プロフィール

井垣太介 (Taisuke Igaki)

Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

ブログ全記事表示

最近の記事

カテゴリー

FC2カウンター

最近のコメント

月別アーカイブ

ブログ内検索

リンク

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

新たな防衛策指針案について(その1)

経済産業省・法務省は2005年5月27日付けで<「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」>(以下、「指針」と言います)を公表していましたが、2008年6月11日付けで、新たに買収防衛策のあり方に関する報告書をまとめ、<「近時の諸環境の変化を踏まえた買収防衛策の在り方(案)」>(以下、「新指針案」と言います)として公表しました。

6月の株主総会直前に発表されたというタイミングの問題に加え、裁判所がここ数年の間に示してきた各種基準と比較して一部異なると思われる考え方が述べられているため、買収防衛実務に若干の混乱を発生させる可能性のあるこの新指針案ですが、大きな流れとしては、

① 日本の裁判所が示した株式会社の機関における「権限分配法理」(会社の実質的所有者である株主によって構成される株主総会が最高意思決定機関であり、株主構成そのものに影響を与える買収という大問題に関して、株主に選任されたに過ぎない取締役会が決定するのはおかしいという考え方)と、
② 株主総会の能力限界論(買収防衛策導入・発動の是非について、多数決原理が導入される株主総会において常に適切な判断が得られるかどうか分からない)、および、取締役の責任回避を危惧する意見(株主総会に任せておけば大丈夫として取締役自身が十分な検討をしなかったり、株主への説明義務を怠ることを危惧する立場)


との間で相当頭を悩ませた結果、ひねり出された苦肉の提案ではないかと考えています。

そもそも、2005年の指針においては、「株主総会は、株式会社の実質的所有者である株主によって構成される最高意思決定機関として、株主共同の利益の保護のために、定款変更その他の方法により買収防衛策を導入することができる。定款による株式譲渡制限はその最たるものであるが、第三者に対する特に有利な条件による新株・新株予約権の発行も株主総会の特別決議を経れば適法とされ、また、法律上特別決議が必要な事項よりも株主に与える影響が小さい事項であれば、株主総会の普通決議等により買収防衛策を採ることも株主による自治の一環として許容される。」と記載されていました。これはいわゆる「株主意思の原則」と呼ばれるものです。

また、ブルドックソース事件の2007年8月7日付け最高裁決定は、「議決権総数の約83.4%の賛成を得て可決されたのであるから、スティール関係者以外のほとんどの既存株主が、スティールによる経営支配権の取得が相手方の企業価値をき損し、ブルドックの利益ひいては株主の共同の利益を害することになると判断したものということができる」としました。その結果、買収防衛実務においては、とにかく株主総会の決議を重視する方向で動いていたわけです。

しかし、私自身は、特別委員会に関するコラム(<独立取締役/特別委員会に関する議論について(その6)>)で述べたように(*1)、株主総会に委ねることで取締役は安心してはならないと考えてきました。

「権限分配法理」は法学上の議論としては一理ありますが、相当改善されてきたとは言え株主への情報開示も不十分(モノ言う株主が日本で登場したのはつい最近のことですから、これはやむを得ません)、取締役の責任追及体制も文化としてあまり定着していない、支配株主の少数株主に対するFiduciary Dutyも法律上・判例上認められていない現在の日本の状況では、株主総会に委ねるという一見民主主義的な方法に頼ることで、取締役会が「気軽に」買収防衛先を導入したり発動したりして、実は株主にとって利益になる買収提案を封じ込めてしまうリスクの方が高いと思うからです。これは株主総会の特別決議を得る仕組みにしたとしても、同じです。

また、関係省庁や裁判所が何か基準や考え方を示す度に買収防衛策の内容や手続を変えること自体が刹那的であり(しかも、経産省・法務省の指針などの位置付けはソフトローと呼ばれることもありますが、指針に従ったからといって裁判に勝てる保証はなく、実際の効果・効力は不明です。また、株主向けの防衛策の説明書面に「本防衛策は○○省の指針に従っています」と明記して株主の同意を誘引するのが通常ですが、これでは防衛策の必要性や相当性に関して実質的な説明を放棄していると取られてもやむを得ないものと思います。)、コロコロと防衛策の内容や手続を変更していては、企業としての骨太の経営方針を示すことができません①買収防衛策を導入するのであれば取締役会の判断と責任において導入するが、株主意思を排除しないためにchewableにしておき、②後はひたすら経営努力と情報開示に努める・・・、そんな骨太の方針の方が好ましいのではないでしょうか。

長くなってきましたので、続きは次回のコラムで述べたいと思います。


(*1) 以下は、過去のブログの引用です。
「利益相反というのは、具体的にはその取引に利害関係を有する業務執行者と株主の利益相反、あるいは、支配株主(およびそれと利害を共通にする経営陣)と少数株主の利益相反です。社外独立チェック型ではない日本の取締役会や現状の特別委員会ではこの利益相反問題を解決できないと踏んで、裁判所は利益相反問題で損害を被る株主自身に直接意思決定をすることを求めています。取締役会も公正な判断が期待できない、裁判所も経営判断は行い難い、よって、株主に任せるしかないという流れです。しかし、株主といっても、多数派株主に少数株主の利益を考えた判断を要求することは困難ですので(アメリカと異なり支配株主に善管注意義務が課せられていない日本では尚更)、少数株主の利益保護が問題となっているようなケースでは、少数株主の過半数同意を要求するといったところまで整備しなければ万全とはいえないと考えます。
①支配株主が関与する取引、②会社の売却、③買収提案を受けている中での防衛策の発動といった利益相反リスクが高い場面(アメリカではいずれもBusiness Judgment Ruleの適用が否定されている場面)においては、特別委員会を設置し、その判断を「最大限尊重する」だけでは、裁判所において公正な取引であったとの認定を受けられる可能性は保証されていないと考えるべきでしょう。独立取締役制度が存在しない以上、株主総会の承認というプロセスを利用せざるを得ない場面も出てくると考えますが、その場合でも、株主総会を経たから安心と考えるべきではなく、不利益を被る株主のInformed Judgmentを得るために万全の準備をしなければならないと考えます。」

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://taiigaki.blog62.fc2.com/tb.php/125-a46b4e74

 ホーム 


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。