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Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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MBOの際の「公正な価格」とは(その2)

続いて、MBOに関連する代表的な株式取得価格決定申立事件(*1)を整理します。

(1)レックスホールディング事件(東京地裁H19.12.19、東京高裁H20.9.12、最高裁H21.5.29)

【事案の概要】レックスホールディングス(「牛角」等フランチャイズ飲食店を経営)の取締役とアドバンテッジパートナーズとが共同して行ったMBOに際して、公開買付けに応じなかったレックスの株主が、裁判所に株式取得価格の決定を申し立てた。
【大阪高裁・最高裁の判断】市場株価が短期的には様々な影響を受け得ることを理由に、本件公開買付け公表前6ヶ月間の終値の平均値に、同時期のMBO事例のプレミアム平均値20%を加算。

(2)サンスター事件(大阪地裁H20.9.11、大阪高裁H21.9.1)

【事案の概要】サンスターの代表取締役がSSAの100%親会社の代表者であったところ、SSAがサンスター株式の公開買付けを行い、MBOを実施。
【大阪高裁の判断】公開買付け公表後の株価のみならず、MBOの準備を開始したと考えられる時期から、公開買付け公表時までの期間における株価についても特段の事情がない限り排除すべきとし、株価の推移や業績の予想などを根拠に、公開買付け公表日1年前の株価の近似値に、同時期のMBO事例のプレミアム平均値20%を加算。

(3)サイバード事件(東京地裁H21.9.18)

【事案の概要】サイバードホールディングスの代表取締役らが、ロングリーチファンドと共同してMBOを実施。
【東京地裁の判断】公開買付け公表前1ヶ月間の市場株価の終値の出来高加重平均値(5万1133円)を株式の客観的価値と認め、公開買付け価格6万円は、MBOにより増大が期待される価値のうち既存株主に分配されるべき部分の最大限を織り込んだ価格として、公開買付け価格6万円を取得価格と認めた。

上記の事案においては、いずれも、株式を取得する経営陣と対象会社の株主との間に構造的利益相反(*2)が存在するところ、手続として利益相反の回避・軽減措置を採る必要がありますが、その前に、MBOにおける公開買付け価格が不適切(不当に廉価)だとそもそも何が起こるのでしょうか。この点については、

① 公開買付けが成立しないおそれ。
② スクイーズアウト後に反対株主から取得価格決定申立を提起されるおそれ。
③ 裁判所が公開買付け価格から乖離した取得価格を決定した場合、株式買取請求に応じることによる多額のキャッシュアウト。
④ 裁判所決定後、公開買付けに応じた株主が、MBOに伴う株式買取価格が低すぎたとして裁判所決定価格との差額の支払いを求めて提訴してくるおそれ
(*3)

等を指摘できます。

では、かかるリスクが顕在化しないために実務上どのような対応を採るべきか。これについて、次回以降、Q&A方式で説明していきたいと思います。
【執筆:弁護士吉村尚美】


(*1)  類似の事件として、①カネボウ事件(H20.3.14東京地裁決定):旧商法下での営業譲渡に反対する株主による株式買取請求権行使事件(地裁決定では、TOB価格を否定、鑑定書に基づく評価額を追認。現在東京高裁で係争中)、②日興コーディアル事件(H21.3.31東京地裁決定):日興コーディアルとシティグループジャパンホールディングスとの間の株式交換に反対した株主による株式買取請求事件。公開買付け価格を公正な買取価格と認定した。
(*2)  企業価値の向上を通じて株主の利益を代表すべき責務を負う取締役(対象会社サイド)が、同時に買収者でもあることにより、構造的な利益相反が生じる。例えば、買取価格は、買収対象会社の株主にとっては高いほうが望ましいが、買収者である取締役は低いほど望ましい。そこで、経営者が株主に有利な買収か価格を提示しなかったり、買収に応じるかどうかに必要な情報を提供しなかったりする危険がある。株式交換等の組織再編と比較しても、公開買付けは買収者(経営者)と、対象会社の株主との間の直接取引であるから、利益相反の問題が大きい。
(*3)  レックス事件では、2009年8月19日、レックス及び当時の取締役に対して、約2億円の損害賠償を求める訴えが東京地裁に提起された。
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MBOの際の「公正な価格」とは(その1)

近年、レックス事件やサンスター事件など、裁判所に持ち込まれるMBO案件が増えていますので、紛争になりやすいMBOにおける「公正な価格」の意味について整理しておきたいと思います。

まず、MBO(Management Buy Out)とは、一般に、現在の経営者が単独で、あるいは投資ファンド等と共同で資金を出資し、事業の継続を前提として、自らが経営を行っている会社の株式を購入することをいい、MBOの目的は、スクイーズアウト後に上場廃止して少数株主の管理コストを削減するとともに、所有と経営を一致させ、株式市場からの短期的な圧力を回避して長期的な視点に立った経営を可能とすることで、企業価値を向上させる点にあります。

レックス事件を念頭に置くと、MBOを実施する手法の例(*1)は、以下のとおりとなります。
① 公開買付け(*2)
② 会社を種類株式発行会社に変更
③ 発行済みのすべての普通株式に全部取得条項を付す(会社法107条)
④ 全部取得条項付種類株式1株に対して普通株式X株(*3)を交付することを対価として全部取得条項付種類株式を取得(会社法171条)
⑤ 裁判所の許可を得て、端株を買い取る(会社法234条)
⑥ もって少数反対株主を締め出す(スクイーズアウト)

MBOに関しては、近年、株式取得価格決定申立事件(会社法172条1項(*4))が複数発生しています。この株式取得価格決定申立権の趣旨は、強制的に株式を剥奪されることになる株主の保護にありますが、裁判においては、「取得価格」(会社法172条1項)として適切な価格がいくらであるかが争点になります。

代表的な株式取得価格決定申立事件(*5)としては、レックスホールディング事件、サンスター事件、サイバード事件などがあります。これらの事件の内容及び公正な価格に関する考え方について、次回以降で詳述していきます。
【執筆:弁護士吉村尚美】


(*1) MBOの方法として、公開買付けと、買収目的会社と対象会社との間での現金交付合併・株式交換のいずれの方法を採用するかについては、税務上の観点から決定される場合が多い。買収目的会社と対象会社との間で、買収目的会社を合併存続会社又は株式交換完全親会社とする現金交付合併・株式交換を行う方法は、税制上、適格合併・適格株式交換の要件を充足せず、吸収合併消滅会社・株式交換完全子会社の資産及び負債の一定のものにつき時価評価され、吸収合併消滅会社・株式交換完全子会社に課税が生じうる。
(*2) 金融商品取引法27条の2第1項
(*3) すべてが端株となるようにXの数値を設定する。
(*4) 全部取得条項付種類株式の全部取得に対して裁判所に対する価格決定の申立をする。あるいは、前段階の既存株式を全部取得条項付種類株式に変更する定款変更に対して反対株主の株式買取請求権の行使ができる(会社法116条、117条)。
(*5) 類似の事件として、①カネボウ事件(H20.3.14東京地裁決定):旧商法下での営業譲渡に反対する株主による株式買取請求権行使事件(地裁決定では、TOB価格を否定、鑑定書に基づく評価額を追認。現在東京高裁で係争中)。②日興コーディアル事件(H21.3.31東京地裁決定):日興コーディアルとシティグループジャパンホールディングスとの間の株式交換に反対した株主による株式買取請求事件。公開買付け価格を買取価格として決定した。

MBOに関する論点整理①~総論~

レックス事件の東京高裁決定が先日(平成20年9月12日付け)出ました。また、最近の新聞に、MBO(*1)後の経営が予想よりも上手く行っていない会社が多いという記事が載っていましたので、今回からはしばらくMBO(従業員も新経営陣や出資者に加わるMEBOも含む)について扱ってみたいと思います。

そもそもMBOは、「市場における短期的圧力を回避した長期的思考に基づく経営の実現」などを企図して行われると一般的には言われます。しかし、実際にはそれほど甘くはありません。現経営陣や従業員が全額出資できるケースはまず存在しませんので、必ずスポンサーが入ってスポンサーとの間で株主間契約を締結することになり、経営の自由度はその中で制限されることになります。また、現在市場に出回っている株式を買い取る資金を借入れるために締結する金銭消費貸借契約の中には厳しい財務コベナンツ条項が入れられ、上場廃止後にもそこで課された利益目標に到達できるよう相当頑張らなければなりません。新会社は多額の借金を抱えてスタートすることになりますから、借入れ利息の支払い義務も相当な重荷になります。そもそもスポンサーは、再上場等によって投下資本の回収を図ることをゴールに設定していますので、結局は、お目付け役が従前の不特定多数の株主から特定の金融投資家に変わっただけで、しかも再上場の予定日が3年後といった比較的近いところに設定されるため(*2)、余計に「長期的思考に基づく経営の実現」が難しくなるという問題点もあるわけです。

MBOには従前から言われている「情報の非対称性から来る株主の不利益」の問題や「経営陣と会社(株主)との利益相反」の問題など、主に株主保護の観点から出てくる多くの問題点があるわけですが、経営陣としては、それ以前に、上で述べたようなMBOのデメリットを認識した上でなおメリットの方が大きいのかどうかを精査しなければなりません。

さて、MBOがベストな選択肢であると経営陣が判断した場合でも、構造的に存在する利益相反問題を解決するためにクリアしなければならないハードルがあります。この利益相反問題について正面から取り扱い一定の方針を示唆しているのが、平成19年9月4日に経産省が発表した<「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針」>(以下、「MBO指針」)ですが、現時点でも最新の指針ですので、この機会におさらいをしておきたいと思います。

MBO指針は、MBO を行う上で対象会社が尊重すべき原則として、以下の二つの原則を挙げています。

【第1原則】 企業価値の向上(望ましいMBO か否かは、企業価値を向上させるか否かを基準に判断されるべきである)
【第2原則】 公正な手続を通じた株主利益への配慮(MBO は取締役と株主との間の取引であるため、株主にとって公正な手続を通じて行われ、株主が受けるべき利益が損なわれることのないように配慮されるべきである)

もちろんこれだけでは会社が具体的に何をすべきかが明確ではありませんので、MBO指針は具体的な方策を例示列挙しています。これについては次回以降のコラムで順に説明していきたいと思います。


(*1) MBOとは、「現在の経営者が資金を出資し、事業の継続を前提として対象会社の株式を購入すること」と定義されています(企業価値報告書2006)。
(*2) 東証の<「新規上場の手引き」>では、非上場から再上場申請日の直前の事業年度の末日までの期間が「3か年以上」必要とされています。

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