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Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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M&Aにおける事前開示書類(その2)~消滅会社~

続いて,M&A後に消滅する会社(合併の消滅会社,会社分割の分割会社,株式交換の完全子会社)において事前に開示する必要がある情報を整理します。

存続会社における開示書類と異なる点は,消滅会社側の計算書類等が含まれていない点です。これは開示しなくても構わないということではなく,通常の決算公告によって開示されているので二重には不要という趣旨です(ただし,消滅会社が設立されて間もない場合は,成立日における貸借対照表が開示対象になります)。

吸収合併消滅株式会社等の事前開示事項

吸収合併消滅株式会社(182条)

吸収分割株式会社(183条)

株式交換完全子会社(184条)

①吸収型再編対価として吸収合併消滅株式会社等の株主に、その有する株式の代わりに金銭等を交付するときは、吸収合併契約等に定めることが必要となる金銭等に関する事項及びその金銭等の割当に関する事項の相当性に関する事項(その定めがない場合は、当該定めがないこと)

 

②吸収分割承継会社が吸収分割株式会社に対してその事業に関する権利義務の全部又は一部に代わる金銭等を交付するときは、吸収分割契約に定める金銭等に関する事項の相当性に関する事項(その定めがない場合は、当該定めがないこと)

 

 

③吸収合併消滅株式会社等の株主に対して交付する金銭等の全部又は一部が吸収合併存続会社等の株式又持分であるときは、その吸収型再編の相手方である吸収合併存続会社等の定款の定め

 

④吸収合併消滅株式会社等の株主に対して交付する金銭等の全部又は一部が吸収合併存続会社等以外の法人等の株式、持分、社債等である場合において、次の事項(吸収合併契約等が吸収合併消滅株式会社等の総株主の同意により承認された場合を除く。)
1)その金銭等が吸収合併存続会社等以外の法人等の株式又は持分(その他これらに準ずるもの)である場合には、その法人等の定款等
2)その法人等が賃借対照表(又はそれに相当するもの)を決算公告等により開示していない場合には、その法人等の過去5年間の賃借対照表の内容
3)その法人等について登記がされていない場合には、その法人等を代表する者の氏名又は名称及び住所並びに取締役等の役員の氏名又は名称

 

⑤吸収分割株式会社が、効力発生日に取得対価を吸収分割承継会社の株式若しくは持分とする全部取得条項付種類株式の取得又は配当財産を吸収分割承継会社の株式若しくは持分とする剰余金の配当を行うこと、吸収分割契約に定めた場合には、その取得又は配当について決議された内容に関する事項

 

 

⑥吸収合併消滅株式会社等が新株予約権を発行しているときは、吸収合併契約等に定められた新株予約権に関する事項の相当性に関する事項

⑦吸収型再編の相手方である吸収合併存続会社等についての次に揚げる事項
1)最終事業年度に係る計算書類等の内容
2)最終事業年度の末日後の日を臨時決算日とする臨時計算書類等があるときは、その臨時計算書類等の内容
3)最終事業年度の末日後に重要な財産の処分、重大な債務の負担その他の会社財産の状況に重要な影響を与える事象が生じたときは、その内容

⑧吸収合併消滅株式会社等についての次に揚げる事項
1)最終の事業年度がないときには、吸収合併消滅株式会社等の成立の日における賃借対照表
2)最終事業年度の末日後に重要な財産の処分、重大な債務の負担その他の会社財産の状況に重要な影響を与える事象が生じたときは、その内容

⑨吸収合併等が効力を生ずる日以降における吸収合併存続会社等の債務の履行の見込みに関する事項

⑩吸収合併契約等備置開始日後、前に揚げる事項に変更が生じたときは、変更後の当該事項

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新しくなった「関連当事者の開示」規制について(その3)

3.開示項目

(1) 関連当事者との取引に関する開示項目
財務諸表提出会社が、開示対象となる関連当事者との取引を行なった場合には、個々の関連当事者ごとに、以下の項目を開示しなければなりません。

① 関連当事者の概要(*1)
② 会社と関連当事者との関係
③ 取引の内容
④ 取引の種類ごとの取引金額
⑤ 取引条件及び取引条件の決定方針
⑥ 取引により発生した債券債務に係る主な科目別の期末残高
⑦ 取引条件の変更があった場合は、その旨、変更内容及び当該変更が財務諸表に与えている影響の内容
⑧ 関連当事者に対する貸倒懸念債権及び破産更正債権等に係る情報


最後の「貸倒懸念債権及び破産更正債権等に係る情報」については、これを開示することで関連当事者または財務諸表提出会社に対する信用不安を引き起こすのではないかという懸念もありましたが、国際会計基準では開示事項として含まれており、投資判断には必要な情報であると考えるため、今回の新基準において新たに追加されたものです。

(2) 関連当事者の存在に関する開示項目
今回の新基準によって、財務諸表提出会社に親会社または重要な関連会社が存在する場合には、以下の項目を開示しなければならなくなりました。

① 親会社の情報
既に述べたところではありますが、親会社情報は会社の財務諸表を理解するためには重要な情報ですので、国際的な会計基準にならって、親会社の名称および上場または非上場の別の開示が求められています(11項(1)、38項)。

② 重要な関連会社の要約財務情報
米国基準でも国際会計基準でも、共同支配会社を含む関連会社に関する要約財務情報の開示が要求されています。そこで、日本においても、重要な関連会社については、主な貸借対照表項目および損益計算書項目を開示しなければならないこととされました(会計基準11項、39項)。


(*1) 関連当事者が法人(会社に準ずる事業体などを含む)の場合には、所在地、資本金(出資金)、事業の内容及び当該関連当事者の議決権に対する会社の所有割合又は財務諸表作成会社の議決権に対する当該関連当事者の所有割合を記載します。関連当事者が個人の場合には、氏名、職業、財務諸表作成会社の議決権に対する当該関連当事者の所有割合を記載します。

新しくなった「関連当事者の開示」規制について(その2)

2.「関連当事者との取引」の範囲

開示の対象となる「関連当事者との取引」とは、以下のものを言うとされています。

① 報告会社と関連当事者との取引(*1)
② 関連当事者が第三者のために報告会社との間で行う取引
③ 報告会社と第三者との間の取引で、関連当事者が当該取引に関して報告会社に重要な影響を及ぼすもの


したがって、例えば、報告会社A社の社外監査役が他の会社B社の代表取締役でもある場合にA社とB社との間で取引を行なえば、上記②に該当することになります。
また、今回の新基準は、国際的会計基準に倣って、「財務諸表提出会社の連結子会社と関連当事者との取引」を新たに開示対象としました。もともと、純粋持株会社が増えたことに伴って、従前は開示対象ではなかった「連結子会社と関連会社との取引」を開示すべきであるという声が強まっていたのですが、今回は、実質的に事業を営んでいる連結子会社や関連会社間の取引が公正に行なわれているかどうかをチェックできるよう、それらを開示対象に盛り込んだというわけです。

なお、「連結財務諸表を作成するにあたって相殺消去した取引」は開示対象とならないとされているほか、(連結会社が関与しない)「関連当事者同士の取引」も開示対象外になっています。この点を見る限りでは、本会計基準の趣旨は、あくまでも財務諸表を正しく理解するための措置を定めたに留まり、親子会社や関係会社間の取引の公正性を確保することまでは目的としていないものと考えられます。

さて、上記の取引のうち開示対象となるのは「重要な」取引に限られますが、その「重要性」の判断に関し、まずは、以下の3点を確認しておきたいと思います。

① 関連当事者との無償取引や低廉な価格での取引における「重要性」の判断は、実際の取引価格ではなく、第三者間取引であったと仮定して金額を見積もることによる。
② 形式的・名目的に第三者を経由した取引といえども、実質的な相手方が関連当事者であることが明らかである場合には、開示対象となる「取引」に該当しうる。
③ 関連当事者との取引のうち、以下の取引は開示対象外。
ア 取引の性質からみて取引条件が一般の取引と同様であることが明白な取引(*2)
イ 役員に対する報酬、賞与及び退職慰労金の支払い


上記のうち役員に対する報酬等については、「コーポレート・ガバナンスの状況」の部分で開示されることからここでは開示対象外とされていますが、その観点からは、株主総会決議を経ることなく支給されている福利厚生費用等については開示対象になります(従業員としての地位に基づいて支給されているものを除く)。

続いて、「重要性」の判断基準については細かいため詳細は省略しますが、損益計算書ベースでは、概ね売上高等の10%超または金額ベースで1000万円超が基準に、貸借対照表ベースでは、総資産の1%が基準とされています(*3)。


(*1) 対価の有無にかかわらず、資源若しくは債務の移転、又は役務の提供を言います。
(*2) 一般競争入札による取引、預金利息や配当の受取りなど。
(*3) これは関連当事者が法人の場合であり、関連当事者が個人の場合には、損益計算書項目と貸借対照表項目の両方において1000万円超の取引であることが基準とされています。これは、従来、役員等の個人の関連当事者との取引については100万円を超える取引が開示対象にされていたところ、12万ドル超の取引を開示対象とする米国のRegulation S-Kを参考に、1000万円に引き上げられたものです。

新しくなった「関連当事者の開示」規制について(その1)

M&Aや組織再編の結果、従前は存在しなかった親子会社関係が新たに発生することはよくありますが、この場合、親会社の株主と子会社の株主は、各会社の個別財務諸表とグループ全体の連結財務諸表に加えて、「親子会社、グループ会社間の取引に関する情報」を入手したいと思うことでしょう。なぜなら、親子会社、グループ会社間の取引は、独立当事者間の取引とは条件や収益性が異なる可能性が高く、会社の経営成績や財務諸表に思わぬ影響を与えるおそれがあるからです。この点、アメリカでは、FASB(財務会計基準審議会)が、会社と関連当事者(親会社・子会社・主要株主・役員など)との間の取引内容について開示することを求めており、また、国際会計基準でも、同様に「関連当事者の開示」が求められています。

日本においては、1998年以降、有価証券報告書の「企業集団等の状況」の中で親子会社間の取引を開示することが求められてきましたが、企業会計基準委員会は、会計基準の国際的なコンバージェンスの動きに伴って企画された国際会計基準審議会(IASB)との共同プロジェクトの中で、この「関連当事者の開示」制度をリニューアルし、2006年10月17日に「関連当事者の開示に関する会計基準」および「同適用指針」を公表しました。この新しい「関連当事者の開示」制度は、2008年4月1日以降開始する連結会計年度および事業年度から強制適用されますので、この機会に簡単に規制内容を見ておきたいと思います。

そもそも、親会社が継続開示企業でない場合、子会社の株主は親会社の存在を確知することができるのでしょうか?・・・この点、国際会計基準においては、会社は、親会社の存在、究極的支配者の名称を開示しなければならないとされています。子会社の株主にとっては、親会社の存在と名前さえ開示してもらえれば調査への手掛かりが与えられるからです。

日本においても、数年前に発生した「上場していない親会社」の不祥事をきっかけに親会社情報の開示要請が強まり、現在では、有価証券報告書において、財務諸表の注記事項として、親会社の存在と名称を記載することが求められています。更に、親会社自身は、親会社の株式の所有状況、役員の状況、計算書類、事業報告・附属明細書、監査報告書などを提出しなければなりません(金商法24条の7第1項、企業内容等の開示に関する内閣府令19条の5)。これによって、子会社株主にとっては親会社情報を入手しやすくなったわけですが、日本では、連結財務諸表の作成・開示が原則であるアメリカと異なり、「大会社であっても金商法上の有価証券報告書提出義務がない会社」は個別財務諸表を作成・開示すれば足り、連結財務諸表の作成・開示義務は存在しませんので(会社法444条1項、3項)、かかるケースでは、株主が連結計算書類を入手する手段はないということになります。この点の是非は現在議論がなされているところであり、今後、親会社自身が有報提出会社であるか否かに拘らず、株主保護のために連結計算書類の作成:開示が義務づけられる方向で制度が変わっていくこともありうると考えています。

さて、関連当事者開示制度(以下、「本会計基準」と言います)に話を戻しますが、本会計基準は、財務諸表において開示を必要とする「関連当事者との取引」について、

① 「関連当事者」の範囲
② 「取引」の範囲(重要性の判断基準を含む)
③ 開示項目


を定めていますので、以下、順に見ていきます。

1.「関連当事者」の範囲

まず、「関連当事者」とは、「ある当事者が他の当事者を支配しているか、又は、他の当事者の財務上及び業務上の意思決定に対して重要な影響力を有している場合の当事者等」と定義されており(第5項)、具体的には以下のものが含まれます。

① 親会社
② 子会社
③ 財務諸表作成会社と同一の親会社をもつ会社
④ 財務諸表作成会社が他の会社の関連会社である場合における当該他の会社(以下、「その他の関係会社」という)並びに当該その他の関係会社の親会社及び子会社
⑤ 関連会社及び当該関連会社の子会社
⑥ 財務諸表作成会社の主要株主(*1)及びその近親者(*2)
⑦ 財務諸表作成会社の役員(*3)及びその近親者
⑧ 親会社の役員及びその近親者
⑨ 子会社の役員のうち重要な役員及びその近親者
⑩ ⑥から⑨に掲げる者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社及びその子会社
⑪ 従業員のための企業年金(企業年金と会社の間で掛金の拠出以外の重要な取引を行う場合に限る)


このうち⑧⑨⑩⑪などは今回の新基準によって新たに設定されたもので、純粋持株会社の増加などを踏まえて、関係当事者の範囲が拡大されたことが分かります。続きは次回のコラムで見ていきたいと思います。


(*1) 「主要株主」とは、保管態様を勘案した上で、自己又は他人の名義をもって総株主の議決権の10%以上を保有している株主を言います。
(*2) 「近親者」とは、二親等以内の親族を言います。
(*3) 「役員」とは、取締役、会計参与、監査役、執行役又はこれらに準ずる者を言います。なお、「これらに準ずる者」としては、相談役、顧問、監査役設置会社の執行役員等であって、経営に対して強い影響力を持っている者が含まれます。

証券(金融商品)取引所規則に基づく適時開示(その3)

これまでの話の補足になりますが、東京証券取引所は、2006年12月13日付けで、「合併等の組織再編、公開買付け、MBO等の開示の充実に関する要請」と「合併等の組織再編、公開買付け、MBO等に関する適時開示実務上の取扱いの見直しについて」と題するポリシーを発表して、M&Aに関するディスクロージャーの強化を図っています。具体的には、

① 合併等の際における開示について、合併等の比率算定の概要を記載するなど、合併等の比率の相当性等に関する説明を充実すること。
② 公開買付けや意見表明等の際における開示について、法定開示制度における公開買付届出書・意見表明報告書の記載内容の充実等を踏まえ、公開買付けの目的、公開買付けに関する意見の理由等に関する説明を充実すること(*1)。
③ MBO(役員による自社株買収等)、親会社による公開買付け又は親会社との合併等の際における開示について、対価の公正性や株主との利益相反回避措置等に関する説明を充実すること。


が要求されています。

このほか、公開買付けまたは合併等によって上場廃止となることが見込まれる場合には、上場廃止を目的とする理由等に関する説明を充実することや、いわゆる二段階買収の場合には、可能な範囲で、二段階目の合併等の行為に関する透明性の確保に配意すること(*2)も要求されています。

更に、東京証券取引所は、金商法の施行や三角組織再編の解禁、経済産業省企業価値研究会によるMBO報告書の発表などを受けて、2007年10月31日付けで、<「最近の開示実務等を踏まえた合併等の組織再編、公開買付け、MBO等に関する適時開示実務上の取扱いの見直しについて」>と題する発表を行い、

① 株式交換
② 株式移転
③ 合併
④ 会社分割
⑤ 公開買付け又は自己株式の公開買付け
⑥ 公開買付け等に関する意見表明等


に関する開示事務のあり方について詳細な指針を提供しています。なお、網羅的な開示事務のガイドラインとしては、<会社情報適時開示ガイドブック>を入手する必要があるでしょう。


(*1) 公開買付け価格の算定根拠としては、①算定の基礎、②算定の経緯に加えて、③算定機関との関係も開示する必要があります。また、算定機関が公開買付者または対象会社の関連当事者(連結財務諸表規則2条7号が規定)であるときは、その算定機関から意見を聴取する理由を書かなければなりません。
(*2) ①二段階目の株式交換その他の行為の予定時期、②完全に買収される手段およびその対価、③一段階目の公開買付け価格と二段階目の株式交換その他の行為の対価の間が同額でない場合はその内容及び違いを設ける理由を記載する必要があります。

証券(金融商品)取引所規則に基づく適時開示(その2)

前回のコラムで、適時開示規則によるディスクロージャーの概要を確認しましたので、規制内容をもう少し掘り下げて見ておきたいと思います。

まず、証券取引所の規則に基づく開示項目は、金商法に基づく法令上の開示項目とはかなりの部分において重なっていますが、完全に一致しているわけではありません。金商法については、<企業内容等の開示に関する内閣府令>が具体的な開示項目を定めていますが(臨時報告書の提出が必要な項目については第19条が規定。なお、同内閣府令は2008年5月に改正され、英文開示の対象有価証券および対象書類が拡大されています。)、例えば、公開買付けに関しては、内閣府令に基づけば、公開買付けを行う側は、19条2項3号の「提出会社の特定子会社の異動があった場合」に該当するとして、また、公開買付けの対象会社側は、19条2項4号の「提出会社の主要株主の異動があった場合」に該当するとして、それぞれ臨時報告書を提出することになりますが、これは、公開買付け後の事後報告に過ぎません(*1)。対して、例えば、東証の適時開示規則(*2)で行きますと、公開買付けの場合は、

① 公開買付け開始
② 公開買付けの結果
③ 対象者からの意見表明報告書による質問に対する回答
④ 公開買付けに関する意見表明等


に関して開示義務が発生します。また、公開買付け者が上場会社である場合に限らず、上場会社の子会社が公開買付けを行う場合(東証適時開示規則2条2項1号n)や、上場会社の非上場の親会社が公開買付けを行う場合(東証適時開示規則2条2項2号w)にも開示義務が発生しますので、証券取引所が求めている開示義務の方が、金商法上の開示義務よりも網羅的かつ広範であると言えます。

また、<金商法24条の5第4項>は、内閣府令で定めるところにより、臨時報告書を「遅滞なく」内閣総理大臣に提出しなければならないとしていますが、東証の適時開示規則は、会社の業務執行を決定する機関が決議又は決定した場合、「直ちに」開示しなければならないとしていますので、緊急度合いで言えば、東証の適時開示規則の方が「上」です。実務上は、夜間に決定がなされるケースや開示資料の作成に時間を要するケースもあると思いますが、臨時報告書の提出は翌日になったとしても、TDnetを通じた適時開示は必ず「その日のうち」に行なわなければなりません(翌日に持ち越すと、証券取引所から、開示遅延を理由に不適正開示と認定されます)。

また、上場会社が公開買付けの中止・変更を決定した場合、「開示事項の中止・変更」ということで開示が必要になりますし、開示事項について訂正が必要な場合には「開示事項の訂正」として開示が必要です。更に、最初は決定していなかった点が後に確定した場合には、「開示事項の経過」として追加開示を行なわなければなりません。このように、適時開示規則に基づくディスクロージャーは、法令に基づく開示義務よりも詳細、広範で、かつ迅速性が求められますので、開示事項を決定する当日(公開買付けの結果の報告は、公開買付期間末日の翌日)に開示ができるよう、事前の準備が大切になってきます。


(*1) 日本たばこ産業株式会社が株式会社加ト吉の普通株式に対する公開買付けを行った際の臨時報告書をサンプルとして挙げておきます。
・ JT提出分: http://www.jti.co.jp/JTI/IR/08/rinji20080108.pdf(特定子会社の増加)
・ 加ト吉提出分: http://www.katokichi.co.jp/ir/pdf/Pr530108.pdf(主要株主の異動)
(*2) <有価証券上場規程>の402条以降、および、<上場有価証券の発行者の会社情報の適時開示等に関する規則>

証券(金融商品)取引所規則に基づく適時開示(その1)

例えば、A社がT社の株式に対する公開買付けを予定していると仮定します。この場合、金融商品取引法167条によって、A社の「関係者」(役員・従業員や情報受領者)は、公開買付けの事実が「公表」されるまでT社の株式を買うことができません(詳細は、<インサイダー取引規制について(その5)~公開買付けに関するインサイダー取引規制~>ご参照)。このインサイダー取引規制は、一定のルールに従い重要事実の「公表」がなされたとみなされるまでの間、株の取引を禁止するものですが、これとは別に、重要事実について会社が機関決定をしたならば直ちにその内容を開示しなさいという規制も存在します。「決めたらすぐに公表せよ」「公表するまでは売買するな」・・・この2つのルールを徹底して初めて市場の健全性が保たれるというわけです。

さて、「決めたらすぐに公表せよ」ということですが、金融商品取引法に基づく上場会社の継続開示義務としては、各四半期終了後45日以内にEDINETを通じて「四半期報告書」を提出しなければならないとされているほか、金融商品取引法第24条の5に基づき、一定の場合(*1)には、遅滞なく臨時報告書をやはりEDINETを通じて提出しなければならないとされています。そのほか、証券取引所が、上場会社が有する情報のうち、市場の参加者の判断に重大な影響を及ぼす情報が適時適切に開示されるよう、いわゆる適時開示規則を定めていますので、東京証券取引所が構築したTDnet(Timely Disclosure network、適時開示情報伝達システム)を通じて会社情報の開示を行う必要があります。TDnetに登録された適時開示情報は、開示時刻になると多くの報道機関に配信されるとともに、適時開示情報閲覧サービスに掲載されて公衆縦覧に供されます。

適時開示が求められる会社情報は、有価証券の投資判断に重要な影響を与える会社の業務、運営または業績等に関する情報で、情報の種類別に、

① 上場会社に係る情報
② 子会社に係る情報
③ 非上場の親会社等に係る情報


に区分されています。また、上記の3種類の情報はそれぞれ、

ア 決定事実に関する情報
イ 発生事実に関する情報
ウ 決算に関する情報


に区分されます。①ア(上場会社に係る決定事実に関する情報)の例のうちM&Aに関するものとしては、株式交換、株式移転、合併、会社分割、事業の全部又は一部の譲渡又は譲受け、子会社等の異動を伴う株式又は持分の譲渡又は取得その他の子会社等の異動を伴う事項、公開買付け又は自己株式の公開買付け、公開買付け等に関する意見表明等が挙げられますが、詳細は、<東証のウェブサイト><大証のウェブサイト>をご覧ください。なお、TDnetに登録された情報は、開示時刻になると適時開示情報閲覧サービスに掲載されることになりますが、その時点で法令上の重要事実及び公開買付け等事実(金商法第27条の22の2第1項に規定する公開買付けに係るものに限る。)に係る公表措置は完了することとなります。


(*1) 臨時報告書の提出が義務づけられるのは、以下の場合です。
(1) その発行する有価証券の募集又は売出しが外国において行われるとき
(2) その他公益又は投資者保護のため必要かつ適当なものとして内閣府令(企業内容等の開示に関する内閣府令第19条)で定める場合に該当することになったとき

M&Aに関する開示規制(金融商品取引法)

前回までのコラムで、「株式の10%以上を米国居住株主に保有されているケースでは、日本企業同士の合併であってもSECへ登録届出を行う必要がある」と書きましたが、逆に、会社法下で可能になった三角合併のケースにおいて、日本企業の株主に外国の存続会社の株式が交付される場合の開示規制はどうなっているでしょうか?

例えば、株式会社日興コーディアルグループ(以下「日興コーディアル」)は、2008年1月29日を効力発生日として、米国の金融大手であるシティグループ・インク(以下「米シティ」)の普通株式を対価とし、日興コーディアルを、米シティの100%子会社である日本法人シティグループ・ジャパン・ホールディングス株式会社(以下「CJH」)の完全子会社とする株式交換を実施しました(*1)。この株式交換によって、日興コーディアルの株主はCJHから米シティの株式を交付されることになりますので、日興コーディアルの株主としては、米シティの企業情報を入手したいと考えるでしょう。このようなケースは、三角合併に限って発生するわけではありません。およそ、合併、会社分割、株式交換などに伴って対象会社の株主に存続会社・新設会社の株式が交付される場合には、対象会社の株主に対する情報開示の必要性および方法が問題となります。

この点、一般的には(すなわち、M&Aとは関係なく)、50名以上に対して勧誘がなされ、かつ、発行(売出し)価額の総額が1億円以上となる有価証券の募集(売出し)については、「有価証券届出書」の提出が義務付けられています。しかし、M&Aに伴う株式交付のケースについては、別途考える必要があります。すなわち、金融商品取引法の前身である旧証券取引法下においては、合併等のM&Aが行われた場合は、取引の結果として消滅会社の株主に存続会社株式が自動的に交付されるのであって、会社が勧誘行為を行うわけではないことから、そこでの株式の交付はそもそも「募集」「売出し」に該当しないと考えられており、その結果、有価証券届出書による開示規制の対象とはされていませんでした(*2)。しかし、米国において一定の場合にForm F-4の提出が義務付けられているように、投資家保護という観点からは、一定の組織再編行為に証券法上の開示規制を及ぼすことが妥当とも考えられます。そこで、金商法は、情報開示を強化するために、「組織再編成(合併、会社分割、株式交換等)による新株発行等にかかわる企業内容等開示制度」を新たに整備しました。

金商法によれば、組織再編成により、新たに有価証券が発行され、または既に発行された有価証券が交付される場合において、以下に該当する場合には、当該有価証券の発行または交付に関して届出を行う必要があります(<金融商品取引法2条の2、4条>)(*3)。

① 当該組織再編成対象会社(吸収合併消滅会社、株式交換完全子会社等)の株主等が多数(*4)であり、
② 当該組織再編成対象会社が発行者である株券等に関して開示が行われており、かつ、
③ 当該新たに発行され、または既に発行された有価証券に関して開示が行われていない場合


①については、いわゆる私募債を除外する趣旨で定められたものです。②③については、上場会社である対象会社がM&Aによって消滅し、代わりに非上場の存続会社の株式が交付される場合、対象会社の株主としては適切な投資判断(存続会社の株式をもらうか、株式買取請求権を行使するか、市場で売却するかといった判断)ができないことから定められました。

冒頭の例では、最初のプレスリリースの時点では米シティは日本の証券取引所で株式を公開していませんでしたので、そのままでは上記①から③の要件を充たし、組織再編成を理由とする有価証券届出書を提出する必要が生じたはずですが、米シティは2007年11月5日付けで東京証券取引所に上場しましたので、上記③の要件を欠くことになり、有価証券届出書を提出する必要がなくなりました。

なお、旧証券取引法時代の上場会社は、継続開示義務として、有価証券報告書と半期報告書の年2回の開示が求められ、これを該当期終了後3カ月以内に金融庁のEDINETを通じて提出していましたが、金商法では、年4回の決算期(第1四半期~第4四半期)毎に企業の概況、経営成績や財政状態などを記載した「四半期報告書」を作成し、各四半期終了後45日以内にEDINETを通じてこれを提出しなければならなくなりました(*5)。「四半期報告書」はアメリカのForm 10-Qの輸入版と言えますが、投資家保護のための情報開示の波は止まることなく押し寄せてきているようです。


(*1) プレスリリース:http://www.nikko.jp/GRP/citi/shares/index.html
(*2) 合併の当事会社が有価証券報告書を提出しておらず、かつ、合併に際して発行する株式の価額が総額で1億円を超えるケースについては「有価証券通知書」の提出が義務付けられていましたが、「有価証券通知書」はそもそも公開資料ではないため、株主のための開示規制そのものではなかったと言えます。
(*3) 組織再編成用の有価証券届出書の様式は、内国会社が第二号の六様式および第二号の七様式(新規公開用)、外国会社が第七号の四様式で、従来の有価証券届出書(第二号様式)の記載項目に加え、組織再編成に関する情報(概要・目的等、当事会社(組織再編成対象会社以外の会社)の概要、手続、統合財務情報等)が記載項目とされました。
(*4) ここでの「多数」の定義については、<金融商品取引法施行令>の第2条の4によって「50名以上」と定められています。
(*5) 四半期開示の実務は、金商法制定前から、証券取引所の適時開示の方法として行われていました。

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