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井垣太介 (Taisuke Igaki)

Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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M&Aの労務(その6)~M&Aの際の希望退職募集について~

M&A、特に会社更生や民事再生の手続の中で行なわれるM&Aの際には、経費を削減することによって事業そのものの建て直しを図らなければならないことから、従業員を全員は連れて行けない場合があります。しかし、このような場合であっても、合併、会社分割、事業譲渡等を直接の理由とする解雇は認められません(*1)。すなわち、①人員削減の必要性、②解雇回避努力を行ったか、③解雇される人の選定の妥当性、④手続の妥当性という、いわゆる整理解雇の4要件を充たさない限り、解雇はできないと考えなければなりません。この整理解雇の4要件に関しては文字通り山ほど判例が存在しますので、詳細はまた別の機会に紹介したいと思いますが、ここでは、②の解雇回避努力の一環として行なわれる「希望退職募集」について触れておきたいと思います。

(日本においては)解雇は可能な限り回避されなければなりません。人件費を減らす必要があるのであれば、まず新規採用を止めるという方法がありますし、可能であれば残業代の支払額を減らすために残業を規制することも考えなければなりません。また、適法な範囲でパートタイマーの方にまず辞めていただくことも一つの方法です。更に、M&Aに伴い一部の事業そのものがなくなるのであれば、その事業に従事していた従業員については配置転換や出向という形で引き続き雇用できないか検討することが必要です。しかし、そこまでやってもなお人員の吸収ができない場合は、希望退職者を募集することを考えなければなりません(裁判になると、希望退職募集を行なったかどうかが、解雇回避努力を尽くしたかどうかの判断の際に考慮されることがありますので、その意味でも、希望退職募集を行なう意味があります)。

希望退職募集というのは、文字通り、自主的に希望して退職してくれる人を募集することですが、通常の退職勧奨と異なるのは、退職手当の増額といった特典を付して募集を掛ける点です(再就職の斡旋や、再就職に必要な費用を会社が負担するパターンもあります)。これによって、従業員が被る不利益を一定範囲で補填することができますので、その結果、より多くの従業員が自主退職に応じてくれることが期待できます。しかし、それでも予定していた退職者数に到達しないこともあるでしょう。また、逆に、割増退職金という特典を付した結果、退職して欲しくないキーパーソンが退職を願い出てくることもありえます。

まず、希望退職募集を行なっても予定していた退職者数に達しなかった場合には、会社はどのように対応すべきでしょうか?

一つの方法は、再度、キャンペーン(希望退職募集)を行なうことです。シンプルですが、最も公平で問題が発生しにくい方法と言えます。
もう一つは、個別に従業員に声掛け(退職勧奨)を行なう方法です。時間がないときやあと数人で予定人数に達する場合などには、個別の声掛けの方が便利ということになろうかと思いますが、この場合は、退職勧奨行為が行き過ぎて不法行為とならないように注意が必要です。例えば、市の教育委員会が特定の教諭を4ヶ月間に13回も呼び出して、ときに2時間にも及ぶ退職勧奨を行なったケースで、裁判所は、教育委員会の行為は、多数回かつ長期に亘る執拗なものであり、退職勧奨として許される限界を超えるから違法であると判示しました(*2)。このケースでも示されたように、退職勧奨はあくまでも自主的・任意の退職を呼び掛けるものでなければなりません。半分強制のような勧奨やあまりに執拗な呼び出し・説得行為は、社会的相当性に欠けるものとして不法行為を構成しますので、注意が必要です。

次に、優遇措置を提案した結果、退職して欲しくないキーパーソンが退職を願い出てきた場合には、会社はどのように対応すべきでしょうか?

前提として、特定の従業員が会社の希望退職募集に応募したことで、当然に退職の合意が成立するわけではないことを確認しておきたいと思います。民法上、契約(ここでは優遇条件付退職合意)の成立には、「申込み」と「受諾」という二つの行為が必要ですが、判例は、希望退職募集のケースに関し、会社からの募集は「申込み」には当たらないとしています(*3)。すなわち、希望退職募集がなされていることを知った従業員が「退職したい」と申し出てきた時点で、それが「申込み」になります。よって、会社がその「申込み」に対して「受諾」しなければ優遇条件付退職合意は成立しないことになります。しかし、もともと辞めたいと思っている人を引き止めるのは非常に難しいものです。例えば、その人が、「それならば割増退職金は要らない。通常の退職金で構わないから辞める」と言ってきたときにはなすすべがありません。また、現実問題として、従業員と会社との間で、何が民法上の「申込み」か「受諾」かという法律上の議論を戦わせることは正しい姿とは言えないと思います。無用のトラブルを避けるためにも、希望退職募集を行なう際に、「なお、この優遇措置は、会社が認めた人に限って適用されます。」と明記しておくことが必要でしょう。その上で、キーパーソンについては、事前に会社の希望を伝え、十分な話し合いを経た上で残留の方向で考えてもらうプロセスが大切になってくると考えます。


(*1) <分割会社及び承継会社等が講ずべき当該分割会社が締結している労働契約及び労働協約の承継に関する措置の適切な実施を図るための指針>も、「普通解雇や整理解雇について判例法理が確立しており、会社は、これに反する会社の分割のみを理由とする解雇を行なってはならない」としています。
(*2) 最判昭和55年7月10日(下関商業高校事件、労働判例345号20頁)
(*3) 東京高判平成16年3月17日(日本オラクル事件、労働判例873号90頁)

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