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Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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M&Aと独禁法(その6)(日本の場合-「競争の実質的制限」の認定プロセス(下))

1992年に米国司法省とFTCが共同で公表した<水平合併ガイドライン(Horizontal Merger Guidelines)>においては、いわゆるHHI(Herfindahl-Hirschman Index)を基準にしたセーフハーバーが設定されています(Section 1.51)。HHIとは、欧米で市場の集中の度合いを検討するために広く用いられている「市場の寡占度を数値化した寡占度指数」のことで、市場参加事業者のシェアの2乗の総和によって算出されます。
例えば、問題となる市場に3社しか存在せず、それぞれの市場シェアが40%、30%、30%の場合、
40×40+30×30+30×30=3400となり、HHIはかなり大きくなります。HHIの最高値は、市場に独占企業1社しか存在しない場合で、100×100=10000となります。逆に、市場シェア1%の企業が100社存在するケースでは、1×1×100=100で、HHIは100しかありません。

米国では、水平合併に関し、
① 「統合後のHHI が1000未満」、
② 「統合後のHHI が1000以上1800以下で、HHI の増加が100未満」、または、
③ 「統合後のHHI が1800超で、HHI の増加が50未満」

であれば、審査なくして合併することが認められています。このレベルの取引であれば、競争の実質的制限につながるとは通常考えられないというのがその理由です。

この点、日本では、新企業結合ガイドライン(*1)によって、同じく水平合併について、
① 「統合後のHHI が1500以下」、
② 「統合後のHHI が15002500以下で、HHI の増加が250以下」、または、
③ 「統合後のHHI が2500超で、HHI の増加が150以下」
であれば実質的な審査は行わないこととされています(*2)。

ここで、「HHIの増加」とは、企業結合の前後でHHIがどれだけ増加したかを見るものです。
たとえば、問題となる市場に3社しか存在せず、それぞれの市場シェアが40%、30%、30%の場合に、前二者が合併すると、
(70×70+30×30)-(40×40+30×30+30×30)=2400
が「HHI増分」となります。よって、このケースはセーフハーバーには該当しません。
上記のケースは、合併後のシェアが70%になりますが、同じく合併後のシェアが70%になるケースでも、合併前の各シェアが60%と10%の企業が合併した場合のHHI増加分は、
(70×70+30×30)-(60×60+10×10+30×30)=1200
となり、「40%と30%」の合併の方が、「60%と10%」の合併よりHHI増加分が大きくなります。既に大きなシェアを持つ企業が小さい企業を合併しても競争への影響は限られるが、しのぎを削ってきた2大企業が合併すると競争制限によりつながりやすいという観察結果が、この「HHI増加分」に現れているのです。

なお、常に業界に存在する全事業者の市場シェア(*3)が把握できるわけではありません。その場合、
HHI=最上位企業の市場シェア(%)の2乗×0.75+上位3社累積市場シェア(%)×24.5-466.3
という計算式を用いて算出した推計値によって検討するとされています(ガイドライン20頁)。

日本のセーフハーバーは、欧米のセーフハーバーと比較すると、より広い範囲で無審査合併を認めるものであるといえます(欧州では、日本で1500、2500となっているHHIの数字がそれぞれ1000、2000)。これは、欧米においては、HHIが低くても協調的行動によって競争が阻害される可能性が高く、審査免除の範囲を広くすべきではないと考えているからだと思われます。いずれにしても、HHIを計算するための市場シェアは当事会社だけでは正確に計算できないこともあるので、実務上は、「事前相談」制度を利用して公取委と見解の擦り合わせを行う必要が出てきます。


(*1) 旧ガイドラインは、セーフハーバーとして、第1に企業結合後の当事会社グループの市場シェアが10%以下の場合、第2に市場構造が寡占的ではない場合であって、企業結合後の当事会社グループの市場シェアが25%以下の場合を挙げ、「市場構造が寡占的ではない場合」とは企業結合後においてHHIが1000未満の場合、「市場構造が高度に寡占的ではない場合」とは、企業結合後のHHIが1800未満の場合をいうと定義していました。
(*2) 公取委は、ガイドライン上、「上記の基準に該当しない場合であっても、直ちに競争を実質的に制限することとなるものではなく個々の事案ごとに判断されることとなるが、過去の事例に照らせば、企業結合後のHHIが2,500 以下であり、かつ、企業結合後の当事会社グループの市場シェアが35%以下の場合には、競争を実質的に制限することとなるおそれは小さいと通常考えられる。」としています。
また、垂直型・混合型企業結合の場合には、「市場シェアが10%以下」か「統合後のHHIが2500以下でかつ市場シェアが25%以下」であれば、セーフハーバーに該当するとしています。
(*3) 市場シェアは、一定の取引分野における商品の販売数量(製造販売業の場合)に占める各事業者の商品の販売数量の百分比によって求められます。ただし、当該商品にかなりの価格差がみられ、かつ、価額で供給実績等を算定するという慣行が定着していると認められる場合など、数量によることが適当でない場合には、販売金額により市場シェアを算出するとされています(ガイドライン19頁)。

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