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井垣太介 (Taisuke Igaki)

Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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上場会社による100%子会社の合併方法

上場企業が100%子会社を吸収合併するケースは少なくないと思いますので、その際の方法について簡単に整理します。

まず、親会社側については、通常、簡易合併となり株主総会決議が要りません。
簡易合併が認められるための要件の概略は、以下の①を満たし、かつ②及び③に該当しないこととされています。なお、親会社の株主の(原則)6分の1以上(会社法施行規則197条)が当該合併に反対する場合には株主総会の開催が必要となりますが(会社法796条4項)、実務上かかる可能性は少ないと思われます(*1)。
① (合併対価が株式である場合)合併において交付される株式数が発行済株式総数の5分の1以下であること(会社法796条3項本文)
② 存続会社の全株式が譲渡制限株式であり、かつ、合併対価の全部又は一部がかかる存続会社の譲渡制限株式である場合(会社法796条3項ただし書、同条1項ただし書)
③ 存続会社に合併差損が生じる場合(会社法796条3項ただし書、795条2項各号)


100%子会社の合併は通常「無対価の吸収合併」になりますので、上記①は常に満たし、また親会社が上場会社であれば上記②も当然に充足することとなります。
他方、③については、子会社が債務超過の状態になかったとしても安心はできず、親会社のB/S上に計上されている子会社の株式が消滅することとなるため、いわゆる「抱合せ株式の消滅による抱合せ損」が生じる可能性がある点に注意が必要です。

かかる抱合せ損が生じる場合には、たとえ資産超過会社を吸収合併する場合においても、簡易合併の要件である上記③を充足しないこととなり(会社法796条3項ただし書、795条2項1号、会社法施行規則195条1項、2項)、親会社において株主総会決議が必要になります。抱合せ損が生じるか否かは、概略でいえば、(1)親会社において計上されている子会社株式の帳簿価格と(2)子会社の純資産の額の比較を行って判断することになりますが、(2)については子会社の連結上の帳簿価格を用いるといった留意点もありますので、具体的な判定を行う際には、会計士、監査法人等の意見も確認するのが望ましいでしょう。

続いて、子会社側においては、略式合併を検討することになります。略式合併が認められるための要件の概略は、以下の①を満たし、かつ②に該当しないこととされています。
①存続会社が消滅会社の総議決権の90%以上を有している「特別支配会社」(その意義については、会社法468条1項、会社法施行規則136条1項をご覧ください。)であること(会社法784条1項本文)
②合併対価の全部又は一部が譲渡制限株式である場合であって、消滅会社が公開会社であり、かつ種類株式発行会社でないとき(法784条ただし書)

上場会社による100%子会社の吸収合併の場合、上記①及び②のいずれも充足しますので、子会社側においては株主総会の開催が不要になります。

最後に、例えば、決算期が3月31日で合併の効力発生日が4月1日の場合、当該事業年度における子会社側の決算書類の作成や公告はどのように処理するべきかが問題となります。
この点、合併の効力発生日以後は、子会社の決算書類の作成及び取締役会による決定、株主総会による決議及びその後の公告といった手続を行うべき子会社の機関が消滅しているため、これらの手続はできず、かつ、その必要もないということになります。
もっとも、消滅会社の確定申告については、存続会社が行う必要がありますので留意が必要です(国税通則法6条)。

【執筆:弁護士岩谷博紀】


(*1) 詳細は、「簡易組織再編の原則と例外」をご参照ください。

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2011年2月10日に閣議決定された産活法改正案の概要

一昨日(2011年2月10日)に閣議決定された産活法改正案(「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法の一部を改正する法律案」)が第177回通常国会に提出されます。

改正法案のポイントは、以下の通りです。
(1) 民主導の戦略的な産業再編等を促すため、以下の措置を講じます。
 ① 公正取引委員会との協議制度の創設
 ② 会社法の特例による組織再編手続きの簡素化・多様化
 ③ 産業再編等を行う事業者に対する長期資金の低利融資制度(ツーステップローン)の創設等
(2) ベンチャー・地域中小企業等を支援するため、以下の措置を講じます。
 ① ベンチャー、中堅企業等の成長企業への融資に対する債務保証
 ② 事業の引継ぎを希望する中小企業どうしの引き合わせ支援等

このうちM&Aに関係するのは(1)の方ですが、そのうち①は、主務大臣が産活法に基づく計画認定を行うにあたり、公取委と「協議」することを義務付けています(これまでは、主務大臣から「意見を述べるものとする」と規定されていました)。条文は「第13条(公正取引委員会との関係)」です。単に意見を述べるのではなく協議まで求めることで、産活法の枠組みを利用して行われるM&Aについては、公取委側の合併等の審査についても当事会社側(あるいは経済界)のニーズに応える合目的的な結果を導こうとする趣旨ではないかと考えます。新聞報道上はこれによるスケジュールの短縮が予想されていますが、スケジュールについては、現在審議されている事前相談制度の廃止が実現するかどうかや、公取委側の審査期間がどのように設定されるかによって決まってくるものと考えます。

続いて、②は、90%以上の株主が公開買付けに応じた場合の完全子会社化の手続簡素化を定めており、全部取得条項付種類株式に関連する株主総会の開催を不要とするもので、条文は「第21条の3(全部取得条項付種類株式の発行及び取得に関する特例)」です。

②にはもう一つ改正点があり、自社株を対価にする公開買付けを利用しやすくするため、現行の「株価」ではなく「株式交換比率」を株主総会で決議すれば済む特例を設けています。現行制度では、手続進行中に「株価」が変動してしまう可能性があったため、交換比率だけを決議すれば足りるとなれば手続の安定につながるでしょう。こちらの条文は「第21条の2(株式を対価とする公開買付けに際しての株式の発行等に関する特例)」です。

③は、政府が総額1000億円の資金を2011年度の財政投融資計画で確保し、日本政策金融公庫と民間の指定金融機関を経由して、M&Aを行う企業に5年ないし10年の長期資金として融資するというものです。

いずれも産活法に基づく事業計画の認定を受けた企業がM&Aを行う際に適用されるものであり、公布の日から起算して3ヶ月を超えない範囲内において政令で定める日から施行するとされています。

【新旧条文対照表】はこちら
【会社法の読替表】はこちら


簡易組織再編の原則と例外

実務上、検討する機会が多い制度の一つとして簡易組織再編が挙げられますが、簡易組織再編は意外と細かくて、例外や手続について完璧に押さえるのが難しい制度ですので、一度まとめておきます。

株式会社が吸収型再編を行う場合、原則として、両当事会社において株主総会の承認決議が必要です。根拠条文は、存続会社が会社法795条、消滅会社が783条です。決議要件は、存続会社も消滅会社も「特別決議」(総議決権の過半数(*1)を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上(*2)の賛成、会社法309条2項)が原則ですが、公開会社が消滅会社となるケースで、消滅会社の株主に譲渡制限株式が対価として交付される場合には「特殊決議」(総株主の半数以上の株主の賛成+総議決権の3分の2以上の賛成、会社法309条3項2号、3号)が要求されます。

さて、上記承認手続を省略できるケースの一つが簡易組織再編です。例えば、吸収分割であれば、吸収分割会社の株主に交付する「吸収分割承継会社の株式の数に1株当たり純資産額を乗じて得た額」と「吸収分割承継会社の株式等以外の財産の帳簿価額等」の合計額が、吸収分割承継会社の純資産額の20%を超えない場合(796条3項)、承継会社における株主総会承認決議が不要となり、吸収分割承継会社に承継される資産の帳簿価額の合計額が、吸収分割株式会社の総資産額の20%を超えない場合(784条3項)、分割会社における株主総会承認決議が不要となります。

この簡易な手続は、吸収合併(存続側)、吸収分割(分割側&承継側)、新設分割(分割側)、株式交換(完全親会社側)、事業譲渡(譲渡側&譲受側)について認められており、新設合併と株式移転については認められていません。また、簡易事業譲渡についてだけ、他とは離れた場所に条文があります(会社法467条1項2号、468条2項)。

実務上、注意しておくべきは、簡易組織再編ができないケースです。以下の場合には、簡易組織再編ができません(*3)。

① 株主に対する株式買取請求に係る通知又は公告の日から2週間以内に、法務省令で定める数の株式を有する株主が当該組織再編行為に反対する旨を当該会社に通知したとき(会社法796条4項) = 具体的には、特別決議で議案が否決される可能性のある数(定款で特に変更を加えていなければ、1/2×1/3+1で、6分の1超、会社法施行規則138条、197条)の反対通知がなされた場合
② 合併差損が発生する場合(会社法795条2項)
③ 対価として譲渡制限株式を交付する場合(会社法796条3項但書)


最後に、簡易組織再編においても、会社法785条2項2号に基づき反対株主の株式買取請求権は発生しますが、簡易吸収分割及び新設簡易分割における分割会社の株主には株式買取請求権が与えられていませんので(会社法785条1項2号、806条1項2号)、注意が必要です。


(*1) 「総議決権の過半数」という定足数については、定款で3分の1にまで下げられる。
(*2) 3分の2を上回る割合を定款で定めることが可能。
(*3) 吸収分割における分割会社に関しては、かかる例外の適用がなく、20%要件さえ充たせば簡易組織再編が可能。

M&Aアドバイザーの利益相反問題

私は,とある大学の医学部に設置された臨床試験に関する利益相反委員会の委員をしている関係で,「利益相反」や「倫理」といった問題には元々敏感なのですが,M&Aの世界でも,この「利益相反」「倫理」の問題に直面することがあります。

M&Aというのは,複数の会社が出会って統合に至る取引ですので,引き合わせをする仲介者的立場の人が居るのが通常です。この人が文字通り仲介者であり,その後,買い手・売り手の双方に,専門家アドバイザーがついて対等な交渉が行われるのであれば問題はありません。しかし,仲介者的立場の人が税理士,会計士,弁護士といった専門家であり,こういった専門家が「仲を取り持つ」ような形で契約締結まで持っていった場合はどうでしょうか?

このようなケースは,専門家がそれぞれ守らなければならない倫理規程に違反していることになります。結果が良い悪いは関係ありません。プロセスそのものが倫理上問題ありということになります。

最悪のケースは,たとえば,当該専門家が売り手と顧問契約を締結していて,そこに自分が顧問を務める別の会社を買い手として連れてきたようなケースです(実務上,十分にありうるケースだと思います)。この場合,当該専門家としては,生き残る会社(=買い手)の方に無意識に(あるいは意識的に)肩入れしてしまう可能性が出てきます。たとえば,売り手側の創業者兼代表者が事業承継を考えていて株式を手放したいと思っているとき,通常,売り手側の顧問弁護士・会計士等は,その代表者が連帯保証をしていることに着目し,連帯保証を外す(担保の差し替え)ことを条件に案件を進めるよう努力すると思いますが,買い手側に意識が行ってしまうと,そこまでケアできない(連帯保証を外すために買い手側および金融機関とハードな交渉ができなくなってしまう)かも知れません。

ところが,その株式譲渡でいかに高額の対価を受け取ったとしても,株式を買い取った側の会社がうまく経営できず(あるいは意図的に資産を換価したりして)倒産ということにでもなれば,結局は,連帯保証債務が残っていることから,元代表者は会社もろとも破産に追い込まれ,せっかく受け取った株式譲渡代金も全て返上することになります。しかも,株式を手放し,代表者でもなくなった後は,もはや会社の経営に口出しできないわけですから,経営の立て直し努力すら行えず,なすすべはありません。

また,利益相反の悪影響は,「対価」の決定手続にも顕著に現れてきます。売り手側と買い手側で双方鑑定(バリュエーション)を取ればまだ救いはありますが,鑑定が一本しかなければ,やはり客観性・公正性に疑いが生じます。

上場会社では株主の監視の目があるため最近は「M&Aプロセスの適正」がかなり意識されていると感じますが(特にMBOのケースにおいて),非上場会社・中小企業のM&Aでも,きちんと「利益相反」を解消し,倫理上の問題がない状態で進めなければなりません。法律とか数字とかノウハウよりも,正しい倫理観の方が大切だと感じます。

M&Aにおける事前開示書類(その1)~存続会社~

合併や会社分割においては,株主や債権者を始めとする利害関係人に対して取引の概要を知らせるために,
ア 株主総会開催日の2週間前の日
イ 株主への通知または公告の日
ウ 債権者への公告または催告の日
のうち、最も早く到来する日から事前開示書類を備置することが要求されています。では,具体的にどのような情報を提供すればよいのでしょうか?今回は,まず,M&A後に存続する会社(合併の存続会社,会社分割の承継会社,株式交換の完全親会社)において開示する必要がある情報を整理します。

吸収合併存続株式会社等の事前開示事項

吸収合併存続株式会社(191条)

吸収分割承継株式会社(192条)

株式交換完全親株式会社(193条)

①吸収型再編対価として吸収合併消滅会社等の株主又は社員に、その有する株式又は持分の代わりに金銭等を交付するときは、合併契約等に定める金銭等に関する事項及びその金銭等の割当に関する事項の相当性に関する事項

 

②吸収分割承継株式会社が吸収分割株式会社に対してその事業に関する権利義務の全部又は一部に代わる金銭等を交付するときは、吸収分割契約に定める金銭等に関する事項の相当性に関する事項

 

 

③吸収分割株式会社等が、分割型吸収分割を行うことを吸収分割契約に定めた場合には、全部取得条項付種類株式の取得又は剰余金の配当について決議された内容に関する事項

 

 

④吸収合併消滅株式会社等が新株予約権を発行しているときは、吸収合併契約等に定められている新株予約権に関する事項の相当性に関する事項

⑤吸収型再編の相手方である吸収合併消滅会社等についての次に揚げる事項
1)最終事業年度に係る計算書類等の内容
2)最終事業年度の末日後の日を臨時決算日とする臨時計算書類等があるときは、その臨時計算書類等の内容
3)最終事業年度の末日後に重要な財産の処分、重大な債務の負担その他の会社財産の状況に重要な影響を与える事象が生じたときは、その内容

⑥吸収合併消滅会社等が清算会社である場合には、清算賃借対照表

 

⑦吸収合併存続株式会社等についての次に揚げる事項
1)最終事業年度がないときには、吸収合併存続会社等の成立の日における賃借対照表
2)最終事業年度の末日後に重要な財産の処分、重大な債務の負担その他の会社財産の状況に重要な影響を与える事象が生じたときは、その内容

⑧吸収合併等が効力を生ずる日以降における吸収合併存続会社等の債務の履行の見込みに関する事項

⑨吸収合併契約等備置開始日後、前に揚げる事項に変更が生じたときは、変更後の当該事項

⑤の「最終事業年度に係る計算書類等」(例えば,合併であれば会社法施行規則191条3号イ)の定義は,会社法施行規則2条3項に存在しますが,これによると,「計算書類等」には,会社法435条2項が定める「計算書類」(貸借対照表,損益計算書,株主資本等変動計算書,個別注記表)に加えて,「事業報告」も含まれるとされています。また,監査役設置会社の場合は,「計算書類」「事業報告」に対する「監査報告」についても添付する必要があります。

なお,「最終事業年度に係る計算書類等」は株主総会の承認決議を得た計算書類等でなければなりません。よって,例えば,平成21年3月期の事業年度最終日の翌日である平成21年4月1日に合併の効力発生日が来るように設定した場合は,事前開示すべき計算書類等を平成21年3月期のものに差し替える必要はありませんが(定時株主総会が4月1日までに到来しないため),合併の効力発生日を平成21年7月1日に設定した場合は,株主総会の承認を得た平成21年3月期の計算書類を開示しなければなりません(株主総会までは平成20年3月期の計算書類を開示しておいて,6月の株主総会が終了した段階で平成21年3月期のものに差し替える)。

ちなみに,事前開示書類の備置開始日から合併効力日までの間に重要事象が発生した場合は,開示情報のアップデート作業が必要になるのは,どのケースでも共通ですが,厳密に言えば,重要事象は「最終事業年度の末日後」に発生したもののみを記載すればよいことになっています。よって,上記の例(3月決算)では,合併の効力発生日を平成21年4月1日とした場合には,平成20年4月1日以降平成21年4月1日までの重要事象を記載し,合併の効力発生日を平成21年7月1日とした場合には,平成21年4月1日以降平成21年7月1日までの重要事象を記載することになります。

会社分割に関する論点②~移転事業の範囲~

2 会社分割の対象

続いて、「分割する対象(資産や負債)は自由に決めてもよいのか」という質問について検討したいと思います。

旧商法時代における会社分割の対象は「営業の全部または一部」でした。ここで言う「営業」とは、営業譲渡の場合の「営業」に関する判例の表現と同じく、「一定の営業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産」を意味するとされ、ただ、営業譲渡の場合には要求される「営業譲渡の結果、譲渡会社が競業避止義務を負う結果を伴うもの」という要件については、会社分割の場合には不要ではないかという見解が有力であったように思います。

しかし、そもそも「有機的一体性」という概念はあまり明確ではなく、かつ、競業避止義務を負わない場合でも当事会社がともに株主総会の承認などの組織法上の手続を経て行った以上、当該会社分割を無効とする理由はないように思います。

そこで、(厳密には、依然、競業避止義務要件は残っているとする見解もありますが)会社法では、会社分割の対象における「営業」という概念を緩和し、「その事業に関して有する権利義務の全部又は一部」(会社法2条29号、30号)を会社分割の対象にできることにしました。ただ、事業との関連性をどこまで要求するかについては固まった見解がありません。例えば、オートバイメーカーが会社分割によってオートバイ製造事業を切り出そうとしているときに、工場とは全く別の場所にある不動産を一緒に承継させることは可能でしょうか?・・・この場合、「その不動産を売却した資金をオートバイ製造事業に充てる」と言えば「事業」との関連性があるとも思えますし、そもそもオートバイ製造事業とは関連がなかったのだから承継不可と考える人もいるでしょう。

私自身は、会社分割の対象を拡大した今回の会社法改正の趣旨を踏まえると、事業との関連性については相当緩やかに解してよいと考えています。おそらくはそれが実務における当事会社の希望とも一致するところでしょう。ただ、本来、「財産を他の会社に移転して株式の発行を受ける」という行為は現物出資に該当し検査役の調査を受けなければならないところを、要件を緩和して事業の移転を行い易くしたのが会社分割ですから、現物出資規制の潜脱であるとの批判を受けないようにしなければなりません。よって、事業との間接的関連性すら存在しない資産や負債を寄せ集めて他の会社に移転する行為をもって会社分割であると呼ぶことはできないと言うべきでしょう。

会社分割に関する論点①~債務超過のケース~

リーマンブラザーズ破綻のニュースが金融界だけでなく世界中を駆け巡っていますが、それはさておき、ニューヨークから送ったM&A関連の文献や資料が昨日ようやく手元に届きましたので、ブログを再開したいと思います。

仕事上、ときどき、「債務超過の場合にも会社分割ができるのか」「分割する対象(資産や負債)は自由に決めてもよいのか」という質問を頂戴します。そこで、以下、簡単に検討してみたいと思います。

1 債務超過と会社分割

ここで「債務超過」と言う場合、①会社分割の結果分割会社が債務超過になってしまうケース、②承継会社に移転する負債が資産を超過しているケース(すなわち承継事業そのものが債務超過となる場合)の2パターンが考えられます。

①については、旧商法時代には、債務超過だと「債務の履行の見込みがあること」という要件(旧商法374条ノ2第1項3号、374条の18第1項3号)を充たさないので、100%親子会社間の無増資組織再編などの例外的ケースでなければ認められないという見解が有力だったわけですが(*1)、会社法においては、開示書類として分割会社の「債務の履行に関する事項」を準備すれば足りることとされましたので(すなわち、債務の履行の見込みがないことを開示しても構わない)、現行法上は、分割会社が分割の結果債務超過になる会社分割も認められています。現実の必要性を考えても、不採算部門を残して優良事業部門のみを切り出したいと考えるケースは数多くありますので、実務の要請に法律が合わせたと言えます。

なお、簿価上の債務超過にとどまらず、資産の含み益や営業権を反映させてもなお債務超過状態にある場合(=実質的債務超過の場合)には、債権者保護の観点などから会社分割を認めるべきでないとする見解もありますが、そもそもそこで行われる資産の再評価や営業権の計上には確立された評価基準が存在するわけではありませんので、「実質的債務超過かどうか」をメルクマールとして組織再編の有効性を判断することは適切ではないと考えます。また、債権者保護の要請については、別途用意されている債権者保護手続で満たされていると言うべきではないでしょうか。

続いて、②のケースについては、通常は会社分割の結果として承継会社が分割会社に株式を発行するわけですから、資本充実の観点から資産>負債になっていなければならないと考えるのが自然であり、実際に旧商法時代には「債務超過状態の事業の分割」は原則として認められていませんでした。しかし、会社法では、対価を交付しない会社分割も認められることとなり、会社分割により差損が生じる場合、すなわち、①承継会社が承継する負債の簿価が資産の簿価を超える場合、または、②会社分割に際して交付する対価の承継会社における簿価が当該会社分割により承継する純資産額を超える場合にも、その会社分割を承認する株主総会で当該状況を説明することによって会社分割が認められることになりました(会社法795条2項)。多様な会社分割を必要とする会社のニーズを満たしつつ、債権者については、会社法上の債権者保護手続(その手続の対象となっている債権者の場合)と、民法上の詐害行為取消請求権(会社法上の債権者保護手続の対象になっていない債権者の場合)によって保護する(この場合、会社分割そのものは無効にはならない)という構造ができあがったわけです。

次回は、会社分割における承継事業の範囲について検討したいと思います。


(*1) 資産の含み益等を勘案して実質的に債務超過でない場合には、債務の履行の見込みがあるとして有効とする見解もありました。

M&Aのスケジューリング(その3)~上場会社間M&Aのシミュレーション~

2.上場会社間のM&Aのケース

続いて、上場会社間の吸収分割のケースでスケジュールがどうなるか、シミュレーションしてみたいと思います。設例中の当事会社については、市場シェアがそれなりにあるため独禁法上の問題が生じるほか、税制適格分割への該当性に関しても事前に国税庁に問い合わせる必要があるものと仮定します。また、会社法上は、会社分割の効力発生日の前日までに株主総会の承認決議を取れば足りるとされているわけですが、株主が多数に上る上場会社同士のM&Aにおいてはなるべくスムーズに手続が進むように特別の配慮をする必要があります。例えば、株主総会の承認が得られるかどうかが未だ明らかでないにもかかわらず、反対株主に株式買取請求権を行使するよう求めたり、債権者の異議申述を求めたりすると、混乱が発生する可能性があります。そこで、以下では、先に株主総会の承認決議を得た上で、そこから反対株主の株式買取請求権行使期間と債権者の異議申述期間が開始するというスケジュールを組んでみました。

 
承継会社サイド
分割会社サイド
備考
2008年1月31日
 
公取委への事前相談開始(*1)
公取委の事前相談手続が第二次審査まで進む可能性を想定し、株主総会の6ヶ月前に案件を持ち込むこととしました。
2008年3月31日
 
国税庁への事前照会開始
余裕を持って株主総会の4ヶ月前に事前照会を開始することとしました。
2008年5月30日
     分割契約締結承認&株主総会招集に関する取締役会決議
     プレスリリース(適時開示)
     吸収分割契約締結
     臨時報告書提出(金商法24条の5第4項)
     分割契約締結承認&株主総会招集に関する取締役会決議
     プレスリリース(適時開示)
     吸収分割契約締結
     臨時報告書提出(金商法24条の5第4項)
     労働組合または労働者代表との協議開始(*2)
     労働者との個別協議開始(*3)
 
     労働者との協議開始日をプレスリリースと同日に設定することで混乱が回避できます。
     労働組合・労働者代表との協議は、「労働者との個別協議の開始」までに開始する必要がありますが、ここでは同日設定にしました。
     労働者との個別協議は「株主総会の2週間前までに行なわれる労働者・労働組合への通知」までに完了している必要があります。ここでは、上記通知の45日前に個別協議が開始するスケジュールになっています。
2008年5月31日
基準日公告(会社法124条3項)
基準日公告(会社法124条3項)
基準日公告は、基準日の2週間前までに行なう必要があります。
2008年6月15日
基準日
基準日
ここから株主確定手続に入りますが、その手続と株主総会招集通知の準備に1ヶ月かかると想定しました。
2008年7月15日
     株主総会招集通知(会社法299条1項)
     株主宛て通知(会社法797条3項)
     事前開示書類の備置(会社法794条1項、2項、施行規則192条)(*4)
 
     株主総会招集通知(会社法299条1項)
     株主宛て通知(会社法785条3項)
     事前開示書類の備置(会社法782条1項、2項、施行規則183条)(*4)
     労働者・労働組合への通知(*5)
 
     招集通知は総会の2週間前までに発送する必要があります。
     株式買取請求権に関する株主宛て通知は、組織再編行為の効力発生日の20日前までに行なう必要がありますが、通知の手間と費用を抑えるために株主総会招集通知と併せて行なうことが考えられます。その結果、今回は効力発生日(9月1日)の45日前の発送となりました。なお、この通知は一定の場合には公告に代えることができます(会社法797条4項、785条4項)。
     事前開示書類の備置は、組織再編の効力発生後6ヶ月間経過するまで維持する必要あり
     労働者・労働組合への通知については、法律上、株主総会の2週間前までに行なう必要があり、かつ、労働契約承継法ガイドラインは、「事前開示書類備置開始日または総会招集通知発送日のうちのいずれか早い日に通知することが望ましい」としています。
2008年7月29日
 
労働者からの異議申述期間最終日(*6)
異議申出は、労働者への通知がなされた日から最低13日間は受け付けなければなりません。
2008年7月30日
株主総会
株主総会
反対株主の意思通知は株主総会に先立って行なわれる必要があります。
2008年7月31日
債権者異議申述公告・催告(会社法799条)
 
     債権者異議申述公告・催告(会社法789条)
     公取委への事前届出の期限
     債権者異議申述期間については、1ヵ月以上設ける必要あり
     公取委への事前届出は、待機期間を考慮し、原則として効力発生日の30日前までに行なわなければなりません(独禁法15条の2第3項、15条4項)。
2008年8月12日
株式買取請求権行使可能期間開始(会社法797条5項)
株式買取請求権行使可能期間開始(会社法785条5項)
株式買取請求権行使可能期間は効力発生日の20日前から開始
2008年8月31日
     株式買取請求権行使可能期間終了
     債権者異議申述期間終了
     株式買取請求権行使可能期間終了
     債権者異議申述期間終了
株式買取請求権行使可能期間は効力発生日の前日に終了
2008年9月1日
     分割効力発生日
     事後開示書類の備置(会社法791条1項、2項、801条3項)
     分割効力発生日
     事後開示書類の備置(会社法791条1項、2項、801条3項)
 
2008年9月15日
変更登記の期限(会社法923条、商登法46条他)
変更登記の期限(会社法923条、商登法46条他)
変更登記の期限は本店については効力発生日から2週間以内、支店については3週間以内
2008年10月31日
価格に争いがない場合の株式買取請求支払期限
 
株式買取請求に対する支払いは効力発生日から60日以内に行なう必要あり
2009年3月1日
事前開示書類・事後開示書類の備置期間満了
 
会社分割無効の訴えに関する提訴期限についても、効力発生日から6ヶ月以内(会社法828条1項9号)


上記のとおり、上場会社間のM&Aでは、簡易・略式組織再編が利用できる最もシンプルなケース(<M&Aのスケジューリング(その2)~簡易型のシミュレーション~>)に比べて、公取委・国税庁への事前相談・照会の手続を除いても2ヶ月早くプレスリリースを行なって各種手続を進めていかなければならないことが分かります。


(*1) 公取委への事前相談手続としては、原則として、事前相談の申し出があった日から20日以内に第1次審査が始まり、特段の問題が見当たらなければ審査開始日から30日以内にその旨通知されます。第1次審査の結果、独禁法上の問題が考えられるという場合には、第2次審査に進みます。第2次審査に進むと、公取委は相談内容を公表し、関係者からの意見を募集しますので、それを前提に報道発表の準備などを行う必要があります。第2次審査においては、企業側が必要な資料を提出した日から原則として90日以内に、結果の通知がなされます。詳細は、<M&Aと独禁法(その7)(日本の場合-事前相談制度)>をご覧ください。
(*2) 会社は従業員の「理解と協力」を得るために、労働組合(労働者の過半数で組織する労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者)と協議しなければならないとされています(労働契約承継法7条、6条2項、同法施行規則4条)。
(*3) 会社は、労働組合や労働者代表との協議とは別に、株主総会の2週間前までに「従業員との個別協議」も行なわなければなりません(平成12年商法等改正法附則5条)。これは、労働計画書等の内容を事後的・一方的に従業員に告知するだけでは、自分がなぜ承継対象なのか(承継対象でないのか)、今後どのような業務を行うことになるのかといった点について従業員がきちんと理解することが難しいからです。
(*4) 事前開示書類は、
ア 株主総会開催日の2週間前の日
イ 株主への通知または公告の日
ウ 債権者への公告または催告の日
のうち、最も早く到来する日から
備置を開始しなければならないとされています。
(*5) 各従業員の雇用契約が承継されるか否か、また、承継される場合の雇用条件・就業場所などは従業員にとって非常に大事な話になりますので、会社は、分割契約書等を承認する株主総会の2週間前までに
① 「承継される営業に主として従事する労働者」全員
② 「承継される営業を従たる職務とする労働者」であるが承継対象となっている人
③ 労働組合

に対して、書面により法律で定められた事項を通知しなければなりません(労働契約承継法2条1項、2項)。
(*6) 「承継される営業に主として従事する労働者」であるにも拘らず、分割計画書・契約書に記載されなかった人は、異議申出権を行使することによって承継会社に移ることができます。また、逆に、「承継される営業を従たる職務とする労働者」であるにも拘らず、分割計画書・契約書に記載されてしまった人についても、やはり異議申出権を行使することによって、分割会社に残ることができます(労働契約承継法2条1項1号・2号、3条ないし5条)。

M&Aのスケジューリング(その2)~簡易型のシミュレーション~

1.最もシンプルなケース

最もシンプルな手続で済むM&Aの一つが、100%親子会社間の吸収合併で(いわゆる略式合併になる)、かつ、子会社の純資産額が親会社の純資産額の20%以下である場合(いわゆる簡易合併になる、*1)だと思いますが、この場合のスケジュール例としては以下のようになります。なお、存続会社は公開会社であると仮定します。

 
存続会社サイド
消滅会社サイド
備考
2008年7月31日
     合併契約締結承認に関する取締役会決議
     プレスリリース(適時開示)
     合併契約締結
     臨時報告書提出(金商法24条の5第4項)
     事前開示書類の備置(会社法794条1項、施行規則191条)
     債権者異議申述公告・催告(会社法799条)
     株主宛て公告(会社法797条3項、4項)
     合併契約締結承認に関する取締役会決議
     プレスリリース
     合併契約締結
     事前開示書類の備置(会社法782条1項、施行規則183条)
     債権者異議申述公告・催告(会社法789条)
     株主宛て通知(会社法785条3項)
     存続会社が消滅会社の株式に関して株券の発行を受けていれば、株券提出公告が必要(会社法219条1項但書、6項)
     事前開示書類の備置は、合併の効力発生後6ヶ月間経過するまで維持する必要あり
     債権者異議申述期間については、1ヵ月以上設ける必要あり
     株主宛て公告・通知については、合併の効力発生日の20日前までに行えば足りる
2008年8月12日
株式買取請求権行使可能期間開始(会社法797条5項)
株式買取請求権行使可能期間開始(会社法785条5項)
 
2008年8月31日
     株式買取請求権行使可能期間終了
     債権者異議申述期間終了
     株式買取請求権行使可能期間終了
     債権者異議申述期間終了
 
2008年9月1日
     合併効力発生日
     事後開示書類の備置(会社法801条3項)
     合併効力発生日
 
2008年9月15日
変更登記の期限(会社法921条、商登法79条他)
変更登記の期限(会社法921条、商登法79条他)
変更登記の期限は本店については効力発生日から2週間以内、支店については3週間以内(会社法932条)
2008年10月31日
価格に争いがない場合の株式買取請求支払期限
 
株式買取請求に対する支払期限は、効力発生日から60日以内
2009年3月1日
事前開示書類・事後開示書類の備置期間満了
 
合併無効の訴えに関する提訴期限についても、効力発生日から6ヶ月以内(会社法828条1項7号)

次回のコラムでは、手続がより複雑なケースについて取り扱います。


(*1) 正確には、吸収合併消滅会社の株主に交付する吸収合併存続株式会社の株式の数に1株当たり純資産額を乗じて得た額と吸収合併存続株式会社の株式等以外の財産の帳簿価額等の合計額が、吸収合併存続株式会社の純資産額の5分の1(20%)を超えない場合(会社法796条3項)。

M&Aのスケジューリング(その1)~会社法上の手続~

旧商法時代の組織再編行為に関するスケジュールは、「株主総会承認決議の日」が基準となっており、手続を完了させるためには、最短でも、承認決議前の2週間(招集通知送付および事前開示書類の備置期間)、プラス、承認決議後の1ヵ月(株式買取請求権の行使期間20日間および債権者からの異議申述期間1ヵ月間)の合計1ヵ月半が必要でした。ところが、これでは機動的で迅速な組織再編行為に支障が出るということで、会社法においては、「組織再編行為の効力発生日」(*1)が基準とされ、その日までに、株主総会の承認決議、株式買取請求権関連の手続、債権者保護手続が完了していれば足りるという定め方に変わりました。つまり、これらの手続の先後関係がなくなり、同時並行で進めることが可能になっています。

具体的には、

① 株主総会承認決議
組織再編行為の効力発生日の前日までに決議が取得できれば良い(会社法783条1項、795条1項)。

② 株式買取請求権
会社法が議決権制限株主にも株式買取請求権を与えたこととも関連していますが、株主総会がいつ開催されるかに関係なく、組織再編行為の効力発生日の20日前までに(*2)、全株主に対して通知・公告を行なわなければなりません(会社法785条3項4項、797条3項4項)。その結果、株主は、効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日まで(*3)、株式買取請求権を行使することができます(会社法785条5項、787条5項、797条5項)。

③ 債権者保護手続
債権者保護手続においては、債権者による異議申述期間を1ヵ月以上定めなければなりません。よって、組織再編の効力発生日の前日までには債権者保護手続が完了しているように、効力発生日から逆算して債権者への公告・催告日を決定する必要があります。

なお、事前開示書類については、
ア 株主総会開催日の2週間前の日
イ 株主への通知または公告の日
ウ 債権者への公告または催告の日

のうち、最も早く到来する日から備置を開始しなければならないとされています。

以上が会社法上の手続ですが、今までに述べてきたように、状況によっては独禁法上の事前相談・事前届出、外為法上の対内直接投資として事前届出、株主が居住する外国の証券取引委員会等への届出、適格組織再編への該当性に関する国税庁への事前照会などが必要になり、その場合は提出を求められる資料の準備等に数ヶ月から半年近くかかることもありますので、更に入念なスケジューリングが必要になってきます。

次回のコラムでは、合併などのケースにおけるスケジューリングについて具体的にシミュレーションしてみたいと思います。


(*1) 従来は、組織再編行為の「登記日」が当該組織再編行為の「効力発生日」でしたが、会社法は「当事者間が契約書に効力発生日として記載した任意の日」をもって当該組織再編行為の「効力発生日」にすることを認めていますので、当事者間で協議をしてスケジュールを柔軟に作っていくことが可能になりました。ただし、新設合併、新設分割、株式移転では、旧法時代と同様、組織再編行為の「登記日」が当該組織再編行為の「効力発生日」ですので、効力発生日を事前に特定することができない場合もありえます。
(*2) 新設型組織再編の場合は、株主総会決議日から2週間以内に(会社法806条3項4項)。
(*3) 新設型組織再編の場合は、通知・公告日から20日以内(会社法806条5項、808条5項)。

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