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Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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M&Aの労務(その4)~事業譲渡における雇用契約の取扱い(1)~

続いて、事業譲渡において雇用契約がどのように扱われるかについて見ていきたいと思います。

事業譲渡は、これまでに述べてきた合併や会社分割とは異なり、個々の資産、権利義務関係、契約などを個別に移転する行為です(前者の「包括承継」に対して「特定承継」と呼ばれます)。よって、雇用契約についても、この特定承継の原則に従って、個別に移転させる行為が必要になります。具体的には、

① 事業の譲渡会社・譲受会社間での合意
② 転籍対象になる従業員一人一人の同意


があって初めて、雇用契約が新会社に移転します。ここで「転籍」と言う場合、「旧会社を退職し、新会社で新たに雇用される」方式と、「雇用契約上の地位を新会社が引き継ぐ」方式がありますが、M&Aの手法として事業譲渡を選択するメリットの一つに、「旧会社が抱える債務(従業員に対する未払残業代などの潜在的債務も含む)を承継しないで済む」という点が挙げられますので、実務上は、通常、前者の「旧会社を退職し、新会社で新たに雇用される」方式が選択されます。

ところで、上記のように、事業譲渡に伴ってどの従業員を転籍させるかについては、「事業の譲渡会社・譲受会社間での合意」によって決められる結果、例えば、譲受会社が「この人は要らない」と言えば、その人は転籍できません(この点が会社分割とは異なる点です)。以下では、この原則を踏まえた上で、①転籍する人に関する問題、②転籍しない人に関する問題に分けて、実務上の論点を整理していきたいと思います。

1. 転籍する人に関する問題

(1) 転籍承諾書の取り付け
実務上は、「この人には是非来て欲しい」と譲受会社が思っても、本人の意向で転籍してもらえないケースがあります。このようなケースを想定し、契約書においては、転籍承諾書の取り付けに関する一定の努力義務を譲渡会社側に課するのが通常です。また、キーパーソンが転籍してくれない場合に備えて、譲渡価格を減額できるスキームを組み込むことも考えられます。更に、奥の手として、「出向」を利用する方法もあります。出向については、採用時の雇用契約書において「将来、出向がありえます」と書いて従業員の包括的な同意をもらっておけば、実際に出向する段階では従業員の個別の同意は不要と解されています。よって、新会社の業務が軌道に乗るまでの間、キーパーソンとなる従業員には出向という形で新会社で働いてもらうことで、事業移転をスムーズに行なえる可能性があります(ただ、出向権の濫用とならないよう、その従業員には出向手当てなどを支給して、不利益を与えないよう配慮する必要があります)。

(2) 引き継ぐものと引き継がないもの
まずは労働条件の引継ぎが問題となりますが、譲受会社が事業譲渡という方式を選択した時点で、通常、譲受会社は、転籍者に新会社における新条件を適用することを希望(想定)しています。よって、契約交渉もそれを前提に進められるのが通常ですが、雇用条件が急激に変化(悪化)すると転籍して欲しい人にも転籍してもらえないことになりますので、契約書において、特定の期間(例えば、転籍後1年間)が経過するまでは、旧会社における雇用条件を下回らない(特に賃金関係)ことを約束しておく手法もあります。とりわけ、事業譲渡後のリストラなどが想定される事業再生絡みのM&Aにおいては、管財人(会社更生の場合)や申立代理人(民事再生の場合)からスポンサーに対して、「新会社においては、少なくとも1年間は、直近1年間の平均給与を支給すること」といった条件を課すケースも多く見られます。

なお、この点に関し最も問題になるのはボリュームが大きくなる退職金の取扱いですが、①譲渡会社を退職する際に精算し、譲受会社では譲受会社の退職金支給規程に従うとするのか、②譲渡会社において発生している退職金債務を、当該従業員が譲受会社を退職する際に一括して支払うこととするのか(この場合、通常、既に発生している退職金債務相当額について事業譲渡代金を減額する)について明確に定めておく必要があります。

更に、退職金計算や年次有給休暇の計算の基礎となる勤続年数の通算、未消化の有給休暇の承継についても、事前に取り決めておかなければなりません。実務上は、「退職金は旧会社退職時に支払う」「勤続年数は通算しない」「未消化の有給休暇は一定の範囲内で承継を認める」というパターンが多いのではないかと感じます。

転籍しない人に関する問題については、次回のコラムで述べたいと思います。

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