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Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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震災関連法務(その3)

3.今後に備えて準備しておきたい事項
(1)契約条項関連

震災・津波等で契約の履行が困難になるケースを想定し、今一度、不可抗力条項に焦点を当て、自社が直接被災した場合だけでなく、部品調達先の被災、製造委託先工場の被災、被災による原材料の納品遅延等をカバーする不可抗力条項を入れることを検討する必要があります。特に国際紛争においては、契約条項が強い効力を有するため、明文化できるものは全て書いておく必要性が高いといえます。

また、最近のM&A関連の契約書においては、かなりの確率でMAC(Material Adverse Change)条項が入っています。これは米国の同時多発テロをきっかけに実務家が考案した条項で、震災や津波も十分射程範囲に入ると考えられますので、買収等の大型取引においては、ペナルティを払わずに撤退できる手段を確保するためにMAC条項の導入を検討する必要があります。

(2)データ回避   
今回の大震災の影響が大きい東北6県と茨城県には、12万社を超える企業が本社を置いていますので、被災により、顧客データ、従業員データ、契約書等の書類を喪失された企業も少なくないと思われます。かかる事態を回避するために、外部専門業者のサーバやクラウドへのデータ回避を検討している企業においては、情報漏えいを避けるための方策(業者の選定、情報管理システムの徹底、契約書における委託先の責任追及条項等)を万全にするとともに、第三者に情報管理を委託することになるため、個人情報保護法(委託先の監督に関する第22条、第三者提供の制限に関する第23条等)への対応も必要となります。

また、これを危機管理の一貫として行う場合、内部統制システムの一部として「損失の危険の管理に関する規程その他の体制」(会社法362条4項6号、同法施行規則100条1項2号)に該当し、取締役会の承認決議が必要となってきます。

(3)事業継続計画の策定   
リスク管理の一貫として、近時、企業に事業継続計画(BCP)の策定と運用が求められています。次回の災害に備えて、サプライチェーンの再構築や危機時対応について事業継続計画で定めて、「損失の危険の管理に関する規程その他の体制」として取締役会で承認し、有価証券報告書提出会社においてはこれを有価証券報告書において開示することへの期待が一層高まるものと予想されます。この流れを受けて、今後は、危機管理体制の不備について取締役の善管注意義務違反が問われる可能性は増していくものと思われます。

なお、BCPについては、毎年一定時期に見直し、必要な追加・修正を行うとともに、紙とデータの双方で保存し、かつ危機時に即対応できるようサマリー版も用意しておくことが望ましいと考えます。また、BCPには、被災地との一般的連絡手段が途絶えた場合の連絡方法、被災地の従業員が全員被災したことを前提としたシミュレーション、直接の部品サプライヤーだけでなく、更に上流の2次、3次サプライヤーまで被災した場合の部品調達方法に至るまで可能な限り具体的に記載し、かつ、生産移管工程等については実際の訓練を毎年行い、更にはサプライヤー側のBCPが整っているかについてまで気を配っておくことが望ましいでしょう。

4 終わりに  
そのほか、震災に関連する法務としては、保険関係、クレジット関係、原発事故(損害賠償)関係、事業の再建手段、会計処理や監査関係等、様々なトピックがありますが、本ブログはM&A情報ブログですので今回は割愛させていただきました。

日本企業が、今回の大震災を乗り越え、むしろこれをきっかけに国際競争力強化のための大型企業再編が行われたり、エネルギー政策の見直しによって関連分野に強い日本企業のプレゼンスが高まっていくこと、また世界において最も危機管理に強い企業集団を擁する国になることを願って止みません。
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震災関連法務(その2)

(3)倒産に関する特例
今回の大震災により、製造ラインの損壊、大口取引先の被災、原材料の不足等により既に多くの企業が破産申立てを行っていますが、前記のとおり、東日本大震災による災害が特定非常災害と認定されたことによって、債務超過会社については、自ら破産を申し立てた場合又は支払不能である場合等を除き、平成25年3月10日までは裁判所による破産手続開始決定が留保されます(特別措置法5条)。

ここでは、経済的に困窮した企業、その取引先債権者、金融機関等の立場を超えて一般的な震災復興支援策について概略を述べますが、まず政府系金融機関によって、セーフティネット貸付、災害復旧貸付、事業再建資金に関する協会による保証等のための制度が整備されました。また、震災を起因とする手形不渡りについては、中小企業倒産防止共済法施行規則の改正により共済金の貸付請求ができます。

更に、金融庁からは、債務の履行遅滞や収支上の赤字が一過性のものと判断されるときには債務者区分の引下げを行う必要がないこと(金融検査マニュアルの特例措置)と、債権放棄・返済猶予等による柔軟な対応が要請されています(中小企業金融円滑化法については、法律の存続期限が平成23年3月末から平成24年3月末に延期され、かつ、監督指針において東日本大震災に関連した規定が設けられています。)。なお、金融機関自体が被災しているケースがありますので、金融機能強化法の改正や柔軟化により、公的資金の予防的注入等を活用しつつ、経営責任を問うことなく被災地の企業と金融機関が一体となって復興できるよう制度整備が図られることが期待されます。

(4)国際取引に関する問題   
今回の震災により、多くの輸出企業において納品遅れが発生しているものと思われますが、これが不可抗力(Force Majeure)条項によって救済されるか否かが論点となっています。国際取引契約において不可抗力条項が適用されるためには、契約書の文言により個別の判断が必要になりますが、一般的には、契約上の義務の免責を主張する側が、①契約締結時に予見できない事情であったこと、②履行遅滞という結果を回避できなかったことに合理性があること、③履行遅滞の範囲及び期間が最小限であることを主張、立証していかなければなりません。

完成品メーカー自体が被災し、製造及び出荷が一定期間不可能になった場合は不可抗力と認められる可能性が高いと考えますが、完成品メーカーの施設自体は被災しなかったが部品工場の被災を理由に製造遅延が不可抗力であると主張する場合には、調達先を分散させていなかったことが上記②との関連で問題になる可能性があり、かつ、代替調達先を速やかに見つけられなかった場合は上記③との関連で完全免責を受けられない可能性が出てきます。ただし、顧客側が部品調達先を指定又は承認している例も多いことから、実際には交渉によって解決されるものと考えます。

なお、部品調達先の変更や製造ラインの修復等により製造コストが増加するケースの方が多いと考えられますが、これを理由に製品の値上げを要求する理屈となりうる事情変更の原則については、必ずしも国際的に承認されているわけではなく(ヨーロッパ契約法等、かかる原則について規定しているケースもあります。)、仲裁等の国際的紛争解決手段に踏み切る場合、最終的には契約書に記載されていない事情は考慮されない可能性が高いことに留意する必要があります。

なお、不可抗力条項が契約に含まれていなかったとしても、過失責任を原則とする国では、自然災害を起因とする履行遅滞・不能については一定範囲で免責される可能性があります。例えば、日本では帰責事由があって初めて債務不履行責任が問われるところ(民法415条)、阪神淡路大震災の際の裁判例で、過失の前提として具体的な予見可能性を要求した上で、「本件大震災は、未曾有の大地震であるところ、このような規模の大地震が発生するのを具体的に予見することはできなかった」と認定し、債務不履行責任を否定したケースがあります(東京地判平成11年6月22日(判例タイムズ1008号288頁))。

続いて、放射性物質漏洩の影響により世界各国で日本製品(特に食品)の輸入規制が行われていますが、これによる外国取引先側の受領拒否が契約違反になるかという問題もあります。不当な輸入制限措置については、まず国家間の問題であり、WTOの紛争解決手続(当該輸出先国がWTOの加盟国である場合)等により解決されるべきですが、私企業間の受領拒否については、製品の性質や用途に応じた個別判断をせざるを得ず、協議で解決しない場合には仲裁・裁判等に持ち込むことになります。なお、今回の震災に起因して、国際取引に絡んで自社に損害が発生した場合、貿易保険による補償、救済の検討が必要になります。

(5)独禁法・下請法上の問題   
今回の震災のような非常時においては競業者間で種々の協力が行われることがありますが、例えば、運送料金の取り決めや配送地の分担、原材料の共同調達、生産調整、価格調整などの協力行為がカルテル(独禁法2条6項、3条)にならないように留意する必要があります。この点については、公取委事務総局から平成23年3月18日付けで公表されている「被災地への救援物資配送に関する業界での調整について」に記載された3要件(①被災地に救援物資を円滑に輸送するという社会公共的な目的に基づくものであり、②物資不足が深刻な期間において実施されるものであり、③特定の事業者に対して差別的に行われるおそれがないこと)を参考に、競争の実質的制限とならないよう、具体的な協力行為の態様について専門家を交えて検討する必要があります。なお、公取委のウェブサイトには「東日本大震災に関連するQ&A」が掲載されています。

また、放射能汚染を理由とする受領拒否などは下請事業者の責に帰すべき理由が認められない限り下請法4条違反となりますので、親事業者側でコスト負担を行わない検査の強要等のケースでは慎重な対応が必要となります。

震災関連法務(その1)

先週は、多数の日本企業が、東日本大震災を契機とする業績予想の下方修正及び特別損失(震災関連費用)の計上をリリースしました。工場等の生産設備等の復旧費用、工場操業が停止したことによる損失、被災した取引先への貸倒引当金の計上、たな卸資産の評価損等、併せると一企業で一千億円を超える特別損失を計上した企業もあり、震災関連損失は日本全体で2兆円を超えると報じられています。私が個人的に関与していたM&A案件のうち、いくつかは既に相当程度手続が進んでいたこともあり震災の影響を受けつつも無事に成約に至りましたが、他方で、対象企業の今後の事業計画が見えなくなったこと、又は買い手の資金を他の用途に使わなければならなくなったことなどから中止となった案件もあります。
 
既に相当数の震災関連法務の論稿が発表され、会社法、金融商品取引法、労働法、下請法等の各法分野における法務対応のA to Zが出揃いつつありますので、M&Aに関連するか否かに関わらず、現時点で整理されている震災関連法務を紹介した上で、企業の法務部が次の災害に向けて準備をしておきたい事項についても言及したいと思います。

1.既に一定程度整理されている事項

(1)定時株主総会対応
定時株主総会は、設定された基準日の有効期間(3か月、会社法124条2項)に照らして、毎年、決算期末日から3か月以内に開催される(会社法296条1項)旨定款に規定されていることが通常ですが、必要な公告要件を充たした上で基準日を再設定する方法により定時株主総会の開催時期を遅らせることが可能です。法務省も、震災後に、当初予定した時期に定時株主総会を開催できない状況が生じている場合には、そのような状況が解消され、開催が可能になった時点で定時株主総会を開催すれば会社法296条1項にも定款にも反しない旨公表していますので、定時株主総会開催時期に関する問題はほぼクリアされています。

なお、多くの会社は、剰余金配当基準日を定款において定めていますので、「剰余金配当の効力発生日を、定款に規定された基準日から3か月以内とする内容の株主総会決議を行う必要がある」という法規制(会社法454条1項等)に従い、当該決議が間に合わない場合には別途公告を行い、基準日を設定した上で配当を行うことになります。
続いて、被災地の株主については議決権行使が物理的に困難な状況に陥る場合があるため、株主が1000人以下の会社においては任意とされている書面による議決権行使(会社法298条1項3号)、又は電磁的方法による議決権行使(会社法298条1項4号)を認める方向での配慮が必要と考えられます。

(2)上場企業の開示に関する特例
有価証券報告書及び半期報告書は、各年度・期間経過後3か月以内(金商法24条1項、24条の5第1項)の、四半期報告書は各期間経過後45日以内(金商法24条の4の7第1項)の提出が求められ、これを徒過した場合には監理銘柄に指定され上場廃止基準の該当性が確認される実務になっていますが、「特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律」(以下「特別措置法」といいます。)及び関連政令により、東日本大震災による災害が特定非常災害と認定され、上記報告書の提出期限が平成23年6月30日までとされたことに加え、震災により(本社が被災した場合のみならず、支店・工場や重要な取引先の被災により決算作業が困難となった場合など、間接的な影響によるものを含みます)、本来の提出期限までに有価証券報告書を提出できない3月決算企業などについて、同年9月末まで提出期限が延長されることになる見込みです。

また、証券取引所は、震災により業績見通しを立てることが困難な場合には決算短信及び四半期決算短信において業績予想を開示する必要がないものとし、かつ、震災により監査報告書又は四半期レビュー報告書において意見不表明の記載がなされた場合であっても監理銘柄指定及び上場廃止の対象にはならない(その旨の開示も不要)としています。

その他、震災により滅失・棄損した資産の帳簿価額が最終事業年度末日における純資産額の3%以上である場合には、可能な範囲で速やかに臨時報告書を提出することが求められています(金商法24条の5第4項、企業内容等開示府令19条2項5項)。また、開示とは直接関係はありませんが、東京証券取引所等の証券取引所において、震災による特別損失の計上で債務超過になった場合、上場廃止までの猶予期間を通常の1年間から2年間に延長することが発表されています。

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