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井垣太介 (Taisuke Igaki)

Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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会計基準の世界的統合の動きについて

昨年夏(2007年7月)のことになりますが、米国証券取引委員会(SEC)は、外国民間証券発行者(Foreign Private Issuer)(*1)がSECに対して提出を義務付けられている報告書について、<国際会計基準審議会(IASB)>が公表している<国際財務報告基準(IFRS)>に従って財務諸表を作成している限り、米国のGAAPへの調整を行うことなく当該財務諸表を開示資料として使用することを認めました。今回は、この動きが持つ意味と背景について考えてみたいと思います。

コーポレート・ガバナンスを有効に機能させるためには、利害関係人(主に投資家、株主および債権者)に対して必要な企業情報を提供すること、すなわち「情報開示」が重要になってきますが、国際的な大企業に限らず中小企業であっても海外に支店を出したり現地法人を設立することが珍しくなくなった現代においては、国ごとに異なる会計基準によって作成された財務諸表をそのまま情報開示資料として使用することを認めるか否かという問題が発生しました。

この点については二つの考え方があります。一つは、海外企業に対しては上場している国の会計基準に合わせることを強制する考え方(「調整方式」)であり、米国のSECがこの立場を採っています。すなわち、米国の証券取引所に上場している外国会社は、①米国の会計基準(GAAP)に基づいた財務諸表をゼロから作るか、②自国の会計基準で作成した財務諸表に、米国基準を適用した場合にはこうなるであろうという修正結果を添付しなければなりません(後者の作業のことを「調整」(reconciliation)と呼びます)。

他方、もう一つの考え方は、海外企業に対して「調整」を要求せず、当該企業の母国における会計基準に則して作成した財務諸表を開示資料として使用しても構わないが、その代わり、同じ対応を当該相手国に求める「相互承認方式」であり、日本の証券取引所はこの方式を採用しています。

しかし、調整方式は不公平であるだけではなく「調整」のための費用と時間が掛かり、他方、相互承認方式は公平ではありますが、外国の会計基準に基づいて作成された財務諸表を開示されても理解が困難であるという根本的な問題点があります。そこで、近年では、EUが先導者となって、世界共通の会計基準を作り、なるべく多くの国で採用してもらおうという動きが出てきました。これが冒頭に述べた「国際会計基準審議会(IASB)が公表している国際財務報告基準(IFRS)」です。

具体的な動きとしては、EUは、2005年に、EU内で上場している企業に対して、相互承認方式を止めてIFRSを適用することを求めました。この前後から、日本の企業会計基準委員会(ASBJ)やアメリカの財務会計基準審議会(FASB)は、IASBと協議を重ね、日本や米国の会計基準を将来においてIFRSに合わせて行くことを約束しました。すなわち、欧州証券規則当局委員会(CESR)は、米国基準や日本基準がIFRSと同等かどうかを調査し、異なる点については「補正措置」を採ることで是正することを求め、日本の場合は2011年6月末までにこれを是正することに合意しました。米国のFASBも、米国基準からIFRSに近づけることが投資家保護のための最善案であることをSECに対して表明しており(IFRSそのものを採用するとは名言していない)、こういった米国流「調整」方式からの離脱の一効果として、冒頭に述べた、外国民間証券発行者に対する規制変更がなされたと言えます。

近い将来日本や米国の会計基準はIFRSに近づく方向で修正されていくことになりますが、会計基準の統合はクロスボーダーM&Aの実務にも影響を与えてきますので、その具体的な動きについてはまたフォローしていきたいと思います。


(*1)  外国民間証券発行者とは、「発行者の証券を保有する米国居住者が全証券保有者の50%未満である会社、または、米国居住者が50%以上の証券を保有する会社であっても、①役員および取締役の過半数が米国市民または米国居住者でなく、②発行者の事業が主に米国外で営まれ、かつ、③発行者の資産の50%超が米国外にある会社」を言います(外国政府関連組織は除く)。外国民間証券発行者は、年次報告書としてForm 20-Fを提出する義務がありますが、四半期報告書(10-Q)は提出する必要がありません。
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企業結合会計~消えゆく持分プーリング法~

企業結合会計といいますと、国際的な会計基準はパーチェス法ですが、日本には一部持分プーリング法が残っています。ここを欧州証券規制当局委員会(CESR)に指摘され、補正するように求められていました。

そこで、日本では、平成18年12月に企業会計基準委員会(ASBJ)事務局内に企業結合プロジェクト・チームが設置され、国際基準との違いや日本の状況を調査した上で、平成19年10月に、「企業結合会計に関する調査報告-EUによる同等性評価に関連する項目について-」をASBJに提出しました。その後、ASBJは、上記調査報告書を元に審議を重ねた上で、平成19年12月27日に「企業結合会計の見直しに関する論点の整理」を公表しました(パブコメの受付は既に終了)。この動きについては引き続きフォローする予定ですが、その前に、パーチェス法とプーリング法の違いを、法務チームに必要な範囲内で理解しておきたいと思います。

パーチェス法というのは、「結合される企業・事業から受け入れる資産・負債の取得原価を、対価として交付する現金・株式等の時価とする方法」です。他方、持分プーリング法は、時価評価を行なわず、簿価を結合させる方法になります。パーチェス法を採用した場合、結合に際して含み益や営業権なども時価評価されるため、純資産額が増加することになります(プーリング法では全て簿価で引き継ぐため「のれん」は発生しません)。これが「のれん」(Goodwill)で、日本では20年以内の一定期間に定額償却する方式が採用されています。この「のれん」の償却が収益を圧迫することを嫌い、また、「パーチェス」=「大が小を買収する」というイメージを嫌い、従来、日本でもアメリカでも、何とか持分プーリング法を適用しようとするケースが多く発生したようです。

しかし、アメリカでは、結局、持分プーリング法は完全に廃止され、今はパーチェス法のみが許されています(つまり、いかなる場合でも、どちらが買収会社でどちらが被買収会社かを決めなければなりません。この決め方についても一定の基準が存在します)。なお、アメリカではパーチェス法によって発生する「のれん」については政策的判断により償却不要とされ、必要に応じて減損処理をすることだけが要求されています。

日本では、2006年から新ルールとして企業結合会計基準が適用が始まりましたが、パーチェス法への一本化は見送られ、持分プーリング法が生き残りました。ただし、現時点において、持分プーリング法が適用されるのは、対等な結合と見なすべき以下の3つの条件をすべてクリアしたケースのみとなります。

① 企業結合の際、支払われる対価がすべて株式であること
② 結合会社の各株主の議決権が、結合後の会社の議決権比率でおおむね50:50(上下5%のズレはOK)になること
③ 議決権比率以外の支配関係を示す一定の事実がないこと

遅かれ早かれ、この持分プーリング法は廃止されると思いますが、その場合には、どのような基準で取得企業を決定するかという論点がアメリカと同様に問題になってくると考えます。

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