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Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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お知らせ

いつも本ブログにお立ち寄りいただき、誠に有難うございます。
私事になりますが、この度レイサム&ワトキンス法律事務所(米国ニューヨーク州)での勤務を終え、日本に帰国することとなりました。その関係で、ブログの更新がしばらくできなくなる見込みですが、帰国後はこれまで同様M&A業務に積極的に取り組み、ブログの更新も再開する予定にしておりますので、引き続き宜しくお願い致します。

お陰様でブログのエントリー数も150近くになり、延べ訪問者の数も、今私が確認したところ縁起の良いことに7777人でした。今となっては、5人の訪問があった時点で感激していたブログ開設初日が懐かしい限りです。日本にはM&A関連の専門的ウェブサイトや情報発信ブログがほとんど存在しないことから(アメリカには少なくない数のM&A情報発信サイトが存在します)、自分でそれを立ち上げようと思い立って始めた本ブログですが、この5ヶ月間で大きなテーマは相当数拾えたのではないかと思っています。

と言いましても、M&A関連のテーマはまだまだ残っているように思います。例えば、アメリカでは、本日(2008年7月21日)、Yahoo社が、同社に対して委任状争奪戦(Proxy Fight)を仕掛けていた投資家のCarl Icahn氏と和解したと発表しました(Icahn氏はYahoo社の取締役となる予定)。日本でも、2006年暮れのイチゴジャパンファンドエー(東京鋼鐵の株主)による委任状争奪戦以来、会社と折り合いがつかず委任状争奪戦にまで発展するケースが増えてきており、その結果、委任状争奪戦のプロセスやそこに含まれる諸問題についての議論も活発化しています。M&A情報ブログとしてはこういった問題についても広く拾っていく必要があると考えておりますので、機会を見つけてまた取り上げてみたいと思います。

それでは、いつの日か、皆様と日本あるいは世界のどこかでお会いできる日を楽しみにしております。また、何かメッセージやご質問、ご意見などがございましたら、いつでもtigaki@kitahama.or.jpまでメールをお送りください。

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M&Aのスケジューリング(その3)~上場会社間M&Aのシミュレーション~

2.上場会社間のM&Aのケース

続いて、上場会社間の吸収分割のケースでスケジュールがどうなるか、シミュレーションしてみたいと思います。設例中の当事会社については、市場シェアがそれなりにあるため独禁法上の問題が生じるほか、税制適格分割への該当性に関しても事前に国税庁に問い合わせる必要があるものと仮定します。また、会社法上は、会社分割の効力発生日の前日までに株主総会の承認決議を取れば足りるとされているわけですが、株主が多数に上る上場会社同士のM&Aにおいてはなるべくスムーズに手続が進むように特別の配慮をする必要があります。例えば、株主総会の承認が得られるかどうかが未だ明らかでないにもかかわらず、反対株主に株式買取請求権を行使するよう求めたり、債権者の異議申述を求めたりすると、混乱が発生する可能性があります。そこで、以下では、先に株主総会の承認決議を得た上で、そこから反対株主の株式買取請求権行使期間と債権者の異議申述期間が開始するというスケジュールを組んでみました。

 
承継会社サイド
分割会社サイド
備考
2008年1月31日
 
公取委への事前相談開始(*1)
公取委の事前相談手続が第二次審査まで進む可能性を想定し、株主総会の6ヶ月前に案件を持ち込むこととしました。
2008年3月31日
 
国税庁への事前照会開始
余裕を持って株主総会の4ヶ月前に事前照会を開始することとしました。
2008年5月30日
     分割契約締結承認&株主総会招集に関する取締役会決議
     プレスリリース(適時開示)
     吸収分割契約締結
     臨時報告書提出(金商法24条の5第4項)
     分割契約締結承認&株主総会招集に関する取締役会決議
     プレスリリース(適時開示)
     吸収分割契約締結
     臨時報告書提出(金商法24条の5第4項)
     労働組合または労働者代表との協議開始(*2)
     労働者との個別協議開始(*3)
 
     労働者との協議開始日をプレスリリースと同日に設定することで混乱が回避できます。
     労働組合・労働者代表との協議は、「労働者との個別協議の開始」までに開始する必要がありますが、ここでは同日設定にしました。
     労働者との個別協議は「株主総会の2週間前までに行なわれる労働者・労働組合への通知」までに完了している必要があります。ここでは、上記通知の45日前に個別協議が開始するスケジュールになっています。
2008年5月31日
基準日公告(会社法124条3項)
基準日公告(会社法124条3項)
基準日公告は、基準日の2週間前までに行なう必要があります。
2008年6月15日
基準日
基準日
ここから株主確定手続に入りますが、その手続と株主総会招集通知の準備に1ヶ月かかると想定しました。
2008年7月15日
     株主総会招集通知(会社法299条1項)
     株主宛て通知(会社法797条3項)
     事前開示書類の備置(会社法794条1項、2項、施行規則192条)(*4)
 
     株主総会招集通知(会社法299条1項)
     株主宛て通知(会社法785条3項)
     事前開示書類の備置(会社法782条1項、2項、施行規則183条)(*4)
     労働者・労働組合への通知(*5)
 
     招集通知は総会の2週間前までに発送する必要があります。
     株式買取請求権に関する株主宛て通知は、組織再編行為の効力発生日の20日前までに行なう必要がありますが、通知の手間と費用を抑えるために株主総会招集通知と併せて行なうことが考えられます。その結果、今回は効力発生日(9月1日)の45日前の発送となりました。なお、この通知は一定の場合には公告に代えることができます(会社法797条4項、785条4項)。
     事前開示書類の備置は、組織再編の効力発生後6ヶ月間経過するまで維持する必要あり
     労働者・労働組合への通知については、法律上、株主総会の2週間前までに行なう必要があり、かつ、労働契約承継法ガイドラインは、「事前開示書類備置開始日または総会招集通知発送日のうちのいずれか早い日に通知することが望ましい」としています。
2008年7月29日
 
労働者からの異議申述期間最終日(*6)
異議申出は、労働者への通知がなされた日から最低13日間は受け付けなければなりません。
2008年7月30日
株主総会
株主総会
反対株主の意思通知は株主総会に先立って行なわれる必要があります。
2008年7月31日
債権者異議申述公告・催告(会社法799条)
 
     債権者異議申述公告・催告(会社法789条)
     公取委への事前届出の期限
     債権者異議申述期間については、1ヵ月以上設ける必要あり
     公取委への事前届出は、待機期間を考慮し、原則として効力発生日の30日前までに行なわなければなりません(独禁法15条の2第3項、15条4項)。
2008年8月12日
株式買取請求権行使可能期間開始(会社法797条5項)
株式買取請求権行使可能期間開始(会社法785条5項)
株式買取請求権行使可能期間は効力発生日の20日前から開始
2008年8月31日
     株式買取請求権行使可能期間終了
     債権者異議申述期間終了
     株式買取請求権行使可能期間終了
     債権者異議申述期間終了
株式買取請求権行使可能期間は効力発生日の前日に終了
2008年9月1日
     分割効力発生日
     事後開示書類の備置(会社法791条1項、2項、801条3項)
     分割効力発生日
     事後開示書類の備置(会社法791条1項、2項、801条3項)
 
2008年9月15日
変更登記の期限(会社法923条、商登法46条他)
変更登記の期限(会社法923条、商登法46条他)
変更登記の期限は本店については効力発生日から2週間以内、支店については3週間以内
2008年10月31日
価格に争いがない場合の株式買取請求支払期限
 
株式買取請求に対する支払いは効力発生日から60日以内に行なう必要あり
2009年3月1日
事前開示書類・事後開示書類の備置期間満了
 
会社分割無効の訴えに関する提訴期限についても、効力発生日から6ヶ月以内(会社法828条1項9号)


上記のとおり、上場会社間のM&Aでは、簡易・略式組織再編が利用できる最もシンプルなケース(<M&Aのスケジューリング(その2)~簡易型のシミュレーション~>)に比べて、公取委・国税庁への事前相談・照会の手続を除いても2ヶ月早くプレスリリースを行なって各種手続を進めていかなければならないことが分かります。


(*1) 公取委への事前相談手続としては、原則として、事前相談の申し出があった日から20日以内に第1次審査が始まり、特段の問題が見当たらなければ審査開始日から30日以内にその旨通知されます。第1次審査の結果、独禁法上の問題が考えられるという場合には、第2次審査に進みます。第2次審査に進むと、公取委は相談内容を公表し、関係者からの意見を募集しますので、それを前提に報道発表の準備などを行う必要があります。第2次審査においては、企業側が必要な資料を提出した日から原則として90日以内に、結果の通知がなされます。詳細は、<M&Aと独禁法(その7)(日本の場合-事前相談制度)>をご覧ください。
(*2) 会社は従業員の「理解と協力」を得るために、労働組合(労働者の過半数で組織する労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者)と協議しなければならないとされています(労働契約承継法7条、6条2項、同法施行規則4条)。
(*3) 会社は、労働組合や労働者代表との協議とは別に、株主総会の2週間前までに「従業員との個別協議」も行なわなければなりません(平成12年商法等改正法附則5条)。これは、労働計画書等の内容を事後的・一方的に従業員に告知するだけでは、自分がなぜ承継対象なのか(承継対象でないのか)、今後どのような業務を行うことになるのかといった点について従業員がきちんと理解することが難しいからです。
(*4) 事前開示書類は、
ア 株主総会開催日の2週間前の日
イ 株主への通知または公告の日
ウ 債権者への公告または催告の日
のうち、最も早く到来する日から
備置を開始しなければならないとされています。
(*5) 各従業員の雇用契約が承継されるか否か、また、承継される場合の雇用条件・就業場所などは従業員にとって非常に大事な話になりますので、会社は、分割契約書等を承認する株主総会の2週間前までに
① 「承継される営業に主として従事する労働者」全員
② 「承継される営業を従たる職務とする労働者」であるが承継対象となっている人
③ 労働組合

に対して、書面により法律で定められた事項を通知しなければなりません(労働契約承継法2条1項、2項)。
(*6) 「承継される営業に主として従事する労働者」であるにも拘らず、分割計画書・契約書に記載されなかった人は、異議申出権を行使することによって承継会社に移ることができます。また、逆に、「承継される営業を従たる職務とする労働者」であるにも拘らず、分割計画書・契約書に記載されてしまった人についても、やはり異議申出権を行使することによって、分割会社に残ることができます(労働契約承継法2条1項1号・2号、3条ないし5条)。

M&Aのスケジューリング(その2)~簡易型のシミュレーション~

1.最もシンプルなケース

最もシンプルな手続で済むM&Aの一つが、100%親子会社間の吸収合併で(いわゆる略式合併になる)、かつ、子会社の純資産額が親会社の純資産額の20%以下である場合(いわゆる簡易合併になる、*1)だと思いますが、この場合のスケジュール例としては以下のようになります。なお、存続会社は公開会社であると仮定します。

 
存続会社サイド
消滅会社サイド
備考
2008年7月31日
     合併契約締結承認に関する取締役会決議
     プレスリリース(適時開示)
     合併契約締結
     臨時報告書提出(金商法24条の5第4項)
     事前開示書類の備置(会社法794条1項、施行規則191条)
     債権者異議申述公告・催告(会社法799条)
     株主宛て公告(会社法797条3項、4項)
     合併契約締結承認に関する取締役会決議
     プレスリリース
     合併契約締結
     事前開示書類の備置(会社法782条1項、施行規則183条)
     債権者異議申述公告・催告(会社法789条)
     株主宛て通知(会社法785条3項)
     存続会社が消滅会社の株式に関して株券の発行を受けていれば、株券提出公告が必要(会社法219条1項但書、6項)
     事前開示書類の備置は、合併の効力発生後6ヶ月間経過するまで維持する必要あり
     債権者異議申述期間については、1ヵ月以上設ける必要あり
     株主宛て公告・通知については、合併の効力発生日の20日前までに行えば足りる
2008年8月12日
株式買取請求権行使可能期間開始(会社法797条5項)
株式買取請求権行使可能期間開始(会社法785条5項)
 
2008年8月31日
     株式買取請求権行使可能期間終了
     債権者異議申述期間終了
     株式買取請求権行使可能期間終了
     債権者異議申述期間終了
 
2008年9月1日
     合併効力発生日
     事後開示書類の備置(会社法801条3項)
     合併効力発生日
 
2008年9月15日
変更登記の期限(会社法921条、商登法79条他)
変更登記の期限(会社法921条、商登法79条他)
変更登記の期限は本店については効力発生日から2週間以内、支店については3週間以内(会社法932条)
2008年10月31日
価格に争いがない場合の株式買取請求支払期限
 
株式買取請求に対する支払期限は、効力発生日から60日以内
2009年3月1日
事前開示書類・事後開示書類の備置期間満了
 
合併無効の訴えに関する提訴期限についても、効力発生日から6ヶ月以内(会社法828条1項7号)

次回のコラムでは、手続がより複雑なケースについて取り扱います。


(*1) 正確には、吸収合併消滅会社の株主に交付する吸収合併存続株式会社の株式の数に1株当たり純資産額を乗じて得た額と吸収合併存続株式会社の株式等以外の財産の帳簿価額等の合計額が、吸収合併存続株式会社の純資産額の5分の1(20%)を超えない場合(会社法796条3項)。

M&Aのスケジューリング(その1)~会社法上の手続~

旧商法時代の組織再編行為に関するスケジュールは、「株主総会承認決議の日」が基準となっており、手続を完了させるためには、最短でも、承認決議前の2週間(招集通知送付および事前開示書類の備置期間)、プラス、承認決議後の1ヵ月(株式買取請求権の行使期間20日間および債権者からの異議申述期間1ヵ月間)の合計1ヵ月半が必要でした。ところが、これでは機動的で迅速な組織再編行為に支障が出るということで、会社法においては、「組織再編行為の効力発生日」(*1)が基準とされ、その日までに、株主総会の承認決議、株式買取請求権関連の手続、債権者保護手続が完了していれば足りるという定め方に変わりました。つまり、これらの手続の先後関係がなくなり、同時並行で進めることが可能になっています。

具体的には、

① 株主総会承認決議
組織再編行為の効力発生日の前日までに決議が取得できれば良い(会社法783条1項、795条1項)。

② 株式買取請求権
会社法が議決権制限株主にも株式買取請求権を与えたこととも関連していますが、株主総会がいつ開催されるかに関係なく、組織再編行為の効力発生日の20日前までに(*2)、全株主に対して通知・公告を行なわなければなりません(会社法785条3項4項、797条3項4項)。その結果、株主は、効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日まで(*3)、株式買取請求権を行使することができます(会社法785条5項、787条5項、797条5項)。

③ 債権者保護手続
債権者保護手続においては、債権者による異議申述期間を1ヵ月以上定めなければなりません。よって、組織再編の効力発生日の前日までには債権者保護手続が完了しているように、効力発生日から逆算して債権者への公告・催告日を決定する必要があります。

なお、事前開示書類については、
ア 株主総会開催日の2週間前の日
イ 株主への通知または公告の日
ウ 債権者への公告または催告の日

のうち、最も早く到来する日から備置を開始しなければならないとされています。

以上が会社法上の手続ですが、今までに述べてきたように、状況によっては独禁法上の事前相談・事前届出、外為法上の対内直接投資として事前届出、株主が居住する外国の証券取引委員会等への届出、適格組織再編への該当性に関する国税庁への事前照会などが必要になり、その場合は提出を求められる資料の準備等に数ヶ月から半年近くかかることもありますので、更に入念なスケジューリングが必要になってきます。

次回のコラムでは、合併などのケースにおけるスケジューリングについて具体的にシミュレーションしてみたいと思います。


(*1) 従来は、組織再編行為の「登記日」が当該組織再編行為の「効力発生日」でしたが、会社法は「当事者間が契約書に効力発生日として記載した任意の日」をもって当該組織再編行為の「効力発生日」にすることを認めていますので、当事者間で協議をしてスケジュールを柔軟に作っていくことが可能になりました。ただし、新設合併、新設分割、株式移転では、旧法時代と同様、組織再編行為の「登記日」が当該組織再編行為の「効力発生日」ですので、効力発生日を事前に特定することができない場合もありえます。
(*2) 新設型組織再編の場合は、株主総会決議日から2週間以内に(会社法806条3項4項)。
(*3) 新設型組織再編の場合は、通知・公告日から20日以内(会社法806条5項、808条5項)。

日本企業による海外企業の買収手法(その3)

前回のコラムで、日本企業の株式を対価として海外企業の株主から株式を取得する場合の注意点としては、公開買付け規制現物出資規制の2点が挙げられると書きましたが、現物出資規制に関しては、取締役の財産価額填補責任の存在に気をつける必要があります。すなわち、現物出資財産の価額が、蓋を開けてみれば株式発行決議時の評価額と比較して著しく不測していたというケースでは、その決議に参加した取締役は、注意を怠らなかったことを立証できない限り(*1)、不足額に関して連帯して会社に払い込む義務を負います(会社法213条1項・2項・4項、同法施行規則44条以下)。

すなわち、現物出資対象となる海外企業の株式に関して株式発行決議の後に株価が下落した場合、取締役はその価値下落分に関して責任を負わされる可能性が出てきます。これは現物出資財産が日本企業の株式であるか海外企業の株式であるかを問いませんが、海外企業の場合は日本企業の場合と比べて将来の株価変動につながるような資料・情報が入手しにくい場合があると思われ、しかし、だからといって対象会社に関して十分な調査を行なわずに現在と過去の株価だけを見て現物出資財産の価額を決めてしまうと、調査不測、すなわち過失ありと認定される可能性がありますので、より慎重な価額決定プロセスが要求されると言えるでしょう。なお、対象会社が非上場であれば、もともとその株価は目に見えにくいものですので、取締役の財産価額填補責任が問題となる可能性は減るものと思われますが、この場合は「市場価格のない有価証券」になりますので、検査役の調査、あるいはそれを回避するための弁護士・公認会計士・税理士等の証明(会社法207条9号)が必要になってきます。

また、別の問題として株式の有利発行規制にも注意する必要があります。なぜなら、株式の大量取得を目指している場合、既存株主からは、支配権移動に伴うプレミアム付き価格で株式を買い取ることが通例だからです。これを株式を対価とする株式買取りに当てはめれば、例えば、現物出資財産の価額が1億円しかないのに、既存株主には1億3000万円分の新株を発行するといった形になりますので、発行する株式1株当たりの払込金額が減ることにつながります。よって、有利発行の度合いが大きい場合は株主総会の承認決議(会社法201条1項、199条3項)を経ることも検討しなければならない場合が出てくると考えられます。ただ、そもそも、「現物出資財産の価額」自体が、支配権移動の価値も含んでいるものであるはずだから、単純な株価相当額の1億円ではなく、プレミアムも含んだ1億3000万円であると考える余地も有りますので、この点は、解釈論の更なる充実を待ちたいところです。

最後に、海外企業を100%子会社にするためには、株式買取り後にShort-Form Mergerなどを利用して残存株主をスクイーズ・アウトすることになりますが、Short-Form Mergerといった手法が採れるか否かということと、スクイーズ・アウトの許容性(少数株主保護の問題)についてはまさにその海外企業側の法律・判例の問題ですので、現地のM&A専門弁護士との十分な事前協議が大事になってきます。


(*1) この取締役の財産価額填補責任は旧法下では無過失責任でしたが、会社法になって過失責任となりました。

日本企業による海外企業の買収手法(その2)

2.準拠法について

さて、海外企業を買収する場合、その海外企業の設立準拠法や本拠地法を確認する必要があるかどうかが次に問題となります。たとえ日本の会社法が、「三角組織再編における子会社による親会社株式取得」を認めていたとしても、外国の法律がそれを認めていない場合があるからです。

「三角組織再編における子会社による親会社株式取得」に関しては、一般的に、親会社側の法律によって決めればよいとされていますが、子会社の設立準拠法や本拠地法が「三角組織再編における子会社による親会社株式取得」については子会社側の法律で規律すると定めているケースが皆無とは言えません。その場合は、親会社サイドの法律と子会社サイドの法律が抵触することになってしまいますので、子会社の設立準拠法や本拠地法の内容をチェックし、親会社サイドの法律に委ねられているのか、委ねられていない場合には、日本法と抵触しないかを確認しておかなければなりません。

続いて、三角組織再編を利用できるか、すなわち、買収される企業の株主に買収する企業の親会社の株式を対価として交付してよいかという問題については、買収される企業の設立準拠法や本拠地法が日本のように「対価柔軟化」を認めているか否かにかかってきます。よって、この点の確認が必要です。

また、合併や株式交換といった組織再編行為には通常取締役会や株主総会の承認手続が必要ですが、これは国によって異なることがありますので、買収される企業の設立準拠法や本拠地法に照らして必要な手続およびそれに要する日数を確認しておかなければなりません。

3.海外子会社による日本の親会社株式取得の手法について

子会社が親会社株式を取得する手法には、

① 市場において親会社株式を取得する
② 市場外で、第三者から親会社株式を取得する
③ 親会社から新株の発行を受ける
④ 親会社が自己株式や新株を子会社に対して現物出資する


方法などがあり、それぞれ問題を含んでいるということを、<三角組織再編の手続と留意点(その2)>で述べました。この議論は、日本企業による海外企業の買収時にも当てはまります。そして、親会社と子会社が現物出資の形を採って相互に新株発行や自己株式を行なう場合には、子会社側の設立準拠法や本拠地法を確認する必要性が高まりますので、更に注意が必要です。

4.日本企業の株式を対価として海外企業の株主から株式を取得する場合の注意点

これまで、合併・株式交換といった組織再編手法を検討してきましたが、オプションとしては株式取得の方法も存在します。株式取得となると、一定数を超える取得を目指す場合は対象会社国の公開買付け規制に服することになるほか、株式を対価として株式を発行することになる点で、現物出資規制が関係してきます。

現物出資規制との関係では、検査役の調査を回避できることが大事になりますが、買収対象の海外企業が上場企業であれば「市場価格のある有価証券」が現物出資財産となりますので、

① 価額決定日における当該有価証券の市場価格
② 価額決定日における公開買付け等に係る契約における当該有価証券の価格

のいずれか高い方の金額を超えなければ
、会社法207条9項3号・会社法施行規則43条によって検査役の調査を回避することが出来ます。

株式取得の方法による海外企業買収に関する問題点の続きは、次回のコラムで述べたいと思います。

日本企業による海外企業の買収手法(その1)

<三角組織再編の手続と留意点(その3)>において、「新しい会社法では、消滅会社の株主等に対して親会社株式を交付するのに必要な限度での親会社株式の取得を認めていますので(会社法135条2項5号、同施行規則23条8号)、日本企業が海外で三角合併を行うために、海外に子会社を設立し、その子会社に日本の親会社の株式を取得させることができるようになりました。」と書きましたが、日本の会社が海外の会社を買収したり海外の会社と合併したりする場合の方法や問題点について更に紹介して欲しいというリクエストがありましたので、ここでまとめておきたいと思います。

そもそも日本企業が海外企業を買収する場合、日本板硝子によるピルキントン(英)の買収(2006年2月)や、JTによるガラハー(英)買収(2006年12月)に見られるように、現金を対価とするケースが多いようです。その理由としては、税務上の問題(原則的な考え方としては、対価として「現金」を受け取ると、資産・負債を移転した対象会社においてその譲渡損益に関する法人税処理が必要となり、対象会社の株主に関しては株式譲渡益課税やみなし配当課税が行われる)に加えて、対象会社国の証券規制の問題が考えられます。後者に関して言えば、例えば、日本企業が米国企業を吸収合併するケースで、米国在住株主に存続会社(日本企業)の株式を交付する場合、1933年証券法に従ってSECに対してForm F-4と呼ばれる登録届出書を提出しなければなりませんが、この作業が相当手間と費用の掛かるものとなっています。

それに加えて、海外企業の株主に日本企業の株式を交付するということは、日本企業が当該外国の証券取引所に上場していない場合には、当該外国では流動性が不十分な株式を交付するということになりますので、それが障害となり対象会社株主の同意が得られないことも十分考えられます。この問題は、日本企業が買収の対象となる三角組織再編に関して、日本側の抱く懸念として既に十分議論されている点ですので、同じ問題が相手国側でも当然に起こりうるということです。このような問題があるために、株式を対価とする海外企業の買収・合併が少ないのが現状です。

では、法律上、株式を対価とする海外企業の買収・合併ができないのかと言えば、そうではありません。最初に述べたように、会社法によって、消滅会社の株主等に対して親会社株式を交付するのに必要な限度での親会社株式の取得が認められるようになりました。従来、海外子会社に日本の親会社株式を取得させて、それ(あるいはそれを原株とするADR(*1))を対価として海外企業を買収する手法(*2)には、

①子会社による親会社株式取得規制
②自己株式取得規制
③現物出資規制


の3つが障害になると指摘されていましたが、少なくとも①については立法的に解決されたわけです(*3)。そこで、以下では、具体的に日本企業が海外企業を買収する手法のうち、株式を対価とする方法について、順に見ていきたいと思います。

1.プロセス

日本企業による海外企業買収のプロセスは、海外企業が日本企業を三角組織再編によって買収する手法とほぼ同じです。すなわち、原則として、以下のプロセスを踏むことになります。ただ、100%子会社とするか否かに関しては、上記で述べた京セラ方式の問題点②との関係で、京セラがそうしたように意図的に95%といった数字に抑えておく手法が考えられます(100%であれば、「100%子会社に親会社株式を取得させることは経済的に見れば自己株式の取得に他ならない」という指摘がなされる可能性がより高いため)。

① 海外に100%子会社を設立する。
② 海外子会社に日本の親会社株式を取得させる。
③ 海外子会社と海外の対象会社を合併させる(株式交換でも良い)。
④ 海外の対象会社株主に日本の親会社株式を交付する。


なお、日本の会社法は日本企業が海外企業と直接合併や株式交換を行うことを依然認めていませんので、上記①の「海外子会社の設立」は必須のプロセスとなります(既に存在する子会社を利用しても構いません)。

次回のコラムでは、親会社株式の取得に関わる論点や、準拠法の問題等について具体的に見ていきたいと思います。


(*1) 米国預託証券(American Depositary Receipt)
(*2) いわゆる京セラ方式。
(*3) ただし、海外子会社が日本の親会社の株式を取得した上で、それを対価として海外企業の株主から「株式買取り」を行なうことは新会社法でも認められていませんので、その点は注意が必要です。

日本における対内直接投資規制の概要(英語版)

財務大臣・経済産業大臣が、2008年5月13日付けで、TCIファンド(ザ・チルドレンズ・インベストメント・マスターファンド)に対し、電源開発株式会社の株式追加取得に係る対内直接投資を中止するよう命令したニュースは、日本におけるFDIに対する初の中止命令ということで、アメリカでも波紋を呼んでいます(*1)。そのような流れの中で、日本における対内直接投資規制の概要について英語でまとめる機会がありましたので、掲載しておきたいと思います。なお、転用される場合には、その時点における最新の情報が反映されているか否かにつきご確認ください。以下の内容は2008年6月末現在のものです。

1. Primary Law regulating FDI in Japan
In Japan, foreign investment is regulated mainly by the Foreign Exchange and Foreign Trade Act (FEFTA) in 1949, which allows government ministries to prohibit or restrict a proposed foreign investment when they think the investment may harm national security, public order, public safety, or the smooth management of the economy.

2. Definition of “foreign investment”
In the first place, “foreign investment” defined under FEFTA includes: (1) acquisition of at least 10 percent foreign ownership of shares in a company listed on a Japanese stock exchange; (2) acquisition of any shares in an unlisted company; (3) establishment of a branch, factory, or other business office in Japan; (4) consent given to change the corporate objectives of a domestic company with one-third or more foreign ownership; or (5) loan of certain types and amounts of money to domestic companies.

3. Regulatory Frame
The regulation on foreign investment in Japan under FEFTA can be classified into two categories - prior notification and after-the-fact reporting. The sensitive sectors enumerated below require prior notification and government approval.
• aircraft, weapons, nuclear power, spacecraft, and gunpowder (in light of national security);
• electricity, gas, heat supply, communications, broadcasting, water, railroads, passenger transport (in light of public order);
• biological chemicals, guard services (in light of public safety); and
• primary industries relating to agriculture, forestry and fisheries, oil, leather and leather products manufacturing, air transport, and maritime transport (in light of smooth management of the economy).
Furthermore, FEFTA requires prior notification for investments from countries with which Japan has not completed a reciprocal investment agreement.
Foreign investment in other sectors only requires an after-the-fact notification to the government, whereas there are some types of insignificant investment which requires neither a prior notification nor an after-the-fact notification even when the investment is conducted by foreign corporations or foreign individuals.

4. Recent Change of Regulation
A Japanese Cabinet Ordinance came into effect on September of 2007 which was the first amendment since the latest amendment of FEFTA in 1991. This Cabinet Ordinance requires prior notification for foreign investment related to items used for the maintenance of the defense industrial. To be specific, the change covers industries related to the manufacture of arms, aircraft, satellites, and nuclear reactors, including testing equipment, repair equipment, and certain types of software usable in weapons and airplanes. The change also includes foreign investment in a parent company when its subsidiary falls under a sector that is subject to review.

5. Review and Reporting Process
The ministries are given 30 days to complete the reviewing process of a proposed foreign investment after a foreign investor has notified the ministries of the proposed investment. If the investor has not received a response from the ministries within the 30 days, the transaction is automatically approved. The review period may be extended up to 4 months in case they believe further inquiry is needed. A Committee on Foreign Exchange and Other Transactions also may extend the review period an additional month. In actual business, the review period are frequently shortened to 14 days by the request of the parties and the approval of the ministries. The ministries review investments on a case-by-case basis, and specific criteria used in the course of the review to decide if the investment poses a significant threat are not made public.
A foreign investor in sectors that require after-the-fact reporting must file a report with the Ministry of Finance and the ministry with jurisdiction over the industry through the Bank of Japan within 15 days after a transaction occurs.
In addition to the review process implemented under FEFTA, there are specific regulations on some sectors such as broadcasting, telegraph, telephone and aircrafts, where foreigners or foreign-controlled enterprises are not granted license or their board members and auditors are required to have Japanese nationality.

6. Penalty in case of Violation
Failure to notify, among other violations under FEFTA, can result in criminal penalties including jail for up to 3 years and/or a fine of three times the investment amount or 1 million yen, whichever is larger.

7. Recent High-Profile Case
While the Japanese government has not used this authority since FEFTA was amended in 1991 to recent days, the Minister of Finance and the Minister of Economy, Trade and Industry of Japan made a recommendation based on FEFTA toward The Children's Investment Fund (TCI) on April, 2008, blocking TCI's efforts to raise its stake in a major electricity company on the grounds that this investment is likely to impede the stable supply of electric power and Japan’s nuclear fuel cycle policy, and disturb the maintenance of "public order." It was the first rejection of such a proposal under a law that requires government approval before foreign companies can hold stakes of more than 10 percent in companies in sensitive sectors such as utilities, broadcasting and weapons manufacturing.

Japan ranked 37th in terms of the average value of FDI inflows world wide between 2000 and 2006, which is significantly less than for other large economies. In March 2006, the Japanese government set an updated goal that has been officially adopted by the cabinet to increase foreign investment in Japan to 5 percent of the country’s GDP by 2010(*2).

(*1) http://www.mof.go.jp/jouhou/kokkin/tci20080513-01.htm
(*2) Foreign Investment Laws and Policies Regulating Foreign Investment in 10 Countries, GAO, February 2008

大量保有報告制度について

今年(2008年)の1月に、金融庁が運営するEDINETに、トヨタ自動車、NTT、ソニー、フジテレビジョンといった大企業の「発行済株式の51%を取得した」とする虚偽の大量保有報告書が掲載され問題となりましたが、今回は、近年の証取法改正によって見直しが行なわれた大量保有報告制度について簡単に見ておきたいと思います。

上場会社の株券等について、新たに発行済株式総数の5%超を取得した場合には、大量保有報告書の提出が必要となります(金商法第27条の23第1項)。報告書の対象となる株券等には、株券、新株予約権証券、新株予約権付社債券、対象有価証券カバードワラント、株券預託証券、株券関連預託証券、対象有価証券償還社債、投資証券等、株券信託受益証券、株券関連信託受益証券が含まれ、5%超か否かの計算は、「自己保有分の株式数及び潜在株式数(*1)」に「共同保有者分の株式数および潜在株式数」を加えた数を、「発行済株式総数」と「自己および共同保有者の保有分の潜在株式数」の合計の数で割って求めます(法第27条の23第4項)。

ここで、「共同保有者」とは、以下の①、②を指します。

① 実質共同保有者(法第27条の23第5項)
 ⇒ 共同して株券等を取得し、譲渡し、又は議決権その他の権利の行使等を行うことを合意している者。
② みなし共同保有者(法第27条の23第6項、施行令第14条の7)
 ⇒ 以下の関係にある場合(*2)。
  ・ 夫婦
  ・ 支配株主(50%超の議決権を有している者)と被支配会社の関係
  ・ 支配株主を同じくする被支配会社同士の関係
  ・ 財務諸表等規則第8条第3項に規定する子会社と親会社の関係
  ・ その他(施行令第14条の7参照)

また、大量保有報告書の提出後、株券等保有割合が1%以上増減した場合その他大量保有報告書に記載すべき重要な事項の変更として政令で定めるものに関しては、変更報告書の提出が必要となります(法第27条の25第1項、施行令第14条の7の2)。

報告書はいずれも、EDINETを使用して提出しなければなりません(平成19年4月1日以降義務化)。提出期限は、報告義務発生日の翌日から起算して土日祝日を除き5日以内で、提出先は、提出者の住所又は居所(法人については本店所在地)を管轄する財務(支)局です(*3)。

ところで、機関投資家(金融商品取引業者、銀行、信託会社等)には、特例報告制度といって、一定の要件を充たせば、基準日(下記組合せのうちいずれかを選択)時点における報告を行うことが認められています(法第27条の26、施行令第14条の8の2第2項)。

・ 各月の第2月曜日及び第4月曜日(第5月曜日がある場合には、第2、第4及び第5月曜日)
・ 各月の15日及び末日(土日に当たるときは直前の金曜日)

これはもともと「3ヵ月毎に到来する基準日から15日以内に報告」とされていた特例報告の頻度・報告期限が、投資家に対する一層透明で迅速な情報開示が必要だという価値判断の下で、より頻繁かつ迅速に報告(2週間毎に到来する基準日から5営業日以内に報告)するように改正されたものです。機関投資家の運用行動についてはオープンにしすぎることによって投機筋に追随されたりしますので、これ以上頻繁な報告は難しいかも知れませんが、機関投資家が会社を支配する目的で大量保有を行なう場合には、別途考慮が必要です。かかる場合には対象会社および投資家に対する迅速な情報開示が必要であると言えますので、金商法は、「株券等の発行者の事業活動に重大な変更を加え、又は重大な影響を及ぼす行為として政令で定めるもの(重要提案行為など)を行なう場合」には、上記「特例報告」ではなく「一般報告」を行なうことを義務づけています。

更に、大量保有している機関投資家が株式を短期間に大量に手放すと、他の株主や投資家に少なくない影響を与えます。しかし、旧法においてはその手当てがなされていませんでした。よって、法改正によって、現時点で10%超保有している機関投資家が10%を下回る取引を行なった場合には、「特例報告」を認めず、5営業日以内の「一般報告」が義務づけられました。

最後に、大量保有報告書や変更報告書などを提出した場合には、遅滞なく、報告書の写しを当該株券等の発行者に対して送付しなければなりません。


(*1) 潜在株式数とは、新株予約権証券等の権利行使によって取得できる株式の数を言います(府令第5条)。
(*2) ただし、内国法人の発行する株券等の場合、単体株券等保有割合が1000分の1以下である場合には、みなし共同保有者から除外されます(府令第6条)。
(*3) 非居住者については関東財務局に提出。

公開買付制度の概要(その6)~全部買付義務ほか~

今回は、平成18年の改正点のうち、「全部買付義務の導入」と「買付者が競合する場合の処理」について述べたいと思います。

まず、「全部買付義務の導入」ですが、旧法下では、買付予定数を上回る応募があった場合には、按分比例方式によって超過部分の全部または一部を買い付けないという選択肢が存在しました。しかし、買付者が発行済み株式を大量に取得してしまった場合、対象会社は上場廃止となる可能性があり、このとき残された少数株主は手残り株を抱えたまま著しく不安定な地位に置かれることになります。そこで、平成18年改正によって、公開買付け後における株券等所有割合が3分の2以上になる場合には、買付予定数の上限を設定することは認められず、その結果、公開買付者は応募株券の全部を買い取らなければならないこととされました。
また、親会社が子会社株式を買付ける結果株券等所有割合が3分の2以上になる場合には、公開買付けによることが強制され、その結果、同じく応募株券の全部を買い取らなければならないことになりました(*1)。

これらは少数株主保護の一方策と言えますが、この「全部買付義務の導入」によっても少数株主が完全に保護されるわけではないと考えます。なぜなら、今回の法改正は、「応募をすれば買い取ってもらえる」ということに過ぎず、応募しなかった株主が救済されるわけではないからです。上場廃止となれば手残り株は容易には処分できなくなりますので、買付け条件に不満があったとしても株を手放す株主が出てくるはずです(*2)。支配株主のFiduciary Dutyが法律上も判例上も認められておらず、いわゆる二段階買収のスキームが採られた場合の二段階目の現金交付合併における対価が公開買付価格と同額であることが制度上保証されていない日本では、「不満があったので応募しなかった株主」と「不満はあるがやむを得ず応募した株主」の双方が被る不利益が考えられ、それらは「全部買付義務の導入」によっても解消されません。そこで、今回の改正は一つのステップとして前向きに捉えた上で、情報開示の更なる強化および公開買付けプロセスの適切さを監視する機関の創設(EU諸国にはかかる監視機関が存在します。例:イギリスの<Takeover Panel>http://www.thetakeoverpanel.org.uk/new/)と、支配株主の責任を認める法理論の確立が必要になってくると考えます。特に最後の支配株主の責任を認める法理論は「買収後の株主保護」策ですので、これが確立されれば、株式取得行為自体の規制の必要性は小さくなります。

なお、ヨーロッパでは、公開買付け規制の先駆け的存在であるイギリスが1968年に「公開買付けと合併に関するシティ・コード」を公表しており、これを受けてEUが2004年に「公開買付けに関する指令」を採択していますが、このシティ・コードおよびEU指令では、買付者は原則として対象会社の発行済株式の全てを対象として買付けを行なわなければならないとされています。また、公開買付け後に残存する少数株主は、一定条件を充たせば会社に対して公正な価格で株式を買い取ることを請求できるシステムになっています(日本にはかかるシステムは存在しません)。

他方、アメリカでは、イギリスのシティ・コード制定と同じ年(1968年)に連邦証券規制の一環としてウィリアムズ法が制定され、公開付規制が始まりましたが、イギリスのような全部買付義務は課されませんでした。その結果、アメリカでは強圧的な二段階買収が流行ったため、これに対抗する意味もあって、ポイズン・ピルが開発されたり、多くの州で反企業買収法が制定され、かつ、判例において少数株主保護のための法理論が作られてきたわけです。

大量の株式取得に関する日本のルール作りは、現在、EU諸国のTOBルールを少しずつ取り入れつつ、他方で、少数株主保護や取締役の責任に関して積み上げられてきたアメリカの判例法も気にしながら、公開買付け規制と買収防衛策をミックスしながら道を探っている状況にあります。行政面では、金融庁が公開買付規制を担当し、経産省と法務省が買収防衛策規制を担当するという縦割り状態ですが、これが、玉虫色のルールを作る結果となっているのかも知れません。早期に国全体でTOBルールと買収防衛策、少数株主保護策が検討され、統一感のあるルールが作られることを望みます。

最後に、「買付者が競合する場合の処理」ですが、ある者が公開買付けを実施している間に他の大株主も同時に買付けを進める場合には、その後発の大株主にも公開買付けが義務づけられます(金商法27条の2第1項5号)。具体的には、株券等所有割合にして3分の1超の株式を保有する者が、急速に買い増しを行う場合に(5%超の株券等の買付け等)、この規制の対象となります。これは、大量の株式買付けが競合する場合には、株主はより複雑な投資判断を要求されること、買付者相互間の公平を図る必要があることから、手続を透明・公正にするために行なわれた改正だと言えます。


(*1) 旧法下においては、議決権の50%超を既に保有している親会社が子会社株式を著しく少数の者から買い付ける場合には、公開買付けによることを要しないとされていました。
(*2) 上場会社の株主の場合、相互に連絡を取り合うことが容易ではないため、いわゆる「囚人のジレンマ」に陥る可能性があります。「囚人のジレンマ」とは、逮捕された共犯者が相互に連絡が取れない個室に入れられて取調べを受けている場面で、もし自白をすれば自分の刑罰のみ軽くなるという状況にある場合、共犯者を信じて黙秘し完全無罪放免を目指すか(この場合、共犯者に裏切られる可能性あり)、共犯者を裏切って自白をするかの決断が非常に困難になる現象を示しています。

公開買付制度の概要(その5)~買収防衛策とのバランス調整~

公開買付開始公告がなされると、当該公開買付けの撤回を行なうことは原則として認められません(金商法27条の11第1項本文)。撤回を認めると、株式市場が混乱しますし、株価操作につながることもあるからです。しかし、対象会社側に破産、M&A、上場廃止といった予期せぬ事態が発生したり、あるいは、最近流行の買収防衛策が発動されたりすると、公開買付けの維持を強制することは公開買付者側に不測の損害を与えることになります。そこで、以下の条件を共に充たした場合には、公開買付けの撤回が認められています(金商法27条の11第1項但書)。

(1) 発行会社またはその子会社の業務または財産に関する重要な変更その他公開買付けの目的の達成に重大な支障となる事由が発生したこと
(2) 公開買付開始公告および公開買付届出書に撤回することがある旨が記載されていること


平成18年改正以前における上記(1)の撤回事由は、対象会社において、株式交換、株式移転、会社分割、合併、解散、破産・再生・更生手続開始、資本金額の減少、事業譲渡・譲受け、上場廃止などが発生した場合(施行令14条1項1号)などでしたが、改正によって、これに、

① 株式分割
② 株式または新株予約権の無償割当て
③ 株式・新株予約権・新株予約権付社債の発行
④ 自己株式の処分
⑤ 既に発行されている株式に拒否権条項または取締役・監査役選解任権を付すること
⑥ 重要な財産の処分または譲渡
⑦ 多額の借財


が撤回事由として追加されました。なお、これはいずれも、公開買付開始公告後に「公表」された場合に初めて撤回事由として機能します(*1)。また、買収防衛策が消却されないことを理由に買付者が公開買付けを撤回すると決めた場合には、公開買付撤回届出書の「撤回等の理由」欄に、防衛策消却のために買付者側が講じた方策について具体的に記載することが求められています(その方策を採らなかったからといって公開買付けの撤回そのものができなくなるわけではありません)。

さて、上記事由が生じたとしても、公開買付者や対象会社に対する影響が軽微なものは除かれています(軽微基準)。例えば、①②③④については、議決権割合の低下が10%未満であれば撤回事由とはならず、⑦については総資産の帳簿価額の10%未満の借財であればやはり撤回事由にはなりません(⑥については基準なし)。

続いて、これまでに述べた公開買付撤回とは別に、「買付価格引下げ」という手段も、平成18年改正によって買付者に与えられました。具体的に買付価格引下げが認められるのは、

① 対象会社が株式分割を行なった場合
② 対象会社が株式または新株予約権の無償割当てを行なった場合


であり(施行令13条1項)、この場合、「決定」だけでは足りず、現に上記の行為が行なわれることが必要です。なお、「買付価格引下げ」には軽微基準が存在しないため、「撤回はできないが、買付価格引下げはできる」というケースが出てくることになります。買付価格の引下げを決めた場合、買付者は公告によって買付条件の変更およびその理由を株主に知らせる必要があります(金商法27条の6第2項)。


(*1) いつの時点のどのような行為がこの「公表」に該当するかについては何ら基準が公開されていませんが、意見表明報告書の中で対象会社における買収防衛策の方針が記載されることからすれば、この記載等を通じて「公表」が行なわれたかどうかを判断することになると思われます。

公開買付制度の概要(その4)~意見表明報告書②~

意見表明報告書の記載事項のうち、まだ触れていない以下の点を見ていきたいと思います。

⑥ 会社の支配に関する基本方針に係る対応方針
⑦ 公開買付者に対する質問
⑧ 公開買付期間の延長請求


まず、「会社の支配に関する基本方針に係る対応方針」ですが、そもそも、会社法上、この基本方針を会社が定めている場合には、事業報告においてその内容を開示しなければならないこととなっています(会社法施行規則127条)。具体的には、「基本方針の内容」に加えて、

ア 会社財産の有効活用、適切な企業集団の形成その他の基本方針実現に資する特別な取組み
イ 基本方針に照らして不適切な者によって会社の財務および事業方針の決定が支配されることを防止するための取組み(いわゆる買収防衛策


を開示するとともに、上記の取組みが、基本方針に沿うものであるか、株主の共同の利益を損なわないか、役員の地位の維持を目的するものではないかについて、取締役の判断およびその理由を記載することが求められています。

その結果、事業報告(有価証券報告書でも開示されます)を見ればその会社の基本方針と買収防衛策の中身は分かるわけですが、具体的に公開買付けが行なわれた場合に、実際に当該防衛策が発動されるか否かまでは分からないため、対象会社が提出する意見表明報告書において、現に進行中の公開買付けに関して買収防衛策発動の予定があるかどうか、発動する場合はどのような内容となるのかについて具体的な記載が求められることとなったわけです。

続いて、既に<ブルドックソースとスティール・パートナーズ間のやり取り>などでお馴染みとなっている「公開買付者に対する質問」ですが、株主への情報提供の充実という観点から、対象会社は意見表明報告書の中で公開買付者に対して質問を行なえることとなり、その質問の送付を受けた公開買付者は、受領日から5営業日以内に「対質問回答報告書」を提出することが義務づけられています。この質問と回答のプロセスは、1回きりと定められているわけではありませんので、対象会社は、公開買付者の説明が不十分であれば追加の質問を行なうことが可能ですが、近時は、この質問を繰り返すことによって買収提案の検討期間を徒に長期化させることの弊害が指摘されつつあるところです。経済産業省・法務省は、2008年6月30日付けで、新たに買収防衛策のあり方に関する報告書をまとめ<「近時の諸環境の変化を踏まえた買収防衛策の在り方」>(以下、「新指針」と言います)として公表しましたが(*1)、ここにもこの点の問題意識が現れています。なお、新指針は、「対象会社側の情報開示の在り方」として、

対象会社側は、例えば、①現経営陣の経営ビジョン・経営方針や、代替案、②買収価格に対する現経営陣の評価、③現経営陣が買収により株主共同の利益が毀損されるという判断をする場合にはその旨を、財務的数値を示すなど具体的に開示することが望ましい。

とする一方で、「買収者側の情報開示の在り方」については、

買収者はデューディリジェンスを行っていないことと、買収者が買収後の利益等の具体的な数値まですべてを開示することは自らの手の内をさらすことになり買収戦略上も困難が生じることからすれば、買収者による情報開示にはおのずから限界がある。すなわち、買収後の詳細な経営計画・見通しや業績予想の開示については限界があると考えられる。

として、現実的視点から、買収者に対する情報開示要求に歯止めをかけています(*2)。支配権の交替の場面では、買収者と対象会社経営陣がフェアな立場に立って交渉して初めて株主の適切な投資判断を可能にすると言えますので、上記スタンスには個人的にも賛成です。

続いて、公開買付期間が30営業日を下回る場合には意見表明報告書の中で買付期間の延長請求が可能となりましたが(27条の10第2項2号)、この延長請求がなされると、買付期間は30営業日に延長されます(27条の10第3項)。延長請求を行なった対象会社としては、これを株主に周知させる必要があるため、公開買付開始公告が行なわれた日から10営業日以内に、期間延長請求公告を行なわなければなりません(*3)。


(*1) 新指針の「案」は、2008年6月30日付けで正式な指針として公表されました。
新指針: http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g80630a01j.pdf
指針案との変更履歴比較データ: http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g80630a02j.pdf
(*2) 新指針は、更に、「例えば、①買収価格の算定根拠として、算定の前提となる事実や仮定、算定方法、算定に用いた数値情報並びにシナジーの額及びその算定根拠について、買収者に網羅的に開示を要求し、あるいは、②買収後の経営方針として、事業計画、財務計画、資本政策、配当政策、資産活用方策等の内容について、買収者に網羅的に開示を要求した上で、提供されない情報があることをもって買収防衛策を発動することは、被買収者側の開示状況と対比するに、不適切である。」として、望ましくない行為を具体的に提示しています。
(*3) 公開買付期間は、平成18年改正前は、買付公告の翌日から起算して20日以上60日以内とされていましたが、改正後は初日算入方式に変わり、かつ、実日数ベースから営業日ベースに変更された結果、「買付公告の当日から起算して20営業日以上60営業日以内」になっていますので注意が必要です。

新たな防衛策指針(報告書)の確定

経済産業省・法務省は、2008年6月11日付けで、新たに買収防衛策のあり方に関する報告書をまとめ、「近時の諸環境の変化を踏まえた買収防衛策の在り方(案)」として公表していましたが、当該新指針の「案」は字句の訂正やコメントの追加を経て、2008年6月30日付けで正式な報告書として公表されましたので、以下にリンクを載せておきます。「案」と比較して、特段大きな修正点はないと言ってよいと思います。

● 新指針: http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g80630a01j.pdf
● 指針「案」との変更履歴付き比較データ: http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g80630a02j.pdf

公開買付制度の概要(その3)~意見表明報告書①~

前々回のコラムで、今回の法改正では以下の諸点について見直しがなされたと書き、1の「脱法的取引への対応」については既に述べましたので、今日は2について説明したいと思います。

1. 脱法的取引への対応
2. 株主への情報提供の充実
3. 買収防衛策とのバランス調整
4. 全部買付義務の導入
5. 買付者が競合する場合の処理


第三者から公開買付けがなされた場合、会社支配権に対する争奪戦が始まったと言えます(敵対的買収の場合)。とすれば、株主から見ると、買付者がどのような経営プランを持っているのか、また、現経営陣が当該買付けを評価しているのか、何か問題があるものとして敵対視しているのかなど、気になることはたくさんあると思います。この点、旧法下では、対象会社による意見表明は任意だったために(*1)、株主が的確な投資判断を行うために必要な情報が提供されないケースもあったものと思われます。

そこで、平成18年改正によって、対象会社は、公開買付開始公告がなされた日から10営業日以内に意見表明報告書を提出しなければならないこととされました。そのほか、同改正によって、意見表明報告書を利用して買付者に対する質問を行なうことができるようになり(27条の10第2項)、また、公開買付期間が30営業日を下回る場合には意見表明報告書の中で買付期間の延長請求が可能となりました(27条の10第2項2号)。

まず、意見表明報告書の提出義務ですが、これは文字通り「報告書の提出義務」であり、改正後の現在においても意見の表明義務自体はありません。ただし、改正前と異なり、沈黙することは認められておらず、意見を表明できない場合は、意見表明報告書を提出した上で、その中で、理由付きで「意見を留保すること」を明記しなければなりません。また、改正前は存在した「役員の意見表明報告書提出義務」は改正後は存在しません。よって、役員が会社と異なる意見を表明した場合でも、当該役員が意見表明報告書を個別に提出する義務を負うことはありません。

意見表明報告書の記載事項は内閣府令25条2項で定められていますが、具体的には以下のとおりとなっており、このうち⑥⑦⑧は平成18年改正で新設された項目です。

① 公開買付者の名称・所在地
② 当該公開買付けに関する意見の内容および根拠
③ 当該意見を決定した取締役会の決議の内容
④ 役員が所有する当該公開買付けに係る株券等の数および当該株券等に係る議決権の数
⑤ 役員に対し公開買付者またはその特別関係者が利益の供与を約した場合、その利益の内容
会社の支配に関する基本方針に係る対応方針
公開買付者に対する質問
公開買付期間の延長請求


意見表明の仕方としては、「公開買付けに応募することを勧める」「公開買付けに応募しないことを勧める」「公開買付けに対し中立の立場をとる」「意見の表明を留保する」など、分かりやすく記載する必要があります(*2)。そして、意見の根拠については、意思決定に至った過程を具体的に記載しなければなりず、中立の立場を採る場合と意見を留保する場合もそれぞれ理由を書かなければなりません(留保の場合は、それに加えて、将来意見表明を行なうか否かの予定も記載)。

また、上記④⑤のとおり、対象会社役員に利益相反問題があるときは、その点を明らかにするとともに、利益相反回避措置についても具体的に記載することが求められています(*3)。ただし、これは、対象会社が相反回避措置を採っているときにそれを開示せよという要求に留まり、相反回避措置を採ることそのものは求められていません。また、役員の株券等所有状況は有価証券報告書でも開示されている情報ですので、意見表明報告書に特有の開示事項というわけではありません(*4)。

次回のコラムでは、「会社の支配に関する基本方針に係る対応方針」などについて説明したいと思います。


(*1) 旧法下でも、対象会社(の役員)が意見を対外的に公表した場合には、ただちに意見表明報告書を提出することが義務づけられていましたが(この開示義務は、証券取引所の適時開示規則でも定められていました)、完全な沈黙を守ることも可能でした(ただし、実務上は、ほぼ必ず対象会社による意見表明が行なわれていました)。
(*2) 4号様式の「記載上の注意」参照
(*3) 同じく、4号様式の「記載上の注意」参照
(*4) ここでいう「役員」とは、取締役、執行役、会計参与(法人の場合は職務を行なう社員)、監査役を指します。

公開買付制度の概要(その2) ~金商法27条の2第1項4号~

前回説明した公開買付けが要求されるケースのうち、「証券取引所の市場内で買付けが行われる場合」と「買付け後の株券等所有割合が5%以下である場合」については、内容が明確ですのであまり悩む必要はありません。しかし、「60日間で10名以下の者からする買付けのうち、買付け後の株券等所有割合が3分の1以下である場合」については、若干悩ましい問題があります。60日間という期間の中で、11人の株主から合計6%の株を市場外で買った場合であれば、5%基準も充たしませんし、「60日間で10名以下の者から」という基準も充たさないので公開買付けが必要だということはすぐに分かりますが、例えば、

● 市場外で32%の株式を取得し、その後、対象会社から2%の新株発行を受けることで34%となった場合
● 市場外で32%の株式を取得し、その後、市場内で2%の株を買ったことで34%となった場合(村上ファンドのケース)

などでは、一見しただけでは公開買付けが必要かどうかがわかりません。

そこで、旧法下では、上記の場合、「取引後に3分の1を超える市場外での買付け」が存在しない以上公開買付けは不要であるという見解と、これら一連の取引が実質的に一つの取引であれば公開買付け規制を及ぼすべきだという見解が対立していました。後者の見解は、先に市場内で2%の株を買ってその後市場外で32%の株式を取得した場合は「取引後に3分の1を超える市場外での買付け」が存在するから公開買付けが必要になるというのであれば、その順序を逆にするだけで公開買付けを回避できるのはおかしいという価値判断に基づいています(*1)。以上のような混乱を収束させるべく、金商法27条の2第1項4号が新設され、「組み合わせ取引」に関するルールが作られたのです。

さて、金商法27条の2第1項4号(に関する政令)ですが、整理しますと、

① 3ヶ月以内という短期間に
② 合計10%を超える株式取得を行い
③ そのうち5%超に相当する買付けが特定売買等または市場外取引等であり
④ その後に株券等所有割合が3分の1を超える


ことが要件になります。③で「特定売買等」とあるのは、「取引所市場内の取引のうち競売買以外の方法」を意味し、ToSTNet取引のように、価格や時間を基準とした優先原則が働かない立会外取引を言います(*2)。

上記ルールが制定された結果、市場外取引やToSTNet等の特定売買で一旦5%超の取得を行ってしまったら、その後3ヶ月間は、「直前3ヶ月間の取得合計が10%を超え、かつ取得後株券所有割合が3分の1を越えるような買付け等(新株取得も含む)」ができなくなります。

では、例えば、7月1日に市場外で公開買付けによらずに株券等を7%取得し、株券等所有割合が20%から27%になったケースにおいて、その後3分の1超の取得を目指して8月1日に公開買付けを行なうことは許されるでしょうか?
・・・答えはNOです。4号は、3ヶ月以内に行なわれた取引を一連の取引として規制する考え方を採っています。よって、上記の例では、7月1日に行なわれた最初の取引から公開買付けによって行うことが必要だったということになります。最初の株券等取得を公開買付けによらずに行なってしまったら、あとは、「3ヶ月待て」ということになりますので、この点で、4号は公開買付けの「スピード規制」であると言われています。

これが、改正の目玉の一つであった4号(組合せ取引の規制)の内容ですが、次回はほかの点を拾ってみたいと思います。


(*1) 村上ファンドのケースだけではなく、例えば、ドン・キホーテのオリジン東秀買収の際も、ドン・キホーテはTOB開始前に市場外取引で31%まで取得した後、公開買付けにより3分の1超を目指しましたが失敗し、その後市場内取引を通じて46%まで買い増しを行いました。当時は、これが公開買付け規制の趣旨に反するとして波紋を呼びました。
(*2) 「特定売買等」は、形の上では取引所市場における取引であっても公開買付け規制を及ぼすべきだとして、平成17年改正で導入されたものです。

公開買付制度の概要(その1)

有価証券報告書の提出が義務付けられている株式会社の株券を市場外で一定数以上買付ける場合などには、原則として公開買付けによらなければならないとされています(金融商品取引法27条の2第1項)。ここで、公開買付けとは、株券発行会社または第三者が、不特定かつ多数の人に対して、公告等により買付期間・買付数量・買付価格等を提示し、株券等の買付けの申込みを行い、市場外で株券等の買付けを行なうことを言います。この公開買付け制度については改めて紹介するまでもないかも知れませんが、M&A情報ブログとしての性格上、一度、金商法施行後の公開買付制度がどのようになっているかについて整理しておきたいと思います。

公開買付制度は、もともと、会社の支配権に影響を及ぼすような買付けが行われる場合には、株主に十分な情報提供を行い、かつ、株主に株券売却の機会を平等に与える必要があるということで昭和46年(1971年)に設置された制度です(*1)。その後、平成2年、平成6年などの改正を経て、今回の「証券取引法等の一部を改正する法律」の中で、以下の諸点について見直しがなされました。

1. 脱法的取引への対応
2. 株主への情報提供の充実
3. 買収防衛策とのバランス調整
4. 全部買付義務の導入
5. 買付者が競合する場合の処理


以下、順に説明していきますが、まず、前提として、どのような場合に公開買付けが必要となるかについてざっと見ておきたいと思います。金融商品取引法27条の2第1項は、以下の事由に該当する場合に公開買付けによることを強制しています。

事  由
条文
5%基準
60日間で11名以上の者から、取引所市場外で買付け等をおこない、その後の株券所有割合が5を超える場合
1
3分の1ルール
60日間で10名以内の者から、取引所市場外で買付け等をおこない、その後の株券所有割合が3分の1を超える場合
2
取引所市場内の取引のうち競売買以外の方法(「特定売買等」)により買付け等を行い、その後の株券所有割合が3分の1を超える場合
3
取引所市場内外の取引を組み合わせた取引のうち、3か月以内に行なわれた買付け等による株券取得割合が合計10%を超え、かつ、これらのうちに5%超の市場外買付けが含まれ、その後の株券所有割合が3分の1を超える場合
4
他者のTOB期間中の大株主による買増し
3分の1超を既に保有する株主は、他者がTOBを行っている期間中に5%超の買付けを行う場合には、対抗TOBによらなければならない
5
その他
その他政令で定める場合(買付者の特別関係者による買付け等)
6

このうち、1号・2号・6号は旧法下における規制内容と同じですが、3号は、平成17年の改正で追加され、4号・5号は平成18年改正で追加されました。

そもそも、証券取引所の市場内で買付けが行われる場合には、公開買付けによる必要はありません。その趣旨は、証券市場内での取引は、取引の数量や価格が公表されており、透明性が確保されていますし、取引が競争売買によって行われるため、公開買付けを強制しなくとも、投資者は公正・平等に扱われるからです。

続いて、買付け後の株券等所有割合が5%以下である場合にも、公開買付けによる必要はありません。これは、買い付ける株券等の割合が少なく会社の支配への影響が少ないからです。ここで、5%というのは買付者本人のみではなく、「特別関係者の分と合わせて5%」を超えるかどうかが判断されます(*2)。

最後に、60日間で10名以下の者からする買付けのうち、買付け後の株券等所有割合が3分の1以下である場合にも、公開買付けによる必要はありません。これは、少数の者からの買付けなので、支配権が移動する場合を除けば、情報を開示させたり、広く株主に買付けの機会を与えたりする必要がないと考えられるからです。以上が基本的な枠組みですが、詳細は次回以降のコラムで書きたいと思います。


(*1) アメリカでは、1966年にウイリアムス法によって1934年取引所法が改正され、公開買付制度が導入されました。
(*2) 「特別関係者」とは、
公開買付者が個人の場合は、①その者の親族(配偶者および1親等内の血族または姻族)、②その者(その者の親族を含む)が法人等に対して総株主の議決権の20%以上の議決権に係る株式または出資を自己または他人の名義をもって所有する関係(特別資本関係)にある場合の当該法人等およびその法人等の役員を、
公開買付者が法人の場合は、①その者の役員、②その者が特別資本関係を有する法人等およびその法人等の役員、③その者に対して特別資本関係を有する個人および法人等ならびにその法人等の役員
を指しますが(以上は、「形式的基準」と呼ばれています)、これ以外に、公開買付者との間で共同して株券を取得・譲渡したり、議決権を行使することについて合意した者(これは、「実質的基準」と呼ばれます)も含まれます。

三角組織再編の手続と留意点(その3)

三角組織再編の手続と留意点に関して、その他の細かい点を拾っておきたいと思います。

まず、親会社株式を三角組織再編行為の対価として交付する際に注意すべき点があります。三角株式交換の場合、A社が完全親会社、T社が完全子会社となり、T社の株主にはA社の親会社であるP社の株式が交付されるわけですが、T社が自己株式を保有していると、T社自身にP社の株式が割り当てられることになります。会社法上はそれで問題ありませんが、税法上は、このケースにおけるP社株式の帳簿価額はゼロ円となってしまい、将来の売却時点で課税関係が発生することになります。よって、三角株式交換を利用する場合は、株式交換実行前にT社が有するT社の自己株式を消却しておく必要があります。なお、合併の場合は、合併の対価が存続会社や消滅会社自身に割り当てられることはないため(会社法749条1項3号)、かかる心配は要りません。

続いて、三角組織再編行為の対価として交付される親会社株式は、日本の金融商品取引所に上場されている必要があるのでしょうか?
・・・この点、会社法は、組織再編の対価として交付する株式が日本の上場株式でなければならないとは定めていません。ところが、仮に日本での非上場株式を株主に交付するとなると、まず、どうやって外国会社の株券を日本の株主に交付するかという点から問題となります。郵送で突然英語の株券が送られてきても、株主はそれをどうやって売却すれば良いのか分からないでしょうし、株券を送りつけた外国の親会社自身も株主名簿に漢字で株主の名前を書いて登録し、その後も確実に管理していくというのは容易でありません。外国親会社が利用している当該外国の株主名簿管理人以外に日本にも株主名簿管理人を置いて、両管理人間で適切に情報伝達をしてもらうといった方法は考えられますが、株券の交付、株主の把握の問題以外にも、配当金を日本円で支払うにはどうすればよいかとか、株主総会招集通知などの書類を日本語で作成して株主に交付するにはどうすればよいかといった問題がたくさん出てきます。保振(証券保管振替機構)も、タンス株券については管理やサービスのしようがありませんので、外国親会社が日本で上場していないと消滅会社の株主にはかなりの不便を掛けてしまうおそれがあります。実務的には株式事務代行機関を通じてディールごとにアレンジすることになると思われますが、できれば、交付される親会社株式については、日本の金融商品取引所に上場されているのが望ましいと言えるでしょう。この点、日興コーディアルとシティグループの株式交換で、米シティが株式交換の効力発生前(2007年11月5日付け)に東京証券取引所に上場したのは、上記のような不便を日興コーディアルの株主に掛けない(ひいては、株主総会での承認を得る)ためと考えられます。

では、最後に、日本の会社が海外で三角合併を行うことはできるのでしょうか?
・・・この点については、海外の法規制とは別に、自己株式取得を規制する日本の旧商法との関係で、対価として交付するための親会社株式を子会社が取得すること自体が認められないのではないかという見解が有力でした。事実、1990年に京セラが米国で行なった三角合併についても適法だったと言えるのかという議論がなされ、これに続く実例は現れませんでした。しかし、新しい会社法では、消滅会社の株主等に対して親会社株式を交付するのに必要な限度での親会社株式の取得を認めていますので(会社法135条2項5号、同施行規則23条8号)、日本企業が海外で三角合併を行うために、海外に子会社を設立し、その子会社に日本の親会社の株式を取得させることができるようになりました。

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