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井垣太介 (Taisuke Igaki)

Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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Go-Shop条項の限界~Topps社事件が示唆するもの~

<前回のコラム>で述べたとおり、売主の取締役会は、株主総会で承認を得る日までの間に当初の買収提案と後に提示された競合提案のいずれが株主にとって有利な提案であるかを判断して選択することになるわけですが、その取締役会の判断が取引関係者全員によって常に尊重されるわけではありません。発生するトラブルの典型的な例としては、ビッドに負けた買収提案者が「なぜこちらの提案を選ばなかったのか」とクレームを述べ、味方の株主とともにM&A契約の実行の差止めを求めて訴訟を提起するケースです。そこで、このような紛争の具体例として、昨年、アメリカのM&A実務界で話題となったTopps事件(*1)を紹介したいと思います。

バブル・ガムやベースボール・カードで有名なTopps社は、2006年、プライベート・エクイティ投資家であるMichael Eisner氏よりゴーイング・プライベートを企図した株式の買収提案を受けましたが、他方で、Topps社は、同じスポーツ・カード業界の競合会社であるUpper Deck社からも1999年以来継続的に買収提案を受けていました。Topps社の取締役会では、Eisner氏と本契約を締結する前にオークションを行うべきであるとする反対意見も出ましたが、Eisner氏がTopps社に対して、「もし本契約締結前にオークションが行われるようであれば自分の提案は撤回する」と伝えていたこともあって、結局、Eisner氏とまず本契約を締結した上で、Go-Shop条項に従って事後的に競合買収提案者を探すという方式で進めることが決定されました(これはGo-Shop条項が盛り込まれる契約では頻繁に見られる交渉経緯パターンです)。Eisner氏との契約においては、現経営陣の雇用維持が約束されていた点が特徴的であり、Go-Shop期間は40日間と定められ、Eisner氏にはMatching Rightが与えられていました。

Topps社は、取締役会においてEisner氏との契約を承認する少し前にUpper Deck社から買収の希望を伝えられていましたが、その希望には返答を行うことなくEisner氏との契約に調印し、Go-Shop期間が開始しました。Go-Shop期間においてはUpper Deck社が唯一の競合提案者であり、Upper Deck社は、Topps社に対して、Eisner氏の従前の提案であった一株当たりの買収価格9.75ドルを超える一株当たり10.75ドルの提案を行いました(但し、当該金額は、その後のデュー・ディリジェンスの結果その他の条件によって変更される可能性が示されていた)。上記Upper Deck社の提案は金額面を見ればEisner氏からの提案よりも優れていたわけですが、Topps社は、独禁法上の懸念があることと、Upper Deck社の提案が一定の条件に依拠していることによる不安定性を理由に、Upper Deck社の提案を最終的に拒絶するに至りました(*2)。なお、米国における買収交渉においてはよく見られるように、Upper Deck社はTopps社と買収交渉を開始した時点で、現状維持(Standstill)合意を締結していました(その結果、Upper Deck社の株主に対してTender Offer(株式公開買付)を開始することができなかった)。

そこで、Topps社の株主及びUpper Deck社は、Topps社に対して、追加の情報開示と現状維持(standstill)合意の無効化を求めて訴訟を提起したところ、デラウエア州衡平法裁判所は、「Topps社は、Eisner氏との契約においては現経営陣の雇用維持が約束されていたことを開示すべきであった」とした上で、Upper Deck社との間の現状維持(standstill)合意を無効化し、Upper Deck社が、自社の提案がEisner氏からの提案よりも優れていることを主張して前記一株当たり10.75ドル以上の条件にてTender Offerを行うことを認めました。

本件からは、
① Go-Shop条項は万能ではなく、最終的にオークションないし公開買付におけるプロキシー・ファイト(委任状争奪戦)に至る可能性があること、
② 株主利益を保護するためのより基本的な要請として、公正かつ十分な情報開示はどのような場面でも必要であること、
③ Go-Shop期間中に競合買収候補が現れた場合の「選択」は実際には容易ではないということ、
④ 現状維持(Standstill)合意も万能ではなく、合意の存在を理由に強行突破することにはリスクがあること

といった諸点を学ぶことが出来ます。

そもそも、本件において、裁判所は、Go-Shop条項が有効になるためには、「本契約締結後の市場調査が効果的に行われる合理的可能性が存在すること」(*3)が必要であると述べています。よって、本契約締結後の市場調査が実質的に不可能となるような短期間のGo-Shop期間は意味をなさず、Go-Shop期間中は積極的に競合買主候補を探す必要があり、かつ、Go-Shopの結果競合者が現れた場合には、全買主候補に共通の情報を提供した上で、同一の基準で条件の優劣を決する必要があると言えます。

日本では、Go-Shop条項は未だ普及していませんが、一部の契約書には入り始めています。その場合、米国で実際に紛争になったTopps事件のようなケースを念頭に置いて、Go-Shop条項を盛り込んだことで安心するのではなく、上記の諸点に注意をした丁寧な運用を行わなければなりません。

(*1) In re The Topps Company Shareholders Litigation, C.A. Nos. 2786-VCS & C.A. No.
2998-VCS (Del Ch. June 14, 2007)

(*2) Topp社のケースに限らず、Go-Shop条項が盛り込まれた契約においては、対象会社の取締役会が、Go-Shop期間中に現れた有力な競合買収候補を"Excluded Party"であると認定すれば、対象会社はGo-Shop期間経過後も当該競合買収候補と交渉を継続できますが、Topps社はUpper Deck社が"Excluded Party"に該当するとの宣言を行いませんでした。
(*3) 原文は、”reasonable room for an effective post-signing market check”となっています。
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Go-Shop条項~競合買収提案に対する対応~

Go-Shop条項に関しては、実際に競合買主候補が出てきた場合に、どちらを優先提案として受け入れるべきかに関する判断が難しいといった問題があると、<Go-Shop条項の存在意義と内容>のコラムで書きましたので、今回はこの点のフォローをしたいと思います。

Go-Shop期間中に競合買主候補が出現しなかったケースにおいては、そのまま当初買主候補とクロージングを迎えることになるため、比較的問題は少ないと言えます。問題は、Go-Shop期間中に競合買収提案(Acquisition Proposals)がなされた場合の処理方法ですが、この場合、売主としては、Go-Shop期間の終了(「No-Shop期間の開始」とも表現する)とともに、競合買主候補者に対する勧誘・交渉行為を全てストップした上で、当初買主候補に対して、
① 競合買収提案の数、
② 競合買主候補者が誰であるか、
③ 競合買収提案の骨子

を、一定時間内(通常、24時間ないし48時間内)に通知しなければなりません。これにより、当初買主候補としては、競合提案に対して更に好条件を提示するか、取引を断念するかを検討できる機会(これが「当初契約者による再交渉権(Matching Right)」と呼ばれる権利につながる)を与えられます。

他方、売主の取締役会は、当初提案を受け入れるか、競合買収提案を受け入れるかを選択しなければなりません。この点、米国のM&A契約書でよく見られるのが、取締役会は、
① フィナンシャル・アドバイザーおよび社外の弁護士と協議の上、
② 善意にて(in good faith)、
③ 競合買収提案が、「より優れた提案」(Superior Proposal)か否かを判断しなければならない

とするものです。契約書においては、「より優れた提案に該当する」と取締役会が判断した場合には、当初買主候補との間の契約を解除することができる旨も併せて規定されます(この場合には、いわゆるターミネーション・フィー(Termination Fee)が発生します)(*1)。

ここでは、何をもって「より優れた提案」(Superior Proposal)と評価するのかが問題となります。この点、「より優れた提案」の定義としては、競合買収提案(Acquisition Proposals)の定義を更に絞り込んだ上で(例えば、競合買収提案においては資産等の25%以上の取得行為とされていたものが、「より優れた提案」に該当するためには売上・資産・議決権の50%以上を取得することが要求される)、「株主にとって経済的により有利な提案であること(a transaction that is more favorable from a financial point of view to the stockholders of the Company than the transactions contemplated hereby)」という表現が使われることが多いようです。しかし、「より優れた提案」に該当すると取締役会のみで判断することは困難であることが多々あるため、大手インベストメント・バンク(a nationally recognized investment banking firm)等のフィナンシャル・アドバイザーから意見書を得て最終判断に至るのが通常です。むしろ、当事者間で「より優れた提案」に該当するか否かを巡って紛争が起こる可能性があるため、「フィナンシャル・アドバイザーの意見書」が、取締役会がより優れた提案であると決定するための条件となっていることが多いと言えるでしょう。

「より優れた提案」かどうかを巡って提起された裁判例については、別のコラムで紹介したいと思います。


(*1) Go-Shop条項が盛り込まれた契約においては、Go-Shop期間中に現れた有力な競合買収候補を”Excluded Party”に該当すると対象会社の取締役会が宣言すれば、対象会社はGo-Shop期間経過後も当該競合買収候補と交渉を継続することができます。

Go-Shop条項の存在意義と内容

今回は、<取引保護措置とは?(その2)>で少し取り上げたGo-Shop条項について説明したいと思います。

Go-Shop条項とは、M&A契約において、本契約締結「後」に、当事者双方が合意した一定期間、売主が他の買主候補を積極的に探し、交渉することを認める条項です。Go-ShopはNo-Shop条項と呼び方が似ていますが、「No」と「Go」という言葉の違いのとおり、向いている方向は反対になります。No-Shop条項は、売主が他の買主候補を探し、競合する条件提示を行うことを勧誘したり、買収の検討に利用できるような非公開情報を提供してはならないとするものであって、独占交渉権条項とその趣旨を同じくするものといえます。これに対して、Go-Shop条項は、売主がM&Aの本契約締結後に、他の売主候補者を探すことを認める条項です。

Go-Shop条項は、具体的には(少し簡略化しますが)、以下のような表現をもって規定されます。

“During the period beginning on the date of this Agreement and continuing until August 31, 2007, Seller shall have the right to: (i) initiate, solicit and encourage any Acquisition Proposal; and (ii) enter into and maintain or continue discussions or negotiations with respect to Acquisition Proposals or otherwise facilitate any inquiries, proposals, discussions or negotiations with respect to Acquisition Proposals.”
(本契約締結日から2007年8月31日までの間、売主は、(i) 競合買収提案を勧誘し、かつ、(ii) 競合買収提案に関する協議または交渉を開始・継続し、あるいは、競合買収提案に関する質問・提案・協議・交渉を促進する権利を有する。)

日本では、「せっかく特定の相手と買収や合併の本契約に至ったのに、なぜ今更別の買主を探さなければならないのか?」と感じるのが通常ではないかと思います。契約書にサインする買主側も、容易にはこの条項に対して首を縦に振らないと思われます。では、なぜ、アメリカでは、このような一見面倒な条項が契約書に盛り込まれるようになったのでしょうか?(*1)

理論的な理由としては、取締役が負うFiduciary Dutyの結果、支配権移転の場合にはいわゆるレブロン基準が適用され、取締役は「株主にとって最高の提案を探す旅」に出なければならないという点が指摘できます。また、実務的な理由としては、本来、レブロン基準のことを考えれば最も安全で確実な「オークション」を行うべきなのですが、買主が交渉のプロセスにおいてこのオークションを嫌う傾向が強いということが挙げられます。アメリカでGo-Shop条項が盛り込まれたM&A取引の背景を調べると、いくつかのケースで「買主がオークションに発展する場合はディールから降りる」と明言したためにGo-Shop条項で対応せざるを得なかったというストーリーが書かれてあります。買主としては、オークションを行うと、買収価格が釣り上がる可能性が高いが、本契約締結後に割って入る第三者はそれほど多くはないだろう(よって、オークションよりはGo-Shopの方が望ましい)と考えるのでしょう。

デラウエア州衡平法裁判所は、このGo-Shop条項について、会社の価値を最大化させるための合理的なアプローチであり、レブロン事件で示された「合理的に達成しうるベスト・プライスを獲得する」取締役の義務に合致すると判示しています。しかし、Go-Shop条項は契約書に入れれば足りるというものではありません。権利であるから行使しなくとも良いと考えるべきではなく、取締役の義務を履行する方策の一つである以上、株主にとって最も有利な条件を獲得するために、実際に、インベストメント・バンクなどに依頼して、可能な限り声掛けを行うべきでと考えます(米国の実務では、実際に声掛けを行っています)。また、Go-Shop期間を極端に短く設定すると実質的には機能しなくなってしまいます。オークションの代わりにGo-Shop条項を利用する以上、競合買主候補を実際に探す期間、提示された競合提案を取締役会で吟味する期間、買主候補を絞り込み個別の交渉を行う期間の合計として、40日程度のGo-Shop期間は用意されるべきだと考えます(*2)。

Go-Shop条項に関しては、実際に競合買主候補が出てきた場合に、どちらを優先提案として受け入れるべきかに関する判断が難しいといった問題もあるのですが、これについてはまた機会を見つけて書きたいと思います。


(*1) アメリカではM&Aに関する多くの契約書がSECへの報告書(主に委任状説明書)の別紙として添付されているためにこれを詳細にチェックすることが可能です。このSECへの報告書を確認する限り、Go-Shop条項については、2004年から利用されているようです。
(*2) Go-Shop期間は、SECへの報告書から調査した範囲では、概ね15日から60日となっており、30日から50日が最もよく見られました。一般に、他者を排除したい当初買主候補は短いGo-Shop期間を希望します。

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