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Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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取引保護措置(Deal Protection Measure)とは?(その2)

さて、「特定の買主候補とのみ交渉し、最終契約締結後にも第三者から声が掛からなかった場合に、その事実のみをもって株主の利益が最大限守られたと言い切ることができるでしょうか?」というのが、前回の問題提起でした。日本のM&A実務においては、特定の買主候補とのみ交渉するか、最初からオークション(入札)形式を採るパターン(特に事業再生に絡むM&Aの場合はほとんど入札形式になります)がほとんどであり、前者の相対交渉のケースでは、「特定の買主候補とのみ交渉し、最終契約締結後も第三者から声が掛からなかったために、当初の買主候補と無事に取引を終えた」パターンが多いと考えられます。

しかし、プレスリリースや証券取引委員会、証券取引所への報告書などでM&A取引が行われていることを公表している場合には、第三者がディールの存在を知って競合提案を行うこともありうると思いますが、冷静に考えてみれば、ある程度積極的に他の買主候補にも声を掛けなければ、「株主にとって最も良い買収条件が提示された」と証明するのは難しい場合もあると思われます。「他の人たちに声も掛けていないのに、なぜこのディールの条件がベストと言えるのか?」という疑問が株主の中から発生するのは当然といえるでしょう。そこで、アメリカでは2004年頃から、Go-Shop条項と呼ばれるテクニックが利用されるようになりました(Go-Shop条項については、別稿で詳細に解説したいと思います)。

このように、No-Talk条項から始まりNo-Shop条項が普及し、最近はGo-Shop条項が大型ディールの多くに取り入れられているアメリカのM&A実務の流れとしては、Fiduciary Outを重視する方向に動いています。そうなれば、最初に交渉を開始した買主候補としては、いかにして第三者に横取りされずに目の前の取引を成立させるかについて真剣に考えざるを得ません。つまり、ますます契約書に盛り込む取引保護措置の設計方法、実効性が問題となるわけです。

この点、現在の米国M&A実務においては、①Termination Fee (Brake-Up Fee) 条項で対抗する方法、②最終契約締結後に競合者が現れた場合に、当初の買主候補が競合者と同条件の提案を「後出し」的に行えば当初買主候補との間で自動的に契約が成立するとするMatching Right条項などが、違法とされずに合意済み取引を保護できる方策として頻繁に利用されています。このほか、取引保護条項には、当初取引に関する議案を株主総会に上程することを義務付ける条項と、買主が売主会社の主要株主との間で、当該買主との取引に関して株主総会において賛成票を投じることを合意する方法の組み合わせで当初取引を完全保護(Lock Up)する手法も利用されてきましたが、デラウエア州裁判所は、かかる手法には疑問を呈しています。

日本の実務においても、株主の利益の最大化を図るべき取締役の義務、その義務から導かれるFiduciary Out条項と、当初の取引を守りたいと考える買主が契約書に入れて欲しいと要求する取引保護措置のせめぎ合いが本格的に発生するのは時間の問題であると思います。現在の米国M&A実務では、Go-Shop条項+Matching Right条項+Termination Fee (Brake-Up Fee) 条項という3点セットでこの問題の解決を図ろうとしていますが、実は、早くもGo-Shop条項を巡って訴訟が提起され、裁判所によっていくつかの判断が示されています。この点はいずれ紹介したいと思いますが、いかなるディール・テクニックも万能ではなく、常に進化し続けることを要求されているのだということを実感させられます。

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