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Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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ニューヨーク州のM&A実務

米国の会社法やM&A実務に最も強い影響を及ぼしているのはデラウエア州であり、その結果、日本でも「米国実務」といえばデラウエア州の会社法や判例が紹介されることがほとんどですが、実際にはニューヨーク州で設立される会社も少なくないため、ニューヨーク州のM&A実務についても簡単に紹介しておきたいと思います。

まず、ニューヨーク州会社法(NYBCL)717条は、取締役に対して業務の誠実執行義務を課していますが(*1)、具体的な義務としてはDuty of CareとDuty of Loyaltyが挙げられることと、通常、Business Judgment Ruleによってその判断が尊重されることについては、デラウエア州の状況と同じです。ただ、ニューヨーク州法が適用される会社の取締役は、会社支配権が移動するM&Aの場面において、会社と株主の長期的及び短期的な利益(long-term and short-term interests)のみならず、従業員、顧客および債権者の利益に与える影響や会社の発展性、生産性や利益率などについても考慮して判断することが認められています。すなわち、法律上、会社と株主の「長期的な観点から見た場合の利益」についても追求することが要求され(すなわち、現時点で株主が得られるキャピタルゲインの大小のみで判断してはならない)、更に、株主以外のステイク・ホルダーの利益まで判断要素に入れることが認められているわけです。この点についてデラウエア州では法律上は何ら明記されておらず、株主以外のステイク・ホルダーの利益を考慮しても構わないとする判例が存在するに過ぎないため、ここに両者の違いが見られます。

続いて、買収防衛策であるライツプランですが、連邦裁判所は、1980年代に、「ニューヨーク州法上、Flip-in型(*2)のライツプランは、買収者を他の株主と別扱いする点で違法となる」と判示しました。ライツプランにおいては、買収者に与えられたライツのみを行使不能にする点が制度設計上最も重要なポイントですので、上記裁判所の判断の結果、New York Corporationではライツプランを導入できなくなってしまいました。しかし、ニューヨーク州は、実務界の要請を受けて、取締役会が「20%を超えて株式を取得した者は行使することができないライツを株主に与えること」を正面から認める条項(NYBCL505条)を設けました。よって、現在では、この法律に反しない限りライツプランは有効であるということになりそうですが、その場合でもライツプランの内容および発動が取締役の義務に違反しないと言えるためには、

“in the best long-term interests and short-term interests of the corporation and its shareholders considering, without limitation, the prospects for potential growth, development, productivity and profitability of the corporation”

というニューヨーク州会社法上の基準を充たしていなければなりません。

New York Corporationが導入したライツプランの内容および発動の適法性が裁判所で争われる場合、ニューヨーク州では、デラウエア州の判例法上確立された厳格な基準(UnocalUnitrinなど)や、会社のchange in controlが含まれる場合の基準(Revlon)が存在しない結果、Business Judgment Rule+上記会社法の文言が判断基準になるものと考えられます。Business Judgment Ruleにおける最重要ポイントは判断のプロセス面にありますので、取締役としては、十分な情報を入手し、外部の専門家の意見などを聴きつつ、ニューヨーク州会社法が求める上記基準を充たしているかどうかについて十分時間を掛けて判断し、その判断のプロセスを証拠に残しておくということが最低限必要なことと言えるでしょう。

そのほか、M&Aに関するニューヨーク州法で注意すべき条項は912条と513条です。
912条(b)は、特定の会社の20%以上の株式を保有する者を「利害関係株主(Interested Shareholder)」と位置付け、その「利害関係株主と当該会社とのBusiness Combinationは、当該株主が利害関係株主になってから5年間は認めない」としています(*3)。同様の規定はデラウエア州会社法にも存在しますが、こちらは禁止期間3年とされています(DGCL203条(a))。いずれも、その株主が20%以上の株式を取得する前に取締役会の承認を得ていればこの制限は課されないことになっていますので、この条項は敵対的買収を防止することを企図したものであると言えます。

続いて、513条は、「会社が発行済み株式の10%超を市場価格以上の値段で買い戻すには、取締役会と株主総会の承認が必要」であるとしています。ただし、この制限は、売り手が2年を越えてその株式を保有しているケースには適用されません。すなわち、株式を一定量買い占めてそれを会社に高額で売りつけるグリーンメーラーが簡単に利益を得られないよう、法律上の手当てがなされているわけです。


(*1) Directors must perform their duties in good faith and with that degree of care which an ordinary prudent person in a like position would use under similar circumstances.
(*2) ライツプランは、Flip-in型Flip-over型の2タイプに分類することが出来ます。Flip-in型は、買収の完了以前に発行会社株式を有利な値段で購入できる権利を付与するものであり、Flip-over型は、買収完了後に存続会社の株式を有利な値段で購入できる権利を付与するシステムになっています。
(*3) (b) Notwithstanding anything to the contrary contained in this chapter (except the provisions of paragraph (d) of this section), no domestic corporation shall engage in any business combination with any interested shareholder of such corporation for a period of five years following such interested shareholder’s stock acquisition date unless such business combination or the purchase of stock made by such interested shareholder on such interested shareholder’s stock acquisition date is approved by the board of directors of such corporation prior to such interested shareholder’s stock acquisition date.
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タックス・プランニングのためのケース・スタディ(その5)

【ケース5】対象会社に繰越欠損金があるケース

これまでのケース1から4までは、対象会社T社に繰越欠損金が存在しないことを前提にしていましたが、ここでT社に多額の繰越欠損金(*1)があると仮定した場合に何が違ってくるかを検討しておきたいと思います。

これまでと同様に、以下の条件を利用しますが、純資産30億円の内訳については、資本金50億円、利益準備金0円(欠損の填補に使用)、利益剰余金△20億円とします。
利益剰余金の時価は、税務簿価+営業権時価、すなわち、△20億円+60億円=40億円となり、この利益剰余金時価40億円と資本金50億円との合計額である90億円がやはり買収対価ということになります。

① 対象会社の貸借対照表
 
簿価
時価
 
簿価
時価
資産
100億円
100億円
負債
70億円
70億円
営業権
 
60億円
純資産
30億円
90億円
総資産合計
100億円
160億円
負債資本合計
100億円
160億円

② その他の前提条件
・ Cは対象会社株式を50億円で取得
・ その株式を今回はA社が純資産相当額の90億円で買取り予定
・ 法人税の実効税率は40%とする

(検討)
① 株式譲渡方式
・ 対象会社T社にとっては株主が変わるだけなので、課税関係は発生しません。
・ T社の株主Cから見ると、
(譲渡収入90億円-譲渡原価50億円)×実効税率40%=16億円
の税負担が発生します。
・ 買収会社A社にとっては単なる株式買取りなので、課税関係は発生しません。
・ 買収受皿会社V社においては、繰越欠損金20億円を将来全て使用できることを前提とすれば、
20億円×実効税率40%=8億円
の税負担の軽減につながります。

② 会社分割方式
・ 対象会社T社には会社分割益60億円が発生しますが、繰越欠損金20億円と一部相殺できますので、
(会社分割益60億円-繰越欠損金20億円)×実効税率40%=16億円
の税負担が発生します。
・ T社の株主Cから見ると、まず「みなし配当」(株主が交付を受けた財産の時価合計額から消滅会社の資本金および資本積立金の額を控除した残額)(*2)として、
(残余財産74億円-資本金50億円)=24億円   *残余財産=譲渡価額-法人税
が発生します。また、株主が交付を受けた財産の時価合計額から取得原価とみなし配当額を控除した残額は譲渡損益と扱われますが、本件では
(残余財産74億円-取得原価50億円-みなし配当24億円)=0円
となりますので、譲渡益課税はなされません。結局、「みなし配当」24億円に対し実効税率40%を掛けた9億6000万円の税負担がCに発生します。
・ 買収会社A社にとっては単なる株式買取りなので、課税関係は発生しません。
・ 買収受皿会社V社においては、営業権60億円を認識することができるため、
60億円×実効税率40%=24億円
の税負担の軽減につながります。

(まとめ)
結局、以下の表のとおり、株式譲渡方式と会社分割方式では、会社分割方式の方が当事者全体の税負担額が少ない結果になりました。
法人株主のケース
株式譲渡方式
会社分割方式
T社と株主Cの負担
16億円
25億6000万円
A社とV社の負担
△8億円
△24億円
実質的なトータル
8億円
1億6000万円

では、条件を変えて、純資産30億円の内訳を、資本金100億円、利益準備金0円(欠損の填補に使用)、利益剰余金△70億円(繰越欠損金が70億円)と仮定した場合はどうでしょうか?
この場合は、計算式は省略しますが、以下の表のとおり、株式譲渡方式の方が、税負担の軽減が4億円多い、すなわち株式譲渡方式の方が税務上有利という結論になります。
法人株主のケース
株式譲渡方式
会社分割方式
T社と株主Cの負担
△4億円
△4億円
A社とV社の負担
△28億円
△24億円
実質的なトータル
△32億円
△28億円

これは、株式譲渡方式では繰越欠損金の使用が可能であるが営業権は認識できない、他方、会社分割方式では繰越欠損金の利用は原則できないが営業権は認識できるという違いから導かれる結論と言えます。また、繰越欠損金の繰越期限が迫っている場合や、将来の利益が十分でない場合は、繰越欠損金の全額を利用することができないために結論が変わってくる可能性があります。このように、タックス・プランニングはM&Aのストラクチャーを決定する上で極めて重要ですので、事前の詳細なシミュレーションが必要と言えます。


(*1) 税務上、企業がある年に欠損金を出した場合、その欠損金は次の期に持ち越すことができます。そして、適切な会計帳簿を作成し青色申告書を提出していれば、翌年以降7年間に亘って毎年の益金と相殺して納税することが認められます。
(*2) みなし配当は、個人株主・法人株主ともに発生します(個人株主のみなし配当については所得税法第25 条、法人株主のみなし配当については法人税法第24 条)。

タックス・プランニングのためのケース・スタディ(その4)

【ケース4】会社分割によるM&A(法人株主のケース)

(事案) ~T社(法人株主Cが発行済み株式の100%を所有)の全事業を買収受皿会社V社に会社分割によって承継させ、V社が分割対価としてT社に発行したV社株式をA社が買い取ることでV社をA社の子会社とするスキーム(CにはT社から残余財産の分配を行う)~

① 対象会社の貸借対照表
 
簿価
時価
 
簿価
時価
資産
100億円
100億円
負債
70億円
70億円
営業権
 
60億円
純資産
30億円
90億円
総資産合計
100億円
160億円
負債資本合計
100億円
160億円
* 純資産の内訳: 資本金2億円、利益準備金5000万円、利益積立金27億5000万円

② その他の前提条件
・ Cは対象会社株式を2億円で取得
・ その株式を今回はA社が純資産相当額の90億円で買取り予定
・ 法人税の実効税率は40%とする

(検討)
<タックス・プランニングのためのケース・スタディ(その2)>で述べたように、本件においては、T社と受皿会社V社との間に事業関連性がなく、かつ、T社は株式分割によって交付されたV社株をすぐにA社に譲渡する結果、株式継続保有要件も充たさないため、本件会社分割は非適格会社分割として扱われます。

① 買収会社A社の税負担
株式を買うだけなので、課税関係は発生しません。

② 買収受皿会社V社の税負担
非適格分割ですので、T社の資産・負債が時価でV社に承継され、V社は営業権の減価償却を行うことで将来における課税所得を圧縮することができます。本件では、営業権は60億円ですので、
60億円×法人税の実効税率40%=24億円 の税負担の軽減につながります。

③ 対象会社T社の税負担
T社は自己の資産・負債を時価でV社に移転する結果、60億円の会社分割益を得ますので、
60億円×法人税の実効税率40%=24億円
の税負担がT社に発生します。

④ 対象会社株主Cの税負担
個人株主であればT社を清算して残余財産を分配するプロセスにおいて配当所得課税がなされ、その際に配当控除が適用されましたが、本件のような法人株主の場合、法人税法上の「受取配当金の益金不算入」が適用されます。すなわち、配当金はそもそも配当を行う法人の課税後利益から支払われるものですので、これに対して更に課税すると二重課税となります。そこでこの二重課税を避けるために用意されたのが、個人株主の場合は「配当控除」であり、法人株主の場合は「受取配当金の益金不算入」です。
その結果、法人が内国法人から受けた配当については会計上は収益として計上されますが、税務上は益金に算入されず、課税所得の計算上控除されることになります。

具体的には、以下の金額を、各事業年度の益金の額から控除することができます。

ア 連結法人株式等: 配当金の全額
イ 関係法人株式等: 関係法人株式にかかる受取配当等の額-控除負債利子の額
ウ 一般法人株式等: (一般法人株式の受取配当等の額-控除負債利子の額)×50%


ここで、「関係法人株式等」とは、内国法人(公益法人等及び人格のない社団等を除く)の発行済株式または出資金額の25%以上を、その配当等の額の支払義務が確定する日以前6ヶ月以上保有している場合の当該株式または出資を言います(法人税法23条⑤、法人税法施行令22条の2①)。また、「控除負債利子」は、配当金を得るために借入れ等をしたと判定される負債利子額で、
支払利子×当該株式の帳簿価額(*1)/総資産価額(*1)
で求められます。
本件では、CはT社の100%株主ですので、上記アが適用され、結局CがT社から残余財産の分配として受け取った金額は全額「益金不算入」となります。

(まとめ)
以下のまとめの表のとおり、個人株主Iのケース1およびケース2では会社分割方式よりも株式譲渡方式の方が税務上有利でしたが、法人株主Cのケース3およびケース4では、逆に会社分割方式の方が有利(*2)であることが分かります。ただし、株式譲渡方式を用いる場合でも、株式譲渡の前にT社からCへの配当を行えば、当該配当に関しては「益金不算入」となる結果、株式譲渡によって株主Cに発生する譲渡益課税を減らすことができます。

個人株主のケース
株式譲渡方式(ケース1)
会社分割方式(ケース2)
T社と株主Iの負担
176000万円
51億9040万円
A社とV社の負担
0円
24億円
実質的なトータル
176000万円
27億9040万円

法人株主のケース
株式譲渡方式(ケース3)
会社分割方式(ケース4)
T社と株主Cの負担
352000万円
24億円
A社とV社の負担
0円
24億円
実質的なトータル
352000万円
0円


(*1) 前期末と当期末の合計額。
(*2) もっとも、会社分割方式では、登録免許税、資本金が増加することによる住民税均等割部分および事業税資本割部分の増加などが発生しますので、この点の更に詳細な比較検討が必要になってきます。

タックス・プランニングのためのケース・スタディ(その3)

【ケース3】株式取得によるM&A(法人株主のケース)

(事案) ~法人株主Cが発行済み株式の100%を所有するT社を株式買取りによってA社の子会社とするスキーム~

① 対象会社の貸借対照表
 
簿価
時価
 
簿価
時価
資産
100億円
100億円
負債
70億円
70億円
営業権
 
60億円
純資産
30億円
90億円
総資産合計
100億円
160億円
負債資本合計
100億円
160億円
* 純資産の内訳: 資本金2億円、利益準備金5000万円、利益積立金27億5000万円

② その他の前提条件
・ Cは対象会社株式を2億円で取得
・ その株式を今回はA社が純資産相当額の90億円で買取り予定
・ 法人税の実効税率は40%とする

(検討)
① 買収会社A社の税負担
株式を買うだけなので、課税関係は発生しません。

② 対象会社T社の税負担
T社から見た場合、株主がCからA社に変わるだけなので、課税関係は発生しません。

③ 対象会社株主Cの税負担
法人税の課税所得を計算するに当たり、株式譲渡益が益金算入されるため、
(譲渡価額90億円-譲渡原価2億円)×法人税実効税率40%=35億2000万円
の税負担が発生します。

(まとめ)
個人株主からの株式買取りでは17億6000万円の税負担だったのが、法人株主になり税率が高くなったことにより、税金が35億2000万円となりました。こうなると、ケース2で述べた会社分割方式とどちらが有利かが再び問題となります(次回のコラムで検討します)。
なお、株式譲渡方式ですので、不動産取得税、登録免許税、住民税の均等割部分の増加、事業税の資本割部分の増加(*1)はいずれも発生しません。


(*1) 資本金が1億円を越える場合、外形標準課税の対象となり、(事業税の所得割および付加価値割に加えて)「資本金と資本積立金の合計金額に対して0.2%(東京都は0.21%)」の資本割事業税が発生します。

タックス・プランニングのためのケース・スタディ(その2)

【ケース2】会社分割によるM&A(個人株主のケース)

(事案) ~T社(個人株主Iが発行済み株式の100%を所有)の全事業を買収受皿会社V社に会社分割によって承継させ、V社が分割対価としてT社に発行したV社株式をA社が買い取ることでV社をA社の子会社とするスキーム(IにはT社から残余財産の分配を行う)~

① 対象会社の貸借対照表
 
簿価
時価
 
簿価
時価
資産
100億円
100億円
負債
70億円
70億円
営業権
 
60億円
純資産
30億円
90億円
総資産合計
100億円
160億円
負債資本合計
100億円
160億円
* 純資産の内訳: 資本金2億円、利益準備金5000万円、利益積立金27億5000万円

② その他の前提条件
・ Iは対象会社株式を2億円で取得
・ その株式を今回はA社が純資産相当額の90億円で買取り予定
・ Iは株式を5年超所有 → 長期譲渡所得として所得税率は20%(所得税15%+住民税5%)
・ 総合課税におけるIの所得税率は50%とする。
・ 法人税の実効税率は40%とする

(検討)
まず、本件会社分割が適格分割か非適格分割かを判断する必要がありますが、会社分割における税制適格要件も合併と同様、「グループ内の適格分割」と「共同事業を営むための適格分割」に分けられます。本件では、株式分割前のT社とV社間に資本関係はないと仮定すれば、「グループ内の適格分割」には該当せず、「共同事業を営むための適格分割」の該当性が問題となります。「共同事業を営むための適格分割」要件は、適格合併の要件(対価要件、事業関連性要件、規模要件または経営参画要件、独立事業単位要件、事業継続要件、株式継続保有要件)とほぼ同じで、ただ、独立事業単位要件として、「80%以上の従業員の引継ぎ」に加えて「主要な資産および負債の移転」が要求されることと、株式継続保有要件に関し、吸収分社型分割(分割法人に株式が交付される)の場合には分割法人の株主数に関係なく分割法人が分割によって交付を受けた分割承継法人の株式を保有し続けなければならないのに対し、吸収分割型分割(分割法人の株主に株式が交付される)の場合には分割法人の株主が50人以上いれば株式継続保有要件は課されないという点で違いがあるにとどまります(*1)。

さて、本件に関しては、T社と受皿会社V社との間に事業関連性がなく、かつ、T社は株式分割によって交付されたV社株をすぐにA社に譲渡しますので、株式継続保有要件も充たさないということになります。よって、本件は、非適格会社分割として扱われます。

① 買収会社A社の税負担
株式を買うだけなので、課税関係は発生しません。

② 買収受皿会社V社の税負担
非適格分割ですので、T社の資産・負債が時価でV社に承継されることになります。時価で承継される結果営業権が発生し、V社は営業権の減価償却(*2)を行うことで将来における課税所得を圧縮することが出来ます。他方、V社はT社の繰越欠損金を引き継ぐことはできません。
本件では、営業権は60億円ですので、
60億円×法人税の実効税率40%=24億円
の税負担の軽減につながります。

③ 対象会社T社の税負担
T社は自己の資産・負債を時価でV社に移転することになりますので、その譲渡価額と帳簿価額の差額に関して譲渡損益が発生します。本件では、T社に60億円の譲渡益が出ますので、
60億円×法人税の実効税率40%=24億円
の税負担がT社に発生します。

④ 対象会社株主Iの税負担
T社からV社への会社分割の時点では個人株主Iには何らの課税関係も発生しませんが、その後T社を清算してIに残余財産を分配するプロセスにおいて課税がなされます。すなわち、支払いを受けた残余財産のうち資本金および資本積立金の金額を超える部分については配当所得として総合課税がなされます。本件では、残余財産は、
(売却価格90億円-法人税24億円)=66億円
ですので、
(残余財産66億円-資本金および資本積立金合計2億円)×税率50%=32億円
の配当所得課税となります。ただし、配当金所得を総合課税として確定申告する場合には配当控除が受けられますので(*3)、その分
(残余財産66億円-資本金および資本積立金合計2億円)×税率6.4%=4億960万円
を差し引き、結局、27億9040万円が、個人株主Iが負担する税額となります。

(まとめ)
本件スキームを採用する場合には、T社に24億円の、T社株主Iに27億9040万円の税負担が発生し、反面、買収側のV社には24億円の「税負担の軽減」が発生することが判明しました。オーナーからの単純な株式買取り方式では、Iに17億6000万円の税負担が発生するだけでしたので、税金面のみを捉えればT社サイドは「会社分割+株式譲渡方式」には異議を唱えることになるだろうと思われます。

また、「会社分割+株式譲渡方式」では、株式買取り方式では発生しない登録免許税(不動産登記と会社分割登記など)、資本金が増加することによる住民税均等割部分および事業税資本割部分の増加などが発生しますので、この点でも単純な株式買取り方式の方が関係当事者の税負担が少ないと言えます。


(*1) 旧商法上の会社分割制度は、「分割法人の株主」が分割承継法人から移転資産の対価の交付を受ける「人的分割」と、「分割法人」が対価の交付を受ける「物的分割」に分けられていましたが、会社法では、人的分割が姿を消し、物的分割という手法のみ残されました。しかし、税務上は、依然両類型が残っており、人的分割を「分割型分割」、物的分割を「分社型分割」と呼びます。
(*2) 平成18年度税制改正によって、「営業権」ではなく「資産調整勘定」として処理がなされ、5年間の均等償却が行われることになりました(法人税法62の8④⑤)。
(*3) 課税総所得金額が1,000万円以下であれば12.8%(所得税10%+住民税2.8%)、1,000万円を超える場合は6.4%(所得税5%+住民税1.4%)を累進税率より差し引くことができます。

タックス・プランニングのためのケース・スタディ(その1)

これまで適格合併の各要件に焦点を当てて見てきましたが、これは、タックスの観点からM&Aのストラクチャーを決定していくために知っておく必要がある基本的概念の一部を整理したにとどまります。実務上、当事者が最も気になるのは、「合併、会社分割、事業譲渡、株式取得、株式移転、株式交換といったたくさんあるM&A手法のどれを選択すれば税務上最も有利か?」という点だと思われ、適格か非適格かという問題も、この論点に絡めて考える必要があります。そして、実際に、選択するストラクチャーによって、①買収会社、②対象会社、③対象会社の株主に発生する税負担は大きく変わってきますので、今回のコラムから数回のシリーズで、「各種M&A手法と税負担の関係」をケース・スタディを通じて数字で確認していきたいと思います。

【ケース1】株式取得によるM&A(個人株主のケース)

(事案) ~個人株主Iが発行済み株式の100%を所有するT社を株式買取りによってA社の子会社とするスキーム~

① 対象会社の貸借対照表

 
簿価
時価
 
簿価
時価
資産
100億円
100億円
負債
70億円
70億円
営業権
 
60億円
純資産
30億円
90億円
総資産合計
100億円
160億円
負債資本合計
100億円
160億円
* 純資産の内訳: 資本金2億円、利益準備金5000万円、利益積立金27億5000万円

② その他の前提条件
・ Iは対象会社株式を2億円で取得
・ その株式を今回はA社が純資産相当額の90億円で買取り予定
・ Iは株式を5年超所有 → 長期譲渡所得として所得税率は20%(所得税15%+住民税5%)
・ 法人税の実効税率(*1)は40%とする

(検討)
① 買収会社A社の税負担
株式を買うだけなので、課税関係は発生しません。

② 対象会社T社の税負担
T社から見た場合、株主がIからA社に変わるだけなので、課税関係は発生しません。

③ 対象会社株主Iの税負担
個人が株式を譲渡した場合には譲渡所得税が掛かるため、
(譲渡価額90億円-取得費2億円)×20%=17億6000万円
の税負担が発生します。

(まとめ)
オーナーからの単純な株式買取りでは、対象会社側(対象会社株主)に17億6000万円の税負担が発生するということになりました。買収する側にとっては税負担なしの良い案と言えます。

では、同じくT社の事業を買収する手法として、「T社の全事業を買収受皿会社V社に会社分割によって承継させ、V社が分割対価としてT社に発行したV社株式をA社が買い取ることでV社をA社の子会社とするスキーム(IにはT社から残余財産の分配を行う)」を採用した場合の税負担はどうなるでしょうか? この点について次回検討したいと思います。


(*1) 法人税の実効税率の計算方法は、法人事業税は所得計算上損金に算入できるため、
(法人税率+法人税率×住民税率+事業税率)/(1+事業税率)
という方程式になり、地方税法が定める標準税率を使用すると、実効税率は
(法人税率30%+法人税率30%×住民税率17.3%+事業税率9.6%)/(1+事業税率9.6%)=40.87%
となります。なお、この40%という数値はアメリカやドイツとほぼ同レベルですが、フランスの33%やイギリスの30%と比較すると高いと言えます。

合併の税務(その7)~逆三角合併の場合~

米国では、通常の三角合併(Forward Triangular Merger)に加えて、逆三角合併(Reverse Triangular Merger)が頻繁に利用されます。これは、合併のターゲット会社が特定の事業の許認可を有していたりする場合に、許認可の取り直しを避けるためにターゲット会社を存続会社として残し、買主側の子会社(買収子会社)がターゲット会社に吸収合併される形態のM&Aが有用だからです。例えば、自動車大手の独ダイムラーと米クライスラーの合併も、Reverse Triangular Mergerの形で行われました。

他方、日本の会社法下で平成19年5月以降可能となった三角合併は、買収子会社が存続会社となる「正三角合併」のみであり、「逆三角合併」については手当されていません(会社法800条)。そこで、日本の実務では、対象会社の許認可等を残すための方策、すなわち、「逆三角合併」と同様の効果を発生させるスキームとして、「三角株式交換」方式が検討されることがあります。

「三角株式交換」方式とは、

① 買収子会社が対象会社の株式を一定割合取得する(公開買付け)。
② 買収子会社を完全親会社、対象会社を完全子会社とする株式交換を行う(対象会社の株主には、外国親会社の株式を交付する(*1))。
③ 対象会社を存続会社、買収子会社を消滅会社とする「逆さ合併」を行う(その結果、外国親会社が対象会社の完全親会社として残る)。


という「公開買付け+株式交換+逆さ合併」の組合せによる買収方法ですが、この方式の問題点は、税務上「適格」となるかどうかが疑わしい点にあります。すなわち、最初の公開買付けによって対象会社の50%超の株式を取得できなかった場合は、「共同事業を行うための適格株式交換」に該当させるために「株式継続保有要件」を充たす必要がありますが、買収子会社は最後の逆さ合併で消滅してしまいますので、この株式継続保有要件を充足するか否かに関して疑義が発生するのです。

よって、逆三角合併と三角合併を同様に扱わない点については、アンバランスという指摘が可能であり、立法による解決が望まれます。


(*1) 株式交換においても、「対価の柔軟化」によって、「株式交換完全親会社(*上記例では買収子会社のこと)の株式、社債、新株予約権、新株予約権付社債その他の財産」を交付することができるようになりました。

合併の税務(その6)~三角合併の場合~

いわゆる三角合併の場合、通常、合併前の当事会社間に50%超の資本関係は存在しないと思われますので、適格合併とするには、「共同事業を行うための合併」として以下の要件を充たす必要があります。

ア 事業関連性要件
イ 事業規模要件または経営参画要件
ウ 株式継続保有要件
エ 金銭等の支払がないこと
オ 独立事業単位要件(80%以上の従業員の引継ぎ)
カ 事業継続要件


従前、三角合併にとっての障害は上記要件のアとエでした。
すなわち、まず、エの「対価要件」に関しては、平成19年税制改正前の対価要件は「存続会社の株式以外の資産が合併対価として交付されないこと」でしたので、親会社の株式を交付する三角合併は非適格となりました。しかし、既に<合併の税務(その2)~100%の支配関係がある場合~>で述べたように、平成19年年度税制改正によって、「合併法人の親法人の株式」が、適格合併の対価の範囲に加えられました。ここで言う「親法人」とは、「合併等の直前に合併法人等の発行済株式の全部を直接に保有し、かつ、当該合併等後にその発行済株式の全部を直接に継続して保有することが見込まれる法人」をいいます。よって、この要件を充たす親法人の株式を利用する三角合併については、適格要件を充たすことになりました(*1)。

続いて、アの「事業関連性要件」に関しては、三角合併を計画する外国企業が日本企業を買収するために日本に設立する子法人は自らは事業を行っていない受皿会社(SPC)であるのが通常ですので、「消滅会社の主要な事業」と「存続会社のいずれかの事業」が相互に関連するとは言えず、やはり非適格となりました。この点、平成19年年度税制改正によって、やはり「事業関連性要件」の緩和措置が採られ、<合併の税務(その4)~共同事業を行うための合併①~>で述べた「事業実体性に関する判断基準」を充たす事業準備会社については「事業関連性要件」を充足しうるということになりました。

なお、<合併の税務(その3)~50%超100%未満の支配関係がある場合~>で述べたとおり、「保有割合50%超100%未満の支配関係がある会社間の合併」については、
ア 金銭等の支払がないこと
イ 直接または間接の50%超の支配関係の継続
ウ 独立事業単位要件(80%以上の従業員の引継ぎ)
エ 事業継続要件

が「適格合併」となりますので、「事業関連性要件」を充たす日本法人を持っていない外国企業が日本企業を買収したい場合には、先に50%超の対象会社株式をキャッシュで買い付けてから上記「保有割合50%超100%未満の支配関係がある会社間の合併」を利用するという方法があり得ることになります。


(*1) 三角合併に限った論点ではありませんが、「対象会社の株主に存続会社およびその親会社の株式以外の財産が交付されないこと」をもって適格合併の要件とする現行法については、金銭を対価として利用する合併は全て不適格となり妥当でないとの批判が存在します(例えば、武井一浩「M&A法制の今後の課題-企業法実務の観点から-」(『会社法と商事法務』289頁))。合併対価の一部を金銭で受け取るということは、株主にとって、「株式を持ち続けることによって発生する将来のリスクを部分的現金化によって軽減させる」効果を有しますし、金銭を受け取ってもその比率によっては「支配関係」に大きな影響を与えないケースもあり得ると思いますので、要件を明確にした上で、「対価要件」を緩和するのが良いではないかと考えます。なお、現行法の下で、キャッシュと株式を混ぜた合併を行おうと思えば、「現金を使った株式取得+合併」という二段階スキームを利用することになります。

合併の税務(その5)~共同事業を行うための合併②~

共同事業要件は、「事業関連性要件」「事業規模要件または経営参画要件」「株式継続保有要件」の三つから成りますが、今回はそのうち「事業規模要件または経営参画要件」と「株式継続保有要件」について紹介します。

イ 事業規模要件または経営参画要件

税法上は、合併当事会社が「共同」で事業を行う場合に限って適格合併と評価されますが、規模が大きく違う会社間の事業統合については、もはや「共同事業」とは言えず、むしろ「買収」と評価すべきことになりますので、事業規模が近いことが税制適格要件として要求されています。また、例えば、ベンチャー企業と同業の老舗企業が合併し、お互いに足りないものを補完しあう場合のように、事業規模は異なっていても「共同で事業を行うために合併する」と評価してもよいケースもあるでしょう。そこで、事業規模要件の代わりとして、経営参画要件が登場します。これは、合併当事会社の双方から役員を出して新会社の経営を行うのであれば、共同事業性を認めようとするものです。

具体的には、
消滅会社の事業と存続会社の事業のそれぞれの売上金額、資本金等の事業規模が概ね5倍を超えないこと(事業規模要件)
または、
合併後の存続会社の特定役員(社長、副社長、代表取締役、専務取締役、常務取締役又はこれらに準ずる者で経営に従事する者)(*1)が、消滅会社の特定役員および合併前の存続会社の特定役員の双方から選出されること(経営参画要件)
が必要です。

ウ 株式継続保有要件

「共同事業を行うための合併」においても、「企業グループ内の合併」と同様、合併後の保有株式について一定の制限が設けられています。すなわち、消滅法人の株主の数が50人未満である合併については、「存続会社株式の全部を継続保有することが見込まれる者が、消滅会社株式の80%以上を有していること(議決権のある株式に限る)」とされています。株主が50人以上のケースに関して株式継続保有が要求されないのは、株主が多数存在する企業や上場企業の株式について継続保有の要件を課すことは現実的ではないからです。

なお、「共同事業を行うための合併」においても、「企業グループ内の合併」と同様、「金銭等の支払がないこと」「独立事業単位要件(80%以上の従業員の引継ぎ)」「事業継続要件」は必要です。

よって、まとめると、「共同事業を行うための合併」が税制適格を得るための要件は、

ア 事業関連性要件
イ 事業規模要件または経営参画要件
ウ 株式継続保有要件
エ 金銭等の支払がないこと
オ 独立事業単位要件(80%以上の従業員の引継ぎ)
カ 事業継続要件


となります。

以上で、適格合併要件の整理は終わりますが、若干の補足です。税制適格合併では、原則として合併の日の前5年以内に開始した事業年度において生じた青色繰越欠損金を存続会社が引き継ぎますが、グループ内組織再編の場合で、要求される資本関係(持分割合50%超の関係)が合併の日の属する事業年度開始日の5年前の日以後に生じている場合は、「みなし共同事業要件(*2)」を満たさなければ、資本関係発生事業年度前に生じた青色繰越欠損金の金額の全部または一部を引き継ぐことができない場合がありますので注意が必要です。


(*1) ここでいう「特定役員」は、実態的に経営の従事する役員でなければならないことから、使用人兼務役員や社外取締役では要件を充たさず、執行役員については経営に参画しているかどうかで判断されます。また、共同事業性の要件を充たすためにとりあえず短期間「特定役員」を存続会社に派遣するというのでは法の趣旨の潜脱になる可能性があります。
(*2) 「事業関連性要件」「経営参画要件」の両方を充たすか、「事業関連性要件」「事業規模要件」「規模継続要件(消滅会社の合併直前の事業規模が、特定資本関係になった時点に比べて2倍を超えないこと)」の全てを充たすことが必要。

合併の税務(その4)~共同事業を行うための合併①~

(2) 共同事業を行うための合併について

税法が、「適格合併」の一類型として認めているのが「共同事業を行うための合併」です。ここでは、再編前の持株関係に関する要件はありませんが、その代わり、税法上「共同事業」とみなされるための判定要件である「事業関連性要件」「事業規模要件または経営参画要件」「株式継続保有要件」の三つを充たす必要があります。

ア 事業関連性要件

まず、「消滅会社の主要な事業」と「存続会社のいずれかの事業」が相互に関連するものであることが必要です。もともと持株関係がない会社間での合併ですので、単なる買収ではなく「共同事業」と評価できるだけの関連性が要求されるためです。ただ、この「事業関連性」については曖昧で判断が難しいという声がありました。そこで、法人税法施行規則の平成19年改正によって、要件の明確化が図られました。その要件は、

① 事業実体性に関する判断基準
② 事業関連性に関する判断基準


に分けられ、①には、
・ 事業拠点保有に関する要件(*1)
・ 従業者に関する要件(*2)
・ 事業または事業準備に関する要件(*3)
が、②には、
・ 同じ事業の種類(*4)
・ 同一または類似の商品等・経営資源(*5)
・ 商品・経営資源の活用見込み(*6)
が含まれます(*7)。

その他の要件については、次回以降のコラムで紹介したいと思います。


(*1) 事務所、店舗、工場その他の固定施設(その本店または主たる事務所の所在地がある国または地域にあるこれらの施設に限る)を所有し、または賃借していること
(*2) 従業者(役員にあっては、その法人の業務にもっぱら従事するものに限る)があること
(*3) 自己の名義をもって、かつ、自己の計算において次に掲げるいずれかの行為をしていること
① 商品販売等(商品の販売、資産の貸付けまたは役務の提供で、継続して対価を得て行われるものをいい、その商品の開発もしくは生産または役務の開発を含む)
② 広告または宣伝による商品販売等に関する契約の申込みまたは締結の勧誘
③ 商品販売等を行うために必要となる資料を得るための市場調査
④ 商品販売等を行うにあたり法令上必要となる行政機関の許認可等についての同号に規定する申請または当該許認可等に係る権利の保有
⑤ 知的財産権の取得をするための出願もしくは登録の請求もしくは申請、知的財産権の移転の登録の請求もしくは申請または知的財産権等の所有
⑥ 商品販売等を行うために必要となる資産(固定施設を除く)の所有または賃借
⑦ ①から⑥までに掲げる行為に類するもの
(*4) 被合併事業と合併事業とが同種のものである場合における被合併事業と合併事業との間の関係
(*5) 被合併事業に係る商品、資産もしくは役務または経営資源と合併事業に係る商品、資産もしくは役務(それぞれ販売され、貸し付けられ、または提供されるものに限る)または経営資源(事業の用に供される設備、事業に関する知的財産権等、生産技術または従業者の有する技能もしくは知識、事業に係る商品の生産もしくは販売の方式、または役務の提供の方式その他これらに準ずるものをいう)とが同一のもの、または類似するものである場合における被合併事業と合併事業との間の関係
(*6) 被合併事業と合併事業とが合併後に被合併事業に係る商品、資産もしくは役務または経営資源と合併事業に係る商品、資産もしくは役務または経営資源とを活用して営まれることが見込まれている場合における被合併事業と合併事業との間の関係
(*7) 共同事業性要件については、国税庁から「共同事業を営むための組織再編成(三角合併等を含む)に関するQ&A」が出ています: http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/joho-zeikaishaku/hojin/6037/01.pdf

合併の税務(その3)~50%超100%未満の支配関係がある場合~

続いて、「保有割合50%超100%未満の支配関係がある会社間の合併」について検討します。

この場合も、前回述べた「完全親子会社・兄弟会社間の合併」と同様、支配関係が変わらなければ、課税の対象となる「資産の移転」と捉えるべきではないと言えます。よって、
ア 金銭等の支払がないこと
イ 直接または間接の50%超の支配関係の継続
(*1)
については、同じように「適格合併」の要件として要求されます。

しかし、「保有割合50%超100%未満の支配関係がある会社間の合併」の場合は「完全親子会社・兄弟会社間の合併」とは異なり、資産の切り売りと評価されないよう「独立事業単位要件」と「事業継続要件」が別途要求されます。

すなわち、「適格合併」に該当するためには、「独立事業単位要件」として、「移転法人の移転事業の従業者のおおむね80%が取得法人に引き継がれていること」が必要です(引き継がれた従業者がその後も移転事業に従事する必要はありません)(*2)。

また、「事業継続要件」として、「消滅会社の主要事業が、存続会社において引き続き営まれることが見込まれること」が必要です。では、具体的に、どのくらいの期間、どの程度同じ態様で事業を継続する必要があるのでしょうか?・・・この点については、具体的な要件が規定されていないためケース・バイ・ケースで判断するほかありませんが、当初から従業員を一定数リストラするつもりで、あるいは、合併後に当該事業部門を閉鎖する予定で合併する場合は、「見込み」として事業継続がなされないことになりますので、非適格合併となります。

以上より、「保有割合50%超100%未満の支配関係がある会社間の合併」については、
ア 金銭等の支払がないこと
イ 直接または間接の50%超の支配関係の継続
ウ 独立事業単位要件(80%以上の従業員の引継ぎ)
エ 事業継続要件

が充たされて初めて「適格合併」となります。

では、持分割合が50%以下の関係にある会社間の合併は、常に税制不適格となるのでしょうか?
税法上、「企業グループの枠を越えた組織再編成」についても、一定の要件を充たせば「移転資産に対する支配」が継続しているとみなされる場合がありますので、その類型を次回のコラムで紹介したいと思います。


(*1) 存続会社と消滅会社との間に直接または間接の50%超の保有関係があるか(親子会社のケース)、存続会社と消滅会社が同一の者により直接または間接に50%超保有されている関係があり(兄弟会社のケース)、合併後も同一者による50%超の継続保有が見込まれること
(*2) 適格分割と適格現物出資における「独立事業単位要件」には、従業者引継ぎ要件に加えて、「移転法人の移転事業の主要な資産及び負債が取得法人に引き継がれていること」も含まれます。

合併の税務(その2)~100%の支配関係がある場合~

前回のコラムで述べたように、「適格合併」として資産の譲渡損益に対する課税が繰り延べられる組織再編成の特例は、
① 企業グループ内の組織再編成
② 共同事業を行うための組織再編成

に限定され、それぞれ一定の要件を充足しなければなりません。以下、順に説明していきたいと思います。なお、以下で登場する株式保有割合は、特に記載がない限り、議決権ベースではなく、発行済み株式総数に占める割合を指します。

(1) 企業グループ内の合併について

例えば、前回のコラムで挙げた例において、存続会社であるA社が消滅会社であるT社の100%親会社であったとします。このように企業グループ内の100%親子会社関係にある会社同士が合併し資産が移転しても、実質的にはその完全支配関係は合併の前後で全く変化しないと言えます。よって、100%親子会社間の合併については、「適格合併」として、資産は帳簿価額で移転し、譲渡損益の額は認識されません。また、存続会社と消滅会社の100%親会社が同一である場合についても、それら兄弟会社が合併したとしても支配関係は変化しませんので、やはり「適格合併」となります。

ただし、「適格合併」となるためには、そもそも論として、「移転する資産に対する支配が継続されている」ことが前提となります。よって、合併対価として存続会社およびその親会社(*1)の株式以外の財産の交付、すなわち「金銭等の交付」がなされるケースについては、組織内の再編成というよりはむしろ他社の「買収」に当たると考えられることから、「適格合併」とはなりません(*2)。

また、100%株式保有という当事会社間の関係は、合併後も継続される必要があります(ただし、「見込み」でよいため、結果として継続されなかった場合は救済されますが、例えば、合併後に第三者割当増資を予定しているようなケースでは、100%株式保有関係が継続されないことが見込まれているため、「適格合併」にすることはできません)。

以上より、【保有割合100%の完全支配関係がある会社間の合併】については、
ア 金銭等の支払がないこと
イ 直接または間接の100%の完全支配関係の継続(*3)

を要件に、「適格合併」となります。

なお、合併後に完全支配関係が維持できないケースであっても、依然50%超の支配関係が継続される場合は、次のコラムで述べる「持分割合が50%超100%未満の関係にある法人間」での「適格合併」要件を充たす可能性があります。


(*1) 三角合併の解禁を受けて、平成19年年度税制改正によって、「合併法人等の親法人の株式」が、適格合併の対価の範囲に加えられました。ここで言う「親法人」とは、「合併等の直前に合併法人等の発行済株式の全部を直接に保有し、かつ、当該合併等後にその発行済株式の全部を直接に継続して保有することが見込まれる法人」をいいます。 
(*2) ここは、合併の対価として「金銭等の交付」を行ってはならないという趣旨のため、以下のケースについては、金銭等の交付があっても「適格合併」の要件を充たします。
① 新株の割当てに際して1株未満の株式(端株)が生じたため、端株の代金として株主に金銭を交付する
② 反対株主が株式買取請求権を行使した結果、株主に金銭を支払う
③ 被合併法人の配当見合い金として株主に金銭を交付する

(*3) 存続会社と消滅会社との間に直接または間接の100%保有関係があるか(親子会社のケース)、存続会社と消滅会社が同一の者により直接または間接に100%保有されている関係があり(兄弟会社のケース)、合併後も同一者による100%の継続保有が見込まれること

合併の税務(その1)

M&Aのストラクチャーを決める大事な考慮要素の一つに、税金の問題があります。合併を例に取りますと、「合併当事会社間で資産と負債が移転することによって発生する税金」と、「消滅会社の株主が合併対価を受け取ることによって発生する税金」の二種類について検討する必要があり、課税の有無・程度によってはストラクチャーの変更をも視野に入れなければなりません。

例えば、T社がA社に吸収合併されるケースで説明しますと、法律上は、T社とA社の法人格が一つになることによってT社の資産・負債は包括的にA社に帰属することになり、合併対価はA社からT社の株主に直接交付されますが、税務上は、①T社の資産・負債がA社に譲渡・承継され、②合併対価についてはA社からT社に交付された上で、改めて(直ちに)T社からT社の株主に交付されたものとみなされます。すなわち、①の局面において、資産・負債を移転したT社サイドで、その譲渡損益に関する法人税処理が必要となり、②の局面において、株主に対して株式譲渡益課税(*1)やみなし配当課税(*2)が行われます。

上記は、いわば税務における原則的な取扱いと言えますが、消滅会社の株主としては、税金を支払うために(現金が手元にない限り)持株を売却せざるを得ず、また、株が一斉に売られると株価が下がるために、売却によって更に損をする可能性もあります。そうすると、最初から合併そのものに対して反対票を投じることを考える消滅会社の株主も出てくるでしょう。また、資産の含み損を実現化させたい場合などは別として、合併に際して資産が時価評価され課税されることは避けたいと当事会社が考えるケースも多いと考えられます。

そこで、平成13年の税制改正によって「企業組織再編税制」が導入され、組織再編成によって法人がその資産を移転する場合には、時価取引として譲渡損益の額を認識すること、すなわち「時価譲渡」を原則としつつも、「資産を移転する場合であっても、実質的に当該資産に対する支配が継続していると認められる場合」については、特例として、資産が帳簿価額で移転するとみなして譲渡損益の額を認識しないこと、すなわち「簿価譲渡」が認められることになりました。

これは、資産移転の前後で経済的な実態に実質的な変更がない場合においては、当事者としては、「存続会社が消滅会社の資産・負債を帳簿価格で承継し、譲渡損益の認識を繰り延べてもらいたい」、「消滅会社の株主へ交付される合併対価については、その株主が将来実際に株式を売却するまでは課税されないようにしたい」と考えるのが通常であるし、それを認める合理性もあることから、移転する資産の譲渡損益の額を認識しない組織再編成を特例として認めたものです。この特例に該当する合併が「適格合併」と呼ばれ、「適格合併」に該当しないいわば原則的取扱いのケースは「非適格合併」と呼ばれます。

「適格合併」として資産の譲渡損益に対する課税が繰り延べられる組織再編成の特例は、
① 企業グループ内の組織再編成
② 共同事業を行うための組織再編成

に限定され、それぞれ一定の要件を充足しなければなりません。

課税の繰り延べ措置が認められるか、簿価承継となるかどうかは合併当事者とその株主にとって極めて重要な問題ですので、いかなる場合であれば「適格合併」に該当するかをチェックする必要がありますが、要件を列挙するだけではなかなか記憶に残りにくいことから、次回以降のコラムで、趣旨に遡って各要件を一つ一つ見ていきたいと思います。


(*1) 消滅会社の株主が存続会社株式以外の財産の交付を受けた場合には、譲渡損益に対する課税が生じます。譲渡損益は、「株主が交付を受けた財産の時価合計額から取得原価とみなし配当額を控除」して求めます。以下に述べるように、みなし配当が、「株主が交付を受けた財産の時価合計額」と「消滅会社の資本金および資本積立金」の差額であることを考えれば、譲渡損益は、「消滅会社の資本金および資本積立金」と「取得原価」の差額ということになります。
(*2) 合併における解散法人に留保利益があった場合、課税なくして合併が認められると、株主に対する配当課税のチャンスが失われてしまうため、消滅会社の利益を原資とする部分(利益積立金)が存続会社の資本金および資本積立金に組み入れられる場合、法人税法では、その資本組入部分について、「一旦株主に配当として分配し、その分配部分を再び株主から出資を受けた」ものとみなします。この株主への配当とみなされる部分(別の言い方をすれば、「株主が交付を受けた財産の時価合計額から消滅会社の資本金および資本積立金の額を控除した残額」)について行われる課税が、「みなし配当課税」です。みなし配当が発生する場合、合併法人は一株当たりのみなし配当額を株主に通知する義務があります。

Market MAC条項について

Market MAC条項とは、「契約締結日からクロージング日までの間にFinancial Marketの悪化が発生していないこと」を融資契約や出資契約のクロージングの条件とする条項をいいます。以下では、このMarket MAC条項の効果が問題となったSolutia社のケースを紹介します。

Solutia社はおよそ4年もの間倒産(Chapter 11)手続下にありましたが、金融機関から資金提供を受けて再建計画を策定できる運びとなり、2007年10月25日付けで、銀行団(*1)から20億ドルの融資(exit financing)約束を取り付けました。この融資合意書(commitment letter)においては、

“there had been no adverse change in the financial markets since the date of the agreement that, in the reasonable judgment of the lenders, materially impaired the ability to syndicate the Solutia exit financing.”
(訳: 本合意書の締結日以降に、貸主の合理的判断において、Solutia社に対する協調融資を行うことが相当困難になるようなフィナンシャル・マーケットの悪化が発生していないこと)

が、融資の条件とされ、かつ、合意書の有効期限は2008年2月29日とされていました。

Solutia社は2008年1月に銀行団に対して融資の実行を要請しましたが、各銀行は、レバレッジド・ローン市場が極めて悪化していることを理由に、すなわち、Market MACが発生していることを主張して、融資を断りました。そこで、Solutia社はニューヨーク州にある連邦倒産裁判所に提訴し、合意書の有効期限である2008年2月29日までに20億ドルを融資するよう銀行団に対し債務の履行(specific performance)を求めました。

本件の融資合意書には、いわゆる"Firm Commitment"条項(*2)が入っていたため、Market MAC条項との関係が問題となりました。また、「Market MAC条項はいわゆる"boilerplate"条項であって過去に実際に利用されたことは殆どないから効力を有しない」とするSolutia社の主張に対しても、「融資合意書にサインをした2007年10月から融資を断った2008年2月までの間にMACが発生した」とする銀行団の主張に対しても、裁判所は疑問なしとしないという意見を示していたことから、Solutia社と銀行団は、内容の予測がつかない判決をもらうことを避け、当事者間で再交渉を行い、結局、銀行団により有利な条件でSolutia社に融資を行うことが再合意されて和解が成立しました。

本件では裁判所の判断が示されなかったため、先例として利用することは出来ませんが、買主側が予定していた融資や出資が、融資・出資合意書に含まれているMarket MAC条項によって実行されない可能性があることを認識し、可能な限り、買収契約書に盛り込むMAC条項との整合性を図ることが必要になってくると考えます。


(*1) Citigroup Global Markets Inc., Goldman Sachs Credit Partners L.P., Deutsche Bank Trust Company Americas and Deutsche Bank Securities Inc.
(*2) 主に証券の引受けで用いられる条項で、「売れ残り」についても引受人が全て引き受けることを約束する条項。本件で、Solutia社側は、シンジケートが組めなくても融資を行うこと(=Firm Commitment)が合意されていたと主張しました。

MAC条項について(その3)

MAC条項に関して当事者間で最も白熱した交渉がなされるのは、Carve Out事由(例外事由)をどこまで定めるかという点です。特に、プライベート・エクイティ・ファンドの増大によって売り手市場になっていた近年の米国M&A業界では、売主側が有利になるよう(すなわち、買主は容易に撤退できないよう)、多くのCarve Out事由が定められました。

例えば、COUNTRYWIDE FINANCIAL CORPORATIONとBank of Americaの合併契約書(*1)を見ると、以下のようなCarve Out条項が盛り込まれています。

“provided, however, that, with respect to this clause (i), a “Material Adverse Effect” shall not be deemed to include effects to the extent resulting from (A) changes, after the date hereof, in GAAP or regulatory accounting requirements applicable generally to companies in the industries in which such party and its Subsidiaries operate, (B) changes, after the date hereof, in laws, rules or regulations of general applicability to companies in the industries in which such party and its Subsidiaries operate, (C) actions or omissions taken with the prior written consent of the other party, (D) changes, after the date hereof, in global or national political conditions or general economic or market conditions generally affecting other companies in the industries in which such party and its Subsidiaries operate or (E) the public disclosure of this Agreement or the transactions contemplated hereby, except, with respect to clauses (A) and (B), to the extent that the effects of such change are disproportionately adverse to the financial condition, results of operations or business of such party and its Subsidiaries, taken as a whole, as compared to other companies in the industry in which such party and its Subsidiaries operate”
(サマリー的訳:
(A) GAAPや会計基準の変更、(B) 法令の変更、(C) 他方当事者が事前に書面で同意した行動、(D) 国内外の政治的状況または経済・市場の状況の全体的な変化、または、(E) 本契約の開示、から発生した影響については、「重大な悪影響」には含まないものとする(ただし、(A)(B)のうち、対象会社の財務状況、営業成績や事業に特に悪影響を及ぼすものについてはMAEに該当する))

上記のようなCarve Out条項に従う限り、買主は、例えばサブプライム・ローン問題に端を発した市場全体の信用収縮などを理由に、(Termination Feeを支払うことなく)買収案を撤回することが困難となります。実際、Finish Line社がUBSから資金提供を受けてGenesco社を買収しようとしたケース(15億ドルのCash Merger)において、UBS がGenesco社の収益が落ち込んだことを理由に融資を拒否したため訴訟に発展したのですが、テネシー州衡平裁判所は、「Genesco社の収益悪化は経済の全体的な落ち込みによるものであり、同じ業界に属する他社と比較してGenesco社の業績がとりわけ悪化した(disproportionate impact)わけではないから、MAC条項に基づく解除はできない」と判示しました(*2)。

なお、MAC条項は、実務上は、「契約解除に至れるかどうかはさておき、とりあえず再交渉するため」の道具として使われることが多いと思われます。買主としては、理由の如何を問わずReverse Termination Feeさえ支払えばディールから撤退することはできるわけですが、買主側の取締役のFiduciary Dutyについても注目され始めている今日においては、経済状況が変化したり、対象会社のビジネスに重大な変化が生じたにも拘らず従前の契約条件のままクロージングを迎えると、買主の取締役の責任が問われるリスクがあります。そこで、MAC条項を持ち出して「契約の解除か、減額か」を売主に迫ることで、どうにかして再交渉に持ち込みたい場合があるということです。実際に、そのような過程を経て、訴訟に至ることなく「少し減額してクロージングを迎えた」ケースは少なくないものと思われます。

MAC条項に関連して一つ注意したいのは、プライベート・エクイティ・ファンドがサインするEquity Commitment Letter(出資契約書)には、いわゆるMarket MAC条項が入っているケースがあるということです。Market MAC条項によって必要な資金が買主に提供されないにも拘らず、Carve Out条項によって買収そのものは撤回できないという事態が発生しうるからです。Market MAC条項については、最近米国で注目を浴びたSolutia社のケースがありますので、次回のコラムで簡単に紹介したいと思います。


(*1) http://www.sec.gov/Archives/edgar/data/25191/000089882208000107/exhibit21.htm
(*2) 本件は結局和解にて終了(買収は撤回)しましたが、Finish Lineは、訴訟や和解などの関連費用8150万ドルを計上した結果、2007年の第4四半期決算において赤字となりました。

MAC条項について(その2)

MAC条項については、押さえておくべき判例がいくつかありますが、「曖昧な契約文言は裁判所による解釈作業を招く」ことを示す実例として、まずは有名なIBP v. Tyson Foods, Inc. (789 A.2d 14 (Del.Ch. 2001))について紹介したいと思います。

食肉業界大手であるTyson社は同業のIBP社をCash Out Mergerによって買収するためにDue Diligenceを行ったところ、IBP社の牛肉部門の業績が悪化しつつあることと、IBP社の子会社の一つに会計上の問題点があることを発見しました。事業拡大を目指すTyson社はそれにも拘らずIBP社との合併契約書(*1)にサインしましたが、結局翻意し、当該契約を破棄するとIBP社に通告したため、IBP社は合併契約の履行を求めてデラウエア州裁判所に提訴しました(*1)。

デラウエア州裁判所は、本件において、まず、立証責任の問題に関連し、「契約の破棄を求める側がMACの発生を立証する責任を負う」と述べた上で(立証責任の問題は実務上は非常に重要です)、曖昧に規定されていたMACの範囲を

unknown events that substantially threaten the overall earnings potential of the target in a durationally-significant manner
(訳: 対象会社の収益全体に長期間に亘って重大な脅威を与える、(買主に)知られていなかった事実)

に限ると判示しました。
ここでのポイントは、
① MACは買主によって認識されていなかった事実でなければならない
② MACは「重大な脅威」でなければならない
③ MACは一時的に発生したものでは足りず、長期間続くものでなければならない

の3点であり、本件では、①の点に関連し、Tyson社がIBP社の牛肉部門における収益が悪化しうること、および、子会社における会計上の問題点を認識していたことから、現にそのような事態が発生したとしてもMACには該当しないとされました。また、③の点についても、IBP社の牛肉部門における収益が悪化したといってもそれは短期間の現象であるから、やはりMACには該当しないとされました(その結果、Tyson社はIBP社を買収しました)。

本件の結果、実務上は、「買主が認識している事実」については予めMACに該当すると契約書に明記する方法が利用されるようになりました。問題が現に発生しつつある以上、それを買主が知っていたからという理由で買主が救済されないのは当事者の合理的意思に反するでしょうから、特にMACに該当する事項として明記しておくという方法は妥当だと考えます。

また、細かくなりますが、本件ではTyson社の行動の一部がTyson社にとって不利益に斟酌されました。Tyson社はMACであると主張する事態が判明した後に、インベストメント・バンクから買収対価に関するフェアネス・オピニオンを取り直したのですが、悪いことに、そのオピニオン・レターの中では、「依然、買収対価は適切である」と書かれており、これがTyson社が後にMACを主張するときの障害の一つになったと考えられます。また、Tyson社は一番最初にIBP社に送付した契約解除通知の中でMACについて触れていなかったのですが、この点もTyson社の不利に働きました。よって、実務上は、相手方当事者やアドバイザーとのやり取りなども、全て後の訴訟で自己に不利益な証拠になりうること(Attorney-Client Privilegeは除く)に留意した上で、フェアネス・オピニオンを取り直すのであれば、「フェアでない」との意見が確実にもらえそうな場合に限り、かつ、解除通知には、MACも含めて解除理由として考えられることを可能な限り盛り込んでおくべきだと考えます。


(*1) 当該合併契約書には、以下のMAC条項が入っていました。
“a material adverse effect on the condition (financial or otherwise), business, assets, liabilities or results of operations of the Company and the Subsidiaries taken as a whole”
(*2) ただし、契約書上、適用法令はニューヨーク州法でした。

MAC条項について(その1)

MAC(Material Adverse Change)条項とは、MAE(Material Adverse Effect)条項とも呼ばれ、契約書にサインした時からクロージングまでの間に発生するリスク(対象会社の経営状態の悪化や各種問題の発生)を契約当事者間で配分するための手段であり、近年のアメリカでは、買収案件やプロジェクトファイナンス案件、ベンチャー投資案件などで頻繁に利用されています。アメリカで2001年に発生した9.11テロ事件以降、対象会社の資産や経営状態に問題が発生したときに、融資案件におけるLenderや買収案件におけるBuyerが違約金や損害賠償金を支払うことなく契約を解除してディールから撤退(walk away)する権利を契約書に盛り込むことが必要であるという認識が広がったことから、MAC条項が幅広く利用されるようになりました。

MAC条項は、クロージング条件条項(condition to completion)、または、「特定の日(直近の財務諸表作成日)以降にMACが発生していない」という内容の保証条項(warranty)として組み込まれ、後者のケースでは、その保証をクロージング日にも行わせることで(すなわち、クロージング日においても、「特定の日以降にMACが発生していないこと」を保証させる)、契約締結日からクロージング日までに発生するリスクを対象会社に負わせられるよう交渉が行われます。以下では、買収案件におけるMAC条項について詳述します。

「MAC」の定義については、これをどう定めるかが買主・売主間での大きな関心事の一つとなります。米国の実務において一つの雛形として利用されているABAの “Model Stock Purchase Agreement”には、

No Material Adverse Change. Since the date of the Balance Sheet, there has not been any material adverse change in the business, operations, properties, prospects, assets or condition of any acquired Company, and no event has occurred or circumstances exist that may result in such material adverse effect.
(訳:
重大な悪化が発生していないこと - (直近の)貸借対照表の作成日以降、対象会社のビジネス、事業運営、財産、将来予測、資産または状態にいかなる重大な悪化も発生していないこと、および、かかる重大な効果につながりうる事実または状況が発生していないこと)

という定義が書かれています。通常、買主は、予測できない事象を全て取り込むべく可能な限り広くMACを定義しようと試みますが、上記ABAの定義はMACの内容に関してほとんど限定がなされていませんので、買主が好む規定の仕方であると言えます(たとえば”material”、 ”business”、 “prospects”といった言葉はそれ自体で既に「曖昧」で、将来の問題点を幅広くカバーしてくれそうに見えます)。また、実務で用いられる契約書にはMACの定義条項が置かれることが通常ですが、その場合でも、
Material Adverse Effect means any event, condition or change which materially and adversely affects or could reasonably be expected to materially and adversely affect the assets, liabilities, financial results of operations, financial conditions, business or prospects of the Company.
といった書き方をされ、やはり「曖昧」です。

しかし、「曖昧」な契約文言が辿る運命といえば・・・「裁判所による契約条項の解釈作業」です。裁判所は、当事者の合理的意思を認定するために、契約交渉当時の様々な客観的事実関係を精査せざるを得ないことになり、結局、MACの範囲は、裁判所によって当事者の意図しなかった形に解釈される可能性が出てくるということになります。MACは、
① Adverse Change(Effect)
② Material

という二つの要素に分けられますが、①についての認定は(裁判所にとって)比較的容易です。問題は②であり、裁判所は、問題となっている特定の事象に関し「合理的な買主(reasonable purchase)であれば重大と評価するか否か」を各種証拠から認定しますが(*1)、そのプロセスが予測困難なのです。

そこで、具体的な金額やパーセンテージをMACの定義に盛り込むような試みもなされました。たとえば、MACの通常の定義の後に、
For purposes hereof, an event, occurrence, change in facts, conditions or other change or effect which has resulted or could reasonably be expected to result in a suit, action, charge, claim, demand, cost, damage, penalty, fine, liability or other adverse consequence of at least $100,000 shall be deemed to constitute a Material Adverse Effect.
といった解釈条項を加えて、一定額以上の費用が発生したり、訴訟につながったりしうるトラブルはMACに該当するといった具合です。この方式の問題点は、(実務的になりますが)具体的な金額やパーセンテージあるいはMaterialに該当する基準を決めること自体が困難である(当事者が合意に至りにくい)という点でしょうか。

MACについては、他にも留意すべき点がありますので、次回以降のコラムで述べたいと思います。


(*1) Parnes v. Gateway 2000, Inc. 122 F.3d 539 (8th Cir. 1997)

会社は誰のものか?

さて、日本の企業において「Principal-Agent関係」と言うときのPrincipalとは誰だと考えるべきでしょうか?

この点、欧米においては、株主と企業経営者との関係=「Principal-Agent関係」として捉えられ(すなわち、株主がPrincipal)、Agency問題の発生を解決する方法としてガバナンス制度の在り方が議論されてきたと言えます。他方、日本では、今でもなお、「会社は誰のものか」という議論について決着が見られていません。

そもそもアメリカでは、「会社は株主のものである」と言うときの「株主」は「投資のために株を買った人たち」という位置付けであり、経営の素人であるから、所有と経営の分離は徹底していた方が良い、よって、株主には法令と定款で定められた権利のみ(主に取締役の任免権)を与えることで足りるという考え方に立った上で、だからこそ、膨らみがちなAgency Costを抑えるための方策が試行錯誤されてきたという経緯があります。他方、日本では、大陸法から輸入した株主総会万能主義については約60年前に廃止されたものの、未だに「困ったときは株主に決めてもらおう」という発想が残っているように思います。また、機関投資家が古くから「もの言う株主」として活動してきたアメリカと異なり、株式持合いとメインバンク制がインサイダー型ガバナンス体制を作ってきた日本では、株主総会は長期間形骸化していました。よって、「取締役に大幅に権限委譲した以上、Agency問題を解決しなければならない」というアメリカ型発想も出てきにくく、他方、株主に権限が残されているにも拘らず株主総会が形骸化していた結果、Agency問題自体に株主が気付かない、あるいは気付いたとしてもメインバンクの指導によって解決してきたという歴史があると思われます。そこで、今改めて「会社は誰のものか」という議論が再燃しているのではないでしょうか。

このような状況の中で、近年の日本では、「アメリカのようにAgency理論におけるAgency Costの最小化を追求してもきりがないから、そろそろ抜本的な考え方の転換が必要である。経営者は株主の代理人であるという発想から抜け出して、経営者が株主そのものになるという発想の転換を行い、経営者の報酬を株式で支払うようにすべき」といったドラスティックな意見が出てきたり(*1)、「取締役の内面的倫理性を外からチェックすること自体がそもそも難しいことであるから、一番重要なのは経営者自身がガバナンスに対する意識を高めることである」(=Agent自身の成長を期待する)といった経営者サイドからの意見も聞かれたりします。

しかし、前者の見解に対しては、経営者=株主となってしまうと「株価至上主義」に陥る可能性があり、それによって発生する問題も小さくはない(数字に表れやすい「投資利益を基準とした投資プロジェクト」を優先し、長期的な技術開発や従業員訓練、取引先との関係構築といった数字に表れにくい活動に対する投資が控えられることによる弊害など)(*2)、また、日本では未だ不十分な少数株主保護の問題が今まで以上にクローズアップされることになるといったコメントが可能であると思います。また、後者の見解に対しては、経営者全員がそのような意識を持つことは素晴らしいことではあるが、コーポレート・ガバナンス論自体は、あまり優れていない経営者が出てきたときにその専横をいかにして防ぐかという議論であるから、「上手く行っていない会社」を想定して議論すべきであるというコメントが可能ではないかと思います。確かに、Agency理論は経済学の理論であり、「(特に日本では)社会的存在として捉えられている会社」を分析する理論としては完全ではないと思いますが、これを時代錯誤の理論として(あるいは法と経済学的発想自体に反対であるとして)片付けるべきではなく、一つの判断枠組みとして利用することはなお有用であると考えています。

さて、Agency理論について現在議論する場合、株主のPrincipal性について否定することはなかなか困難であると感じます。1980 年代初めにおける日本企業(製造業)の負債比率は自己資本比率を大きく上回っていましたが(負債比率80%程度)、その後、負債比率は下がり続け(=自己資本比率は上昇し続け)、2005年には自己資本比率が50%を上回りました。これは、1980年代から2005年まではメインバンクを始めとする金融機関が会社に活動資金を提供している最大のPrincipalであったのに対し、ここ数年でその地位を株主が承継したことを意味すると考えます。もちろん、会社には従業員、取引先、社会といったステイクホルダーが存在しますので、これらステイクホルダーの利害を無視してよいということではありませんが、やはり会社の活動を支える資金提供者をPrincipalと捉えざるを得ないのではないでしょうか。

しかし、株主をPrincipalと捉える理論(株主資本主義、株主主権論にも近似)の欠点を補うのが近年注目を集めている「企業の社会的責任」(CSR)論です。株主と異なり持分を売却して会社を去るということが簡単にはできない従業員(とその家族)を始めとし、債権者、取引先や地域社会、果ては地球環境によって影響を受ける世界中の人々についてまで、企業はその利益を守る社会的責任を負っていると考えるべきですが、その社会的責任を、Agency理論におけるPrincipalの利益保護と同レベルに重要視するのが日本の目指すべき道ではないかと思います。日本はもともと金融収益ではなくモノ作りで経済を発展させてきた国ですから、Principalである株主のためにいかにして株価を上げるかを考えるだけでは方向性を誤ると感じます。近年は、CSRやコーポレート・ガバナンスですら、消費者に対するイメージ向上を狙い、顧客誘引力を上げるため、ひいては株価を上げるための一手段と捉えられる傾向もありますが、そうではなく、社会の持続的発展を目的とした将来への投資として真剣に考えなければならないと思います。この点では、「会社は誰のものか」という議論に決着が見られていない日本の方が、「会社は株主のものである」と比較的明確に位置づけられているアメリカよりも一歩先に進んでいるのかも知れません。


(*1) http://www.jacd.jp/keyword/041024_01key.html
(*2) 関連図書として: アラン・ケネディ「株主資本主義の誤算」(ダイヤモンド社)

監査役制度の行く末(その3)

前回のコラムで、日本の「業務執行者の監督制度」のあるべき方向性に関する議論としては、以下の3種類が存在すると書きました。

① 取締役(会)の監督機能を強化する案
② 監査役(会)の監督機能を強化する案
③ 委員会設置会社をより活用しようとする案(上記①案の一つの具体化)


これらのうちいずれが日本に最も合っているのか、いずれが最も優れた監督制度であるのか?・・・この問題について検討するに当たって、まず、企業活動に関わる人々の行動を分析するために1970年代からアメリカの経済学者によって提唱されているAgency理論についておさらいをしておきたいと思います。

Agency理論とは、主たる経済主体(Principal)とその経済主体の為に活動する代理人(Agent)が存在するケース(雇用主と従業員、株主と経営者など)を念頭に置いた上で、「一般的に、代理人は経済主体の利益を最大化するために活動することが期待されているものの、両者の利害は必ずしも一致するわけではなく、代理人が自己の利益を優先したり、両者の情報格差によって経済主体が不利益を被る可能性があるため、代理人が経済主体の利益に忠実に行動するようインセンティブを設定し、経済主体が代理人の行動をモニタリング(監視)する必要が発生する」・・・といった、「いかにしてAgentをPrincipalの思うとおりに動かすか」を巡る一連の議論のことを言います。ここで、インセンティブやモニタリングコストのことをAgency Costと呼びますが、アメリカでは、このAgency Costを最小化するためにどのようなコーポレート・ガバナンス体制が最も良いのかという議論が延々となされてきたわけです。エンロン事件の後に発生したSOX法の制定、取締役の独立性要件の強化も、これらの動きの一環と言えます。

さて、アメリカもドイツも、Agency理論との関係で言えば、二段階構造のPrincipal-Agent関係と言えます。すなわち、株主が、その代理人としての取締役(アメリカ)または監査役(ドイツ)を選任し、更に彼らが業務執行担当代理人としてオフィサー(アメリカ)または取締役(ドイツ)を選任するという構造です。ポイントは、いずれも、PrincipalがAgentに対する任免権を有しているという点です。対して日本では、一段階しかありません。株主が取締役を選任するというシンプルな構造です(代表取締役は取締役会で選任されるものの、代表取締役と取締役会は業務の決定機関・執行機関が一体化したような存在と言えますので、ここがPrincipal-Agent関係であると評価することはできない場合が多いと思います)。しかし、株主の数が増えたり、会社の規模が大きくなると、(「株主総会の形骸化」が問題視されて久しいように)Principalである株主がAgentである業務執行者の業務をチェックするというのはおよそ不可能になります(取締役会による監督機能については自己監査であって期待できないという前提に立っています)。そのために日本はこれまでの法改正の中で、情報開示を促進し、監査役の権限を強めてきたわけですが、監督者に執行者の人事権がない以上、結局、「一段階構造のPrincipal-Agent関係」の範疇からは抜け出せていないと考えます。「一段階構造のPrincipal-Agent関係」では、監督者と執行者が一体となってしまって適切なガバナンスが効かせられない以上、上記②案で行くならば、基本的な要素として、監査役に取締役の人事権(取締役候補を決定して株主総会に提出する権利)を与えて、二段階構造に持っていくことが必要だと考えます。

①案で行く場合は、取締役の独立性を強く要求することで、取締役会の監督機能が高まることは考えられるものの、依然「一段階構造のPrincipal-Agent関係」からは抜け出せないため、それだけでは不十分であろうと思います。そこで、例えば、日本コーポレート・ガバナンス・フォーラムの「新コーポレート・ガバナンス原則」は、以下のような提案を行っています。

「監査役会設置会社にあっても、任意機関ではあるが、報酬委員会および指名委員会その他の委員会を設置するものとし、その委員は原則として取締役の中から取締役会の決議により選定するが、必要があると認めるときは、業務執行者から独立した社外の専門家を委員とすることもできる。その上で、報酬委員会は、3名以上の委員をもって組織し、その委員の過半数は社外取締役とする。報酬委員会は、定款または株主総会の決議をもって決定された取締役報酬の配分を、取締役会の業績評価をも勘案して行う。指名委員会は、3名以上の委員をもって組織し、その委員の過半数は社外取締役とする。指名委員会は、業務担当取締役以外の取締役がその委員の過半数を占めるものとし、取締役の選任議案の起草、業務執行者の選任・解任にかかる取締役会決議案の起草を行う。取締役会は、指名委員会の作成した原案をもとに、取締役選任議案ならびに業務執行者の任免について決議を行う。」

これは、任意機関である以上、委員会が作成した原案には最終的決定機関である取締役会に対する拘束力がないことを理解した上で、監督制度にとっては最も重要な人事権に関し、取締役の恣意的・利己的活動を事実上抑制しようとする趣旨であると思われます。立法や裁判所による法創造には時間が掛かることから、制度間競争が決着し法ルールが落ち着くまで、民間主導で自主的にベスト・プラクティスを作っていこうとする動きであるとも評価できます。上記提案はまさに苦肉の策であり、実際にこのようなプラクティスを導入することで、ガバナンス評価も向上するのだろうと思いますが、法的権限を有しない任意の委員会では限界があるだろうとも感じます。

最後に、③案ですが、これは今後実務に定着させていく価値のある制度ではないでしょうか。一番大きいのは、監督者的立場にある委員会に取締役(取締役と執行役の兼任が多い現状では、結果として執行役も含む)の人事(報酬とポジション)決定権限が付与されているという点です。その結果、二段階構造のPrincipal-Agent関係を構築できることになります。

②案に従って、監査役に取締役の人事権を与えるか、③案を推し進めて、現状で指摘されている問題点を一つ一つ解決していくか、そのいずれかが「監査役制度の行く末」ではないかと考えます。もちろん、委員会設置会社で必要とされる「社外取締役」という概念については、監督機能という観点からは不十分であって、「独立性」を重視すべきだという議論も並行してなされるものと思いますが、「一段階構造のPrincipal-Agent関係」を変えないままで独立取締役制度を導入しても(よほど株主自身の監督能力を高めない限り)限界があると思いますので、まずは、人事権を監督者に与えて二段階構造にすることがポイントだと考えます。

なお、話の順序が逆になりますが、そもそも企業において「Principal-Agent関係」と言うときのPrincipalとは一体誰なのでしょうか?・・・これについては、「会社は誰のものか?」というタイトルで、次回のコラムで述べたいと思います。

監査役制度の行く末(その2)

前回のコラムで述べたように、日本の「業務執行者の監督制度」のあるべき方向性に関する議論は混沌としているように見えるわけですが、発想の種類としては、以下のように整理できると考えます。

① 取締役(会)の監督機能を強化する案
② 監査役(会)の監督機能を強化する案
③ 米国型委員会設置会社をより活用しようとする案(上記①案の一つの具体化)


①案について
①案は、社外取締役/独立取締役に期待する立場です。例えば、<日本コーポレート・ガバナンス・フォーラム>(落合誠一理事長)は、2006年12月15日に公表した<「新コーポレート・ガバナンス原則」>において、
「会社法上、社外取締役の選任が必要となる委員会設置会社はもちろん、社外取締役を任意に選任するそれ以外の会社にあっても、社外取締役は取締役会の業務執行者に対する監督機能の主たる担い手となることが期待される上に、取締役会としての意思決定の公正確保の観点からも重要な役割を果たしうる」
とした上で、
「第1に、監査役会設置会社の取締役会は、社外取締役が法律上要求されているわけではないが、取締役会の監督機能を担保するものとして、独立性を有する社外取締役が2人以上含まれ、委員会設置会社の取締役会は、その構成員の過半数が独立社外取締役でもって構成される。」(ことが望ましい)
「第2に、社外取締役は、会社法上の社外取締役の要件を充足するだけでなく、その役割に相応しい実質的な独立性を具有することが求められる。したがって、親会社や主要な取引先等の取締役または使用人が子会社、特に上場子会社の社外取締役を兼務すること、取締役の相互派遣等はこれを避けるものとし、社外取締役の就任期間は継続して5年を超えない。」(ことが望ましい)
と述べています。
ここでのポイントは、①独立取締役制度(取締役の独立性を問題とし、独立取締役を一定割合以上確保することを要求する制度)の導入、②監査役会設置会社にも社外取締役を要求、③委員会設置会社にはNYSE基準と同じ「過半数が独立取締役から成る取締役会」を要求、の3点になります。いずれも、取締役会自体の業務執行監督機能を大いに期待する方向性での改革案であり、アメリカ型を志向するものであると考えます。

②案について
②案は、これまでの度重なる商法改正によってもその向上の度合いに疑問が呈されてきた監査役の監督機能を何とかして高めたいと望む立場です。しかし、日本の監査役制度は他国に例を見ないことから、その改革となると、上記①案のように他国の制度を参考にして・・・というわけにも行きません。そこで、大杉謙一中央大学教授が「監査役制度改造論」というタイトルで述べておられるように(*1)、「その半数以上が社外出身者である監査役」(*2)が「業務執行を行わない取締役」を兼ねることを認める(あるいは要求する)方法によって、当該監査役に取締役会での議決権を与え(とりわけ取締役と監査役の選任議案について関与する権限を与える)、監査役が取締役の人事に関与し、かつ妥当性監査まで行えるように持って行くといった「改造案」を考える必要が出てきます。ここでのポイントは、監督者の人事に業務執行者の意思を介入させないことも重要ですが、何よりもまず「監督者に業務執行者の任免権を与える必要がある」ということです。久保利英明弁護士が、日本の監査役制度は「人事と予算により武力を掌握したものが、常に圧倒的な優位に立つという大原則を無視している」、「カネとポストの配分権限を握られてなおかつ監査・監督することを期待するのは無理」などと述べておられるように(*3)、何十年にも亘って形成されてきた取締役と監査役の上下関係をひっくり返す必要があります。それを端的に表現すれば、監査役が取締役を選任するドイツ型が良いのではないかということです。大杉教授の上記改造案は、ドラスティック過ぎる変更とならないよう、監査役をまず取締役会のメンバーにしてしまう経過措置的アイデアと言えますが、②案を突き詰めていけば、株主総会→監査役→取締役というドイツ型二層制監督制度に行き着くものと考えます。

③案について
③案は、平成15年から導入されている委員会設置会社を当初の理念どおりに有効に活用していこうとする立場です。委員会設置会社に移行すれば、監査役は存在しなくなり、アメリカ同様、「監督者としての取締役」と「業務執行者としての執行役」が生まれますので、社内体制は大きく変わりますが、委員会設置会社では取締役が執行役を選任しますので、上で述べた「監督者に業務執行者の任免権を与える必要がある」という点について解決されることになり、うまく行けば「監査役制度改革」路線よりも大きな効果が得られる可能性があります。

では、いずれの案が今の日本に最も合っており、かつ、監督制度として優れているのでしょうか? 続きは次回のコラムで書きたいと思います。


(*1) 商事法務1796号4頁
(*2) 監査役会設置会社では、監査役の半数以上は「社外監査役」でなければならない(会社法335条3項)。
(*3) 久保利英明「委員会等設置会社と新しいコーポレートガバナンス」(『商事法への提言』落合誠一先生・還暦記念、商事法務、1頁)

監査役制度の行く末(その1)

先週(2008年4月3日)、「東京証券取引所と日本監査役協会は、買収防衛策の導入などで経営陣と株主の利害が対立する場合に、監査役が第三者の立場で仲介や調整を担う仕組み作りに着手した。株主の利益を損ねかねない決定を経営陣が公表する際に、監査役の意見書添付を義務づけるルールなどを検討する。」というニュースが流れました(*1)。

これまで、経産省(企業価値研究会)・法務省は、各種指針において、「独立社外者」に、買収防衛策の導入等に関する「利益相反問題解決機能」を期待するという趣旨の見解を示してきました。この「独立社外者」としては、取締役・監査役・第三者のいずれが適任かといった議論もなされてきたわけですが、ここに来て、監査役に期待しようという動きが出てきたようです。他方で、アメリカを倣って独立取締役制度を導入してはどうかという意見もよく聞かれます。これらはいずれも、「業務執行の監督は誰がどのように行うべきか?」という、コーポレート・ガバナンス全体に関わる古くて新しい(そして難しい)問題に関わっていると言えます。

日本の会社法は元々ドイツ法を母法としていると言われていますが、そのドイツにおいては、日本と異なり、「株主総会で監査役を選任 → その監査役で構成される監査役会が取締役を選任」という二層構造になっています。他方、日本の監査役制度はアメリカの制度とも異なります。すなわち、アメリカでは、「株主総会で取締役を選任 → その取締役で構成される取締役会が業務執行者(Officer)を選任」します(*2)。

ここでのポイントは、ドイツ型、米国型のいずれを見ても、「監視者が、業務執行者を選任する権限を有している」ということです。対して、日本の制度においては、ドイツ型・米国型とは異なり、監視者である監査役(会)が業務執行者である取締役の選任に関わることはありません。一見すると、ドイツのように監査役と取締役の二層構造になっているように見えますが、実態は別であり、日本は独自路線を歩んできたと言うことができると思います。このように、日本がドイツ型も米国型も採用しなかった背景としては、「監査機関が経営者の選・解任権を持つというドイツ型のシステムが我が国の企業文化になじみがなく、現実的でないこと。また、合議制の機関の内部における相互的なコントロールというアメリカ型のシステムが我が国のタテ型社会では機能しないこと」といった点を指摘する見解もあります(*3)。しかし、タテ型社会であれば、現在のように、監視を行う監査役が取締役の選任権限を有しない「監査役・取締役横並び制度」(実際には、取締役が監査役の上位に立つ結果となった)が同じく機能しないのは明らかだったのではないかとも思います。

また、日本は、敗戦後の昭和25年、米国占領下でなされた商法改正において、アメリカ型の取締役会制度を導入しました。アメリカとしては日本の財閥を解体する必要があったために、アメリカ型「所有と経営の分離」制度を導入して大株主から経営権を奪い、代表取締役に代表兼と執行権を、取締役会に業務監督権限を与えたわけです(*4)。また、同じく昭和25年商法改正において、従来監査役に与えられていた業務監督権限が取締役会に移されました。これによって、監査役会は昭和49年改正までの間、会計検査機能のみを与えられ、「社長を監視する強力な監督者」とは懸け離れた存在となってしまいました。

しかし、監査役会から業務監督権限を移された取締役会も、結局、社長・副社長・専務・常務といった役員たちの意思決定を覆せるだけの発言力・監督能力を得ることは出来ませんでした(自己監査の困難性を考えれば当然と感じます)。そこで、昭和49年商法改正によって、適法性監査に限って業務監査権限を監査役に戻し、大会社についてはプロの会計士を会計監査人に選任することを強制しました。その後、昭和56年商法改正で、監査役に報告請求権や取締役会招集権を与え、報酬決定プロセスにおける独立性を強化し、大会社については複数監査役と常勤監査役制度を導入しました。それでも、「社長に支配された取締役会が監査役の候補者を選んで株主総会に提案し、ほとんどの場合異議なく承認される」という慣行も手伝って、監査役の機能強化は期待された程には上がらなかったため、平成5年改正で監査役の任期を3年に延長し、大会社においては監査役会を設置し、監査役は3名以上、うち1名以上は社外監査役でなければならないとされました。更には、平成13年改正によって、監査役の任期は4年となり、これまでの懸案であった監査役の選任プロセスについては、監査役会に意見を述べる権利(取締役会による提案に対する同意権と議題提案権)が与えられました。しかし、事態が大きく改善したかと言われると、イエスと答えるのは難しいのではないかと思います。

以上が、監査役に関する日本の商法改正の歴史ですが、「株主総会が、監督者も業務執行者も選任する」日本型監査役制度については実効性に疑問があるとの指摘が何十年にも亘ってなされてきたわけです。その結果、平成15年4月からはアメリカ型の一元制監督制度に倣った委員会設置会社(当時の名称は「委員会等設置会社」)を選択できるようになりました。しかし、この委員会設置会社に対しても、社外取締役が十分な独立性を有していなかったことなどから発生したアメリカのエンロン事件等の不祥事事件を引き合いに出して、日本の委員会設置会社についても有効に機能するかどうか怪しいという批判がなされたり、社外取締役が代表執行役の支配下に入ってしまえば専横を極めることになるとか、そもそも各委員会の過半数を構成しなければならない社外取締役は日本の経営者マーケットでは容易には見つからないといったマイナスの意見が出されました。

このような混沌とした状況では、これまでオリジナル路線を歩んできた日本の「業務執行者の監督制度」について、維持すべきか、変更すべきか(監査役制度は見限って、制度間競争の中で、例えばアメリカ型「一元制監督制度」に移行すべきか、あるいは独立取締役制度を導入すべきか)という根本的な疑問が沸いて来ます。数多くの論文がテーマとして扱っているとても難しい問題ですが、日本のコーポレート・ガバナンスの根底に関わる大論点ですので、次回以降のコラムで引き続き考えてみたいと思います。


(*1) ソース:http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20080403AT2C0201K02042008.html
(*2) アメリカでは、株主総会の下には取締役会しか存在しない(業務執行者と監視者が一つの会議体を作っている)という意味で、株主総会の下に監査役会(監視者)と取締役会(業務執行者)が存在するドイツ型の「二元制」「二層制」と対比して「一元制」「一層制」と呼ばれることがあります。
(*3) 倉沢康一郎「監査役制度改正の必要性」商事法務1311号3頁
(*4) しかし、この際、アメリカ型のOfficer制度は導入されませんでした。

取締役会の「推薦の撤回」(Fiduciary Out)について(その2)

対象会社の株主に買主の株式が交付されるStock Deal(株式を対価とする合併)において、合併契約締結後、クロージングまでに買主が発行している株式の株価が下がってしまった場合、対象会社の取締役会は、その合併提案に対する「推薦を撤回」しなければならないのでしょうか?・・・というのが前回のコラムの最後で挙げた論点でした。

この論点は、いわゆるCash Deal(対象会社の株主に現金が交付される取引)ではほとんど問題になりません。なぜなら、Cashの価値の上下動が、取引を中止することを正当化するだけの「状況の重大な変化」になるとはおよそ考えられないからです。

また、Stock Dealであっても、いわゆるCollar Offerがなされている場合にはCash Dealと同じく、この問題はさほど生じません。Collar Offerというのは、合併比率を契約締結段階で固定的に定めておくのではなく、契約締結後クロージング前の買主発行株式の株価の推移を観察した上で最終的な合併比率を定める方式で、アメリカでは頻繁に利用されています。例えば、Provident Financial GroupがOHSL Financial Groupを買収した1999年のケースにおいては、「クロージング日の12日前から2日前までの10日間におけるProvidentの平均株価が40ドル以上50ドル以下であればOHSLの株主には22.50ドル相当のProvidentの株式が交付され、Providentの平均株価が40ドル未満であれば合併比率は0,5625、50ドル超であれば合併比率は0,5202とする」という方程式が合併契約書に定められていました。このCollar Offerを利用すれば、対象会社の株主に交付される買主発行株式の価値が予定よりも大幅に低下する事態を一定程度防ぐことができます。よって、対象会社の取締役会がFiduciary Outを選択しなければならないケースは比較的少なくなると言えるでしょう(*1)。

また、対象会社の株主に対して、CashとStockの両方が交付されるスキームの場合、Stockの比率が大きければやはりこの論点について考える必要が出てきます(逆に、Cash比率が高ければ、買主側は買主発行株式の価値下落は重要ではないと主張するはずです)。

さて、一口に「買主発行株式の価値下落」と言っても、その原因には様々なものが考えられます。例えば、買主の事業運営上看過できない違法行為が発覚し、それによって買主発行株式の株価が急落するケースもあれば、買主が属する業界全体が不景気に突入し、その結果として買主発行株式の株価が下がることもありえます。それだけではなく、通常、「M&A取引の公表」という事実のみで対象会社や買収会社の株価は上下動します。そのM&Aを市場が「好ましくない」と評価すれば、買主が発行している株式の株価はクロージングに向けて下がっていくはずです。最初の違法行為のケースであれば、買主としても「契約を破棄されてもやむを得ない」と考える可能性がありますが、最後のケースについてまで契約を撤回されてしまうと、買主側としては不満が残るところだと思われます。そこで、米国で利用されている契約書には、以下の条項が入れられることがあります。

provided that no fact, event, change, development or set of circumstances shall constitute an Intervening Event if such fact, event, change, development or set of circumstances resulted from or arose out of the announcement, pendency or consummation of the Merger
(訳: 本件合併の公表、進行、完了自体から発生した事実、出来事、変化等は、「状況の重大な変化」には該当しない。)

しかし、前述のように、取締役のFiduciary Dutyは契約上の義務をも凌駕します。仮に上記のような合意事項が存在していたとしても、「M&A取引の公表」によって買主発行株式の株価が急落し、対象会社の株主が不利益を被ることが明らかであれば、取締役会はFiduciary Outを選択しなければならないはずだと考えます。

では、続いて、買主が属する業界全体が不景気に突入し、その結果として買主発行株式の株価が下がったケースについてはどうでしょうか。この問題を考える際には、いわゆるMAC条項(Material Adverse Change Clause)/MAE条項(Material Adverse Effect Clause)について理解しておく必要がありますが、MAC/MAEについては次回以降のコラムで紹介するとして、とりあえず現時点では、「業界全体が不景気に突入したことによって対象会社や買収会社の事業や株価に悪影響が発生したケース」は、MAC/MAEには該当しないとされるのが通常であるという前提で議論を進めたいと思います。

そうすると、MACには該当しないが、Fiduciary Out条項が定めるIntervening Event(「状況の重大な変化」)には該当するケースが出てきます。前提論として、MACに該当すれば、契約を破棄する側は、Break-Up FeeやTransactional Expensesを支払うことなくディールから撤退できるのが通常ですが、MACには該当しない場合は、Break-Up FeeとTransactional Expensesを支払わずに撤退することは、契約上認められません。しかし、買主側の事情で買主発行株式の株価が下落した場合にまで、売主が買主に対してBreak-Up FeeとTransactional Expensesを支払わなければならないとすることには違和感を覚えます。私見としては、このようなケースにおいては、数十億円、ときにSalli Maeのケースのように一千億円を超えることがあるBreak-Up Feeを支払うべきではなく、Transactional Expensesの償還のみに留めるよう、契約交渉を行うべきではないかと考えています。


(*1) Collar Offer に関する文献:http://www.fma.org/SLC/Papers/dealstructure.pdf

取締役会の「推薦の撤回」(Fiduciary Out)について(その1)

アメリカでM&A契約の締結交渉をしていると、Fiduciary Outをどこまで認めるかに関して当事者双方がなかなか譲らず、議論が白熱することがあります。そこで、今回は、日本でも今後普及する可能性があるFiduciary Out条項の定め方と、それに関連する論点、とりわけ「取締役会が一旦発表した推薦を撤回するケース」で発生する問題点について整理したいと思います。

<デラウエア州会社法§251(b)>(*1)は、以下のように定めて、対象会社の取締役会が合併を承認する場合には、取締役会としての「推薦意見」(advisability, recommendation)を表明することが必要であるとしています(*2)。

The board of directors of each corporation which desires to merge or consolidate shall adopt a resolution approving an agreement of merger or consolidation and declaring its advisability.

前提として、デラウエア州法(判例法を含む)上、対象会社の取締役会は、目の前の買収提案が対象会社の株主にとって最も好条件であるかどうかを判断しなければならず、もしも後発の買収提案が対象会社の株主にとってより有利であると判断すれば、既に公表している「推薦意見」を撤回または変更しなければなりません。これは取締役のFiduciary Dutyの一類型であるDuty of Candor(誠実義務)の結果であり、古くは、1985年のSmith v. Van Gorkom (Del. Sup. Ct., 1985, 488 A.2d 858)事件で述べられ、最近では、2005年のFrontier Oil Corp. v. Holly Corp., 2005 WL 1039027 (Del. Ch. Apr. 29, 2005)事件(*3)でも確認されているところです。すなわち、取締役会は、契約上どのような定めになっていても、Fiduciary Dutyを履行するために当初の契約を破棄しなければならない(=Fiduciary Out)場合があるのです。

そこで、米国で利用されている合併契約書には、通常、以下のような条項が入れられます。

まずは、買主側から見れば、取締役会の「推薦意見」は原則として維持されなければ困りますので、
【No Change in Recommendation or Alternative Acquisition Agreement】(推薦を変更しないことまたは他の買収提案を推薦しないこと)というタイトルで、

Neither the Company Board nor any committee thereof shall:

(i) except as set forth in this Section, withdraw, qualify or modify, or publicly announce its intention to withdraw, qualify or modify, in a manner adverse to Parent or the Merger Sub, the approval or recommendation by the Company Board or any such committee of the adoption of this Agreement (a “ Company Adverse Recommendation Change ”);
(ii) adopt, approve or recommend, or publicly announce its intention to adopt, approve or recommend, any Acquisition Proposal; or
(iii) authorize, cause or permit any of the Acquired Corporations to enter into any letter of intent, memorandum of understanding, agreement in principle, acquisition agreement, merger agreement or similar agreement (an “ Alternative Acquisition Agreement ”) constituting or relating to any Acquisition Proposal.

(訳:
対象会社の取締役会および委員会は、
(i) 本条に別途定める場合を除いて、対象会社の取締役会または委員会によってなされた本契約に関する承認または推薦に対して、買主の利益に反するような撤回、制限、修正を行い、または撤回、制限、修正を行う意思があることを公に表明してはならない。
(ii) いかなる他の買収提案についても、受諾、承認、推薦し、または受諾、承認、推薦する意思があることを公に表明してはならない。または、
(iii) 対象会社をして、他の買収提案(別途定義)を構成するまたは他の買収提案に関連する基本合意書、買収契約書、合併契約書等を締結させてはならない)

という原則規定を設けた上で、

At any time prior to the Company Specified Time the Company Board may, in response to a material development or change in circumstances occurring or arising after the date hereof that was neither known to the Company Board nor reasonably foreseeable as of or prior to the date hereof (and not relating to any Acquisition Proposal) (such material development or change in circumstances, a “ Company Intervening Event ”) make a Company Adverse Recommendation Change if the Company Board has concluded in good faith, after consultation with its outside counsel, that, in light of such Company Intervening Event, the failure of the Company Board to effect such a Company Adverse Recommendation Change would result in a breach of its fiduciary duties under applicable Legal Requirements; provided that, the Company Board shall not be entitled to exercise its right to make a Company Adverse Recommendation Change pursuant to this sentence unless the Company has (x) provided to Parent at least three business days’ prior written notice advising Parent that the Company Board intends to take such action and specifying the reasons therefor in reasonable detail and (y) during such three business day period, if requested by Parent, engaged in good faith negotiations with Parent to amend this Agreement in such a manner that obviates the need for a Company Adverse Recommendation Change.
(訳:
本契約締結後に、対象会社取締役会が知らず、かつ、合理的に予見しえなかった「状況の重大な変化」が生じた場合において、取締役会が外部の専門家と協議した上で、「推薦の撤回」を行わなければ適用法上取締役の義務違反を発生させると誠実に判断したときは、特定の時期(別途定義)が到来するまでの間、対象会社取締役会はいつでも「推薦の撤回」を行うことができる。ただし、対象会社取締役会は、(x)買主に対して少なくとも3営業日以上前に、「推薦の撤回」を行う意思があることおよびその理由を通知し、かつ、(y)当該3営業日の間に、買主との間で、「推薦の撤回」を行う必要がないように契約条項を変更することに向けて誠実に交渉しなければ、「推薦の撤回」を行うことができない。)

というFiduciary Out条項を入れます。通常、買主側は、「状況の重大な変化」に関する曖昧な定義(Open Definition)を嫌がり、例外規定(Carve Out条項)を入れるよう求めてきますが、他の契約条項と同じく、ここは売主・買主間の交渉によって妥協点が決まります。

さて、ここで一つの論点が発生します。それは、対象会社の株主に買主の株式が交付されるStock Deal(株式を対価とする合併)において、合併契約締結後、クロージングまでに買主が発行している株式の株価が下がってしまった場合、対象会社の取締役会は、その合併提案に対する「推薦を撤回」しなければならないのか?・・・という問題です。この場合、対象会社の株主は当初もらえると思っていた対価を結果として得られないことになるため、株主の利益が害されるとも言えます。これは最近の米国実務界で注目を浴び始めた面白い論点ですが、続きは、次回のコラムで検討したいと思います。


(*1) Delaware General Corporation Law (DGCL): http://delcode.delaware.gov/title8/c001/index.shtml
(*2) 日本の場合は、公開買付けに限り、<金融商品取引法>第27条の10によって、「公開買付けに係る株券等の発行者は、内閣府令で定めるところにより、公開買付開始公告が行われた日から政令で定める期間内に、当該公開買付けに関する意見その他の内閣府令で定める事項を記載した書類(以下「意見表明報告書」という。)を内閣総理大臣に提出しなければならない。」とされています。
(*3) 判旨についてはこちら:http://courts.delaware.gov/opinions/(0u1gde55prsk0b45r0bcy2q2)/download.aspx?ID=61090

M&Aに関する開示規制(金融商品取引法)

前回までのコラムで、「株式の10%以上を米国居住株主に保有されているケースでは、日本企業同士の合併であってもSECへ登録届出を行う必要がある」と書きましたが、逆に、会社法下で可能になった三角合併のケースにおいて、日本企業の株主に外国の存続会社の株式が交付される場合の開示規制はどうなっているでしょうか?

例えば、株式会社日興コーディアルグループ(以下「日興コーディアル」)は、2008年1月29日を効力発生日として、米国の金融大手であるシティグループ・インク(以下「米シティ」)の普通株式を対価とし、日興コーディアルを、米シティの100%子会社である日本法人シティグループ・ジャパン・ホールディングス株式会社(以下「CJH」)の完全子会社とする株式交換を実施しました(*1)。この株式交換によって、日興コーディアルの株主はCJHから米シティの株式を交付されることになりますので、日興コーディアルの株主としては、米シティの企業情報を入手したいと考えるでしょう。このようなケースは、三角合併に限って発生するわけではありません。およそ、合併、会社分割、株式交換などに伴って対象会社の株主に存続会社・新設会社の株式が交付される場合には、対象会社の株主に対する情報開示の必要性および方法が問題となります。

この点、一般的には(すなわち、M&Aとは関係なく)、50名以上に対して勧誘がなされ、かつ、発行(売出し)価額の総額が1億円以上となる有価証券の募集(売出し)については、「有価証券届出書」の提出が義務付けられています。しかし、M&Aに伴う株式交付のケースについては、別途考える必要があります。すなわち、金融商品取引法の前身である旧証券取引法下においては、合併等のM&Aが行われた場合は、取引の結果として消滅会社の株主に存続会社株式が自動的に交付されるのであって、会社が勧誘行為を行うわけではないことから、そこでの株式の交付はそもそも「募集」「売出し」に該当しないと考えられており、その結果、有価証券届出書による開示規制の対象とはされていませんでした(*2)。しかし、米国において一定の場合にForm F-4の提出が義務付けられているように、投資家保護という観点からは、一定の組織再編行為に証券法上の開示規制を及ぼすことが妥当とも考えられます。そこで、金商法は、情報開示を強化するために、「組織再編成(合併、会社分割、株式交換等)による新株発行等にかかわる企業内容等開示制度」を新たに整備しました。

金商法によれば、組織再編成により、新たに有価証券が発行され、または既に発行された有価証券が交付される場合において、以下に該当する場合には、当該有価証券の発行または交付に関して届出を行う必要があります(<金融商品取引法2条の2、4条>)(*3)。

① 当該組織再編成対象会社(吸収合併消滅会社、株式交換完全子会社等)の株主等が多数(*4)であり、
② 当該組織再編成対象会社が発行者である株券等に関して開示が行われており、かつ、
③ 当該新たに発行され、または既に発行された有価証券に関して開示が行われていない場合


①については、いわゆる私募債を除外する趣旨で定められたものです。②③については、上場会社である対象会社がM&Aによって消滅し、代わりに非上場の存続会社の株式が交付される場合、対象会社の株主としては適切な投資判断(存続会社の株式をもらうか、株式買取請求権を行使するか、市場で売却するかといった判断)ができないことから定められました。

冒頭の例では、最初のプレスリリースの時点では米シティは日本の証券取引所で株式を公開していませんでしたので、そのままでは上記①から③の要件を充たし、組織再編成を理由とする有価証券届出書を提出する必要が生じたはずですが、米シティは2007年11月5日付けで東京証券取引所に上場しましたので、上記③の要件を欠くことになり、有価証券届出書を提出する必要がなくなりました。

なお、旧証券取引法時代の上場会社は、継続開示義務として、有価証券報告書と半期報告書の年2回の開示が求められ、これを該当期終了後3カ月以内に金融庁のEDINETを通じて提出していましたが、金商法では、年4回の決算期(第1四半期~第4四半期)毎に企業の概況、経営成績や財政状態などを記載した「四半期報告書」を作成し、各四半期終了後45日以内にEDINETを通じてこれを提出しなければならなくなりました(*5)。「四半期報告書」はアメリカのForm 10-Qの輸入版と言えますが、投資家保護のための情報開示の波は止まることなく押し寄せてきているようです。


(*1) プレスリリース:http://www.nikko.jp/GRP/citi/shares/index.html
(*2) 合併の当事会社が有価証券報告書を提出しておらず、かつ、合併に際して発行する株式の価額が総額で1億円を超えるケースについては「有価証券通知書」の提出が義務付けられていましたが、「有価証券通知書」はそもそも公開資料ではないため、株主のための開示規制そのものではなかったと言えます。
(*3) 組織再編成用の有価証券届出書の様式は、内国会社が第二号の六様式および第二号の七様式(新規公開用)、外国会社が第七号の四様式で、従来の有価証券届出書(第二号様式)の記載項目に加え、組織再編成に関する情報(概要・目的等、当事会社(組織再編成対象会社以外の会社)の概要、手続、統合財務情報等)が記載項目とされました。
(*4) ここでの「多数」の定義については、<金融商品取引法施行令>の第2条の4によって「50名以上」と定められています。
(*5) 四半期開示の実務は、金商法制定前から、証券取引所の適時開示の方法として行われていました。

日本企業同士のM&Aでも必要なSECへの登録(その2)

Form F-4ファイリングについては、前回述べた「10%テスト」が最も重要な点ですが、それ以外に、スケジュール財務諸表の作成義務についても留意する必要があります。

まず、スケジュールについては、該当するM&A取引に関し株主総会の承認を得るため株主に招集通知を送付する時点でForm F-4による登録の効果が発生している必要がありますので、これをゴールに設定します。Form F-4による登録の効果を発生させるためには、SECによるForm F-4および添付資料のレビューを受けて、指示に応じて必要な項目を追加したり、訂正したりしなければなりません。このレビューを受けてSECと非公開でやり取りをする手続のことをConfidential Filingと言いますが、このConfidential Filingの期間は案件の大きさ、複雑さ、提出資料の分量によって変わってきますので、時間的に余裕を持ってSECに草案を提出する必要があります(通常、2~3ヶ月程度前に提出)。

なお、「10%テスト」はいつの時点での10%かが問題となりますが、合併などの"business combination"のケースにおいては「勧誘開始日の30日前の時点」において、公開買付け(exchange offer)のケースでは、「公開買付け開始時点」において判断するとされています(*1)。しかし、実務上は、SECに草案を提出する時点(合併のケースであれば勧誘=株主総会招集の2~3ヶ月程度前)の方が、上記「10%テスト」の基準時よりも早く到来しますので、まだForm F-4を提出する必要があるかが分からないうちに、暫定的に10%テストを行った上で「U.S. holderの株式保有割合が10%超である」可能性があるのであれば、見切り発車をして準備を始める必要があるということになります。

続いて、SECが公開している<Form F-4>のインストラクションを見ますと、Item 5として、<Regulation S-Xの11条>が定める"Pro Forma Financial Information"を記載しなければならないと書かれてあります。”Pro Forma”というのはラテン語で、「形式上の」「見積もりの」という意味を有しますが、この文脈では、「M&A取引完了後の新会社における」財務情報を示しています。株主としては、株式買取請求権を行使するか、当事会社の提案に応じて新会社の株式を受け取るかといった投資判断を迫られることになりますので、新会社において両事業がどのように運営され、どの程度のシナジー効果が発生するかを知る必要があります。そこで、Form F-4において、この"Pro Forma Financial Information"の開示が求められています。

さて、この"Pro Forma Financial Information"については、日本の会計基準で作成したものをそのまま使用することが出来ません。Form F-4を提出する当事会社としては、

① 米国のGAAP(*2)に基づいて作成し、監査も受けた財務諸表
② 日本の会計基準に基づいて作成した財務諸表に、米国GAAPを適用した場合の調整事項(reconciliation)を加えた資料


のいずれかを提出しなければなりません。これら財務諸表の作成に当たっては通常監査法人のサポートを受けることになりますので、この点でも時間と費用が掛かってきます。SECに提出する草案には既にこの"Pro Forma Financial Information"が添付されている必要があることを考えれば、株主総会開催日の半年ほど前から準備を開始しなければならないことが分かります。

このように、株式の10%以上を米国居住株主に保有されているケースでは、SECへの登録のために、米国のGAAPに沿った財務諸表を作ったり、SECと登録関係書類を巡ってやり取りをしなければならない結果、相当の時間と労力が費やされることになります。ときに統合のスケジュール面に深刻な影響を及ぼすこともある手続ですので、M&Aに関与している当事者・実務家としては常に注意が必要です。なお、日本企業同士のM&Aであっても海外の法規制をチェックする必要があるという点では競争法も同じですが、外国の競争法については別の機会に述べたいと思います。


以上がForm F-4に関する基本的手続になりますが、Form F-4を提出した会社は1934年証券取引所法が定める継続開示義務に服することになりますので、各事業年度の終了後120日以内に<Form 20-F(年次報告書)>を、報告事項が発生する度に<Form 6-K(臨時報告書)>をSECに提出しなければなりません。

* Form F-4の具体例(John Hancock Financial Services, Inc.とManulife Financial Corporationの合併の際にSECに提出されたもの):http://www.manulife.com/corporate/corporate2.nsf/Public/formF4.html


(*1) 条文:Calculate percentage of outstanding securities held by U.S. holders as of the record date for a rights offering, or 30 days before the commencement of an exchange offer or the solicitation for a business combination.
(*2) Generally Accepted Accounting Principles(一般に公正妥当と認められた会計原則):米国のGAAPは、会計基準設定主体である<財務会計基準審議会(Financial Accounting Standards Board)>が設定する権限を有しています。なお、FASBは、「GAAPを遵守させる権限」は有していませんが、SECが公開企業に対してその全ての財務報告書がFASB基準に適合していることを求めていることによって、また、アメリカ公認会計士協会(AICPA)が公開会社・非公開会社を問わず監査報告書を付す条件としてその財務諸表がGAAPによるものであることを求めていることによって、GAAP基準が遵守されるメカニズムが形成されています。

日本企業同士のM&Aでも必要なSECへの登録(その1)

日本企業A社と日本企業B社が合併し、B社が消滅するとします。仮にB社の株主に米国在住者が15%含まれていた場合、当事会社はSECに対して報告書を提出する義務を負うでしょうか?B社の株主のうち米国在住者は7%しかいなかったが、B社に40%の株式を保有する大株主が居た場合はどうでしょうか?

結論としては、いずれのケースについても、①存続会社であるA社が、②SECに対してForm F-4と呼ばれる登録届出書を提出する義務があり、③しかも、Form F-4の登録の効力が株主総会招集通知の発送日までに発生するようスケジュールを立てなければならない、④更に、Form F-4には日本の会計基準に拠って作成した財務諸表は添付できないので別途作成する必要がある、ということになります。このように、米国証券法・証券取引所法の規制は日本企業にも無関係ではないため、以下、具体的な要件と手続について整理して紹介したいと思います。

1 日本企業同士のM&Aと米国証券(取引所)法との関係

例えば、日本企業同士が株式を対価とする合併を行うケースにおいて、消滅会社の株主に米国在住の株主が含まれている場合、当該米国株主には存続会社の株式が交付されることになります。これは合併という事業統合の結果として不可避的に発生するものであるため、証券の「募集」そのものには該当しないように見えますが、投資家から見た場合には、その株式を受け取る代わりに株式買取請求権を行使して現金に換えてもらう方法もあるわけですから、しっかり情報開示をしてもらって投資判断ができるようにしてもらわなければ困ります。よって、M&Aに伴う米国居住者に対する株式発行に関しては、1933年証券法において、SECに対してForm F-4(*1)と呼ばれる登録届出書を提出しなければならないと定められています。すなわち、ここでのポイントは、アメリカから見れば国外の企業同士が国外でM&Aを行う場合であっても、米国居住株主を含んでいる限り、米国証券法の規制が及ぶ可能性があるということです。


2 SECへの登録届出が必要な場合

まず、M&Aの結果株式を発行する会社(合併であれば存続会社、株式交換であれば完全親会社となる会社、株式移転では当事会社の両方)に「米国の株主」(U.S. holder)が含まれていることが必要です。
次に、ここで言うU.S. holderとは、Rule 800の(h)において、「U.S. holder means any security holder resident in the United States」と規定されていることから、米国に居住していれば国籍は関係ないことが分かります。

続いて、株主にU.S. holderが含まれている場合のうち、以下に該当するケースについては登録届出が免除されます(*3) 。
① U.S. holderの株式保有割合が10%以下であること
② U.S. holderが対象会社の他の株主と平等に取り扱われること
③ 株主に対して一定の情報開示がなされること


なお、ここでのポイントは、上記①の計算においては、「自己株式」「保有割合10%超の大株主の株式」「役員等関係者の持株」についてはその保有割合を分母から除外しなければならないという点です。冒頭のケースで言えば、「B社の株主のうち米国在住者は7%しかいなかったが、B社に40%の株式を保有する大株主が居た場合」、大株主を除いた60%のうち、7%を米国在住者が占めていることになりますので、10%テストをクリアできません。よって、この場合は、SECへForm F-4を提出しなければなりません。

また、株主がU.S. holderか否かを判断するためには、「実質株主を確定する作業」が必要になります。すなわち、日本の上場企業の場合は通常半期ごとに作成される株主名簿に記載された株主の住所を基準にすることになりますが、ブローカー、ディーラー、銀行等のNomineeが顧客のために株式を保有している場合には、当該Nomineeに対して実質株主に米国居住者が含まれているかと照会するといった”reasonable inquiry”を行う必要があり(*4)、その他にも、証券取引所に対して提出されている報告書などから実質株主が判明した場合にはこれを計算結果に反映させなければならないと規定されており、注意が必要です(いずれもRule800において規定されています)。

本手続に関するその他のポイントについては、次回のコラムで書きたいと思います。


(*1) Form F-4は、「米国から見た場合の外国企業が米国において証券の公募を行うときにSECに提出するForm F-1または Form F-3と呼ばれるRegistration Statement(登録届出書)」とは別のフォームになります。
(*2) Rule 800は、1933年証券法の<General Rules and Regulations>の中に規定されています。
(*3) より詳細なルールについては、<Rule 802>参照
(*4) ”reasonable inquiry”を行っても実質株主が判明しなかった場合については、Nomineeの主たる営業所を当該株主の居住地と見なすことができるとされています。

クロスボーダーM&Aと外資規制(その6)~外資規制はどうあるべきか~

米国の外資規制は、日本と異なり、事後介入方式となっています(*1)。また、エクソン・フロリオ条項は、対象業種を限定的に規定せず、全ての業種が規制される可能性がある点に特徴があります。よって、ここは事後介入形式ともあいまって、「予見可能性」という点では国際的に批判が強いところです。

日本は、前述のとおり、個別業法の改正によって外資規制を行う傾向があるため、その都度、海外から「外資に対して閉鎖的だ」と言われることがありますが、規定を曖昧にし、大統領と委員会の判断によって必要に応じて規制ができる構造を採っているアメリカの方が、外資規制は厳しいと考えられます。また、中国では、中国国内投資家向けのA株、海外投資家向けのB株、香港上場株であるH株など、いくつかの種類がありますが、A株という種類の株式が存在すること自体が強力な外資規制になっていると言えます。

その他、外資規制が厳しいか緩やかかという議論をする際には、それぞれの国がどれほど海外からの資本を必要としているかにも注目する必要があると考えます(海外資本を切望する国が緩やかな外資規制を採るのは当然であるため)。経済構造に関しては、確かに日本は輸出を重視している部分もありますが(*2)、それは積極的な外資導入が必要な理由にはならないと思います。どこの国でも、国内企業が発展するためには、
① 十分な内需があること
② その内需に応える十分な事業があること
③ その事業を行う十分な資金があること
の三つの要素が必要ですが、日本の場合は、(少子化の影響で①は懸念されているものの)現状では①と③についてはそれほど問題はありません。問題は、モノ作り国家日本の一番の強みである②が空洞化しつつあるということではないでしょうか。発展途上国は、通常③の要素に欠けるために外資導入を促進しますが、日本の場合はこれと同様に考えることはできません。確かに、外需頼みの経済成長は不安定ではありますが、内需を支えるために「内需関連事業」そのものが必要なのか、「海外からのお金」が必要なのかについては、明確に分けて考える必要があると思います。事業を行うための資金がないわけではない日本の場合は、むしろ、「外資導入=投資資金の回収というエグジットが必ずある=日本が抱える豊富な個人資産が流出する可能性がある」と考えた上で、必要な規制を行い(アメリカがエクソン・フロリオ条項を維持するのであれば、日本も同様の規制を導入することを検討すべき)、外需を求めつつも内需関連産業の再発展に重点を置くべき時期に来ていると感じます。

クロスボーダーM&Aに関わっていると、常に、海外の企業を買うことの意味を考えさせられます。ストラティジック・バイヤーの場合は、シナジー効果を狙ってのものが多いと言えますが、フィナンシャル・バイヤーの場合は、キャピタル・ゲインの取得が主目的です。また、ストラティジック・バイヤーの場合でも、それがファンドのポートフォリオ・カンパニーであれば、結局は、キャピタル・ゲインの増大を狙って戦略が立てられます。近年流行しているMBOのほとんどがファンド絡みである点にも注目する必要があります。キャピタル・ゲインの取得が目的であっても、そのためには事業内容そのものを改善する必要があり、マッコーリー銀行が取得した「箱根ターンパイク」のように、結果として事業・産業の発展につながるケースも少なくありませんので、金融界の原理が「ほんの少し」産業界にも持ち込まれることについては賛成しますが、海外からの圧力に負けて外資導入論を唱えたり、逆に、徒に外資脅威論を唱えるのではなく、常に「日本に足りないものを補う」という基本発想を持っておくことが大切だと感じます。


(*1) 日本と同様事前届出を要求している例としては、<フランス>が挙げられますが、対象となる業種が日本よりも少なく、規制される株式保有比率は3分の1以上となっていますので、日本(10%以上)よりも緩やかな規制となっています。なお、英国は、米国と同じように事後介入方式です。各国の外資規制に関する日本語での説明については、<ジェトロのウェブサイト>をご覧ください。
(*2) 日本の輸出高は平成19年で約84兆円(出展:<財務省の統計>)、他方、日本のGDPは平成17年で約501兆円 (出展:<総務省の統計>)となっています。

クロスボーダーM&Aと外資規制(その5)~アメリカの状況~

米国の外資規制は、「エクソン・フロリオ条項」(Exon-Florio provision)(*1)によって行われており、米国内直接投資(FDI)の内容が米安全保障にかかわるものと大統領が判断した場合には、エクソン・フロリオ条項が適用され、当該FDI が規制されます。エクソン・フロリオ条項の適用については、財務省が委員長を務めるCFIUS(米国内外資委員会)(*2)が監督しています。

アメリカでは、2006年に、中東・アラブ首長国連邦の政府系港湾運営会社であるDubai Ports Worldが、ニューヨークなどアメリカ東海岸の7つの貨物港の運営を手掛けることになったことに関して、国内でFDI規制に関する大きな論争が発生しました。CFIUSはDubai Ports WorldのUS貨物港取得について一旦承認しましたが、その直後から米議会が党派を超えてこれに反対し、議会はCFIUSに対しその承認を撤回するよう要求しました。このような流れの中で、Dubai Ports Worldは貨物港関連の資産を手放すことに同意しましたが、この事件の後に、外資規制をもっと厳しく行った方が良いという意見が米国内で強まり、2007年には、CFIUSによる調査手続を更に細かく、厳しくするための改正が行われたところです。

エクソン・フロリオ条項によれば、外国人(政府・法人を含む)による米企業の買収・合併・取得が米国の国家安全保障に脅威を与えると判断される場合には、当該M&A取引を適当な期間停止または禁止することができるとされています。規制の対象となるのは、

(1) 外国企業(投資機関や投資家も含む)が米企業の実権を握ることによって、米国の国家安全保障に脅威を与える行動に出る可能性を示す証拠がある場合
(2) 国際緊急経済力法(International Emergency Economic Powers Act)を除いて、国家安全保障を守るための適切かつ効果的な権限を与える条項がない場合


の二つのケースです。CFIUS がかかるM&A取引が行われている旨の告知を受けると投資内容の精査を始め、必要に応じて、本格的調査に発展する場合もあります。本格的調査を行う場合、告知の日から30 日以内に開始され、いかなる場合も開始から45 日以内に完了しなければならないとされています。大統領は、調査結果の報告を受けると、その日から15 日以内に判断を下さなければならないことになっています。

エクソン・フロリオ条項は、「国家安全保障へ影響が及ぶかどうか」を判断する要素として、以下のものを挙げています(原文はこちら:http://www.ustreas.gov/offices/international-affairs/exon-florio/)。

(1) domestic production needed for projected national defense requirements;
(2) the capability and capacity of domestic industries to meet national defense requirements, including the availability of human resources, products, technology, materials, and other supplies and services;
(3) the control of domestic industries and commercial activity by foreign citizens as it affects the capability and capacity of the U.S. to meet the requirements of national security;
(4) the potential effects of the transaction on the sales of military goods, equipment, or technology to a country that supports terrorism or proliferates missile technology or chemical and biological weapons; and
(5) the potential effects of the transaction on U.S. technological leadership in areas affecting U.S. national security.

(訳:
(1) 国家防衛のために必要と見込まれる国内生産かどうか
(2) 国家防衛のために必要とされる要求を満たす能力(人的資源、製品、技術、資材、その他関連サービス)を持っているかどうか
(3) 外国人(政府・法人を含む)が実権を握る米国内生産や商業活動が、国家安全保障のための必要事項に影響を与えるかどうか
(4) テロリズムやミサイル技術拡散、化学あるいは生物学兵器を後方支援する国への軍事製品および軍事技術投資(企業買収も含めて)に対する影響が潜在するかどうか
(5) 国家安全保障に関するいかなる領域において、米国の技術的主導権に対して、当該投資が何らかの潜在的影響力を持っているかどうか)

日本が目指すべき外資規制の態様に関する個人的意見については、次のコラムで書きたいと思います。


(*1) 米国内直接投資(FDI)を尊重しながらも国家安全保障を守る目的で国防生産法(Defense Production Act)を修正した条項がエクソン・フロリオ修正条項で、1988 年に発効しました。
(*2) 同委員会は、複数省庁(財務省の他は国務省、国防省、商務省、司法省、米通商代表部、経済諮問委員会、行政管理予算局、科学・技術政策局など)から構成されています。

クロスボーダーM&Aと外資規制(その4)~日本の状況~

英投資ファンドで「モノ言う株主」としても知られるザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド(TCI)は、2008年1月15日付けで、国内の電力需要の1割弱を供給する電力卸の最大手であるJパワー株の買い増し(現在の9.9%から20%へ)を求めて事前届出を行いました。これに対して、経済産業省は、TCIがJパワーの発電や送電事業などにどのように関わる予定かを詳細に審査するために、当初2月13日までとしていた審査期間を最長で5月中旬まで延ばすことを決めました(審査期間は申請から原則30日ですが、4カ月まで延長可能)。ここで進行している手続が、外為法の「事前届出」手続です。以下、法令の内容について見ていきたいと思います。

5 事前届出が必要な取引

対内直接投資の事前届出となるのは、次の(1)、(2)のいずれかに該当する場合です。
(1) 外国投資家の国籍が「日本または掲載国(*1)」以外のもの。
(2) 投資先の事業目的が「事前届出業種(*2)」であるもの。

事前届出は、取引または行為を行おうとする日の前3か月以内に、直投命令に定められた様式により、日本銀行を経由して財務大臣および事業所管大臣宛てに行う必要があります(法27条1項、直投令3条3項)。

以上をまとめますと、「届出・報告不要とされた取引」を除いて、
① 対内直接投資に関する条約等がない国(アフリカ・中央アジアの一部)からの投資 ・・・ 事前届出
② 上記以外の国からの場合
・ 航空機、武器、原子力、宇宙開発、エネルギー、通信、放送、石油産業等に対する投資 ・・・ 事前届出
・ それ以外 ・・・ 事後報告

ということになります。

なお、外為法による規制の他に、各業法によっても外資規制が行われています。例えば、電波法は、外国人、外国人が代表を務める法人、外国人が役員の3分の1以上を占める法人、外国人が議決権の3分の1以上を占める法人には無線局免許を与えないとしていますし、航空法においても、外国人、外国人が代表を務める法人、外国人が役員の3分の1以上を占める法人、外国人が議決権の3分の1以上を占める法人に該当する者が所有する航空機は、登録することができないとされています。このほか、NTT法は、NTTの持ち株会社である日本電信電話の議決権の5分の1以上を外国人が保有する事を禁止しています。外資規制については、世界的には個別業法ではなく外為法によって行うのが一般的と言われており、今回、国土交通省が空港整備法といった特定の「業法」を改正することによって外資規制を行おうとしていることについては、その点からの批判も聞かれるところです。


(*1) 「対内直投命令別表1」に、「事後報告」対象国(すなわち事前届出が必要ない国)として掲載されている163カ国
(*2) 事前届出業種とは、「告示別表第一および別表第二に掲げる業種に該当する業種」または「別表第三に掲載されている業種に該当しない業種」をいいます。「別表第三」はいわゆる「事後報告業種」で、「別表第一」には、武器、航空機、人工衛星、ロケット、原子炉、核原料物質、それらに関する附属品やプログラムの製造業が含まれています。詳細は、<日銀国際局のウェブサイト>をご覧ください。

クロスボーダーM&Aと外資規制(その3)~日本の状況~

4 事後報告が必要な取引

対内直接投資は、1992 年1 月の改正外為法施行によって、そのほとんどが事後報告となりました。すなわち、(1)外国投資家の国籍が日本または「掲載国」(*1)であり、かつ、(2)投資先が行う事業のすべてが「事後報告業種」(*2)であるもののうち、以下に該当する取引はいずれも事後報告となります(<届出不要のケース>で述べた取引は除きます)。

① 株式・持分の取得
外国投資家が本邦にある会社(上場会社および店頭公開会社<出資比率が特別の関係にある者と合わせて10%以上のものに限る>・非上場会社)の株式または持分を取得した場合であって、外国投資家の国籍が日本または掲載国、かつ投資先ならびにその子会社および完全対等合弁会社(*3)の事業が事後報告業種であるもの。

② 株式・持分の譲渡
非居住者である個人が居住者時代に取得(昭55.12.1以降に取得したものに限る)した本邦にある非上場会社の株式または持分を、外国投資家に譲渡した場合であって、外国投資家の国籍が日本または掲載国、かつ非上場会社ならびにその子会社および完全対等合弁会社の事業が事後報告業種であるもの。

③ 会社の事業目的の変更の同意
外国投資家が本邦にある会社の定款上の事業目的の実質的な変更に同意(同会社が株式会社の場合、総議決権の3分の1以上を保有している外国投資家が行う同意に限る)した場合であって、外国投資家の国籍が日本または掲載国、かつ新たに追加される事業の全てが事後報告業種であるもの。

④ 支店等の設置
非居住者である外国投資家が、本邦に支店、工場その他の事業所を設置した場合であって、外国投資家の国籍が掲載国、かつ支店等の事業が事後報告業種であるもの。ただし、事業目的が銀行業、外国保険会社、ガス事業、電気事業、第一種金融商品取引業、投資運用業、外国信託会社であるもの、および駐在員事務所を除く。

⑤ 支店等の種類・事業目的の変更
非居住者である外国投資家が、本邦に設置している支店、工場その他の事業所の種類または事業目的を変更した場合であって、外国投資家の国籍が掲載国、かつ新たに追加される事業が事後報告業種であるもの。ただし、手続不要のもの、事業目的が銀行業、外国保険会社、ガス事業、電気事業、第一種金融商品取引業、投資運用業、外国信託会社であるものを除く。

⑥ 金銭の貸付け
対内直接投資に該当する金銭の貸付けであって、外国投資家の国籍が日本または掲載国、かつ貸付先の事業が事後報告業種であるもの。

⑦ 社債の取得
対内直接投資に該当する社債の取得であって、外国投資家の国籍が日本または掲載国、かつ発行会社ならびにその子会社および完全対等合弁会社の事業が事後報告業種であるもの。

事後報告は、取引または行為を行った日から起算して15 日以内に、直投命令に定められた様式により、日本銀行を経由して財務大臣および事業所管大臣あてに行う必要があります(法55条の51項、直投令6条の31項)。また、提出部数は、財務大臣+事業所管大臣数です(直投命令6条の2)。


(*1) 「対内直投命令別表1」に、「事後報告」対象国(すなわち事前届出が必要ない国)として掲載されている163カ国
(*2) 平成19.9.7 告示第1 号「対内直接投資等に関する命令第三条第三項の規定に基づき財務大臣及び事業所管大臣が定める業種を定める件」で定められた別表第三に掲げる業種
(*3) 完全対等合弁会社とは、会社(その子会社を含む)が総議決権の50%を保有する他の会社(その株主または社員の数が2人であるものに限る)であって、当該会社の子会社に該当しないものをいいます。

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