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井垣太介 (Taisuke Igaki)

Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
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M&Aの労務(その2)~合併に伴う雇用条件の統一(2)~

さて、労働契約は会社と従業員間の個別の契約、就業規則は会社が一方的に定めるルールということで、両者の効力関係がどうなるのか?・・・というのが前回の問題提起でした。

労働契約と就業規則との関係、労働契約と労働基準法との関係、就業規則と労働協約との関係については、従前は、労働基準法と労働組合法が定めていました。そこでの基本的考え方は、①労働基準法、②労働協約、③就業規則、④労働契約の順に効力が強いというものであり、この点は今でも変わっていませんが、平成20年3月1日から新たに労働契約法が施行されたことによって、これらの関係が条文で明確に定められました。

このうち労働契約と就業規則との関係については、労働契約法の7条、9条、10条が定めていますので、条文を見ておきたいと思います。

 (労働契約の内容と就業規則との関係)
第7条 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。

 (就業規則による労働契約の内容の変更)
第9条
 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

第10条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第12条に該当する合を除き、この限りでない。


すなわち、第9条で、「労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」としつつも、第10条で、「労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき」は、就業規則の変更という方法によって個別の労働契約の内容を変えることができるとされています(*1)。これの例外として、「労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分」については、個別の契約更改によらざるを得ませんが、通常は、就業規則の「合理的な」変更で対応可能であると理解できます。

よって、合併に伴い、両当事会社の従業員の労働条件を統一する場合には、原則として、就業規則の変更という方法を選択すれば足りることになります。この場合、例えば、A社の就業規則の方が全ての点においてB社の就業規則よりも従業員にとって有利なケースであれば、トラブルを回避するために全てをA社の就業規則に合わせる方法もあります。しかし、通常は、有利不利の判断が困難な条項が入っていたり、A社の就業規則のこの点は従業員にとって有利だが、別の点はB社の就業規則の方が有利といったケースであろうと思います。そうすると、必然的に、「就業規則の不利益変更」のおそれが出てきます。

したがって、裁判になれば考慮されるであろう労働契約法10条所定の事情(労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情)をしっかり吟味し、合併の数ヶ月前から労働組合や労働者代表との協議を開始し、従業員にとってより有利な条件があればそちらを可能な限り適用するなどの方法で内容を詰めておく必要があります。

なお、会社の合併そのものではありませんが、農協の合同に伴い退職給与規定の統一の可否が問題となった大曲市農協事件(*2)で、裁判所は、「労働条件の統一的画一的処理の要請から、旧組織から引き継いだ従業員相互間の格差を是正し、単一の就業規則を作成、適用しなければならない必要性が高い」として、就業規則の不利益変更を認めました。ただ、ここでは、雇用条件の改善点などについても考慮されていますので、「合併するのだから、就業規則の統一は当然認められる」とは考えない方が良いでしょう。特に、給料や退職金など、労働者にとって非常に重要な権利・利益に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更については、より高度の必要性が要求されます。従業員との対話というプロセスと、不利益変更ばかりではないという結果、不利益変更部分については裁判所を説得できるだけの必要性を論証できることが大事だと考えます。


(*1) もともと、就業規則の不利益変更については、裁判所が、「労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されない」と判示していました(秋北バス事件)。そして、ここにおける「合理性」は、不利益の内容・程度や、変更の必要性、代償措置、交渉経緯などを考慮して判断するとされていましたので、このような裁判上の判断枠組みが明文化されたのが労働契約法9条だと言えます。
(*2) 最判昭和63年2月16日(民集42巻2号60頁)

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