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井垣太介 (Taisuke Igaki)

Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
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取締役会の「推薦の撤回」(Fiduciary Out)について(その1)

アメリカでM&A契約の締結交渉をしていると、Fiduciary Outをどこまで認めるかに関して当事者双方がなかなか譲らず、議論が白熱することがあります。そこで、今回は、日本でも今後普及する可能性があるFiduciary Out条項の定め方と、それに関連する論点、とりわけ「取締役会が一旦発表した推薦を撤回するケース」で発生する問題点について整理したいと思います。

<デラウエア州会社法§251(b)>(*1)は、以下のように定めて、対象会社の取締役会が合併を承認する場合には、取締役会としての「推薦意見」(advisability, recommendation)を表明することが必要であるとしています(*2)。

The board of directors of each corporation which desires to merge or consolidate shall adopt a resolution approving an agreement of merger or consolidation and declaring its advisability.

前提として、デラウエア州法(判例法を含む)上、対象会社の取締役会は、目の前の買収提案が対象会社の株主にとって最も好条件であるかどうかを判断しなければならず、もしも後発の買収提案が対象会社の株主にとってより有利であると判断すれば、既に公表している「推薦意見」を撤回または変更しなければなりません。これは取締役のFiduciary Dutyの一類型であるDuty of Candor(誠実義務)の結果であり、古くは、1985年のSmith v. Van Gorkom (Del. Sup. Ct., 1985, 488 A.2d 858)事件で述べられ、最近では、2005年のFrontier Oil Corp. v. Holly Corp., 2005 WL 1039027 (Del. Ch. Apr. 29, 2005)事件(*3)でも確認されているところです。すなわち、取締役会は、契約上どのような定めになっていても、Fiduciary Dutyを履行するために当初の契約を破棄しなければならない(=Fiduciary Out)場合があるのです。

そこで、米国で利用されている合併契約書には、通常、以下のような条項が入れられます。

まずは、買主側から見れば、取締役会の「推薦意見」は原則として維持されなければ困りますので、
【No Change in Recommendation or Alternative Acquisition Agreement】(推薦を変更しないことまたは他の買収提案を推薦しないこと)というタイトルで、

Neither the Company Board nor any committee thereof shall:

(i) except as set forth in this Section, withdraw, qualify or modify, or publicly announce its intention to withdraw, qualify or modify, in a manner adverse to Parent or the Merger Sub, the approval or recommendation by the Company Board or any such committee of the adoption of this Agreement (a “ Company Adverse Recommendation Change ”);
(ii) adopt, approve or recommend, or publicly announce its intention to adopt, approve or recommend, any Acquisition Proposal; or
(iii) authorize, cause or permit any of the Acquired Corporations to enter into any letter of intent, memorandum of understanding, agreement in principle, acquisition agreement, merger agreement or similar agreement (an “ Alternative Acquisition Agreement ”) constituting or relating to any Acquisition Proposal.

(訳:
対象会社の取締役会および委員会は、
(i) 本条に別途定める場合を除いて、対象会社の取締役会または委員会によってなされた本契約に関する承認または推薦に対して、買主の利益に反するような撤回、制限、修正を行い、または撤回、制限、修正を行う意思があることを公に表明してはならない。
(ii) いかなる他の買収提案についても、受諾、承認、推薦し、または受諾、承認、推薦する意思があることを公に表明してはならない。または、
(iii) 対象会社をして、他の買収提案(別途定義)を構成するまたは他の買収提案に関連する基本合意書、買収契約書、合併契約書等を締結させてはならない)

という原則規定を設けた上で、

At any time prior to the Company Specified Time the Company Board may, in response to a material development or change in circumstances occurring or arising after the date hereof that was neither known to the Company Board nor reasonably foreseeable as of or prior to the date hereof (and not relating to any Acquisition Proposal) (such material development or change in circumstances, a “ Company Intervening Event ”) make a Company Adverse Recommendation Change if the Company Board has concluded in good faith, after consultation with its outside counsel, that, in light of such Company Intervening Event, the failure of the Company Board to effect such a Company Adverse Recommendation Change would result in a breach of its fiduciary duties under applicable Legal Requirements; provided that, the Company Board shall not be entitled to exercise its right to make a Company Adverse Recommendation Change pursuant to this sentence unless the Company has (x) provided to Parent at least three business days’ prior written notice advising Parent that the Company Board intends to take such action and specifying the reasons therefor in reasonable detail and (y) during such three business day period, if requested by Parent, engaged in good faith negotiations with Parent to amend this Agreement in such a manner that obviates the need for a Company Adverse Recommendation Change.
(訳:
本契約締結後に、対象会社取締役会が知らず、かつ、合理的に予見しえなかった「状況の重大な変化」が生じた場合において、取締役会が外部の専門家と協議した上で、「推薦の撤回」を行わなければ適用法上取締役の義務違反を発生させると誠実に判断したときは、特定の時期(別途定義)が到来するまでの間、対象会社取締役会はいつでも「推薦の撤回」を行うことができる。ただし、対象会社取締役会は、(x)買主に対して少なくとも3営業日以上前に、「推薦の撤回」を行う意思があることおよびその理由を通知し、かつ、(y)当該3営業日の間に、買主との間で、「推薦の撤回」を行う必要がないように契約条項を変更することに向けて誠実に交渉しなければ、「推薦の撤回」を行うことができない。)

というFiduciary Out条項を入れます。通常、買主側は、「状況の重大な変化」に関する曖昧な定義(Open Definition)を嫌がり、例外規定(Carve Out条項)を入れるよう求めてきますが、他の契約条項と同じく、ここは売主・買主間の交渉によって妥協点が決まります。

さて、ここで一つの論点が発生します。それは、対象会社の株主に買主の株式が交付されるStock Deal(株式を対価とする合併)において、合併契約締結後、クロージングまでに買主が発行している株式の株価が下がってしまった場合、対象会社の取締役会は、その合併提案に対する「推薦を撤回」しなければならないのか?・・・という問題です。この場合、対象会社の株主は当初もらえると思っていた対価を結果として得られないことになるため、株主の利益が害されるとも言えます。これは最近の米国実務界で注目を浴び始めた面白い論点ですが、続きは、次回のコラムで検討したいと思います。


(*1) Delaware General Corporation Law (DGCL): http://delcode.delaware.gov/title8/c001/index.shtml
(*2) 日本の場合は、公開買付けに限り、<金融商品取引法>第27条の10によって、「公開買付けに係る株券等の発行者は、内閣府令で定めるところにより、公開買付開始公告が行われた日から政令で定める期間内に、当該公開買付けに関する意見その他の内閣府令で定める事項を記載した書類(以下「意見表明報告書」という。)を内閣総理大臣に提出しなければならない。」とされています。
(*3) 判旨についてはこちら:http://courts.delaware.gov/opinions/(0u1gde55prsk0b45r0bcy2q2)/download.aspx?ID=61090

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