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井垣太介 (Taisuke Igaki)

Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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タックス・プランニングのためのケース・スタディ(その5)

【ケース5】対象会社に繰越欠損金があるケース

これまでのケース1から4までは、対象会社T社に繰越欠損金が存在しないことを前提にしていましたが、ここでT社に多額の繰越欠損金(*1)があると仮定した場合に何が違ってくるかを検討しておきたいと思います。

これまでと同様に、以下の条件を利用しますが、純資産30億円の内訳については、資本金50億円、利益準備金0円(欠損の填補に使用)、利益剰余金△20億円とします。
利益剰余金の時価は、税務簿価+営業権時価、すなわち、△20億円+60億円=40億円となり、この利益剰余金時価40億円と資本金50億円との合計額である90億円がやはり買収対価ということになります。

① 対象会社の貸借対照表
 
簿価
時価
 
簿価
時価
資産
100億円
100億円
負債
70億円
70億円
営業権
 
60億円
純資産
30億円
90億円
総資産合計
100億円
160億円
負債資本合計
100億円
160億円

② その他の前提条件
・ Cは対象会社株式を50億円で取得
・ その株式を今回はA社が純資産相当額の90億円で買取り予定
・ 法人税の実効税率は40%とする

(検討)
① 株式譲渡方式
・ 対象会社T社にとっては株主が変わるだけなので、課税関係は発生しません。
・ T社の株主Cから見ると、
(譲渡収入90億円-譲渡原価50億円)×実効税率40%=16億円
の税負担が発生します。
・ 買収会社A社にとっては単なる株式買取りなので、課税関係は発生しません。
・ 買収受皿会社V社においては、繰越欠損金20億円を将来全て使用できることを前提とすれば、
20億円×実効税率40%=8億円
の税負担の軽減につながります。

② 会社分割方式
・ 対象会社T社には会社分割益60億円が発生しますが、繰越欠損金20億円と一部相殺できますので、
(会社分割益60億円-繰越欠損金20億円)×実効税率40%=16億円
の税負担が発生します。
・ T社の株主Cから見ると、まず「みなし配当」(株主が交付を受けた財産の時価合計額から消滅会社の資本金および資本積立金の額を控除した残額)(*2)として、
(残余財産74億円-資本金50億円)=24億円   *残余財産=譲渡価額-法人税
が発生します。また、株主が交付を受けた財産の時価合計額から取得原価とみなし配当額を控除した残額は譲渡損益と扱われますが、本件では
(残余財産74億円-取得原価50億円-みなし配当24億円)=0円
となりますので、譲渡益課税はなされません。結局、「みなし配当」24億円に対し実効税率40%を掛けた9億6000万円の税負担がCに発生します。
・ 買収会社A社にとっては単なる株式買取りなので、課税関係は発生しません。
・ 買収受皿会社V社においては、営業権60億円を認識することができるため、
60億円×実効税率40%=24億円
の税負担の軽減につながります。

(まとめ)
結局、以下の表のとおり、株式譲渡方式と会社分割方式では、会社分割方式の方が当事者全体の税負担額が少ない結果になりました。
法人株主のケース
株式譲渡方式
会社分割方式
T社と株主Cの負担
16億円
25億6000万円
A社とV社の負担
△8億円
△24億円
実質的なトータル
8億円
1億6000万円

では、条件を変えて、純資産30億円の内訳を、資本金100億円、利益準備金0円(欠損の填補に使用)、利益剰余金△70億円(繰越欠損金が70億円)と仮定した場合はどうでしょうか?
この場合は、計算式は省略しますが、以下の表のとおり、株式譲渡方式の方が、税負担の軽減が4億円多い、すなわち株式譲渡方式の方が税務上有利という結論になります。
法人株主のケース
株式譲渡方式
会社分割方式
T社と株主Cの負担
△4億円
△4億円
A社とV社の負担
△28億円
△24億円
実質的なトータル
△32億円
△28億円

これは、株式譲渡方式では繰越欠損金の使用が可能であるが営業権は認識できない、他方、会社分割方式では繰越欠損金の利用は原則できないが営業権は認識できるという違いから導かれる結論と言えます。また、繰越欠損金の繰越期限が迫っている場合や、将来の利益が十分でない場合は、繰越欠損金の全額を利用することができないために結論が変わってくる可能性があります。このように、タックス・プランニングはM&Aのストラクチャーを決定する上で極めて重要ですので、事前の詳細なシミュレーションが必要と言えます。


(*1) 税務上、企業がある年に欠損金を出した場合、その欠損金は次の期に持ち越すことができます。そして、適切な会計帳簿を作成し青色申告書を提出していれば、翌年以降7年間に亘って毎年の益金と相殺して納税することが認められます。
(*2) みなし配当は、個人株主・法人株主ともに発生します(個人株主のみなし配当については所得税法第25 条、法人株主のみなし配当については法人税法第24 条)。

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