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井垣太介 (Taisuke Igaki)

Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
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表明保証条項を巡る紛争(日本のケース)(その2)

続いて、昨年判決が出たライブドアオート表明保証責任訴訟(*)-平成19年9月27日東京地裁判決(確定)-についても触れておきたいと思います。

ライブドアオートはライブドアとの間で、平成17年8月25日付けで「資本提携に関する基本合意書」、平成17年9月1日付けで「業務提携に関する基本合意」を締結し、その後、ライブドアがライブドアオートの過半数の株式を保有するに至りました。つまり、ライブドアがライブドアオートを子会社化したわけです。しかし、その後、ライブドアが指名しライブドアオートに派遣された取締役の一部が、ライブドア本体の粉飾決算等に係る証券取引法違反の疑いで逮捕され、ライブドア本体も東証への株式上場を廃止されました。このような事実関係の中で、自らも損害を被ったライブドアオートはライブドアに対して、「ライブドアは本件粉飾決算等を告知する義務があったのにこれを怠った」等と主張して約16億円の損害賠償請求を起こしました。

結論として、裁判所は、ライブドアオートからの請求を棄却しましたが、ここでのポイントは、本件各提携契約には「ライブドアの財務状況に関する表明保証条項」が存在しなかったということです。契約条項が存在しない場合、M&A契約の当事者は、それぞれいかなる範囲で自己の財務内容等を相手方に対して告知し、表明保証する責任を負うのでしょうか?

ライブドアオートは、「買収者が買収対象会社との間で資本・業務提携契約を締結した場合は、契約書上、条項として明示されていなくとも、信義則上、買収者は、買収対象会社に対し、企業の信用に深く関わる違法行為を行っていないことについて表明保証責任を負担する。」と主張しました。これに対して、ライブドア側は、「企業間の買収については、私的自治の原則が適用となり、同原則からは、買収に関する契約を締結するか否かを決断するために必要な情報は、契約の当事者各人が自己の責任において収集し、分析することが求められる。」と反論しました。

裁判所は、両者の上記主張を踏まえた上で、次のように結論付けました。
1. 企業間の買収については、私人間の取引であることから私的自治の原則が適用となり、同原則からは、買収に関する契約を締結するに当たっての情報収集や分析は、契約当事者の責任において各自が行うべきものである。そうだとすれば、情報収集や分析が不十分であったなどのために契約当事者の一方が不利益を被ったとしても、当該不利益は当該当事者が自ら負担するのが原則であると解するのが相当である。
2. したがって、企業買収において資本・業務提携契約が締結される場合、企業は相互に対等な当事者として契約を締結するのが通常であるから、上記の原則が適用され、特段の事情がない限り、上記の原則を修正して相手方当事者に情報提供義務や説明義務を負わせることはできないと解するのが相当である。
3. 本件各提携契約は、ライブドアオートからの申し出を端緒として、交渉の結果、ライブドアオートとライブドアとの間において締結されたものであること、ライブドアオート及びライブドアともに東証の上場会社であり、その交渉経緯に照らしても、両者間に構造的な情報格差があるとは認められない。そうだとすると、本件各提携契約は、ライブドアオートとライブドアとの間で、対等な当事者として締結されたものと解することができ、本件各提携契約を締結するに当たっての情報収集や分析は、原則として、ライブドアオートとライブドアのそれぞれの責任において行うべきものであったというべきである。


本件でライブドアが一切表明保証をしなかったわけではありません。
① 本件契約の締結及び履行につき、法令上及び社内規則上必要とされる一切の手続を履践していること、
② 本件契約の締結及び履行につき、規制当局の許認可等が要求されることはなく、適用される法令・規則、社内規則、第三者との契約に違反するものではないこと、
③ ライブドアオートの従業員の処遇については、少なくとも平成17年11月15日を目処に開催される臨時株主総会後1年間は、原則これを変更しないこと、
という3項目の表明保証条項が規定されていました。しかし、財務状況に関する表明保証はなかったのです。

ライブドアオートは、本件訴訟の段階になり、「会社が、企業買収により他社を子会社化する場合、当該子会社の信用は、親会社となる買収者の信用に極めて大きく左右される。」と主張しました。そのように考えていたのであれば、本件契約書には、ライブドア側の財務状況に関する表明保証条項が入るべきだったのでしょう。ただし、理論的にはそうなりますが、実務上は、特に今回のケースのような「買主側の表明保証条項」を広範囲に要求することは交渉上難しく(売買の対象となるのはあくまで「売主側の事業」であるため)、売主側の表明保証条項は何十項目にも及ぶのに、買主側の表明保証条項は数項目のみ、というケースは珍しくありません。

「契約条項が存在しない場合、M&A契約の当事者は、それぞれいかなる範囲で自己の財務内容等を相手方に対して告知し、表明保証する責任を負うのでしょうか?」という最初のクエスチョンに対する答えは、「当事者が対等の立場にあって構造的な情報格差もないケースでは、契約書に定めない限り、相手方に対して自己の財務内容等を告知し、表明保証する責任は負わない」ということになるかと思いますが、交渉のプロセスで注意を怠りがちな「買主側の表明保証」についてもしっかり考えなければならないことを再認識させられた判例でした。

(*) 判例タイムズNo.1255 (2008.2.1) 313頁

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