プロフィール

井垣太介 (Taisuke Igaki)

Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

ブログ全記事表示

最近の記事

カテゴリー

FC2カウンター

最近のコメント

月別アーカイブ

ブログ内検索

リンク

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

DCF法の最大有効活用方法

前回までのコラムで、DCF法の基礎を勉強しました。これで、フィナンシャル・アドバイザーがDCF法を用いて算出した数値の意味や、そこで用いられているWACCやβ、ターミナル・バリューといった言葉の意味も分かります。しかし、M&Aを成功させるためには、それだけでは足りないように思います。

日本でもアメリカでも、DCF法は、「会社が決めた買収価格の正当性を裏付けるために、フィナンシャル・アドバイザーに依頼して分析してもらうときに使われる買収価格算定手法」として捉えられることがあります。これは一面において事実ですが、DCF法を使って自分で数字をはじき出してみると、「思いのほかシナジーをたくさん発生させないと、想定している買収価格が割に合わない」ことが分かります。想定されている買収価格に到達させるためには、予想フリー・キャッシュフローを増やすか、割引率を下げることになりますが、キャッシュフローを増やすには経費削減か利益増加を計画せざるを得ず、また、割引率関係については常識外れのパーセンテージを用いるわけにもいきません。

ここで、もし、会社の業務担当者が自らDCF法を用いて数字をはじき出せば、取締役会において会社の役員に対して選択した数値の正当性を自ら説明しなければなりませんので、買収価格を下げない以上、統合後の経営を相当頑張らないといけないことを具体的な事業計画と共に立証しなければならなくなります。これは、その次のプロセスにおいて、会社経営陣から株主に対するアカウンタビリティ(説明責任)の充実にもつながります。

逆に、もしも、フィナンシャル・アドバイザーが分析して会社に持ってきてくれた結果を見ただけで、自らは計算しなければ、おそらくは誰もDCF法の結果について責任意識を感じないのではないでしょうか?これが自ら設定した「経費削減」数値だったり、予想フリー・キャッシュフローだったりすれば、経営統合後にそれを達成できているかどうか、じっくりと検証することができます。達成できていなければ、M&A時の分析が甘かったのか、統合後の経営努力が足りないのかといった議論に発展させることもできます。それこそが会社の事業部やマネジメントが自らDCF計算を行なう意味だと言えます。

更に重要なのは、「買収や統合の前後で、事業計画を分断しない」ということです。他社を買収する際に、シナジー効果を一定程度見込み、経費削減や利益増加計画などを立ててようやく正当化された買収価格なわけですから、買収や統合後に、新体制となった経営陣がゼロから経営計画を立ててしまうと、そこで責任が分断されてしまいます。思ったほど成果が上がらなかった場合、新経営陣は、「買収時の価格設定が無謀だった」と言うことができます。他方、買収時のチームは、「新経営陣の頑張りが足りない」と批判することでしょう。そこで、理想的なのは、買収・統合後の経営陣が買収チームに入って、自らDCF計算を行なうことではないでしょうか。あるいは、それが無理な場合でも、買収時に行なったDCF分析をそのまま新体制における経営計画とする方法も考えられます。

また、別の話になりますが、株式譲受方式で対象会社を買収会社の子会社とした場合、買収プレミアム(のれん)は、親会社の経理部が連結財務諸表を作成する際に貸借対照表上の子会社株式に計上して初めて数字に表れてきます。したがって、通常、連結ベースではない管理会計上は、買収プレミアムを意識しにくい構造になっていると言えます。M&A契約の直前まであれほど注目されていた「買収プレミアム」が、M&Aクロージング以降は忘れ去られる可能性があるのは、こういった会計上の処理手順にも原因があります。

以前のコラムで、「M&Aでは買収・統合後が本当にしんどい」と書きました。私自身、買収時に自らDue Diligenceを行なったり契約交渉を行なうという形で関与し、そのまま買収後も新会社のリーガルアドバイザーとして相談を受け続けていると、次から次へと問題が発生し、利益も思ったほど上がらないという現実に直面し、あの買収価格は正しかったのか、そもそもこのM&Aは正しかったのかと自問自答することがあります。責任の押し付け合いを回避し、関係者が一丸となって想定していたシナジー効果を発揮させるには、少なくとも、買収前の関係者も買収後の関係者も同じエクセル表の上で議論しなければなりません。一つのDCF分析を元に議論して初めて、新しく入ってきた人たちや、株主に対しても、統一的で分かりやすい説明ができるものと思います。それがM&AにおけるDCF法の正しい利用方法であると考えています。
スポンサーサイト

買収価格の算出方法(その3)~DCF法の基礎(3)~

それでは、いよいよ、求めた予想フリー・キャッシュフローとWACCを用いて、将来キャッシュフローの現在価値への引き直しを行ないます。

具体的には、例えば予想期間を5年と設定すると、1年目から5年目までの各年の予想フリー・キャッシュフローを(1+WACC)の年数乗で割って得られた毎年のキャッシュフロー現在価値を5年分合計したものに、いわゆるターミナル・バリュー(企業の残余価値)を加え、最後に対象会社の借入れ金額を控除します。借入れ金額を控除するのは、もともとフリー・キャッシュフローが借入れを除いた営業利益ベースの数字だからです。

ターミナル・バリューは、

予測最終事業年度の翌年度の予想フリー・キャッシュフロー/(WACC-g)

という計算式で算出します。ここで”g”とは、「永久成長率」を意味し、予測される商品総消費量の長期成長率にインフレ率を加えた数字(通常、0~5%程度)が用いられます。ターミナル・バリューを用いるのは、一定期間以降(上記設例であれば6年目以降)のキャッシュフローを予想するのが困難であるため、インフレ率を考慮しつつ、「予測最終事業年度の翌年度の予想フリー・キャッシュフロー」が未来永劫続くと仮定して算出するしか方法がないからです。

さて、DCF法で最も大きなインパクトを与えるのが、WACCやgといった割引率算定のために用いられる数字です。これらの数字が1%変わってくるだけで、DCFの算定結果は大きく変わってきます。特に、ターミナル・バリューはインパクトが大きく、どのような計算を行なってもその結果に関して説得的な説明をするのはなかなか困難です。

例えば、カネボウ事件の東京地裁決定ではgが0%とされていましたが(そのこと自体はそれほど珍しいことではありません)、gの値はターミナル・バリューに大きな影響を与えますので、当事者であれば当然この点を争うでしょう。また、WACCを求めるために使用する株式リスク・プレミアムについても、何年間の平均を取るのかという点を中心として当事者間で揉めやすい点です。カネボウ事件でも、株主側は裁判所が採用した8.5%というリスク・プレミアムに関しては高すぎる(リスク・プレミアムが高いと、株主資本コストが高くなり、WACCも高くなり、その結果、企業価値と株価は低くなります)という批判をしています。

このようにDCF法は、他により説得的な算定手法がないという理由から現在の主流となっていますが、割引率によって結果が大きく異なることから、実務上は、DCFで計算した後に、念のために純資産方式や類似事例比較方式を用いて、DCFで求めた数字の検証を行なうこともあります。いずれにしても、M&A実務に携わる場合、DCF法の基礎を理解しておくことは重要であると考え、今回のテーマとして取り上げた次第です。

買収価格の算出方法(その2)~DCF法の基礎(2)~

2. WACC(Weighted Average Cost of Capital、加重平均資本コスト)の求め方

一般的に、企業買収の際には、投資した資金を一定期間で回収できるかどうかがチェックされます。そして、ここで使われる「投資した資金」というのは、通常、銀行から借り入れたお金や社債を発行することで得たお金、すなわち借入資本(debt capital)と、株主から払い込みを受けたお金、すなわち株主資本(equity capital)の二種類で構成されますが、これらはいずれも利息、配当金、将来の値上がり益といったコストを伴うお金です。よって、この借入資本コスト株主資本コスト(併せて「資本コスト」と呼びます)をカバーできるだけの将来キャッシュフローが得られなければ、「買い損」ということになってしまいます。対象企業の資産や類似会社の価値に着目するのではなく、専ら資本コストというモノサシだけで買収価格を決めようとする点がアメリカ(アングロサクソン)的発想ですが、今の日米のM&A実務においては、この資本コストでもって将来キャッシュフローを割り引いて現在価値を算出する手法が最もポピュラーになってきています。

(1) 借入資本コストの算出方法

借入資本コストは、一言で言えば、長期有利子負債(社債や長期借入金)の金利ということになりますが、金利は経費計上(損金処理)できますので、節税効果を考慮して、
金利×(1-実効税率)
が借入資本コストになります。よって、例えば、長期有利子負債の金利が10%、実効税率が40%であるとすると、借入資本コストは、10%×(1-0.4)=6%となります。

(2) 株主資本コストの算出方法

株主資本コストは、通常、Capital Asset Pricing Model(CAPM、資本資産評価モデル)と呼ばれる計算方法によって算出されます。CAPMは、リスク・フリー・レートに株式のリスク・プレミアムを加算して求めますが、これは、投資資産の期待利回りはその資産が持つリスクと表裏一体の関係にあるという基本的理解の下で、より大きなリスクを甘受するならより大きなリターンが得られなければならない、すなわち国債などのリスク・フリー商品に投資するのではなくリスクが高い株式に投資するのであるから、株式のリスク・プレミアムを上乗せする必要があるという考え方を表していると言えます。

すなわち、リスク・フリー・レートは通常は長期国債(アメリカなら米国財務省証券)の利回りを使用しますが、それに対象会社株式ごとのリスク・プレミアムを加味することで、「リスクの高い会社を買う場合は、株主資本コストが高くなる(それだけ投資家にたくさん還元しなければならない)、その結果、高いパーセンテージで割り引いた将来キャッシュフローの現在価値は低くなり、あまり高い代金では買えない」という結論になります。

ここで、「対象会社株式ごとのリスク・プレミアムを加味する」ためには、マーケット全体の株式のリスク・プレミアムを考慮するだけでは足りません。対象会社の株価はマーケットの平均株価の動きとは異なる傾向を示していることも多々あります。そこで、これまでに蓄積されている市場データを用い、一般的なポートフォリオ(東証のTOPIXやアメリカのS&P500など)に含まれている株式の平均収益率(例えば、50年間といった長期間の平均を使用)からリスク・フリー・レートを控除した数値(これがマーケット全体における株式リスク・プレミアムになります)に、β(ベータ)と呼ばれる「対象企業特有のリスク・プレミアム」を掛けた数値を最終的な株主資本コストとします。

例えば、
・ アメリカにおける現在の米国財務証券10年ものの金利: 4%
・ 過去50年におけるS&P500株式の平均年間収益率: 15%
・ 過去50年における米国債の平均年間収益率: 5%
・ 対象企業のβ値: 1.3
と仮定すると、CAPMに基づいたこの企業の株主資本コストは、
4.0%+(15%-5%)×1.3=17%
ということになります(*1)。

翻って、βとは何かという点ですが、βというのは、全体的な株式市場の変動率に対する個別銘柄の株価変動率の「不一致度」を意味します。例えば、特定の期間に市場全体の平均株価が10%下がっているのに、対象会社の株価が20%下がっていれば、それだけ対象会社の株価は不安定ということになり、リスクは高いと判断されます。この場合、全体では10%しか下落していないのに対象会社の株価だけ20%下がっているわけですから、β値は2となります。市場全体が上向きであればβ値が高い株式に投資をすればそれだけ儲かる可能性が高いということになりますが、市場全体が下向きであればβ値が1を下回る株式に投資をした方が安全ということになります。また、ポートフォリオ全体のβ値を1に設定しておけば、リスク分散が図れているという判断にもなります。上記の設例では、β値が1.3になっていますので、少しリスクの高い、不安定な会社を買うことを意味しています。なお、非上場の会社の株式についてはβ値がありませんので、類似会社のβ値を資本構成比によって調整して算出したβ値を使うことになります(*2)。

最後に、WACC(加重平均資本コスト)の求め方ですが、上で算出した借入資本コストと株主資本コストを、借入資本と株主資本の構成比に応じて加重平均する方法が採られます。例えば、
・ 借入資本コスト: 6%
・ 株主資本コスト: 17%
・ 対象会社の長期借入金時価: 1億ドル
・ 対象会社の株主資本時価: 4億ドル
としますと、
WACC=6%×1/(1+4)+17%×4/(1+4)=1.2%+13.6%=14.8%
となります。


(*1) カネボウ事件における東京地裁決定(DCF法を採用)においては、リスク・フリー・レートは1.875%、株式リスク・プレミアムは1955年から2005年までの平均値である8.5%とされました。
(*2) カネボウ事件における東京地裁決定は、カネボウの食品事業、HP事業、薬品事業のβ値をそれぞれ、0.677、0.598、0.521とし、その結果、資本コストについては、食品事業7.63%、HP事業6.96%、薬品事業6.30%という結論に至りました。

買収価格の算出方法(その1)~DCF法の基礎(1)~

M&A交渉の過程で当事者双方が最も関心を持つのが買収価格です。公開企業を買収する場合は、その時点での市場株価に発行済株式総数を掛けて算出した金額(market capitalization)を用いれば良いようにも見えますが、買収者は対象企業の支配権を獲得することになりますので、いわゆる支配プレミアム(control premium)を加算して初めて適正な買収価格になると考えられており、その評価も簡単ではありません。

そこで、企業価値や株価を算定する手法としては、これまでに、市場価格を参考にする方法、対象会社の資産を基準にする方法、利益から逆算する方法、他社や他の事例を参考にする方法など様々な計算方法が提案されてきましたが、現時点の(日米の)M&A実務界で最も頻繁に用いられている方法がDCF法(Discounted Cash Flow Methodology)です。そこで、今回はDCF法の基本的考え方について見てみたいと思います。

DCF法とは、「将来の予想キャッシュフローに基づき、企業の現在価値を算定する手法」と定義されます。具体的には、予想フリー・キャッシュフローを、対象会社のWACC(加重平均資本コスト)で割り引くことによって現在価値を求めます。そこで、ここでのポイントは、「予想フリー・キャッシュフロー」の出し方と、「WACC(ワック)」の求め方の二点になります。

1. 予想フリー・キャッシュフローの求め方

予想フリー・キャッシュフローは、会社が稼いだお金から会社の活動資金を差し引いた余剰資金を意味しますが、具体的には、

「営業利益(operating profit)(*1)、減価償却費(depreciation)、無形固定資産の償却費(amortization of intangible asset)」の合計額から、
「設備投資(capital expenditure)、税金(taxes)、運転資本の増加分(change in working capital)」の合計額を控除


して求めるのが通常です。ここで、償却費を加えるのは、償却費については経費計上されるものの実際のキャッシュの流出はないため、それを戻してやる必要があるからです。他方、設備投資額を控除するのは、これらは費用にはならないがキャッシュの流出を伴うためです。

また、運転資本(working capital)(*2)に関して調整を入れるのは、仕入れ・売上げと支払い・入金にはタイムラグがあるのが通常ですので、例えば、取引先からの入金が遅れているようなケースではキャッシュフローが減っている(売掛金総額が増えるので、流動資産・運転資本も増える)と考え、キャッシュの計算では差し引きしないといけないからです。そこで、「運転資本の増加額」を営業キャッシュフローから控除してやる必要が出てきます。例えば、2006年度に売掛金1000万円・買掛金500万円だったのが、2007年度には売掛金2000万円・買掛金1000万円になったとすれば、運転資本は500万円から1000万円に増加したことになり、キャッシュが500万円減ったことになります。よって、運転資本の増加分である500万円をフリー・キャッシュフローの計算においてマイナスすることになります。

続いてWACCの説明ですが、少し長くなりそうですので、次回のコラムに回したいと思います。


(*1) ここでの「営業利益」は、売上高(sales)から売上原価(cost of goods sold)と一般販売管理費(general administrative and selling expenses)を控除した営業利益に、(1-実効税率)を掛け合わせて求めた「税引き後営業利益」を意味します。
(*2) 日々の事業運営の結果生じる「売掛金(account receivable)・在庫の残高と買掛債務(account payable)の残高の差」を「(正味)運転資本」と言います。

 ホーム 


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。