プロフィール

Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

ブログ全記事表示

最近の記事

カテゴリー

FC2カウンター

最近のコメント

月別アーカイブ

ブログ内検索

リンク

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

取締役は誰の利益を守るべきか?

会社の取締役が、善管注意義務・忠実義務(会330条、民644条、会355条)を負うことについては、<取締役の義務>で述べましたが、では、取締役は、M&A取引に関連して、具体的に誰の利益を守ることを期待されているのでしょうか。

この点については諸説ありますが、大きく分けると、①株主の利益の最大化を図る義務を負うという立場と、②それに加えて、債権者、従業員や消費者等、株主以外の関係者の利益保護も取締役の義務に含まれるという立場になります。このうち、後者の立場が注目する「債権者、従業員や消費者等、株主以外の関係者の利益保護」というのも、会社経営における大事な要素です。特に日本では、「取締役=株主からの信託を受けた受託者」であるアメリカと異なり、会社は株主の所有物であるという観念がアメリカよりも薄いと思われます。また、実際にM&A案件に関わる弁護士としては、実務的感覚として、債権者や従業員の利益を度外視したアドバイスは非常にしにくいことからも、上記②の見解は説得的だと感じます。

他方、M&Aというのは、株式譲渡であれ資産譲渡であれ合併であれ、本質的に、既存株主の利益と取締役の利益の対立が起こりやすい取引といえます。取締役の立場に立つと、M&A取引完了後に、自らの地位が新会社あるいは新体制下において維持されるのかという点が気になります。自然な心情として、引き続き取締役として迎え入れてくれる買主と契約をしたいと思うものではないでしょうか。その場面において、もし、「株主に払う金額は高いが、取締役は全て刷新する」という条件を競合買主候補が提示してきたら・・・?

このようなシーンを考えると、とりわけM&Aにおいては、取締役は何よりもまず株主の利益の最大化を図る義務を負うと考えるべきだとも考えられます。日本においてはアメリカのような社外独立チェック型取締役会が存在しない点からも、上記のような利益相反状態においては株主利益を重視してしすぎることはないとも言えるでしょう。また、株主以外の利害関係人の利益を守る法令として、金商法、独禁法、労働法、消費者法などが存在し、監視しているため、株主以外のステイクホルダーの利益が蔑ろにされることもないと言いたいところです。

ただ、株主の利益重視論は、法人擬制説を採るアメリカで発展した「法と経済学」において、「契約の束」理論(*1)に立ったものの、契約は不完全であることが多いため株主の利益を最大限重視することを考えるべきだ・・・という流れで提唱されるようになった側面があります。もちろん法人本質論について如何なる立場に立っても株主利益を最大限重視すべきか否かに関しては両方の結論がありえますが(法人実在説に立っても、会社の法律上の所有者は株主であるため)、日本の民法に対する判例・通説の解釈は法人実在説であり、アメリカのような「法人擬制説⇒契約の束理論⇒契約の不完備性を補うために株主重視の考え方が発達」といった経緯を辿っていないことについては注意が必要だと考えます。また、アメリカで発達した株主利益重視論は、キャピタルゲインの増加を目標とする投資家(特に機関投資家)の声をかなり反映していますが、「投資以上の見返りが必要」であるという金融界の要望を産業界にどこまで導入すべきかについてはもう一度よく考える必要があると思います。


(*1) 企業を、株主、経営者、従業員、取引先、債権者などのステイクホルダーが個別に取り結ぶ「契約の束」に過ぎないと考え、それ独自の存在と見ることを否定するという考え方

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://taiigaki.blog62.fc2.com/tb.php/7-bbfe62fc

 ホーム 


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。