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井垣太介 (Taisuke Igaki)

Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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ISSの影響力の大きさについて

米国でM&A実務に携わっていると必ず登場するのがISSです。<ISS(Institutional Shareholders Services)>というのは米国の議決権行使助言機関であり、イギリスの<FTSE>と共同でコーポレート・ガバナンス指数(Corporate Governance Index)を開発し、会社のコーポレート・ガバナンス体制の格付けを行っているほか、株主の利害に影響を及ぼす会社の行動(ライツプラン等)に関して毎年ポリシーを公表し(*1)、会社の行動を(実質的に)コントロールしています。

ISSが公表しているコーポレート・ガバナンス・ポリシーの主たるものは、アメリカ、カナダ、イギリス、香港、シンガポール版ですが、2005年には日本企業の買収防衛策に対する議決権行使ガイドラインも発表しており、彼らが世界のコーポレート・ガバナンスの整備・進捗状況に目を光らせていることが分かります。ISSの最新のポリシーは、2007年11月19日に発表された<US Corporate Governance Policy 2008 Updates>になりますが、たとえば、ここの7頁では、取締役の位置付けに関し、

Current Policy Position: A director who formerly served as CEO of a company is considered to be an affiliated outsider of such company.
New Policy Position: A director who formerly served as CEO of a company, including prior to the company’s IPO, will be considered an affiliated outsider.

(現在のポリシー:かつてその会社のCEOであった者は、「独立性を有しない外部者」に該当する。
新しいポリシー:かつてその会社のCEOであった者は、たとえ会社のIPOの前にCEOであったとしても、「独立性を有しない外部者」に該当する。)

という記載が見られます。「独立取締役の定義」については、アメリカの場合、証券取引所規則が定めているのですが、ISSはその定義を更に詳細に研究することによって、株主から見た場合の理想的コーポレート・ガバナンス体制を提案し、企業にプレッシャーをかけ続けているというわけです。また、企業も、相談を受ける法律事務所の弁護士も、株主の権利やコーポレート・ガバナンスに関連する行動を起こす度にISSのポリシーをチェックすることを余儀なくされているのが現状です(たとえば、クライアント企業にライツ・プランを導入する際に疑問点があれば、弁護士がISSに電話を掛けてポリシーに反しないかを確認します)。ISSと歩調を共にすることで、機関投資家や一般株主からの「思いがけない反対票」をもらうことを回避できる可能性が高まるからです。

また、他の例として、ISSはポイズン・ピルに対するポリシーも発表しています。当該ポリシーは2008年度版Updatesにも2007年度版Updatesにも含まれていないため、<2006年度版>を確認する必要があります。この2006年度版ポリシーの9頁を見ますと、Shareholder Rights Planは、以下の内容を含んでいなければならないと書かれてあります。

① No lower than a 20% trigger, flip-in or flip-over;
② A term of no more than three years;
③ No dead-hand, slow-hand, no-hand or similar feature that limits the ability of a future board to redeem the pill;
④ Shareholder redemption feature (qualifying offer clause); if the board refuses to redeem the pill 90 days after a qualifying offer is announced, ten percent of the shares may call a special meeting or seek a written consent to vote on rescinding the pill.

つまり、ライツ・プランのトリガーは20%未満であってはならない、ライツ・プランの存続期間は3年を超えてはならない、デッド・ハンド型/スロー・ハンド型/ノー・ハンド型は採用してはならない、買収提案がなされて90日が経過してもなお取締役会がライツ・プランを消却しないときは、10%以上の株式を有する株主は臨時総会を招集するか書面決議を採ることによってライツ・プランの消却ができるようなシステムでなければならない(いわゆる"chewable pill")、と定めています。また、ISSは別途、ライツ・プランを取締役会の判断のみで導入することに対しても反対意見を表明しており、取締役会がライツ・プランを導入した際には、その後12ヶ月以内に株主総会の承認決議を得なければならないと述べています。

そして、日本で近年導入が相次いでいる事前警告型買収防衛策においても、上記の「20%」「3年間」「90日」といった基準が多く採用されています(*2)。また、経産省/法務省の<買収防衛策指針>が、デッド・ハンド型を排除し、「取締役会で導入する場合、株主の意思で廃止できる措置を採用する」ことを要求している点も、上記ポリシーと合致します。

議決権行使ガイドラインは、日本でも、厚生年金基金連合会を始めとし、共済組合連合会、年金運用受託機関、投信顧問会社等が定めていますが、抽象的なものが多く(議決権行使に関する裁量の幅を広く残すためと考えられます)、結局、広くポリシーを公表し、CalPERS(カリフォルニア州公務員退職年金基金)やTIAA-CREF(教職員保険年金協会大学退職株式基金)等の巨大年金基金からの相談にも適宜乗っているISS等の議決権行使助言機関(*3)の方針が一番確実だということで、それを横目で見ながら近年日本のM&A/ガバナンス実務が回り始めているという印象を持ちます。また、昨今の外国人投資家の比率の高さを考えれば、彼らが議決権行使の際に依拠しているISSのポリシーを無視できないという現実もあります。

日本のガバナンスにおいては米国の社外独立チェック型が浸透していないことから、(買収防衛策に関して原則として株主総会の承認が必要であるという議論になっていることからも分かるように)米国に比べると、「ガバナンスにおける株主への依存度」が高くなっています。その結果、強い株主意思の反映を目指す議決権行使助言機関のポリシーに従うことは、方向性としては偶々一致しているのでしょう。一点注意したいのは、我々(日本企業や経産省/法務省)が今採用しつつある制度の一部はアメリカからの輸入品であるということです。具体的には、輸入品である以上常に新製品を輸入し続ける必要があり、日本で出版される提言・指針等を追いかけるだけでは株主の趨勢をリアルタイムに追えない可能性がある(その結果、機関投資家から思いがけない反対票をもらってしまう可能性がある)ということを認識するとともに、ガバナンス体制や環境・意識の違いがある国のシステムを導入する際には、「違い」を認識した上でなお有意義と考え導入するという判断が、個々の企業のレベルで求められていると感じます。


(*1) ISSのポリシー全般については、こちらをご覧ください。
http://www.issproxy.com/issgovernance/policy/index.html
(*2) 「買収防衛策の事例分析」(商事法務編)によると、「買収防衛策の有効期間については、1年としているケースが28.3%、2年が15.2%、3年が52.8%、4年以上または定めなしが3.7%となっており、当初1年としていたプランを3年に変更したものも含め、3年とするケースが大幅に増加した」(6頁)、「議決権の割合において20%以上または20%超としているケースが94%」(7頁)、「371社のうち60~90日の検討期間としているものが253社」(7頁)とされています。
(*3) 米国のグラス・ルイス社も、ISSと並ぶ議決権行使推奨機関として有名。

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