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Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
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取締役会の「推薦の撤回」(Fiduciary Out)について(その2)

対象会社の株主に買主の株式が交付されるStock Deal(株式を対価とする合併)において、合併契約締結後、クロージングまでに買主が発行している株式の株価が下がってしまった場合、対象会社の取締役会は、その合併提案に対する「推薦を撤回」しなければならないのでしょうか?・・・というのが前回のコラムの最後で挙げた論点でした。

この論点は、いわゆるCash Deal(対象会社の株主に現金が交付される取引)ではほとんど問題になりません。なぜなら、Cashの価値の上下動が、取引を中止することを正当化するだけの「状況の重大な変化」になるとはおよそ考えられないからです。

また、Stock Dealであっても、いわゆるCollar Offerがなされている場合にはCash Dealと同じく、この問題はさほど生じません。Collar Offerというのは、合併比率を契約締結段階で固定的に定めておくのではなく、契約締結後クロージング前の買主発行株式の株価の推移を観察した上で最終的な合併比率を定める方式で、アメリカでは頻繁に利用されています。例えば、Provident Financial GroupがOHSL Financial Groupを買収した1999年のケースにおいては、「クロージング日の12日前から2日前までの10日間におけるProvidentの平均株価が40ドル以上50ドル以下であればOHSLの株主には22.50ドル相当のProvidentの株式が交付され、Providentの平均株価が40ドル未満であれば合併比率は0,5625、50ドル超であれば合併比率は0,5202とする」という方程式が合併契約書に定められていました。このCollar Offerを利用すれば、対象会社の株主に交付される買主発行株式の価値が予定よりも大幅に低下する事態を一定程度防ぐことができます。よって、対象会社の取締役会がFiduciary Outを選択しなければならないケースは比較的少なくなると言えるでしょう(*1)。

また、対象会社の株主に対して、CashとStockの両方が交付されるスキームの場合、Stockの比率が大きければやはりこの論点について考える必要が出てきます(逆に、Cash比率が高ければ、買主側は買主発行株式の価値下落は重要ではないと主張するはずです)。

さて、一口に「買主発行株式の価値下落」と言っても、その原因には様々なものが考えられます。例えば、買主の事業運営上看過できない違法行為が発覚し、それによって買主発行株式の株価が急落するケースもあれば、買主が属する業界全体が不景気に突入し、その結果として買主発行株式の株価が下がることもありえます。それだけではなく、通常、「M&A取引の公表」という事実のみで対象会社や買収会社の株価は上下動します。そのM&Aを市場が「好ましくない」と評価すれば、買主が発行している株式の株価はクロージングに向けて下がっていくはずです。最初の違法行為のケースであれば、買主としても「契約を破棄されてもやむを得ない」と考える可能性がありますが、最後のケースについてまで契約を撤回されてしまうと、買主側としては不満が残るところだと思われます。そこで、米国で利用されている契約書には、以下の条項が入れられることがあります。

provided that no fact, event, change, development or set of circumstances shall constitute an Intervening Event if such fact, event, change, development or set of circumstances resulted from or arose out of the announcement, pendency or consummation of the Merger
(訳: 本件合併の公表、進行、完了自体から発生した事実、出来事、変化等は、「状況の重大な変化」には該当しない。)

しかし、前述のように、取締役のFiduciary Dutyは契約上の義務をも凌駕します。仮に上記のような合意事項が存在していたとしても、「M&A取引の公表」によって買主発行株式の株価が急落し、対象会社の株主が不利益を被ることが明らかであれば、取締役会はFiduciary Outを選択しなければならないはずだと考えます。

では、続いて、買主が属する業界全体が不景気に突入し、その結果として買主発行株式の株価が下がったケースについてはどうでしょうか。この問題を考える際には、いわゆるMAC条項(Material Adverse Change Clause)/MAE条項(Material Adverse Effect Clause)について理解しておく必要がありますが、MAC/MAEについては次回以降のコラムで紹介するとして、とりあえず現時点では、「業界全体が不景気に突入したことによって対象会社や買収会社の事業や株価に悪影響が発生したケース」は、MAC/MAEには該当しないとされるのが通常であるという前提で議論を進めたいと思います。

そうすると、MACには該当しないが、Fiduciary Out条項が定めるIntervening Event(「状況の重大な変化」)には該当するケースが出てきます。前提論として、MACに該当すれば、契約を破棄する側は、Break-Up FeeやTransactional Expensesを支払うことなくディールから撤退できるのが通常ですが、MACには該当しない場合は、Break-Up FeeとTransactional Expensesを支払わずに撤退することは、契約上認められません。しかし、買主側の事情で買主発行株式の株価が下落した場合にまで、売主が買主に対してBreak-Up FeeとTransactional Expensesを支払わなければならないとすることには違和感を覚えます。私見としては、このようなケースにおいては、数十億円、ときにSalli Maeのケースのように一千億円を超えることがあるBreak-Up Feeを支払うべきではなく、Transactional Expensesの償還のみに留めるよう、契約交渉を行うべきではないかと考えています。


(*1) Collar Offer に関する文献:http://www.fma.org/SLC/Papers/dealstructure.pdf

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