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井垣太介 (Taisuke Igaki)

Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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クロスボーダーM&Aと外資規制(その2)~日本の状況~

続いて、そもそも「事前届出」も「事後報告」も必要がない対内直接投資が存在しますので、それを紹介したいと思います。

3 届出不要のケース

対内直接投資であっても、次の(1)~(12)に該当するものは事後報告、事前届出ともに不要です(直投令3条1項、直投命令3条1項、2項等)。

(1) 会社の株式・持分、特別の法律により設立された法人が発行した出資証券、貸付金債権または社債を相続もしくは遺贈により取得したとき。
(2) 非上場の株式や持分を所有する法人の合併により、存続法人または新設法人が株式や持分を取得したとき。
(3) 非上場の株式や持分を所有する法人の分割により、分割後当該事業を承継する新設の法人または既存の法人が株式や持分を取得したとき。
(4) 上場(店頭登録を含みます)申請後、上場までの間に募集または売り出される非上場会社の株式の取得で、出資比率が関連会社等と合わせて10%未満であるとき。
(5) 事後報告で足りるとされている非上場会社の株式または持分の取得で、出資比率が関連会社等と合わせて10%未満であるとき。
(6) 株式の分割または併合により発行される新株の取得。
(7) 特定の外国投資家による出資比率が10%未満の居住者外国投資家(上場会社等に限る)による株式・持分・出資証券の取得、会社の事業目的の変更の同意、金銭の貸付け、または社債の取得。
(8) 会社の組織変更に伴い、組織変更前に取得していた株式や持分に代えて、組織変更後の株式や持分を取得したとき。
(9) 会社の事業目的の変更の同意のうち次のもの。
 a.外国投資家の国籍が日本または事後報告国(*1)であり、かつ、変更前・変更後の事業が事後報告業種(*2)に該当するもの。
 b.事業目的の一部を削除するとき。
(10) 支店等の種類・事業目的の変更のうち次のもの。
 a.外国投資家の国籍が事後報告国であり、かつ変更前・変更後の事業目的が事後報告業種に該当するもの。
 b.事業目的の一部を削除するとき。
(11) 株式無償割当てによる株式の取得。
(12) 取得条項付株式の取得または取得条項付新株予約権に係る取得事由の発生によりその取得の対価として交付する株式、持分、社債もしくは出資証券の取得。



(*1) 「対内直投命令別表1」に、「事後報告」対象国(すなわち事前届出が必要ない国)として掲載されている163カ国のことを指します。この中には、例えば、アメリカ合衆国、英国、ドイツ、フランス、イタリアなどは含まれていますが、イラクやアフガニスタンは含まれていません。
(*2) 「対内直接投資等に関する命令第三条第三項の規定に基づく財務大臣及び事業所管大臣が定める業種を定める件」(平成19年9月7日内閣府・総務省・財務省・文部科学省・厚生労働省・農林水産省・経済産業省・国土交通省・環境省告示第1号)に掲載されている「事後報告」業種を指します。ここに含まれる事業の範囲は広範ですが、「安全保障上の必要性を理由に事前届出の対象とする製造業」である武器、航空機、人工衛星、原子炉、ロケット関連事業などが除外されています。
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クロスボーダーM&Aと外資規制(その1)~日本の状況~

前回のコラムで述べたように、オーストラリアのマッコーリー銀行が、2007年夏に、羽田空港ターミナルビルを所有する「日本空港ビルデング」(東証1部上場)の株式約20%を取得したことをきっかけに、「空港外資規制」の可否が永田町と霞ヶ関で議論されていますが、天下りの問題など政治的な論争も盛んなようですので、これには深く立ち入らずに、まずはクロスボーダーM&Aを扱う実務家として知っておくべき法的知識を整理しておきたいと思います。

クロスボーダーM&A取引を行うにあたっては、投資対象会社の所在地国の外資規制を確認し、必要に応じて事前届出、事後報告などの手続を行う必要があります。まずは、日本が外国人および外国企業に対して課している外資規制について見ていきます。

外国人または外国企業が日本企業の株式を取得するケースについては、外国為替及び外国貿易法(「外為法」)が規制しています。外為法の規制は、「対内直接投資」(*1)と「資本取引」(*2)に適用がありますが、ここではまず前者について紹介します。

「対内直接投資」に関する外為法の規制については、手続に着目して、「事前届出」類型と「事後報告」類型に分けることが出来ます(法55条の51項、法27条1項)。新聞等を賑わせる「安全保障」関連の外資規制は、主に前者の「事前届出」類型に該当します。すなわち、安全保障などの観点から、武器、航空機、原子力、宇宙開発、火薬類、電力・ガスなどの業種について、外国投資家が該当企業の株式を10%以上保有する場合、財務大臣や事業所管大臣への「事前届出」が必要になります。他方、上記の業種に該当しない場合は、一定の条件の下で「事後報告」が必要です。以下、各種概念について整理した上で、順に説明していきたいと思います。

1 「外国投資家」の意義

外為法では、対内直接投資の当事者として「外国投資家」という概念を設けて、次のとおり規定しています(法26条1項)。
(1) 非居住者である個人。
(2) 外国法令に基づいて設立された法人その他の団体または外国に主たる事務所を有する法人その他の団体(外国法人の在日支店を含みます)。
(3) 上記(1)または(2)に掲げる者により直接または間接に保有される議決権の合計が50%以上を占める法人(*3)。
(4) 非居住者である個人が役員または代表権限を有する役員の過半数を占める本邦の法人その他の団体。


2 「対内直接投資」の意義

対内直接投資とは、外国投資家が行う、次の取引または行為をいいます(法26条、直投令2条9項1、2号)。
(1) 国内の上場会社(店頭公開会社を含みます)の株式の取得で、出資比率が10%以上(*4)となるもの。なお、この場合の出資比率には、当該取得者と特別の関係にある外国投資家の所有株式を含みます。
(2) 国内の非上場会社の株式または持分を、外国投資家以外(*5)から取得すること。
(3) 個人が居住者であるときに取得(昭55.12.1以降に取得したものに限る)した国内の非上場会社の株式または持分を、非居住者となった後に外国投資家に譲渡すること。
(4) 外国投資家が国内の会社の事業目的の実質的な変更について同意(同会社が株式会社の場合、総議決権の3分の1以上を保有している外国投資家が行う同意に限る)すること。
(5) 非居住者個人または外国法人である外国投資家が、国内に支店、工場その他の事業所を設置(*6)し、またはその種類や事業目的を実質的に変更すること。
(6) 国内法人に対する1年を超える金銭の貸付け(居住者外国投資家が行う本邦通貨による貸付けを除く)であって、次のaおよびbの、いずれにも該当するもの。
 a 当該貸付け後における当該外国投資家から当該国内法人への金銭の貸付けの残高が1億円に相当する額を超える
 b 当該貸付け後における当該外国投資家から当該国内法人への金銭の貸付けの残高と、当該外国投資家が保有する当該国内法人が発行した社債との残高の合計額が、当該貸付け後における当該国内法人の負債額の50%に相当する額を超える
(7) 国内会社の発行した社債で、取得日から元本の償還日までの期間が1年超であり、その募集が特定の外国投資家に対してされるものを取得する(居住者外国投資家が行う本邦通貨をもって表示される社債の取得を除く)場合であって、次のaおよびbの、いずれにも該当するもの。
 a 当該社債の取得後において当該外国投資家が保有する当該国内会社の社債の残高が1億円に相当する額を超える
 b 当該社債の取得後において当該外国投資家が保有する当該国内会社の社債の残高と、当該外国投資家から当該国内会社への金銭の貸付けの残高の合計額が、当該社債の取得後における当該国内会社の負債額の50%に相当する額を超える
(8) 日本銀行など特別の法律に基づいて設立された法人の発行する出資証券の取得


なお、上記の定義にも更に詳細な例外規定などが存在しますので、実際の適用判断に当たっては専門家にお問い合わせいただく必要があります。次回以降、「届出が不要な場合」「事前届出が必要な場合」「事後報告が必要な場合」について紹介します。


(*1) 日本法人に参画するか、または、実質的に日本法人の経営を支配することを目的とする株式取得
(*2) 資産運用を目的として行われるポートフォリオ投資
(*3) 「間接に保有される議決権」は、外国法人等が50%以上の議決権を有する国内会社が保有する議決権をいいます(直投令2条1項)。
(*4) 居住者・非居住者間で行われる場合、出資比率が10%未満のときは「資本取引」となります。
(*5) 国内の非上場会社の株式または持分の「外国投資家」からの譲受けは、居住者・非居住者間で行われる場合には「資本取引」となります。
(*6) 事業目的が銀行、外国保険会社、ガス事業、電気事業、第一種金融商品取引業、投資運用業および外国信託会社であるもの、および駐在員事務所を除きます。

今週のメッセージ(2008年3月29日)~インフラファンドと外資規制~

ニューヨークでは未だに最低気温が摂氏ゼロ度くらいまで下がる日がありますが、少しずつ春の気配が感じられるようになりました。春が近づくとときどき思い出す場所があります。私が学生時代に仲間と一緒に度々訪れた「箱根」です。朝早く、クルマやバイクで東京を出発し、小田原を抜けて、「箱根ターンパイク」(*1)の入り口に辿り着いたところで、自然と気分が高揚します。「箱根ターンパイク」は、新車の試乗記などで利用されるいわば「テストコース」のような場所で、走ることが好きな人にとっては聖地のような存在だったからです。アクセルを全開にして人もまばらなターンパイクを攻めたかどうかはご想像にお任せしますが、不思議なほどにクルマが少ないターンパイクを駆け上がり、県道75号湯河原箱根仙石原線と箱根ターンパイク大観山線とのT字路にある「大観山ドライブイン」で一息つきます。「大観山ドライブイン」は芦ノ湖と富士山を望む、日本景勝百選地の一つであり、東京の喧騒を逃れてリフレッシュするには最適の場所でした。ここから県道75号湯河原箱根仙石原線、通称、「椿峠」を一気に下ります。「椿峠」はターンパイクとは異なり、小さなコーナーが延々と続くテクニカルコースで、当時、私が好きな道路の一つでした。

あれから12年後、シカゴに移り住んだ私は、シカゴのスカイウェイ(*2)に関する記事を読んでいるときに、「箱根ターンパイク」と「シカゴ・スカイウェイ」の共通点に気付きました。それは、その2つの道路が共にオーストラリアの<マッコーリー・グループ(Macquarie Group)>に管理されているということです。

「箱根ターンパイク」は、長年東急電鉄グループによって管理されていましたが、赤字が続き(どうりでクルマが少なかったはずです)、2003年秋にオーストラリア最大の投資銀行であるマッコーリー銀行に約12億円で買収されました。マッコーリーは、その後「命名権ビジネス」も手掛け、「箱根ターンパイク」の命名権を獲得したトーヨータイヤは、2007年3月に「箱根ターンパイク」を<「TOYO TIRES ターンパイク」>と改称し、現在に至っています(上記「大観山ドライブイン」も、「TOYO TIRES ビューラウンジ」へ改称)。
他方、シカゴで唯一の有料道路であるシカゴ・スカイウェイは、2004 年に、その99 年間にわたる運営権が18 億3000 万ドルで売却されましたが、これを購入したのが、スペインのシントラ(Cintra)社とオーストラリアのマッコーリー銀行(Macquarie Bank)のJVでした。これは、アメリカにおける既存有料道路の最初の売却例でもありました。

さて、こういった例に見られるように、世界各地で「インフラファンド」の動きが活発化しています。インフラ事業とは、社会・経済を支える基本的なサービス、設備、機能など - 主に、交通(道路・空港・港湾・鉄道)、エネルギー(電気、ガス、水道)、衛星、通信、駐車場など - に関する事業のことを言いますが、インフラ事業では、経営方法さえ適切であれば比較的長期で安定したキャッシュフローが見込めることから、投資ファンドや年金基金などの機関投資家がインフラ事業を取得し、民間の経営手法を導入し経費削減などを行うことによって収益を改善し、投資資金の価値最大化を図るという「インフラ投資ビジネス」が近年のブームとなっているのです。

実際に、マッコーリー銀行は、「箱根ターンパイク」の買収後直ちに、人件費削減のほか、買収前は二次下請け会社だった企業を対象に工事の入札を実施するなどの手法によって、買収の翌年には黒字転換させました(*3)。マッコーリー銀行の近年の業績は大幅に上昇しており(*4)、同銀行のインフラ投資ビジネスが成功を収めていることを物語っています(*5)。

ただ、道路については「公共物」であるとの認識が強く、道路法は主要有料道路や国道を民間企業が管理することを制限しています。また、インフラ事業・社会資本に関してはどこまで「民間開放」を認めるかという問題に加えて、どこまで「外資規制」を行うかという問題も盛んに論じられています。この点に関係して昨年から新聞を賑わせているのが、マッコーリー銀行が、2007年夏に、羽田空港ターミナルビルを所有する「日本空港ビルデング」(東証1部上場)の株式約20%を取得したことをきっかけに議論が白熱している「空港外資規制」の問題です(*6)。

海外企業に投資を行うクロスボーダーM&Aにおいては、「外資規制」は重要な問題となりますので、次回以降のコラムにおいて、この「外資規制」について紹介・検討したいと思います。

(*1) 神奈川県小田原市から箱根町を経由し、同県湯河原町に至る、延長15.8kmの観光有料道路。
(*2) インディアナ州につながる全長12kmの有料道路。
(*3) マッコーリー・ジャパン社のインタビュー:http://219.94.168.109/scty/tr/hp_kakogiji5.pdf
(*4) http://www.macquarie.com.au/au/about_macquarie/investor_information/five_year_summary.htm
(*5) マッコーリー銀行は、そのほかシドニー国際空港やローマ空港の空港運営も手掛けているほか、日本では、近畿日本鉄道から伊吹山ドライブウェイを買収しました。
(*6) 空港ビル運営会社への外資参入規制は存在しなかったところ、国土交通省は、「安全保障上問題がある」として、外資の出資比率を「議決権ベースで3分の1未満」に抑えることを目指し、外資出資規制を定めた改正法案(空港整備法の改正法案)を提出しましたが、議論が紛糾し閣議決定が先送りされました。

クロスボーダーM&Aで有利に交渉を進めるために必要なこと

昨年から私は、アメリカ、カナダ、ヨーロッパ、アジア各国に20以上の関連会社を有する企業の買収案件に買主側として関与しています。ここまでの規模になると、ニューヨークから全てをコントロールすることは不可能であり、現地のローカル・カウンセルとの提携・協力関係が必須になってきます。各国特有の法規制(特に外資規制と証券法、独禁法、労働法などが重要です)を正確に調査・理解することは現地の弁護士でなければ不可能であり、かつ、現地での人脈も大切になってきますので、遠隔操作で物事を進めることは現実的ではないからです。

このような中で各国の当事者の行動パターンや、カウンセルの対応を見ていますと、クロスボーダーM&Aを考えている日本企業がこれから身につけていかなければならないいくつかのポイント(スキル)があることに気付きます。

1つ目は、「意思決定のスピード」を上げることです。日本の会社の多くには厳格な稟議・決裁システムが存在し、例えば買収条件の変更などを相手方から求められると、担当者が会社に持ち帰り、上司に相談し、正式に稟議書を作成した上で、最終的には取締役会に掛けて承認を得るというプロセスが踏まれるのが通常だと思います。これに対して、M&Aに慣れている欧米の企業は、現場で交渉に臨む担当者に一定の判断権限が与えられていたり、CEOの承認が迅速に得られる社内体制にあることから、日本企業よりも早く結論を出してくるケースが多いと感じます。M&Aでは「スピード」と「タイミング」が思いのほか重要で、競合者が複数存在する場合には、指定された締切りに間に合わなかったために負けてしまうケースもあります。

2つ目は、「買収後の詳細な事業計画」を作ることです。M&Aは買収・合併後のシナジー効果を期待して行うため、シナジー効果でカバーできないほどの「高額な買い物」をすると、それは「M&Aに失敗した」との評価を受けることになります。シナジー効果の予測は大変難しく、エクセル上の数字を一つ触るだけで買収額の上限は大きく変化するため、計画はあってないようなものと言われることもありますが、買収後の明確な事業計画が存在しないと、「買収金額をどこまで上げて良いかが分からない」という根本的な問題に遭遇します。そのような中で交渉を続けていると、必然的に相手の要求する条件を飲まされて、結果として「高すぎる買い物」をしてしまう可能性が高いと考えます。

3つ目は、「情報戦」に勝つことです。冒頭で述べたように、クロスボーダーM&Aでは、いわば「自分の庭の外」で戦うことになります。スポーツで言えば「アウェイ戦」です。アウェイ戦で交渉を有利に進めるためには、常に交渉の相手方や、現地のプラクティス、レギュレーションに関する情報収集を怠らないことが大切になってきます。国内M&Aよりも数段難しくなるデュー・ディリジェンスを効果的に進められるように、また、相手から直接受け取る情報を鵜呑みにすることには大きなリスクがありますので、各種問題点について自ら主体的に判断できるように、信頼できるローカル・カウンセルとのネットワークを築くことが求められます。

日本の会社の場合クロスボーダーM&Aの実績と経験がまだまだ少なく、これからしばらくは不利な交渉を強いられる可能性があると予想していますが、世界規模での業界再編の流れは止まりそうにありませんので、上記の点に留意しつつ、M&A交渉に負けないように、また、買収後に苦しまないで済むように万全の準備を行っていきたいところです。

Go-Shop条項の限界~Topps社事件が示唆するもの~

<前回のコラム>で述べたとおり、売主の取締役会は、株主総会で承認を得る日までの間に当初の買収提案と後に提示された競合提案のいずれが株主にとって有利な提案であるかを判断して選択することになるわけですが、その取締役会の判断が取引関係者全員によって常に尊重されるわけではありません。発生するトラブルの典型的な例としては、ビッドに負けた買収提案者が「なぜこちらの提案を選ばなかったのか」とクレームを述べ、味方の株主とともにM&A契約の実行の差止めを求めて訴訟を提起するケースです。そこで、このような紛争の具体例として、昨年、アメリカのM&A実務界で話題となったTopps事件(*1)を紹介したいと思います。

バブル・ガムやベースボール・カードで有名なTopps社は、2006年、プライベート・エクイティ投資家であるMichael Eisner氏よりゴーイング・プライベートを企図した株式の買収提案を受けましたが、他方で、Topps社は、同じスポーツ・カード業界の競合会社であるUpper Deck社からも1999年以来継続的に買収提案を受けていました。Topps社の取締役会では、Eisner氏と本契約を締結する前にオークションを行うべきであるとする反対意見も出ましたが、Eisner氏がTopps社に対して、「もし本契約締結前にオークションが行われるようであれば自分の提案は撤回する」と伝えていたこともあって、結局、Eisner氏とまず本契約を締結した上で、Go-Shop条項に従って事後的に競合買収提案者を探すという方式で進めることが決定されました(これはGo-Shop条項が盛り込まれる契約では頻繁に見られる交渉経緯パターンです)。Eisner氏との契約においては、現経営陣の雇用維持が約束されていた点が特徴的であり、Go-Shop期間は40日間と定められ、Eisner氏にはMatching Rightが与えられていました。

Topps社は、取締役会においてEisner氏との契約を承認する少し前にUpper Deck社から買収の希望を伝えられていましたが、その希望には返答を行うことなくEisner氏との契約に調印し、Go-Shop期間が開始しました。Go-Shop期間においてはUpper Deck社が唯一の競合提案者であり、Upper Deck社は、Topps社に対して、Eisner氏の従前の提案であった一株当たりの買収価格9.75ドルを超える一株当たり10.75ドルの提案を行いました(但し、当該金額は、その後のデュー・ディリジェンスの結果その他の条件によって変更される可能性が示されていた)。上記Upper Deck社の提案は金額面を見ればEisner氏からの提案よりも優れていたわけですが、Topps社は、独禁法上の懸念があることと、Upper Deck社の提案が一定の条件に依拠していることによる不安定性を理由に、Upper Deck社の提案を最終的に拒絶するに至りました(*2)。なお、米国における買収交渉においてはよく見られるように、Upper Deck社はTopps社と買収交渉を開始した時点で、現状維持(Standstill)合意を締結していました(その結果、Upper Deck社の株主に対してTender Offer(株式公開買付)を開始することができなかった)。

そこで、Topps社の株主及びUpper Deck社は、Topps社に対して、追加の情報開示と現状維持(standstill)合意の無効化を求めて訴訟を提起したところ、デラウエア州衡平法裁判所は、「Topps社は、Eisner氏との契約においては現経営陣の雇用維持が約束されていたことを開示すべきであった」とした上で、Upper Deck社との間の現状維持(standstill)合意を無効化し、Upper Deck社が、自社の提案がEisner氏からの提案よりも優れていることを主張して前記一株当たり10.75ドル以上の条件にてTender Offerを行うことを認めました。

本件からは、
① Go-Shop条項は万能ではなく、最終的にオークションないし公開買付におけるプロキシー・ファイト(委任状争奪戦)に至る可能性があること、
② 株主利益を保護するためのより基本的な要請として、公正かつ十分な情報開示はどのような場面でも必要であること、
③ Go-Shop期間中に競合買収候補が現れた場合の「選択」は実際には容易ではないということ、
④ 現状維持(Standstill)合意も万能ではなく、合意の存在を理由に強行突破することにはリスクがあること

といった諸点を学ぶことが出来ます。

そもそも、本件において、裁判所は、Go-Shop条項が有効になるためには、「本契約締結後の市場調査が効果的に行われる合理的可能性が存在すること」(*3)が必要であると述べています。よって、本契約締結後の市場調査が実質的に不可能となるような短期間のGo-Shop期間は意味をなさず、Go-Shop期間中は積極的に競合買主候補を探す必要があり、かつ、Go-Shopの結果競合者が現れた場合には、全買主候補に共通の情報を提供した上で、同一の基準で条件の優劣を決する必要があると言えます。

日本では、Go-Shop条項は未だ普及していませんが、一部の契約書には入り始めています。その場合、米国で実際に紛争になったTopps事件のようなケースを念頭に置いて、Go-Shop条項を盛り込んだことで安心するのではなく、上記の諸点に注意をした丁寧な運用を行わなければなりません。

(*1) In re The Topps Company Shareholders Litigation, C.A. Nos. 2786-VCS & C.A. No.
2998-VCS (Del Ch. June 14, 2007)

(*2) Topp社のケースに限らず、Go-Shop条項が盛り込まれた契約においては、対象会社の取締役会が、Go-Shop期間中に現れた有力な競合買収候補を"Excluded Party"であると認定すれば、対象会社はGo-Shop期間経過後も当該競合買収候補と交渉を継続できますが、Topps社はUpper Deck社が"Excluded Party"に該当するとの宣言を行いませんでした。
(*3) 原文は、”reasonable room for an effective post-signing market check”となっています。

Go-Shop条項~競合買収提案に対する対応~

Go-Shop条項に関しては、実際に競合買主候補が出てきた場合に、どちらを優先提案として受け入れるべきかに関する判断が難しいといった問題があると、<Go-Shop条項の存在意義と内容>のコラムで書きましたので、今回はこの点のフォローをしたいと思います。

Go-Shop期間中に競合買主候補が出現しなかったケースにおいては、そのまま当初買主候補とクロージングを迎えることになるため、比較的問題は少ないと言えます。問題は、Go-Shop期間中に競合買収提案(Acquisition Proposals)がなされた場合の処理方法ですが、この場合、売主としては、Go-Shop期間の終了(「No-Shop期間の開始」とも表現する)とともに、競合買主候補者に対する勧誘・交渉行為を全てストップした上で、当初買主候補に対して、
① 競合買収提案の数、
② 競合買主候補者が誰であるか、
③ 競合買収提案の骨子

を、一定時間内(通常、24時間ないし48時間内)に通知しなければなりません。これにより、当初買主候補としては、競合提案に対して更に好条件を提示するか、取引を断念するかを検討できる機会(これが「当初契約者による再交渉権(Matching Right)」と呼ばれる権利につながる)を与えられます。

他方、売主の取締役会は、当初提案を受け入れるか、競合買収提案を受け入れるかを選択しなければなりません。この点、米国のM&A契約書でよく見られるのが、取締役会は、
① フィナンシャル・アドバイザーおよび社外の弁護士と協議の上、
② 善意にて(in good faith)、
③ 競合買収提案が、「より優れた提案」(Superior Proposal)か否かを判断しなければならない

とするものです。契約書においては、「より優れた提案に該当する」と取締役会が判断した場合には、当初買主候補との間の契約を解除することができる旨も併せて規定されます(この場合には、いわゆるターミネーション・フィー(Termination Fee)が発生します)(*1)。

ここでは、何をもって「より優れた提案」(Superior Proposal)と評価するのかが問題となります。この点、「より優れた提案」の定義としては、競合買収提案(Acquisition Proposals)の定義を更に絞り込んだ上で(例えば、競合買収提案においては資産等の25%以上の取得行為とされていたものが、「より優れた提案」に該当するためには売上・資産・議決権の50%以上を取得することが要求される)、「株主にとって経済的により有利な提案であること(a transaction that is more favorable from a financial point of view to the stockholders of the Company than the transactions contemplated hereby)」という表現が使われることが多いようです。しかし、「より優れた提案」に該当すると取締役会のみで判断することは困難であることが多々あるため、大手インベストメント・バンク(a nationally recognized investment banking firm)等のフィナンシャル・アドバイザーから意見書を得て最終判断に至るのが通常です。むしろ、当事者間で「より優れた提案」に該当するか否かを巡って紛争が起こる可能性があるため、「フィナンシャル・アドバイザーの意見書」が、取締役会がより優れた提案であると決定するための条件となっていることが多いと言えるでしょう。

「より優れた提案」かどうかを巡って提起された裁判例については、別のコラムで紹介したいと思います。


(*1) Go-Shop条項が盛り込まれた契約においては、Go-Shop期間中に現れた有力な競合買収候補を”Excluded Party”に該当すると対象会社の取締役会が宣言すれば、対象会社はGo-Shop期間経過後も当該競合買収候補と交渉を継続することができます。

独立取締役/特別委員会に関する議論について(その6)

前回整理したとおり、アメリカの特別委員会については、
① 会社法に基づき、正式に交渉権限や判断権限を委譲される、
② 委員は取締役の中から利害関係のない者が選ばれる、
③ 外部専門家はアドバイザーとして特別委員会の外からアドバイスを行う、
④ 特別委員会を使用した場合の効果が判例法上明確になっている、
⑤ 判例法上、最終判断権限のない特別委員会には立証責任の転換等の効果が与えられないことが明確にされつつある、

といった特徴が挙げられることになります。

他方、日本では、
① 任意に設置された特別委員会に交渉権限や判断権限を委譲する法的根拠がない、
② 特別委員会の委員は取締役会の外からも広く選ばれている、
③ 外部専門家が委員そのものに就任することが多い、
④ 特別委員会を使用した場合の効果が判例法上明確にされていない、
⑤ 特別委員会の判断に拘束力を与えるべきケースが判例上明確になっていない、

という状況にあります。

これでは混乱が発生するのもやむを得ないと感じますが、それでも日本で特別委員会は普及しつつあります。それは、前述のように、経産省・法務省の指針や企業価値研究会の報告書において、特別委員会の設置が推奨されているからであり、また、機関投資家や議決権行使助言機関が、特別委員会とセットの買収防衛策であれば賛成に回る可能性があることを表明しているからであると考えます。ブルドック事件最高裁判決が、防衛策の是非は株主総会が決定すべきとしたことから、ほとんどの企業が防衛策導入ないし発動に当たって株主の承認を得るようになると予測しますが、そうであれば「株主の同意を得るために特別委員会を利用する」という発想も出てくるわけです。株主総会さえクリアすれば裁判所もクリアできると考える当事者、アドバイザーも多いでしょう。

しかし、特別委員会が、取締役会内部の利益相反問題を解決するために生み出された制度であることを忘れてはならないと思います。個々の委員の「独立性」が徹底していなければならない(すなわち、「社外」取締役や「社外」監査役という概念では足りない)のはもちろんですが、仮に委員の独立性が確保されていたとしても、特別委員会の判断結果に拘束力があるか、利益相反取締役の意思を排除したと評価できるだけの体制が整っていない限り、特別委員会は「利益相反問題を解決する道具」にはなりきれないと考えます。

現在、特別委員会の構成については、
「企業価値を毀損するか買収提案かどうかについての判断は本来業務執行の範囲に属するから、社外監査役は委員にすべきでない。」
「企業価値を毀損するか買収提案かどうかについての判断は業務執行の範囲には属しないから、社外監査役は委員にしてもよい。むしろ社外監査役を中心に構成すべきだ。」
「特別委員会の中立性を確保するために、社外取締役を委員から排除すべきだ。」
「社外取締役でも社外監査役でもない社外者の委員については、防衛策とセットで株主総会に提示し、その信任を得ておく必要がある。」
といった意見が出ていますが、独立取締役制度の存在しない日本において性急に特別委員会を普及させたために発生した制度のひずみを何とか人選でカバーし、足りない部分は株主の信任を得るというプロセスでフォローしようとしている状態であることが分かります。しかし、本来、委員の独立性の問題/委員の判断能力の問題と、特別委員会の権限・効果の問題は別の議論ですので、後者について、制度的な解決がなされない限り、どのような人選を行っても、裁判所の事実認定に与える影響は小さいままだと考えられますし、仮に株主総会が人選について承認したとしても、会社の役員でない委員に関して株主が事後的に善管注意義務違反を問えるわけではありませんので、その承認に利益相反問題をクリアさせるだけの効果を与えることはできないと考えます。

利益相反というのは、具体的にはその取引に利害関係を有する業務執行者と株主の利益相反、あるいは、支配株主(およびそれと利害を共通にする経営陣)と少数株主の利益相反です。社外独立チェック型ではない日本の取締役会や現状の特別委員会ではこの利益相反問題を解決できないと踏んで、裁判所は利益相反問題で損害を被る株主自身に直接意思決定をすることを求めています。取締役会も公正な判断が期待できない、裁判所も経営判断は行い難い、よって、株主に任せるしかないという流れです。しかし、株主といっても、多数派株主に少数株主の利益を考えた判断を要求することは困難ですので(アメリカと異なり支配株主に善管注意義務が課せられていない日本では尚更)、少数株主の利益保護が問題となっているようなケースでは、少数株主の過半数同意を要求するといったところまで整備しなければ万全とはいえないと考えます。

①支配株主が関与する取引、②会社の売却、③買収提案を受けている中での防衛策の発動といった利益相反リスクが高い場面(アメリカではいずれもBusiness Judgment Ruleの適用が否定されている場面)においては、特別委員会を設置し、その判断を「最大限尊重する」だけでは、裁判所において公正な取引であったとの認定を受けられる可能性は保証されていないと考えるべきでしょう。独立取締役制度が存在しない以上、株主総会の承認というプロセスを利用せざるを得ない場面も出てくると考えますが、その場合でも、株主総会を経たから安心と考えるべきではなく、不利益を被る株主のInformed Judgmentを得るために万全の準備をしなければならないと考えます。

なお、アメリカでは、特別委員会は、文字通り特別なケースにおいてしか設置されません。アメリカで独立委員会が利用されるようになったのは1970年代と言われていますが、独立委員会が利用されてきたのは、取締役の過半数が利益相反状況にある場合であり、具体的には、①MBO、②親子会社間の合併、③株主代表訴訟などのケースに限られていました。独立委員会が一旦設置されると相当の費用が発生するほか、「利益相反のある取締役グループ」と「特別委員会を構成する取締役グループ」がいずれも善管注意義務(損害賠償リスク)の下で真剣に判断し、交渉を展開する結果、両者の間に将来修復できない溝が発生する可能性すらあります。更には、「特別委員会を設置した」という事実のみで、裁判所から取締役会の利益相反性が疑われる可能性もあります。よって、アメリカのローファームは、メンバー選択はもちろんのこと、特別委員会の設置そのものに対してかなり慎重であると言えます。

独立取締役/特別委員会に関する議論について(その5)

経産省・法務省の買収防衛策指針において、特別委員会が防衛策発動の是非を判断することが推奨されている結果、ここ2年間に公表された事前警告型買収防衛策においては特別委員会の設置を含むものが相次ぎました。特別委員会の構成については、
① 社外監査役+社外者
② 社外者のみ
③ 社外取締役+社外監査役+社外者
④ 社外取締役+社外監査役
⑤ 社外監査役のみ
⑥ 社外取締役のみ
といったパターンに分けられますが(①と②の割合が大きい)、ここで社外取締役と社外監査役が多く登用されているのは、<平成17年5月27日付け「企業価値報告書」>が、以下のように述べていることの影響であろうと考えています。

【(法律上の責任と権限のある社外取締役や社外監査役の判断の重視)
第三者は、会社(株主)に対する責任と権限を有しているほど、合理性が高まり、株主などの支持を集めやすい。この点に関して、社外取締役は他の取締役と同様に、株主総会で選任され、会社に対する善管注意義務と忠実義務を負い、業務執行の決定権限を有する取締役会の構成員である。
社外監査役は、株主総会で選任され、会社に対して善管注意義務を負い、取締役会で違法又は著しく不当な決議がなされる場合には意見を述べる義務を負い、取締役の法令・定款違反行為の結果、会社に著しい損害を生じるおそれがある場合には、その行為の差し止めを請求することができる。また、任期が4年である、選解任に関して監査役会の意見が反映されるなど、その法的地位には、業務執行者からの高度の独立性が商法の規定によって担保されている。さらに、会社が取締役に対し訴訟を提起する場合の会社側の代表権限を有する、取締役に対する責任減免や代表訴訟における訴訟上の和解に対する同意権が付与されているなど、株主の利害と経営者の利害とが相反する局面において間に入る機能も付与されている。
これらの意味で、まずは、社外取締役や社外監査役が有事における防衛策の維持解除の判断を担うことが合理的な方策となる。そして、社外取締役や社外監査役の判断を重視して、取締役会が防衛策の維持解除を決定する仕組みを明確に導入することが必要となる。】


さて、誰が特別委員会の委員として適切かという問題を考える前に、特別委員会の位置付けとその効果について考えてみたいと思います。なぜなら、特別委員会については、ニレコ東京地裁決定において、「特別委員会の勧告を最大限尊重して取締役会が決定するという仕組みは、取締役会が勧告に従わない余地を残している以上、取締役会の恣意的判断を防止する仕組みとはいえない」と判断され、このような考え方に対して「そのとおりである。最終的に独立性に疑問のある取締役会が判断するのであれば、欠陥防衛策である。」という支持意見(*1)が出てきた一方で、「特別委員会は取締役会の単なる諮問機関であるから、その判断は法的に意味を持たないし、善管注意義務を負う取締役が善管注意義務を負わない特別委員会の判断に拘束されることは問題である。」という反対意見(*2)も度々耳にするからです。

確かに、特別委員会の委員は、結果として社外取締役や社外監査役が務めることがあったとしても、株主総会で改めて選任されるわけでもなく(逆に言えば、現経営陣が依頼するケースが多い)、取締役や監査役という地位を離れて会社法上の責任(善管注意義務)を負担するわけでもありません(そこで、次善の策として、会社との間で、善管注意義務を盛り込んだ契約を締結するのが最近の流行)。すなわち、特別委員会は会社法上の根拠を有しない任意機関であり、業務執行に関する決定権限は(取締役会設置会社の場合)完全に取締役会に残されています。
では、このような特別委員会の位置付けや効用についてどう考えればよいのでしょうか。特別委員会制度もアメリカからの輸入品と言えますので、ここで再度、アメリカ(デラウエア州)の状況を整理しておきたいと思います。

まず、アメリカでも、特別委員会が当然に拘束力のある最終判断権限を有しているわけではありません。デラウエア州会社法上、取締役会全体で判断しなければならない事項(合併、資産譲渡、定款変更など)が定められており、少なくともこれらの重要事項については特別委員会に最終決定させるわけにはいきません。ただし、デラウエア州会社法§141(c)は、

"to the extent provided in the resolution of the board of directors [creating the committee], or in the by-laws of the corporation . . . may exercise all the powers and authority of the board of directors in the management of the business and affairs of the corporation . . . "

と規定していますので、特別委員会を組成する際の取締役会の決議または付属定款で定められた範囲内において、取締役会の判断権限を特別委員会に委譲することが認められています。この点、日本の会社法においては、取締役会が委員会設置会社の委員会ではない任意設置の委員会に権限を委譲できると定める規定が存在しませんので、特別委員会については判断権限を付与する法的根拠がないことになり、ここに最初の違いが発生します。

続いて、アメリカでは、「特別委員会の判断に拘束力を持たせなければ、特別委員会に期待されている効果は付与することができない」と判示されたケースが複数存在します。有名なのは、Going Private取引に関するKahn v. Lynch事件(*3)です。この事件で裁判所は、「特別委員会は、一般株主にとって最大利益となる取引のみを承認し、それ以外の取引については拒絶できる権限を有していなければならない」(*4)としました。ニレコ地裁決定は、この判例の影響を受けた可能性があります。

前提知識として、デラウエア州の判例法理によれば、特別委員会については、

① 支配株主(controlling stockholder)が存在しない取引で特別委員会を利用すれば、審査基準がEntire Fairness StandardからBusiness Judgment Ruleに変更される。
② 支配株主(controlling stockholder)が存在する取引で特別委員会を利用すれば、審査基準はEntire Fairness Standardのままであるが、Entire Fairness(が存在しないこと)の立証責任が原告側に転換される。


という効果があります。Kahn v. Lynch事件は後者のケースでした。よって、Kahn v. Lynch事件に当てはめると、仮に、特別委員会の判断に拘束力を持たせなければ、立証責任の転換という効果を得られないことになります。立証責任の転換といえば単にプロセスの問題であるかのようにも聞こえますが、実際は原告側に立証責任が転換されてもなお取締役側が敗訴したケースはほとんど聞いたことがありません。実務上は、勝訴・敗訴をはっきり分けるほど重要な効果だと言ってよいと考えます。よって、アメリカのM&A実務では、とりわけGoing Private取引の場合には特別委員会に拒否権を与えるとともに、特別委員会が拒否権を行使するのをためらうような脅しの存在や力関係上の問題点を裁判所に指摘されないように細心の注意を払います。

また、別の例として、会社の売却について検討するための特別交渉委員会が設置された場合には、多数派株主や利害関係ある取締役が契約書の文言や条件について指示をすると、やはり特別委員会の効用を奪われてしまいます。よって、特別交渉委員会については、①真の交渉力を備えていることと、②多数派株主が契約書の条件を指示しないことが求められています(*5)。いずれにしても、特別委員会を利用することの意味・効果と、特別委員会が有していなければならない権限が明確になっています。

更に、デラウエア州判例法上、特別委員会には、独自の判断で外部の専門家アドバイザーを雇う権限が付与されていなければならないと言われています。よって、実務でも必ず社内のGeneral Counselとは別に外部の法律事務所が関与します。しかし、彼らは特別委員会の委員になるわけではありません。

まとめますと、アメリカの特別委員会については、
① 会社法に基づき、正式に交渉権限や判断権限を委譲される、
② 委員は取締役の中から利害関係のない者が選ばれる、
③ 外部専門家はアドバイザーとして特別委員会の外からアドバイスを行う、
④ 特別委員会を使用した場合の効果が判例法上明確になっている、
⑤ 判例法上、最終判断権限のない特別委員会には立証責任の転換等の効果が与えられないことが明確にされつつある、

といった特徴が挙げられることになります。

他方、日本では、
① 任意に設置された特別委員会に交渉権限や判断権限を委譲する法的根拠がない、
② 特別委員会の委員は取締役会の外からも広く選ばれている、
③ 外部専門家が委員そのものに就任することが多い、
④ 特別委員会を使用した場合の効果が判例法上明確にされていない、
⑤ 特別委員会の判断に拘束力を与えるべきケースが判例上明確になっていない、

という状況にあります。

次回のコラムでは、これらの違いに関して更に検討を続けてみたいと思います。


(*1) http://www.nobuosayama.com/ithink/archives/2005/06/index.html
(*2) 例えば、山田剛志・金融商事判例1219号8頁など。
(*3) Kahn v. Lynch Communications Systems, Inc., 638 A.2d 1110 (Del. 1994)
(*4) ”a special committee of the target's independent directors was empowered to negotiate and veto the merger”
(*5) Rabkin v. Olin Corp., C.A. No. 7547, 1990 WL 47648, Del. Ch.(1990)

独立取締役/特別委員会に関する議論について(その4)

さて、独立取締役とは、当該企業およびその親子会社またはそれらの経営陣との間で、自己または自己の近親者が特定の利害関係(雇用関係や取引関係など)を有していないことを指し、会社法が定める「社外取締役」の概念とは異なり、実質的に判断すべき部分が大きいものということで、概ね理解の一致が得られているように思います(*1)。その中でも、独立性の要件を厳格に規定する方向へ既に動いたのがエンロン事件を経験したアメリカであり、その辺りは議論が固まるまでもうしばらく様子を見ようというのが日本の現在の状況だと考えますが、社外取締役・社外監査役の独立性判断に関係する事実の存在(人間関係、資本関係、取引関係など)は、既に有価証券報告書の開示項目に含まれていますし、金融庁はNYSE型あるいはそれに近い形で独立取締役の要件を設定することを検討していると思われますので、日本において「独立取締役」という概念が定着するのも時間の問題だろうと感じます。このようにしてアメリカ型コーポレート・ガバナンスが留まることなく日本に流入してきているわけですが・・・、アメリカ型コーポレート・ガバナンスとは、少なくとも現時点においては「株主利益の飽くなき追求から導かれる合理的制度の数々」であり(判例や州法は必ずしもそうではありませんが、企業側の認識として。)、その結果、多くの投資家・企業・経営者が「高株価経営」というマジックワードに心を奪われています。「独立取締役」という制度一つを取り上げてみても、日本は、世界のキャピタル・マーケットを最大限有効活用したいと考えているステイクホルダーの存在を忘れることなく、「モノづくりと貯蓄」をベースに堅実な経済発展を遂げてきた国として、自らの適性をよく考えてベストな手法を導入しなければならないと感じさせられます。

「アメリカ型コーポレート・ガバナンスの輸入」といえば、2003年の商法特例法改正によって導入された委員会等設置会社(会社法下における現在の名称は「委員会設置会社」)です。当時は、商法特例法上の大会社のみが導入することができましたが、2006年に施行された会社法によって、定款に委員会を置く旨の定めを設けることで、その規模を問わず委員会設置会社を選択できることになりました。委員会設置会社には取締役会と執行役が置かれ、取締役会の中には指名委員会、監査委員会、報酬委員会という3つの委員会が設置されます(*2)。その一方で、監査役(監査役会)を設置することはできません。この仕組みはまさにアメリカの会社統治の仕組みと同じです。アメリカでは、SP500社(*3)の100%が監査委員会を設置し、報酬委員会は99%、指名委員会は88%程度設置されていると言われています。そして、いずれの委員会においても、独立取締役が80~90%超を占めています。日本もいずれ同じような状況になるのでしょうか。

日本では、アメリカと比べて経営者の労働市場が流動的でないため監督能力を有した社外取締役を数多く確保できるのかが危惧されており、また、執行役・委員・取締役の兼任が一部において認められていることから、業務の執行と監督が分離しきれていないという指摘もあります(つまり、取締役と独立した監査役を置く従来型の方が有効ではないかという議論)。更にアメリカの独立取締役と異なり、親会社や取引先の関係者など、執行役からの独立性が疑われる者も社外取締役の資格を満たすため、社外取締役による監視機能の実効性には疑問があるとの批判もあります。しかし、経営者市場が発達していないという点は時の経過を待つほかないとしても、残り2つの批判については、独立取締役の要件を明確に定め、NYSE規則のように監査委員会と報酬委員会は全委員が独立取締役でなければならないと定めることによって、あるいは、ドイツのように執行役と取締役は兼任することができないと制度変更することによって解決することが出来ます。したがって、これまでの経緯を観察する限り、今後の日本は、上記のいずれかの方向に流れていくように思われます。今回の会社法制定によって、公開株式市場を利用しないような小さな会社に対する取扱いが定められた一方で、会社の規模に関係なく委員会設置型を選べるようになりました。この変更は、少なくとも市場で株式を流通させる公開会社についてはアメリカ型企業統治体制を浸透させるステップの第一歩になる可能性があると考えています。

話題が逸れてしまいましたが、独立委員会の構成、効用などについては、次回のコラムで改めて述べたいと思います。


(*1) <平成17年5月27日付け「企業価値報告書」>は、以下のように述べています。
【独立性とは、防衛策の是非をチェックする社外取締役と社外監査役が、内部取締役の保身行動を厳しく監視できる実態を兼ね備えるために要求される概念であり、会社との実質的な独立性が要請される。例えば、主要取引先、顧問アドバイザー、メインバンク等の債権者、親族、元従業員などは、防衛策を監視する「独立社外者」として適正か否かについて、その実態を慎重に精査し、株主の納得と理解が得られるものでなければならない。
独立性の議論は、制度としては試行錯誤を続けている状況だが、要は、取締役の保身行動を厳しく監視できる実態を兼ね備えていることが重要であり、会社との実質的な独立性が最も問われることとなる。防衛策の是非をチェックする第三者のあり方について、社外取締役と社外監査役を軸に、独立性を確保するような自主的な工夫が必要である。例えば、取締役会に占める社外取締役の割合が少ない場合、独立性のある社外取締役や社外監査役の意見が十分反映され得る企業統治委員会を組織し、有事においては、買収防衛策の発動について、この委員会の勧告を尊重するといった工夫が必要となる。
今後は、こうした各企業独自の工夫に加えて、第三者の要件についてルール化の検討も急がねばならない。】
(*2) 各委員会の決定は拘束力を持ち、委員会を構成する取締役の過半数は社外取締役でなければならないとされています。しかし、取締役と執行役の兼任は許されていますので(会社法402条6項。これはアメリカでも同様。)、執行役が委員を選解任する取締役会のメンバーの多数を占め、かつ、監査委員会を除いて(400条3項)、委員会の中にも50%未満であれば執行役が入り込むことができます。この点、アメリカのNYSE規則は、監査委員会と報酬委員会は全委員が独立取締役でなければならないと定めていますので、日本の委員会では、独立性が徹底されていないことが分かります。
(*3) Standard & Poor's 500 Stock Indexに含まれる500社

独立取締役/特別委員会に関する議論について(その3)

前回はNYSEが定める「独立性」テストについて紹介しましたが、アメリカにおける「独立性」の基準がNYSEのマニュアルに記載されている一種類しか存在しないわけではありません。例えば、<NASDAQマニュアル>のRule 4200では、「過去3年間」「10万ドルの報酬」といった数値はNYSEマニュアルと同様ですが、「会社の売上の2%または100万ドル以上の大口取引先の従業員ではないこと」というNYSE基準については異なる数値が設定されています。また、判例の中には、取締役が報酬を受領していた点を問題にするもの(Kranser v. Moffett 826 A.2d 277 (Del. Supr., 2003))、取締役が受ける非金銭的利益や交友関係・社会的関係にも注目するもの(In re Oracle Corp. Derivative Litigation, 824 A.2d 917 (Del. Ch.2003))などがあり、裁判所が多くの要素を考慮して「独立性」に関する実質的な判断を行っていることが分かります。

これに対して、日本における議論の状況はどうでしょうか。最近の日本では、「敵対的買収時における独立取締役の役割」と「MBOにおける独立取締役の役割」という2つのトピックの中で独立取締役の議論が展開されることが多いため、この2つに関して順番に書いていきたいと思います。

1. 敵対的買収時における独立取締役

経産省と法務省は、平成17年5月27日付け<「買収防衛策指針」>の中で、

(独立社外者の判断の重視)
「買収の開始後に買収防衛策としての新株予約権等を消却するかどうかの判断は、その対象が高度な経営事項を含む可能性がある一方で、内部取締役の保身行動に左右されるという特徴を有する。したがって、会社の経営事項を理解できる社外者が、株主には入手困難な企業秘密等の情報も入手した上で、買収提案等を評価することには合理性がある。さらに、内部取締役の保身行動を厳しく監視できる実態を備えた独立性の高い社外取締役や社外監査役(独立社外者)の判断を重視するよう設計しておけば、株主や投資家に対し、取締役会の判断の公正さに対する信頼を生じさせる効果があり 、こうした社外者と会社との間の独立性が高まるほど、その効果はより向上する。
このため、買収防衛策は、消却条件の客観性の度合いに応じて、社外者あるいは独立社外者の関与の度合いを高める工夫が必要となる。特に、客観的な消却条項を設けない場合には、原則として、取締役会の恣意的判断を排除するために、独立社外者の判断を重視する仕組みが必要となる。」
(13頁)

と述べた上で、

「独立性とは、買収防衛策の是非をチェックする社外取締役と社外監査役が、内部取締役の保身行動を厳しく監視できる実態を兼ね備えるために要求される概念であり、会社からの実質的な独立性が要請される。買収防衛策を監視する「独立社外者」として適正か否かについては、その実態を慎重に精査し、防衛策の内容に応じて、株主の納得と理解が得られるものでなければならない。また、独立社外取締役や独立社外監査役の割合が少ない場合には、その数を増やす努力や、独立社外取締役や独立社外監査役から構成される企業統治委員会を組織し、有事においては、買収防衛策の発動について、この委員会が取締役会に勧告するといった工夫が必要となる。」

としています。すなわち、「意思決定の中立性」が大事であるとの理解の下で独立社外者の関与ないし独立第三者委員会の設置を要求し、ただ、独立性の有無や程度については、「会社からの実質的な独立性が要請される」として、アメリカ同様、実質的判断によってケース・バイ・ケースに確定していこうとする基本姿勢を示しています。

2. MBOにおける独立取締役

続いて、MBOに関しては、企業価値研究会による平成19年8月2日付け<「報告書」>と、経産省による平成19年9月4日付け<「指針」>が存在しますが、内容はほぼ同じですので、「指針」(14頁)から関連箇所(「意思決定過程における恣意性の排除」)を抜粋しますと、

【意思決定において、不当に恣意的な判断がなされないように、意思決定のプロセスにおける工夫を行うことが考えられる。例えば、以下のような対応例が考えられ、実際の案件に応じてこれらの対応を組み合わせる等して、意思決定のプロセスを工夫することが考えられる。

(社外役員が存在する場合には)当該役員、又は独立した第三者委員会等に対するMBO の是非及び条件についての諮問(又はこれらの者によるMBO を行う取締役との交渉)、及びその結果なされた判断の尊重
② 取締役及び監査役全員の承認(特別の利害関係を有する取締役を除く)
③ 意思決定方法に関し、弁護士・アドバイザー等による独立したアドバイスを取得すること及びその名称を明らかにすること
④ MBO において提示されている価格に関し、対象会社において、独立した第三者評価機関からの算定書等を取得すること】


とされており、「独立性」要件については、

「端的には、構造的な利益相反状態にあることによる不透明感を払拭するだけの、実質的に独立した監督能力・アドバイス能力等を備えている必要がある。かかる観点から、社外役員や第三者委員会の委員が有する会社との利害関係については十分に精査される必要があり、「独立性」の内容についても、対象会社から株主に対して十分な説明がなされる必要がある。」

と述べられています。よって、ここでも、独立性の要件は具体的に定められておらず、①経営陣から実質的に独立していること、②それを会社が十分説明すること、の2点が挙げられているに留まります。

このように、日本においては、「独立性」の要件を明確化しようという動きが一部あるものの(*2)、具体的な基準が定立される段階には至っておらず、裁判例も乏しいため(独立委員会が絡んだ裁判はありますが、「独立性」が正面から論点になっていない)、参考にできる前例が存在しない状態にあります。

しかし、具体的要件が提示されていないとしても、経産省・法務省が「独立取締役」「特別委員会(*1)」の利用を推奨しているわけですから、日本で近年流行している事前警告型買収防衛策においては特別委員会の利用が当たり前のような雰囲気になっています(*3)。独立委員会の構成、効用、アメリカとの比較などについては、次回のコラムで述べたいと思います。

(*1) 名称としては、「特別委員会」のほかにも、「独立委員会」「第三者委員会」「企業価値評価委員会」などが利用されています。
(*2)  山田剛志「「独立取締役」が企業経営に果たす役割」(ビジネス法務2005.7、53頁)など。
(*3) 例として、TBSは楽天からの買収提案に関して、企業価値評価特別委員会に防衛策発動の是非に関する勧告を諮問しました。また、北越製紙は王子製紙からの買収提案に関し独立委員会を招集した結果、防衛策発動勧告が発せられました。

独立取締役/特別委員会に関する議論について(その2)

前回に引き続き、NYSEの上場会社マニュアルが定める取締役の「独立性」基準について紹介したいと思います。なお、米国では、エンロン社の破綻後にSOX法が定められ、証券取引所が上場企業に対して独立取締役の過半数採用を義務化したため、現在、大企業においては、かかる独立取締役が取締役の約8割を占めていると言われています。この点からも、米国のコーポレート弁護士が頻繁に参照しているNYSEのマニュアル基準を知っておくことは有用だと考えます。

マニュアルの303A.02 Independence Tests(独立性テスト)は、総論として、

(a) No director qualifies as "independent" unless the board of directors affirmatively determines that the director has no material relationship with the listed company (either directly or as a partner, shareholder or officer of an organization that has a relationship with the company). Companies must identify which directors are independent and disclose the basis for that determination.
((a) 取締役は、当該取締役が上場会社と重要な関係(*1)を(直接に、または当該企業と関係を有する組織のパートナー、株主もしくは業務執行者として)有していないことが取締役会によって判断されない限り、「独立」しているということはできない。会社は、取締役のうちの誰が独立取締役であるかを特定し、その判断の根拠を公表しなければならない。)

と定めた上で、(b)項以下で、以下の取締役は独立性を有しないと定めています(英文は省略します)。

(i) 現在もしくは過去3年間の間に当該上場会社(*2)の従業員であった者、または近親者(*3)が現在もしくは過去3年間の間に当該上場会社の業務執行者(executive officer) であった者
(ii) 当該取締役または近親者が、過去3年間におけるある12ヶ月の期間内に、取締役または委員会のメンバーとしての報酬および年金その他の形式の従前の業務遂行に対する対価としての繰延給与 (但し、かかる報酬は、継続的な業務を提供することを条件としたものであってはならない) を除いて、10万ドル超の報酬を当該上場会社から受け取っている者
(iii)
(A) 当該取締役またはその近親者が、当該上場会社の内部監査人または外部監査人である事務所のパートナーである者
(B) かかる事務所の従業員である取締役
(C) かかる事務所の従業員であって、かかる事務所の監査業務、保証業務または税務コンプライアンス業務(タックスプラニングを除く)に従事している近親者を有する取締役
(D) 当該取締役またはその近親者が(現在はパートナー又は従業員ではない場合であっても)、過去3年間の間に、当該事務所のパートナーまたは従業員であり、その時に当該上場会社に関する業務に直接従事していた者
(iV) 当該取締役またはその近親者が、現在もしくは過去3年間の間に、当該上場会社の現在の業務執行者がその期間に報酬委員会に所属していたことがある会社において、業務執行者として雇用されている者もしくは雇用されていた者
(v) 過去3年間の会計年度の間に、100万ドルもしくはその会社の連結総収入の2%を超える額について、当該上場会社に対して資産またはサービスに対する支払を行い、または当該上場会社から支払を受けている会社の現在の従業員である取締役、または近親者がかかる会社の現在の業務執行者である者


細部を省略して概要をまとめると、

① 現在および過去3年間、会社との雇用関係がないこと、
② 現在および過去3年間、本人または家族が会社から10万ドル以上の報酬を受け取っていないこと、
③ 本人および家族が会社の監査関係者ではないこと、
④ 会社の売上の2%または100万ドル以上の大口取引先の従業員ではないこと、


がNYSEが定める独立取締役の要件ということになります。これについて、企業価値研究会は、「基本的には、取引関係者、外部アドバイザー、親族関係者は独立とみなされない点で日本の社外の概念より厳しいが、過去に会社と雇用関係にあった者のうち、離職後3年経っていて金銭的関係がない者の場合は独立の概念に合致するとされている点は日本の社外の概念よりも広い」と述べています(<平成17年5月27日付け企業価値報告書>94頁)。

さて、そうすると日本における「社外取締役」の意義が問題となりますが、日本では、会社法によって「社外取締役」という類型が設けられています(*4)。
会作法373条1項2号によると、社外取締役になるためには、

① 現在、その会社または子会社の業務執行取締役・執行役・使用人でなく、かつ、
② 過去に、その会社または子会社の業務執行取締役・執行役・使用人となったことがないこと

が必要です。

このように日米の「独立取締役」「社外取締役」の定義を並べると、確かに、企業価値研究会が述べているような比較検討ができるようにも見えます。しかし、そもそも日本の会社法が定める「社外」性と、アメリカで発達した「独立」性の概念は重なる部分はありますが、同じものではありません。後者は前者よりもかなり実質的な判断を要求する基準です。
また、歴史的経緯を見ると、日本は、アメリカ型コーポレート・ガバナンス体制への移行を求めるアメリカから、NYSEレベルの独立性基準を採用するよう強く求められてきたわけですが(*5)、私見では、日本では未だ独立取締役市場が充実しておらず、会社と利害関係を有しないいわば部外者が会社に入ってくることを好まない風土も残っているため(これは、「株主利益の最大化は、経営陣を有効に監視できる外部の第三者でなければ実現できない」と考える近年のアメリカ型発想が根付いていないことによると思われます。)、アメリカほどの詳細で厳格な独立性基準を導入するに至っておらず、とりあえず形式的な社外性基準を置いて実務での議論の進展を待っている状況にあるのではないかと考えます。

実際に、東京証券取引所が「有価証券上場規程」等の一部改正を行った平成17年末に、「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」に独立取締役(監査役)に関する報告事項を盛り込むかどうかを巡って、以下のようなやりとりがありました(<パブリック・コメント>における議論)。

パブリック・コメント
「独立取締役(監査役)」という新たな概念を盛り込むことには反対であり、これについては社外取締役・社外監査役に関する従来の開示等で充分である。」
「現在、独立性についての概念は曖昧であり、コンセンサスが得られているわけでない。議論が未成熟なまま、「独立」か否かについて、各社が主観的に判断・開示することになれば、むしろ、投資家の混乱を招くおそれや投資家をミスリードする可能性がある。まずは、実証分析を行った上で、開示の必要性の有無について検討すべきであり、一律に記載を強制するのは、時期尚早である。各社の自主的な判断に応じて、「社外の人材の活用」について自由に記載できる仕組みとし、「独立取締役」等の定義付けが困難な項目は削除すべきである。」

東証の回答
「企業不祥事の防止などに当たっては、一般の株主の利益を代表する独立した社外の人材による経営に対するチェックが、ガバナンス上有効に機能することが期待できるため、我が国における経営の外部チェックを担う社外取締役・社外監査役のいずれについても、一定の独立性があることが有用であると考えます。
一方で、ご指摘のとおり、独立性については各方面で多様な議論がなされている最中であることから、今回は、形式的な定義を定めることは考えておりませんが、投資家の関心も高いと考えられることから、従来開示していただいている社外取締役・社外監査役と当該会社との関係に加え、当該関係の人材を採用している理由等を説明していただく中で、各社が実際にその社外性を十分に活用しているか、独立性についてどのように認識しているのかについて明らかにしていただくこととします。これにより、企業経営の実態と有機した形で独立性についての議論が一層深まるものと考えられますし、経営者自身にあらためて自社の経営監視機能について熟慮していただく契機になるものと考えます。」

上記の議論を見ると、東証が用いている「一般の株主の利益を代表する独立した社外の人材による経営に対するチェック」というのはまさにアメリカ型コーポレート・ガバナンス体制を意味しており、これに対して産業界の一部からは反対または躊躇する意見が出ていることが分かります。日本では、会社法において「社外」の概念を定めているに過ぎず、独立取締役に関する議論も始まったばかりですので、現在の混沌とした状況は当然と感じます。

アメリカでも実は1950年頃には独立取締役は全体の20%を占めているに過ぎませんでした。それが2005年には75%まで増加したわけですが、さて、日本はアメリカがこの50年間に歩んできた道を同じように歩むのか・・・もし歩むのであれば、アメリカでこの50年間に発生した多くのトラブルやそれを解決するために編み出された工夫についても学ばなければならないでしょう。

いずれにしても、この独立取締役の問題は、コーポレート・ガバナンスを考えるに当たって極めて重要なテーマですので、次回のコラムで更に詳細に検討してみたいと思います。


(*1)取締役と上場会社の関係の重要性を評価する際には、当該取締役が関係を有している個人又は組織からの独立性についてもチェックされます。ここでいう「重要な関係」とは、商業、産業、銀行、コンサルティング、法律、会計、慈善、親族その他の関係を含みうるとされていますが、株式保有は、独立性の障害とは見なさないとされています。また、取締役の独立性について、会社は毎年の委任状説明書(proxy statement)または年次報告書(10-K)に明記しなければなりません。
(*2) 「会社」とは、当該会社の属する連結集団における全ての親会社および子会社を含みます。
(*3) 「近親者」とは、当該人の配偶者、親、子、兄弟姉妹、法律上の父・母、法律上の息子・娘及び法律上の兄弟姉妹、並びにかかる人と住居を同じくしている全ての人 (家事奉公人を除く) を含みます。
(*4) 社外取締役は、会社に対する責任について通常の取締役とは異なる扱いを受け(会社法427条1項)、また、取締役設置会社において、取締役会が会社法362条4項1号・2号に掲げる事項の決定を特別取締役(373条)の決議に委ねるためには、社外取締役を選任しなければなりません。なお、取締役の数が6人以上でうち1人以上が社外取締役である株式会社においては、本来取締役会の決議事項とされる、重要財産の処分及び譲り受けと多額の借財(362条4項1号2号)について、あらかじめ選定した3名以上の取締役の過半数の賛成で決議することができますが、この選定された取締役のことを特別取締役といいます。
(*5) http://japan.usembassy.gov/j/p/tpj-j098.html

独立取締役/特別委員会に関する議論について(その1)

今回からしばらく、米国では第4期M&Aブームが発生した1980年代から問題となり、日本でもここ数年注目を集め始めた「独立取締役」の意義や効果に焦点を当てて、買収防衛策導入やMBOの場面でよく耳にするようになった「特別委員会」に関する昨今の議論も含めて、日米の状況を整理していきたいと思います。

まずは、1985年の有名なUnocal判決(*1)についておさらいをします。
石油大手のUnocal社を、1回目は現金、2回目はジャンクボンドで支払うとする二段階強圧的TOBによって買収しようとしたMesa社が、Unocal社が採った防衛策(Mesa社を除く全株主を対象とする自社株のTOB)の適法性を争い、その差止めを求めたこの事件において、デラウエア州の最高裁判所(*2)は、買収防衛策を導入する場合には、取締役会が会社や株主の利益よりも自己の利益のために行動するおそれがあるため、取締役会の判断を尊重するBusiness Judgment Ruleではなく、より厳しい基準(Enhanced Scrutiny Testと呼ばれ、立証責任を取締役側が負う。)が妥当すると述べた上で(*3)、

① 会社の政策や効率性に対する脅威が迫っていると信じる合理的な根拠があり(*4)、
② 採られた防衛策が生じた脅威との関係で合理的であったこと(*5)

を取締役が立証することを要求し、更に、①については、「利害関係のない独立した取締役が多数を占める取締役会が承認した事実があれば、立証が相当程度強化される」と述べました(本件ではUnocal社が勝訴しましたが、同社の取締役会のメンバー14名のうち8名が独立社外取締役であったこともこの結論に影響を与えたと考えます。)。すなわち、「会社の経営方針や効率性に対する脅威」が迫っているかどうかを取締役が判断するに当たっては、取締役は合理的な調査を行い、誠実に(in good faith)検討しなければなりません。その場面で、自己の利益を重視して、当該提案は会社にとって脅威だと主張することは許されないわけです。しかし、取締役が自己の利益を重視したのか、会社や株主の利益を重視したのかは主観による部分が大きく、外から見て判断することは困難です。そこで、「利害関係のない独立した取締役が多数を占める取締役会」が判断した場合には、類型的に、「会社の経営方針や効率性に対する脅威」の存在が客観的に判断された可能性が高いと言うことによって、取締役の恣意的判断を減らそうとしたものだと考えられます。このように、米国ではプロセスの慎重性・中立性が既に20年以上前から重視されており、このUnocal判決によって、独立取締役を多数選任しようとする動きが活発化しました。

また、<ALI>(The American Law Institute、米国法律協会)は、有事の買収防衛策発動を認める条件として、上記ユノカル基準同様、「防衛策がTOBに対する合理的対応でなければならない」としていますが、前提として、「利害関係のない独立した取締役が構成する特別委員会」が防衛策の内容を決定しなければならないとしています。

さて、総論の次は、いかなる者であれば「独立取締役」といえるかが問題です。この点、アメリカでは、SOX法(サーベンス・オクスリー法: Sarbanes-Oxley Act of 2002)、SEC規則、NYSE規則、NASDAQ規則などにおいて独立性の概念が規定されています。例えば、<NYSE(ニューヨーク証券取引所)のウェブサイト>へ行き、”NYSE Regulation”⇒”Listed Companies”⇒”Listed Company Manual”と進みますと、NYSEの<上場会社規則>に到達できます。ここのSection 303A(Corporate Governance Standards)に独立取締役の定義や判断基準が書かれてあります。最初の303A.01には、

Listed companies must have a majority of independent directors.

とあり、上場企業の取締役の過半数は独立取締役(independent directors)でなければならないと定めています。
303A.02以降は、独立性の判断基準ですが、ここは少し長くなりますので、次回のコラムで述べたいと思います。


(*1) Unocal v. Mesa Petroleum Co., 493 A.2d. 946 (Del. 1985))、日本語による解説としては、「M&A判例の分析と展開」(経済法令研究会)246頁など。
(*2) 米国においては、公開企業の50%以上、Fortune500企業の約60%がデラウエア州で設立されており、裁判の数も多いため、会社法やM&Aの論点に関するデラウエア州裁判所の判断は、米国での実務に多大な影響を与えています。
(*3) Unocal判決が出るまでは、防衛策の適法性判断にはBusiness Judgment Ruleが用いられていました。
(*4) Reasonableness Test: Satisfied by demonstration that the board of directors had reasonable grounds for believing that a danger or threat to corporate policy and effectiveness existed
(*5) Proportionality Test: Satisfied by a demonstration that the board of directors’ defensive response was reasonable and proportional in relation to the threat posed

Termination Fee条項について(その2)~Reverse Break-Up Fee条項~

Termination Fee条項の典型例は、ターゲット会社が他の買主候補に目移りした結果、当初の買主候補との契約を撤回するために払う「ターゲット会社からの手切れ金」ですが、アメリカの実務では、3年ほど前からReverse Break-Up Fee条項と呼ばれる、「買主からの手切れ金」条項が目立つようになりました。

プライベート・エクイティ・スポンサーによるM&A案件を例に説明しますと、もともと、プライベート・エクイティ・スポンサーが関与するM&A案件においては、スポンサー側が契約上の責任を負うストラクチャーは稀でした。ターゲット会社と契約を締結する買収会社(Acquisition Vehicle)は、プライベート・エクイティ・ファンドが設立するShell Entity(受け皿会社、抜け殻会社)であるのが通常で、そのShell Entityがファンドから出資を受けるわけですが(そのときに締結するのがEquity Commitment Letter)、ターゲット会社はCommitment Letterの当事者にはならないため、仮に出資がなされない事態が発生しても、ターゲット会社がプライベート・エクイティ・スポンサーに対して直接出資の履行を求めたり損害賠償請求を行うことはできませんでした。また、M&A契約は、通常、Financing Outと呼ばれる条項を含んでいます。これは、買主側は通常買収のために借入れも起こしますが(そのときに締結するのがDebt Commitment Letter)、その借入れが実行されない限り、買主は買収を完了させる義務を負わず、プライベート・エクイティ・スポンサーもEquity Commitment Letterに定められた出資義務を履行しなくてもよいとするものです。よって、ターゲット会社は、通常、プライベート・エクイティ・スポンサーの評判とか信頼関係といった法的に依拠できないものに頼って契約せざるを得ませんでした。

しかし、例えば、オークション(入札)によって特定の買主を選択した後になって、その買主候補が去り、その時点では他の買主候補も興味を示さなくなっていたようなケースでは、当初の買主候補に去られることによってターゲット会社に損失が発生することも考えられます。買われる方のターゲット会社もやはりリスクを負っているわけです。そこで、ここ数年、M&A契約においてReverse Break-Up Feeを負担することに同意するプライベート・エクイティ・スポンサーが増えてきました。

Reverse Break-Up Fee条項を契約書に入れる場合でも、前述のFinancing Out条項を入れるパターンと入れないパターンがあります。スポンサー側、買主側から見れば、何らかの理由で予定していた貸付を受けられない場合に、その背景事情の如何を問わず常にReverse Break-Up Feeを支払う義務を負うというのはいかにもリスクがあります。しかし、例えば、Neiman Marcus Group Inc.をWarburg Pincus & Co.とTexas Pacific Groupが買収した案件(2005年5月)では、1億4000万ドル(エクイティ・バリューの2.7%)のReverse Break-Up Feeが定められていながら、このReverse Break-Up Feeの支払義務は、たとえ必要な買収資金の借入れが得られない場合でも免除されないと合意されていました。すなわち、Financing Out条項が存在しなかったのです。アドバイスをする弁護士としては、このようなストラクチャーは非常にリスクが高いと言いたくなりますが、昨今のプライベート・エクイティ投資ブームの中では、取引を成立させるためにこのような手法も採用されていたのが現実です。

また、同じReverse Break-Up Fee条項でも、プライベート・エクイティ・ファンドがReverse Break-Up Feeを支払う義務を直接負担する形式の契約と、プライベート・エクイティ・ファンドがサインするEquity Commitment Letterにおいて、ファンドがReverse Break-Up Feeの支払いを保証する形式の契約が存在します。

Reverse Break-Up Fee条項は、サブプライムローンに関連して世界のマーケットが混乱し始めた昨年の中頃から、「スポンサーや買主がディールから撤退するための道具」としてにわかに注目を集め始め、アメリカでは、いわゆるMAC条項(Material Adverse Change Clause)/MAE条項(Material Adverse Effect Clause)の解釈とも絡んで、昨年から複数のM&A案件が裁判所に持ち込まれています(*1)。大変興味深い問題ですので、これについては、次回以降のコラムで紹介していきたいと思います。


(*1) United Rentals, Inc. v. RAM Holdings, Inc. , Civil Action NO. 3360-CC (Del. Ch. Ct. Dec. 13, 2007)等

Termination Fee条項について(その1)

Termination Fee条項は、Break-Up Fee条項ともいわれ、M&A契約においては今やすっかりお馴染みの条項となりました。いずれも、本契約締結後に競合する買主候補が現れた場合に、対象会社の取締役会が後発の競合提案の方が自社の株主の利益になると判断したときには従前の契約を解除できるが、その代わり当初買主候補に対して契約上決められた金額、すなわちTermination Fee/Break-Up Feeを支払わなければならないとするものです(*1)。

例えば、少し古い例(2005年)になりますが、Guidant Corp.の獲得を巡り、Johnson & JohnsonとBoston Scientific Corp.が買収合戦を繰り広げた結果、最終的にGuidant がJohnson & Johnson との契約を破棄してBoston Scientificによる買収を受け入れた際に、Guidant はJohnson & Johnsonに対して7億500万ドルのTermination Fee条項を支払いました(買収金額は250億ドル)。また、Procter & GambleがGilletteを5490億ドルで買収した際の契約書には、19億2000万ドルのTermination Fee条項が入っていました。

Termination Fee条項は、No-Shop条項やMatching-Right条項と同じく、取引保護措置の一つです。すなわち、当初の契約をターゲット会社の方から撤回すればターゲット会社が一定額の損失を被るという合意を締結しておくことにより、他の買主候補が介入してくる事態を一定程度防ぐことができます。しかし、取引保護措置がときにターゲット会社の株主の利益に反する可能性があることについては、<取引保護措置とは?(その2)>でも述べたとおりで、あまりに多額のTermination Fee条項についてはその適法性が問題視されます。現に、Toys”R”Us(トイザラス)の買収案件(買収金額66億ドル)では、3.75%のTermination Fee条項が設定されていましたが、これに対して株主が、株主の利益を害するものであると主張して提訴しました。これに対して、デラウエア州衡平裁判所は、「仮にTermination Feeの率が2.5%であったとしても、一株当たりに引き直せば0.33ドルにしか過ぎない」と述べて、適法の見解を示しました(2005年6月)。実務界では、3~4%が適正範囲だと言われていますが、この範囲に関してはToys”R”Us判決も影響していると考えます。

英文契約書におけるTermination Fee条項の具体的定め方については、Termination Fee条項の中で他の条項を参照する構造になるのが通常であるため、シンプルな具体例を挙げるのが難しいのですが、必要なときに研究できるように、合併契約書全体が見られるリンク付きで、Termination Fee条項を下に抜き出しておきたいと思います。これは、2008年2月26日に締結された<CollaGenex Pharmaceuticals, Inc.と Galderma S.A.間の合併契約書>で、やはりSECへの報告書(8-K)にて開示されているものです。

SECTION 7.3 Termination Fees.
(a) In the event that this Agreement is terminated by Parent pursuant to Section 7.1(c)(ii) or the Company pursuant to Section 7.1(d)(ii), then the Company shall pay to Parent, no later than the second (2nd) Business Day following termination in the case of Section 7.1(c)(ii) and concurrently with termination in the case of Section 7.1(d)(ii), by wire transfer of same-day funds (i) a termination fee of $12,600,000 (the "Termination Fee") and (ii) all out-of-pocket expenses, actually documented and incurred or payable by or on behalf of Parent or Purchaser in connection with or in anticipation of the Transactions (whether before or after the date of this Agreement), including all attorneys' fees, financial advisor's fees, accountants' fees and filing fees (the "Expense Payment"); provided that in no circumstance shall the Expense Payment exceed $1,000,000 in the aggregate.
(b) In the event that (i) Parent or the Company shall terminate this Agreement pursuant to Section 7.1(b)(iii), or Parent shall terminate this Agreement pursuant to Section 7.1(c)(i) as a result of a breach of Section 5.2, and (ii) in each case prior to the time of such termination a bona fide Takeover Proposal or an intention (whether or not conditional) to make a Takeover Proposal has been publicly made or otherwise made known to the Company Board or generally to the Company Stockholders and not withdrawn at least five (5) Business Days prior to termination, and (iii) if, within 12 months after the date of such termination, a definitive agreement is entered into by the Company or any of its Affiliates with respect to any Takeover Proposal or any Takeover Proposal is consummated, then the Company shall pay to Parent, on the date such agreement is entered into or on the date that such Takeover Proposal is consummated, whichever is earlier, by wire transfer of same-day funds, an amount equal to the Termination Fee and the Expense Payment; provided, however, that for the purpose of this Section 7.3(b), all references in the definition of Takeover Proposal to "25%" shall instead be deemed to refer to "a majority".
(c) Each of the Company and Parent acknowledges that the agreements contained in this Section 7.3 are an integral part of the Transactions and that, without these agreements, Parent would not enter into this Agreement. Accordingly, in the event that the Company shall fail to pay the Termination Fee or Expense Payment when due, the Company shall reimburse Parent for all costs and expenses incurred or accrued by it (including reasonable fees and expenses of counsel) in connection with the collection under and enforcement of this Section 7.3 with interest on the amount of the Termination Fee and/or Expense Payment, as the case may be, from the date that such payment was required to be made until the date of actual payment at the prime rate of Citibank, N.A., in effect on the date that such payment was required to be made.


(*1) 対象会社が補填すべき対象として、当初買主候補がそれまでに支出した弁護士費用等の経費まで含まれるとするものと、それらの経費は含まれないとするものが存在します。

M&Aと独禁法(その7)(日本の場合-事前相談制度)

合併等のM&A案件について検討を開始した場合、当事会社及び弁護士は、その計画が独禁法第4章の各規定に照らして問題がないかどうかをチェックしますが、いざ公正取引委員会に対して届出を行い、その後になって排除措置命令や審判請求といった手続を経ることになれば、M&Aのスケジュールは大幅に遅れ、最悪のケースでは当事者双方が多額の費用を掛けて契約にまで至ったにもかかわらず、結局クロージングを迎えることができなかったということも考えられます。そこで、現在では、公取委に対して事前相談を行うのが通常であり、公取委側もそのニーズに対応し審査の手順を透明化するために、<企業結合計画に関する事前相談に対する対応方針>という方針を公表しています(平成19年3月28日最終改定)。

手続としては、原則として、事前相談の申し出があった日から20日以内第1次審査が始まり、特段の問題が見当たらなければ審査開始日から30日以内にその旨通知されます。第1次審査の結果、独禁法上の問題が考えられるという場合には、第2次審査に進みます。第2次審査に進むと、公取委は相談内容を公表し、関係者からの意見を募集しますので、それを前提に報道発表の準備などを行う必要があります。第2次審査においては、企業側が必要な資料を提出した日から原則として90日以内に、結果の通知がなされます。

ところで、平成19年3月28日付けで公表された新「方針」における改正点は、3点ありました。

1点目は、審査手続の迅速化です。これまでの事前相談については、企業結合計画の具体的内容を示す資料が提出された時点から30日以内に回答がもらえることになっていたものの、具体的内容を示す資料の内容はケース・バイ・ケースで、資料を出しても公取委から追加資料を要求される限り最終回答がもらえず、スケジュールに悪影響を与える可能性が払拭できませんでした。
今回の改正で、公取委は、「事前相談の申出があった場合、審査の開始に必要な追加資料の有無を検討し、当該企業結合計画の具体的内容を示す資料が提出された日から原則として20日以内に、追加資料が必要ないと判断した場合にはその旨を通知する一方、追加資料が必要と判断した場合には追加資料リストを書面で提示する。」と明記しましたので、スケジュールが立てやすくなりました。

改正の2点目は、「企業結合計画の概要を示すものとして提出が必須の資料」と企業側が任意に提出できる資料が区別され、任意提出資料については例示されたことです。これにより、企業にとっては資料の収集と整理がしやすくなりました。

3点目は、「当事会社は、事前相談の申出時に限らず、当委員会の審査中のどの時点においても、提出すべきと考える資料・意見書等がある場合にはそれらを提出することができる。」とされたことです。これによって、企業側も十分な反論の機会が与えられます。

ところで、事前相談に持ち込んだものの、統合後の市場シェアが50%を超えるようなM&A計画のケースでは、何らかの問題解消措置を採らなければ企業結合が認められないことが多いのが実情です。例えば、JALとJASの持株会社による事業統合のケースでは、統合後のシェアが50%を超えるにも拘らず、公取委が事前相談に対して「競争が実質的に制限されることとはならない」と回答しましたが、これは、企業側が問題解消措置として、
① 羽田発着枠の返上、空港施設の提供、航空機整備面での協力など新規参入を促進する措置をとる、
② 普通運賃を10%引き下げ、3年間は値上げしない、
③ 統合により単独となる路線に関して割引運賃を設定する
といった問題解消措置を申し出たからでした。そのほかにも、シェアが50%を超えることになる企業結合が認められたケースは少なからずありますので、それらについては別の機会に紹介したいと思います。

M&Aと独禁法(その6)(日本の場合-「競争の実質的制限」の認定プロセス(下))

1992年に米国司法省とFTCが共同で公表した<水平合併ガイドライン(Horizontal Merger Guidelines)>においては、いわゆるHHI(Herfindahl-Hirschman Index)を基準にしたセーフハーバーが設定されています(Section 1.51)。HHIとは、欧米で市場の集中の度合いを検討するために広く用いられている「市場の寡占度を数値化した寡占度指数」のことで、市場参加事業者のシェアの2乗の総和によって算出されます。
例えば、問題となる市場に3社しか存在せず、それぞれの市場シェアが40%、30%、30%の場合、
40×40+30×30+30×30=3400となり、HHIはかなり大きくなります。HHIの最高値は、市場に独占企業1社しか存在しない場合で、100×100=10000となります。逆に、市場シェア1%の企業が100社存在するケースでは、1×1×100=100で、HHIは100しかありません。

米国では、水平合併に関し、
① 「統合後のHHI が1000未満」、
② 「統合後のHHI が1000以上1800以下で、HHI の増加が100未満」、または、
③ 「統合後のHHI が1800超で、HHI の増加が50未満」

であれば、審査なくして合併することが認められています。このレベルの取引であれば、競争の実質的制限につながるとは通常考えられないというのがその理由です。

この点、日本では、新企業結合ガイドライン(*1)によって、同じく水平合併について、
① 「統合後のHHI が1500以下」、
② 「統合後のHHI が15002500以下で、HHI の増加が250以下」、または、
③ 「統合後のHHI が2500超で、HHI の増加が150以下」
であれば実質的な審査は行わないこととされています(*2)。

ここで、「HHIの増加」とは、企業結合の前後でHHIがどれだけ増加したかを見るものです。
たとえば、問題となる市場に3社しか存在せず、それぞれの市場シェアが40%、30%、30%の場合に、前二者が合併すると、
(70×70+30×30)-(40×40+30×30+30×30)=2400
が「HHI増分」となります。よって、このケースはセーフハーバーには該当しません。
上記のケースは、合併後のシェアが70%になりますが、同じく合併後のシェアが70%になるケースでも、合併前の各シェアが60%と10%の企業が合併した場合のHHI増加分は、
(70×70+30×30)-(60×60+10×10+30×30)=1200
となり、「40%と30%」の合併の方が、「60%と10%」の合併よりHHI増加分が大きくなります。既に大きなシェアを持つ企業が小さい企業を合併しても競争への影響は限られるが、しのぎを削ってきた2大企業が合併すると競争制限によりつながりやすいという観察結果が、この「HHI増加分」に現れているのです。

なお、常に業界に存在する全事業者の市場シェア(*3)が把握できるわけではありません。その場合、
HHI=最上位企業の市場シェア(%)の2乗×0.75+上位3社累積市場シェア(%)×24.5-466.3
という計算式を用いて算出した推計値によって検討するとされています(ガイドライン20頁)。

日本のセーフハーバーは、欧米のセーフハーバーと比較すると、より広い範囲で無審査合併を認めるものであるといえます(欧州では、日本で1500、2500となっているHHIの数字がそれぞれ1000、2000)。これは、欧米においては、HHIが低くても協調的行動によって競争が阻害される可能性が高く、審査免除の範囲を広くすべきではないと考えているからだと思われます。いずれにしても、HHIを計算するための市場シェアは当事会社だけでは正確に計算できないこともあるので、実務上は、「事前相談」制度を利用して公取委と見解の擦り合わせを行う必要が出てきます。


(*1) 旧ガイドラインは、セーフハーバーとして、第1に企業結合後の当事会社グループの市場シェアが10%以下の場合、第2に市場構造が寡占的ではない場合であって、企業結合後の当事会社グループの市場シェアが25%以下の場合を挙げ、「市場構造が寡占的ではない場合」とは企業結合後においてHHIが1000未満の場合、「市場構造が高度に寡占的ではない場合」とは、企業結合後のHHIが1800未満の場合をいうと定義していました。
(*2) 公取委は、ガイドライン上、「上記の基準に該当しない場合であっても、直ちに競争を実質的に制限することとなるものではなく個々の事案ごとに判断されることとなるが、過去の事例に照らせば、企業結合後のHHIが2,500 以下であり、かつ、企業結合後の当事会社グループの市場シェアが35%以下の場合には、競争を実質的に制限することとなるおそれは小さいと通常考えられる。」としています。
また、垂直型・混合型企業結合の場合には、「市場シェアが10%以下」か「統合後のHHIが2500以下でかつ市場シェアが25%以下」であれば、セーフハーバーに該当するとしています。
(*3) 市場シェアは、一定の取引分野における商品の販売数量(製造販売業の場合)に占める各事業者の商品の販売数量の百分比によって求められます。ただし、当該商品にかなりの価格差がみられ、かつ、価額で供給実績等を算定するという慣行が定着していると認められる場合など、数量によることが適当でない場合には、販売金額により市場シェアを算出するとされています(ガイドライン19頁)。

M&Aと独禁法(その5)(日本の場合-「競争の実質的制限」の認定プロセス(上))

2.「競争の実質的制限」について

既に述べたように、独禁法は、①「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」と、②「不公正な取引方法によるものである場合」(優越的地位を濫用することにより株式を取得するケース等)に企業結合を禁止していますが、②の適用事例は極めて稀ですので、主に、①の「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」とはいかなる場合かが問題となります。

この論点について論じるときには必ず登場する古い判例があります。それは、東宝株式会社と株式会社新東宝間の映画配給に関する契約の独禁法違反が問題となった昭和28年12月7日東京高裁判決で、そこで裁判所は、「競争を実質的に制限するとは、競争自体が減少して、特定の事業者又は事業者集団がその意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することによって、市場を支配することができる状態をもたらすことをいう」と判示しました(*1)。しかし、これはあくまで大きな概念、抽象的な定義に過ぎず、具体的事案における実際の認定作業は詳細を極めます。

競争制限の判断にあたって最初に理解しておきたいのは、「水平的結合」と「垂直的結合」によって、判断枠組みが変わってくるということです。「水平的結合」とは、同一の一定の取引分野において競争関係にある会社間の企業結合をいい、「垂直的統合」とは、例えば、メーカーとその商品の販売業者との間の合併など取引段階を異にする会社間の企業結合をいいますが、アメリカでは、前者の水平的カルテル(価格協定、市場分割協定、入札談合、共同ボイコット等)は行為の外形から当然違法(per se illegal)とされているのに対し、後者の垂直的取引制限については、再販売価格維持行為は「再販売価格に関する共謀・協定」がある場合当然違法とされますが、その他の非価格制限については、基本的に合理の原則(rule of reason)に基づいて違法性が判断されています。これは、水平型の企業結合においては、一定の取引分野における競争単位の数を減少させるので、競争に与える影響が最も直接的であり、その結果、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる可能性が、垂直型企業結合に比べ高いからです。日本の公取委の審査においても、水平型にはついては、やはり垂直型よりも厳しく判断されています。

続いて、一定の取引分野における競争制限は、当事会社グループの「単独行動」によって発生する場合と、当事会社グループとその競争者が「協調的行動」を採ることによって発生する場合とに分けられます。例えば、再販売価格維持行為は、メーカーの一方的行為(安売り業者への供給停止等)によってなされることもあれば、メーカーと安売業者以外の販売業者が再販売価格維持協定を締結した上で行われることもあり、前者については取引先選択の自由の範囲内であり合法であるが、後者については違法という判断に到達することが十分ありえます。また、水平型企業結合のケースでは、市場内の競争者の数が減少することによって、各業者が互いの行動を高い確度で予測することができるようになり、他社の値上げに追従して自社も値上げするといった競争制限効果が発生することが考えられます。これは水平型における「協調的行動による競争の実質的制限」といわれるものです。

新企業結合ガイドラインも、上記のように、「水平型と垂直型(および混合型)」と「単独行動と協調的行動」に分類した上で、当該企業結合が競争を実質的に制限することとなるか否かを判断するに際し、以下のような項目を総合的に勘案すべきとしています(以下は「水平型」に関するものですが、「垂直型」「混合型」の場合もほぼ同様の判断要素が用いられます。)。

(単独行動)
・ 当事会社グループの地位及び競争者の状況(市場シェア及びその順位、当事会社間の従来の競争の状況等、共同出資会社の扱い、競争者のシェアとの格差、競争者の供給余力及び差別化の程度、国境を越えて地理的範囲が画定される商品の扱い)
・ 輸入(制度上の障壁の程度、輸入に係る輸送費用の程度や流通上の問題の有無、輸入品と当事会社グループの商品の代替性の程度、海外の供給可能性の程度)
・ 参入(制度上の参入障壁の程度、実態面での参入障壁の程度、参入者の商品と当事会社の商品の代替性の程度、参入可能性の程度)
・ 隣接市場からの競争圧力
・ 需要者からの競争圧力(需要者の間の競争状況、取引先変更の容易性)
・ 総合的な事業能力
・ 効率性
・ 当事会社グループの経営状況

(協調行動)
・ 当事会社グループの地位及び競争者の状況(競争者の数等、当事会社間の従来の競争の状況等、競争者の供給余力、共同出資会社の扱い)
・ 取引の実態等(取引条件等、需要動向、技術革新の動向等、過去の競争の状況)
・ 輸入、参入及び隣接市場からの競争圧力等
・ 効率性及び当事会社グループの経営状況

さて、これだけ多くの判断項目があると、判断者によって判断のブレが生じるおそれが生じ、当事会社から見た場合の予見可能性が失われることにもつながります。そこで、企業結合ガイドラインは、いわゆるHHIを利用したセーフハーバーを設定しました。このセーフハーバーについては、次回のコラムで紹介したいと思います。


(*1) 但し、企業結合は主として実行する前に審査されるものですので、実際に競争制限が発生したかどうかを認定することはできません。よって、「こととなる」という文言に注目し、「企業結合により、競争の実質的制限が必然ではないが容易に現出し得る状況がもたらされることで足りる」、すなわち、競争制限につながる蓋然性があれば足りると解釈されています。

M&Aと独禁法(その4)(日本の場合-市場画定のプロセス)

これまで主に手続について見てきましたが、独禁法で最も面白いのは、水平的カルテル(価格協定、市場分割協定、入札談合や共同ボイコット等)、垂直的取引制限(再販売価格維持行為等)、独占行為、企業結合等に関し実際に問題になった事例について、時間を掛けて順番に勉強していくことではないでしょうか(*1)。余談ですが、私が通っていたアメリカのロースクールでも、独禁法は「判例法のダイナミズム」を思う存分味わえる科目として人気を博しており、100個近い判例(米国での競争法の歴史は100年を超えます。)を教授と学生が一緒になって詳細に研究した独禁法の授業は、M&Aと同程度かそれ以上に興味深い科目でした。独禁法関係の事案分析においては、必ず「Marketの範囲」と「Competitionの抑制効果の有無」が問題になります。それらについて、具体的事実関係を目の前にして精査していくプロセスが面白いのです。

実際のビジネスの世界では、何とかして他社よりも利益を多く上げたいと願う企業があの手この手で「値下げ競争」が発生しないよう手段を講じるわけですが、ときにそれが「消費者にとって利益となる業者間の競争」を阻害してしまいます。将来、自社が利益を独占するために今のうちに他社をマーケットから排除したい → そのために、たとえ今は損が出ても他社は追随できないほどの安価で自社製品を売りさばく・・・これは略奪的価格設定のケースですが、その瞬間の「安い価格」だけを捉えれば消費者にプラスとなるような企業の行動であっても、長い目で見て将来の競争に悪影響を及ぼす場合は、適正な競争状態を維持するという観点からは許されないことになります。企業があの手この手で考え出した手法について、規制側もあらゆる観点から「競争への悪影響」がないかを判断するわけです。独禁法違反が問題となるケースは、自由競争を理由に利益追求に走る企業と、消費者保護を謳う規制側との戦いや駆け引きの場であり、それゆえやっている方も見ている方も真剣で面白いのだと思います。

さて、アメリカの独禁法と同じく、日本の独禁法も、「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる」企業結合を禁止しています。ここで問題となるのは、①「一定の取引分野」をどうやって画定するのか、②「競争の実質的制限」に該当するか否かはどのように判断するのかの2点です。順に書いていきたいと思います。

1.「一定の取引分野」について

M&Aが競争に及ぼす影響を分析しようと思えば、まず、市場を画定する必要があります。例えば、J社という大阪のラケットメーカーがあるとします。J社は大阪市内のテニスラケットの市場シェア率で言えば70%を誇るが、日本全体では15%、世界では3%に過ぎない状態であると仮定します。この場合、大阪市が市場、すなわち「一定の取引分野」であるとすれば、大阪市内の別のラケットメーカーと合併することによって、市場シェア率は競争政策上看過できないレベルに到達する可能性があります。他方で、世界全体を市場と捉えた場合には、J社の合併は世界全体のテニスラケット市場の競争にはほとんど影響を与えないということになります。よって、まず「地理的範囲」の画定が必要になります。

また、上記では「テニスラケット」市場と書きましたが、仮に、世の中のテニスプレーヤーの多くがテニスもバドミントンも卓球もするという場合、J社が合併後にその市場独占力を利用してラケットの価格を引き上げた場合、プレーヤーはバドミントンや卓球に移行する可能性があります。この場合、J社はテニスラケット市場において競争制限による利益を享受できていないということができます。よって、「地理的範囲」に加えて、「商品(サービス)の範囲」も問題になるわけです。

J社は、「地理的範囲」については、「競争は世界レベルで行われており、世界レベルでは、価格に影響力を及ぼすパワーは我が社にはない」と主張するでしょう。また、「商品の範囲」については、「多くの人が複数のラケットスポーツを楽しんでおり、テニスラケットの値段を上げれば、ユーザーは他のラケットスポーツに移行するから、競争制限が発生するかどうかは、ラケットスポーツ業界全体で判断すべきだ」といった主張をするかも知れません。これに対して規制側である公取委は、一般に市場の範囲をできるだけ狭く解釈しようとしますので、「市場は大阪市内で、かつ、テニスラケット市場に限定される」というところから主張をスタートするものと思われます。実際には、テニスラケットについては海外メーカーの商品が日本市場を席巻しており、また、テニスをする人が他のラケットスポーツもするという事実が存在するとも思えませんので、市場の「地理的範囲」は世界、「商品の範囲」はテニスラケットとすべきではないかと考えますが、いずれにしても、独占や競争制限が問題となる「市場」、すなわり「一定の取引分野」をどう画定するかで、競争に与える影響に関する分析結果も大きく異なってくるわけです。

前置きの具体例が長くなりましたが、上記のように、「企業結合により競争が制限されることとなるか否かを判断するための範囲」を意味する「一定の取引分野」は、「商品(サービス)の範囲」および「地理的範囲」により画されます。また、<新企業結合ガイドライン>は、両者の検討の際に、「需要者にとっての代替性」という観点を基本に、「供給者にとっての代替性」も加味できるとされています(*2)。この「需要者にとっての代替性」「供給者にとっての代替性」という考え方は、アメリカの判例法で確立されている判断手法と同じです。

このうち「需要者にとっての代替性」に関しては、いわゆるSSNIPテストが利用されることが新企業結合ガイドラインで明記されました。SSNIPテストというのは、「Small but Significant and Non-transitory Increase in Price(小幅ではあるが、実質的かつ一時的ではない価格引き上げ)」をした場合に、当該商品及び地域について、需要者が当該商品の購入を他の商品または地域に振り替える程度を検証する手法になります。例えば、前記の例で、J社が合併後の市場独占力を利用して大阪市内でテニスラケットの値上げを行った場合に、大阪市内のユーザーが大阪市外のラケットメーカーのラケットあるいは他のラケットスポーツに乗り換えることができなければ(現実には考えにくいことですが)、J社は「他の商品または地域への振替の程度が小さいために、価格引上げによる利潤を拡大できる」ことになりますので、「大阪市内のテニスラケット市場」=「当該企業結合によって競争上影響が及びうる範囲」=「一定の取引分野」という結論が導かれます(*3)。

他方、「供給者にとっての代替性」とは、当該商品及び地域について、小幅ではあるが、実質的かつ一時的ではない価格引上げがあった場合に、他の供給者が、多大な追加的費用やリスクを負うことなく、短期間(1年以内を目途)のうちに、別の商品または地域から当該商品に製造・販売を転換する可能性の程度を考慮する判断手法です。前記の例でいえば、J社が値上げを行った後速やかに、東京で営業を展開していた他社がJ社よりも安い値段のラケットを大阪市内で販売し始められるようであれば、市場の「地理的範囲」については大阪市内に限定すべきではないということになります。J社の合併及びそれに続く値上げによっても、「大阪市内における競争」はさほど悪影響を受けていないといえるからです。また、大阪市内のバドミントンラケット専門メーカーが、J社の値上げを横目で見つつ、自社の生産ラインをさほど費用を掛けずにテニスラケット製造ラインに変更してJ社よりも安いテニスラケットを大阪市内で販売できるのであれば、やはりJ社は値上げによる利益を享受できません。この場合、「商品の範囲」をテニスラケットに限定することに疑問が生じてくるわけです。

なお、地理的範囲について、新企業結合ガイドラインは、「ある商品について、内外の供給者を差別することなく取引しているような場合には、国境を越えて地理的範囲が画定される」としました。日本において価格が引き上げられたとしても、日本のユーザーが、海外のメーカー/販売者から同種同効用の商品を購入できるのであれば、日本における価格引上げは「販売量の低下」という結果を招き、結果として、競争阻害が発生しないからです。この判断においては、消費者の購買行動や供給者の供給能力・販売網、商品の輸送費用等が考慮要素になってくるものと思われます(*4)。

次回の独禁法シリーズでは、「競争の実質的制限」について書きたいと思います。


(*1) 日本の事案については、公取委が毎年具体的ケースを公表しており、以下のウェブサイトから見ることができます。http://www.jftc.go.jp/ma/houdouindex.html
(*2) 「一定の取引分野」に関する更に網羅的な説明については、新企業結合ガイドラインの10頁以下をご覧ください。
(*3) SSNIPテストに関し、公取委は、「小幅ではあるが、実質的かつ一時的ではない価格引上げ」とは、通常、引上げ幅については5~10%程度、期間については1年程度のものを指すが、この数値はあくまで目安であり、ここの事案ごとに検討されるべきと述べています。
(*4) 市場が世界全体とされた例: ソニーと日本電気による光ディスク事業の統合(平成17年度公表事例8)

M&Aと独禁法(その3)(日本の場合-合併・会社分割・事業譲渡について)

株式譲渡に続いて、合併(15条)、会社分割(15条の2)、事業譲渡(16条)に関する独禁法上の事前届出要件等についても、情報整理のために書いておきたいと思います。

1.合併について

15条2項は、「事前届出義務」について規定しています。具体的には、以下の2要件をいずれも充足する「会社」(*1)の合併については、公取委に対する事前届出義務が発生します。(*2)

① いずれか1つの会社:総資産合計額(当該会社の総資産額・当該会社の親会社の総資産額・当該会社の子会社の総資産額の合計額)が100億円
② 他のいずれか1つの会社:総資産合計額が10億円


<前回のコラム>でも書きましたように、以下のいずれかの場合には、届出義務がありません(同条2項但書)。以下の場合には、合併が競争に与える影響が類型的に大きいとはいえないからです。
① 合併会社のうちの1つが、他の全ての合併会社の親会社である場合
② 合併会社が全て兄弟会社である場合

手続的には、届出がなされると、待機期間(同条4項)がスタートします。具体的には、届出受理日から30日(公取委の判断で短縮可)が経過するまでは合併の効果を発生させることができません。公取委が排除措置命令を発する場合には、原則として待機期間内に(*3)「排除措置命令に先立つ意見申述・証拠提出の機会を付与する旨の事前通知」(49条5項)を行わなければならないことになっています(15条5項)。

届出義務を怠った場合、①200万円以下の罰金(91条の2)の可能性があるほか、②公取委による合併無効の訴え(18条1項)が提起されるおそれもあります。後者に関しては、届出規定違反そのものが無効原因となることに注意が必要です。

2.会社分割について

まず、16条の事業譲受け規制においては「譲受会社」が規制の名宛人であるのに対し、会社分割規制においては吸収分割における承継会社や新設分割における設立会社ではなく、「分割会社」が規制の名宛人になる点に注意が必要です。

さて、会社分割が以下の要件を充たす場合には、公取委に事前届出を行わなければなりません。届出義務があるのは「分割会社」のみです。(*4)

① 新設分割のケース:分割会社の中に総資産合計額(当該会社の総資産額・当該会社の親会社の総資産額・当該会社の子会社の総資産額の合計額)が100億円超であるものが一つ以上あり、そのほかに、総資産合計額が10億円超であるものが一つ以上ある場合
② 吸収分割のケース
 (i) 承継会社の総資産合計額が10億円以下:届出義務なし。
 (ii) 承継会社の総資産合計額が10億円100億円以下:分割会社の中に総資産合計額が100億円超であるものが一つ以上ある場合に届出義務発生。
 (iii) 承継会社の総資産合計額が100億円超:分割会社の中に総資産合計額が10億円超であるものが一つ以上ある場合に届出義務発生


①分割会社のうちの1つが、他の全ての分割会社の親会社である場合、②分割会社が全て兄弟会社である場合に届出義務がないのは合併時と同様です。また、待機期間や届出義務違反の効果も合併と同様です。

3.事業譲渡について

事業譲渡においては、「譲受会社」が規制の名宛人になります。
  
以下の2要件をいずれも充たす場合には、公取委に対する事前届出義務が発生します。届出義務があるのは「譲受会社」のみです。(*5)

① 譲受会社:総資産合計額が100億円超
② 譲渡会社
(i) 事業全部の譲渡のケース:総資産の額が10億円
(ii) 事業の重要部分または固定資産の譲渡のケース:「譲渡対象部分に係る最終の損益計算書上の売上高」が10億円


ここで、「重要部分」の解釈が問題となりますが、会社法上の「重要部分」の解釈とは同一ではありません。具体的には、独禁法上の「重要部分」とは、

【事業を承継させようとする会社にとっての重要部分を意味し、当該承継部分が一つの経営単位として機能し得るような形態を備え、事業を承継させようとする会社の事業の実態からみて客観的に価値を有していると認められる場合】に限り、
【事業を承継させようとする会社の年間売上高に占める承継対象部分に係る年間売上高の割合が5%以下であり、かつ、承継対象部分に係る年間売上高が1億円以下の場合には、通常「重要部分」には該当しない】とされています(企業結合ガイドライン9頁)。

①譲渡会社と譲受会社のうちの1つが、他の全ての会社の親会社である場合、②譲渡会社と譲受会社が全て兄弟会社である場合に届出義務がないことと、待機期間・届出義務違反の効果については、合併と同様です。


(*1) ここでいう「会社」には、会社法上の会社、保険業法上の相互会社等が含まれます。合併当事会社が外国会社であっても、日本市場に弊害をもたらすことはありうるので、外国会社も本条の「会社」に含まれることに注意が必要です。
(*2) 外国会社の場合は、「総資産合計額」を「国内売上高」と読み替えてください。
(*3) 公取委が追加の資料提出を求めた場合は、「届出受理の日から120日を経過した日」か「すべての報告等を受理した日から90日を経過した日」のいずれか遅い日まで延長されます。
(*4) 外国会社の場合は、「総資産合計額」を「国内売上高」と読み替えてください。また、部分分割のケースにおいては、「総資産合計額」を「承継対象部分に係る最終の損益計算書上の売上高」と読み替えます。
(*5) 外国会社の場合は、「総資産合計額」を「国内売上高」と読み替えてください。

M&Aと独禁法(その2)(日本の場合-主に株式譲渡について)

引き続き、日本の独禁法について書きたいと思います。
独禁法は、合併・会社分割・事業譲渡については、事前に公取委に届け出るよう義務付けています。では、実務で最も多く利用されていると思われる株式譲渡についてはどうでしょうか?

株式譲渡については、現時点では、以下の3点を全て充足する場合には、③の要件を充足した日から30日以内(*1)に公取委に報告書を提出しなければならないことになっています。つまり、事前届出ではなく、「事後」の報告をすることが求められています。

①  株式保有をする会社:総資産額(最終の貸借対照表上の資産合計額)が20億円超、かつ、総資産合計額(当該会社の総資産額・当該会社の親会社の総資産額・当該会社の子会社の総資産額の合計額(*2))が100億円
②  株式保有をされる会社:総資産額が10億円超(* 株式保有をされる会社が外国会社の場合は、当該外国会社およびその国内子会社の国内における営業所の国内売上高が10億円超の場合)
③  議決権保有割合の変化:当該取引により、10%以下から10%超、25%以下から25%超、50%以下から50%超に増加すること


ただし、上記ルールは次回の独禁法改正によって変更される予定になっています。すなわち、公取委は平成19年10月16日付けで、<「独占禁止法の改正等の基本的考え方」>と題するレポートを公表しましたが、これによると、

【(1) 独占禁止法第4章に係る届出・報告制度の見直し
○ 会社等の株式取得につき,合併等の他の企業結合と同様に事前届出制度とする。
○ 我が国市場に影響を及ぼす外国会社に係る企業結合に関し,届出基準を見直す。
○ 親子会社間及び兄弟会社間のみならず,いわゆる叔父甥会社間の合併等についても,届出を免除する。】


となっています。公取委は、「今後、政府部内を含めた各方面との議論を踏まえて、具体的な法案等の作成作業を行う」としており、今後、上記方針に従った法改正がなされるものと考えられます。

また、現時点でも事前届出が必要な合併・会社分割・事業譲渡の中でも、親子会社間や兄弟会社間の合併等については届出が不要ですが、孫会社については届出が必要とされていますので注意が必要です。

届出が必要な合併・会社分割・事業譲渡の範囲については、次のコラムで整理したいと思います。


(*1) 公取委は、必要性を認めれば、この30日の期間を短縮することが出来ます。
(*2) 親会社・子会社については、議決権の50%超を直接保有するかどうかがメルクマールとなります。

ISSの影響力の大きさについて

米国でM&A実務に携わっていると必ず登場するのがISSです。<ISS(Institutional Shareholders Services)>というのは米国の議決権行使助言機関であり、イギリスの<FTSE>と共同でコーポレート・ガバナンス指数(Corporate Governance Index)を開発し、会社のコーポレート・ガバナンス体制の格付けを行っているほか、株主の利害に影響を及ぼす会社の行動(ライツプラン等)に関して毎年ポリシーを公表し(*1)、会社の行動を(実質的に)コントロールしています。

ISSが公表しているコーポレート・ガバナンス・ポリシーの主たるものは、アメリカ、カナダ、イギリス、香港、シンガポール版ですが、2005年には日本企業の買収防衛策に対する議決権行使ガイドラインも発表しており、彼らが世界のコーポレート・ガバナンスの整備・進捗状況に目を光らせていることが分かります。ISSの最新のポリシーは、2007年11月19日に発表された<US Corporate Governance Policy 2008 Updates>になりますが、たとえば、ここの7頁では、取締役の位置付けに関し、

Current Policy Position: A director who formerly served as CEO of a company is considered to be an affiliated outsider of such company.
New Policy Position: A director who formerly served as CEO of a company, including prior to the company’s IPO, will be considered an affiliated outsider.

(現在のポリシー:かつてその会社のCEOであった者は、「独立性を有しない外部者」に該当する。
新しいポリシー:かつてその会社のCEOであった者は、たとえ会社のIPOの前にCEOであったとしても、「独立性を有しない外部者」に該当する。)

という記載が見られます。「独立取締役の定義」については、アメリカの場合、証券取引所規則が定めているのですが、ISSはその定義を更に詳細に研究することによって、株主から見た場合の理想的コーポレート・ガバナンス体制を提案し、企業にプレッシャーをかけ続けているというわけです。また、企業も、相談を受ける法律事務所の弁護士も、株主の権利やコーポレート・ガバナンスに関連する行動を起こす度にISSのポリシーをチェックすることを余儀なくされているのが現状です(たとえば、クライアント企業にライツ・プランを導入する際に疑問点があれば、弁護士がISSに電話を掛けてポリシーに反しないかを確認します)。ISSと歩調を共にすることで、機関投資家や一般株主からの「思いがけない反対票」をもらうことを回避できる可能性が高まるからです。

また、他の例として、ISSはポイズン・ピルに対するポリシーも発表しています。当該ポリシーは2008年度版Updatesにも2007年度版Updatesにも含まれていないため、<2006年度版>を確認する必要があります。この2006年度版ポリシーの9頁を見ますと、Shareholder Rights Planは、以下の内容を含んでいなければならないと書かれてあります。

① No lower than a 20% trigger, flip-in or flip-over;
② A term of no more than three years;
③ No dead-hand, slow-hand, no-hand or similar feature that limits the ability of a future board to redeem the pill;
④ Shareholder redemption feature (qualifying offer clause); if the board refuses to redeem the pill 90 days after a qualifying offer is announced, ten percent of the shares may call a special meeting or seek a written consent to vote on rescinding the pill.

つまり、ライツ・プランのトリガーは20%未満であってはならない、ライツ・プランの存続期間は3年を超えてはならない、デッド・ハンド型/スロー・ハンド型/ノー・ハンド型は採用してはならない、買収提案がなされて90日が経過してもなお取締役会がライツ・プランを消却しないときは、10%以上の株式を有する株主は臨時総会を招集するか書面決議を採ることによってライツ・プランの消却ができるようなシステムでなければならない(いわゆる"chewable pill")、と定めています。また、ISSは別途、ライツ・プランを取締役会の判断のみで導入することに対しても反対意見を表明しており、取締役会がライツ・プランを導入した際には、その後12ヶ月以内に株主総会の承認決議を得なければならないと述べています。

そして、日本で近年導入が相次いでいる事前警告型買収防衛策においても、上記の「20%」「3年間」「90日」といった基準が多く採用されています(*2)。また、経産省/法務省の<買収防衛策指針>が、デッド・ハンド型を排除し、「取締役会で導入する場合、株主の意思で廃止できる措置を採用する」ことを要求している点も、上記ポリシーと合致します。

議決権行使ガイドラインは、日本でも、厚生年金基金連合会を始めとし、共済組合連合会、年金運用受託機関、投信顧問会社等が定めていますが、抽象的なものが多く(議決権行使に関する裁量の幅を広く残すためと考えられます)、結局、広くポリシーを公表し、CalPERS(カリフォルニア州公務員退職年金基金)やTIAA-CREF(教職員保険年金協会大学退職株式基金)等の巨大年金基金からの相談にも適宜乗っているISS等の議決権行使助言機関(*3)の方針が一番確実だということで、それを横目で見ながら近年日本のM&A/ガバナンス実務が回り始めているという印象を持ちます。また、昨今の外国人投資家の比率の高さを考えれば、彼らが議決権行使の際に依拠しているISSのポリシーを無視できないという現実もあります。

日本のガバナンスにおいては米国の社外独立チェック型が浸透していないことから、(買収防衛策に関して原則として株主総会の承認が必要であるという議論になっていることからも分かるように)米国に比べると、「ガバナンスにおける株主への依存度」が高くなっています。その結果、強い株主意思の反映を目指す議決権行使助言機関のポリシーに従うことは、方向性としては偶々一致しているのでしょう。一点注意したいのは、我々(日本企業や経産省/法務省)が今採用しつつある制度の一部はアメリカからの輸入品であるということです。具体的には、輸入品である以上常に新製品を輸入し続ける必要があり、日本で出版される提言・指針等を追いかけるだけでは株主の趨勢をリアルタイムに追えない可能性がある(その結果、機関投資家から思いがけない反対票をもらってしまう可能性がある)ということを認識するとともに、ガバナンス体制や環境・意識の違いがある国のシステムを導入する際には、「違い」を認識した上でなお有意義と考え導入するという判断が、個々の企業のレベルで求められていると感じます。


(*1) ISSのポリシー全般については、こちらをご覧ください。
http://www.issproxy.com/issgovernance/policy/index.html
(*2) 「買収防衛策の事例分析」(商事法務編)によると、「買収防衛策の有効期間については、1年としているケースが28.3%、2年が15.2%、3年が52.8%、4年以上または定めなしが3.7%となっており、当初1年としていたプランを3年に変更したものも含め、3年とするケースが大幅に増加した」(6頁)、「議決権の割合において20%以上または20%超としているケースが94%」(7頁)、「371社のうち60~90日の検討期間としているものが253社」(7頁)とされています。
(*3) 米国のグラス・ルイス社も、ISSと並ぶ議決権行使推奨機関として有名。

Go-Shop条項の存在意義と内容

今回は、<取引保護措置とは?(その2)>で少し取り上げたGo-Shop条項について説明したいと思います。

Go-Shop条項とは、M&A契約において、本契約締結「後」に、当事者双方が合意した一定期間、売主が他の買主候補を積極的に探し、交渉することを認める条項です。Go-ShopはNo-Shop条項と呼び方が似ていますが、「No」と「Go」という言葉の違いのとおり、向いている方向は反対になります。No-Shop条項は、売主が他の買主候補を探し、競合する条件提示を行うことを勧誘したり、買収の検討に利用できるような非公開情報を提供してはならないとするものであって、独占交渉権条項とその趣旨を同じくするものといえます。これに対して、Go-Shop条項は、売主がM&Aの本契約締結後に、他の売主候補者を探すことを認める条項です。

Go-Shop条項は、具体的には(少し簡略化しますが)、以下のような表現をもって規定されます。

“During the period beginning on the date of this Agreement and continuing until August 31, 2007, Seller shall have the right to: (i) initiate, solicit and encourage any Acquisition Proposal; and (ii) enter into and maintain or continue discussions or negotiations with respect to Acquisition Proposals or otherwise facilitate any inquiries, proposals, discussions or negotiations with respect to Acquisition Proposals.”
(本契約締結日から2007年8月31日までの間、売主は、(i) 競合買収提案を勧誘し、かつ、(ii) 競合買収提案に関する協議または交渉を開始・継続し、あるいは、競合買収提案に関する質問・提案・協議・交渉を促進する権利を有する。)

日本では、「せっかく特定の相手と買収や合併の本契約に至ったのに、なぜ今更別の買主を探さなければならないのか?」と感じるのが通常ではないかと思います。契約書にサインする買主側も、容易にはこの条項に対して首を縦に振らないと思われます。では、なぜ、アメリカでは、このような一見面倒な条項が契約書に盛り込まれるようになったのでしょうか?(*1)

理論的な理由としては、取締役が負うFiduciary Dutyの結果、支配権移転の場合にはいわゆるレブロン基準が適用され、取締役は「株主にとって最高の提案を探す旅」に出なければならないという点が指摘できます。また、実務的な理由としては、本来、レブロン基準のことを考えれば最も安全で確実な「オークション」を行うべきなのですが、買主が交渉のプロセスにおいてこのオークションを嫌う傾向が強いということが挙げられます。アメリカでGo-Shop条項が盛り込まれたM&A取引の背景を調べると、いくつかのケースで「買主がオークションに発展する場合はディールから降りる」と明言したためにGo-Shop条項で対応せざるを得なかったというストーリーが書かれてあります。買主としては、オークションを行うと、買収価格が釣り上がる可能性が高いが、本契約締結後に割って入る第三者はそれほど多くはないだろう(よって、オークションよりはGo-Shopの方が望ましい)と考えるのでしょう。

デラウエア州衡平法裁判所は、このGo-Shop条項について、会社の価値を最大化させるための合理的なアプローチであり、レブロン事件で示された「合理的に達成しうるベスト・プライスを獲得する」取締役の義務に合致すると判示しています。しかし、Go-Shop条項は契約書に入れれば足りるというものではありません。権利であるから行使しなくとも良いと考えるべきではなく、取締役の義務を履行する方策の一つである以上、株主にとって最も有利な条件を獲得するために、実際に、インベストメント・バンクなどに依頼して、可能な限り声掛けを行うべきでと考えます(米国の実務では、実際に声掛けを行っています)。また、Go-Shop期間を極端に短く設定すると実質的には機能しなくなってしまいます。オークションの代わりにGo-Shop条項を利用する以上、競合買主候補を実際に探す期間、提示された競合提案を取締役会で吟味する期間、買主候補を絞り込み個別の交渉を行う期間の合計として、40日程度のGo-Shop期間は用意されるべきだと考えます(*2)。

Go-Shop条項に関しては、実際に競合買主候補が出てきた場合に、どちらを優先提案として受け入れるべきかに関する判断が難しいといった問題もあるのですが、これについてはまた機会を見つけて書きたいと思います。


(*1) アメリカではM&Aに関する多くの契約書がSECへの報告書(主に委任状説明書)の別紙として添付されているためにこれを詳細にチェックすることが可能です。このSECへの報告書を確認する限り、Go-Shop条項については、2004年から利用されているようです。
(*2) Go-Shop期間は、SECへの報告書から調査した範囲では、概ね15日から60日となっており、30日から50日が最もよく見られました。一般に、他者を排除したい当初買主候補は短いGo-Shop期間を希望します。

政府系ファンド(SWF)を巡る最近の動き

EUの行政執行機関である欧州委員会(EC)は、2008年2月27日、「政府系ファンド(Sovereign Wealth Funds)の行動基準(Voluntary Code of Conduct for Sovereign Wealth Funds’ Investment)」を定め、公表しました。最近の報道によれば、政府系ファンドは2000年には20ファンドを数える程度でしたが、近年40ファンド程度まで倍増し、その資金規模も約6倍の2兆5000億ドルに急膨張しているとのこと(*1)。特に、昨年(2007年)11月頃からは、アラブ首長国連邦、中国、サウジアラビア、シンガポール等の政府系ファンドが、サブプライムローン問題で財務状況が悪化している大手金融機関や世界的投資銀行等に対して数十億ドル規模の投資を行っています(*2)。

これに伴い、最近、二つの動きが出てきています。一つは、世界第2位の外貨準備高(2008年2月末時点で1兆79億8100万ドル)を保有する日本でも、政府系ファンド設立の動きが出てきているということと、中東や中国の政府系ファンド首脳の来日後、日本の大手証券会社がSWF対応を目的とした専門部署を立ち上げ始めていることです。中東やアジアの政府系ファンドは、日本の技術やノウハウを得るために日本企業に対する投資を拡大していく方針を発表していますので、今後、政府系ファンドが抱える巨額資金を利用したM&Aが海外でも日本でも増加するものと予想されます。

もう一つの動きは、「スーパー・ヘッジファンド」と呼ばれることもあり通常のヘッジファンドよりも遙かに大きな資金規模を有する(*3)これら政府系ファンドに対して規制を求める動きです。政府系ファンドは、これまで情報開示を避ける傾向が強く、投資先や運用資産額について一切明らかにしないケースも見られました。よって、ハイテク、軍需、エネルギー企業等を傘下に収められることを恐れる各国が、他国の政府系ファンドに対する規制を強めるために動き始めたという次第です。例えば、中国アルミ業公司(チャイナルコ)は、英豪系BHPビリトンによるオーストラリアの石炭鉱山大手リオ・ティント買収提案に対抗するため、CICから1200億ドルの資金を利用する見通しであるとの報道がなされていますが、これに対して、オーストラリア政府は、政府系ファンドに対して投資活動の透明性を強力に求める方針を打ち出しました。冒頭に述べたECによるSWF行動基準の発表も、これら規制を求める動きの一環といえます。

ECが発表し、EUで投資を行う政府系ファンドが自主的に遵守することを求めているこの行動基準においては、リスクマネジメント・ポリシー、ファンドの投資目的を明示するインベストメント・ポリシー、責任の分配と所在を明確にするポリシーの制定を求めているほか、投資先や資産分配先を毎年開示することも要求しています。

投資先国家による規制が強化されることを嫌うのであれば、SWF自身が、ベスト・プラクティス・ルールを策定し、投資先国家に対して自主的に情報開示を行うとともに、ガバナンス体制を強化していくべきだと考えます。

【関連報道】
http://www.ft.com/cms/s/0/8e027d76-e175-11dc-a302-0000779fd2ac.html
http://www.euractiv.com/en/trade/eu-plans-code-conduct-sovereign-wealth-funds/article-170503
http://www.nytimes.com/2008/02/09/business/09sovereign.html

(*1) 歴史的に最も古いのは1953年に誕生したクウェートのファンドですが、多くの政府が自らファンド設立に動き始めたのは2005年以降のことであると言われています。SWFの例としては、中国の中国投資有限責任公司(CIC)や、ソニーへの大型投資実績があるアラブ首長国連邦のドバイ・インターナショナル・キャピタル(DIC)等。
(*2)  2007年12月、中国のCICはアメリカの証券大手モルガン・スタンレーに対して50億ドルの出資を表明。また、アブダビ投資庁は、シティー・グループに対して75億ドルの資金注入を行いました。
(*3) 世界のSWFの総資産は2010年までに5兆ドルを超え、さらに2015年までには、その倍以上の12兆ドルにまで膨れあがると予測する専門家もいます。なお、ヘッジファンドの預かり資産は、現時点で、1兆6000億ドル程度といわれています。

種類株式の上場に関する最近の議論について~少数株主保護~(その3)

繰り返しになりますが、東証の実務者懇談会は、少なくとも以下の要件を満たした無議決権株式・多議決権株式・少議決権株式については、原則としてその上場を認めることを提案しました。

【以下の5つの方策の全てが取られていること。
① 既公開会社にあっては、上場株式より議決権の多い株式を上場させる場合にあたらないこと。
② 極めて小さい出資割合で会社を支配するような状況が生じた場合に議決権種類株式のスキームが解消できるような方策がとられていること。(例:ブレークスルー条項、サンセット条項等)
③ 種類株主間の利害が対立する場面における株主保護の方策がとられていること。
④ 支配株主と会社の利益相反取引の場面における少数株主の保護の方策がとられていること。
⑤ 新規公開時における無議決権株式の単独上場の場合は、議決権付株式の譲渡等の時に無議決権株式に転換する条項が付されていること。】


このうち③④は、コーポレート・ガバナンスや株主保護の基本的部分に関わる問題であると考えます。そもそも種類株主の保護と聞いて思いつくのは会社法322条です。同条1項は、種類株式発行会社がM&Aを行ったり、株式の内容の変更を行ったりする場合に、それが「ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるとき」は、「当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。」と定めています。つまり、この限りにおいて、種類株主の利益は保護されているといえます。しかし、ここで注意しなければならないのは、同条2項が、「種類株式発行会社は、ある種類の株式の内容として、前項の規定による種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定めることができる。」と定めていることです。つまり、定款で定めることによって、種類株主保護策である「種類株主総会の決議」を排除することが出来るのです。

この点、東証の報告書は、「会社法322条2項に基づく種類株主総会の決議の排除」を認めない、あるいは、少なくとも事前に利害関係なき第三者によって構成される特別委員会の意見を聴取する方法によって、種類株主(議決権の少ないB種株主)を害さないような方策を採るべきとしています。また、④の利益相反の問題についても、「十分な情報開示」と「独立取締役、監査役又は特別委員会等の関与」を要求することでクリアする方法を提案しています。

さて、上記で提案されている①独立委員会、②情報開示というのはいずれも米国判例法上で繰り返し要求されてきた株主保護の方策です。少数株主の利益が害される場面としてよく取り上げられるのが支配株主である親会社による完全子会社化(Squeeze-Out)であり、(米国では古くから現金交付合併(Cash-Out Merger)が認められてきましたので)締出しを受けた少数株主が会社や支配株主を相手取って訴訟を起こしてきました。そのような歴史の中で、デラウエア州裁判所は、Squeeze Outにおける少数株主の保護が問題となった著名なウェインバーガー判決(*1)において、「完全なる公正」の基準(Entire Fairness Test)を採用するとともに、独立委員会の設置の必要性について言及しました。米国では、それ以来、独立委員会が雨後の筍のごとく設置されるようになったのです。また、この判例においては、Cash-Out Mergerの場合、株主には「反対株主の株式買取請求権」(Appraisal Right) (*2)という救済手段があるものの、不十分な情報開示がなされたり、自己取引状況があった場合、会社資産を不当に処分するような行為がなされた場合には、株式買取請求権だけでは株主の利益を保護できないとも判示されました。米国では、Squeeze Outではなく、Tender Offer+Short Form Merger(日本の略式合併に相当)で完全子会社化が行われる場合には、Entire Fairness Testではないまた別の基準(Coercion Test)が採用されているのですが、ここはまた別のコラムで整理したいと思います。

東証の報告書も企業価値研究会の提言も、少数株主(種類株式の文脈では「少議決権株主」)の利益を保護するために、米国で採用されている方策を日本でも取り入れるよう提案しているわけですが(これは<MBO指針>でも同じでした)、どこかすっきり理解できないと感じておられる方も多いのではないでしょうか。「十分な情報開示」が関係者の利益保護にとって重要であるのは世界共通だと考えますが、「特別委員会」については、その判断を仰いだことにより本当に少数株主の利益が守られるのだろうか、特別委員会も会社の意向に沿った形の意見を提出する可能性が高く、結局、少数株主は株主買取請求権で救済されるに留まるのではないだろうか、特別委員会の存否によって法的に何が変わるのだろうか・・・など、その疑問はもっともだと考えます。

この点、米国ではこのような疑問はあまり存在しません。社外取締役市場が充実しており特別委員会が実際に機能しやすい環境にあるということに加えて、特別委員会を設ける意味がはっきりしており、かつ、特別委員会を設けたからといって、全てが許されることにはならないということもはっきりしているからです。すなわち、特別委員会は、設置をすることにより、
① Entire Fairness TestがBusiness Judgment Ruleに変更される(結果、立証責任が取締役側から原告に移転する)、又は
② Entire Fairness Testという審査基準自体は変わらないが、「不公正」の立証責任を原告側が負うことになる
という判例上の効果が生まれます。つまり、特別委員会を設置すれば立証責任を(一旦)原告に負わせることが出来るが、不公正な行為は結果として許されないという判断枠組みが明確になっています。更に、

支配株主(Controlling Shareholders)は、取締役と同様のFiduciary Dutyを少数派株主に対して負担する

という著名な判例(*3)が、判例法を形成しています(*4)。また、上述のように、救済手段が「反対株主の株式買取請求権」に限定される場合と限定されない場合の境目も判例が示していますし、少数株主が害されうるケースとして、親子会社間合併、兄弟会社間合併、公開買付けのケースに分けて判例の基準が整理されています。つまり、「特別委員会」が存在することの効果が比較的明確で、ケースごとに審査基準や救済手段も整理されており、更に、支配株主はたとえ株主でも取締役と同じ義務を負うという判例が確立されているからこそ、特別委員会を中心に実務が回って行っているのです。

日本の場合は、M&Aに関する裁判例がまだほとんど存在しないために、裁判所の役割や審査基準の問題とは切り離されて株主保護策が論じられることがありますが、形だけの輸入では、どこかに綻びが発生するリスクがあります。レックスホールディングスのMBOのケースが問題になったときに、東京地裁の民事8部(「商事部」)が米国の事例研究を行っているという報道が日経ビジネスでなされましたが、M&Aに関わる実務家としては、目の前の案件が裁判にまで発展することを想定し、制度の歴史的背景や運用状況、過去に問題となった米国の裁判事例まで(裁判所と同じように)色々と研究することが大切だと感じさせられます。


(*1) Weinberger v. UOP.Inc. 457 A.2d 701 (Del. 1983)
(*2) 日本の会社法上も、会社法322条2項に基づき「種類株主総会の決議の排除」を行った場合、会社法116条3号に基づく「反対株主の株式買取請求権」が認められています。
(*3) Sinclair Oil Corporation v. Levien. 280 A.2d 717 (Del. 1971)
(*4) 日本では、「支配株主が会社および他の株主に対して誠実義務を負う」とする見解は、判例の承認を得るに至っていません(「株式会社法」江頭憲治郎、124頁)。

種類株式の上場に関する最近の議論について(その2)

無議決権株式・少議決権株式・多議決権株式を発行することに関しては以下のような弊害があると、前回書きました。
① 出資割合と支配比率に乖離が生じるため、特定の種類株主の利益が害される可能性がある。
② 特定の株主が多議決権を保有し続けることで、本来行われるべき「支配権の移転」が阻害される可能性がある。

かかる弊害があってもなお種類株式の上場を認めるべきか?・・・ということですが、「弊害があり得るということをもって一律に禁止するというアプローチは必ずしも適切ではない」とする企業価値研究会の立場に私も基本的に賛成です。ただ、問題は、適切・有効な弊害防止策が採れるかというところにあります。

企業価値研究会の提言を受けた東証の実務者懇談会(座長:黒沼悦郎早稲田大学教授)は、「投資者保護の観点から必要と認められる一定の要件を満たした株主の権利を尊重したスキームであり、かつ、投資者にわかりやすい商品から順次解禁していくことが望ましい」と述べた上で、少なくとも以下の要件を満たした無議決権株式・多議決権株式・少議決権株式については、株主の権利の尊重がなされているものとして、原則としてその上場を認めることとすべきとしました。

【以下の5つの方策の全てが取られていること。
① 既公開会社にあっては、上場株式より議決権の多い株式を上場させる場合にあたらないこと。
② 極めて小さい出資割合で会社を支配するような状況が生じた場合に議決権種類株式のスキームが解消できるような方策がとられていること。(例:ブレークスルー条項、サンセット条項等)(*1)
③ 種類株主間の利害が対立する場面における株主保護の方策がとられていること。
④ 支配株主と会社の利益相反取引の場面における少数株主の保護の方策がとられていること。
⑤ 新規公開時における無議決権株式の単独上場の場合は、議決権付株式の譲渡等の時に無議決権株式に転換する条項が付されていること。】


①は、既に投資している一般株主の利益が不測の損害を被らないようにする必要があることから設けられた要件ですが、「既上場会社による多議決権株式の発行」については今後議論が継続されるとしても、解禁されることは当面ないものと予測します(*2)。

②は、出資割合と支配比率の乖離が無視できないレベルにまで到達しないようにする必要があることから設けられた要件ですが、ブレークスルー条項の発動要件の定め方が問題になると考えます。具体的には、発行済株式総数の何%を取得した者が表れた場合にブレークスルーを起こさせるか、またその要件が充足された場合に、具体的にどうやって多議決権株式の「多議決権」を奪うかという問題です。前者については、議決権倍率と密接に関係してきます。例えば、(「単元」については一旦忘れて、シンプルに)A種株式にB種株式の3倍の議決権を与えると仮定します。この場合、A種株式は発行済株式総数の25.1%を握れば、B種株式に74.9%握られたとしても、25.1×3>74.9となるため議決権の過半数を取得できます。しかし、A種株式にB種株式の9倍の議決権を与えてみると、A種株式は発行済株式総数の10.1%を握れば、B種株式に89.9%握られたとしても、過半数の議決権を取得できることになります。
いずれにしても、これらの数字うちのいずれかをまず固定しなければなりません。この点、東証の報告書では、会社法115条が「議決権制限株式の発行数の上限を発行済株式総数の2分の1」と定めていることから、「会社支配権を取得するには25%を超える出資割合が必要」というテーゼを導き出しています。25%以下の、例えば、20%や10%しか出資していない者が会社を支配することは認められないという価値判断です。この25%という数字を固めてしまうと、後は計算式によって、他の数字を導き出すことが出来ます。例えば、上述の例のとおり、議決権倍率を3倍超とすることを認めれば、A種株式は25%以下の保有割合でB種株式による会社支配を阻止できることになりますので、「25%ルール」に反することになります。よって、この場合、議決権倍率は3倍以下でなければならないということになります。他方で、議決権倍率に制限を設けないとすれば、理論上は議決権が限りなくゼロに近いB種株式が登場することになりますので、その状況で「25%ルール」を守ろうとすれば、会社法115条と同様に、B種株式の発行数上限を発行済株式総数の2分の1と定める必要が出てきます。いずれにしても、この「25%ルール」を基準として東証のルールが整備されるものと思います。
続いて、具体的にどうやって多議決権株式の「多議決権」を奪うか(希釈化させるか)という問題ですが、無議決権株式を発行しているケースでは議決権復活要件の中に定めるという方法が、その他の場合には取得条項付株式を利用する方法が考えられます。この点は更に詳細な検討が必要でしょう。

③④を飛ばして⑤ですが、⑤は、「議決権付株主の個性に着目して投資がなされるのであるから、その議決権付株主が変更された場合にはスキームは解消されるべき」と考えられた結果設けられた要件で、Google社の複数議決権スキームでも取り入れられています(*3)。

③④については、次回のコラムで述べたいと思います。


(*1) ブレークスルー条項: 発行済株式総数のうち一定割合の株式を取得した者が現れた場合、議決権種類株式の構造を解消するスキーム。
サンセット条項: 議決権種類株式導入の目的が終了した場合、同目的を逸脱した場合若しくは同目的を達することができないことが確定した場合、又はこれらの事由が生じたとみなすことのできる場合に、スキームを解消させる方策(例:目的が終了したか等の判断を株主の意思に委ねるものとして、一定期間経過後に一株一議決権とする株主総会の特別決議等によりスキームの解消を可能とするもの)
(*2) アメリカの<ニューヨーク証券取引所(NYSE)の規則>313条でも、上場会社が上場株式よりも議決権の大きい株式を発行することは、原則として禁止されています。
(*3) <Google社の定款>参照。

種類株式の上場に関する最近の議論について(その1)

現在の東京証券取引所の規則においては、上場会社が、
① 多議決権株式(上場している株券より議決権の多い株式)を発行する場合、または、
② 上場済み株券を、定款変更その他の方法により、重要事項(取締役の選解任等)に関する議決権を制限する種類の株式に変更する場合

上場廃止となります(目的・条件等に照らして、株主及び投資者の利益を侵害する恐れが少ないと認められる場合を除く)。つまり、上場株式に関しては、「一株一議決権の原則」が維持されているということになります。しかし、昨年(2007年)10月に日本経団連が会員企業に対して実施した調査では、73社中46社が「多議決権株式を特定のものに対して発行することに感心を持っている」と回答したようです。ニーズはあるが現状では制限されているということになりますので、企業価値研究会が公表した<平成19年12月18日付け「上場会社による種類株式の発行に関する提言」>や、それを受けて東証が公表した<平成20年1月16日付け「議決権種類株式の上場制度に関する報告書」>を参照しながら、ここでの問題点を検討してみたいと思います。

多議決権株式といえば、すぐに思いつくのがアメリカのGoogle社です。
Google社がSECに提出した<2004年8月18日付けフォームS-1>(*1)を見ますと、以下のような記載があります。

In the transition to public ownership, we have set up a corporate structure that will make it harder for outside parties to take over or influence Google. This structure will also make it easier for our management team to follow the long term, innovative approach emphasized earlier. This structure, called a dual class voting structure, is described elsewhere in this prospectus. The Class A common stock we are offering has one vote per share, while the Class B common stock held by many current shareholders has 10 votes per share.

すなわち、Google社は、「外部の者によって会社が乗っ取られたり、会社に影響を与えられたりすると困るので、1株1議決権のクラスA株式を公開するとともに、公開前の株主(主に経営陣)は1株10議決権のクラスB株式を保有し続ける」と明言しています。Googleとしては、株式公開によってキャッシュは集めたい、しかし、長期的・安定的に経営を行っていきたいという思いがあり、そのためにDual Class Voting Structure(株主総会における議決権行使に関する二重構造)を採用したというわけです。

このように、会社によっては、まとまったキャッシュが欲しい(ので、株式を上場させたい)、あるいは、議決権がたくさん欲しいというニーズがあるわけですが、他方で、無議決権株式・少議決権株式・多議決権株式を発行することに関しては、以下のような弊害があります(*2)。
① 出資割合と支配比率に乖離が生じるため、特定の種類株主の利益が害される可能性がある。
② 特定の株主が多議決権を保有し続けることで、本来行われるべき「支配権の移転」が阻害される可能性がある。


では、かかる弊害があってもなお、ニーズを重視し、種類株式の上場を認めるべきでしょうか?

企業価値研究会は、「『議決権型』『キャッシュフロー型』の類型のいずれの利用についても、その利用にはメリットが存在しうるので、弊害があり得るということをもって一律に禁止するというアプローチは必ずしも適切ではない」と述べています。では、どのような要件の下に、種類株式の上場を認めるべきか?・・・続きは次回のコラムで述べたいと思います。


(*1) アメリカの会社が証券を公募発行する際には、1933年証券法に基づき登録届出書(Registration Statement)を提出する必要がありますが、この登録届出の際に利用される開示様式がFormS-1ないしS-3になります。
(*2) これら2つの弊害以外に、「既上場会社が新たに種類株式を発行する場合には、既存株主が不測の損害を被るおそれがある」という点も、前述の企業価値研究会の提言では指摘されています。この視点からは、既上場会社が多議決権株式を発行するケースに関しては一層慎重な検討が必要であるところ、今回の検討の対象からはひとまず外されています(東証も同じく、今後更に議論が必要としています)。よって、当面は、「新規公開時に議決権種類株式を上場させるケース」と「既上場会社が上場株式よりも議決権の少ない株式を上場させるケース」が検討され、結果として、これらの全部又は一部が認められるようになるものと考えます。また、「種類株式を買収防衛策目的に用いる場合」「黄金株(拒否権条項付株式)についても、今回の検討の対象外とされています。

各種報告書・指針・提言へのリンク

私の仕事机の脇には厚さ10センチほどの書類の束があります。これは、ここ3年弱の間に、「企業価値研究会」(*1)や経済産業省/法務省などにおいて作成・公表されたM&Aやコーポレート・ガバナンスに関する報告書・指針・提言類をプリントアウトしてファイリングしたものです。M&Aに携わっている方々は必要に応じて目を通しておられるものと思いますが、年々量が増えていっているため、今後の参照がしやすいようにリンクを整理しておきたいと思います。もし抜けているものがありましたら、ご一報頂ければ幸いです。

1.時系列による整理
平成17年3月16日付け「企業価値研究会の論点公開の骨子のメッセージ」
http://www.investment-japan.go.jp/jp/meeting/2005/0316item1.pdf
平成17年3月(企業価値研究会(第8回)の配付資料) 「敵対的買収防衛策(企業価値防衛策)の整備 企業価値研究会の論点公開の骨子と企業価値防衛指針策定に向けた対応」
http://www.meti.go.jp/committee/materials/g50307aj.html
平成17年5月27日付け「企業価値報告書~公正な企業社会のルール形成に向けた提案~」
http://www.meti.go.jp/press/20050527005/20050527005.html
平成17年5月27日付け「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針
http://www.meti.go.jp/press/20050527005/20050527005.html
平成17年6月経済産業省「企業価値・株主共同の利益の確保・向上のための買収防衛策に関する指針について」
http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/bbl050621.pdf
平成17年11月10日付け「公正な買収防衛策のあり方に関する論点公開~買収防衛策に関する開示及び証券取引所における取扱いのあり方について~」
http://www.meti.go.jp/press/20051110002/20051110002.html
平成18年3月31日付け「企業価値報告書2006~企業社会における公正なルールの定着に向けて~」
http://www.meti.go.jp/press/20060331002/20060331002.html
平成19年8月2日付け「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する報告書」
http://www.meti.go.jp/press/20070802008/20070802008.html
平成19年9月4日付け「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針
http://www.meti.go.jp/press/20070904004/20070904004.html
平成19年12月18日付け「上場会社による種類株式の発行に関する提言」
http://www.meti.go.jp/report/whitepaper/sesaku01.html

2.テーマによる整理
(1) 企業価値報告書
平成17年3月16日付け企業価値研究会の論点公開の骨子のメッセージ
http://www.investment-japan.go.jp/jp/meeting/2005/0316item1.pdf
平成17年5月27日付け「企業価値報告書~公正な企業社会のルール形成に向けた提案~」
http://www.meti.go.jp/press/20050527005/20050527005.html
平成18年3月31日付け「企業価値報告書2006~企業社会における公正なルールの定着に向けて~」
http://www.meti.go.jp/press/20060331002/20060331002.html

(2) 買収防衛策
平成17年3月(企業価値研究会(第8回)の配付資料)「敵対的買収防衛策(企業価値防衛策)の整備 企業価値研究会の論点公開の骨子と企業価値防衛指針策定に向けた対応」
http://www.meti.go.jp/committee/materials/g50307aj.html
平成17年5月27日付け「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針
http://www.meti.go.jp/press/20050527005/20050527005.html
平成17年6月経済産業省「企業価値・株主共同の利益の確保・向上のための買収防衛策に関する指針について」
http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/bbl050621.pdf
平成17年11月10日付け「公正な買収防衛策のあり方に関する論点公開~買収防衛策に関する開示及び証券取引所における取扱いのあり方について~」
http://www.meti.go.jp/press/20051110002/20051110002.html

(3) MBO
平成19年8月2日付け「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する報告書」
http://www.meti.go.jp/press/20070802008/20070802008.html
平成19年9月4日付け「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針
http://www.meti.go.jp/press/20070904004/20070904004.html

(4) 種類株式の上場
平成19年12月18日付け「上場会社による種類株式の発行に関する提言」
http://www.meti.go.jp/report/whitepaper/sesaku01.html


なお、企業価値研究会の議事録と配布資料は以下から入手できます。
http://www.meti.go.jp/policy/economic_industrial/committee/index.html

(*1) 経済産業政策局長の私的研究会という位置付けで、平成16年9月16日に発足。

M&Aと独禁法(その1)(日本の場合-総論)

M&Aは特定の市場における「競争」に影響を与える可能性があります。そこで、大型のM&A取引が入ってくると、当事者企業の法務部や弁護士は独禁法関連の規制範囲と手続をチェックすることになります。独占禁止法が、企業間のM&Aが「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」や「不公正な取引方法による場合」(*1)に、それらを禁止しており、違反した場合には排除措置(独禁法17条の2)が採られる可能性があるからです。

実務的には、独占禁止法と、これを執行する公正取引委員会が策定・公表した<「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」(企業結合ガイドライン)>(*2)の内容を理解することがまず大事になりますので、シリーズで順番に見ていきたいと思います。なお、「独禁法上の企業結合規制」は、「私的独占の禁止」「不当な取引制限の禁止」「不公正な取引方法の禁止」に続く、独禁法規制の「第4の柱」と言われています。

まず、独禁法本体でM&Aに関係してくるのは、第4章「株式の保有、役員の兼任、合併、分割及び事業の譲受け」(第9条~第16条)です。この条文群は、合併、会社分割、事業譲受、役員兼任等について規制していますが、これらの規定は「一般集中規制」と「市場集中規制」との類型に分けられることがあります。

【一般集中規制】(市場における個々の競争制限を問題とするのではなく、「事業支配力の過度の集中」そのものを問題とするもの)
1) 第9条: 他の会社の株式等を所有することにより事業支配力の過度に集中することとなる会社の設立はしてはならない。
2) 第11条: 銀行業又は保険業を営む会社は、他の会社の議決権の5%(保険業にあっては10%)を超えて株式を取得、保有してはならない。

【市場集中規制】(個々の市場における競売の実質的制限を問題として企業結合への規制を考慮するもの)
1) 第10条: 会社の株式保有の制限
2) 第13条: 役員等の兼任の制限
3) 第14条: 会社以外の者の株式の保有の制限
4) 第15条: 会社の合併の制限
5) 第15条の2: 会社分割の制限
6) 第16条: 事業の譲受け等の制限

・・・条文は上記のとおりですが、実務的には、
① どのような場合に公取委への事前の届出が必要か、
② 公取委の企業結合審査はどのようなプロセスで進んでいくか、
③ 「競争の実質的制限」に当たるとして企業結合が禁止されるのはどのような場合か、
④ 事前相談制度の概要
などを理解しておく必要があると考えます。独禁法改正の動きも含めて、続きは、次回以降のコラムで紹介したいと思います。

(*1) 「不公正な取引方法による場合」がM&Aに関して問題になることは極めて稀だと考えます。
(*2) 平成16年5月31日に公取委によって発表され、その後、市場確定の判断基準やセーフハーバーの範囲を見直した改正ガイドラインが平成19年3月28日に公表されました。

ゴールデン・パラシュートに対する考察(その2)

アメリカでなぜゴールデン・パラシュートが発展したのか?

アメリカでは、独立性の高い社外取締役が(防衛策についても報酬についても)判断します。ここで第一段階のスクリーニングはできていると考えられているわけです。

続いて、アメリカでは、<コーポレート・ガバナンス>のコラムでも述べたように、資本市場そのものが会社を監視しているという考え方が基本です。常識外れのゴールデン・パラシュートを導入したとすれば、例えば機関投資家が黙っていないというわけです。現に、機関投資家のうちのいくつかは、「ゴールデン・パラシュートについては株主総会の承認を得るべき」という見解を打ち出しています。ここにあるのは、「結局のところ、取締役は株主の目を盗んで好きなことはできないはずだ」という資本市場に対する信頼です。

更に、アメリカでのM&Aは常に司法判断によって形作られてきました。ゴールデン・パラシュートについては、平時での導入であればBusiness Judgment Ruleが適用され比較的自由に設定・導入ができますが、買収提案を受けた後であればユノカル基準が採用され、更に、取締役会が売却を決めた後になるとより厳しいレブロン基準が適用されるものと考えます。法外なゴールデン・パラシュートは司法が許さないはずだというわけです。

また、<ヤフーとマイクロソフトの攻防(Tin Parachutes)(その2)>でも述べたように、アメリカでは税法上、「過去5年間の平均報酬の3倍以上の退職金を役員に支払うとそれをもってゴールデン・パラシュートに該当するとされ、平均報酬を超える部分に関して20%の超過税が課される」ことになっています。つまり、「社外取締役が判断し、株主が監視し、司法が事後的にチェックし、税務上も多額のゴールデン・パラシュートについては不利益的取扱いをする」という体制が整っているからこそ、ゴールデン・パラシュートが減らないのです。これに加えて、前述の、「役員に十分な退職金を支給すると約束しておけば、自己のポジションに固執して株主に有利な買収提案を断る事態が減るだろう」という考え方が根強いというのもあります。

対して、日本では・・・、敵対的買収提案を受けた会社の取締役が買収完了後に数十億円の退職金をもらったことが判明すれば、「道義的」な批判が全面に出てきてしまうのではないでしょうか?しかし、今の日本の状況ではむしろこれは当然だと考えます。CEOの報酬水準が低いだけではなくて、上記のような「体制」が不十分だからです。「資本市場と司法判断が濫用的な経営陣と濫用的な買収者を規律する」という体制ができ、税務上の対策まで施されれば、(それが良いか悪いかは別として)日本にもゴールデン・パラシュートが普及するようになると予測しています。

なお、日本取締役協会の「資本市場を正しく使う委員会」(メンバー:日興コーディアルグループ会長金子昌資氏、早稲田大学法学部上村達男教授、久保利英明弁護士ほか)は、2005年6月17日付けで<「正しい敵対的企業買収に向けた提言」>と題する報告書を公表していますが、そこでは、ゴールデン・パラシュートは、「敵対的買収の局面における取締役の利益相反を減少させ、取締役が自己の保身を離れて、買収者の提案について、それが株主利益に資するか否かの観点から判断することを可能とする」から、「敵対的買収の局面における株主と経営者の利益相反を減少させるためには、適切に設計されたゴールデン・パラシュートを導入すべきである」との提言がなされています(12頁)。
この提言は、資本市場によるガバナンスを強化すること、証取法または証券取引所規則によって独立取締役の制度を導入することといった他の提案とともになされていますので、全体として見れば、アメリカ型コーポレート・ガバナンスシステムへの移行を提案しているものと考えられます。

「日本企業の出発点と拠って立つべき所は技術力(モノづくり)である」と考える私見からは、キャピタル・マーケットを過度に信頼したり、株価(株主)至上主義に陥ることについては、日本経済の持続的成長という観点から躊躇を覚えますが、少なくとも、ゴールデン・パラシュートについては、上記提言のように、金額の多寡だけを議論すべきではなく、ガバナンスや資本市場・裁判所の役割とも絡めて議論しなければならないということだと考えます。

今週のメッセージ(2008年3月2日)~事業再生におけるM&A~

まずは、ブログを開始して1週間しか経っていないにもかかわらず、既に、延べ250人もの方々に訪問していただいたことについて、お礼を申し上げたいと思います。

私の出発点が企業再建絡みのM&Aであったということについては、<はじめに>で書いたとおりですが、成長企業による戦略的M&Aのケースと異なり、企業再建のプロセスで発生するM&Aというのは、基本的に自力再建をあきらめた結果としてやむを得ず行われます。将来十分なキャッシュフローが見込めないが、今すぐスポンサーがついて債務の一部を一括弁済するのであれば、債権者の方も何とか更生計画案・再生計画案に同意してくれるかも知れないというギリギリのところでM&Aを選ぶのです。例えば、会社更生事件の管財人としては、破産させて従業員全員が路頭に迷うよりも、言葉は悪いですが、叩き売り価格であっても何とか売却し、事業を継続してくれる買主を探します。しかし、それでも、コストカットや経営改善のために、誰かが、それまで働いてくれていた従業員の一部に対して退職を打診せざるを得ないときがあります。法律家であれば、ここで「整理解雇の4要件の問題か」となりがちなところですが、実態はそうではありません。このような場面に遭遇して私が一番大事だと感じるのは、一人でも多くの従業員・役員と会って話を聞くことです。現在の給料や待遇を確認したり、会社に対する不満はないか等について聴くのはもちろんのこと、家族構成や住んでいる場所まで聞いてメモに取ります。仮に、スポンサー側から退職を要求されたとしたら、この人の小学生の娘さんと中学生の息子さんの学費はどうなるのか、通える距離の範囲内で転職が可能かまで、いろいろと想像を張り巡らせます。そこで出会う人たちは、大抵は自分よりも年上の方々ですし、再建事件ともなると常に雰囲気がピリピリしていますので、「弁護士さん、若いあんたには分からへんやろうけどな」と言われたこともありました。

こういった場面では、残念ながら本に書いてあることや法律はほとんど役に立たないようです。とにかく謙虚に、しかし、事業を再建するという信念を持って対話を続けるしかありません。結果としてある人に辞めていただかなければならないときは、役員さんに転職先の斡旋までお願いします。これは管財人や民事再生申立代理人の義務ではありませんが、疎かにしていては足元をすくわれる可能性があります。

他方で、スポンサー候補者に対しては、従業員の全員引継ぎをお願いします。しかし、この全員引継ぎを完全に実行してもらうのは容易ではありません。売却交渉を上手く進めれば、契約書に全員承継に関する条項を入れてもらうところまでは比較的簡単に進めます。しかし、一旦引き継いだ従業員がその後何年間もそのまま不利益待遇を受けないでいられるかどうかについては、基本的に監視する方法がないのです。再生・更生会社は事業を売却した後に清算しますので、売却後の運営状況を後からチェックする体制がありません。スポンサー側は、「レピュテーションの問題がありますから、約束は守ります」と言いますが、そうなるともはやお互い信用するかしないかのレベルの話になってきます。
しかし、従業員との対話に関してもそうだったように、ここでも信頼関係というのはとても重要になってくると感じます。スポンサーとの対話を通じて信頼関係を構築し、従業員の皆さんにも「私たちはここまでやりました。後は皆さんで頑張ってください」と言ってサヨナラができるような状態まで持っていく。これが再建絡みのM&A案件における弁護士の役割だと思います。

債権者に対しても公明正大であり続けなければなりません。従業員を全員引き継ぐということは人件費のカットがやりにくいということですので、債権者の中には反対者も出てきます。しかし、その債権者とも、ときにこちらから訪問してきちんと対話をします。理解していただけず、その結果、再建計画が承認されないのであれば、また別の案を捻り出さなければなりません。ここでも債権者との相互理解が築けるかどうかが大事になってきます。

大事なのは法律や契約ではなく信頼関係である。・・・実務では、契約を重視するアメリカ的進め方ではうまく行かないことも多いようです。

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