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井垣太介 (Taisuke Igaki)

Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
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MAC条項について(その1)

MAC(Material Adverse Change)条項とは、MAE(Material Adverse Effect)条項とも呼ばれ、契約書にサインした時からクロージングまでの間に発生するリスク(対象会社の経営状態の悪化や各種問題の発生)を契約当事者間で配分するための手段であり、近年のアメリカでは、買収案件やプロジェクトファイナンス案件、ベンチャー投資案件などで頻繁に利用されています。アメリカで2001年に発生した9.11テロ事件以降、対象会社の資産や経営状態に問題が発生したときに、融資案件におけるLenderや買収案件におけるBuyerが違約金や損害賠償金を支払うことなく契約を解除してディールから撤退(walk away)する権利を契約書に盛り込むことが必要であるという認識が広がったことから、MAC条項が幅広く利用されるようになりました。

MAC条項は、クロージング条件条項(condition to completion)、または、「特定の日(直近の財務諸表作成日)以降にMACが発生していない」という内容の保証条項(warranty)として組み込まれ、後者のケースでは、その保証をクロージング日にも行わせることで(すなわち、クロージング日においても、「特定の日以降にMACが発生していないこと」を保証させる)、契約締結日からクロージング日までに発生するリスクを対象会社に負わせられるよう交渉が行われます。以下では、買収案件におけるMAC条項について詳述します。

「MAC」の定義については、これをどう定めるかが買主・売主間での大きな関心事の一つとなります。米国の実務において一つの雛形として利用されているABAの “Model Stock Purchase Agreement”には、

No Material Adverse Change. Since the date of the Balance Sheet, there has not been any material adverse change in the business, operations, properties, prospects, assets or condition of any acquired Company, and no event has occurred or circumstances exist that may result in such material adverse effect.
(訳:
重大な悪化が発生していないこと - (直近の)貸借対照表の作成日以降、対象会社のビジネス、事業運営、財産、将来予測、資産または状態にいかなる重大な悪化も発生していないこと、および、かかる重大な効果につながりうる事実または状況が発生していないこと)

という定義が書かれています。通常、買主は、予測できない事象を全て取り込むべく可能な限り広くMACを定義しようと試みますが、上記ABAの定義はMACの内容に関してほとんど限定がなされていませんので、買主が好む規定の仕方であると言えます(たとえば”material”、 ”business”、 “prospects”といった言葉はそれ自体で既に「曖昧」で、将来の問題点を幅広くカバーしてくれそうに見えます)。また、実務で用いられる契約書にはMACの定義条項が置かれることが通常ですが、その場合でも、
Material Adverse Effect means any event, condition or change which materially and adversely affects or could reasonably be expected to materially and adversely affect the assets, liabilities, financial results of operations, financial conditions, business or prospects of the Company.
といった書き方をされ、やはり「曖昧」です。

しかし、「曖昧」な契約文言が辿る運命といえば・・・「裁判所による契約条項の解釈作業」です。裁判所は、当事者の合理的意思を認定するために、契約交渉当時の様々な客観的事実関係を精査せざるを得ないことになり、結局、MACの範囲は、裁判所によって当事者の意図しなかった形に解釈される可能性が出てくるということになります。MACは、
① Adverse Change(Effect)
② Material

という二つの要素に分けられますが、①についての認定は(裁判所にとって)比較的容易です。問題は②であり、裁判所は、問題となっている特定の事象に関し「合理的な買主(reasonable purchase)であれば重大と評価するか否か」を各種証拠から認定しますが(*1)、そのプロセスが予測困難なのです。

そこで、具体的な金額やパーセンテージをMACの定義に盛り込むような試みもなされました。たとえば、MACの通常の定義の後に、
For purposes hereof, an event, occurrence, change in facts, conditions or other change or effect which has resulted or could reasonably be expected to result in a suit, action, charge, claim, demand, cost, damage, penalty, fine, liability or other adverse consequence of at least $100,000 shall be deemed to constitute a Material Adverse Effect.
といった解釈条項を加えて、一定額以上の費用が発生したり、訴訟につながったりしうるトラブルはMACに該当するといった具合です。この方式の問題点は、(実務的になりますが)具体的な金額やパーセンテージあるいはMaterialに該当する基準を決めること自体が困難である(当事者が合意に至りにくい)という点でしょうか。

MACについては、他にも留意すべき点がありますので、次回以降のコラムで述べたいと思います。


(*1) Parnes v. Gateway 2000, Inc. 122 F.3d 539 (8th Cir. 1997)

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