場合も考えられます。また、対象会社が再建中の会社などであって、ここで売却しなければ完全に破産するほかないというケースでは、売主側がAntitrust Riskを100%負担すると申し出るケースもありえます。

では、そのような特殊な状況になく、売主と買主が交渉上ある程度対等な立場を有している場合については、どうでしょうか?

後日の紛争を防止するためには、この場合、まず当事者双方がどこまで当局への対応義務を負担するかについて定める必要があります。日本語の契約書でも近年、「合理的な努力をする」「最大限の努力をする」といったいわゆる努力条項が入れられるようになりましたが、米国のM&A契約書でも”best effort”や”(commercially) reasonable effort”といった言葉を用いて、当事者の努力レベルを規定するのが通常です。これらの用語の具体的な意味については、理論的には州ごと、国ごとに異なると言えるでしょう。(Antitrust関連紛争に関してこれらの用語の解釈が問題となった事案が少ないため、明確な解釈基準は存在しませんが)一般的には、”reasonable effort”と言う場合には、当局の詳細調査(Second Request)に対応する義務まで含まれ、”best effort”と言った場合には更に進んで訴訟対応まで含まれると考えてよいと思います。すなわち、訴訟対応までやってなお是正措置を要求された場合に初めて解除権を行使できる可能性が出てくるということです。

上記のように解釈するのが妥当であるとしても、”best effort”や”(commercially) reasonable effort”といった用語は本質的に曖昧ですので、後日の紛争を招く可能性があります。よって、契約書においては、当事者間で十分協議した上で更に詳細な取り決めをしておくことが望ましいと考えます。具体的には、①協力義務の内容(Specific Cooperation Obligations)、②訴訟対応義務の有無(Specific Litigation Obligations)、③事業の切り売りを迫られた場合の対応(Divesture Obligations)、④他社へのライセンス付与を迫られた場合の対応(Licensing Obligations)、⑤違約金(Antitrust Break-up Fee)、⑥売主の解約権(Sellers-out)の6つについて契約条項を作ることができれば望ましいと言えます。

① 協力義務の内容(Specific Cooperation Obligations)
Antitrust Riskを事前にシミュレーションするためには、当時会社がそれぞれ有している製品や顧客、取引先、競合他社に関する情報を交換する必要がありますし、専門家を雇って緻密な計算をすることもときに必要ですので、(a) 相互の情報提供義務、(b) 市場や競争状態の調査を共に協力して行う義務、(c) 専門家を雇った場合の費用分担義務、(d) 当局からの資料提出要求等に協力して対応する義務などについて定めておくのが良いでしょう。

② 訴訟対応義務の有無(Specific Litigation Obligations)
訴訟対応には多額の費用と長い時間が掛かるのが通常ですので、これについては特に具体的にしておくことが望ましいと言えます。定め方としては、訴訟提起がなされた時点で買主または売主の解約権行使を認める、当局からの差止請求訴訟(preliminary injunction)においてディフェンスする義務までは負う(=そのプロセスを経ないと解約はできない)、最終審まで完全に攻撃防御を尽くす義務を負うなど、いろいろなレベルが考えられますが、どの訴訟レベルまで対応義務を負うか、またその際の費用分担はどうするかについて定めておいた方が良いと考えます。

③ 事業の切り売りを迫られた場合の対応(Divesture Obligations)
事業の切り売りと言っても、買主から見た場合にはそれがなくては買収の意味が全くなくなるような重要な事業・資産から、他社へ譲渡しても構わない価値の低い事業・資産もあるでしょう。よって、一般的には、合併・買収後の事業運営に重大な悪影響(Material Adverse Effect)を及ぼす場合には解約可能という形で定めます。何をもってMACと言うかについては、なくなっては困る特定の重要資産や事業を予め列挙しておく方法や、会社の収益やEBITDAベースで何%減になればMACに該当すると定めておく方法が考えられますが、当事者間の契約書は当局のチェックを受けますので、それを前提に注意深く契約書を作り込んでいく必要があります(契約書に書き過ぎると、当局との交渉が困難になる場合が考えられます)。

④ 他社へのライセンス付与を迫られた場合の対応(Licensing Obligations)
他社へのライセンス付与は、競争を促進するために当局から要請される是正措置の一種ですが、この場合も上記Divesture Obligationsと同様に、どの製品・技術に関するライセンス付与を余儀なくされた場合に契約の解除を認めるかといった取り決めを行っておけば後日の紛争を防ぎやすいと言えます。

⑤ 違約金(Antitrust Break-up Fee)
ここで言うAntitrust Break-up Feeとは、主に買主側が支払う義務を負うフィーのことです。買主候補が複数いる場合、売主としてはできればAntitrust Riskが少ない当事者と契約したいと考えます。しかし、買主の中にはBreak-up Fee条項を入れても構わないので、自社と契約して欲しいと願うケースがあります。そのような場合には、売主としては、Antitrust Risk を打ち消すだけのBreak-up Feeをもらうことに合理性が出てきます。リスクがある相手と一緒に進むけれども、ディールが頓挫した場合には掛かった費用や時間に相当するフィーをもらうと取り決めておくことで、フェアな判断ができるようになります。

⑥ 売主の解約権(Sellers-out)
多数の買主が待っている場合には、売主の方から進んで契約を解除したいと願うケースもありえます。そのような場合には、例えば、当局からの詳細調査が始まった時点で売主側の解約権行使を認めるといった契約条項を入れておく方法が考えられます。

以上のように、Antitrust Riskの分担を当事者間で予め決めておくための契約書上のテクニックは多数あります。大型合併・買収になればなるほど、しっかりと事前にシミュレーションして協議と交渉を怠らないことが重要だと考えます。

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