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Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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表明保証条項を巡る紛争(日本のケース)(その1)

まずは、既に2年前の判例で、判例評釈も複数書かれていますのでご存知の方も多いと思いますが、M&Aに関する表明保証条項の解釈が問題となったアルコ事件-平成18年1月17日東京地裁判決(控訴審で和解が成立)-を紹介します。

【事案&判決要旨】(*1)
消費者金融会社A(株式会社アルコ)の企業買収を目的とするAの全株式の譲渡契約において、その譲渡価格(約23億円)はAの簿価純資産額により算出されており、株式の売主であるYらは、買主であるX(シンキ株式会社)との間で「Aの財務諸表は完全かつ正確であり、一般に承認された会計原則に従って作成されたものであること」等を表明保証し、この表明保証事項に違反があった場合にはこれによりXが被った損害を補償することを合意した。しかし、実際には、Aは、元本弁済に充当すべきであった和解債権についての弁済金を利息に充当し、同額の元本についての貸倒引当金の計上をしていなかった(その結果、貸借対照表上、簿価純資産額が不当に水増し計上されていた)。裁判所は表明保証条項違反を認めた上で、Xの悪意・重過失も否定し、YらはXに対して、不当に資産計上された利息充当額、本件和解債権処理を修正するための費用、本件訴訟を追行するための会計事務所・弁護士費用相当額の損害(合計3億円)を賠償する義務があると判示した。

・・・というものなのですが、本件では、売主側は、「本件和解債権処理の事実は、Due Diligenceの過程で提示した」と主張し、買主側はこれを否定しました。このようなやり合いは実務ではさほど多くはありません。というのも、近年のDue Diligenceにおいては、このような事後の紛争を避けるために、対象会社に対する質問があればペーパーで質問しペーパーで回答をもらうのが通常だからです。しかし、M&AのDue Diligenceでは、通常、経営陣等に対するインタビューが設定され、これは口頭で行われます。また、M&Aのスケジュールは非常にタイトであることが多く、相手方との協議の場が立て続けに設定されることもあるため、後日「口頭で伝えた、伝えなかった」という言い争いが発生することもありうるでしょう。本件の裁判所は、「買主側が当該事実を知り得たとはいえない」と認定しましたが、弁護士・会計士は、Due Diligenceの過程で示された事実を見落とさないよう注意するのはもちろんのこと、Due Diligenceの過程そのものとそこでやり取りした情報をなるべく記録に残すことが大切だと感じます。

(*1) 金融商事判例1234号6頁、金融法務事情1770号99頁、「M&A判例の分析と展開」(経済法令研究会)196頁
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表明保証条項を巡る紛争(アメリカのケース)

M&A契約には、通常、表明保証条項(*1)が入りますが、最近(2008年1月29日)、アメリカ連邦裁判所第8巡回控訴審は、Eckert v. Titan Tire Corp.事件(*2)において一つの判断を示しました。このケースでは、買主であるTitanが売主であるPirelliから従業員に対する退職金給付義務を承継したのですが、この退職金の計算に関してPirelliがTitanに提出したデータが間違っていたのです。本件の契約(資産譲渡契約でした)には、「PirelliはTitanに対して、承継した退職金給付義務を履行するに足りる資産を譲渡しなければならない」という義務が定められていたほか、「PirelliはTitanに退職金給付義務に関し正確な評価(correct actuarial valuations)を提供した」ことをPirelliが表明保証する条項が付けられていました。そして、本契約においては、この表明保証条項は1年で違反主張ができなくなるとされていましたが、前者の「PirelliはTitanに対して、退職金給付義務を履行するに足りる資産を譲渡しなければならない」という義務についてはこの期間制限は存在しませんでした。裁判で、Pirelliは1年の期間制限が過ぎていることを主張し、Titanは「Pirelliは承継した退職金給付義務を履行するに足りる資産を譲渡しなかった」と主張しましたが、裁判所は、「結局のところ、本件の計算間違いは表明保証条項違反である」として、Titanからの請求を棄却しました。

本件は事実認定に係る部分が大きく、先例としての重要性は高くないものと考えますが、実務家としては、(日本・海外に関係なく)「何が表明保証の枠の中に入ってくるか」「表明保証の枠の中に入るのと入らないのとで、どのような効果の違いが発生するか」という問題を常に意識しなければならないということを再認識させられるケースでした。日本の場合、表明保証条項に関する紛争が裁判にまで発展することは未だ多くはありませんが、いくつか出てきていますので、次回のコラムで紹介したいと思います。

(*1) M&A契約では、相手方の資産・負債・法的問題・会計的問題等について事前調査(Due Diligence)を行った上で、表明保証(Representations & Warranties)条項を設け、売主と買主が相互に相手方に対して事実を表示(Representation)し、かつ真実であることを表明者自身が保証(Warranty)することによって、その事実に違反した場合に相手方が被った損害を補償することが行われています。
(*2) Eckert v. Titan Tire Corp., 8th Cir., No. 07-1092

米国独占禁止法(ハート・スコット・ロディノ法)の改正について

米国FTC(*1)は、最近(2008年1月18日)、いわゆるHSR法(*2)の合併前事前届出基準(Premerger Notification Thresholds)を変更しました(*3)。独禁法というのは、他社を買収して事業を拡大していくM&Aとは切っても切り離せない関係にあり、とりわけ海外でも営業を展開している企業の場合、その営業地である外国の独禁法にも常に気を配らなければなりません。また、主要先進国の独禁法は、その国のマーケットや競争政策に影響がある場合は域外適用ができるという規定になっていますので、海外の独禁法について知っておくことは有用です。

米国独禁法のうちM&Aと重要な関わりを持ってくるのが、規制基準を定めるクレイトン法7条(*4)と手続法であるHSR法です。そのほか、水平合併に関する実務的に重要なガイドラインがあり、1992 Horizontal Merger Guidelineと呼ばれています。クレイトン法とこのガイドラインについては別コラムで紹介したいと思います。

さて、HSR法は、一定の要件を満たす資産取得と議決権付株式の取得に適用されるところ、HSR法が適用されるM&A取引を行う当事者はFTCと司法省に対して事前通知を行い、「実質的に競争を減殺し、または、独占を発生させる蓋然性があるかどうか」に関する審査を受けなければなりません。では、いかなる取引がHSR法の規制対象になるかですが、この点については、「取引規模」要件(Size of Transaction)「当事者規模」要件(Size of Person)の2点に注目する必要があります。改正の前と後を比べてみたいと思います。

【改正前】
1.「取引規模」要件
(1) 5,000万ドル以下の資産/株式取得 ⇒ 届出不要
(2) 5,000万ドルから2億ドルまでの資産/株式取得 ⇒ 「当事者規模」要件が満たされると届出義務発生
(3) 2億ドル超の資産/株式取得 ⇒ 常に届出が必要
(4) 評価額にして10億ドル超の株式を25%以上取得 ⇒ 常に届出が必要

2.「当事者規模」要件
「取引の一方当事者が1億ドル以上の資産または売上を有し、かつ、他方当事者が1,000万ドル以上の資産または売上を有すること」

【改正後】
1.「取引規模」要件
(1) 6,310万ドル以下の資産/株式取得 ⇒ 届出不要
(2) 6,310万ドルから2億5230万ドルまでの資産/株式取得 ⇒ 「当事者規模」要件が満たされると届出義務発生
(3) 2億5230万ドル超の資産/株式取得 ⇒ 常に届出が必要
(4) 評価額にして12億6150万ドル超の株式を25%以上取得 ⇒ 常に届出が必要

2.「当事者規模」要件
「取引の一方当事者が1億2620万ドル以上の資産または売上を有し、かつ、他方当事者が1,260万ドル以上の資産または売上を有すること」

・・・一見複雑な構造になっていますが、「取引規模」要件から順番に当てはめていけば、届出義務の存否が分かると思います。実際には、更に詳細なルールが存在しますので、実際に案件を進めていく際には独禁法専門弁護士のサポートが必要になってくると思われます。また、HSR法は、上記基準はGNPをベースにして毎年見直されるべきものと定めていますので(新基準の数字が中途半端なものになっているのはそのため)、今後も毎年注意が必要です。

(*1) Federal Trade Commission(連邦取引委員会)。日本の公正取引委員会に該当。
(*2) Hart-Scott-Rodino Antitrust Improvements Act of 1976
(*3) 新しいHSR Actは2008年2月18日以降にクロージングを迎えるM&A取引から適用されます。
(*4) Clayton Act(15 U.S.C. §12~)

ヤフーとマイクロソフトの攻防(Tin Parachutes)(その2)

さて、Golden ParachutesとTin Parachutesの違いの2点目は、導入方法です。日本の場合、Golden Parachutesは役員の退職慰労金に関するものですので株主総会の決議が必要であるのに対し、Tin Parachutesは従業員の退職金に関するものですので労働法所定の手続に加えて取締役会決議で導入できます。よって、Tin Parachutesの方が機動的に導入できるといえるでしょう。なお、米国では、Golden Parachutesについても株主総会の承認は不要ですが、機関投資家が株主総会での承認を得ているGolden Parachutesについては異議を唱えない傾向があることから(金額にもよります)、会社が進んで株主総会にかけることがあります。

Golden ParachutesとTin Parachutesの違いの3点目は、効果です。「Tin Parachutesの方が、一旦導入された後に買収者が交渉によって撤去するのが難しい」とか「裁判所から見た場合、Golden Parachutesは無効と判断しやすいが、Tin Parachutesでは利益相反状況がないからこれを無効というのは難しい」といわれることがありますが、対象人数の多さや相手が従業員であるということを考えれば、買収者側から見てより嫌なのはTin Parachutesの方であろうと思います。また、Tin Parachutesには、買収におけるコスト戦略としてターゲット会社の従業員の整理解雇(lay off)に重点を置いている買収者を排除するという効果もあります。

ところで、ヤフー社のTin Parachutesの内容は、同社がSECに提出したフォーム8-Kによれば、

企業支配権の移動から2年以内に、被用者が「理由」(“cause”)なく当社により解雇された場合、または、被用者が「正当な理由」(“good reason”)をもって退職を願い出た場合、
(1)退職金として、退職日以降指定期間(社員の職位に応じ、4ヶ月から24ヶ月)中、社員の年俸ベースの給与支給を継続する。
(2)退職日以降24ヶ月間の再就職費用の償還(職位に応じ、3,000ドル~15,000ドルを上限とする)
(3)退職金支給期間中の医療団体健康保険及び歯科保険の継続
(4)退職時に未行使のストックオプション、制限付株式その他エクイティベースの権利の繰上げ行使を認める


というものでした。果たして、この内容は一般的なものなのでしょうか?実務家としては、「先例として使えるかどうか」が気になります。

Tin Parachutesは原則として開示されないために調査が難しいのですが、オラクルがピープルソフトを買収しようとした2003年に、ピープルソフトは、総額2億ドルに及ぶTin Parachutesを導入しました(*1)。また、古い例なども調べていくと、「敵対的買収の場合には雇用期間1年当たり1ヶ月分の給料相当額の退職金(下限3ヶ月、上限24ヶ月)を支給する」とか「敵対的買収の場合にはボーナスも含めた年俸の50%から250%を支給する」といった例があるようです。Golden Parachutesの場合、アメリカでは、税法によって、過去5年間の平均報酬の3倍以上の退職金を役員に支払うとそれをもってGolden Parachutesに該当するとされています(Golden Parachutesに該当すると、平均報酬を超える部分に関して20%の超過税が課されます(*2))。よって、「Golden Parachutesは年俸の299%まで」といったイメージが存在するのですが(これはあくまで税務的な観点からのアドバイスにおいて299%に留めておいた方がよいと言われるものに過ぎず、実際のGolden Parachutesプランでは300%以上支給することを定めているものもあります)、その点からしても、Tin Parachutesは2年分程度が穏当な範囲かという印象を持ちます。その他、様々な資料を読んでみたのですが、
1.対象者は、Change in Controlから2年以内に解雇された従業員
2.雇用期間1年につき2週間から1か月分の給料相当額を退職金として支給する
3.支給額上限は2年分の給与相当額前後
4.支給期間に相当する期間中、保険や福利厚生関連のサービスは継続する
5.各種権利の待機期間については撤廃され、即権利行使が可能になる

といった内容が多いように感じました。そうすると、ヤフーのTin Parachutesプランは特段目新しいものではなさそうです(*3)。

なお、これらのParachutesプランについては批判も少なくありません。ここに潜む利益相反の問題や株主の利益との関係については、また別の機会に述べたいと思います。

(*1) 12 Harv.Negotiation L.Rev.1
(*2) IRC Section 280G and 4999
(*3) そもそもTin Parachutes自体は目新しいものではありません。アメリカでは1980年台に登場し、いくつかの州ではTin Parachutes法まで成立しました。例えば、マサチューセッツやロードアイランド州では、Change in Controlから2年以内に解雇された従業員に対して、それぞれ「雇用期間1年につき2週間分」の給料相当額を退職金として支給するという法律ができました。なお、いくつかの州のTin Parachutes法は、裁判所によって、<「アメリカの連邦法であるERISA(Employee Retirement Income Security Act)という労働者保護法が優先する結果、適用されない」という判断>を受けています。

ヤフーとマイクロソフトの攻防(Tin Parachutes)(その1)

ソフトウエア世界最大手の米マイクロソフトがインターネット検索大手の米ヤフーに総額446億ドルの買収案(*1)を提示していますが、ヤフー取締役会はこの買収提案を拒否した上で、買収防衛策として従業員の退職金制度を改定しました(報酬委員会の承認日は2008年2月12日)。この退職金制度の改定により、買収後2年以内に正当な理由なくヤフーの従業員が解雇された場合、当該従業員はそれぞれの地位に応じて4か月分から2年間分の基本給と特定の手当てが支給されることになります。これが買収者から見た場合には買収費用の大幅増加となり、買収防衛策の一種になるということです。

このような「買収防衛策としての従業員退職金支給制度」は、役員への退職金制度が「黄金のパラシュート」(Golden Parachutes)と呼ばれているのに対して、若干豪華さに欠ける「スズ(ブリキ)のパラシュート」(Tin Parachutes)と呼ばれますが、Golden ParachutesとTin Parachutesにはいくつか違いが存在します。

1点目は、ディスクロージャー(開示)に関する取扱いです。取締役(Director)・役員(Officer)に対する報酬・退職金(年金プランを含む)については、アメリカであれば委任状説明書(Proxy Statement)へ記載して開示することが証券取引委員会(SEC)の規則によって定められています(ただし、取締役・役員の全員が対象となるわけではありません)。よって、Golden Parachutesの内容は、公開されている情報を元にチェックできます。

他方、日本では、会社法施行規則121条4号に基づき、公開会社は「当該事業年度に係る取締役、会計参与、監査役又は執行役ごとの報酬等の総額」を「事業報告」(=旧商法下での「営業報告書」)の記載事項としなければならないとされていますが、役員ごとの個別開示義務はありません。そのほか、金商法(旧証取法)上、「コーポレート・ガバナンスの状況」に関する情報として、役員報酬の内容が有価証券報告書の記載事項とされていますが(平成15年3月31日内閣府令28号)、「企業内容等の開示に関する内閣府令」は役員報酬の記載方法に関する詳細なルールを定めていませんので、退職慰労金については実務上記載したりしなかったりと様々です(*2)。いずれにしても、Golden Parachutesであれば、その存在が開示される可能性があります。

他方、Tin Parachutesについては従業員の退職金ですので、アメリカでも日本でも開示義務は存在しません。よって、Tin Parachutesを導入した会社から進んで開示がなされない限り、その存在を知ることは困難といえます。実務家の観点からは、原則的に開示されないものについては調査がしにくいということで、先例探しに苦労されている方もいらっしゃるのではないでしょうか。では、なぜ今回ヤフーが策定したTin Parachutesについて報道機関が報道できたのか?それは、ヤフーが、今回のTin Parachutes策定の事実を、2008年2月12日付け<SECへの報告書(フォーム8-K)>(*3)に記載して開示したからです。では、なぜ、今回のプランがフォーム8-Kの対象事項となったのか?それは、「当該プランは、CEO・CFO・上級Officerをも対象とするものであったから(よって、開示義務が発生する)(*4)」というのが法律上の回答になると思いますが、実務上は、あえて開示することでマイクロソフトに対してヤフーが買収防衛策を導入したことを知らせるためであったのだろうと推測します。(続きは次回の記事にて。なお、本ブログでは、赤字部分はリンクを含んでいませんが、青字部分は全てリンクを含んでいます。)

(*1) 1株31ドルでの買収提案。1月31日の終値に62%のプレミアムを上乗せ。
(*2) 米英仏独などでは公開企業の上位役員の個別報酬開示はすべて強制であるのに対し、日本では総額や計算方法の開示で足りる点については、株主からの批判もあり、最近様々な議論がなされていますが、ここではひとまず置いておきたいと思います。
(*3) 「臨時報告書」(Current Report)
(*4) 役員も含んでいるという点からは、今回の退職金プランはTinとGoldenの合体版であるといえます。

取引保護措置(Deal Protection Measure)とは?(その2)

さて、「特定の買主候補とのみ交渉し、最終契約締結後にも第三者から声が掛からなかった場合に、その事実のみをもって株主の利益が最大限守られたと言い切ることができるでしょうか?」というのが、前回の問題提起でした。日本のM&A実務においては、特定の買主候補とのみ交渉するか、最初からオークション(入札)形式を採るパターン(特に事業再生に絡むM&Aの場合はほとんど入札形式になります)がほとんどであり、前者の相対交渉のケースでは、「特定の買主候補とのみ交渉し、最終契約締結後も第三者から声が掛からなかったために、当初の買主候補と無事に取引を終えた」パターンが多いと考えられます。

しかし、プレスリリースや証券取引委員会、証券取引所への報告書などでM&A取引が行われていることを公表している場合には、第三者がディールの存在を知って競合提案を行うこともありうると思いますが、冷静に考えてみれば、ある程度積極的に他の買主候補にも声を掛けなければ、「株主にとって最も良い買収条件が提示された」と証明するのは難しい場合もあると思われます。「他の人たちに声も掛けていないのに、なぜこのディールの条件がベストと言えるのか?」という疑問が株主の中から発生するのは当然といえるでしょう。そこで、アメリカでは2004年頃から、Go-Shop条項と呼ばれるテクニックが利用されるようになりました(Go-Shop条項については、別稿で詳細に解説したいと思います)。

このように、No-Talk条項から始まりNo-Shop条項が普及し、最近はGo-Shop条項が大型ディールの多くに取り入れられているアメリカのM&A実務の流れとしては、Fiduciary Outを重視する方向に動いています。そうなれば、最初に交渉を開始した買主候補としては、いかにして第三者に横取りされずに目の前の取引を成立させるかについて真剣に考えざるを得ません。つまり、ますます契約書に盛り込む取引保護措置の設計方法、実効性が問題となるわけです。

この点、現在の米国M&A実務においては、①Termination Fee (Brake-Up Fee) 条項で対抗する方法、②最終契約締結後に競合者が現れた場合に、当初の買主候補が競合者と同条件の提案を「後出し」的に行えば当初買主候補との間で自動的に契約が成立するとするMatching Right条項などが、違法とされずに合意済み取引を保護できる方策として頻繁に利用されています。このほか、取引保護条項には、当初取引に関する議案を株主総会に上程することを義務付ける条項と、買主が売主会社の主要株主との間で、当該買主との取引に関して株主総会において賛成票を投じることを合意する方法の組み合わせで当初取引を完全保護(Lock Up)する手法も利用されてきましたが、デラウエア州裁判所は、かかる手法には疑問を呈しています。

日本の実務においても、株主の利益の最大化を図るべき取締役の義務、その義務から導かれるFiduciary Out条項と、当初の取引を守りたいと考える買主が契約書に入れて欲しいと要求する取引保護措置のせめぎ合いが本格的に発生するのは時間の問題であると思います。現在の米国M&A実務では、Go-Shop条項+Matching Right条項+Termination Fee (Brake-Up Fee) 条項という3点セットでこの問題の解決を図ろうとしていますが、実は、早くもGo-Shop条項を巡って訴訟が提起され、裁判所によっていくつかの判断が示されています。この点はいずれ紹介したいと思いますが、いかなるディール・テクニックも万能ではなく、常に進化し続けることを要求されているのだということを実感させられます。

取引保護措置(Deal Protection Measure)とは?(その1)

取引保護措置(Deal Protection Measure)とは、進行中のM&A取引に別の買主候補が介入してくるのを防ぐために講じられる種々の合意事項をいいます。

M&A取引では、売主である会社の取締役は、少しでも自社の株主に有利な条件を引き出せる買主を探すのに対し(*1)、既に買主として交渉を始めた者は、競合する買主が登場することによって買収価格が上昇することや、結果として合意済みの取引が破棄され、それまでの交渉や取引に費やした多額の費用や時間が無駄になることを嫌います。取引保護条項はアメリカで発展したディール・テクニックであり、日本では、「基本合意書」において独占交渉条項を設ける程度でしたが(*2) 、近年、「最終契約書」に取引保護条項を入れるケースも徐々に増えていると思われます(*3)。

取引保護条項の典型例は、No-Talk条項と呼ばれる「競合者との交渉・情報提供禁止義務」ですが、競合者との交渉の余地を完全に否定するこの条項はデラウエア州では違法とされ、実務上は使用されていません。そこで、より有利な提案については「乗り換え」の余地を認めるNo-Shop条項が、アメリカのM&A実務では広く用いられています。これは、原則として、他の競合買主候補を探すことは禁止しつつも、第三者から競合提案が示された場合には、外部専門家の意見に基づき、当該提案が「優越的提案(Superior Proposal)」に該当するかどうかを判断し、もし優越的提案に該当するとの判断がなされた場合には、一定の手続の下で独占交渉義務の例外を認める(Fiduciary Out条項)ものです 。このNo-Shop条項でも、売主の方から積極的に競合買主候補を探すことまでは認められません。

しかし、No-Shop条項が契約書に入っているとしても、特定の買主候補とのみ交渉し、最終契約締結後にも第三者から声が掛からなかった場合に、その事実のみをもって株主の利益が最大限守られたと言い切ることができるでしょうか?
この続きは、<取引保護措置とは?(その2)>で述べたいと思います。

(*1) アメリカでは、1986年のレブロン判決により、取締役が会社を売却すると決定した場合には、株主の利益の最大化を図るべき義務を負うことが明確になりました。
(*2) 例として、UFJグループ・住友信託間の協働事業化に係る基本合意書など。
(*3) 三菱東京・UFJ間で締結された平成17年2月18日付統合契約書において、No-Shop条項と評価できる規定が設けられました。

M&Aにおいて取締役の義務違反が問題となる主なケース

M&Aにおける取締役の義務違反が問題となる主なケースとしては、買収防衛策を導入・実行する場合(取締役の保身の手段として利用される可能性があるため)、M&Aの交渉過程において取引保護条項を利用して他の競合買主を排斥する場合(株主にとってより良い条件のM&Aが排斥される可能性があるため)、MBO(取締役の買主としての利害と株主の売主としての利害が正面から対立するため)などが考えられます。

買収防衛策に関しては、①平時に事前警告型等の防衛策を導入する、②有事に、新株(予約権)を発行する、敵対的TOBに応じないように株主に呼び掛ける、ホワイトナイトを探してきて推薦する、といった具体的状況が考えられますが、いずれにしても、取締役の義務違反の観点からは、手段の合理性に加え、内容の明白な不合理性の有無を問う判例の基準を満たす必要があると考えます。

取引保護措置に関しては、オークション(入札)手続を採用することが取締役の義務違反リスクを最も軽減する方法ですが、実際には、入札手続を選択すると目の前の買主候補が去ってしまう可能性もあり、交渉過程上取引保護措置を入れざるを得ないことが多いものと考えます。しかし、その場合でも、いわゆるFiduciary Out条項や最近アメリカでの利用頻度の増えているGo-Shop条項を利用することで、株主にとって最善の選択をしたと評価できる環境作りが重要になります 。

近時、平時の防衛策に関しては、株主総会の承認を得ることが重視されています。これはそのとおりですが、株主総会にかけることで取締役の義務が消滅するわけではありません(*)。<ヤクルト本社事件>でも、判断の内容面については経営者の判断が原則として尊重されていますが、判断のプロセス面については合理性が正面から検討されています。株主にとってより利益となる他の選択肢があるか否かに関し、十分な情報に基づき検討するその判断過程が極めて重要になると言えます。

(*) 取締役は経営を任されている以上、「株主総会にかけさえすれば、取締役としての適正な判断義務は履行しなくてもよい」というわけではないという意味で、この表現を用いています。実際に、訴訟を起こされて取締役が責任を負担するかといえば、「株主総会の承認を得ている以上、責任は負担しない」と言って良いと考えますが、取締役の行為規範としては「株主総会で判断してもらえれば済む」ではなく、常に義務違反を問われるリスクを念頭に判断しなければなりません。防衛策だけを考えれば総会の判断が一番重要ですので総会にかければ取締役の義務がそこで消滅すると言ってもよいかも知れませんが、取引保護条項については契約書に盛り込まれてそのまま株主総会の承認を経たとしても、その後になって、どうしてオークションをしなかったんだとか、他の会社が手を挙げていたのにどうしてそこに売らなかったんだというような異議が、当該取引に反対した株主から出てくることがありうると考えます。厳密に言えば、ここは、反対株主の救済手段は株式買取請求権に限定されるのか、それともディールそのものの差し止めまで求められるのかという論点につながりますが、取締役としては常に反対株主から責任追及されることを考えておかなければならないと思います。また、総会に提出した議案の中で取締役会が賛成意見を書いたり推薦した場合において、取締役が不十分な資料を元に最善の選択肢と判断した上で推薦していたとすれば、たとえ総会で承認されても、その総会の判断の正当性は根底において揺らぎますので、その場合にやはり取締役の善管注意義務・忠実義務違反の問題にはつながりうると考えます。

企業結合会計~消えゆく持分プーリング法~

企業結合会計といいますと、国際的な会計基準はパーチェス法ですが、日本には一部持分プーリング法が残っています。ここを欧州証券規制当局委員会(CESR)に指摘され、補正するように求められていました。

そこで、日本では、平成18年12月に企業会計基準委員会(ASBJ)事務局内に企業結合プロジェクト・チームが設置され、国際基準との違いや日本の状況を調査した上で、平成19年10月に、「企業結合会計に関する調査報告-EUによる同等性評価に関連する項目について-」をASBJに提出しました。その後、ASBJは、上記調査報告書を元に審議を重ねた上で、平成19年12月27日に「企業結合会計の見直しに関する論点の整理」を公表しました(パブコメの受付は既に終了)。この動きについては引き続きフォローする予定ですが、その前に、パーチェス法とプーリング法の違いを、法務チームに必要な範囲内で理解しておきたいと思います。

パーチェス法というのは、「結合される企業・事業から受け入れる資産・負債の取得原価を、対価として交付する現金・株式等の時価とする方法」です。他方、持分プーリング法は、時価評価を行なわず、簿価を結合させる方法になります。パーチェス法を採用した場合、結合に際して含み益や営業権なども時価評価されるため、純資産額が増加することになります(プーリング法では全て簿価で引き継ぐため「のれん」は発生しません)。これが「のれん」(Goodwill)で、日本では20年以内の一定期間に定額償却する方式が採用されています。この「のれん」の償却が収益を圧迫することを嫌い、また、「パーチェス」=「大が小を買収する」というイメージを嫌い、従来、日本でもアメリカでも、何とか持分プーリング法を適用しようとするケースが多く発生したようです。

しかし、アメリカでは、結局、持分プーリング法は完全に廃止され、今はパーチェス法のみが許されています(つまり、いかなる場合でも、どちらが買収会社でどちらが被買収会社かを決めなければなりません。この決め方についても一定の基準が存在します)。なお、アメリカではパーチェス法によって発生する「のれん」については政策的判断により償却不要とされ、必要に応じて減損処理をすることだけが要求されています。

日本では、2006年から新ルールとして企業結合会計基準が適用が始まりましたが、パーチェス法への一本化は見送られ、持分プーリング法が生き残りました。ただし、現時点において、持分プーリング法が適用されるのは、対等な結合と見なすべき以下の3つの条件をすべてクリアしたケースのみとなります。

① 企業結合の際、支払われる対価がすべて株式であること
② 結合会社の各株主の議決権が、結合後の会社の議決権比率でおおむね50:50(上下5%のズレはOK)になること
③ 議決権比率以外の支配関係を示す一定の事実がないこと

遅かれ早かれ、この持分プーリング法は廃止されると思いますが、その場合には、どのような基準で取得企業を決定するかという論点がアメリカと同様に問題になってくると考えます。

取締役の義務違反の判断基準

善管注意義務・忠実義務が履行されたか否かを判断する基準に関する判例の表現は必ずしも統一されていませんが、例えば「意思決定が行われた当時の状況下において、取締役の一般的に期待される水準に照らして、当該判断をする前提となった事実の認識の過程(情報収集とその分析、検討)に不注意な誤りがあり、合理性を欠くものであったか否か、そして、その事実認識に基づく判断の推論過程及び内容が明らかに不合理なものであったか否かが問われる」と判示したものがあります(ヤクルト本社事件/東京地判平16.12.16)。

ここでのポイントは、判断の内容面については経営者の判断が原則として尊重されているのに対し、判断のプロセス面についてはその合理性が正面から検討されているということです。
まず、判断の内容面については、取締役に広い裁量が与えられているといえます。そこで、この点を捉えて、アメリカの州判例法上の「経営判断の原則」(Business Judgment Rule)に類似した判断枠組みであるとする立場もあります。しかし、アメリカのBusiness Judgment Ruleというのは、取締役と会社・株主間に利益相反状況がないことを前提に、取締役の意思決定過程に不合理がなかったかどうかだけを審査する方式と考えられます。上記ヤクルト本社事件の判旨を見ても、日本の裁判所は判断内容の合理性についても一応踏み込んで審査するわけですので、同じ判断枠組みとはいえないと考えます。

なお、何をもって不合理だったと認定するかに関しては、判例上、裁判所が取締役の行為がなされた当時の「会社の状況及び会社を取り巻く社会、経済、文化等の情勢の下において、当該会社の属する業界における通常の経営者の有すべき知見及び経験」を基準として不合理の有無を判断する(東京地判平成16年9月28日判例時報1886号111頁)とされています。

続いて、判断のプロセス面ですが、実務的にはこちらの方が更に重要になってくると考えます。裁判所の判断基準上も、プロセス面は内容面よりも厳格にチェックされることになりますし、今から判断する取締役としても、株主にとってより利益となる他の選択肢があるか否かに関し、十分な情報を収集し、それらをよく検討し、他の取締役や専門家と十分議論した上で決定に至るというプロセス自体は、意識すれば実行可能なことであると思われるからです。

この点、アメリカ(デラウェア州)には、Smith v. Van Gorkom (Del. Sup. Ct., 1985, 488 A.2d 858)事件という、取締役の判断プロセスが問題になった有名な事件があります。このケースでは、有名な買収専門家から提案された会社買収案に対し、事前の報告も受けずにとにかく集まった取締役たちが、前提知識がなかったにもかかわらず、わずか2時間検討しただけで賛成票を投じたのですが、このような取締役の判断プロセスについて裁判所は、判断ができるだけの情報すら十分に集めていないのに適切な判断ができるはずがないという考えに立ってBusiness Judgment Ruleの適用を否定し、取締役の責任を認めました。この点、日本においても参考にできるのではないでしょうか。

なお、アメリカのデラウエア州裁判所は、Business Judgment Ruleを原則としつつ、支配権の移転を伴うM&Aの場合にはいわゆるレブロン基準を、買収防衛策についてはユノカル基準を採用しています。各基準の内容については、それぞれの項目をご覧ください。

取締役は誰の利益を守るべきか?

会社の取締役が、善管注意義務・忠実義務(会330条、民644条、会355条)を負うことについては、<取締役の義務>で述べましたが、では、取締役は、M&A取引に関連して、具体的に誰の利益を守ることを期待されているのでしょうか。

この点については諸説ありますが、大きく分けると、①株主の利益の最大化を図る義務を負うという立場と、②それに加えて、債権者、従業員や消費者等、株主以外の関係者の利益保護も取締役の義務に含まれるという立場になります。このうち、後者の立場が注目する「債権者、従業員や消費者等、株主以外の関係者の利益保護」というのも、会社経営における大事な要素です。特に日本では、「取締役=株主からの信託を受けた受託者」であるアメリカと異なり、会社は株主の所有物であるという観念がアメリカよりも薄いと思われます。また、実際にM&A案件に関わる弁護士としては、実務的感覚として、債権者や従業員の利益を度外視したアドバイスは非常にしにくいことからも、上記②の見解は説得的だと感じます。

他方、M&Aというのは、株式譲渡であれ資産譲渡であれ合併であれ、本質的に、既存株主の利益と取締役の利益の対立が起こりやすい取引といえます。取締役の立場に立つと、M&A取引完了後に、自らの地位が新会社あるいは新体制下において維持されるのかという点が気になります。自然な心情として、引き続き取締役として迎え入れてくれる買主と契約をしたいと思うものではないでしょうか。その場面において、もし、「株主に払う金額は高いが、取締役は全て刷新する」という条件を競合買主候補が提示してきたら・・・?

このようなシーンを考えると、とりわけM&Aにおいては、取締役は何よりもまず株主の利益の最大化を図る義務を負うと考えるべきだとも考えられます。日本においてはアメリカのような社外独立チェック型取締役会が存在しない点からも、上記のような利益相反状態においては株主利益を重視してしすぎることはないとも言えるでしょう。また、株主以外の利害関係人の利益を守る法令として、金商法、独禁法、労働法、消費者法などが存在し、監視しているため、株主以外のステイクホルダーの利益が蔑ろにされることもないと言いたいところです。

ただ、株主の利益重視論は、法人擬制説を採るアメリカで発展した「法と経済学」において、「契約の束」理論(*1)に立ったものの、契約は不完全であることが多いため株主の利益を最大限重視することを考えるべきだ・・・という流れで提唱されるようになった側面があります。もちろん法人本質論について如何なる立場に立っても株主利益を最大限重視すべきか否かに関しては両方の結論がありえますが(法人実在説に立っても、会社の法律上の所有者は株主であるため)、日本の民法に対する判例・通説の解釈は法人実在説であり、アメリカのような「法人擬制説⇒契約の束理論⇒契約の不完備性を補うために株主重視の考え方が発達」といった経緯を辿っていないことについては注意が必要だと考えます。また、アメリカで発達した株主利益重視論は、キャピタルゲインの増加を目標とする投資家(特に機関投資家)の声をかなり反映していますが、「投資以上の見返りが必要」であるという金融界の要望を産業界にどこまで導入すべきかについてはもう一度よく考える必要があると思います。


(*1) 企業を、株主、経営者、従業員、取引先、債権者などのステイクホルダーが個別に取り結ぶ「契約の束」に過ぎないと考え、それ独自の存在と見ることを否定するという考え方

M&A取引において法務チームが注意すべき論点

M&A取引においては、戦略を立てる上でも、交渉を進めていく上でも、統合後も様々な問題点が発生しますが、弁護士としてすぐに思いつく論点としては、以下のようなものが挙げられます。これらの抽象的トピックの中に、多くの具体的論点が存在することになります。また、以下の論点とは別に、会社法、金商法、証券取引所規則、独禁法、労働法、税法等の法令・規則を遵守する必要もありますので、手続面でも内容面でもケアすべきことは無数にあります。

(1)  売主の立場で関与する場合 
   ①  友好的買収
      ・   資産売却、株式売却、合併、会社分割など、どの方式で売るのが良いか
      ・   上記に関係する税務・会計上の戦略
      ・   株主の利益保護のための方策
      ・   取締役の責任を問われないようにするための方策
      ・   従業員の地位を守るための方策
      ・   契約条項(リスクの合理的分配を含む)
   ②  敵対的買収
      ・   買収防衛策の内容及び導入方法
      ・   取締役の責任を問われないようにするための方策

(2) 買主の立場で関与する場合
   ①  友好的買収
      ・   資産売却、株式売却、合併、会社分割など、どの方式で買うのが良いか
      ・   上記に関係する税務・会計上の戦略
      ・   リスク発見・回避のための方策(法務DD含む)
      ・   取締役の責任を問われないようにするための方策
      ・   従業員を選別雇用するための方策
      ・   契約条項(リスクの合理的分配を含む)
   ② 敵対的買収
      ・ 成功させるための手法

(3) 資金供給者(スポンサー、ファンド)の立場で関与する場合
   ①  リスク発見・回避のための方策(法務DD含む)
   ②  リスクが判明したときにクロージングを回避するための方策
   ③  各種コベナンツ条項の内容
   ④  エグジットの手法

コーポレート・ガバナンス体制が変わりつつあります。

メインバンクシステムの解体、機関投資家の株保有比率の増加、信用格付制度の定着などによって、メインバンクによる審査体制から資本市場による評価体制への移行が進んでいます。責任の所在や投資の動機が不透明なメインバンク制が消滅しつつあることで、「経営計画のコンテスト」「究極のコーポレート・ガバナンス」と呼ばれることもあるM&Aへの親和性が高まってきているのです。

メインバンクが手放した株式の流通性が高まり、これを取得した年金基金やアクティビスト・ファンドは、自らが取得した株式を大量に売却すると株価が下がるために、むしろ「議決権の行使による経営への参画」を好み、その結果としてM&Aに進展するケースも見られるようになりました。

従来の日本企業にとって、株式の対価として振り込まれたお金は、維持コストのあまり掛からない自己資本でしたが、米国では古くから、「最もハイリスクを背負う株主から最も高いリスクプレミアムを期待される外部コスト」という位置付けです。その結果、株主を満足させることこそが、米国型コーポレート・ガバナンスになり、米国企業は株価向上を経営指針の最優先項目に掲げ、その結果起こった株式市場ブームが米国のM&Aブームを巻き起こしました。日本では必ずしも株価至上主義は採られていません。しかし、近年、敵対的買収防衛策に関し株主総会の承認が必要であると言われていることにも既に現れているように、今後は、経営計画の是非は株主に問うべきであるという声が高まり、企業支配権市場、すなわちM&A市場が拡大していくものと考えられます。

アメリカの取締役の義務(Fiduciary Duty)の内容

アメリカの会社の取締役は、株主に対して受託者としてFiduciary Dutyを負い、この義務のうち最も重要なものが、Duty of LoyaltyDuty of Careです。

原告(株主)がDuty of Care違反を主張しているときは、取締役はBusiness Judgment Rule を主張し、同Ruleが適用されれば、取締役は原告が取締役の重過失を立証した場合にのみ有責となります。

原告がDuty of Loyalty 違反を主張している場合(主に、取締役と会社の間に利益相反状況が存在する場合)には、Business Judgment RuleではなくEntire Fairness Testが適用されることになり、取締役は自らの判断が公正であったことを立証しなければなりません。また、Duty of Loyalty 違反が確定した場合には、デラウエア州会社法102条b項7号の取締役の責任制限条項、同145条の取締役への補償条項・責任保険条項の適用がありません。

このようにアメリカでは、Duty of LoyaltyとDuty of Careの棲み分けが比較的明確にできています。そもそもの背景として、アメリカには社外取締役が多いため、その分、取締役と会社・株主との利益対立が生じる場面も多いと考えられます。かかる社外取締役の責任追及の形態としては、利害相反状況にあるときはDuty of Loyaltyを適用して取締役の行動を厳しく規律するのに対し、利益相反状況がないときにはDuty of Care、すなわちBusiness Judgment Ruleを適用していわば「甘く」接するという二分法が自然なのでしょう。日本においては、アメリカのような明確な二分法は適用できないという見解が通説になっているようですが、その違いは上記のような背景にも基づいていると考えられます。

なお、近時、デラウエア州裁判所は、ディズニー事件(*1)やストーン事件(*2)を通して、これまでその位置づけが問題となっていたDuty of Good Faith という類型に関して判断を示しました。Duty of Good Faithとは、「意図的な義務放棄(intentional dereliction of duty)」「意識的な義務軽視(conscious disregard for one's responsibilities)」を指し、これらは従来Duty of Careの一類型と考えられてきましたが、上記判決を経て、現在は、むしろDuty of Loyalty違反の一類型と考えられるようになっています。

(*1) In re The Walt Disney Company Derivative Litigation, 906 A.2d 27(2006)
(*2) Stone v.Ritter, 911 A.2d 362(2006)

取締役の義務(善管注意義務と忠実義務の関係)

会社の取締役は、法令・定款および株主総会の決議を遵守し、会社のため忠実にその職務を行う義務(忠実義務、会355条)を負うとともに、委任契約に基づく善管注意義務(会330条、民644条)を負います。この2つの義務の関係については、忠実義務は善管注意義務の一部に過ぎないと考えるのが判例・通説です。

忠実義務については、アメリカの州判例法で確立されているDuty of Loyalty(取締役がその地位を利用して、会社の犠牲において自己または第三者の利益を図ってはならないとする義務)と同じものだとする見解もあります。しかし、日本の裁判所は、この忠実義務について、「通常の委任関係に伴う善管義務とは別個の、高度な義務を規定したものとは解することができない」(最判昭和45年6月24日民集24巻6号625頁)と判示していますので、両者は区別せずに理解されています。では、同じものをなぜダブルで定めたのか?この点については、委任契約上の善管注意義務はあくまで「契約上の義務」であり当事者間の契約自由の原則に従うが、多くの利害関係者を巻き込む会社経営の場合、委任契約の当事者である会社と取締役の間の合意で義務の内容が変更されては困るので、会社法にも義務規定を置いて強行規定化したものと考えられます。

金融の国境が消えようとしています。

世界では大型金融機関同士の合併・買収を通じて世界的な情報ネットワークを持つ巨大金融機関が生まれるとともに、クロスボーダーM&Aという手段を駆使して経営のグローバル化を図る顧客を多数抱える欧米の投資銀行が、投資資金の流れから国境という障壁を取り去りました。それと時期を併せて、日本国内では、時価会計、キャッシュフロー会計、連結財務諸表中心主義などが導入されたことにより企業財務の透明性が向上し、海外の投資機関・投資家にとっても投資しやすい環境が整備されました。国内の企業結合法制も、持株会社方式、会社分割、株式交換などの導入によってM&Aが圧倒的に実行しやすくなりました。

これにより、外国人投資家の株式保有率が上昇し、欧米系投資銀行と国内金融機関がM&Aやプライベート・エクイティ投資の分野において競争をしたり、逆に協力しあったりという状況が生まれました。ファンド・ビジネスの隆盛によって、ポートフォリオ・カンパニーの売り買いも増加の傾向にあります。

M&Aは元来、成長産業における統合や再建に使われるほか、新興産業における成長戦略として用いられ、その効果は規模拡大による取引量の増大、管理部門の経費共有化や重複部門の廃止によるコスト削減、垂直的統合による取引コストの引き下げなど多岐に亘ります。

しかし、M&Aの主たる動機や効果は上記の通りであるとしても、そもそもM&Aには資金が必要であり、「お金のあるところにM&Aが生まれる」側面も強いと言えます。かかるM&Aの金融的要因に注目した場合、金融の国境が消えたことにより、資金の有効な運用方法の一つであるM&Aについても今後一層グローバル化し、アメリカやイギリスに比べるとまだまだ小さな日本のM&A市場も、資金の流入に伴って拡大していくものと考えられます。

はじめに

皆さん、初めまして。

弁護士になった直後に、とある民事再生事件で、再生会社をどこかに売らなければならないことになり、買手探しに奔走したのが、私にとっての最初のM&A案件でした。
その後、国内で5年ほど経験を積みましたが、アメリカ型契約書やプラクティスがどんどん入ってきているにもかかわらず、「形」のみの輸入に留まり、有利不利の判断基準や潜在的問題点までは理解されないままで利用されるケースがあることを危惧し、M&Aの世界では「20年進んでいる」と言われているアメリカにて最先端のM&Aプラクティスを勉強すべく渡米。

シカゴのノースウェスタン大学ロースクールにて米国M&A取引に関する法律・判例・実務のイロハを学んだ後、アメリカ・ヨーロッパ・アジアの25箇所にオフィスを有するグローバル・ローファームのM&Aプラクティス・グループに所属し、現在は、米国内のM&A案件および国境をまたいで行われるクロスボーダーM&A案件に没頭する日々が続いています。

ニューヨークからお届けする最新情報をお楽しみいただくとともに、経験豊富な先輩方や、実務においてM&Aに関与されている皆さんからのコメントを頂戴し、私自身も成長していきたいと考えていますので、気長におつきあいいただければ幸いです。

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