プロフィール

井垣太介 (Taisuke Igaki)

Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

ブログ全記事表示

最近の記事

カテゴリー

FC2カウンター

最近のコメント

月別アーカイブ

ブログ内検索

リンク

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

米国におけるM&A契約条項の分析(その3)

6.紛争が起きた場合の処理

まず、補償の対象となる損失が発生した場合、補償の実行を唯一の救済手段(Exclusive Remedy)とする旨合意するケースが非常に増えています。とりわけバイアウト案件では、買主であるファンドは紛争が長期化することを好みませんので、当事者間で合意された補償条項に従って一定の金額を受け取ればそれでよしと考える傾向があります。
ただ、損失額がいくらか、Capの例外事由に該当するか否かといった問題を巡って当事者間の話し合いでは解決できない紛争に発展するケースも発生します。このような場合には、いきなり訴訟提起をするのではなく、まずADR(裁判外紛争解決手段)を利用することを契約書で取り決めておくことが通常です。ADRの手法として最もポピュラーなのが仲裁で、この場合、「裁定に拘束力を持たせて、当事者はその内容を争わない」と合意しておくことが多いようです。その他、調停手続を利用することを合意しておくケース、まず調停、次に仲裁といった手続の流れを詳細に規定しておくケースなどが見受けられます。

7.表明保証条項のBring Down

表明保証条項については、クロージング条件の一つに組み込まれることがありますが、これは、表明保証条項をクロージング条件に落とし込むという意味で、"Bring Down" Conditionと呼ばれています。ただ、表明保証条項違反が全てクロージング義務の免除や延期につながるわけではありません。一定の重要問題だけが買主側のクロージング義務を免除または延期させると定められるのが通常です。このBring Down Conditionについては、日本の実務でも利用されており、その際には、「重要な側面において真実」とか「重大な悪影響を与えるものについては」といった表現で限定を付することが多いですが、米国流にこれを整理すると、以下の3パターンに分けられます。

①  MAE(Material Adverse Effect、重大な悪影響)が発生しないことが合理的に予測される事項についてはクロージング義務に影響を与えないとした上で、MAEが発生することが合理的に予測される事項については、全ての重要な側面において(in all material respects)表明保証事項が正確であって初めてクロージング義務が発生するとするパターン
②  MAEが発生することが合理的に予測される事項については、全ての側面において(in all respects)表明保証事項が正確であって初めてクロージング義務が発生し、MAEが発生しないことが合理的に予測される事項については、全ての重要な側面において(in all material respects)表明保証事項が正確であって初めてクロージング義務が発生するとするパターン
③  MAEが発生することが合理的に予測されるか否かに関係なく、全ての重要な側面において(in all material respects)表明保証事項が正確であって初めてクロージング義務が発生するとするパターン


一見細かいですが、要約すると、表明保証した事実のうち重要なポイントのみを問題視する発想と、その事実が対象会社の事業などに与える影響のうち重大な悪影響のみを問題視する発想の組合せであると言えます。MAEという概念が流行している最近の実務では①が最も多く見られ(*1)、次に②がよく見られるようです。

なお、表明保証を行なう「時点」として「クロージング時」を外すことはまずありません。ただ、「契約締結時およびクロージング時」とするパターンと、単に「クロージング時」とするパターンの両方があります。参考までに、最もよく利用されている前者のパターンにおける英文例は、以下のようになります。
All of Seller’s representations and warranties in this Agreement must have been accurate in all material respects as of the date of this Agreement, and must be accurate in all material respects as of the Closing Date as if made on the Closing Date.

このようにクロージング時点でも同様に表明保証をしてもらうことで買主側は安心しますが、売主側は、逆に、契約締結時には表明保証できるがクロージング時には同様の状態が継続していることを保証できない項目についてピックアップし、買主側に表明保証を「契約締結時」に限るよう求める必要があります。例えば、契約書に添付される従業員リストの内容などは、クロージングまでの間に変動することが十分ありえます。よって、こういったものについてまでクロージング時にも正確な情報であると表明保証すれば、売主側は過大な義務を負担してしまったことになります。表明保証条項のBring Downについては、表明保証対象事項を一つ一つチェックした上で合意に至る必要があると言えるでしょう。


(*1) アメリカの実務では、クロージングの条件として「対象会社の業績に、最終の財務諸表作成日以降重大な悪影響が発生していないこと」を明示的に入れるのではなく、表明保証条項をクロージング条件にbring downする方式のことを"Back-door MAC"と呼んでいます。

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://taiigaki.blog62.fc2.com/tb.php/113-bd2d534c

 ホーム 


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。