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井垣太介 (Taisuke Igaki)

Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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自社株買いと公開買付け

簡単ではありますが、自社株買いをする際に公開買付けが必要かという問題を整理しておきます。

★ 他社株式の取得(金商法第2章の2第1節) ⇒ 3分の1ルールや5%ルールが適用される

★ 自社株式の取得(金商法第2章の2第2節) ⇒ 3分の1ルールや5%ルールは適用されない
 ⇒ 市場外取引であれば
  ① 原則:1株でも公開買付けが必要
  ② 例外:「会社法160条1項に規定する158条1項の規定による通知を行う場合」は公開買付け不要(金商法27条の22の2第1号)← よって、特定の株主との合意で自己株式を取得するケースにおいては、公開買付け不要(その代わり160条3項の売主追加請求権がある)

なお、立会外取引の場合でも公開買付けが必要とされるのは、あくまで「発行者以外の者による株券等の公開買付け」(他社株式の取得)の場合だけで、根拠条文としても、金商法27条の2第1項3号しかありませんので、自己株式を立会外取引(ToSTNet3等)にて取得する場合については公開買付け規制は適用されません。この点は、自己株式取得であっても、規制すべき理由があるのでは?という意見もあるようですが、現状、区別されているようです。

なお、自己株式取得の際にはインサイダー取引規制が問題となりますので、いわゆるクロ=クロ取引に該当させるために、取り交わす書面に

① 会社関係者又は情報受領者であること
② 職務に関し重要事実を知ったこと
③ 重要事実の内容の認識

を記載して万全を期す必要があります。インサイダー取引が既遂になる時期は、売買等に係る申込みと承諾の意思表示が合致した時点と解されていますので、この時点までに、売り手となる株主をクロにしておく必要があります。決算情報など、重要事実に該当するタイミングが難しい情報(*1)については、より注意が必要です。


(*1) 東京地判平4・9・25(マクロス事件)参照

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公開買付け制度に関する法改正(課徴金その他)

平成20年12月12日に改正金商法が施行され,公開買付けに関して,以下のような変更が発生しています。

開示書類
責任の種類
要件
効果
条文
公開買付届出書(訂正届出書を含む)
損害賠償責任
      重要な事項について虚偽の記載があり,
      記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けている。
   公開買付けに応じた株主に対する損害賠償責任(無過失責任)。
   取締役について連帯責任あり(相当の注意の抗弁はある)。
27条の20第1項2号(18条1項),27条の20第3項
課徴金
      重要な事項につき虚偽の記載があり,若しくは,
      記載すべき重要な事項の記載が欠けている
公開買付届出書の提出
(公開買付開始公告を行った日の前日の当該株券の最終価格)×(公開買付けにより買付け等を行った株券等の数)×25/100
172条の6第1項
罰則
重要な事項につき虚偽の記載のある公開買付届出書の提出
   違反行為者には,10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金,又は併科
   両罰規定により,法人にも7億円以下の罰金
197条1項3号,207条1項1号


このうち,実務上最もインパクトがあるのが課徴金だと考えます。公開買付届出書において,重要事項につき虚偽記載があれば,例えば1000億円のディールであれば250億円もの課徴金が課されてしまいます。

それから,損害賠償責任が無過失責任となっている点も要注意です。うっかりミスが許されないわけですから,これからは,法務部員も外部弁護士も,公開買付届出書の表面的なレビューだけやっていたのでは,後から言い訳ができない状況に追い込まれてしまいます。これまでは,弁護士としても,「知らない方が安全」(知っていたのに指摘を怠ると,そこで責任が発生するから)という傾向がないわけではなかったと思いますが,これからは,公開買付届出書に記載された事実関係について,しっかりと踏み込んでレビューを行い,例えば,MBOのプロセスなどについて重要な事実の記載があれば(第三者委員会の設置時期やアドバイザーの紹介ルートなど),ヒアリング等によって調査をした上で,真実に沿った記載を行うようアドバイスしていかなければならないと考えます。

大量保有報告制度について

今年(2008年)の1月に、金融庁が運営するEDINETに、トヨタ自動車、NTT、ソニー、フジテレビジョンといった大企業の「発行済株式の51%を取得した」とする虚偽の大量保有報告書が掲載され問題となりましたが、今回は、近年の証取法改正によって見直しが行なわれた大量保有報告制度について簡単に見ておきたいと思います。

上場会社の株券等について、新たに発行済株式総数の5%超を取得した場合には、大量保有報告書の提出が必要となります(金商法第27条の23第1項)。報告書の対象となる株券等には、株券、新株予約権証券、新株予約権付社債券、対象有価証券カバードワラント、株券預託証券、株券関連預託証券、対象有価証券償還社債、投資証券等、株券信託受益証券、株券関連信託受益証券が含まれ、5%超か否かの計算は、「自己保有分の株式数及び潜在株式数(*1)」に「共同保有者分の株式数および潜在株式数」を加えた数を、「発行済株式総数」と「自己および共同保有者の保有分の潜在株式数」の合計の数で割って求めます(法第27条の23第4項)。

ここで、「共同保有者」とは、以下の①、②を指します。

① 実質共同保有者(法第27条の23第5項)
 ⇒ 共同して株券等を取得し、譲渡し、又は議決権その他の権利の行使等を行うことを合意している者。
② みなし共同保有者(法第27条の23第6項、施行令第14条の7)
 ⇒ 以下の関係にある場合(*2)。
  ・ 夫婦
  ・ 支配株主(50%超の議決権を有している者)と被支配会社の関係
  ・ 支配株主を同じくする被支配会社同士の関係
  ・ 財務諸表等規則第8条第3項に規定する子会社と親会社の関係
  ・ その他(施行令第14条の7参照)

また、大量保有報告書の提出後、株券等保有割合が1%以上増減した場合その他大量保有報告書に記載すべき重要な事項の変更として政令で定めるものに関しては、変更報告書の提出が必要となります(法第27条の25第1項、施行令第14条の7の2)。

報告書はいずれも、EDINETを使用して提出しなければなりません(平成19年4月1日以降義務化)。提出期限は、報告義務発生日の翌日から起算して土日祝日を除き5日以内で、提出先は、提出者の住所又は居所(法人については本店所在地)を管轄する財務(支)局です(*3)。

ところで、機関投資家(金融商品取引業者、銀行、信託会社等)には、特例報告制度といって、一定の要件を充たせば、基準日(下記組合せのうちいずれかを選択)時点における報告を行うことが認められています(法第27条の26、施行令第14条の8の2第2項)。

・ 各月の第2月曜日及び第4月曜日(第5月曜日がある場合には、第2、第4及び第5月曜日)
・ 各月の15日及び末日(土日に当たるときは直前の金曜日)

これはもともと「3ヵ月毎に到来する基準日から15日以内に報告」とされていた特例報告の頻度・報告期限が、投資家に対する一層透明で迅速な情報開示が必要だという価値判断の下で、より頻繁かつ迅速に報告(2週間毎に到来する基準日から5営業日以内に報告)するように改正されたものです。機関投資家の運用行動についてはオープンにしすぎることによって投機筋に追随されたりしますので、これ以上頻繁な報告は難しいかも知れませんが、機関投資家が会社を支配する目的で大量保有を行なう場合には、別途考慮が必要です。かかる場合には対象会社および投資家に対する迅速な情報開示が必要であると言えますので、金商法は、「株券等の発行者の事業活動に重大な変更を加え、又は重大な影響を及ぼす行為として政令で定めるもの(重要提案行為など)を行なう場合」には、上記「特例報告」ではなく「一般報告」を行なうことを義務づけています。

更に、大量保有している機関投資家が株式を短期間に大量に手放すと、他の株主や投資家に少なくない影響を与えます。しかし、旧法においてはその手当てがなされていませんでした。よって、法改正によって、現時点で10%超保有している機関投資家が10%を下回る取引を行なった場合には、「特例報告」を認めず、5営業日以内の「一般報告」が義務づけられました。

最後に、大量保有報告書や変更報告書などを提出した場合には、遅滞なく、報告書の写しを当該株券等の発行者に対して送付しなければなりません。


(*1) 潜在株式数とは、新株予約権証券等の権利行使によって取得できる株式の数を言います(府令第5条)。
(*2) ただし、内国法人の発行する株券等の場合、単体株券等保有割合が1000分の1以下である場合には、みなし共同保有者から除外されます(府令第6条)。
(*3) 非居住者については関東財務局に提出。

インサイダー取引規制について(その5)~公開買付けに関するインサイダー取引規制~

株価に大きな影響を与えるM&Aの一つに公開買付けが挙げられます。しかし、公開買付けを行う者は上場会社とは限りませんので、金融商品取引法166条が定める「上場会社の重要事実に関するインサイダー取引規制」ではカバーしきれません。そこで、同法は別途167条において、「公開買付者等関係者の禁止行為」というタイトルで公開買付けに関するインサイダー取引規制を行っています。

166条と167条の違いは、まず規制の対象者です。166条では「会社関係者等」となっているところが、167条になると「公開買付者等関係者」になります(*1)。続いて、166条の対象事実は既に述べたとおり「重要事実」ですが、167条ではこれが「公開買付け等事実」という表現に変わります(それぞれ「決定」がなされたことをもって事実の発生と扱う点、「いつの時点で決定があったとみなすか」という論点が存在することについては166条と同じです)。また、禁止される行為は、166条では「株券等の売買等(売買その他の有償の譲渡・譲受等)」ですが、167条では、「株券等の売買(ただし、公開買付けの実施の決定時は買付けのみ、公開買付けの実施の中止の決定時は売付けのみ)等」になります。最後に、インサイダー取引規制が解除される「公表」の意義ですが、167条では、166条とほぼ同様に、以下の3パターンが用意されています。

① 公開買付者等または公開買付者等から公開買付け等事実を公開することを委任された人が、当該「公開買付け等事実」を、所定の2つ以上の報道機関に公開した時から12時間経過したこと (12時間ルール
② 公開買付け等事実を当該有価証券が上場されている証券取引所等に通知し、当該証券取引所等において電磁的方法により公衆縦覧に供されたこと
③ 公開買付開始公告、公開買付撤回の公告もしくは公表がされ、または公開買付届出書もしくは公開買付撤回届出書が公衆縦覧に供されたこと


上記②は、前回述べたように、東証であればTDNetを通じた公開になりますが、この方法は「上場会社等による自社株買いに係る公開買付け」(金商法27条の22の2)にしか適用されず、第三者が他社株式に対して公開買付けを行う場合には上記①か③の方法によるしかありませんので、その点注意が必要です。

また、金商法は、公開買付けそのものに加えて、「公開買付けに準ずる行為」も禁止していますが、この「公開買付けに準ずる行為」としては、政令(施行例31条)が、「単独でまたは他の者と協働して、総株主の議決権の5%以上を買い集める行為」を挙げています。村上世彰氏が率いる投資顧問会社であるMACアセットマネジメントが、2004年11月にライブドアの前社長堀江貴文氏らからニッポン放送株の大量取得情報を伝えられ、その公表前にニッポン放送株約193万株を約99億5000万円で買い集め約30億円の不正利益を得たとして、昨年、東京地裁が村上氏に懲役2年、罰金300万円、追徴金約11億4900万円、MACアセットマネジメントに罰金3億円の判決を言い渡しましたが、ここで問題になったのが上記の「公開買付けに準ずる行為」です。

ここで注意すべきは、上記5%以上の買い集め行為は取引態様を問わないということです。したがって、公開買付けを要しない市場内での買付けであっても、議決権の5%以上を取得すれば「公開買付けに準ずる行為」になります。

なお、公開買付け情報が一旦公表されると、公開買付者等の関係者は、公開買付の期間中、公開買付け以外の方法で当該銘柄の買付けを行うことができませんが、これは金商法上の別の規制であり、インサイダー取引規制とは関係がありません。


(*1) 正確に言うと、規制対象者は、①公開買付者等関係者、②かつて公開買付者等関係者であった者で公開買付者等関係者でなくなった後1年以内の者、③情報受領者の3種類になります。なお、「公開買付者」自身は規制対象に含まれていません。他社の株式に対して公開買付けを行うことを決めた時点から買付け等の取引ができなくなってしまうのは不合理だからです。

インサイダー取引規制について(その4)~「公表」と「特定有価証券」の意味~

インサイダー取引の規制を受けるのは、未公表の「重要事実」を知った「会社関係者」または「情報受領者」が、「重要事実」の発生後から「公表」の前までに、「重要事実」を知りながら行う株券等の売買等です。これまでに、「重要事実」の意義と、「会社関係者」「情報受領者」の範囲については勉強しましたので、次は、株式売買が禁止される期間について見てみたいと思います。具体的には、重要事実の「公表」とは、いつの時点のいかなる行為を指すのかという問題です。

金融商品取引法166条第4項および同施行令30条によると、「公表」とは、次の①~③のいずれかを意味します。
① 上場会社等の代表取締役(代表執行役を含む)又は当該取締役(当該執行役を含む)から委任された人が、「重要事実」について、法令で定められている2つ以上の報道機関に公開した時から12時間経過したこと (12時間ルール)
② 上場会社等が上場する証券取引所等に対して「重要事実」を通知し、当該証券取引所等において電磁的方法により公衆の縦覧に供されたこと(*1)
③ 「重要事実」に係る事項が記載された有価証券報告書、半期報告書、臨時報告書、その他訂正報告書等が公衆の縦覧に供されたこと


では、自社のウェブサイトに掲載することは「公表」に該当するでしょうか?・・・答えはNOです。よって、会社のウェブサイトで合併案が公表されたからといって安心して当事会社の株式を購入したりすると、未公表の重要事実を知って株式を売買したことになりますので注意が必要です。

なお、細かくなりますが、売買が禁止される株式等は、金融商品取引法「特定有価証券等」と呼ばれており、次の①・②がそれに該当します(*2)。
① 特定有価証券 : (会社法上の)株券、新株予約権証券、社債券及び優先出資法上の優先出資証券など
② 関連有価証券 : カバードワラント(*3)、他社株償還条項付社債(*4)など


また、金融商品取引法第166 条第6 項によって、次の①~④等は、未公表の重要事実を知っていてもインサイダー取引規制の適用除外とされています。
① ストック・オプション(新株予約権)の行使による株券の取得
② 役員持株会・従業員持株会による定時・定額の買付け
③ 株式累積投資
④ 重要事実を知る前に締結された契約を履行するための売買等のように、特別の事情に基づく売買等であることが明らかなもの


これらは、もともと株式等の売買が予定されていた以上、職務上知った重要事実を利用して儲けようとする投機的利得行為ではないため、規制の対象外とされたものです。ただし、例えば、①によって株券を取得した後にその株を重要事実の「公表」前に売却すればインサイダー取引となりますので注意が必要です。


(*1) 証券取引所が定める適時開示規則(M&Aに関する機関決定を行った場合には、直ちにその内容を開示しなければならない)が存在するために、例えば東証に上場している会社であれば、通常は、取締役会等の機関決定があった後数時間以内に、<TDnet>というウェブサイトを利用して公表が行われます。なお、②では①のような12時間ルールは適用されません。
(*2) 金融商品取引法163条第1項、同施行令27条の3・27条の4
(*3) カバードワラントは、株式オプションを証券化した金融派生商品です(<ウィキペディアの説明>)。
(*4) 他社株償還条項付社債(Exchangeable Bond)とは、普通社債券で、特定有価証券により償還することができる旨の特約が付されているものを言います。予定日に、現金ではなく所定の銘柄の株券で償還される点に特徴があり、債権の発行体と償還を受ける株式の発行会社が異なるため「他社株」という言葉が付いています。

インサイダー取引規制について(その3)~規制対象者の範囲~

続いて、誰がインサイダー取引の規制を受けるのかについて見ておきたいと思います。金融商品取引法上、インサイダーとして扱われるのは、
ア 未公表の「重要事実」を知った「会社関係者」及び過去1年間に「会社関係者」だった人(166条1項)
イ  「情報受領者」に該当する人(166条3項)

の二種類です。

まずは、アの「会社関係者」の意味ですが、次の①~⑤に該当する人たちがインサイダー取引の規制を受ける「会社関係者」になります。

① 自己の職務に関し重要事実を知った、上場会社等(*1)の役員及び従業員
② 会社法上の閲覧権の行使に関し重要事実を知った、上場会社等の帳簿閲覧権者(*2)
③ 権限の行使に関し重要事実を知った、上場会社等に対して法令に基づく権限を有する者(*3)
④ 契約の締結、交渉又は履行に関し重要事実を知った、上場会社等と契約を締結している者または契約締結交渉中の者(*4)
⑤ 上記②、④が法人である場合、職務に関し重要事実を知った、当該法人の他の役員及び従業員等


ここでは、③を除いて、「派遣社員、パートタイムおよびアルバイト」も含まれる点に注意する必要があります。また、「役員及び従業員」というのは、正確には、「役員(会計参与が法人であるときは、その社員)、代理人、使用人その他の従業者」を指します。したがって、通常、会社法上の役員には該当しないと考えられている顧問や相談役も、会社との関係によっては、「代理人、使用人その他の従業者」に該当する可能性がありますので、この点も要注意です。

続いて、イの「情報受領者」というのは、インサイダー取引規制を受ける関係者から情報を受け取った者を指しますが、正確には、次の①・②に該当する人たちが含まれます。

① 会社関係者又は過去1年間に会社関係者だった者から直接「重要事実」の伝達を受けた者
② 職務上の情報受領者(*5)と同一法人の他の役員又は従業員等が、その職務に関し「重要事実」を知った場合


ここでは、いわゆる「第一次情報受領者」のみが規制対象となっており、第一次情報受領者から更に伝達を受けた「第二次情報受領者」は規制対象から外されています。ただし、上記②はその例外を定めるもので、第一次情報受領者が職務上情報伝達を受けていた場合には、その第一次情報受領者と同じ会社に勤める同僚は、本来は第二次情報受領者となるところを格上げされて、あたかも第一次情報受領者であるかのように規制を受けることになります。

整理しますと、合併案を検討している会社の役員や従業員は「会社関係者」、その役員や従業員の家族や友人で合併案を聞かされた者は「情報受領者」に該当します。合併に関して直接相談を受けている弁護士等の専門家は「会社関係者」の④に該当し、直接相談を受けているわけではないがディールの過程で大なり小なり関与した者は少なくとも「情報受領者」になると考えられます(関与の度合いが大きかったり、会社との間で委任契約やアドバイザリー契約を結んでいれば「会社関係者」に該当します)。他方で、二回「又聞き」を挟めば、第二次情報受領者になりますので、原則として金商法166条3項が定める「情報受領者」ではないことになります。ただし、情報受領者の②の類型には注意が必要です。また、落ちていた資料から合併計画の存在を知ったに過ぎない者や、エレベーターの中でたまたま他人の話を立ち聞きしたに過ぎない者は、規制を受ける「情報受領者」とはなりません。

一般的には、情報共有者の数が増えれば増えるほど、情報漏洩のリスクも高まると言えます。そこで、実務上は、案件にコードネームを付し、重要書類はパスワード管理を行うなどの方法によって、厳格な情報管理を行っています。また、会社、法律事務所、会計事務所を問わず、プロジェクトチームのメンバーには、当該M&Aの計画が「公表」されるまでの間、当事会社の株式売買を禁止し、秘密を厳守することを求める文書を配布するのが通常です。


(*1) 親会社および子会社を含みます。
(*2) 総株主の議決権の3%以上を保有する株主(法人の場合はその役員等)
(*3) 上場会社の監督官庁に勤務する公務員等
(*4) 取引先・顧問弁護士・会計監査人・元引受証券会社(法人の場合はその役員等)等。日本エム・アイ・シー事件最高裁判決(平成15年12月3日、判例時報1845号147頁)は、ここでいう「契約」は、「重要事実」の前提となる契約に限定されないという見解を示しました。よって、アドバイザリー契約、委任契約、守秘義務契約、融資契約などが広く含まれることになります。
(*5) 「職務上の情報受領者」とは、職務に関し、上場会社の責任者や担当者から「重要事実」を直接伝達される者を意味します(例: 企業業績の分析等を行う証券アナリストや新聞記者など)。

インサイダー取引規制について(その2)~重要事実の意義~

上場会社の役員や従業員は、一般の株主には容易にアクセスできない「株価に影響を与える情報」に接する機会が多いと言えますが、それらの情報を利用した内部者の株取引を規制しなければ、一般投資家は著しく不利な立場に置かれ、市場の公正性と健全性が損なわれてしまいます。そこで、インサイダー取引の厳格な規制が必要になってくるわけですが、まずは、何がインサイダー情報となるのかについて見ていきたいと思います。

インサイダー取引の対象となるのは、趣旨から考えて、投資判断上重要な影響を与える情報ですが、金融商品取引法はこれを「重要事実」という言葉で表現しており、次の①~④がこれに該当します(*1)。

① 決定事実: 会社(子会社を含む)の業務執行機関が意思決定したもの(*2)
② 発生事実: 会社の意思にかかわりなく発生した事実(*3)
③ 決算情報: 会社の決算情報に関するもの(*4)
④ その他: 会社の運営、業務又は財産に関し、投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの(*5)


上記のうち④は①②③で拾えない事実を包括的にカバーするため、「バスケット条項」と呼ばれています。この「重要事実」要件に関して実務上最も問題になるのが、
ア どこまで具体的な内容が決まれば「重要事実」になるのか(重要事実の「成熟度」の問題
イ 誰が決定すれば「決定事実」となるのか(重要事実の「決定」の解釈の問題

という二点です。

まずは、アの重要事実の「成熟度」の問題ですが、例えば、合併を例に説明しますと、合併計画が持ち上がり、最終的な合併契約の締結に至るまでには、
・ 一方の当事会社のみが合併のプランを立てた段階(相手方は知らない)
・ 一応、双方当事会社が合併について前向きに検討することを口頭で確認しあった段階
・ 当事者の了解事項を書面に残しておくために基本合意書(Letter of Intent)が締結された段階
・ Due Diligenceを実施した段階
・ 本契約の締結交渉に入った段階
・ 本契約を締結した段階
といった「成熟度」に関する複数の段階が存在します。初期の段階では事実上白紙に近い状態ですので、単に片方の当事者が一方的に計画を立てているに過ぎない段階でインサイダー情報と言ってよいのか疑問がある場合もあります。

この点について、立法担当官は「具体的に特定された合併の実施に向けての調査や準備、交渉等の諸活動を当該会社の業務として行う」と、これは「重要事実」になると説明しています。すなわち、「重要事実」に該当するために合併本契約の締結が必要でないのはもちろんのこと、原則として法的拘束力を有しない基本合意書(Letter of Intent)の締結前であっても、ケースによっては「重要事実」に該当しうる場合があると理解すべきだと考えます。実務上は、とにかく、合併計画に関する情報はかなり早い段階でインサイダー情報になるという基本理解の下で情報管理を進めるべきでしょう。

続いて、イの重要事実の「決定」の解釈の問題ですが、会社法の基本的理解に則して取締役会が機関決定を行えばそれをもって「決定」になる(それまでは「決定」ではない)と考えることは危険です。判例は、意思決定プロセスの実態を会社ごとに見た上で、実質的に会社の方針が決定された時点でインサイダー情報になるという考え方を採っています。すなわち、代表取締役や代表執行役の意見表明が事実上取締役会決議の結果を左右している会社もあれば、常務会の決定が事実上の最終判断という会社もあるでしょう。実務上は、このような各会社の実態によっては、たとえ検討初期の段階であっても「決定」があったとみなされるケースがあることを念頭に置いて、早め早めに情報管理体制に入ることが必要になります。


(*1) ただし、内閣府令が定める軽微基準に該当するものを除きます。
(*2) 新株発行、資本減少、自己株取得、株式分割、増配・減配、合併、会社分割、株式交換、株式移転、事業の全部又は一部の譲受又は譲渡、業務提携など
(*3) 災害による損害、主要株主の異動、法令に基づく処分など
(*4) 売上高・経常利益・純利益の業績(予想)の修正などであって、内閣府令に定める重要基準に該当したもの
(*5) 経営統合、資源の採掘権の取得、企業不祥事、粉飾決算など

インサイダー取引規制について(その1)

金融庁は、最近、野村証券の従業員によるインサイダー取引事件を踏まえて、証券会社に対して5つのチェック項目を提示し、早急に対応を取るように要請しました。
金融庁が提示したチェック項目は、

① 法人関係情報を入手することが可能な役職員による有価証券取引の実態把握
② 情報管理態勢の再検証と整備
③ 役職員の有価証券取引に関する社内規則の検証


などですが、証券会社におけるM&A業務の重要性は年々高まっていますので、情報管理システムを中心とする業務管理体制のレベルアップが求められていると言えます。ただ、インサイダー取引に注意しなければならないのはもちろん証券会社だけではありません。また、規制の対象となるインサイダー情報についても、M&Aに関する情報に限られているわけでもありません。例えば、昨年(2007年)には、コマツや大塚家具などがインサイダー取引を理由に金融庁から課徴金を科せられました。いずれも重要事実に対する認識が不十分なままで自社株買いを行ったことが原因です(*1)。

そこで、今回から数回のシリーズで、金融商品取引法が規制しているインサイダー取引の規制内容や実務上注意すべきポイントについて勉強していきたいと思います。

インサイダー取引とは、「会社の関係者が、未公表の重要な情報(*2)や公開買付け等の情報を職務に関して知りながら、会社が公表する前に、会社の株(*3)を売買すること」を言い、金融商品取引法 166 条以下で制限されています。ここで規制の対象となっているのは上場株式だけではなく、いわゆるグリーンシート銘柄(*4)も含まれています。また、「会社の関係者」には、役員と従業員だけでなく、契約社員、派遣社員およびアルバイトや、契約締結交渉中の法人または個人なども含まれます。

インサイダー取引の禁止規定に違反すると、
① 課徴金納付命令を受ける(*5)
② 刑事告発される

可能性があり、後者の場合、有罪になると、「5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金またはその両方が科される」ことになります(更に、取引により得た財産も没収されます)。

このように重大な影響を与える割に、要件などを完全に理解するのが難しいインサイダー取引規制は、M&A取引に関与する人たちにとっては頭の痛い問題であると言えます。次回以降のコラムで、「重要事実」の意味や情報管理のポイントなどを順に見ていきます。


(*1) コマツにおける重要事実は「海外子会社の解散」、大塚家具における重要事実は「取締役会での配当修正の決定」でした。
(*2) 業務提携などの決定、震災による損害の発生、業績予想の修正といった決算情報など。
(*3) 新株予約権証券などを含みます。
(*4) 非上場銘柄の店頭取扱有価証券等のうち、証券会社が日本証券業協会に対して届出を行い、当該証券会社が継続的に売り気配・買い気配を提示している銘柄を言います。
(*5) 取引で得たと推定される利益を国庫に納付する義務を負います。

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