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井垣太介 (Taisuke Igaki)

Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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DCF法の最大有効活用方法

前回までのコラムで、DCF法の基礎を勉強しました。これで、フィナンシャル・アドバイザーがDCF法を用いて算出した数値の意味や、そこで用いられているWACCやβ、ターミナル・バリューといった言葉の意味も分かります。しかし、M&Aを成功させるためには、それだけでは足りないように思います。

日本でもアメリカでも、DCF法は、「会社が決めた買収価格の正当性を裏付けるために、フィナンシャル・アドバイザーに依頼して分析してもらうときに使われる買収価格算定手法」として捉えられることがあります。これは一面において事実ですが、DCF法を使って自分で数字をはじき出してみると、「思いのほかシナジーをたくさん発生させないと、想定している買収価格が割に合わない」ことが分かります。想定されている買収価格に到達させるためには、予想フリー・キャッシュフローを増やすか、割引率を下げることになりますが、キャッシュフローを増やすには経費削減か利益増加を計画せざるを得ず、また、割引率関係については常識外れのパーセンテージを用いるわけにもいきません。

ここで、もし、会社の業務担当者が自らDCF法を用いて数字をはじき出せば、取締役会において会社の役員に対して選択した数値の正当性を自ら説明しなければなりませんので、買収価格を下げない以上、統合後の経営を相当頑張らないといけないことを具体的な事業計画と共に立証しなければならなくなります。これは、その次のプロセスにおいて、会社経営陣から株主に対するアカウンタビリティ(説明責任)の充実にもつながります。

逆に、もしも、フィナンシャル・アドバイザーが分析して会社に持ってきてくれた結果を見ただけで、自らは計算しなければ、おそらくは誰もDCF法の結果について責任意識を感じないのではないでしょうか?これが自ら設定した「経費削減」数値だったり、予想フリー・キャッシュフローだったりすれば、経営統合後にそれを達成できているかどうか、じっくりと検証することができます。達成できていなければ、M&A時の分析が甘かったのか、統合後の経営努力が足りないのかといった議論に発展させることもできます。それこそが会社の事業部やマネジメントが自らDCF計算を行なう意味だと言えます。

更に重要なのは、「買収や統合の前後で、事業計画を分断しない」ということです。他社を買収する際に、シナジー効果を一定程度見込み、経費削減や利益増加計画などを立ててようやく正当化された買収価格なわけですから、買収や統合後に、新体制となった経営陣がゼロから経営計画を立ててしまうと、そこで責任が分断されてしまいます。思ったほど成果が上がらなかった場合、新経営陣は、「買収時の価格設定が無謀だった」と言うことができます。他方、買収時のチームは、「新経営陣の頑張りが足りない」と批判することでしょう。そこで、理想的なのは、買収・統合後の経営陣が買収チームに入って、自らDCF計算を行なうことではないでしょうか。あるいは、それが無理な場合でも、買収時に行なったDCF分析をそのまま新体制における経営計画とする方法も考えられます。

また、別の話になりますが、株式譲受方式で対象会社を買収会社の子会社とした場合、買収プレミアム(のれん)は、親会社の経理部が連結財務諸表を作成する際に貸借対照表上の子会社株式に計上して初めて数字に表れてきます。したがって、通常、連結ベースではない管理会計上は、買収プレミアムを意識しにくい構造になっていると言えます。M&A契約の直前まであれほど注目されていた「買収プレミアム」が、M&Aクロージング以降は忘れ去られる可能性があるのは、こういった会計上の処理手順にも原因があります。

以前のコラムで、「M&Aでは買収・統合後が本当にしんどい」と書きました。私自身、買収時に自らDue Diligenceを行なったり契約交渉を行なうという形で関与し、そのまま買収後も新会社のリーガルアドバイザーとして相談を受け続けていると、次から次へと問題が発生し、利益も思ったほど上がらないという現実に直面し、あの買収価格は正しかったのか、そもそもこのM&Aは正しかったのかと自問自答することがあります。責任の押し付け合いを回避し、関係者が一丸となって想定していたシナジー効果を発揮させるには、少なくとも、買収前の関係者も買収後の関係者も同じエクセル表の上で議論しなければなりません。一つのDCF分析を元に議論して初めて、新しく入ってきた人たちや、株主に対しても、統一的で分かりやすい説明ができるものと思います。それがM&AにおけるDCF法の正しい利用方法であると考えています。

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