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Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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種類株式の上場に関する最近の議論について~少数株主保護~(その3)

繰り返しになりますが、東証の実務者懇談会は、少なくとも以下の要件を満たした無議決権株式・多議決権株式・少議決権株式については、原則としてその上場を認めることを提案しました。

【以下の5つの方策の全てが取られていること。
① 既公開会社にあっては、上場株式より議決権の多い株式を上場させる場合にあたらないこと。
② 極めて小さい出資割合で会社を支配するような状況が生じた場合に議決権種類株式のスキームが解消できるような方策がとられていること。(例:ブレークスルー条項、サンセット条項等)
③ 種類株主間の利害が対立する場面における株主保護の方策がとられていること。
④ 支配株主と会社の利益相反取引の場面における少数株主の保護の方策がとられていること。
⑤ 新規公開時における無議決権株式の単独上場の場合は、議決権付株式の譲渡等の時に無議決権株式に転換する条項が付されていること。】


このうち③④は、コーポレート・ガバナンスや株主保護の基本的部分に関わる問題であると考えます。そもそも種類株主の保護と聞いて思いつくのは会社法322条です。同条1項は、種類株式発行会社がM&Aを行ったり、株式の内容の変更を行ったりする場合に、それが「ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるとき」は、「当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。」と定めています。つまり、この限りにおいて、種類株主の利益は保護されているといえます。しかし、ここで注意しなければならないのは、同条2項が、「種類株式発行会社は、ある種類の株式の内容として、前項の規定による種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定めることができる。」と定めていることです。つまり、定款で定めることによって、種類株主保護策である「種類株主総会の決議」を排除することが出来るのです。

この点、東証の報告書は、「会社法322条2項に基づく種類株主総会の決議の排除」を認めない、あるいは、少なくとも事前に利害関係なき第三者によって構成される特別委員会の意見を聴取する方法によって、種類株主(議決権の少ないB種株主)を害さないような方策を採るべきとしています。また、④の利益相反の問題についても、「十分な情報開示」と「独立取締役、監査役又は特別委員会等の関与」を要求することでクリアする方法を提案しています。

さて、上記で提案されている①独立委員会、②情報開示というのはいずれも米国判例法上で繰り返し要求されてきた株主保護の方策です。少数株主の利益が害される場面としてよく取り上げられるのが支配株主である親会社による完全子会社化(Squeeze-Out)であり、(米国では古くから現金交付合併(Cash-Out Merger)が認められてきましたので)締出しを受けた少数株主が会社や支配株主を相手取って訴訟を起こしてきました。そのような歴史の中で、デラウエア州裁判所は、Squeeze Outにおける少数株主の保護が問題となった著名なウェインバーガー判決(*1)において、「完全なる公正」の基準(Entire Fairness Test)を採用するとともに、独立委員会の設置の必要性について言及しました。米国では、それ以来、独立委員会が雨後の筍のごとく設置されるようになったのです。また、この判例においては、Cash-Out Mergerの場合、株主には「反対株主の株式買取請求権」(Appraisal Right) (*2)という救済手段があるものの、不十分な情報開示がなされたり、自己取引状況があった場合、会社資産を不当に処分するような行為がなされた場合には、株式買取請求権だけでは株主の利益を保護できないとも判示されました。米国では、Squeeze Outではなく、Tender Offer+Short Form Merger(日本の略式合併に相当)で完全子会社化が行われる場合には、Entire Fairness Testではないまた別の基準(Coercion Test)が採用されているのですが、ここはまた別のコラムで整理したいと思います。

東証の報告書も企業価値研究会の提言も、少数株主(種類株式の文脈では「少議決権株主」)の利益を保護するために、米国で採用されている方策を日本でも取り入れるよう提案しているわけですが(これは<MBO指針>でも同じでした)、どこかすっきり理解できないと感じておられる方も多いのではないでしょうか。「十分な情報開示」が関係者の利益保護にとって重要であるのは世界共通だと考えますが、「特別委員会」については、その判断を仰いだことにより本当に少数株主の利益が守られるのだろうか、特別委員会も会社の意向に沿った形の意見を提出する可能性が高く、結局、少数株主は株主買取請求権で救済されるに留まるのではないだろうか、特別委員会の存否によって法的に何が変わるのだろうか・・・など、その疑問はもっともだと考えます。

この点、米国ではこのような疑問はあまり存在しません。社外取締役市場が充実しており特別委員会が実際に機能しやすい環境にあるということに加えて、特別委員会を設ける意味がはっきりしており、かつ、特別委員会を設けたからといって、全てが許されることにはならないということもはっきりしているからです。すなわち、特別委員会は、設置をすることにより、
① Entire Fairness TestがBusiness Judgment Ruleに変更される(結果、立証責任が取締役側から原告に移転する)、又は
② Entire Fairness Testという審査基準自体は変わらないが、「不公正」の立証責任を原告側が負うことになる
という判例上の効果が生まれます。つまり、特別委員会を設置すれば立証責任を(一旦)原告に負わせることが出来るが、不公正な行為は結果として許されないという判断枠組みが明確になっています。更に、

支配株主(Controlling Shareholders)は、取締役と同様のFiduciary Dutyを少数派株主に対して負担する

という著名な判例(*3)が、判例法を形成しています(*4)。また、上述のように、救済手段が「反対株主の株式買取請求権」に限定される場合と限定されない場合の境目も判例が示していますし、少数株主が害されうるケースとして、親子会社間合併、兄弟会社間合併、公開買付けのケースに分けて判例の基準が整理されています。つまり、「特別委員会」が存在することの効果が比較的明確で、ケースごとに審査基準や救済手段も整理されており、更に、支配株主はたとえ株主でも取締役と同じ義務を負うという判例が確立されているからこそ、特別委員会を中心に実務が回って行っているのです。

日本の場合は、M&Aに関する裁判例がまだほとんど存在しないために、裁判所の役割や審査基準の問題とは切り離されて株主保護策が論じられることがありますが、形だけの輸入では、どこかに綻びが発生するリスクがあります。レックスホールディングスのMBOのケースが問題になったときに、東京地裁の民事8部(「商事部」)が米国の事例研究を行っているという報道が日経ビジネスでなされましたが、M&Aに関わる実務家としては、目の前の案件が裁判にまで発展することを想定し、制度の歴史的背景や運用状況、過去に問題となった米国の裁判事例まで(裁判所と同じように)色々と研究することが大切だと感じさせられます。


(*1) Weinberger v. UOP.Inc. 457 A.2d 701 (Del. 1983)
(*2) 日本の会社法上も、会社法322条2項に基づき「種類株主総会の決議の排除」を行った場合、会社法116条3号に基づく「反対株主の株式買取請求権」が認められています。
(*3) Sinclair Oil Corporation v. Levien. 280 A.2d 717 (Del. 1971)
(*4) 日本では、「支配株主が会社および他の株主に対して誠実義務を負う」とする見解は、判例の承認を得るに至っていません(「株式会社法」江頭憲治郎、124頁)。
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