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井垣太介 (Taisuke Igaki)

Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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監査役制度の行く末(その1)

先週(2008年4月3日)、「東京証券取引所と日本監査役協会は、買収防衛策の導入などで経営陣と株主の利害が対立する場合に、監査役が第三者の立場で仲介や調整を担う仕組み作りに着手した。株主の利益を損ねかねない決定を経営陣が公表する際に、監査役の意見書添付を義務づけるルールなどを検討する。」というニュースが流れました(*1)。

これまで、経産省(企業価値研究会)・法務省は、各種指針において、「独立社外者」に、買収防衛策の導入等に関する「利益相反問題解決機能」を期待するという趣旨の見解を示してきました。この「独立社外者」としては、取締役・監査役・第三者のいずれが適任かといった議論もなされてきたわけですが、ここに来て、監査役に期待しようという動きが出てきたようです。他方で、アメリカを倣って独立取締役制度を導入してはどうかという意見もよく聞かれます。これらはいずれも、「業務執行の監督は誰がどのように行うべきか?」という、コーポレート・ガバナンス全体に関わる古くて新しい(そして難しい)問題に関わっていると言えます。

日本の会社法は元々ドイツ法を母法としていると言われていますが、そのドイツにおいては、日本と異なり、「株主総会で監査役を選任 → その監査役で構成される監査役会が取締役を選任」という二層構造になっています。他方、日本の監査役制度はアメリカの制度とも異なります。すなわち、アメリカでは、「株主総会で取締役を選任 → その取締役で構成される取締役会が業務執行者(Officer)を選任」します(*2)。

ここでのポイントは、ドイツ型、米国型のいずれを見ても、「監視者が、業務執行者を選任する権限を有している」ということです。対して、日本の制度においては、ドイツ型・米国型とは異なり、監視者である監査役(会)が業務執行者である取締役の選任に関わることはありません。一見すると、ドイツのように監査役と取締役の二層構造になっているように見えますが、実態は別であり、日本は独自路線を歩んできたと言うことができると思います。このように、日本がドイツ型も米国型も採用しなかった背景としては、「監査機関が経営者の選・解任権を持つというドイツ型のシステムが我が国の企業文化になじみがなく、現実的でないこと。また、合議制の機関の内部における相互的なコントロールというアメリカ型のシステムが我が国のタテ型社会では機能しないこと」といった点を指摘する見解もあります(*3)。しかし、タテ型社会であれば、現在のように、監視を行う監査役が取締役の選任権限を有しない「監査役・取締役横並び制度」(実際には、取締役が監査役の上位に立つ結果となった)が同じく機能しないのは明らかだったのではないかとも思います。

また、日本は、敗戦後の昭和25年、米国占領下でなされた商法改正において、アメリカ型の取締役会制度を導入しました。アメリカとしては日本の財閥を解体する必要があったために、アメリカ型「所有と経営の分離」制度を導入して大株主から経営権を奪い、代表取締役に代表兼と執行権を、取締役会に業務監督権限を与えたわけです(*4)。また、同じく昭和25年商法改正において、従来監査役に与えられていた業務監督権限が取締役会に移されました。これによって、監査役会は昭和49年改正までの間、会計検査機能のみを与えられ、「社長を監視する強力な監督者」とは懸け離れた存在となってしまいました。

しかし、監査役会から業務監督権限を移された取締役会も、結局、社長・副社長・専務・常務といった役員たちの意思決定を覆せるだけの発言力・監督能力を得ることは出来ませんでした(自己監査の困難性を考えれば当然と感じます)。そこで、昭和49年商法改正によって、適法性監査に限って業務監査権限を監査役に戻し、大会社についてはプロの会計士を会計監査人に選任することを強制しました。その後、昭和56年商法改正で、監査役に報告請求権や取締役会招集権を与え、報酬決定プロセスにおける独立性を強化し、大会社については複数監査役と常勤監査役制度を導入しました。それでも、「社長に支配された取締役会が監査役の候補者を選んで株主総会に提案し、ほとんどの場合異議なく承認される」という慣行も手伝って、監査役の機能強化は期待された程には上がらなかったため、平成5年改正で監査役の任期を3年に延長し、大会社においては監査役会を設置し、監査役は3名以上、うち1名以上は社外監査役でなければならないとされました。更には、平成13年改正によって、監査役の任期は4年となり、これまでの懸案であった監査役の選任プロセスについては、監査役会に意見を述べる権利(取締役会による提案に対する同意権と議題提案権)が与えられました。しかし、事態が大きく改善したかと言われると、イエスと答えるのは難しいのではないかと思います。

以上が、監査役に関する日本の商法改正の歴史ですが、「株主総会が、監督者も業務執行者も選任する」日本型監査役制度については実効性に疑問があるとの指摘が何十年にも亘ってなされてきたわけです。その結果、平成15年4月からはアメリカ型の一元制監督制度に倣った委員会設置会社(当時の名称は「委員会等設置会社」)を選択できるようになりました。しかし、この委員会設置会社に対しても、社外取締役が十分な独立性を有していなかったことなどから発生したアメリカのエンロン事件等の不祥事事件を引き合いに出して、日本の委員会設置会社についても有効に機能するかどうか怪しいという批判がなされたり、社外取締役が代表執行役の支配下に入ってしまえば専横を極めることになるとか、そもそも各委員会の過半数を構成しなければならない社外取締役は日本の経営者マーケットでは容易には見つからないといったマイナスの意見が出されました。

このような混沌とした状況では、これまでオリジナル路線を歩んできた日本の「業務執行者の監督制度」について、維持すべきか、変更すべきか(監査役制度は見限って、制度間競争の中で、例えばアメリカ型「一元制監督制度」に移行すべきか、あるいは独立取締役制度を導入すべきか)という根本的な疑問が沸いて来ます。数多くの論文がテーマとして扱っているとても難しい問題ですが、日本のコーポレート・ガバナンスの根底に関わる大論点ですので、次回以降のコラムで引き続き考えてみたいと思います。


(*1) ソース:http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20080403AT2C0201K02042008.html
(*2) アメリカでは、株主総会の下には取締役会しか存在しない(業務執行者と監視者が一つの会議体を作っている)という意味で、株主総会の下に監査役会(監視者)と取締役会(業務執行者)が存在するドイツ型の「二元制」「二層制」と対比して「一元制」「一層制」と呼ばれることがあります。
(*3) 倉沢康一郎「監査役制度改正の必要性」商事法務1311号3頁
(*4) しかし、この際、アメリカ型のOfficer制度は導入されませんでした。

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