プロフィール

Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

ブログ全記事表示

最近の記事

カテゴリー

FC2カウンター

最近のコメント

月別アーカイブ

ブログ内検索

リンク

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

監査役制度の行く末(その3)

前回のコラムで、日本の「業務執行者の監督制度」のあるべき方向性に関する議論としては、以下の3種類が存在すると書きました。

① 取締役(会)の監督機能を強化する案
② 監査役(会)の監督機能を強化する案
③ 委員会設置会社をより活用しようとする案(上記①案の一つの具体化)


これらのうちいずれが日本に最も合っているのか、いずれが最も優れた監督制度であるのか?・・・この問題について検討するに当たって、まず、企業活動に関わる人々の行動を分析するために1970年代からアメリカの経済学者によって提唱されているAgency理論についておさらいをしておきたいと思います。

Agency理論とは、主たる経済主体(Principal)とその経済主体の為に活動する代理人(Agent)が存在するケース(雇用主と従業員、株主と経営者など)を念頭に置いた上で、「一般的に、代理人は経済主体の利益を最大化するために活動することが期待されているものの、両者の利害は必ずしも一致するわけではなく、代理人が自己の利益を優先したり、両者の情報格差によって経済主体が不利益を被る可能性があるため、代理人が経済主体の利益に忠実に行動するようインセンティブを設定し、経済主体が代理人の行動をモニタリング(監視)する必要が発生する」・・・といった、「いかにしてAgentをPrincipalの思うとおりに動かすか」を巡る一連の議論のことを言います。ここで、インセンティブやモニタリングコストのことをAgency Costと呼びますが、アメリカでは、このAgency Costを最小化するためにどのようなコーポレート・ガバナンス体制が最も良いのかという議論が延々となされてきたわけです。エンロン事件の後に発生したSOX法の制定、取締役の独立性要件の強化も、これらの動きの一環と言えます。

さて、アメリカもドイツも、Agency理論との関係で言えば、二段階構造のPrincipal-Agent関係と言えます。すなわち、株主が、その代理人としての取締役(アメリカ)または監査役(ドイツ)を選任し、更に彼らが業務執行担当代理人としてオフィサー(アメリカ)または取締役(ドイツ)を選任するという構造です。ポイントは、いずれも、PrincipalがAgentに対する任免権を有しているという点です。対して日本では、一段階しかありません。株主が取締役を選任するというシンプルな構造です(代表取締役は取締役会で選任されるものの、代表取締役と取締役会は業務の決定機関・執行機関が一体化したような存在と言えますので、ここがPrincipal-Agent関係であると評価することはできない場合が多いと思います)。しかし、株主の数が増えたり、会社の規模が大きくなると、(「株主総会の形骸化」が問題視されて久しいように)Principalである株主がAgentである業務執行者の業務をチェックするというのはおよそ不可能になります(取締役会による監督機能については自己監査であって期待できないという前提に立っています)。そのために日本はこれまでの法改正の中で、情報開示を促進し、監査役の権限を強めてきたわけですが、監督者に執行者の人事権がない以上、結局、「一段階構造のPrincipal-Agent関係」の範疇からは抜け出せていないと考えます。「一段階構造のPrincipal-Agent関係」では、監督者と執行者が一体となってしまって適切なガバナンスが効かせられない以上、上記②案で行くならば、基本的な要素として、監査役に取締役の人事権(取締役候補を決定して株主総会に提出する権利)を与えて、二段階構造に持っていくことが必要だと考えます。

①案で行く場合は、取締役の独立性を強く要求することで、取締役会の監督機能が高まることは考えられるものの、依然「一段階構造のPrincipal-Agent関係」からは抜け出せないため、それだけでは不十分であろうと思います。そこで、例えば、日本コーポレート・ガバナンス・フォーラムの「新コーポレート・ガバナンス原則」は、以下のような提案を行っています。

「監査役会設置会社にあっても、任意機関ではあるが、報酬委員会および指名委員会その他の委員会を設置するものとし、その委員は原則として取締役の中から取締役会の決議により選定するが、必要があると認めるときは、業務執行者から独立した社外の専門家を委員とすることもできる。その上で、報酬委員会は、3名以上の委員をもって組織し、その委員の過半数は社外取締役とする。報酬委員会は、定款または株主総会の決議をもって決定された取締役報酬の配分を、取締役会の業績評価をも勘案して行う。指名委員会は、3名以上の委員をもって組織し、その委員の過半数は社外取締役とする。指名委員会は、業務担当取締役以外の取締役がその委員の過半数を占めるものとし、取締役の選任議案の起草、業務執行者の選任・解任にかかる取締役会決議案の起草を行う。取締役会は、指名委員会の作成した原案をもとに、取締役選任議案ならびに業務執行者の任免について決議を行う。」

これは、任意機関である以上、委員会が作成した原案には最終的決定機関である取締役会に対する拘束力がないことを理解した上で、監督制度にとっては最も重要な人事権に関し、取締役の恣意的・利己的活動を事実上抑制しようとする趣旨であると思われます。立法や裁判所による法創造には時間が掛かることから、制度間競争が決着し法ルールが落ち着くまで、民間主導で自主的にベスト・プラクティスを作っていこうとする動きであるとも評価できます。上記提案はまさに苦肉の策であり、実際にこのようなプラクティスを導入することで、ガバナンス評価も向上するのだろうと思いますが、法的権限を有しない任意の委員会では限界があるだろうとも感じます。

最後に、③案ですが、これは今後実務に定着させていく価値のある制度ではないでしょうか。一番大きいのは、監督者的立場にある委員会に取締役(取締役と執行役の兼任が多い現状では、結果として執行役も含む)の人事(報酬とポジション)決定権限が付与されているという点です。その結果、二段階構造のPrincipal-Agent関係を構築できることになります。

②案に従って、監査役に取締役の人事権を与えるか、③案を推し進めて、現状で指摘されている問題点を一つ一つ解決していくか、そのいずれかが「監査役制度の行く末」ではないかと考えます。もちろん、委員会設置会社で必要とされる「社外取締役」という概念については、監督機能という観点からは不十分であって、「独立性」を重視すべきだという議論も並行してなされるものと思いますが、「一段階構造のPrincipal-Agent関係」を変えないままで独立取締役制度を導入しても(よほど株主自身の監督能力を高めない限り)限界があると思いますので、まずは、人事権を監督者に与えて二段階構造にすることがポイントだと考えます。

なお、話の順序が逆になりますが、そもそも企業において「Principal-Agent関係」と言うときのPrincipalとは一体誰なのでしょうか?・・・これについては、「会社は誰のものか?」というタイトルで、次回のコラムで述べたいと思います。

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://taiigaki.blog62.fc2.com/tb.php/61-467e9d6c

 ホーム 


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。