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Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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ゴールデン・パラシュートに対する考察(その1)

敵対的買収の際に役員や従業員に多額の退職給付を与えることをもって買収防衛策とする、いわゆるゴールデン・パラシュートやティン・パラシュートに、いかなる問題が存在するのでしょうか?まずは、問題視されることが多いゴールデン・パラシュートについて考えてみたいと思います。

すぐに思いつくのは、役員が自分に対する退職金を増額させるわけですから、お手盛りのリスクがあるのではないか、役員が自らを利することで株主の利益を害するのではないかということです。この問題については、アメリカでは1980年代から各種論文で取り上げられてきました。そこでの議論を振り返りますと、立場は以下の二つに分類できます。

1. 株主との利益相反は明らかであるから、好ましくない。
2. ゴールデン・パラシュートが存在することによって、現在の取締役は、自分の利益を一旦忘れて(=自分は現在のポストに後ろ髪を引かれることなく退陣して)、株主にとって最善の買収提案をチョイスできるようになる。よって、むしろ株主の利益につながる。


そして、見解1に対しては、「役員の利益と株主の利益が対立するのは、通常の役員報酬と退職給付とで差異はない。いずれのケースでも、独立取締役からなる報酬委員会で判断すれば利益相反は回避できる」という反論が、見解2に対しては、「ゴールデン・パラシュートの金額が高すぎると、現在の取締役の中には、株主に利益にならない敵対的買収でも受け入れて、自己が多額の退職金を得るという選択肢をチョイスするリスクが出てくる。」という反論がなされていました。

このような議論を経て、現在のアメリカでは、上場企業のうち大手は半数以上がゴールデン・パラシュートを導入しています。高額のゴールデン・パラシュートが新聞を賑わせるたびに、その金額について道義的な非難の声が(主に株主から)あがるにも拘らず、ゴールデン・パラシュートは消える気配がありません。他方で、日本では、ゴールデン・パラシュートはほとんど全くといっていいほど導入されていません。ここはとても興味深い相違点です。ゴールデン・パラシュートに関して日米の考え方の違いを議論するだけで、M&Aやコーポレート・ガバナンスに関する日米のシステムおよび考え方の違いが全て議論できるのではないかと思うほど、興味深い問題です。

例えば、「会社が利益をあげるか損失を出すかは、CEOの手腕にかかっている」という考え方は日本よりもアメリカの方が強いと言われ、その結果、(優秀なCEOを獲得し、つなぎとめるために)「従業員の給料平均に対するCEOの報酬平均」値は、アメリカが日本の4~5倍高いと言われています。よって、アメリカには元々役員に多額の退職金を給付する風土が備わっている・・・と考えることもできそうですが、それだけがゴールデン・パラシュートに関する違いの理由ではなさそうです。
アメリカでなぜゴールデン・パラシュートが発展したのかについては、次回のコラムで更に詳しく考えてみたいと思います。

表明保証条項を巡る紛争(日本のケース)(その2)

続いて、昨年判決が出たライブドアオート表明保証責任訴訟(*)-平成19年9月27日東京地裁判決(確定)-についても触れておきたいと思います。

ライブドアオートはライブドアとの間で、平成17年8月25日付けで「資本提携に関する基本合意書」、平成17年9月1日付けで「業務提携に関する基本合意」を締結し、その後、ライブドアがライブドアオートの過半数の株式を保有するに至りました。つまり、ライブドアがライブドアオートを子会社化したわけです。しかし、その後、ライブドアが指名しライブドアオートに派遣された取締役の一部が、ライブドア本体の粉飾決算等に係る証券取引法違反の疑いで逮捕され、ライブドア本体も東証への株式上場を廃止されました。このような事実関係の中で、自らも損害を被ったライブドアオートはライブドアに対して、「ライブドアは本件粉飾決算等を告知する義務があったのにこれを怠った」等と主張して約16億円の損害賠償請求を起こしました。

結論として、裁判所は、ライブドアオートからの請求を棄却しましたが、ここでのポイントは、本件各提携契約には「ライブドアの財務状況に関する表明保証条項」が存在しなかったということです。契約条項が存在しない場合、M&A契約の当事者は、それぞれいかなる範囲で自己の財務内容等を相手方に対して告知し、表明保証する責任を負うのでしょうか?

ライブドアオートは、「買収者が買収対象会社との間で資本・業務提携契約を締結した場合は、契約書上、条項として明示されていなくとも、信義則上、買収者は、買収対象会社に対し、企業の信用に深く関わる違法行為を行っていないことについて表明保証責任を負担する。」と主張しました。これに対して、ライブドア側は、「企業間の買収については、私的自治の原則が適用となり、同原則からは、買収に関する契約を締結するか否かを決断するために必要な情報は、契約の当事者各人が自己の責任において収集し、分析することが求められる。」と反論しました。

裁判所は、両者の上記主張を踏まえた上で、次のように結論付けました。
1. 企業間の買収については、私人間の取引であることから私的自治の原則が適用となり、同原則からは、買収に関する契約を締結するに当たっての情報収集や分析は、契約当事者の責任において各自が行うべきものである。そうだとすれば、情報収集や分析が不十分であったなどのために契約当事者の一方が不利益を被ったとしても、当該不利益は当該当事者が自ら負担するのが原則であると解するのが相当である。
2. したがって、企業買収において資本・業務提携契約が締結される場合、企業は相互に対等な当事者として契約を締結するのが通常であるから、上記の原則が適用され、特段の事情がない限り、上記の原則を修正して相手方当事者に情報提供義務や説明義務を負わせることはできないと解するのが相当である。
3. 本件各提携契約は、ライブドアオートからの申し出を端緒として、交渉の結果、ライブドアオートとライブドアとの間において締結されたものであること、ライブドアオート及びライブドアともに東証の上場会社であり、その交渉経緯に照らしても、両者間に構造的な情報格差があるとは認められない。そうだとすると、本件各提携契約は、ライブドアオートとライブドアとの間で、対等な当事者として締結されたものと解することができ、本件各提携契約を締結するに当たっての情報収集や分析は、原則として、ライブドアオートとライブドアのそれぞれの責任において行うべきものであったというべきである。


本件でライブドアが一切表明保証をしなかったわけではありません。
① 本件契約の締結及び履行につき、法令上及び社内規則上必要とされる一切の手続を履践していること、
② 本件契約の締結及び履行につき、規制当局の許認可等が要求されることはなく、適用される法令・規則、社内規則、第三者との契約に違反するものではないこと、
③ ライブドアオートの従業員の処遇については、少なくとも平成17年11月15日を目処に開催される臨時株主総会後1年間は、原則これを変更しないこと、
という3項目の表明保証条項が規定されていました。しかし、財務状況に関する表明保証はなかったのです。

ライブドアオートは、本件訴訟の段階になり、「会社が、企業買収により他社を子会社化する場合、当該子会社の信用は、親会社となる買収者の信用に極めて大きく左右される。」と主張しました。そのように考えていたのであれば、本件契約書には、ライブドア側の財務状況に関する表明保証条項が入るべきだったのでしょう。ただし、理論的にはそうなりますが、実務上は、特に今回のケースのような「買主側の表明保証条項」を広範囲に要求することは交渉上難しく(売買の対象となるのはあくまで「売主側の事業」であるため)、売主側の表明保証条項は何十項目にも及ぶのに、買主側の表明保証条項は数項目のみ、というケースは珍しくありません。

「契約条項が存在しない場合、M&A契約の当事者は、それぞれいかなる範囲で自己の財務内容等を相手方に対して告知し、表明保証する責任を負うのでしょうか?」という最初のクエスチョンに対する答えは、「当事者が対等の立場にあって構造的な情報格差もないケースでは、契約書に定めない限り、相手方に対して自己の財務内容等を告知し、表明保証する責任は負わない」ということになるかと思いますが、交渉のプロセスで注意を怠りがちな「買主側の表明保証」についてもしっかり考えなければならないことを再認識させられた判例でした。

(*) 判例タイムズNo.1255 (2008.2.1) 313頁

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