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Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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M&Aの労務(その5)~事業譲渡における雇用契約の取扱い(2)~

2. 転籍しない人に関する問題

(1) 旧会社を解散させる場合の問題点
事業譲渡後に、旧会社を解散・清算するというのはよく見られるパターンです。特に、事業再生のプロセスにおいて事業譲渡が行なわれた場合には、残った会社は債権者への弁済を行なうことが唯一の仕事であり、それは清算手続の中で行なえますので、会社は解散し、残された従業員も解雇されます。この場合、「解散に伴う解雇であるから当然に許される」と考えても良いのでしょうか?

答えはNOです。この点については判例がいくつもあり、譲渡会社と譲受会社が実質的に同一とみなされるケースでは、特定の従業員を排除するための「偽装廃業」「仮装解散」として、解雇無効の判断が下されています(*1)。この場合、いわゆる整理解雇の4要件(*2)を充たさない限り、解雇はできないことになります。

なお、横浜地判平成15年12月6日(勝英自動車事件、労働判例871号108頁)は、譲渡会社と譲受会社が実質的に同一とみなされないケースであったにも拘らず、そこで行なわれた営業譲渡が特定の従業員を個別に排除するためのものであったと評価して、譲受会社が従業員の選別を行なえるとする営業譲渡契約の条項を公序良俗違反と認定しました。この勝英自動車事件の判決は、「譲渡会社と譲受会社が実質的に同一であること」を要件とする従前の判例基準を飛び越えて従業員の利益保護を一層厚く図ったものと言えますが、事業譲渡が本来「特定承継」であって、引き継ぐ資産、権利義務、契約を自由に取捨選択できるものであることからすれば、「行き過ぎ」の判断だったのではないかという疑問を抱きます。しかし、譲渡会社と譲受会社が完全な別会社であれば安心と言い切れなくなったのも事実であり、転籍を希望する人がいるのにそれを認めない場合には、後に無効とされる可能性がないかについて検証が必要だと考えます。

(2) 転籍して欲しい人が残ってしまった場合の扱い
転籍については、就業場所の変更につながったり、雇用条件の変更をもたらすため、新会社に転籍して欲しい人が旧会社に残りたいという選択をする場合もあります。この場合に、譲渡会社にはもはやその人がそれまで従事していた事業自体が存在しませんので、会社としては、当該従業員jを余剰人員として把握し、解雇を考えるかも知れません。

しかし、事業譲渡に伴う転籍について承諾しなかったことを理由として解雇を行なうことは認められません。なぜなら、そもそも転籍を業務命令として命じることはできず、転籍に応じるかどうかは従業員の自由だからです。したがって、やはりここでも整理解雇の4要件を充たさない限り、解雇はできないことになります。

以上、事業譲渡が行なわれた場合の問題点について、転籍した従業員と転籍しなかった従業員に分けて整理して見て来ましたが、実務上最も大切なのは、転籍の際の退職金支払いと雇用条件の変更がやむを得ないものであることを従業員の皆さんに可能な限り理解していただくことではないかと考えます。私が従業員であれば、退職金が目減りすること(事業譲渡の時点でそれまでの勤続年数に応じた退職金が一旦支払われ、新会社退職時に新会社での勤続年数に応じた退職金を受け取るということになると、退職金総額は減る可能性の方が高いと思われます)や、勤務場所が突然変わることについては抵抗を覚えると思いますので、この点に関して、事前に会社からしっかりした話が欲しいと思うに違いありません。また、事業譲渡に伴って新会社に移ってもらうことができない従業員についても、十分に話し合うことが大切です。誠意をもって十分な協議を行なったかどうかが裁判所の考慮要素の一つになるという法律の話以前に、やはり話してみなければ開けない道もあると思いますし、会社を支えてきてくれた従業員と膝を交えて腹を割って話をするのは当然のことと感じるからです。


(*1) 大阪地決平成6年8月5日(労働判例668号48頁)、奈良地決平成11年1月11日(労働判例753号15頁)など。
(*2) ①人員削減の必要性、②解雇回避努力を行ったか、③解雇される人の選定の妥当性、④手続の妥当性

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