プロフィール

井垣太介 (Taisuke Igaki)

Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

ブログ全記事表示

最近の記事

カテゴリー

FC2カウンター

最近のコメント

月別アーカイブ

ブログ内検索

リンク

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

MAC条項について(その2)

MAC条項については、押さえておくべき判例がいくつかありますが、「曖昧な契約文言は裁判所による解釈作業を招く」ことを示す実例として、まずは有名なIBP v. Tyson Foods, Inc. (789 A.2d 14 (Del.Ch. 2001))について紹介したいと思います。

食肉業界大手であるTyson社は同業のIBP社をCash Out Mergerによって買収するためにDue Diligenceを行ったところ、IBP社の牛肉部門の業績が悪化しつつあることと、IBP社の子会社の一つに会計上の問題点があることを発見しました。事業拡大を目指すTyson社はそれにも拘らずIBP社との合併契約書(*1)にサインしましたが、結局翻意し、当該契約を破棄するとIBP社に通告したため、IBP社は合併契約の履行を求めてデラウエア州裁判所に提訴しました(*1)。

デラウエア州裁判所は、本件において、まず、立証責任の問題に関連し、「契約の破棄を求める側がMACの発生を立証する責任を負う」と述べた上で(立証責任の問題は実務上は非常に重要です)、曖昧に規定されていたMACの範囲を

unknown events that substantially threaten the overall earnings potential of the target in a durationally-significant manner
(訳: 対象会社の収益全体に長期間に亘って重大な脅威を与える、(買主に)知られていなかった事実)

に限ると判示しました。
ここでのポイントは、
① MACは買主によって認識されていなかった事実でなければならない
② MACは「重大な脅威」でなければならない
③ MACは一時的に発生したものでは足りず、長期間続くものでなければならない

の3点であり、本件では、①の点に関連し、Tyson社がIBP社の牛肉部門における収益が悪化しうること、および、子会社における会計上の問題点を認識していたことから、現にそのような事態が発生したとしてもMACには該当しないとされました。また、③の点についても、IBP社の牛肉部門における収益が悪化したといってもそれは短期間の現象であるから、やはりMACには該当しないとされました(その結果、Tyson社はIBP社を買収しました)。

本件の結果、実務上は、「買主が認識している事実」については予めMACに該当すると契約書に明記する方法が利用されるようになりました。問題が現に発生しつつある以上、それを買主が知っていたからという理由で買主が救済されないのは当事者の合理的意思に反するでしょうから、特にMACに該当する事項として明記しておくという方法は妥当だと考えます。

また、細かくなりますが、本件ではTyson社の行動の一部がTyson社にとって不利益に斟酌されました。Tyson社はMACであると主張する事態が判明した後に、インベストメント・バンクから買収対価に関するフェアネス・オピニオンを取り直したのですが、悪いことに、そのオピニオン・レターの中では、「依然、買収対価は適切である」と書かれており、これがTyson社が後にMACを主張するときの障害の一つになったと考えられます。また、Tyson社は一番最初にIBP社に送付した契約解除通知の中でMACについて触れていなかったのですが、この点もTyson社の不利に働きました。よって、実務上は、相手方当事者やアドバイザーとのやり取りなども、全て後の訴訟で自己に不利益な証拠になりうること(Attorney-Client Privilegeは除く)に留意した上で、フェアネス・オピニオンを取り直すのであれば、「フェアでない」との意見が確実にもらえそうな場合に限り、かつ、解除通知には、MACも含めて解除理由として考えられることを可能な限り盛り込んでおくべきだと考えます。


(*1) 当該合併契約書には、以下のMAC条項が入っていました。
“a material adverse effect on the condition (financial or otherwise), business, assets, liabilities or results of operations of the Company and the Subsidiaries taken as a whole”
(*2) ただし、契約書上、適用法令はニューヨーク州法でした。

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://taiigaki.blog62.fc2.com/tb.php/64-f180252b

 ホーム 


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。