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Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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Market MAC条項について

Market MAC条項とは、「契約締結日からクロージング日までの間にFinancial Marketの悪化が発生していないこと」を融資契約や出資契約のクロージングの条件とする条項をいいます。以下では、このMarket MAC条項の効果が問題となったSolutia社のケースを紹介します。

Solutia社はおよそ4年もの間倒産(Chapter 11)手続下にありましたが、金融機関から資金提供を受けて再建計画を策定できる運びとなり、2007年10月25日付けで、銀行団(*1)から20億ドルの融資(exit financing)約束を取り付けました。この融資合意書(commitment letter)においては、

“there had been no adverse change in the financial markets since the date of the agreement that, in the reasonable judgment of the lenders, materially impaired the ability to syndicate the Solutia exit financing.”
(訳: 本合意書の締結日以降に、貸主の合理的判断において、Solutia社に対する協調融資を行うことが相当困難になるようなフィナンシャル・マーケットの悪化が発生していないこと)

が、融資の条件とされ、かつ、合意書の有効期限は2008年2月29日とされていました。

Solutia社は2008年1月に銀行団に対して融資の実行を要請しましたが、各銀行は、レバレッジド・ローン市場が極めて悪化していることを理由に、すなわち、Market MACが発生していることを主張して、融資を断りました。そこで、Solutia社はニューヨーク州にある連邦倒産裁判所に提訴し、合意書の有効期限である2008年2月29日までに20億ドルを融資するよう銀行団に対し債務の履行(specific performance)を求めました。

本件の融資合意書には、いわゆる"Firm Commitment"条項(*2)が入っていたため、Market MAC条項との関係が問題となりました。また、「Market MAC条項はいわゆる"boilerplate"条項であって過去に実際に利用されたことは殆どないから効力を有しない」とするSolutia社の主張に対しても、「融資合意書にサインをした2007年10月から融資を断った2008年2月までの間にMACが発生した」とする銀行団の主張に対しても、裁判所は疑問なしとしないという意見を示していたことから、Solutia社と銀行団は、内容の予測がつかない判決をもらうことを避け、当事者間で再交渉を行い、結局、銀行団により有利な条件でSolutia社に融資を行うことが再合意されて和解が成立しました。

本件では裁判所の判断が示されなかったため、先例として利用することは出来ませんが、買主側が予定していた融資や出資が、融資・出資合意書に含まれているMarket MAC条項によって実行されない可能性があることを認識し、可能な限り、買収契約書に盛り込むMAC条項との整合性を図ることが必要になってくると考えます。


(*1) Citigroup Global Markets Inc., Goldman Sachs Credit Partners L.P., Deutsche Bank Trust Company Americas and Deutsche Bank Securities Inc.
(*2) 主に証券の引受けで用いられる条項で、「売れ残り」についても引受人が全て引き受けることを約束する条項。本件で、Solutia社側は、シンジケートが組めなくても融資を行うこと(=Firm Commitment)が合意されていたと主張しました。
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MAC条項について(その3)

MAC条項に関して当事者間で最も白熱した交渉がなされるのは、Carve Out事由(例外事由)をどこまで定めるかという点です。特に、プライベート・エクイティ・ファンドの増大によって売り手市場になっていた近年の米国M&A業界では、売主側が有利になるよう(すなわち、買主は容易に撤退できないよう)、多くのCarve Out事由が定められました。

例えば、COUNTRYWIDE FINANCIAL CORPORATIONとBank of Americaの合併契約書(*1)を見ると、以下のようなCarve Out条項が盛り込まれています。

“provided, however, that, with respect to this clause (i), a “Material Adverse Effect” shall not be deemed to include effects to the extent resulting from (A) changes, after the date hereof, in GAAP or regulatory accounting requirements applicable generally to companies in the industries in which such party and its Subsidiaries operate, (B) changes, after the date hereof, in laws, rules or regulations of general applicability to companies in the industries in which such party and its Subsidiaries operate, (C) actions or omissions taken with the prior written consent of the other party, (D) changes, after the date hereof, in global or national political conditions or general economic or market conditions generally affecting other companies in the industries in which such party and its Subsidiaries operate or (E) the public disclosure of this Agreement or the transactions contemplated hereby, except, with respect to clauses (A) and (B), to the extent that the effects of such change are disproportionately adverse to the financial condition, results of operations or business of such party and its Subsidiaries, taken as a whole, as compared to other companies in the industry in which such party and its Subsidiaries operate”
(サマリー的訳:
(A) GAAPや会計基準の変更、(B) 法令の変更、(C) 他方当事者が事前に書面で同意した行動、(D) 国内外の政治的状況または経済・市場の状況の全体的な変化、または、(E) 本契約の開示、から発生した影響については、「重大な悪影響」には含まないものとする(ただし、(A)(B)のうち、対象会社の財務状況、営業成績や事業に特に悪影響を及ぼすものについてはMAEに該当する))

上記のようなCarve Out条項に従う限り、買主は、例えばサブプライム・ローン問題に端を発した市場全体の信用収縮などを理由に、(Termination Feeを支払うことなく)買収案を撤回することが困難となります。実際、Finish Line社がUBSから資金提供を受けてGenesco社を買収しようとしたケース(15億ドルのCash Merger)において、UBS がGenesco社の収益が落ち込んだことを理由に融資を拒否したため訴訟に発展したのですが、テネシー州衡平裁判所は、「Genesco社の収益悪化は経済の全体的な落ち込みによるものであり、同じ業界に属する他社と比較してGenesco社の業績がとりわけ悪化した(disproportionate impact)わけではないから、MAC条項に基づく解除はできない」と判示しました(*2)。

なお、MAC条項は、実務上は、「契約解除に至れるかどうかはさておき、とりあえず再交渉するため」の道具として使われることが多いと思われます。買主としては、理由の如何を問わずReverse Termination Feeさえ支払えばディールから撤退することはできるわけですが、買主側の取締役のFiduciary Dutyについても注目され始めている今日においては、経済状況が変化したり、対象会社のビジネスに重大な変化が生じたにも拘らず従前の契約条件のままクロージングを迎えると、買主の取締役の責任が問われるリスクがあります。そこで、MAC条項を持ち出して「契約の解除か、減額か」を売主に迫ることで、どうにかして再交渉に持ち込みたい場合があるということです。実際に、そのような過程を経て、訴訟に至ることなく「少し減額してクロージングを迎えた」ケースは少なくないものと思われます。

MAC条項に関連して一つ注意したいのは、プライベート・エクイティ・ファンドがサインするEquity Commitment Letter(出資契約書)には、いわゆるMarket MAC条項が入っているケースがあるということです。Market MAC条項によって必要な資金が買主に提供されないにも拘らず、Carve Out条項によって買収そのものは撤回できないという事態が発生しうるからです。Market MAC条項については、最近米国で注目を浴びたSolutia社のケースがありますので、次回のコラムで簡単に紹介したいと思います。


(*1) http://www.sec.gov/Archives/edgar/data/25191/000089882208000107/exhibit21.htm
(*2) 本件は結局和解にて終了(買収は撤回)しましたが、Finish Lineは、訴訟や和解などの関連費用8150万ドルを計上した結果、2007年の第4四半期決算において赤字となりました。

MAC条項について(その2)

MAC条項については、押さえておくべき判例がいくつかありますが、「曖昧な契約文言は裁判所による解釈作業を招く」ことを示す実例として、まずは有名なIBP v. Tyson Foods, Inc. (789 A.2d 14 (Del.Ch. 2001))について紹介したいと思います。

食肉業界大手であるTyson社は同業のIBP社をCash Out Mergerによって買収するためにDue Diligenceを行ったところ、IBP社の牛肉部門の業績が悪化しつつあることと、IBP社の子会社の一つに会計上の問題点があることを発見しました。事業拡大を目指すTyson社はそれにも拘らずIBP社との合併契約書(*1)にサインしましたが、結局翻意し、当該契約を破棄するとIBP社に通告したため、IBP社は合併契約の履行を求めてデラウエア州裁判所に提訴しました(*1)。

デラウエア州裁判所は、本件において、まず、立証責任の問題に関連し、「契約の破棄を求める側がMACの発生を立証する責任を負う」と述べた上で(立証責任の問題は実務上は非常に重要です)、曖昧に規定されていたMACの範囲を

unknown events that substantially threaten the overall earnings potential of the target in a durationally-significant manner
(訳: 対象会社の収益全体に長期間に亘って重大な脅威を与える、(買主に)知られていなかった事実)

に限ると判示しました。
ここでのポイントは、
① MACは買主によって認識されていなかった事実でなければならない
② MACは「重大な脅威」でなければならない
③ MACは一時的に発生したものでは足りず、長期間続くものでなければならない

の3点であり、本件では、①の点に関連し、Tyson社がIBP社の牛肉部門における収益が悪化しうること、および、子会社における会計上の問題点を認識していたことから、現にそのような事態が発生したとしてもMACには該当しないとされました。また、③の点についても、IBP社の牛肉部門における収益が悪化したといってもそれは短期間の現象であるから、やはりMACには該当しないとされました(その結果、Tyson社はIBP社を買収しました)。

本件の結果、実務上は、「買主が認識している事実」については予めMACに該当すると契約書に明記する方法が利用されるようになりました。問題が現に発生しつつある以上、それを買主が知っていたからという理由で買主が救済されないのは当事者の合理的意思に反するでしょうから、特にMACに該当する事項として明記しておくという方法は妥当だと考えます。

また、細かくなりますが、本件ではTyson社の行動の一部がTyson社にとって不利益に斟酌されました。Tyson社はMACであると主張する事態が判明した後に、インベストメント・バンクから買収対価に関するフェアネス・オピニオンを取り直したのですが、悪いことに、そのオピニオン・レターの中では、「依然、買収対価は適切である」と書かれており、これがTyson社が後にMACを主張するときの障害の一つになったと考えられます。また、Tyson社は一番最初にIBP社に送付した契約解除通知の中でMACについて触れていなかったのですが、この点もTyson社の不利に働きました。よって、実務上は、相手方当事者やアドバイザーとのやり取りなども、全て後の訴訟で自己に不利益な証拠になりうること(Attorney-Client Privilegeは除く)に留意した上で、フェアネス・オピニオンを取り直すのであれば、「フェアでない」との意見が確実にもらえそうな場合に限り、かつ、解除通知には、MACも含めて解除理由として考えられることを可能な限り盛り込んでおくべきだと考えます。


(*1) 当該合併契約書には、以下のMAC条項が入っていました。
“a material adverse effect on the condition (financial or otherwise), business, assets, liabilities or results of operations of the Company and the Subsidiaries taken as a whole”
(*2) ただし、契約書上、適用法令はニューヨーク州法でした。

MAC条項について(その1)

MAC(Material Adverse Change)条項とは、MAE(Material Adverse Effect)条項とも呼ばれ、契約書にサインした時からクロージングまでの間に発生するリスク(対象会社の経営状態の悪化や各種問題の発生)を契約当事者間で配分するための手段であり、近年のアメリカでは、買収案件やプロジェクトファイナンス案件、ベンチャー投資案件などで頻繁に利用されています。アメリカで2001年に発生した9.11テロ事件以降、対象会社の資産や経営状態に問題が発生したときに、融資案件におけるLenderや買収案件におけるBuyerが違約金や損害賠償金を支払うことなく契約を解除してディールから撤退(walk away)する権利を契約書に盛り込むことが必要であるという認識が広がったことから、MAC条項が幅広く利用されるようになりました。

MAC条項は、クロージング条件条項(condition to completion)、または、「特定の日(直近の財務諸表作成日)以降にMACが発生していない」という内容の保証条項(warranty)として組み込まれ、後者のケースでは、その保証をクロージング日にも行わせることで(すなわち、クロージング日においても、「特定の日以降にMACが発生していないこと」を保証させる)、契約締結日からクロージング日までに発生するリスクを対象会社に負わせられるよう交渉が行われます。以下では、買収案件におけるMAC条項について詳述します。

「MAC」の定義については、これをどう定めるかが買主・売主間での大きな関心事の一つとなります。米国の実務において一つの雛形として利用されているABAの “Model Stock Purchase Agreement”には、

No Material Adverse Change. Since the date of the Balance Sheet, there has not been any material adverse change in the business, operations, properties, prospects, assets or condition of any acquired Company, and no event has occurred or circumstances exist that may result in such material adverse effect.
(訳:
重大な悪化が発生していないこと - (直近の)貸借対照表の作成日以降、対象会社のビジネス、事業運営、財産、将来予測、資産または状態にいかなる重大な悪化も発生していないこと、および、かかる重大な効果につながりうる事実または状況が発生していないこと)

という定義が書かれています。通常、買主は、予測できない事象を全て取り込むべく可能な限り広くMACを定義しようと試みますが、上記ABAの定義はMACの内容に関してほとんど限定がなされていませんので、買主が好む規定の仕方であると言えます(たとえば”material”、 ”business”、 “prospects”といった言葉はそれ自体で既に「曖昧」で、将来の問題点を幅広くカバーしてくれそうに見えます)。また、実務で用いられる契約書にはMACの定義条項が置かれることが通常ですが、その場合でも、
Material Adverse Effect means any event, condition or change which materially and adversely affects or could reasonably be expected to materially and adversely affect the assets, liabilities, financial results of operations, financial conditions, business or prospects of the Company.
といった書き方をされ、やはり「曖昧」です。

しかし、「曖昧」な契約文言が辿る運命といえば・・・「裁判所による契約条項の解釈作業」です。裁判所は、当事者の合理的意思を認定するために、契約交渉当時の様々な客観的事実関係を精査せざるを得ないことになり、結局、MACの範囲は、裁判所によって当事者の意図しなかった形に解釈される可能性が出てくるということになります。MACは、
① Adverse Change(Effect)
② Material

という二つの要素に分けられますが、①についての認定は(裁判所にとって)比較的容易です。問題は②であり、裁判所は、問題となっている特定の事象に関し「合理的な買主(reasonable purchase)であれば重大と評価するか否か」を各種証拠から認定しますが(*1)、そのプロセスが予測困難なのです。

そこで、具体的な金額やパーセンテージをMACの定義に盛り込むような試みもなされました。たとえば、MACの通常の定義の後に、
For purposes hereof, an event, occurrence, change in facts, conditions or other change or effect which has resulted or could reasonably be expected to result in a suit, action, charge, claim, demand, cost, damage, penalty, fine, liability or other adverse consequence of at least $100,000 shall be deemed to constitute a Material Adverse Effect.
といった解釈条項を加えて、一定額以上の費用が発生したり、訴訟につながったりしうるトラブルはMACに該当するといった具合です。この方式の問題点は、(実務的になりますが)具体的な金額やパーセンテージあるいはMaterialに該当する基準を決めること自体が困難である(当事者が合意に至りにくい)という点でしょうか。

MACについては、他にも留意すべき点がありますので、次回以降のコラムで述べたいと思います。


(*1) Parnes v. Gateway 2000, Inc. 122 F.3d 539 (8th Cir. 1997)

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