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Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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M&Aと独禁法(その5)(日本の場合-「競争の実質的制限」の認定プロセス(上))

2.「競争の実質的制限」について

既に述べたように、独禁法は、①「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」と、②「不公正な取引方法によるものである場合」(優越的地位を濫用することにより株式を取得するケース等)に企業結合を禁止していますが、②の適用事例は極めて稀ですので、主に、①の「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」とはいかなる場合かが問題となります。

この論点について論じるときには必ず登場する古い判例があります。それは、東宝株式会社と株式会社新東宝間の映画配給に関する契約の独禁法違反が問題となった昭和28年12月7日東京高裁判決で、そこで裁判所は、「競争を実質的に制限するとは、競争自体が減少して、特定の事業者又は事業者集団がその意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することによって、市場を支配することができる状態をもたらすことをいう」と判示しました(*1)。しかし、これはあくまで大きな概念、抽象的な定義に過ぎず、具体的事案における実際の認定作業は詳細を極めます。

競争制限の判断にあたって最初に理解しておきたいのは、「水平的結合」と「垂直的結合」によって、判断枠組みが変わってくるということです。「水平的結合」とは、同一の一定の取引分野において競争関係にある会社間の企業結合をいい、「垂直的統合」とは、例えば、メーカーとその商品の販売業者との間の合併など取引段階を異にする会社間の企業結合をいいますが、アメリカでは、前者の水平的カルテル(価格協定、市場分割協定、入札談合、共同ボイコット等)は行為の外形から当然違法(per se illegal)とされているのに対し、後者の垂直的取引制限については、再販売価格維持行為は「再販売価格に関する共謀・協定」がある場合当然違法とされますが、その他の非価格制限については、基本的に合理の原則(rule of reason)に基づいて違法性が判断されています。これは、水平型の企業結合においては、一定の取引分野における競争単位の数を減少させるので、競争に与える影響が最も直接的であり、その結果、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる可能性が、垂直型企業結合に比べ高いからです。日本の公取委の審査においても、水平型にはついては、やはり垂直型よりも厳しく判断されています。

続いて、一定の取引分野における競争制限は、当事会社グループの「単独行動」によって発生する場合と、当事会社グループとその競争者が「協調的行動」を採ることによって発生する場合とに分けられます。例えば、再販売価格維持行為は、メーカーの一方的行為(安売り業者への供給停止等)によってなされることもあれば、メーカーと安売業者以外の販売業者が再販売価格維持協定を締結した上で行われることもあり、前者については取引先選択の自由の範囲内であり合法であるが、後者については違法という判断に到達することが十分ありえます。また、水平型企業結合のケースでは、市場内の競争者の数が減少することによって、各業者が互いの行動を高い確度で予測することができるようになり、他社の値上げに追従して自社も値上げするといった競争制限効果が発生することが考えられます。これは水平型における「協調的行動による競争の実質的制限」といわれるものです。

新企業結合ガイドラインも、上記のように、「水平型と垂直型(および混合型)」と「単独行動と協調的行動」に分類した上で、当該企業結合が競争を実質的に制限することとなるか否かを判断するに際し、以下のような項目を総合的に勘案すべきとしています(以下は「水平型」に関するものですが、「垂直型」「混合型」の場合もほぼ同様の判断要素が用いられます。)。

(単独行動)
・ 当事会社グループの地位及び競争者の状況(市場シェア及びその順位、当事会社間の従来の競争の状況等、共同出資会社の扱い、競争者のシェアとの格差、競争者の供給余力及び差別化の程度、国境を越えて地理的範囲が画定される商品の扱い)
・ 輸入(制度上の障壁の程度、輸入に係る輸送費用の程度や流通上の問題の有無、輸入品と当事会社グループの商品の代替性の程度、海外の供給可能性の程度)
・ 参入(制度上の参入障壁の程度、実態面での参入障壁の程度、参入者の商品と当事会社の商品の代替性の程度、参入可能性の程度)
・ 隣接市場からの競争圧力
・ 需要者からの競争圧力(需要者の間の競争状況、取引先変更の容易性)
・ 総合的な事業能力
・ 効率性
・ 当事会社グループの経営状況

(協調行動)
・ 当事会社グループの地位及び競争者の状況(競争者の数等、当事会社間の従来の競争の状況等、競争者の供給余力、共同出資会社の扱い)
・ 取引の実態等(取引条件等、需要動向、技術革新の動向等、過去の競争の状況)
・ 輸入、参入及び隣接市場からの競争圧力等
・ 効率性及び当事会社グループの経営状況

さて、これだけ多くの判断項目があると、判断者によって判断のブレが生じるおそれが生じ、当事会社から見た場合の予見可能性が失われることにもつながります。そこで、企業結合ガイドラインは、いわゆるHHIを利用したセーフハーバーを設定しました。このセーフハーバーについては、次回のコラムで紹介したいと思います。


(*1) 但し、企業結合は主として実行する前に審査されるものですので、実際に競争制限が発生したかどうかを認定することはできません。よって、「こととなる」という文言に注目し、「企業結合により、競争の実質的制限が必然ではないが容易に現出し得る状況がもたらされることで足りる」、すなわち、競争制限につながる蓋然性があれば足りると解釈されています。

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