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井垣太介 (Taisuke Igaki)

Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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タックス・プランニングのためのケース・スタディ(その2)

【ケース2】会社分割によるM&A(個人株主のケース)

(事案) ~T社(個人株主Iが発行済み株式の100%を所有)の全事業を買収受皿会社V社に会社分割によって承継させ、V社が分割対価としてT社に発行したV社株式をA社が買い取ることでV社をA社の子会社とするスキーム(IにはT社から残余財産の分配を行う)~

① 対象会社の貸借対照表
 
簿価
時価
 
簿価
時価
資産
100億円
100億円
負債
70億円
70億円
営業権
 
60億円
純資産
30億円
90億円
総資産合計
100億円
160億円
負債資本合計
100億円
160億円
* 純資産の内訳: 資本金2億円、利益準備金5000万円、利益積立金27億5000万円

② その他の前提条件
・ Iは対象会社株式を2億円で取得
・ その株式を今回はA社が純資産相当額の90億円で買取り予定
・ Iは株式を5年超所有 → 長期譲渡所得として所得税率は20%(所得税15%+住民税5%)
・ 総合課税におけるIの所得税率は50%とする。
・ 法人税の実効税率は40%とする

(検討)
まず、本件会社分割が適格分割か非適格分割かを判断する必要がありますが、会社分割における税制適格要件も合併と同様、「グループ内の適格分割」と「共同事業を営むための適格分割」に分けられます。本件では、株式分割前のT社とV社間に資本関係はないと仮定すれば、「グループ内の適格分割」には該当せず、「共同事業を営むための適格分割」の該当性が問題となります。「共同事業を営むための適格分割」要件は、適格合併の要件(対価要件、事業関連性要件、規模要件または経営参画要件、独立事業単位要件、事業継続要件、株式継続保有要件)とほぼ同じで、ただ、独立事業単位要件として、「80%以上の従業員の引継ぎ」に加えて「主要な資産および負債の移転」が要求されることと、株式継続保有要件に関し、吸収分社型分割(分割法人に株式が交付される)の場合には分割法人の株主数に関係なく分割法人が分割によって交付を受けた分割承継法人の株式を保有し続けなければならないのに対し、吸収分割型分割(分割法人の株主に株式が交付される)の場合には分割法人の株主が50人以上いれば株式継続保有要件は課されないという点で違いがあるにとどまります(*1)。

さて、本件に関しては、T社と受皿会社V社との間に事業関連性がなく、かつ、T社は株式分割によって交付されたV社株をすぐにA社に譲渡しますので、株式継続保有要件も充たさないということになります。よって、本件は、非適格会社分割として扱われます。

① 買収会社A社の税負担
株式を買うだけなので、課税関係は発生しません。

② 買収受皿会社V社の税負担
非適格分割ですので、T社の資産・負債が時価でV社に承継されることになります。時価で承継される結果営業権が発生し、V社は営業権の減価償却(*2)を行うことで将来における課税所得を圧縮することが出来ます。他方、V社はT社の繰越欠損金を引き継ぐことはできません。
本件では、営業権は60億円ですので、
60億円×法人税の実効税率40%=24億円
の税負担の軽減につながります。

③ 対象会社T社の税負担
T社は自己の資産・負債を時価でV社に移転することになりますので、その譲渡価額と帳簿価額の差額に関して譲渡損益が発生します。本件では、T社に60億円の譲渡益が出ますので、
60億円×法人税の実効税率40%=24億円
の税負担がT社に発生します。

④ 対象会社株主Iの税負担
T社からV社への会社分割の時点では個人株主Iには何らの課税関係も発生しませんが、その後T社を清算してIに残余財産を分配するプロセスにおいて課税がなされます。すなわち、支払いを受けた残余財産のうち資本金および資本積立金の金額を超える部分については配当所得として総合課税がなされます。本件では、残余財産は、
(売却価格90億円-法人税24億円)=66億円
ですので、
(残余財産66億円-資本金および資本積立金合計2億円)×税率50%=32億円
の配当所得課税となります。ただし、配当金所得を総合課税として確定申告する場合には配当控除が受けられますので(*3)、その分
(残余財産66億円-資本金および資本積立金合計2億円)×税率6.4%=4億960万円
を差し引き、結局、27億9040万円が、個人株主Iが負担する税額となります。

(まとめ)
本件スキームを採用する場合には、T社に24億円の、T社株主Iに27億9040万円の税負担が発生し、反面、買収側のV社には24億円の「税負担の軽減」が発生することが判明しました。オーナーからの単純な株式買取り方式では、Iに17億6000万円の税負担が発生するだけでしたので、税金面のみを捉えればT社サイドは「会社分割+株式譲渡方式」には異議を唱えることになるだろうと思われます。

また、「会社分割+株式譲渡方式」では、株式買取り方式では発生しない登録免許税(不動産登記と会社分割登記など)、資本金が増加することによる住民税均等割部分および事業税資本割部分の増加などが発生しますので、この点でも単純な株式買取り方式の方が関係当事者の税負担が少ないと言えます。


(*1) 旧商法上の会社分割制度は、「分割法人の株主」が分割承継法人から移転資産の対価の交付を受ける「人的分割」と、「分割法人」が対価の交付を受ける「物的分割」に分けられていましたが、会社法では、人的分割が姿を消し、物的分割という手法のみ残されました。しかし、税務上は、依然両類型が残っており、人的分割を「分割型分割」、物的分割を「分社型分割」と呼びます。
(*2) 平成18年度税制改正によって、「営業権」ではなく「資産調整勘定」として処理がなされ、5年間の均等償却が行われることになりました(法人税法62の8④⑤)。
(*3) 課税総所得金額が1,000万円以下であれば12.8%(所得税10%+住民税2.8%)、1,000万円を超える場合は6.4%(所得税5%+住民税1.4%)を累進税率より差し引くことができます。

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