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井垣太介 (Taisuke Igaki)

Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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新たな防衛策指針案について(その3)

新指針案は、基本的に、「買収策の発動は制限的であるべきだ」というスタンスで書かれており、安易な防衛策の発動に警鐘を鳴らすものとなっています。なぜ、このような形で軌道修正が必要となったのでしょうか?

もともと2005年に発表された防衛策指針には、指針全体を支える中心的概念として(意味内容の曖昧な)「企業価値」という言葉が用いられており、ここで(より直接的な)「株主価値」という言葉が使用されなかったことから、投資家側からは、経産省や指針は企業(経営者)寄りだという批判が寄せられていました。また、同指針発表後に買収防衛策を導入する企業が多数現れ、かつ、経営者側に、「買収防衛策は万全だ(すなわち、ライツ・プランを実際に発動して敵対的買収を阻止できる)」という意識が芽生えたことにより、防衛策の濫用を心配する声が高まっていました。

更には、ブルドックソース事件の最高裁決定において、

スティール関係者は、本件取得条項に基づきスティール関係者の有する本件新株予約権の取得が実行されることにより、その対価として金員の交付を受けることができ、また、これが実行されない場合においても、ブルドック取締役会の本件支払決議によれば、スティール関係者は、その有する本件新株予約権の譲渡をブルドックに申し入れることにより、対価として金員の支払を受けられることになるところ、上記対価は、ブルドック関係者が自ら決定した本件公開買付けの買付価格に基づき算定されたもので、本件新株予約権の価値に見合うものということができる。これらの事実にかんがみると、スティール関係者が受ける上記の影響を考慮しても、本件新株予約権無償割当てが、衡平の理念に反し、相当性を欠くものとは認められない。

と書かれてしまったことにより、その後導入された防衛策には、買収提案者に金銭の支払いを行なう可能性を盛り込んだものが見られるようになりました。しかし、本当にその買収提案者が、ブルドックソース事件の高裁が言及したような「濫用的買収者」なのであれば、金銭を支払うことはまさに株主の利益を害することにつながります。そこで、企業年金連合会などは、この「金銭支払い」について強い反対論を唱えており、それを受けて今回の新指針案では、買収者に金銭補償を行なうことに対して否定的な意見を提示する必要があったのです。お金を払いさえすれば防衛策の発動を差し止められることはないと企業(経営者)側が考えてしまってはまずい、早期に軌道修正をしなければならないと考えた結果、このタイミングで新指針案が提示されたのだと思います。

さて、上記の点も含めて、新指針案では、経営陣の行動のあり方として、以下の諸点が提案されています。

① 取締役会は、株主以外の利害関係者の利益に言及することで、買収防衛策によって保護しようとする利益を不明確としたり、自らの保身を目的として発動要件を幅広く解釈してはならない。
② 取締役会は、被買収者の資産を買収者の債務の担保とすることや、被買収者の資産を処分し、その処分利益をもって一時的な高配当をさせることが予定されているなど、それのみでは当該買収が株主共同の利益を侵害するとまでは言い難い理由のみをもって、買収防衛策の発動が必要であるとの判断を行ってはならない。
③ 取締役会は、買収提案の検討期間をいたずらに長期なものとしたり、意図的に繰り返し延長することによって、株主が買収の是非を判断する機会を奪ってはならない。
④ 取締役会は、株主共同の利益を最大化させる買収提案であると判断した場合には、株主総会で株主の意思を問うまでもなく、直ちに買収防衛策の不発動を決議しなければならない。
⑤ 取締役会は、株主が買収の是非を判断できるよう、買収提案に対する取締役会の評価等について、事実に基づいて、株主に対する説明責任を果たさなければならない。
⑥ 買収防衛策を発動する際に、買収者に対して金員等の交付を行う必要はない。


また、これまでにも議論がなされていた特別委員会に関しては、

特別委員会委員会については株主からみた責任があいまいであるとの議論があり、形式的に同委員会を設置し、その勧告内容に従ったからといって、直ちに、取締役会の判断が正当化されるということにはならないことに留意すべきである。同委員会を設置し、実際の買収局面においてその勧告内容を最大限尊重しなければならないとするとしても、取締役会は、かかる勧告内容に従うという判断に関する最終的な責任を負い、それが合理的であることを株主に対して説明する責任があることに留意すべきである。

として、取締役会が最終的な責任と説明義務を負うことが改めて強調されました。しかし、もちろん、これによって取締役会内部に存在する利益相反問題をクリアできるわけではありません。株主によって選任され業務執行者の解任権を有する者が、業務執行者を監視しその利益相反問題をクリアするという構造にならなければ、「責任も権限もない社外者や独立者」にいくら丁寧に判断してもらってもその判断に拘束力を持たせることは出来ませんし、全取締役が利害関係を有すると言えるM&Aにおいて取締役会が株主に対していくら説明責任を果たしたと主張しても、それを信用することは困難だからです。取締役会と業務執行者の関係や位置付けがアメリカと異なる日本においてアメリカの制度(独立取締役や特別委員会制度)を導入しようとすることによる歪みは、まだまだ解消されそうにありません。

新指針案については、あくまで「案」ということですので、最終的な指針が確定し公表された時点で違いがあれば、また取り上げてみたいと思います。

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