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井垣太介 (Taisuke Igaki)

Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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公開買付制度の概要(その6)~全部買付義務ほか~

今回は、平成18年の改正点のうち、「全部買付義務の導入」と「買付者が競合する場合の処理」について述べたいと思います。

まず、「全部買付義務の導入」ですが、旧法下では、買付予定数を上回る応募があった場合には、按分比例方式によって超過部分の全部または一部を買い付けないという選択肢が存在しました。しかし、買付者が発行済み株式を大量に取得してしまった場合、対象会社は上場廃止となる可能性があり、このとき残された少数株主は手残り株を抱えたまま著しく不安定な地位に置かれることになります。そこで、平成18年改正によって、公開買付け後における株券等所有割合が3分の2以上になる場合には、買付予定数の上限を設定することは認められず、その結果、公開買付者は応募株券の全部を買い取らなければならないこととされました。
また、親会社が子会社株式を買付ける結果株券等所有割合が3分の2以上になる場合には、公開買付けによることが強制され、その結果、同じく応募株券の全部を買い取らなければならないことになりました(*1)。

これらは少数株主保護の一方策と言えますが、この「全部買付義務の導入」によっても少数株主が完全に保護されるわけではないと考えます。なぜなら、今回の法改正は、「応募をすれば買い取ってもらえる」ということに過ぎず、応募しなかった株主が救済されるわけではないからです。上場廃止となれば手残り株は容易には処分できなくなりますので、買付け条件に不満があったとしても株を手放す株主が出てくるはずです(*2)。支配株主のFiduciary Dutyが法律上も判例上も認められておらず、いわゆる二段階買収のスキームが採られた場合の二段階目の現金交付合併における対価が公開買付価格と同額であることが制度上保証されていない日本では、「不満があったので応募しなかった株主」と「不満はあるがやむを得ず応募した株主」の双方が被る不利益が考えられ、それらは「全部買付義務の導入」によっても解消されません。そこで、今回の改正は一つのステップとして前向きに捉えた上で、情報開示の更なる強化および公開買付けプロセスの適切さを監視する機関の創設(EU諸国にはかかる監視機関が存在します。例:イギリスの<Takeover Panel>http://www.thetakeoverpanel.org.uk/new/)と、支配株主の責任を認める法理論の確立が必要になってくると考えます。特に最後の支配株主の責任を認める法理論は「買収後の株主保護」策ですので、これが確立されれば、株式取得行為自体の規制の必要性は小さくなります。

なお、ヨーロッパでは、公開買付け規制の先駆け的存在であるイギリスが1968年に「公開買付けと合併に関するシティ・コード」を公表しており、これを受けてEUが2004年に「公開買付けに関する指令」を採択していますが、このシティ・コードおよびEU指令では、買付者は原則として対象会社の発行済株式の全てを対象として買付けを行なわなければならないとされています。また、公開買付け後に残存する少数株主は、一定条件を充たせば会社に対して公正な価格で株式を買い取ることを請求できるシステムになっています(日本にはかかるシステムは存在しません)。

他方、アメリカでは、イギリスのシティ・コード制定と同じ年(1968年)に連邦証券規制の一環としてウィリアムズ法が制定され、公開付規制が始まりましたが、イギリスのような全部買付義務は課されませんでした。その結果、アメリカでは強圧的な二段階買収が流行ったため、これに対抗する意味もあって、ポイズン・ピルが開発されたり、多くの州で反企業買収法が制定され、かつ、判例において少数株主保護のための法理論が作られてきたわけです。

大量の株式取得に関する日本のルール作りは、現在、EU諸国のTOBルールを少しずつ取り入れつつ、他方で、少数株主保護や取締役の責任に関して積み上げられてきたアメリカの判例法も気にしながら、公開買付け規制と買収防衛策をミックスしながら道を探っている状況にあります。行政面では、金融庁が公開買付規制を担当し、経産省と法務省が買収防衛策規制を担当するという縦割り状態ですが、これが、玉虫色のルールを作る結果となっているのかも知れません。早期に国全体でTOBルールと買収防衛策、少数株主保護策が検討され、統一感のあるルールが作られることを望みます。

最後に、「買付者が競合する場合の処理」ですが、ある者が公開買付けを実施している間に他の大株主も同時に買付けを進める場合には、その後発の大株主にも公開買付けが義務づけられます(金商法27条の2第1項5号)。具体的には、株券等所有割合にして3分の1超の株式を保有する者が、急速に買い増しを行う場合に(5%超の株券等の買付け等)、この規制の対象となります。これは、大量の株式買付けが競合する場合には、株主はより複雑な投資判断を要求されること、買付者相互間の公平を図る必要があることから、手続を透明・公正にするために行なわれた改正だと言えます。


(*1) 旧法下においては、議決権の50%超を既に保有している親会社が子会社株式を著しく少数の者から買い付ける場合には、公開買付けによることを要しないとされていました。
(*2) 上場会社の株主の場合、相互に連絡を取り合うことが容易ではないため、いわゆる「囚人のジレンマ」に陥る可能性があります。「囚人のジレンマ」とは、逮捕された共犯者が相互に連絡が取れない個室に入れられて取調べを受けている場面で、もし自白をすれば自分の刑罰のみ軽くなるという状況にある場合、共犯者を信じて黙秘し完全無罪放免を目指すか(この場合、共犯者に裏切られる可能性あり)、共犯者を裏切って自白をするかの決断が非常に困難になる現象を示しています。

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