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Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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株価算定と取締役の責任

M&Aの際,取締役はその義務(善管注意義務,忠実義務)として,株主の利益の最大化を図る義務を負いますが,取締役の責任は,近年厳格化の傾向にあるといえます。以前は,取締役は法令及び定款の定め並びに株主総会の決議に違反せず,会社に対する忠実義務に背かない限り広い経営上の裁量を有していました。これは,以前の「コンプライアンス」が「法令遵守」と理解されていたことともつながると思います。当時,M&Aの手法の選択は,高度な経営判断を要するものの一つとして,法令違反がない限り,取締役の広い裁量の範囲内とされていたと考えられます。
 しかし,近年の「コンプライアンス」は「法令等遵守」と理解され,適法性は当然のものとして,企業にはそれ以上の社会的責任が求められるようになってきています。同様に,取締役の判断にも適法性を前提とした「公正性・妥当性」までもが強く求められるようになってきており,この点につきアパマンショップ事件(*1)を例に検討してみたいと思います。

この案件においては,株式会社アパマンショップホールディングス(ASH)が一株5万円での株式譲受によるアパマンショップマンスリー株式会社(ASM)の買収を決定する際,①本件が取締役社長の単独決済が可能な事案であったにも拘らず,慎重を期して経営会議にて決定し,かつ,②ASMの株主と良好な関係を維持する必要等に鑑みて5万円の買取価格を妥当だとする弁護士の見解を得ていました。

しかし,東京高裁は,取締役の経営判断が許された裁量の範囲内にあるといえるための要件として,①1株あたりの買収価格を5万円と設定する必要性,②より低い額での買い取りの可能性の検討,③買取価格が株式鑑定評価額(*2)から乖離する程度と会社経営上期待できる効果との均衡,④買取と同時並行で検討されていた株式交換手続における交換比率(*3)及びこれを決定する前提となったASMの株式の評価額との差額等,という判断の要素を列挙した上で,これらの点に関する調査及び検討について不注意がないこと,及びその意思決定及び内容がその業界における通常の経営者の経営上の判断として特に不合理又は不適切でなかったことを要求しています。

そして,これらの諸点について,①5万円という額は,出資価格と同額に設定したものに過ぎない,②5万円よりも低い額での買い取りの可能性についての調査や検討がなされていない,③買取代金の支払いはASHの経営に大きな影響を与える反面(*4),完全子会社化することによる効果の慎重な検証が見られない,④株式交換検討時におけるASMの株式評価との間に大きな差があり,その差について合理的な根拠がないと指摘して,取締役の責任を認めました。

本件において,ASHは本件株式譲受をあえて経営会議事項とし,専門家の意見を求めながら最終的に経営判断としての決定をしており,外形的には適切なプロセスを経ているといえるのですが,裁判所は,取締役の経営判断に対して,外形的プロセスのみならず,最終判断に至るまでの議論の内容,程度及び結論に至るまでの判断プロセスまでも合理的で了解可能であることを求めたわけです。

特に,本件については,(i)株式鑑定評価書と買取価格の間に5倍の開きがある点及び,(ii)完全子会社化という同一目的に向けた2つの手続(株式買取及び株式交換)において,株式価格に関して異なる評価をしている点につき合理的な説明や十分な検討が見られなかった点が,本件において裁判所が踏み込んだ実質的判断を行った要因になったのではないかと思います。つまり,近時は,上場会社/非上場会社を問わず,株式評価の際に株価鑑定を行うことが一般的なプロセスとなっているところ,(i)客観的に数値化された評価が存在する際に,これと大きく異なる価格を前提とした決定をする,あるいは,(ii)同一目的を有する一連の手続において複数の鑑定価格が出ている場合には,十分な検討と決定に至る論理が事後的に了解可能な形で明示されることが求められているといえます。裁判所が経営判断の内容の是非につきどこまで踏み込んだ判断をすべきかについては議論の余地があると思いますが,取締役の判断につき,外形的プロセスを履践することのみならず判断の基礎となる事実と導かれる結論との間に不自然な飛躍がなく,十分な検討に基づいた追跡可能な判断プロセスが示される必要がある点に,一層の注意が必要です。
【執筆:弁護士吉村尚美】

(*1) 上場会社の株式会社アパマンショップホールディングス(ASH)が,非上場会社のアパマンショップマンスリー株式会社(ASM。当時すでにASHはASMの発行済株式の66.7%を保有。)を完全子会社化する際に,特定の株主1社(A社)を除くすべての株主から,1株あたり5万円でASMの株式を買い取ったことに関し,ASHの取締役らに善管注意義務があったとして,ASHの株主が損害賠償を求めた事案。なお,譲渡に応じなかったA社を株式交換により締め出すことを想定しており,その際の株式交換比率は,ASHの株式を約 1万円とする評価を前提とするものであった。東京地裁(平成18年(ワ)第22156号)は,「経営判断の原則」の下,取締役の責任を否定したのに対して,東京高裁(平成20年(ネ)第226号)はこれを認めた。
(*2) 買取実施の決定の後まもなく,ASMが,A社との株式交換を念頭において作成された交換比率算定書を監査法人から受領。ASMの株式評価額を1株9,709円とする内容だった。
(*3) 株式交換比率は,ASHの株式を約1万円とする評価を前提にしていた。
(*4) 買取価格を一律5万円とした結果,支払総額は,1億5800万円となった。なお,平成17年度9月期のASHの営業利益は9億4100万円,純利益は4億7900万円であった。
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表明保証条項(その2)~契約締結権限及び契約の有効性/財務諸表~

1 契約締結権限及び契約の有効性
【英語】Authority and Validity. Seller has the corporate power, right and authority to execute and deliver this Agreement and the Transaction Documents and to perform its obligations under this Agreement and the Transaction Documents. Seller does not need to give any notice to, make any filing with, or obtain any authorization, consent, or approval of any Person, including, without limitation, any government or governmental agency, in order to consummate the transactions contemplated by this Agreement. This Agreement and each of the Transaction Documents constitutes the legal, valid, and binding obligation of Seller, enforceable in accordance with its terms.
【日本語】売主は,本契約及び取引関連契約を締結・交付し,契約上の義務を履行する権限を有している。売主は,本契約意によって企図されている取引を完了するために,政府機関を含めいかなる者に対しても,通知,申請,許認可・承認の取得を行う必要がない。本契約及び個々の取引関連契約は,その文言に従って強制執行可能な,法的に有効で拘束力のある売主の義務を構成する。
【注意点】上記において,”deliver”という言葉が入っているのは,英米法特有の考え方に基づきます。すなわち,大陸法では,意思の合致=「申込み(offer)と承諾(acceptance)」があれば契約は成立し,契約(contract)と合意(agreement)の間に差異はなく,いずれも裁判を通して強制執行が可能となりますが,英米法においては,契約(contract)と合意(agreement)の効果が異なり,「契約(contract)とは,法律上強制可能な合意(agreement)」と定義付けられます。そして,法的拘束力がある(enforceable)契約とするためには,原則として,意思の合致に加えて,契約の相手方に提供する対価を意味する約因(consideration)が必要ですが,例外的に,捺印証書(deed)による場合は,約因がなくとも強制執行可能とされます。この捺印証書は,①書面,②捺印,③交付の3要件を充たす場合に有効性が認められるところ,約因がなかったと認定された場合にも契約の有効性を守るべく,③交付(”deliver”)というプロセスが重要視され,その結果,表明保証条項にも意図的に交付(”deliver”)という言葉が入ってくるのです。ちなみに,②捺印とは,正式には,いわゆるsealing waxを溶かして行う刻印ですが,最近では省略されることが多く,アメリカでは,②の要件を廃止した州もあります。

2 財務諸表
【英語】Financial Statements. Schedule ● attached hereto consists of certain balance sheets, profit and loss statements and other financial statements of the Seller’s Business delivered to Buyer prior to the Closing, including, without limitation those that set forth the Seller’s financial condition with respect to its business operations relating to the Acquired Assets as of December 31, 2007, December 31, 2008 and March 31, 2009 (all of the foregoing being collectively referred to hereinafter as the “Financial Statements”). All Financial Statements were prepared in conformity with generally accepted accounting principles, applied on a consistent basis throughout the periods covered thereby, and are accurate and present fairly the financial position of the Seller’s Business at the dates thereof and the results of operations of the Seller’s Business for the periods indicated. Since the December 31, 2008 Financial Statements, there has been no Material Adverse Change relating to Seller.
【日本語】別紙●は,クロージングまでに買主に交付された売主の事業に関する貸借対照表,損益計算書その他の財務諸表の一覧であり,2007年12月31日,2008年12月31日及び2009年3月31日付けの譲渡対象資産に関連する事業に関する売主の財務状態を示すものを含む(以下,総称して「本件財務諸表」という。)。全ての本件財務諸表は,上記期間に継続して適用されるGAAPに従って作成されており,正確で,各期日における売主の事業の経済的な状態及び該当期間における売主の事業の実績を正しく表現している。2008年12月31日付け財務諸表作成以降は,売主に関して重大な悪化は発生していない。
【注意点】財務諸表が特定の日時点の財務状態を表すものとして作成される関係で,買主から見れば,その特定の日以降にMACが発生していないことを表明保証してもらう必要があります。財務諸表の表明保証に関して実務上紛争につながりうるものとして,例えば,預り金債務の金額が挙げられます。事業運営に関連して,使い終わったら返してもらう前提で何かをユーザーに貸す場合があります。その場合,売主の貸借対照表には,負債として預り金債務が計上されているわけですが,何らかの事情で,事業承継後に預り金返還債務が予想以上に存在したことが判明するケースがあります。この場合,財務諸表の真実性・正確性に関する表明保証条項を根拠に買主は売主に対して補償を請求するでしょう。これに対して,売主はどう対抗・反論できるでしょうか。この問題については,機会を改めて説明したいと思います。

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