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Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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M&Aにおけるリスク・アロケーション~Antitrust Riskを題材に~(その1)

M&A取引に潜むリスクと言えば、対象会社で発生している法令違反、(係属中ないし将来の)訴訟、環境問題、賠償問題等たくさんありますが、ときにディールを断念せざるを得ないほどに影響が大きい問題の一つがAntitrust Risk(競争法違反リスク)です。

Antitrustに関する規制については、日米でさほど変わらないので、このブログでまだあまり紹介していないアメリカの実務を例に説明していきたいと思います。アメリカでは、予定されている買収または合併が
“will substantially lessen competition or tend to create a monopoly”
(競争を実質的に抑制し、または、独占状態を作り出すおそれがある)
ときには、本来あるべき競争状態を阻害し消費者の利益を害するために、一定の制約を受けます。取引条件を多少修正することで認めてもらえれば良いのですが、US Department of Justice(司法省)やFederal Trade Commission(連邦取引委員会)は、合併・買収後の事業の進め方に制限や条件を課してきたり、ときに対象事業の一部を他社に売却することや、特定の製品に関するライセンスを競争他社に付与することまで要求してきたりします。実際にはそこまでドラスティックな対応を求められるケースは稀ですが、いざこのような是正措置を採ることを要求された場合には、買収価格に影響を与えるべき事態と言えるのはもちろんのこと、対象事業の中核部分を他社に譲渡することを余儀なくされたりすると、買収そのものを取りやめることにも合理性が出てきます。また、訴訟に発展した場合はもちろんのこと、競争法当局との協議を続けるだけでも相当の費用と時間が掛かりますので、それ自体がAntitrust Riskであると言えます。

他方で、Antitrust Riskの大きさ、影響というのは、当局と協議し、指摘を受け、対応をしてみないと明確にならないという側面もあります。よって、契約書を曖昧に作ったままとりあえず手続を進めてみたところ、思いのほか協議が難航し、最終的にはFTCから差止訴訟を提起され、計画していたM&A取引が阻止されてしまうというケースも十分考えられます。この場合、契約書に何も定めていない以上、当事者間では、「その訴訟で負けたのは買主が訴訟に協力しなかったからであり、クロージングに向けて努力すべき買主の債務不履行に当たるから買収代金は返還できない」とか、「いやAntitrust Riskは売主が負うべきものである」といった言い合いになってしまいかねません。

アメリカではnotificationを当局に提出した後30日間のwaiting periodがあり、詳細調査が必要となれば、Second Requestと呼ばれるフェイズに移りますが、こういった手続の流れとそれに要する時間および費用を事前に理解し予定しておくのはもちろんのこと、売主・買主間の契約交渉において、Antitrustに関し発生が見込まれる問題を具体的に想定した上でリスク・アロケーションを行っておくことが大事になってきます。さて、それでは、具体的には何をどのようにして当事者間でのリスク分配を図れば良いのでしょうか?

まずは、各当事会社において、当該買収や合併が関連マーケットの競争状態に与える影響をシミュレーションする必要があります。日本と同様、「地理的範囲」と「商品・サービスの範囲」という二つの視点から、競争他社と消費者に与える競争制限効果を計算するのです。クロスボーダー案件であれば、関連各国の競争法を調査し、その規制内容と手続、当局の判断傾向についてまで研究しておく必要があるでしょう。そして、当局から要求される是正措置の内容まで予測して、「この事業を切り売りすることを要求されたら買収は撤回する」「この製品のライセンスを他社に許諾することを求められたら、買収代金は○○%減額」といった買主側の方針の決定、あるいは、「A社との合併を当局に反対されれば、B社と合併する。但し、訴訟に至らない限り、A社との合併を優先する」といった売主側の方針を事前に決めておく必要があります。また、Antitrust Riskは買収そのものの成否につながる大問題ですので、こういったシミュレーションや調査、方針決定およびそれに基づく当事者間での交渉は、M&A交渉のかなり早い段階で始めておく必要があります。

さて、Antitrust Riskの内容のシミュレーションが終われば、次は、契約書に反映させるためのアイデアが必要になってきますが、この続きは、次回のコラムで述べたいと思います。

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