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Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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買収価格の算出方法(その2)~DCF法の基礎(2)~

2. WACC(Weighted Average Cost of Capital、加重平均資本コスト)の求め方

一般的に、企業買収の際には、投資した資金を一定期間で回収できるかどうかがチェックされます。そして、ここで使われる「投資した資金」というのは、通常、銀行から借り入れたお金や社債を発行することで得たお金、すなわち借入資本(debt capital)と、株主から払い込みを受けたお金、すなわち株主資本(equity capital)の二種類で構成されますが、これらはいずれも利息、配当金、将来の値上がり益といったコストを伴うお金です。よって、この借入資本コスト株主資本コスト(併せて「資本コスト」と呼びます)をカバーできるだけの将来キャッシュフローが得られなければ、「買い損」ということになってしまいます。対象企業の資産や類似会社の価値に着目するのではなく、専ら資本コストというモノサシだけで買収価格を決めようとする点がアメリカ(アングロサクソン)的発想ですが、今の日米のM&A実務においては、この資本コストでもって将来キャッシュフローを割り引いて現在価値を算出する手法が最もポピュラーになってきています。

(1) 借入資本コストの算出方法

借入資本コストは、一言で言えば、長期有利子負債(社債や長期借入金)の金利ということになりますが、金利は経費計上(損金処理)できますので、節税効果を考慮して、
金利×(1-実効税率)
が借入資本コストになります。よって、例えば、長期有利子負債の金利が10%、実効税率が40%であるとすると、借入資本コストは、10%×(1-0.4)=6%となります。

(2) 株主資本コストの算出方法

株主資本コストは、通常、Capital Asset Pricing Model(CAPM、資本資産評価モデル)と呼ばれる計算方法によって算出されます。CAPMは、リスク・フリー・レートに株式のリスク・プレミアムを加算して求めますが、これは、投資資産の期待利回りはその資産が持つリスクと表裏一体の関係にあるという基本的理解の下で、より大きなリスクを甘受するならより大きなリターンが得られなければならない、すなわち国債などのリスク・フリー商品に投資するのではなくリスクが高い株式に投資するのであるから、株式のリスク・プレミアムを上乗せする必要があるという考え方を表していると言えます。

すなわち、リスク・フリー・レートは通常は長期国債(アメリカなら米国財務省証券)の利回りを使用しますが、それに対象会社株式ごとのリスク・プレミアムを加味することで、「リスクの高い会社を買う場合は、株主資本コストが高くなる(それだけ投資家にたくさん還元しなければならない)、その結果、高いパーセンテージで割り引いた将来キャッシュフローの現在価値は低くなり、あまり高い代金では買えない」という結論になります。

ここで、「対象会社株式ごとのリスク・プレミアムを加味する」ためには、マーケット全体の株式のリスク・プレミアムを考慮するだけでは足りません。対象会社の株価はマーケットの平均株価の動きとは異なる傾向を示していることも多々あります。そこで、これまでに蓄積されている市場データを用い、一般的なポートフォリオ(東証のTOPIXやアメリカのS&P500など)に含まれている株式の平均収益率(例えば、50年間といった長期間の平均を使用)からリスク・フリー・レートを控除した数値(これがマーケット全体における株式リスク・プレミアムになります)に、β(ベータ)と呼ばれる「対象企業特有のリスク・プレミアム」を掛けた数値を最終的な株主資本コストとします。

例えば、
・ アメリカにおける現在の米国財務証券10年ものの金利: 4%
・ 過去50年におけるS&P500株式の平均年間収益率: 15%
・ 過去50年における米国債の平均年間収益率: 5%
・ 対象企業のβ値: 1.3
と仮定すると、CAPMに基づいたこの企業の株主資本コストは、
4.0%+(15%-5%)×1.3=17%
ということになります(*1)。

翻って、βとは何かという点ですが、βというのは、全体的な株式市場の変動率に対する個別銘柄の株価変動率の「不一致度」を意味します。例えば、特定の期間に市場全体の平均株価が10%下がっているのに、対象会社の株価が20%下がっていれば、それだけ対象会社の株価は不安定ということになり、リスクは高いと判断されます。この場合、全体では10%しか下落していないのに対象会社の株価だけ20%下がっているわけですから、β値は2となります。市場全体が上向きであればβ値が高い株式に投資をすればそれだけ儲かる可能性が高いということになりますが、市場全体が下向きであればβ値が1を下回る株式に投資をした方が安全ということになります。また、ポートフォリオ全体のβ値を1に設定しておけば、リスク分散が図れているという判断にもなります。上記の設例では、β値が1.3になっていますので、少しリスクの高い、不安定な会社を買うことを意味しています。なお、非上場の会社の株式についてはβ値がありませんので、類似会社のβ値を資本構成比によって調整して算出したβ値を使うことになります(*2)。

最後に、WACC(加重平均資本コスト)の求め方ですが、上で算出した借入資本コストと株主資本コストを、借入資本と株主資本の構成比に応じて加重平均する方法が採られます。例えば、
・ 借入資本コスト: 6%
・ 株主資本コスト: 17%
・ 対象会社の長期借入金時価: 1億ドル
・ 対象会社の株主資本時価: 4億ドル
としますと、
WACC=6%×1/(1+4)+17%×4/(1+4)=1.2%+13.6%=14.8%
となります。


(*1) カネボウ事件における東京地裁決定(DCF法を採用)においては、リスク・フリー・レートは1.875%、株式リスク・プレミアムは1955年から2005年までの平均値である8.5%とされました。
(*2) カネボウ事件における東京地裁決定は、カネボウの食品事業、HP事業、薬品事業のβ値をそれぞれ、0.677、0.598、0.521とし、その結果、資本コストについては、食品事業7.63%、HP事業6.96%、薬品事業6.30%という結論に至りました。

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