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井垣太介 (Taisuke Igaki)

Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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自己株式取得の際の財源規制

M&Aを行う際に、最初に自己株式をいくらか取得することで浮動株を減らして株主構成をシンプルにしたり、その後の株主総会決議を採り易くすることがあります。この自己株式の取得については剰余金の配当と同様の財源規制が有りますが、毎回会社法の条文を探さなくても良いように、簡単に整理しておきたいと思います。

① 会社法461条に基づく規制
これは、自己株式取得の効力発生日における規制です。すなわち、
分配可能額(自己株式取得と引換えに交付する金銭等の額の上限)= ①分配時点の剰余金の額-②分配時点における自己株式の帳簿価額-③法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額となりますので、この分配可能額の範囲内で取得する必要があります。上記における「分配時点の剰余金の額」は、最終事業年度における剰余金の額をベースに、最終事業年度末日後に自己株式処分/消却、減資、準備金減少、剰余金配当、吸収合併、剰余金の額の減少等を行っている場合には加減算を行うことになります。

では、かかる規制に違反した自己株式取得の効力はどうなるでしょうか?
これについては、若干の反対説はあるものの、一般的に「無効」と解されています。正確には、会社法462条1項に基づき、金銭での解決は可能となっています。しかし、そこで言う金銭とは「分配可能額を超えた部分」ではなく、条文に記載されているとおり、自己株式の譲渡人が交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭ですので、要は、全額の返還義務が発生することになります。この条項をもって(あるいは、そもそも法令違反の株主総会・取締役会決議に基づく会社の剰余金配当等は無効であるとの理解に基づき)、分配時点における分配可能額を超えてなされた自己株式取得は違法であり無効になると解釈されています。
そして、自己株式の譲渡が無効であることを受けて会社から譲渡人に対して受領済みの譲渡代金全額の返還を求める以上、当然、取得した自己株式を譲渡人に返す必要がありますので、原状に復する面倒な手続が採られることになります。もちろん、会社法に基づく責任を負う取締役等が全額ポケットマネーで補填を行い、自己株式を譲渡した株主に迷惑を掛けないという手法も理論的には可能ですが、金額によっては現実的でないと思います。なお、会社法463条で善意の株主は求償対象外とされていますので、株主側が渋って長期に亘り解決しなければ会社としては取締役等に先に請求せざるを得ず、その場合、株主には求償できずに終わる(但し、463条2項により会社の債権者は株主に対して請求可能)ことになる可能性はあります。

② 会社法465条に基づく規制
これは自己株式を取得した年度の決算を締めてみて初めて判明する話なのですが、結果として分配可能額がマイナスになってしまうと、その自己株式取得を行った取締役等は、会社に対して連帯して、①そのマイナス分、②株主に交付した金銭等の帳簿価額総額のいずれか少ない方を支払わなければなりません
こちらの規制は461条による規制と異なり、あくまでマイナス分の補填で済む点が異なります。

会社法上の規制はおおまかに言えば以上になりますが、自己株式取得については税務上の扱いも重要です。
すなわち、自己株式取得に伴い株主に交付される金銭を①自己株式対応資本金等の額と②それ以外に分け、①を超える部分はみなし配当(すなわち、受取配当金として課税される)、②(すなわち、譲渡収入金額)と譲渡株式の税務簿価との差額が株式譲渡損益として課税されることになります。

例えば、資本金が500、発行済株式総数が100、今回取得する自己株式が40、自己株式の対価として株主に交付される金額が300、譲渡株式の税務簿価が50とすれば、
①自己株式対応資本金等の額=500*40/100=200
譲渡収入金額=300-200=100 ← これについて配当課税。但し、配当控除の適用あり。
譲渡益=200-50=150 ← これがキャピタルゲイン課税

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種類株式の上場に関する最近の議論について(その2)

無議決権株式・少議決権株式・多議決権株式を発行することに関しては以下のような弊害があると、前回書きました。
① 出資割合と支配比率に乖離が生じるため、特定の種類株主の利益が害される可能性がある。
② 特定の株主が多議決権を保有し続けることで、本来行われるべき「支配権の移転」が阻害される可能性がある。

かかる弊害があってもなお種類株式の上場を認めるべきか?・・・ということですが、「弊害があり得るということをもって一律に禁止するというアプローチは必ずしも適切ではない」とする企業価値研究会の立場に私も基本的に賛成です。ただ、問題は、適切・有効な弊害防止策が採れるかというところにあります。

企業価値研究会の提言を受けた東証の実務者懇談会(座長:黒沼悦郎早稲田大学教授)は、「投資者保護の観点から必要と認められる一定の要件を満たした株主の権利を尊重したスキームであり、かつ、投資者にわかりやすい商品から順次解禁していくことが望ましい」と述べた上で、少なくとも以下の要件を満たした無議決権株式・多議決権株式・少議決権株式については、株主の権利の尊重がなされているものとして、原則としてその上場を認めることとすべきとしました。

【以下の5つの方策の全てが取られていること。
① 既公開会社にあっては、上場株式より議決権の多い株式を上場させる場合にあたらないこと。
② 極めて小さい出資割合で会社を支配するような状況が生じた場合に議決権種類株式のスキームが解消できるような方策がとられていること。(例:ブレークスルー条項、サンセット条項等)(*1)
③ 種類株主間の利害が対立する場面における株主保護の方策がとられていること。
④ 支配株主と会社の利益相反取引の場面における少数株主の保護の方策がとられていること。
⑤ 新規公開時における無議決権株式の単独上場の場合は、議決権付株式の譲渡等の時に無議決権株式に転換する条項が付されていること。】


①は、既に投資している一般株主の利益が不測の損害を被らないようにする必要があることから設けられた要件ですが、「既上場会社による多議決権株式の発行」については今後議論が継続されるとしても、解禁されることは当面ないものと予測します(*2)。

②は、出資割合と支配比率の乖離が無視できないレベルにまで到達しないようにする必要があることから設けられた要件ですが、ブレークスルー条項の発動要件の定め方が問題になると考えます。具体的には、発行済株式総数の何%を取得した者が表れた場合にブレークスルーを起こさせるか、またその要件が充足された場合に、具体的にどうやって多議決権株式の「多議決権」を奪うかという問題です。前者については、議決権倍率と密接に関係してきます。例えば、(「単元」については一旦忘れて、シンプルに)A種株式にB種株式の3倍の議決権を与えると仮定します。この場合、A種株式は発行済株式総数の25.1%を握れば、B種株式に74.9%握られたとしても、25.1×3>74.9となるため議決権の過半数を取得できます。しかし、A種株式にB種株式の9倍の議決権を与えてみると、A種株式は発行済株式総数の10.1%を握れば、B種株式に89.9%握られたとしても、過半数の議決権を取得できることになります。
いずれにしても、これらの数字うちのいずれかをまず固定しなければなりません。この点、東証の報告書では、会社法115条が「議決権制限株式の発行数の上限を発行済株式総数の2分の1」と定めていることから、「会社支配権を取得するには25%を超える出資割合が必要」というテーゼを導き出しています。25%以下の、例えば、20%や10%しか出資していない者が会社を支配することは認められないという価値判断です。この25%という数字を固めてしまうと、後は計算式によって、他の数字を導き出すことが出来ます。例えば、上述の例のとおり、議決権倍率を3倍超とすることを認めれば、A種株式は25%以下の保有割合でB種株式による会社支配を阻止できることになりますので、「25%ルール」に反することになります。よって、この場合、議決権倍率は3倍以下でなければならないということになります。他方で、議決権倍率に制限を設けないとすれば、理論上は議決権が限りなくゼロに近いB種株式が登場することになりますので、その状況で「25%ルール」を守ろうとすれば、会社法115条と同様に、B種株式の発行数上限を発行済株式総数の2分の1と定める必要が出てきます。いずれにしても、この「25%ルール」を基準として東証のルールが整備されるものと思います。
続いて、具体的にどうやって多議決権株式の「多議決権」を奪うか(希釈化させるか)という問題ですが、無議決権株式を発行しているケースでは議決権復活要件の中に定めるという方法が、その他の場合には取得条項付株式を利用する方法が考えられます。この点は更に詳細な検討が必要でしょう。

③④を飛ばして⑤ですが、⑤は、「議決権付株主の個性に着目して投資がなされるのであるから、その議決権付株主が変更された場合にはスキームは解消されるべき」と考えられた結果設けられた要件で、Google社の複数議決権スキームでも取り入れられています(*3)。

③④については、次回のコラムで述べたいと思います。


(*1) ブレークスルー条項: 発行済株式総数のうち一定割合の株式を取得した者が現れた場合、議決権種類株式の構造を解消するスキーム。
サンセット条項: 議決権種類株式導入の目的が終了した場合、同目的を逸脱した場合若しくは同目的を達することができないことが確定した場合、又はこれらの事由が生じたとみなすことのできる場合に、スキームを解消させる方策(例:目的が終了したか等の判断を株主の意思に委ねるものとして、一定期間経過後に一株一議決権とする株主総会の特別決議等によりスキームの解消を可能とするもの)
(*2) アメリカの<ニューヨーク証券取引所(NYSE)の規則>313条でも、上場会社が上場株式よりも議決権の大きい株式を発行することは、原則として禁止されています。
(*3) <Google社の定款>参照。

種類株式の上場に関する最近の議論について(その1)

現在の東京証券取引所の規則においては、上場会社が、
① 多議決権株式(上場している株券より議決権の多い株式)を発行する場合、または、
② 上場済み株券を、定款変更その他の方法により、重要事項(取締役の選解任等)に関する議決権を制限する種類の株式に変更する場合

上場廃止となります(目的・条件等に照らして、株主及び投資者の利益を侵害する恐れが少ないと認められる場合を除く)。つまり、上場株式に関しては、「一株一議決権の原則」が維持されているということになります。しかし、昨年(2007年)10月に日本経団連が会員企業に対して実施した調査では、73社中46社が「多議決権株式を特定のものに対して発行することに感心を持っている」と回答したようです。ニーズはあるが現状では制限されているということになりますので、企業価値研究会が公表した<平成19年12月18日付け「上場会社による種類株式の発行に関する提言」>や、それを受けて東証が公表した<平成20年1月16日付け「議決権種類株式の上場制度に関する報告書」>を参照しながら、ここでの問題点を検討してみたいと思います。

多議決権株式といえば、すぐに思いつくのがアメリカのGoogle社です。
Google社がSECに提出した<2004年8月18日付けフォームS-1>(*1)を見ますと、以下のような記載があります。

In the transition to public ownership, we have set up a corporate structure that will make it harder for outside parties to take over or influence Google. This structure will also make it easier for our management team to follow the long term, innovative approach emphasized earlier. This structure, called a dual class voting structure, is described elsewhere in this prospectus. The Class A common stock we are offering has one vote per share, while the Class B common stock held by many current shareholders has 10 votes per share.

すなわち、Google社は、「外部の者によって会社が乗っ取られたり、会社に影響を与えられたりすると困るので、1株1議決権のクラスA株式を公開するとともに、公開前の株主(主に経営陣)は1株10議決権のクラスB株式を保有し続ける」と明言しています。Googleとしては、株式公開によってキャッシュは集めたい、しかし、長期的・安定的に経営を行っていきたいという思いがあり、そのためにDual Class Voting Structure(株主総会における議決権行使に関する二重構造)を採用したというわけです。

このように、会社によっては、まとまったキャッシュが欲しい(ので、株式を上場させたい)、あるいは、議決権がたくさん欲しいというニーズがあるわけですが、他方で、無議決権株式・少議決権株式・多議決権株式を発行することに関しては、以下のような弊害があります(*2)。
① 出資割合と支配比率に乖離が生じるため、特定の種類株主の利益が害される可能性がある。
② 特定の株主が多議決権を保有し続けることで、本来行われるべき「支配権の移転」が阻害される可能性がある。


では、かかる弊害があってもなお、ニーズを重視し、種類株式の上場を認めるべきでしょうか?

企業価値研究会は、「『議決権型』『キャッシュフロー型』の類型のいずれの利用についても、その利用にはメリットが存在しうるので、弊害があり得るということをもって一律に禁止するというアプローチは必ずしも適切ではない」と述べています。では、どのような要件の下に、種類株式の上場を認めるべきか?・・・続きは次回のコラムで述べたいと思います。


(*1) アメリカの会社が証券を公募発行する際には、1933年証券法に基づき登録届出書(Registration Statement)を提出する必要がありますが、この登録届出の際に利用される開示様式がFormS-1ないしS-3になります。
(*2) これら2つの弊害以外に、「既上場会社が新たに種類株式を発行する場合には、既存株主が不測の損害を被るおそれがある」という点も、前述の企業価値研究会の提言では指摘されています。この視点からは、既上場会社が多議決権株式を発行するケースに関しては一層慎重な検討が必要であるところ、今回の検討の対象からはひとまず外されています(東証も同じく、今後更に議論が必要としています)。よって、当面は、「新規公開時に議決権種類株式を上場させるケース」と「既上場会社が上場株式よりも議決権の少ない株式を上場させるケース」が検討され、結果として、これらの全部又は一部が認められるようになるものと考えます。また、「種類株式を買収防衛策目的に用いる場合」「黄金株(拒否権条項付株式)についても、今回の検討の対象外とされています。

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