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井垣太介 (Taisuke Igaki)

Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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Termination Fee条項について(その2)~Reverse Break-Up Fee条項~

Termination Fee条項の典型例は、ターゲット会社が他の買主候補に目移りした結果、当初の買主候補との契約を撤回するために払う「ターゲット会社からの手切れ金」ですが、アメリカの実務では、3年ほど前からReverse Break-Up Fee条項と呼ばれる、「買主からの手切れ金」条項が目立つようになりました。

プライベート・エクイティ・スポンサーによるM&A案件を例に説明しますと、もともと、プライベート・エクイティ・スポンサーが関与するM&A案件においては、スポンサー側が契約上の責任を負うストラクチャーは稀でした。ターゲット会社と契約を締結する買収会社(Acquisition Vehicle)は、プライベート・エクイティ・ファンドが設立するShell Entity(受け皿会社、抜け殻会社)であるのが通常で、そのShell Entityがファンドから出資を受けるわけですが(そのときに締結するのがEquity Commitment Letter)、ターゲット会社はCommitment Letterの当事者にはならないため、仮に出資がなされない事態が発生しても、ターゲット会社がプライベート・エクイティ・スポンサーに対して直接出資の履行を求めたり損害賠償請求を行うことはできませんでした。また、M&A契約は、通常、Financing Outと呼ばれる条項を含んでいます。これは、買主側は通常買収のために借入れも起こしますが(そのときに締結するのがDebt Commitment Letter)、その借入れが実行されない限り、買主は買収を完了させる義務を負わず、プライベート・エクイティ・スポンサーもEquity Commitment Letterに定められた出資義務を履行しなくてもよいとするものです。よって、ターゲット会社は、通常、プライベート・エクイティ・スポンサーの評判とか信頼関係といった法的に依拠できないものに頼って契約せざるを得ませんでした。

しかし、例えば、オークション(入札)によって特定の買主を選択した後になって、その買主候補が去り、その時点では他の買主候補も興味を示さなくなっていたようなケースでは、当初の買主候補に去られることによってターゲット会社に損失が発生することも考えられます。買われる方のターゲット会社もやはりリスクを負っているわけです。そこで、ここ数年、M&A契約においてReverse Break-Up Feeを負担することに同意するプライベート・エクイティ・スポンサーが増えてきました。

Reverse Break-Up Fee条項を契約書に入れる場合でも、前述のFinancing Out条項を入れるパターンと入れないパターンがあります。スポンサー側、買主側から見れば、何らかの理由で予定していた貸付を受けられない場合に、その背景事情の如何を問わず常にReverse Break-Up Feeを支払う義務を負うというのはいかにもリスクがあります。しかし、例えば、Neiman Marcus Group Inc.をWarburg Pincus & Co.とTexas Pacific Groupが買収した案件(2005年5月)では、1億4000万ドル(エクイティ・バリューの2.7%)のReverse Break-Up Feeが定められていながら、このReverse Break-Up Feeの支払義務は、たとえ必要な買収資金の借入れが得られない場合でも免除されないと合意されていました。すなわち、Financing Out条項が存在しなかったのです。アドバイスをする弁護士としては、このようなストラクチャーは非常にリスクが高いと言いたくなりますが、昨今のプライベート・エクイティ投資ブームの中では、取引を成立させるためにこのような手法も採用されていたのが現実です。

また、同じReverse Break-Up Fee条項でも、プライベート・エクイティ・ファンドがReverse Break-Up Feeを支払う義務を直接負担する形式の契約と、プライベート・エクイティ・ファンドがサインするEquity Commitment Letterにおいて、ファンドがReverse Break-Up Feeの支払いを保証する形式の契約が存在します。

Reverse Break-Up Fee条項は、サブプライムローンに関連して世界のマーケットが混乱し始めた昨年の中頃から、「スポンサーや買主がディールから撤退するための道具」としてにわかに注目を集め始め、アメリカでは、いわゆるMAC条項(Material Adverse Change Clause)/MAE条項(Material Adverse Effect Clause)の解釈とも絡んで、昨年から複数のM&A案件が裁判所に持ち込まれています(*1)。大変興味深い問題ですので、これについては、次回以降のコラムで紹介していきたいと思います。


(*1) United Rentals, Inc. v. RAM Holdings, Inc. , Civil Action NO. 3360-CC (Del. Ch. Ct. Dec. 13, 2007)等
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Termination Fee条項について(その1)

Termination Fee条項は、Break-Up Fee条項ともいわれ、M&A契約においては今やすっかりお馴染みの条項となりました。いずれも、本契約締結後に競合する買主候補が現れた場合に、対象会社の取締役会が後発の競合提案の方が自社の株主の利益になると判断したときには従前の契約を解除できるが、その代わり当初買主候補に対して契約上決められた金額、すなわちTermination Fee/Break-Up Feeを支払わなければならないとするものです(*1)。

例えば、少し古い例(2005年)になりますが、Guidant Corp.の獲得を巡り、Johnson & JohnsonとBoston Scientific Corp.が買収合戦を繰り広げた結果、最終的にGuidant がJohnson & Johnson との契約を破棄してBoston Scientificによる買収を受け入れた際に、Guidant はJohnson & Johnsonに対して7億500万ドルのTermination Fee条項を支払いました(買収金額は250億ドル)。また、Procter & GambleがGilletteを5490億ドルで買収した際の契約書には、19億2000万ドルのTermination Fee条項が入っていました。

Termination Fee条項は、No-Shop条項やMatching-Right条項と同じく、取引保護措置の一つです。すなわち、当初の契約をターゲット会社の方から撤回すればターゲット会社が一定額の損失を被るという合意を締結しておくことにより、他の買主候補が介入してくる事態を一定程度防ぐことができます。しかし、取引保護措置がときにターゲット会社の株主の利益に反する可能性があることについては、<取引保護措置とは?(その2)>でも述べたとおりで、あまりに多額のTermination Fee条項についてはその適法性が問題視されます。現に、Toys”R”Us(トイザラス)の買収案件(買収金額66億ドル)では、3.75%のTermination Fee条項が設定されていましたが、これに対して株主が、株主の利益を害するものであると主張して提訴しました。これに対して、デラウエア州衡平裁判所は、「仮にTermination Feeの率が2.5%であったとしても、一株当たりに引き直せば0.33ドルにしか過ぎない」と述べて、適法の見解を示しました(2005年6月)。実務界では、3~4%が適正範囲だと言われていますが、この範囲に関してはToys”R”Us判決も影響していると考えます。

英文契約書におけるTermination Fee条項の具体的定め方については、Termination Fee条項の中で他の条項を参照する構造になるのが通常であるため、シンプルな具体例を挙げるのが難しいのですが、必要なときに研究できるように、合併契約書全体が見られるリンク付きで、Termination Fee条項を下に抜き出しておきたいと思います。これは、2008年2月26日に締結された<CollaGenex Pharmaceuticals, Inc.と Galderma S.A.間の合併契約書>で、やはりSECへの報告書(8-K)にて開示されているものです。

SECTION 7.3 Termination Fees.
(a) In the event that this Agreement is terminated by Parent pursuant to Section 7.1(c)(ii) or the Company pursuant to Section 7.1(d)(ii), then the Company shall pay to Parent, no later than the second (2nd) Business Day following termination in the case of Section 7.1(c)(ii) and concurrently with termination in the case of Section 7.1(d)(ii), by wire transfer of same-day funds (i) a termination fee of $12,600,000 (the "Termination Fee") and (ii) all out-of-pocket expenses, actually documented and incurred or payable by or on behalf of Parent or Purchaser in connection with or in anticipation of the Transactions (whether before or after the date of this Agreement), including all attorneys' fees, financial advisor's fees, accountants' fees and filing fees (the "Expense Payment"); provided that in no circumstance shall the Expense Payment exceed $1,000,000 in the aggregate.
(b) In the event that (i) Parent or the Company shall terminate this Agreement pursuant to Section 7.1(b)(iii), or Parent shall terminate this Agreement pursuant to Section 7.1(c)(i) as a result of a breach of Section 5.2, and (ii) in each case prior to the time of such termination a bona fide Takeover Proposal or an intention (whether or not conditional) to make a Takeover Proposal has been publicly made or otherwise made known to the Company Board or generally to the Company Stockholders and not withdrawn at least five (5) Business Days prior to termination, and (iii) if, within 12 months after the date of such termination, a definitive agreement is entered into by the Company or any of its Affiliates with respect to any Takeover Proposal or any Takeover Proposal is consummated, then the Company shall pay to Parent, on the date such agreement is entered into or on the date that such Takeover Proposal is consummated, whichever is earlier, by wire transfer of same-day funds, an amount equal to the Termination Fee and the Expense Payment; provided, however, that for the purpose of this Section 7.3(b), all references in the definition of Takeover Proposal to "25%" shall instead be deemed to refer to "a majority".
(c) Each of the Company and Parent acknowledges that the agreements contained in this Section 7.3 are an integral part of the Transactions and that, without these agreements, Parent would not enter into this Agreement. Accordingly, in the event that the Company shall fail to pay the Termination Fee or Expense Payment when due, the Company shall reimburse Parent for all costs and expenses incurred or accrued by it (including reasonable fees and expenses of counsel) in connection with the collection under and enforcement of this Section 7.3 with interest on the amount of the Termination Fee and/or Expense Payment, as the case may be, from the date that such payment was required to be made until the date of actual payment at the prime rate of Citibank, N.A., in effect on the date that such payment was required to be made.


(*1) 対象会社が補填すべき対象として、当初買主候補がそれまでに支出した弁護士費用等の経費まで含まれるとするものと、それらの経費は含まれないとするものが存在します。

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