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井垣太介 (Taisuke Igaki)

Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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改正独禁法がM&A実務に与える影響(その2)

現行法上,株式取得については,単体総資産額が20 億円を超える会社であって,かつ,当該会社並びに当該会社の国内の子会社(当該会社が議決権の50%超を保有する会社)及び国内の親会社(当該会社の議決権の50%超を保有する会社)の総資産合計額が100 億円を超える会社が,単体総資産額が10 億円を超える会社の議決権を,10%,25%又は50%を超えて取得した場合に報告義務があります。

ところが,最近は,持株会社の解禁等によってグループ経営が盛んになってきていることから,まず,届出義務の範囲について,直接の親会社と子会社だけではなく,「企業結合集団」を基準に判断しようということになりました。

続いて,企業結合審査実務においては,市場シェアの算出のために総資産ではなく売上高を用いていることから,モノサシとして「国内売上高」を届出基準にすることになりました。

その結果,株式取得会社の届出基準については,株式取得会社の属する企業結合集団の最終親会社及びそのすべての子会社の「国内売上高合計額」を用いた基準(金額としては,当事者の一方が200億円超,他方当事者が50億円超)へ変更されました。また,パーセンテージについては,改正後は,20%,50%のいずれかをまたいで増加する場合に事前届出が必要ということになりました(10%から20%に引き上げられたという理解)。

なお,「企業結合集団」の定義が問題となりますが,ここはまだ確定していません。公取委の規則が近々定めてくれる予定ですが,親会社・子会社の該当性判断の際に,議決権のみならず実質的支配関係の要素が入ってくる点がポイントです(改正法10条6項,7項)。形式的基準で判断できなくなる以上,実務上は,ディール検討に入ったら,早々に「企業結合集団」の範囲確定作業も開始しなければならないことになるでしょう。

更に問題となるのは,「国内売上高」の定義です。今までのように,日本国内の子会社及び営業所のPL上の売上高だけを合計していれば良いというわけにはいかなくなる可能性があります。なぜなら,改正法においては,「国内において供給された商品及び役務」に関する売上高を求めることが要求されているからです。詳細は,公取委が定める規則によって確定されますが,商品やサービスの供給場所を基準とされると,企業が普段作成している財務諸表とは別に,国内売上高を算出するための資料を作らなければならなくなります(海外にあるグループ企業から日本に輸入した商品の売上高も入ってくるため)。何とか実務で使いやすい基準になってくれればと願います。
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改正独禁法がM&A実務に与える影響(その1)

独禁法の改正については本ブログでも度々取り上げてきましたが,ようやく2009年6月3日に独禁法改正法案が国会で可決成立し,2010年1月1日または4月1日から施行されることになりましたので,改めて,今回の改正がM&A実務に与える影響について整理しておきます。

改正の最大ポイントは,これまで30日以内の事後報告で済んでいた株式取得が,30日前の事前届出制に変更されたことです(欧米では事前届出が原則ですので,日本がそれに合わせた形になりました)。株式取得はM&Aの代表選手であり,とりわけ国境をまたいだM&Aの場合はほとんどが株式取得になりますので,今回の改正のインパクトは大きいと思います。

実務上,注意しなければならないのはスケジューリングです。単にクロージング日よりも前に届け出れば良いというものではなく,30日間の待機期間(株式取得禁止期間)が設定されている(改正法10条8項)ことから,例えばクロージングを10月1日とするならば,届出は遅くとも8月31日までにしておく必要があります。更に悩ましいのは,公取委による排除措置命令が出る可能性がある期間が,「届出受理日から120日を経過した日または報告等の受理日から90日を経過した日のいずれか遅い日」まで延長されうるとされている点です(改正法10条9項)。すなわち,8月31日に届出をした案件については,年末あたりまで排除措置命令がありうるということになってしまいます。よって,例えばM&A後のマーケットシェアが大きい案件については,相当前倒しで公取委への届出をしなければならないということになります。

しかし,他方で,あまり前倒しで報告してしまうと,上場会社の場合,適時開示規制によってプレスリリース日も早まるという問題が発生します(公取委へ事前届出を行うタイミングで会社内部の機関決定が行われるため)。公開買付けによる株式取得を考えている場合には,特にスケジュール管理が難しくなります。

また,改正法の施行日直前にクロージング日が来るような契約にしてしまうと,クロージングが何らかの事情で遅れて施行日をまたいでしまった場合に,遡って公取委への事前届出が必要だったということになってしまいます。実際には,遡って届出することはできませんから,クロージング日を1ヶ月以上遅らせるということになると思われますが,可能であれば,施行日よりも後にクロージング日を設定し,かつ,事前届出も済ませておくという手法が良さそうです。

次回のエントリーでは,届出基準の変更などについて触れたいと思います。

独禁法改正案~届出基準の緩和など~

本日(平成21年2月27日),談合やカルテル行為への罰則強化などを盛り込んだ独占禁止法の改正案が閣議決定されるようです。昨年の通常国会では結局成立せず廃案になっていますが,今回は前回争点となった「審査制度」については見送られたため,成立するのではないでしょうか。

企業結合関係では,会社等の株式取得につき合併等の他の企業結合と同様に事前届出制度とされるほか,合併等の届出基準が見直されて届出免除範囲が拡大されます。具体的には,現状,「総資産」ベースで「100億円以上,10億円以上」とされている届出基準が,「国内売上高の合計額」ベースとなり,かつ,金額がそれぞれ「200億円,50億円」に引き上げられます。

このうち「50億円」については,去年の改正案では20億円とされていました。新聞の情報によると,全国124万社のうち,売上高20億円以上の企業数は約6万6000社,うち売上高50億円以上の企業数は約3万社ということですので,届出基準を20億円から50億円に引き上げることで公取委へ届けられる件数が半減する計算になります。

実務においては,公取委に持ち込まれる案件数が減って,それだけ審査期間が短くなることが期待されています。改正案の詳細については,国会で正式に可決された段階で改めてご紹介したいと思います。

企業結合に関する独禁法問題をクリアする方法(その4)

今日は,前回の続きとして,「輸入・参入促進措置」と「行動に関する措置」について述べたいと思います。

前回述べた事情譲渡・株式譲渡等の構造的措置については毎回採用できるわけではありません。そこで,事業譲渡先が容易に見つからないようなケースでは,競争者に対して,問題とされている商品をコストベースで(生産費用相当額で)供給する長期契約を締結すること(*1)が有効な問題解消措置であると評価されることがあります。また,別の方法として,新規の輸入・参入を促進する措置を申し出ることで競争制限を解消できると評価してもらえる場合もあります。例えば,当事会社が保有している輸入に必要な貯蔵庫や物流サービス部門を他の会社も利用できるよう開放したり(*2),当事会社が有している特許権等について競争者や新規参入者に適正な条件で実施許諾する方法(*3)がこれに該当します。これらの輸入・参入促進措置の問題点は,本当にこのような措置を採るだけで新規参入者が増えるかどうかが必ずしも明らかでないということです。港の貯蔵庫だけを開放すれば輸入者が増えるケースもあるでしょうし,貯蔵庫と物流網を両方開放しても,肝心の仕入先が独占されており結局当該商品を取り扱うことができないケースもあるでしょう。ケースごとに真に輸入・参入を促進する措置を講じることが求められると言えます。

続いて,「行動に関する措置」ですが,これは企業結合自体を認めた上で,例えば資材の共同調達行為などを禁止したり,研究開発・生産については統合会社が行うが,販売は当事会社が独立して行う措置になります。例えば,日本たばこ・RJRナビスコたばこ事業譲受事例(平成11年度事例13)では,JTがRJRナビスコブランドのタバコを日本に輸入することについては関与せず,自らも日本国内への輸入・販売を行わないという問題解消措置を採りました。また,広島ガスプロパン等による共同出資会社設立事例(平成8年度事例4)では,共同出資会社が充填業務を行うLPガスの卸売価格の決定や出資会社との間の委託手数料の決定は,当事会社(元売・卸売業者5社)間で協議をせずに個別に行うことが決められました。

以上が問題解消措置の概略になりますが,企業結合ガイドライン上,これらの問題解消措置は,変更または終了しても競争の実質的制限が発生するおそれがなくなったと判断できる場合には変更・終了できるとされています。


(*1) 当事会社の販売シェアが60%を占めることになった三井化学・武田薬品ウレタン事業統合事例(平成12年度事例9)では,国内市場の10数%に相当する部分について,ライバル会社に対して長期的生産受託契約に基づきコストベースで商品を供給することが問題解消措置として採られました。
(*2) 上記三井化学・武田薬品ウレタン事業統合事例(平成12年度事例9)では,商品の輸入のために必要な港湾地区のタンクについて,第三者からの希望があればそれに応じて提供するという問題解消措置が採られました。
(*3) 富士電機・三洋電機自販機株式取得事例(平成13年度事例9)では,当事会社の保有する特許権等の技術に関してライバル会社から実施許諾等の求めがあったときは,これを拒否せずに適正な条件にて応じることが問題解消措置として採られました。

企業結合に関する独禁法問題をクリアする方法(その3)

今回は,実質的審査に入った場合に策定が必要となる問題解消措置の種類について述べます。

公取委における審査手続としては,原則として,事前相談の申し出があった日から20日以内に第1次審査が始まり,特段の問題が見当たらなければ審査開始日から30日以内にその旨通知され,第1次審査の結果,独禁法上の問題が考えられるという場合には,第2次審査に進みます。第2次審査においては,企業側が必要な資料を提出した日から原則として90日以内に結果の通知がなされます,公取委は,第2次審査に進むと取引先等にヒアリングを行ったり,広く一般から意見を受け付けます。そのようなプロセスの中で,公取委が「このままでは独占禁止法に違反する」という心証を抱いた場合,当事会社は当該M&Aがもたらす競争減殺効果を抑えるために「問題解消措置」を申し出ることが通例です。この「問題解消措置」は,公取委が案件の効力発生後に行う排除措置命令とは異なり,あくまで当事者が事前相談の中で任意に提案するプランということになります。

問題解消措置に関するデータを若干ご紹介しますと,平成8年~17年度の事前相談事例125件中,問題解消措置の実施を前提として問題がないと判断された事例は32件(25.6%)で,
① 事業譲渡等の措置14件
② 輸入・参入を促進する措置 11件
③ 行動に関する措置 16件

となっています。

最初の「事業譲渡等の措置」というのは,構造的措置と呼ばれ,当事会社の事業部門や生産・販売設備の売却,議決権処分などを指します。これらの措置はその効果が直ちに発生しますし,事後的監視の必要がなくコストも掛からないため,(特に水平型結合の場合に)頻繁に利用されます(*1)。ただし,当事会社にとっては事業や関係会社を切り離すことによる事業収益/事業構造上のインパクトが大きいために,企業結合計画自体を白紙に戻すことにつながることもあります。問題解消措置として事業譲渡が選択された例としては,大日本インキ化学・旭化成ライフ&リビング事業統合事例(平成16年度事例3)議決権処分が選択された例としては,昭和電工・日本石油化学ポリオレフィン樹脂事業統合事例(平成7年度事例1)などがあります。

また,メディセオ・パルタックとコバショウの統合事案においては,中国ブロック(70%),鳥取(90%),島根(85%),岡山(90%),広島(75%)という統合後のシェア率を前提に,コバショウが,中国地方を事業エリアとする子会社に対する保有株式の一部を同業を営む複数の事業者に売却し議決権保有比率を引き下げること,および,コバショウの子会社に対する役員派遣を解消することという問題解消措置(企業結合関係の解消)が採られて適法とされました。

ところで,これは公取委からの視点にもなるかと思いますが,構造的措置には,それが具体的に実行に移されるかどうかが確実でないという問題点があります。例えば,A社とB社が合併を計画しており,問題解消措置としてA社が行っている事業の一部を第三者に譲渡するプランが公取委に対して示されたとします。抽象的には競争力減殺効果を抑制する望ましいプランと言えますが,具体的に,いつどんな会社に事業譲渡されるかによって競争制限効果の抑制レベルは異なってきます。仮に譲渡先の会社とA社またはB社との間に資本関係があったり,役員の兼任があったりすれば,新規の競争者創出にはつながらないでしょう。また,事業譲渡時期が合併の効力発生日後に予定されている場合,実行予定と説明しつつ実際には何年経っても実行されない可能性もあります(事業譲渡や株式譲渡は相手のある話ですから,当事会社が努力をしても最終合意に至らないこともある)。この場合,事業譲渡プランは絵に描いた餅となってしまいます。そこで,企業結合ガイドライン上は,譲渡先がどこになるかといった点を含む事業譲渡計画の内容について,公取委の事前の了解を採ることが必要とされています。

また,事業譲渡や議決権処分が実行に移されるまでの間に発生しうる反競争効果を防ぐための措置も必要です。例えば,ブリヂストン・メタルファ役員兼任事件(平成7年度事例6)では,関連会社に対する株式所有比率を10%未満にまで下げるという問題解消措置が提案された上で,実際に株式を処分するまでの間の暫定的措置として情報遮断措置(当事会社と当該関連会社との間で情報交換を禁止すること)を採ることも併せて決められました。

その他の問題解消措置については,次のエントリーで書きたいと思います。


(*1) 企業結合ガイドラインにおいては,「競争の実質的制限を解消するために最も有効な措置は,新規の独立した競争者を創出し,あるいは,既存の競争者が有効な牽制力を有することとなるよう強化する措置である。このような措置としては,当事会社グループの事業部門の全部又は一部の譲渡,当事会社グループと結合関係にある会社の結合関係の解消(議決権保有の取止め又は議決権保有比率の引下げ,役員兼任の取止め等),第三者との業務連携の解消などがある。」と書かれています。なお,最後の「第三者との業務連携の解消」は,平成16年ガイドラインには存在せず,平成19年ガイドラインから追加されています。

企業結合に関する独禁法問題をクリアする方法(その2)

続いて,「一定の取引分野」の一要素である「地理的範囲」の確定方法については,企業結合ガイドライン上は「供給者の事業地域,需要者の買い回る範囲等」「商品の特性」「輸送手段・費用等」の3点が考慮要素として挙げられていますが,「商品の特性」「輸送手段・費用等」は結局,顧客(需要者)がどの範囲の地域から当該商品を購入できるかに帰すると言えますので(例えば,商品が腐りやすいとか輸送費が高いということになれば,顧客は必然的に近くの店で買わざるを得ない),通常は,「供給者の事業地域と顧客の買い回り範囲」を重点的にチェックすればよいと思います。

例えば,小売業の場合は,通常,特定の地域の店舗間にしか需要代替が生じないことから,個別店舗ごとに地理的範囲が確定され(エディオン・ミドリ電化株式取得事例(*1)では,店舗から半径10km程度の範囲が基本とされた),卸売業の場合は,需要者である小売店(薬卸であれば,薬局・薬店等)が基本的には自己の店舗が所在する特定の地域内に配送拠点を構える卸売業者からの調達によっているという流通実態があると思われますので(もちろんケースごとの分析が必要),小売業よりは少し広く,都道府県ごと,および,配送拠点の所在地によっては,北海道・東北・関東・甲信越・東海・近畿・中国・四国・九州といった「ブロック」ごとに事業エリアが存在するという事実認定の下で,各都道府県と各ブロックが重畳的に「地理的範囲」になることが考えられます(*2)。

さて,「商品の範囲」と「地理的範囲」が決まれば,次は,市場シェアを利用して,HHIの計算に入ります。新企業結合ガイドラインでは,水平合併について

① 「統合後のHHI が1500以下」
② 「統合後のHHI が1500超2500以下で、HHI の増加が250以下」,または,
③ 「統合後のHHI が2500超で、HHI の増加が150以下」


であれば実質的な審査は行わないこととされています。また,公取委は,ガイドライン上,「上記の基準に該当しない場合であっても、直ちに競争を実質的に制限することとなるものではなく個々の事案ごとに判断されることとなるが,過去の事例に照らせば,企業結合後のHHIが2,500 以下であり,かつ,企業結合後の当事会社グループの市場シェアが35%以下の場合には,競争を実質的に制限することとなるおそれは小さいと通常考えられる。」としている。

メディセオ・パルタックとアルフレッサの合併事案で,仮に,どこかの地理的範囲における合併前の市場シェアが,メディセオ・パルタック30%,アルフレッサ20%としますと,統合後のHHIは2500で,統合によるHHIの増加は2500-1300=1200となります。よって,上記セーフハーバーのいずれも充たしません。また,企業結合後の当事会社グループの市場シェアが35%を超えることから,「競争を実質的に制限することとなるおそれは小さいと通常考えられる」ケースにも該当しないことになりますので,結局,本件は実質的審査に入ることになります。

次回のエントリーでは,実質的審査に入った場合に策定が必要となる問題解消措置の種類等について検討したいと思います。


(*1) 平成16年度事例6
(*2) 専ら一般用医薬品の卸売業が問題とされたメディセオ・パルタックによるコバショウの株式取得事例(平成19年度事例10)でも,同様に,都道府県とブロックごとに競争制限効果がチェックされました。

企業結合に関する独禁法問題をクリアする方法(その1)

今年の4月1日(2009年4月1日)付けで合併を予定していた医薬品卸業界日本国内マーケットシェア1位のメディセオ・パルタックホールディングスと同2位のアルフレッサホールディングスが,合併を取り止めました。この合併は,成功すれば,医療用医薬品卸の分野では日本国内で約47%,地域によっては60%近くのマーケットシェアを占めることになっていました。

世界におけるM&Aの「公表後の中止・延期案件」は,2008年全体で1300件を超えており,日本国内案件でも,昨年は過去最高の「中止・延期案件」数だったようです。信用収縮で資金調達ができなかったり,対象企業のバリュエーションが困難になってあきらめたりしたケースが多いと思われますが,ときたま「独禁法問題がクリアできなかったため」と発表されることがあり,上記メディセオ・パルタックとアルフレッサの合併も新聞報道ではそのように書かれています。

すなわち,メディセオ・パルタックとアルフレッサからの事前相談において公取委は合併後の新会社グループに所属する事業の一部売却を求めたようですが,当事会社がこれを受け入れず破談になったとされています。そこで,今回のエントリーでは,企業結合においてどの程度のマーケットシェア等が問題視されるのか,また,当事会社のマーケットシェア等に関して公取委が問題があると指摘してきた案件を頓挫させずに実現させるためには,どのような問題解消措置を公取委に提案すればよいかについて見ていきたいと思います。

まず,企業結合は,「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」に禁止されますので,「商品の範囲」「地理的範囲」を分析して「一定の取引分野」を確定することが最初に行うべき作業となりますが,薬の卸売業においては,医療用医薬品,一般用医薬品,化粧品・日用品,健康食品,試薬,医療機器などが「商品の範囲」になると考えられます(*1)。

一般的に,「商品の範囲」は,商品の「機能・効用の同種性」をメインに,生産過程や流通経路も斟酌して決められますが,現在の実務においては比較的狭い範囲で画定されます。例えば,味の素・ヤマキ株式取得事例(公取委公表平成18年事例1)では,「商品の範囲」が「風味調味料」「液体風味調味料」「めん類等用つゆ」に区別され,さらに,それぞれにつき流通経路や販売単位の違いから「家庭用」と「業務用」に区別されました。「風味調味料」と「液体風味調味料」の違いは,後者の方が単位当たりのコストが高いという点,「風味調味料」と「めん類等用つゆ」の違いは,後者には醤油が添加されている点ですが,主にユーザーの視点からかなり細かく判断されていることが分かります。

以上より,薬卸業に関しては,医療用医薬品,一般用医薬品,化粧品・日用品,健康食品,試薬,医療機器などの個別の商品グループごとに,競争制限効果がどの程度発生するかを比較検討することになります。

続いて,「一定の取引分野」の確定の際には,「地理的範囲」についても考慮しなければなりませんが,ここから先は次のエントリーで書きたいと思います。


(*1) メディセオ・パルタックとアルフレッサの合併に関する2008年10月10日付け報道では,「公正取引委員会に申請中。医療用医薬品,一般用医薬品,試薬,医療機器,SPDなど全てのデータを提出して抵触しないことを説明している。」と書かれてありましたので,これらの商品グループごとに,独禁法違反がチェックされたと考えられます。

独禁法上の持株会社規制

M&Aの際に必要な独禁法上の手続や問題についてはこれまでのエントリーで概要を紹介してきましたが,持株会社規制についてはまだ触れていなかったのでここで紹介しておきたいと思います。

持株会社規制については,独禁法9条に定められており,その内容は,「事業支配力が過度に集中」してはならないというものです。具体的基準については,公取委の「事業支配力が過度に集中することとなる持株会社の考え方」(以下,「9条ガイドライン」)が定めていますが,そこでは,規制対象として以下の3つの類型が挙げられています。

① 第1類型
 持株会社グループの規模が大きく(持株会社グループの総資産合計額が15兆円超),かつ,相当数(5以上)の主要な事業分野のそれぞれにおいて別々の大規模な会社(単体総資産額が3000億円超)を有する場合

② 第2類型
 大規模金融会社(単体総資産額が15兆円超)と,金融又は金融と密接に関連する業務以外の業務を営む大規模な会社(単体総資産額が3000億円超)を有する場合

③ 第3類型
 相互に関連性を有する相当数(5以上(*1))の主要な事業分野のそれぞれにおいて別々の有力な事業者(シェア10%以上又は売上高上位3位以内)を有する場合

戦前の財閥などであれば①に,巨大金融グループは②に,コングロマリット企業などは③に該当する可能性が出てきますが,純粋な分社化金融会社の相互参入のケースについては例外として禁止されませんので,ケースごとに弁護士に確認する必要があります。なお,持株会社設立が禁止される上記の類型に該当するにも拘らず手続を進めてしまった場合は,株式の処分や役員の辞任といった排除措置命令の対象となります(独禁法17条の2)。


(*1) 規模が極めて大きい事業分野に属する有力な会社を有する場合は,3以上

独禁法改正案について

2008年3月11日付けで独禁法改正案が閣議決定されていますが(*1)、<M&Aと独禁法(その2)>において、

【(1) 独占禁止法第4章に係る届出・報告制度の見直し
○ 会社等の株式取得につき、合併等の他の企業結合と同様に事前届出制度とする。
○ 我が国市場に影響を及ぼす外国会社に係る企業結合に関し、届出基準を見直す。
○ 親子会社間及び兄弟会社間のみならず、いわゆる叔父甥会社間の合併等についても、届出を免除する。】


という公取委の方針のみ記載し、最終的な改正案を紹介できていませんでしたので、ここで簡単にフォローしておきたいと思います。

独禁法改正案の内容としては、課徴金の適用範囲の拡大、カルテルの主犯格事業者に対する課徴金の割増算定率の導入、課徴金減免制度の拡充、課徴金納付命令等に係る除斥期間の延長など多岐に亘りますが、ここでは、企業結合規制の見直しについてのみ触れます。

企業結合規制関連の改正案は、以下の二点に集約されます。

① 株式取得を事前届出制とした上で、届出基準を見直す。
② 合併等の届出基準を見直し、届出免除範囲を拡大する。


1. 株式取得について

これについては、もともと事後報告で済んでいた「会社の株式取得」について、合併等の他の企業結合スキームと同様に事前届出制とするもので、届出基準は以下のとおり見直すものとされています。
 
現行
改正案(国内会社・外国会社ともに)
株式取得会社
会社並びにその直接の国内の親会社及び子会社の総資産の合計額100億円超等
企業結合集団(*1)の国内売上高の合計額200億円超
株式発行会社
単体総資産10億円超(国内会社の場合)
会社及びその子会社の国内売上高の合計額20億円超
(*1) 株式取得会社の属するグループの「最終親会社」およびそのすべての子会社(実質支配力基準による)から成るグループ。

また、現行法では、当該取引により、議決権保有割合が、10%以下から10%超、25%以下から25%超、50%以下から50%超に増加することをメルクマールとして事後報告義務が発生しますが、改正案では、これを、「企業結合集団ベースで、20%以下から20%超、50%以下から50%超」という二段階式に簡素化しています。

2. 合併、分割、事業等の譲受けの届出基準の見直しについて

現行法の基準については、<M&Aと独禁法(その3)>をご覧ください。ここでは「総資産」ベースで、「100億円、10億円」という数字が出てきますが、この数字が、「国内売上高の合計額」ベースとなり、かつ、金額がそれぞれ「200億円、20億円」に引き上げられます。また、改正案では、届出基準の算定対象範囲は、株式取得のケースと同じく、原則として企業結合集団とするとされています。

また、外国会社についても、国内会社と同様の届出基準を適用されることになるほか、いわゆる叔父甥会社間の合併等同一企業結合集団内の企業再編については、届出が免除されることになります。

なお、企業結合規制そのものではありませんが、公取委自身が行う審判制度の存続を巡っては昨今いろいろな意見が出ていますので、折を見て取り上げてみたいと思います。

(参考)
・ 改正案の概要:http://www.jftc.go.jp/pressrelease/08.march/08031101-01-besshi.pdf
・ 改正案の新旧条文対照表:http://www.jftc.go.jp/pressrelease/08.march/08031101-04-betten3.pdf


(*1) この改正案の成立は今国会中には難しそうですので、秋の臨時国会に注目したいと思います。

M&Aにおけるリスク・アロケーション~Antitrust Riskを題材に~(その2)

Antitrust Riskの分担を契約書に反映させる方法は、通常、以下の4種類になります。
① Representations and warranties(表明保証条項)
② Covenants(コベナンツ条項)
③ Conditions to closing(クロージング条件条項)
④ Termination rights(解除権条項)


これらのいずれかを用いたり、組み合わせて利用しますが、最も極端な例は、売主側に完全にリスクを負担させる方法と、反対に買主側に全てのリスクを負わせる方法です。売主側に100%リスクを負わせる方式の下では、買主側はAntitrust問題を解決するために協力する義務すら負わず、発生した費用は全て売主負担、かつ、当局からAntitrust法上問題があるという指摘を受けた時点で買主側に解除権が発生するということになるでしょう。他方、買主側に100%リスクを負わせる方式は、”hell or high water clause”と呼ばれ、いかなるトラブルが発生しても契約の解除ができないばかりか、原則として代金の減額もできないとするものです。この方式の下では、当局への対応も専ら買主の費用と責任において行い、訴訟に発展した場合も買主が対応し、結果として対象事業の一部分を他社へ譲渡しなければならなくなった場合でも、当初合意した買収対価を全額支払う(ただし、売主が事業の一部を他社へ譲渡した場合はその代金相当額を不当利得として買主側に返してもらう)ことになります。

上記のような極端な例は実務上はほとんど見られませんが、例えば、買主候補がA社とB社の2社あって、A社との合併は競争に悪影響を与えるが、B社との合併ではそれがない、しかしA社は合併を強く望んでいてどんな手段を使ってでも取引を完了させたいという状況であれば、Antitrust Riskについては全て自社で引き受けるから契約書にサインをして欲しいと対象会社に申し出る場合も考えられます。また、対象会社が再建中の会社などであって、ここで売却しなければ完全に破産するほかないというケースでは、売主側がAntitrust Riskを100%負担すると申し出るケースもありえます。

では、そのような特殊な状況になく、売主と買主が交渉上ある程度対等な立場を有している場合については、どうでしょうか?

後日の紛争を防止するためには、この場合、まず当事者双方がどこまで当局への対応義務を負担するかについて定める必要があります。日本語の契約書でも近年、「合理的な努力をする」「最大限の努力をする」といったいわゆる努力条項が入れられるようになりましたが、米国のM&A契約書でも”best effort”や”(commercially) reasonable effort”といった言葉を用いて、当事者の努力レベルを規定するのが通常です。これらの用語の具体的な意味については、理論的には州ごと、国ごとに異なると言えるでしょう。(Antitrust関連紛争に関してこれらの用語の解釈が問題となった事案が少ないため、明確な解釈基準は存在しませんが)一般的には、”reasonable effort”と言う場合には、当局の詳細調査(Second Request)に対応する義務まで含まれ、”best effort”と言った場合には更に進んで訴訟対応まで含まれると考えてよいと思います。すなわち、訴訟対応までやってなお是正措置を要求された場合に初めて解除権を行使できる可能性が出てくるということです。

上記のように解釈するのが妥当であるとしても、”best effort”や”(commercially) reasonable effort”といった用語は本質的に曖昧ですので、後日の紛争を招く可能性があります。よって、契約書においては、当事者間で十分協議した上で更に詳細な取り決めをしておくことが望ましいと考えます。具体的には、①協力義務の内容(Specific Cooperation Obligations)、②訴訟対応義務の有無(Specific Litigation Obligations)、③事業の切り売りを迫られた場合の対応(Divesture Obligations)、④他社へのライセンス付与を迫られた場合の対応(Licensing Obligations)、⑤違約金(Antitrust Break-up Fee)、⑥売主の解約権(Sellers-out)の6つについて契約条項を作ることができれば望ましいと言えます。

① 協力義務の内容(Specific Cooperation Obligations)
Antitrust Riskを事前にシミュレーションするためには、当時会社がそれぞれ有している製品や顧客、取引先、競合他社に関する情報を交換する必要がありますし、専門家を雇って緻密な計算をすることもときに必要ですので、(a) 相互の情報提供義務、(b) 市場や競争状態の調査を共に協力して行う義務、(c) 専門家を雇った場合の費用分担義務、(d) 当局からの資料提出要求等に協力して対応する義務などについて定めておくのが良いでしょう。

② 訴訟対応義務の有無(Specific Litigation Obligations)
訴訟対応には多額の費用と長い時間が掛かるのが通常ですので、これについては特に具体的にしておくことが望ましいと言えます。定め方としては、訴訟提起がなされた時点で買主または売主の解約権行使を認める、当局からの差止請求訴訟(preliminary injunction)においてディフェンスする義務までは負う(=そのプロセスを経ないと解約はできない)、最終審まで完全に攻撃防御を尽くす義務を負うなど、いろいろなレベルが考えられますが、どの訴訟レベルまで対応義務を負うか、またその際の費用分担はどうするかについて定めておいた方が良いと考えます。

③ 事業の切り売りを迫られた場合の対応(Divesture Obligations)
事業の切り売りと言っても、買主から見た場合にはそれがなくては買収の意味が全くなくなるような重要な事業・資産から、他社へ譲渡しても構わない価値の低い事業・資産もあるでしょう。よって、一般的には、合併・買収後の事業運営に重大な悪影響(Material Adverse Effect)を及ぼす場合には解約可能という形で定めます。何をもってMACと言うかについては、なくなっては困る特定の重要資産や事業を予め列挙しておく方法や、会社の収益やEBITDAベースで何%減になればMACに該当すると定めておく方法が考えられますが、当事者間の契約書は当局のチェックを受けますので、それを前提に注意深く契約書を作り込んでいく必要があります(契約書に書き過ぎると、当局との交渉が困難になる場合が考えられます)。

④ 他社へのライセンス付与を迫られた場合の対応(Licensing Obligations)
他社へのライセンス付与は、競争を促進するために当局から要請される是正措置の一種ですが、この場合も上記Divesture Obligationsと同様に、どの製品・技術に関するライセンス付与を余儀なくされた場合に契約の解除を認めるかといった取り決めを行っておけば後日の紛争を防ぎやすいと言えます。

⑤ 違約金(Antitrust Break-up Fee)
ここで言うAntitrust Break-up Feeとは、主に買主側が支払う義務を負うフィーのことです。買主候補が複数いる場合、売主としてはできればAntitrust Riskが少ない当事者と契約したいと考えます。しかし、買主の中にはBreak-up Fee条項を入れても構わないので、自社と契約して欲しいと願うケースがあります。そのような場合には、売主としては、Antitrust Risk を打ち消すだけのBreak-up Feeをもらうことに合理性が出てきます。リスクがある相手と一緒に進むけれども、ディールが頓挫した場合には掛かった費用や時間に相当するフィーをもらうと取り決めておくことで、フェアな判断ができるようになります。

⑥ 売主の解約権(Sellers-out)
多数の買主が待っている場合には、売主の方から進んで契約を解除したいと願うケースもありえます。そのような場合には、例えば、当局からの詳細調査が始まった時点で売主側の解約権行使を認めるといった契約条項を入れておく方法が考えられます。

以上のように、Antitrust Riskの分担を当事者間で予め決めておくための契約書上のテクニックは多数あります。大型合併・買収になればなるほど、しっかりと事前にシミュレーションして協議と交渉を怠らないことが重要だと考えます。

M&Aにおけるリスク・アロケーション~Antitrust Riskを題材に~(その1)

M&A取引に潜むリスクと言えば、対象会社で発生している法令違反、(係属中ないし将来の)訴訟、環境問題、賠償問題等たくさんありますが、ときにディールを断念せざるを得ないほどに影響が大きい問題の一つがAntitrust Risk(競争法違反リスク)です。

Antitrustに関する規制については、日米でさほど変わらないので、このブログでまだあまり紹介していないアメリカの実務を例に説明していきたいと思います。アメリカでは、予定されている買収または合併が
“will substantially lessen competition or tend to create a monopoly”
(競争を実質的に抑制し、または、独占状態を作り出すおそれがある)
ときには、本来あるべき競争状態を阻害し消費者の利益を害するために、一定の制約を受けます。取引条件を多少修正することで認めてもらえれば良いのですが、US Department of Justice(司法省)やFederal Trade Commission(連邦取引委員会)は、合併・買収後の事業の進め方に制限や条件を課してきたり、ときに対象事業の一部を他社に売却することや、特定の製品に関するライセンスを競争他社に付与することまで要求してきたりします。実際にはそこまでドラスティックな対応を求められるケースは稀ですが、いざこのような是正措置を採ることを要求された場合には、買収価格に影響を与えるべき事態と言えるのはもちろんのこと、対象事業の中核部分を他社に譲渡することを余儀なくされたりすると、買収そのものを取りやめることにも合理性が出てきます。また、訴訟に発展した場合はもちろんのこと、競争法当局との協議を続けるだけでも相当の費用と時間が掛かりますので、それ自体がAntitrust Riskであると言えます。

他方で、Antitrust Riskの大きさ、影響というのは、当局と協議し、指摘を受け、対応をしてみないと明確にならないという側面もあります。よって、契約書を曖昧に作ったままとりあえず手続を進めてみたところ、思いのほか協議が難航し、最終的にはFTCから差止訴訟を提起され、計画していたM&A取引が阻止されてしまうというケースも十分考えられます。この場合、契約書に何も定めていない以上、当事者間では、「その訴訟で負けたのは買主が訴訟に協力しなかったからであり、クロージングに向けて努力すべき買主の債務不履行に当たるから買収代金は返還できない」とか、「いやAntitrust Riskは売主が負うべきものである」といった言い合いになってしまいかねません。

アメリカではnotificationを当局に提出した後30日間のwaiting periodがあり、詳細調査が必要となれば、Second Requestと呼ばれるフェイズに移りますが、こういった手続の流れとそれに要する時間および費用を事前に理解し予定しておくのはもちろんのこと、売主・買主間の契約交渉において、Antitrustに関し発生が見込まれる問題を具体的に想定した上でリスク・アロケーションを行っておくことが大事になってきます。さて、それでは、具体的には何をどのようにして当事者間でのリスク分配を図れば良いのでしょうか?

まずは、各当事会社において、当該買収や合併が関連マーケットの競争状態に与える影響をシミュレーションする必要があります。日本と同様、「地理的範囲」と「商品・サービスの範囲」という二つの視点から、競争他社と消費者に与える競争制限効果を計算するのです。クロスボーダー案件であれば、関連各国の競争法を調査し、その規制内容と手続、当局の判断傾向についてまで研究しておく必要があるでしょう。そして、当局から要求される是正措置の内容まで予測して、「この事業を切り売りすることを要求されたら買収は撤回する」「この製品のライセンスを他社に許諾することを求められたら、買収代金は○○%減額」といった買主側の方針の決定、あるいは、「A社との合併を当局に反対されれば、B社と合併する。但し、訴訟に至らない限り、A社との合併を優先する」といった売主側の方針を事前に決めておく必要があります。また、Antitrust Riskは買収そのものの成否につながる大問題ですので、こういったシミュレーションや調査、方針決定およびそれに基づく当事者間での交渉は、M&A交渉のかなり早い段階で始めておく必要があります。

さて、Antitrust Riskの内容のシミュレーションが終われば、次は、契約書に反映させるためのアイデアが必要になってきますが、この続きは、次回のコラムで述べたいと思います。

M&Aと独禁法(その7)(日本の場合-事前相談制度)

合併等のM&A案件について検討を開始した場合、当事会社及び弁護士は、その計画が独禁法第4章の各規定に照らして問題がないかどうかをチェックしますが、いざ公正取引委員会に対して届出を行い、その後になって排除措置命令や審判請求といった手続を経ることになれば、M&Aのスケジュールは大幅に遅れ、最悪のケースでは当事者双方が多額の費用を掛けて契約にまで至ったにもかかわらず、結局クロージングを迎えることができなかったということも考えられます。そこで、現在では、公取委に対して事前相談を行うのが通常であり、公取委側もそのニーズに対応し審査の手順を透明化するために、<企業結合計画に関する事前相談に対する対応方針>という方針を公表しています(平成19年3月28日最終改定)。

手続としては、原則として、事前相談の申し出があった日から20日以内第1次審査が始まり、特段の問題が見当たらなければ審査開始日から30日以内にその旨通知されます。第1次審査の結果、独禁法上の問題が考えられるという場合には、第2次審査に進みます。第2次審査に進むと、公取委は相談内容を公表し、関係者からの意見を募集しますので、それを前提に報道発表の準備などを行う必要があります。第2次審査においては、企業側が必要な資料を提出した日から原則として90日以内に、結果の通知がなされます。

ところで、平成19年3月28日付けで公表された新「方針」における改正点は、3点ありました。

1点目は、審査手続の迅速化です。これまでの事前相談については、企業結合計画の具体的内容を示す資料が提出された時点から30日以内に回答がもらえることになっていたものの、具体的内容を示す資料の内容はケース・バイ・ケースで、資料を出しても公取委から追加資料を要求される限り最終回答がもらえず、スケジュールに悪影響を与える可能性が払拭できませんでした。
今回の改正で、公取委は、「事前相談の申出があった場合、審査の開始に必要な追加資料の有無を検討し、当該企業結合計画の具体的内容を示す資料が提出された日から原則として20日以内に、追加資料が必要ないと判断した場合にはその旨を通知する一方、追加資料が必要と判断した場合には追加資料リストを書面で提示する。」と明記しましたので、スケジュールが立てやすくなりました。

改正の2点目は、「企業結合計画の概要を示すものとして提出が必須の資料」と企業側が任意に提出できる資料が区別され、任意提出資料については例示されたことです。これにより、企業にとっては資料の収集と整理がしやすくなりました。

3点目は、「当事会社は、事前相談の申出時に限らず、当委員会の審査中のどの時点においても、提出すべきと考える資料・意見書等がある場合にはそれらを提出することができる。」とされたことです。これによって、企業側も十分な反論の機会が与えられます。

ところで、事前相談に持ち込んだものの、統合後の市場シェアが50%を超えるようなM&A計画のケースでは、何らかの問題解消措置を採らなければ企業結合が認められないことが多いのが実情です。例えば、JALとJASの持株会社による事業統合のケースでは、統合後のシェアが50%を超えるにも拘らず、公取委が事前相談に対して「競争が実質的に制限されることとはならない」と回答しましたが、これは、企業側が問題解消措置として、
① 羽田発着枠の返上、空港施設の提供、航空機整備面での協力など新規参入を促進する措置をとる、
② 普通運賃を10%引き下げ、3年間は値上げしない、
③ 統合により単独となる路線に関して割引運賃を設定する
といった問題解消措置を申し出たからでした。そのほかにも、シェアが50%を超えることになる企業結合が認められたケースは少なからずありますので、それらについては別の機会に紹介したいと思います。

M&Aと独禁法(その6)(日本の場合-「競争の実質的制限」の認定プロセス(下))

1992年に米国司法省とFTCが共同で公表した<水平合併ガイドライン(Horizontal Merger Guidelines)>においては、いわゆるHHI(Herfindahl-Hirschman Index)を基準にしたセーフハーバーが設定されています(Section 1.51)。HHIとは、欧米で市場の集中の度合いを検討するために広く用いられている「市場の寡占度を数値化した寡占度指数」のことで、市場参加事業者のシェアの2乗の総和によって算出されます。
例えば、問題となる市場に3社しか存在せず、それぞれの市場シェアが40%、30%、30%の場合、
40×40+30×30+30×30=3400となり、HHIはかなり大きくなります。HHIの最高値は、市場に独占企業1社しか存在しない場合で、100×100=10000となります。逆に、市場シェア1%の企業が100社存在するケースでは、1×1×100=100で、HHIは100しかありません。

米国では、水平合併に関し、
① 「統合後のHHI が1000未満」、
② 「統合後のHHI が1000以上1800以下で、HHI の増加が100未満」、または、
③ 「統合後のHHI が1800超で、HHI の増加が50未満」

であれば、審査なくして合併することが認められています。このレベルの取引であれば、競争の実質的制限につながるとは通常考えられないというのがその理由です。

この点、日本では、新企業結合ガイドライン(*1)によって、同じく水平合併について、
① 「統合後のHHI が1500以下」、
② 「統合後のHHI が15002500以下で、HHI の増加が250以下」、または、
③ 「統合後のHHI が2500超で、HHI の増加が150以下」
であれば実質的な審査は行わないこととされています(*2)。

ここで、「HHIの増加」とは、企業結合の前後でHHIがどれだけ増加したかを見るものです。
たとえば、問題となる市場に3社しか存在せず、それぞれの市場シェアが40%、30%、30%の場合に、前二者が合併すると、
(70×70+30×30)-(40×40+30×30+30×30)=2400
が「HHI増分」となります。よって、このケースはセーフハーバーには該当しません。
上記のケースは、合併後のシェアが70%になりますが、同じく合併後のシェアが70%になるケースでも、合併前の各シェアが60%と10%の企業が合併した場合のHHI増加分は、
(70×70+30×30)-(60×60+10×10+30×30)=1200
となり、「40%と30%」の合併の方が、「60%と10%」の合併よりHHI増加分が大きくなります。既に大きなシェアを持つ企業が小さい企業を合併しても競争への影響は限られるが、しのぎを削ってきた2大企業が合併すると競争制限によりつながりやすいという観察結果が、この「HHI増加分」に現れているのです。

なお、常に業界に存在する全事業者の市場シェア(*3)が把握できるわけではありません。その場合、
HHI=最上位企業の市場シェア(%)の2乗×0.75+上位3社累積市場シェア(%)×24.5-466.3
という計算式を用いて算出した推計値によって検討するとされています(ガイドライン20頁)。

日本のセーフハーバーは、欧米のセーフハーバーと比較すると、より広い範囲で無審査合併を認めるものであるといえます(欧州では、日本で1500、2500となっているHHIの数字がそれぞれ1000、2000)。これは、欧米においては、HHIが低くても協調的行動によって競争が阻害される可能性が高く、審査免除の範囲を広くすべきではないと考えているからだと思われます。いずれにしても、HHIを計算するための市場シェアは当事会社だけでは正確に計算できないこともあるので、実務上は、「事前相談」制度を利用して公取委と見解の擦り合わせを行う必要が出てきます。


(*1) 旧ガイドラインは、セーフハーバーとして、第1に企業結合後の当事会社グループの市場シェアが10%以下の場合、第2に市場構造が寡占的ではない場合であって、企業結合後の当事会社グループの市場シェアが25%以下の場合を挙げ、「市場構造が寡占的ではない場合」とは企業結合後においてHHIが1000未満の場合、「市場構造が高度に寡占的ではない場合」とは、企業結合後のHHIが1800未満の場合をいうと定義していました。
(*2) 公取委は、ガイドライン上、「上記の基準に該当しない場合であっても、直ちに競争を実質的に制限することとなるものではなく個々の事案ごとに判断されることとなるが、過去の事例に照らせば、企業結合後のHHIが2,500 以下であり、かつ、企業結合後の当事会社グループの市場シェアが35%以下の場合には、競争を実質的に制限することとなるおそれは小さいと通常考えられる。」としています。
また、垂直型・混合型企業結合の場合には、「市場シェアが10%以下」か「統合後のHHIが2500以下でかつ市場シェアが25%以下」であれば、セーフハーバーに該当するとしています。
(*3) 市場シェアは、一定の取引分野における商品の販売数量(製造販売業の場合)に占める各事業者の商品の販売数量の百分比によって求められます。ただし、当該商品にかなりの価格差がみられ、かつ、価額で供給実績等を算定するという慣行が定着していると認められる場合など、数量によることが適当でない場合には、販売金額により市場シェアを算出するとされています(ガイドライン19頁)。

M&Aと独禁法(その5)(日本の場合-「競争の実質的制限」の認定プロセス(上))

2.「競争の実質的制限」について

既に述べたように、独禁法は、①「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」と、②「不公正な取引方法によるものである場合」(優越的地位を濫用することにより株式を取得するケース等)に企業結合を禁止していますが、②の適用事例は極めて稀ですので、主に、①の「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」とはいかなる場合かが問題となります。

この論点について論じるときには必ず登場する古い判例があります。それは、東宝株式会社と株式会社新東宝間の映画配給に関する契約の独禁法違反が問題となった昭和28年12月7日東京高裁判決で、そこで裁判所は、「競争を実質的に制限するとは、競争自体が減少して、特定の事業者又は事業者集団がその意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することによって、市場を支配することができる状態をもたらすことをいう」と判示しました(*1)。しかし、これはあくまで大きな概念、抽象的な定義に過ぎず、具体的事案における実際の認定作業は詳細を極めます。

競争制限の判断にあたって最初に理解しておきたいのは、「水平的結合」と「垂直的結合」によって、判断枠組みが変わってくるということです。「水平的結合」とは、同一の一定の取引分野において競争関係にある会社間の企業結合をいい、「垂直的統合」とは、例えば、メーカーとその商品の販売業者との間の合併など取引段階を異にする会社間の企業結合をいいますが、アメリカでは、前者の水平的カルテル(価格協定、市場分割協定、入札談合、共同ボイコット等)は行為の外形から当然違法(per se illegal)とされているのに対し、後者の垂直的取引制限については、再販売価格維持行為は「再販売価格に関する共謀・協定」がある場合当然違法とされますが、その他の非価格制限については、基本的に合理の原則(rule of reason)に基づいて違法性が判断されています。これは、水平型の企業結合においては、一定の取引分野における競争単位の数を減少させるので、競争に与える影響が最も直接的であり、その結果、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる可能性が、垂直型企業結合に比べ高いからです。日本の公取委の審査においても、水平型にはついては、やはり垂直型よりも厳しく判断されています。

続いて、一定の取引分野における競争制限は、当事会社グループの「単独行動」によって発生する場合と、当事会社グループとその競争者が「協調的行動」を採ることによって発生する場合とに分けられます。例えば、再販売価格維持行為は、メーカーの一方的行為(安売り業者への供給停止等)によってなされることもあれば、メーカーと安売業者以外の販売業者が再販売価格維持協定を締結した上で行われることもあり、前者については取引先選択の自由の範囲内であり合法であるが、後者については違法という判断に到達することが十分ありえます。また、水平型企業結合のケースでは、市場内の競争者の数が減少することによって、各業者が互いの行動を高い確度で予測することができるようになり、他社の値上げに追従して自社も値上げするといった競争制限効果が発生することが考えられます。これは水平型における「協調的行動による競争の実質的制限」といわれるものです。

新企業結合ガイドラインも、上記のように、「水平型と垂直型(および混合型)」と「単独行動と協調的行動」に分類した上で、当該企業結合が競争を実質的に制限することとなるか否かを判断するに際し、以下のような項目を総合的に勘案すべきとしています(以下は「水平型」に関するものですが、「垂直型」「混合型」の場合もほぼ同様の判断要素が用いられます。)。

(単独行動)
・ 当事会社グループの地位及び競争者の状況(市場シェア及びその順位、当事会社間の従来の競争の状況等、共同出資会社の扱い、競争者のシェアとの格差、競争者の供給余力及び差別化の程度、国境を越えて地理的範囲が画定される商品の扱い)
・ 輸入(制度上の障壁の程度、輸入に係る輸送費用の程度や流通上の問題の有無、輸入品と当事会社グループの商品の代替性の程度、海外の供給可能性の程度)
・ 参入(制度上の参入障壁の程度、実態面での参入障壁の程度、参入者の商品と当事会社の商品の代替性の程度、参入可能性の程度)
・ 隣接市場からの競争圧力
・ 需要者からの競争圧力(需要者の間の競争状況、取引先変更の容易性)
・ 総合的な事業能力
・ 効率性
・ 当事会社グループの経営状況

(協調行動)
・ 当事会社グループの地位及び競争者の状況(競争者の数等、当事会社間の従来の競争の状況等、競争者の供給余力、共同出資会社の扱い)
・ 取引の実態等(取引条件等、需要動向、技術革新の動向等、過去の競争の状況)
・ 輸入、参入及び隣接市場からの競争圧力等
・ 効率性及び当事会社グループの経営状況

さて、これだけ多くの判断項目があると、判断者によって判断のブレが生じるおそれが生じ、当事会社から見た場合の予見可能性が失われることにもつながります。そこで、企業結合ガイドラインは、いわゆるHHIを利用したセーフハーバーを設定しました。このセーフハーバーについては、次回のコラムで紹介したいと思います。


(*1) 但し、企業結合は主として実行する前に審査されるものですので、実際に競争制限が発生したかどうかを認定することはできません。よって、「こととなる」という文言に注目し、「企業結合により、競争の実質的制限が必然ではないが容易に現出し得る状況がもたらされることで足りる」、すなわち、競争制限につながる蓋然性があれば足りると解釈されています。

M&Aと独禁法(その4)(日本の場合-市場画定のプロセス)

これまで主に手続について見てきましたが、独禁法で最も面白いのは、水平的カルテル(価格協定、市場分割協定、入札談合や共同ボイコット等)、垂直的取引制限(再販売価格維持行為等)、独占行為、企業結合等に関し実際に問題になった事例について、時間を掛けて順番に勉強していくことではないでしょうか(*1)。余談ですが、私が通っていたアメリカのロースクールでも、独禁法は「判例法のダイナミズム」を思う存分味わえる科目として人気を博しており、100個近い判例(米国での競争法の歴史は100年を超えます。)を教授と学生が一緒になって詳細に研究した独禁法の授業は、M&Aと同程度かそれ以上に興味深い科目でした。独禁法関係の事案分析においては、必ず「Marketの範囲」と「Competitionの抑制効果の有無」が問題になります。それらについて、具体的事実関係を目の前にして精査していくプロセスが面白いのです。

実際のビジネスの世界では、何とかして他社よりも利益を多く上げたいと願う企業があの手この手で「値下げ競争」が発生しないよう手段を講じるわけですが、ときにそれが「消費者にとって利益となる業者間の競争」を阻害してしまいます。将来、自社が利益を独占するために今のうちに他社をマーケットから排除したい → そのために、たとえ今は損が出ても他社は追随できないほどの安価で自社製品を売りさばく・・・これは略奪的価格設定のケースですが、その瞬間の「安い価格」だけを捉えれば消費者にプラスとなるような企業の行動であっても、長い目で見て将来の競争に悪影響を及ぼす場合は、適正な競争状態を維持するという観点からは許されないことになります。企業があの手この手で考え出した手法について、規制側もあらゆる観点から「競争への悪影響」がないかを判断するわけです。独禁法違反が問題となるケースは、自由競争を理由に利益追求に走る企業と、消費者保護を謳う規制側との戦いや駆け引きの場であり、それゆえやっている方も見ている方も真剣で面白いのだと思います。

さて、アメリカの独禁法と同じく、日本の独禁法も、「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる」企業結合を禁止しています。ここで問題となるのは、①「一定の取引分野」をどうやって画定するのか、②「競争の実質的制限」に該当するか否かはどのように判断するのかの2点です。順に書いていきたいと思います。

1.「一定の取引分野」について

M&Aが競争に及ぼす影響を分析しようと思えば、まず、市場を画定する必要があります。例えば、J社という大阪のラケットメーカーがあるとします。J社は大阪市内のテニスラケットの市場シェア率で言えば70%を誇るが、日本全体では15%、世界では3%に過ぎない状態であると仮定します。この場合、大阪市が市場、すなわち「一定の取引分野」であるとすれば、大阪市内の別のラケットメーカーと合併することによって、市場シェア率は競争政策上看過できないレベルに到達する可能性があります。他方で、世界全体を市場と捉えた場合には、J社の合併は世界全体のテニスラケット市場の競争にはほとんど影響を与えないということになります。よって、まず「地理的範囲」の画定が必要になります。

また、上記では「テニスラケット」市場と書きましたが、仮に、世の中のテニスプレーヤーの多くがテニスもバドミントンも卓球もするという場合、J社が合併後にその市場独占力を利用してラケットの価格を引き上げた場合、プレーヤーはバドミントンや卓球に移行する可能性があります。この場合、J社はテニスラケット市場において競争制限による利益を享受できていないということができます。よって、「地理的範囲」に加えて、「商品(サービス)の範囲」も問題になるわけです。

J社は、「地理的範囲」については、「競争は世界レベルで行われており、世界レベルでは、価格に影響力を及ぼすパワーは我が社にはない」と主張するでしょう。また、「商品の範囲」については、「多くの人が複数のラケットスポーツを楽しんでおり、テニスラケットの値段を上げれば、ユーザーは他のラケットスポーツに移行するから、競争制限が発生するかどうかは、ラケットスポーツ業界全体で判断すべきだ」といった主張をするかも知れません。これに対して規制側である公取委は、一般に市場の範囲をできるだけ狭く解釈しようとしますので、「市場は大阪市内で、かつ、テニスラケット市場に限定される」というところから主張をスタートするものと思われます。実際には、テニスラケットについては海外メーカーの商品が日本市場を席巻しており、また、テニスをする人が他のラケットスポーツもするという事実が存在するとも思えませんので、市場の「地理的範囲」は世界、「商品の範囲」はテニスラケットとすべきではないかと考えますが、いずれにしても、独占や競争制限が問題となる「市場」、すなわり「一定の取引分野」をどう画定するかで、競争に与える影響に関する分析結果も大きく異なってくるわけです。

前置きの具体例が長くなりましたが、上記のように、「企業結合により競争が制限されることとなるか否かを判断するための範囲」を意味する「一定の取引分野」は、「商品(サービス)の範囲」および「地理的範囲」により画されます。また、<新企業結合ガイドライン>は、両者の検討の際に、「需要者にとっての代替性」という観点を基本に、「供給者にとっての代替性」も加味できるとされています(*2)。この「需要者にとっての代替性」「供給者にとっての代替性」という考え方は、アメリカの判例法で確立されている判断手法と同じです。

このうち「需要者にとっての代替性」に関しては、いわゆるSSNIPテストが利用されることが新企業結合ガイドラインで明記されました。SSNIPテストというのは、「Small but Significant and Non-transitory Increase in Price(小幅ではあるが、実質的かつ一時的ではない価格引き上げ)」をした場合に、当該商品及び地域について、需要者が当該商品の購入を他の商品または地域に振り替える程度を検証する手法になります。例えば、前記の例で、J社が合併後の市場独占力を利用して大阪市内でテニスラケットの値上げを行った場合に、大阪市内のユーザーが大阪市外のラケットメーカーのラケットあるいは他のラケットスポーツに乗り換えることができなければ(現実には考えにくいことですが)、J社は「他の商品または地域への振替の程度が小さいために、価格引上げによる利潤を拡大できる」ことになりますので、「大阪市内のテニスラケット市場」=「当該企業結合によって競争上影響が及びうる範囲」=「一定の取引分野」という結論が導かれます(*3)。

他方、「供給者にとっての代替性」とは、当該商品及び地域について、小幅ではあるが、実質的かつ一時的ではない価格引上げがあった場合に、他の供給者が、多大な追加的費用やリスクを負うことなく、短期間(1年以内を目途)のうちに、別の商品または地域から当該商品に製造・販売を転換する可能性の程度を考慮する判断手法です。前記の例でいえば、J社が値上げを行った後速やかに、東京で営業を展開していた他社がJ社よりも安い値段のラケットを大阪市内で販売し始められるようであれば、市場の「地理的範囲」については大阪市内に限定すべきではないということになります。J社の合併及びそれに続く値上げによっても、「大阪市内における競争」はさほど悪影響を受けていないといえるからです。また、大阪市内のバドミントンラケット専門メーカーが、J社の値上げを横目で見つつ、自社の生産ラインをさほど費用を掛けずにテニスラケット製造ラインに変更してJ社よりも安いテニスラケットを大阪市内で販売できるのであれば、やはりJ社は値上げによる利益を享受できません。この場合、「商品の範囲」をテニスラケットに限定することに疑問が生じてくるわけです。

なお、地理的範囲について、新企業結合ガイドラインは、「ある商品について、内外の供給者を差別することなく取引しているような場合には、国境を越えて地理的範囲が画定される」としました。日本において価格が引き上げられたとしても、日本のユーザーが、海外のメーカー/販売者から同種同効用の商品を購入できるのであれば、日本における価格引上げは「販売量の低下」という結果を招き、結果として、競争阻害が発生しないからです。この判断においては、消費者の購買行動や供給者の供給能力・販売網、商品の輸送費用等が考慮要素になってくるものと思われます(*4)。

次回の独禁法シリーズでは、「競争の実質的制限」について書きたいと思います。


(*1) 日本の事案については、公取委が毎年具体的ケースを公表しており、以下のウェブサイトから見ることができます。http://www.jftc.go.jp/ma/houdouindex.html
(*2) 「一定の取引分野」に関する更に網羅的な説明については、新企業結合ガイドラインの10頁以下をご覧ください。
(*3) SSNIPテストに関し、公取委は、「小幅ではあるが、実質的かつ一時的ではない価格引上げ」とは、通常、引上げ幅については5~10%程度、期間については1年程度のものを指すが、この数値はあくまで目安であり、ここの事案ごとに検討されるべきと述べています。
(*4) 市場が世界全体とされた例: ソニーと日本電気による光ディスク事業の統合(平成17年度公表事例8)

M&Aと独禁法(その3)(日本の場合-合併・会社分割・事業譲渡について)

株式譲渡に続いて、合併(15条)、会社分割(15条の2)、事業譲渡(16条)に関する独禁法上の事前届出要件等についても、情報整理のために書いておきたいと思います。

1.合併について

15条2項は、「事前届出義務」について規定しています。具体的には、以下の2要件をいずれも充足する「会社」(*1)の合併については、公取委に対する事前届出義務が発生します。(*2)

① いずれか1つの会社:総資産合計額(当該会社の総資産額・当該会社の親会社の総資産額・当該会社の子会社の総資産額の合計額)が100億円
② 他のいずれか1つの会社:総資産合計額が10億円


<前回のコラム>でも書きましたように、以下のいずれかの場合には、届出義務がありません(同条2項但書)。以下の場合には、合併が競争に与える影響が類型的に大きいとはいえないからです。
① 合併会社のうちの1つが、他の全ての合併会社の親会社である場合
② 合併会社が全て兄弟会社である場合

手続的には、届出がなされると、待機期間(同条4項)がスタートします。具体的には、届出受理日から30日(公取委の判断で短縮可)が経過するまでは合併の効果を発生させることができません。公取委が排除措置命令を発する場合には、原則として待機期間内に(*3)「排除措置命令に先立つ意見申述・証拠提出の機会を付与する旨の事前通知」(49条5項)を行わなければならないことになっています(15条5項)。

届出義務を怠った場合、①200万円以下の罰金(91条の2)の可能性があるほか、②公取委による合併無効の訴え(18条1項)が提起されるおそれもあります。後者に関しては、届出規定違反そのものが無効原因となることに注意が必要です。

2.会社分割について

まず、16条の事業譲受け規制においては「譲受会社」が規制の名宛人であるのに対し、会社分割規制においては吸収分割における承継会社や新設分割における設立会社ではなく、「分割会社」が規制の名宛人になる点に注意が必要です。

さて、会社分割が以下の要件を充たす場合には、公取委に事前届出を行わなければなりません。届出義務があるのは「分割会社」のみです。(*4)

① 新設分割のケース:分割会社の中に総資産合計額(当該会社の総資産額・当該会社の親会社の総資産額・当該会社の子会社の総資産額の合計額)が100億円超であるものが一つ以上あり、そのほかに、総資産合計額が10億円超であるものが一つ以上ある場合
② 吸収分割のケース
 (i) 承継会社の総資産合計額が10億円以下:届出義務なし。
 (ii) 承継会社の総資産合計額が10億円100億円以下:分割会社の中に総資産合計額が100億円超であるものが一つ以上ある場合に届出義務発生。
 (iii) 承継会社の総資産合計額が100億円超:分割会社の中に総資産合計額が10億円超であるものが一つ以上ある場合に届出義務発生


①分割会社のうちの1つが、他の全ての分割会社の親会社である場合、②分割会社が全て兄弟会社である場合に届出義務がないのは合併時と同様です。また、待機期間や届出義務違反の効果も合併と同様です。

3.事業譲渡について

事業譲渡においては、「譲受会社」が規制の名宛人になります。
  
以下の2要件をいずれも充たす場合には、公取委に対する事前届出義務が発生します。届出義務があるのは「譲受会社」のみです。(*5)

① 譲受会社:総資産合計額が100億円超
② 譲渡会社
(i) 事業全部の譲渡のケース:総資産の額が10億円
(ii) 事業の重要部分または固定資産の譲渡のケース:「譲渡対象部分に係る最終の損益計算書上の売上高」が10億円


ここで、「重要部分」の解釈が問題となりますが、会社法上の「重要部分」の解釈とは同一ではありません。具体的には、独禁法上の「重要部分」とは、

【事業を承継させようとする会社にとっての重要部分を意味し、当該承継部分が一つの経営単位として機能し得るような形態を備え、事業を承継させようとする会社の事業の実態からみて客観的に価値を有していると認められる場合】に限り、
【事業を承継させようとする会社の年間売上高に占める承継対象部分に係る年間売上高の割合が5%以下であり、かつ、承継対象部分に係る年間売上高が1億円以下の場合には、通常「重要部分」には該当しない】とされています(企業結合ガイドライン9頁)。

①譲渡会社と譲受会社のうちの1つが、他の全ての会社の親会社である場合、②譲渡会社と譲受会社が全て兄弟会社である場合に届出義務がないことと、待機期間・届出義務違反の効果については、合併と同様です。


(*1) ここでいう「会社」には、会社法上の会社、保険業法上の相互会社等が含まれます。合併当事会社が外国会社であっても、日本市場に弊害をもたらすことはありうるので、外国会社も本条の「会社」に含まれることに注意が必要です。
(*2) 外国会社の場合は、「総資産合計額」を「国内売上高」と読み替えてください。
(*3) 公取委が追加の資料提出を求めた場合は、「届出受理の日から120日を経過した日」か「すべての報告等を受理した日から90日を経過した日」のいずれか遅い日まで延長されます。
(*4) 外国会社の場合は、「総資産合計額」を「国内売上高」と読み替えてください。また、部分分割のケースにおいては、「総資産合計額」を「承継対象部分に係る最終の損益計算書上の売上高」と読み替えます。
(*5) 外国会社の場合は、「総資産合計額」を「国内売上高」と読み替えてください。

M&Aと独禁法(その2)(日本の場合-主に株式譲渡について)

引き続き、日本の独禁法について書きたいと思います。
独禁法は、合併・会社分割・事業譲渡については、事前に公取委に届け出るよう義務付けています。では、実務で最も多く利用されていると思われる株式譲渡についてはどうでしょうか?

株式譲渡については、現時点では、以下の3点を全て充足する場合には、③の要件を充足した日から30日以内(*1)に公取委に報告書を提出しなければならないことになっています。つまり、事前届出ではなく、「事後」の報告をすることが求められています。

①  株式保有をする会社:総資産額(最終の貸借対照表上の資産合計額)が20億円超、かつ、総資産合計額(当該会社の総資産額・当該会社の親会社の総資産額・当該会社の子会社の総資産額の合計額(*2))が100億円
②  株式保有をされる会社:総資産額が10億円超(* 株式保有をされる会社が外国会社の場合は、当該外国会社およびその国内子会社の国内における営業所の国内売上高が10億円超の場合)
③  議決権保有割合の変化:当該取引により、10%以下から10%超、25%以下から25%超、50%以下から50%超に増加すること


ただし、上記ルールは次回の独禁法改正によって変更される予定になっています。すなわち、公取委は平成19年10月16日付けで、<「独占禁止法の改正等の基本的考え方」>と題するレポートを公表しましたが、これによると、

【(1) 独占禁止法第4章に係る届出・報告制度の見直し
○ 会社等の株式取得につき,合併等の他の企業結合と同様に事前届出制度とする。
○ 我が国市場に影響を及ぼす外国会社に係る企業結合に関し,届出基準を見直す。
○ 親子会社間及び兄弟会社間のみならず,いわゆる叔父甥会社間の合併等についても,届出を免除する。】


となっています。公取委は、「今後、政府部内を含めた各方面との議論を踏まえて、具体的な法案等の作成作業を行う」としており、今後、上記方針に従った法改正がなされるものと考えられます。

また、現時点でも事前届出が必要な合併・会社分割・事業譲渡の中でも、親子会社間や兄弟会社間の合併等については届出が不要ですが、孫会社については届出が必要とされていますので注意が必要です。

届出が必要な合併・会社分割・事業譲渡の範囲については、次のコラムで整理したいと思います。


(*1) 公取委は、必要性を認めれば、この30日の期間を短縮することが出来ます。
(*2) 親会社・子会社については、議決権の50%超を直接保有するかどうかがメルクマールとなります。

M&Aと独禁法(その1)(日本の場合-総論)

M&Aは特定の市場における「競争」に影響を与える可能性があります。そこで、大型のM&A取引が入ってくると、当事者企業の法務部や弁護士は独禁法関連の規制範囲と手続をチェックすることになります。独占禁止法が、企業間のM&Aが「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」や「不公正な取引方法による場合」(*1)に、それらを禁止しており、違反した場合には排除措置(独禁法17条の2)が採られる可能性があるからです。

実務的には、独占禁止法と、これを執行する公正取引委員会が策定・公表した<「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」(企業結合ガイドライン)>(*2)の内容を理解することがまず大事になりますので、シリーズで順番に見ていきたいと思います。なお、「独禁法上の企業結合規制」は、「私的独占の禁止」「不当な取引制限の禁止」「不公正な取引方法の禁止」に続く、独禁法規制の「第4の柱」と言われています。

まず、独禁法本体でM&Aに関係してくるのは、第4章「株式の保有、役員の兼任、合併、分割及び事業の譲受け」(第9条~第16条)です。この条文群は、合併、会社分割、事業譲受、役員兼任等について規制していますが、これらの規定は「一般集中規制」と「市場集中規制」との類型に分けられることがあります。

【一般集中規制】(市場における個々の競争制限を問題とするのではなく、「事業支配力の過度の集中」そのものを問題とするもの)
1) 第9条: 他の会社の株式等を所有することにより事業支配力の過度に集中することとなる会社の設立はしてはならない。
2) 第11条: 銀行業又は保険業を営む会社は、他の会社の議決権の5%(保険業にあっては10%)を超えて株式を取得、保有してはならない。

【市場集中規制】(個々の市場における競売の実質的制限を問題として企業結合への規制を考慮するもの)
1) 第10条: 会社の株式保有の制限
2) 第13条: 役員等の兼任の制限
3) 第14条: 会社以外の者の株式の保有の制限
4) 第15条: 会社の合併の制限
5) 第15条の2: 会社分割の制限
6) 第16条: 事業の譲受け等の制限

・・・条文は上記のとおりですが、実務的には、
① どのような場合に公取委への事前の届出が必要か、
② 公取委の企業結合審査はどのようなプロセスで進んでいくか、
③ 「競争の実質的制限」に当たるとして企業結合が禁止されるのはどのような場合か、
④ 事前相談制度の概要
などを理解しておく必要があると考えます。独禁法改正の動きも含めて、続きは、次回以降のコラムで紹介したいと思います。

(*1) 「不公正な取引方法による場合」がM&Aに関して問題になることは極めて稀だと考えます。
(*2) 平成16年5月31日に公取委によって発表され、その後、市場確定の判断基準やセーフハーバーの範囲を見直した改正ガイドラインが平成19年3月28日に公表されました。

米国独占禁止法(ハート・スコット・ロディノ法)の改正について

米国FTC(*1)は、最近(2008年1月18日)、いわゆるHSR法(*2)の合併前事前届出基準(Premerger Notification Thresholds)を変更しました(*3)。独禁法というのは、他社を買収して事業を拡大していくM&Aとは切っても切り離せない関係にあり、とりわけ海外でも営業を展開している企業の場合、その営業地である外国の独禁法にも常に気を配らなければなりません。また、主要先進国の独禁法は、その国のマーケットや競争政策に影響がある場合は域外適用ができるという規定になっていますので、海外の独禁法について知っておくことは有用です。

米国独禁法のうちM&Aと重要な関わりを持ってくるのが、規制基準を定めるクレイトン法7条(*4)と手続法であるHSR法です。そのほか、水平合併に関する実務的に重要なガイドラインがあり、1992 Horizontal Merger Guidelineと呼ばれています。クレイトン法とこのガイドラインについては別コラムで紹介したいと思います。

さて、HSR法は、一定の要件を満たす資産取得と議決権付株式の取得に適用されるところ、HSR法が適用されるM&A取引を行う当事者はFTCと司法省に対して事前通知を行い、「実質的に競争を減殺し、または、独占を発生させる蓋然性があるかどうか」に関する審査を受けなければなりません。では、いかなる取引がHSR法の規制対象になるかですが、この点については、「取引規模」要件(Size of Transaction)「当事者規模」要件(Size of Person)の2点に注目する必要があります。改正の前と後を比べてみたいと思います。

【改正前】
1.「取引規模」要件
(1) 5,000万ドル以下の資産/株式取得 ⇒ 届出不要
(2) 5,000万ドルから2億ドルまでの資産/株式取得 ⇒ 「当事者規模」要件が満たされると届出義務発生
(3) 2億ドル超の資産/株式取得 ⇒ 常に届出が必要
(4) 評価額にして10億ドル超の株式を25%以上取得 ⇒ 常に届出が必要

2.「当事者規模」要件
「取引の一方当事者が1億ドル以上の資産または売上を有し、かつ、他方当事者が1,000万ドル以上の資産または売上を有すること」

【改正後】
1.「取引規模」要件
(1) 6,310万ドル以下の資産/株式取得 ⇒ 届出不要
(2) 6,310万ドルから2億5230万ドルまでの資産/株式取得 ⇒ 「当事者規模」要件が満たされると届出義務発生
(3) 2億5230万ドル超の資産/株式取得 ⇒ 常に届出が必要
(4) 評価額にして12億6150万ドル超の株式を25%以上取得 ⇒ 常に届出が必要

2.「当事者規模」要件
「取引の一方当事者が1億2620万ドル以上の資産または売上を有し、かつ、他方当事者が1,260万ドル以上の資産または売上を有すること」

・・・一見複雑な構造になっていますが、「取引規模」要件から順番に当てはめていけば、届出義務の存否が分かると思います。実際には、更に詳細なルールが存在しますので、実際に案件を進めていく際には独禁法専門弁護士のサポートが必要になってくると思われます。また、HSR法は、上記基準はGNPをベースにして毎年見直されるべきものと定めていますので(新基準の数字が中途半端なものになっているのはそのため)、今後も毎年注意が必要です。

(*1) Federal Trade Commission(連邦取引委員会)。日本の公正取引委員会に該当。
(*2) Hart-Scott-Rodino Antitrust Improvements Act of 1976
(*3) 新しいHSR Actは2008年2月18日以降にクロージングを迎えるM&A取引から適用されます。
(*4) Clayton Act(15 U.S.C. §12~)

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